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私には嫌いなものがある。 それはチーズとか納豆とか、特殊な味覚に関係するものではない。 蛇とかゴキブリとか、そんな見た目で嫌悪するものでもない。 そもそも、そんな物理的なものではない。 私が嫌いなもの、それは――。 「やっほー理樹くん」 彼女はいつもどおり元気な明るい声で、彼女が好きな相手を呼ぶ。 彼女は傍目から見ればひたすら明るく、ひたすら元気で、いろんなことに周りを巻き込んでいくトラブルメーカー。 何が性質悪いってそのどれもが作られたものであること。 ひたすら明るいのも、ひたすら元気なのも、周囲を巻き込むのも、理由がしっかりとあった。それはとても簡単な理由。 彼女は人の暖かさを求めていた。彼女は誰かに構ってほしかった。 誰だってそうじゃん。彼女は私にそう言っていた。 しかし、彼女のは普通の人と比べて度を越していた。 「あ、葉留佳さんおはよう」 彼は元気良く返事を返す。今、彼女のその欲望を満たせるのは彼だけだった。 理由、それは世界を敵に回したから。 一般的にいえば世間なのだろう、彼女の父親が殺人を犯していたという事実が学校でばれてしまった。それで学校の人たちは彼女を見捨てた。 しかし、世界という言葉は間違ってもいない。この空間は私の知っている世界とは似て非なるものなのだから。 世界を敵に回した彼女に手を差し伸べてくれる存在は、この世界では彼しかいない。 そう、彼女が周囲との触れ合いでなんとか抑えていた欲望を彼はただ一人で請け負わなければいけないのだ。 果たして彼に勤まるのか、私の中で疑問が募る。 しかし、彼でなくてはならないのだ。 なぜなら、この世界は私のものではなく、彼のためのものなのだから。 「今日も頑張ろうよ」 彼は彼女を励ましてくれる。彼女はその一言で心の隙間を埋めていく。 しかしそのたびに彼女の中の比重が大きくなっていく。今現在、既に彼女は彼が少しでもいなくなっただけで発狂してしまいそうなほど。 夜はつらそうだった。闇が襲い掛かってくるのだ。闇には罵詈雑言が詰まっていて、一つ一つが身をひきさいていくような感覚を与える。 彼女はひたすら布団にくるまりながら朝が来るのを待つ。朝になれば彼に会える。彼に会えば闇は完全に消え去る。 それはまるで麻薬。最初は快楽だけだったものがいつの間にかそれがなくてはならないものに変わってしまっているのだ。麻薬と呼ばずしてなんと呼べばよいのだろう。 「うん」 彼女はただ一言そう返事を返した。 その一言にはいろんなものが詰まっている。いろんなものが。 その後話しをたくさんする。少しでも多く隙間を埋めるよう、悲しみによって開かれた傷口をふさぐよう。しかし、時間は無限ではない。 彼が時計を確認した。それはもうすぐチャイムが鳴る合図。それは彼とは別のクラスである彼女にとって別れの合図。 「それじゃあ、また後でね」 もちろん、彼女にとってつらい一言であるのは容易に察することができるだろう。 できることなら彼女はずっと傍にいたい、それは例え、周囲にいる皆を殺してでも。 どうせリセットされるのだから――。 しかし、モラルという、人間が生まれつき持っているだろう感情がそれを邪魔する。 普通の人よりも過酷な生活を送ってきた彼女にとって、それはごくわずかなものではあったが、普通の人にあこがれもしている現状、その感情は簡単に切って話せないものだった。 「うん、また」 彼女は彼に一言告げると彼のいる教室を立ち去ろうとする。 『おい、あれだぜ……』 『また来てるわよ……』 『怖いわよねー』 彼と話をやめた瞬間、周囲の彼女に対する言葉が彼女に突き刺さってゆく。 静かな空間では時計の針の動く音が聞こえるように、彼と話をやめた空間では世界の言葉が聞こえてくる。 その言葉に耐えられなくなり、彼女は逃げ出すように走りながら教室を出た。 一言言い返せばよかったのに。 私は彼女に語りかける。 うるさい。 どうして、あなたは皆より遥かに大変な人生を歩んでいるんですよって。同情してもらえるかもしれないわよ。 うるさい。 彼女はうるさいとしか答えない。 私はその理由を良く知っている。 そうよね、そんなの自慢にもならない。だからどうしたって、それだけ。 うるさいうるさい。 あなたは普通の人をうらやんでいる、普通に両親がいて、普通に育てられて、普通な人生を歩んでいる。それに嫉妬している。 うるさいうるさいうるさい。 彼女の鼓動が強く、早くなる。興奮している証拠だ。 普通に友達ができて、普通に恋人ができて、そんな普通の幸せをただひたすらに望んでいる。 うるさいうるさいうるさいうるさい。 彼女が胸を押さえる。苦しいのだろう。しかし、これで最後だ。彼女はきっとうるさい以外の答えを出す。 そして、私の名前を呼ぶだろう。 それを、直枝理樹ただ一人に押し付けている。 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい――――――黙れ私の劣等感。 そう、私は彼女。彼女は私。 私は彼女の劣等感。彼女のもっとも、もっとも大きな心の隙間。 私が嫌いなもの、それは―― そんな、私が支配している私自身。 [No.336] 2008/06/06(Fri) 22:02:18 |
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