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「けっこう降ってますネ」 「久しぶりに練習できるかなと思ってたんだけどね」 「予報では20パーセントでしたけど」 6月に入ってからもう一週間たったけれども、その間わたしたちは一度も練習できないでいた。久しぶりに今日は曇りという予報だったけれども、昼前から雨雲が広がりだし今ではすっかり土砂降りの雨が降っている。 「ふむ、俺は室内での練習だから関係ないがな。じゃあまた明日」 「謙吾君部活がんばってね」 「ああ」 「あっちょっと待った、謙吾。わりいけど傘貸してくれねえか」 「おいおい、そうしたら俺が帰る時傘がないではないか。悪いがあきらめてくれ」 「井ノ原さん傘忘れたんですか」 「梅雨の時期は傘は常に用意しておくものだぞ」 「どうもな、朝雨降ってないと傘持ってくるとか思いつかないんだよな」 「しょうがないな。真人、入れてあげるからちょっと狭いけど我慢してね」 「あんがとよ、理樹」 「……」 「どったの、みおちん」 相合傘。傘は少し不思議なアイテムだ。なんともない空間でも傘をさした途端そこはその人以外は入れない特別な空間に変わる。そして普通は入れない空間だからこそそこに入るのは特別な存在と言うことになる。井ノ原さん、どうして理樹の特別な空間に入るのがわたしじゃなくあなたなのですか。 「真人、肩だいぶ濡れてるよ。もうちょっと入ってよ」 「いや、これ以上入るとお前の方が濡れちまうじゃねえか」 「そんなの気にしなくていいよ」 「けど……」 「じゃあ、こうしよ」 そうして理樹は井ノ原さんの前にすっぽり埋まるような形になった。わずかに触れるように当たっている手、後ろから抱き締めるようにも見える姿、身長差のせいで後ろを振り返ってしゃべりかけるたびに上目使いになってぶつかる視線。どれもこれも愛し合う二人の姿じゃないですか。 「西園さん、どうしたんでしょう。なにか恐ろしいおーらが出ているんですけれども」 「自分の過ぎたる妄想力のせいで苦しんでいるところだ。人と違う趣味を持った人間は大変だな」 「なんですか、それではわたしの反応がおかしいみたいじゃないですか」 「ええーっだって絶対普通そんな風に思わないよ」 「では聞きますけれども、恋人が自分の目の前で誰か別の人を傘に入れてても平気なのですか」 「うーん、そりゃ女の子入れてたら嫌だけど男の子だったら別にいいんじゃない」 三枝さんの返答に皆さん一様にうなずいた。そんなはずはありません。理樹の場合女の子よりも男の子の方が危険です。 「皆さんももし理樹の恋人だったら今頃やきもち焼いてるはずです」 「焼かないって。そんなのみおちんだけだって」 「いや、意外とそう言う趣味を持った人間は多いからな。10人に一人ぐらいはいるんじゃないか」 「なあ、みお。理樹と一緒の傘に入ったらみおは嫌か」 「は、はい」 「わかった、何度か入ったことあるけどこれからは入らない」 鈴さんの言葉を聞いたあとほんの2、3秒だけ来ヶ谷さんの足が止まって理樹の方をぼんやり眺めた。すぐに歩き始めたけれどもその表情はさっきまでと比べて寂しそうだ。鈴さんの方は子供のころのことだろうけれども、来ヶ谷さんもいつか理樹と一つの傘に入ったのでしょうか。 楽しい時間と比べてどうしてつらい時間と言うのはこんなに長く感じるのだろうか。学校から寮までいつもはすぐそばに感じるのに今まで一度も感じたことがないくらい遠くに感じる。だいたい理樹も理樹です。恋人がすぐそばにいるのですからもう少しわたしの方を意識してくれもいいのに。それなのに井ノ原さんばかり。これでは誰がどう見たってわたしの方が愛し合う二人に割って入るお邪魔虫ではないですか。 「みおちん、そんなに理樹くんと相合傘したければ今度傘忘れてくれば」 「わたしがですか。似合いませんよ」 「何が似合わないんだ」 「キャラがです。わたしがドジっ子キャラ化してもわざとらしさしか感じられません」 「ためしにやってみてくれ」 「ためしにですか。気がのりません……あれーっ今日傘忘れちゃった。もうわたしったらほんとドジなんだから。コツン……これを見てどう思いますか」 最後に舌を出しながら自分の頭を小突いてみましたけれど、どう考えてもわたしはこんなキャラが似合う子ではない。一応感想を聞いてみたけど、答えは聞かなくてもわかる。唖然とした表情をし、何人か傘を落とすくらい驚いている。こんな演じたキャラでかわいいとか思う人がいるはずがない。 「うーむ、人には向き不向きというものがあるな」 「いつもの西園さんとぎゃっぷがあります。西園さんはいつものしっかり者な西園さんがいいです」 「そうですね、ドジっ子キャラはわたしより似合いそうな子はいくらでもいますよね」 「でもさ、そう言うかわいこぶった子って案外計算して自分をかわいらしく見せたりしてるんだよね」 神北さん今目をそらしましたけれど、まさかそんなことないですよね。 「先ほどのキャラの話ですけど」 「君も引っ張るな」 「何かこう、しっかり者キャラというのは損しているような気がするのですか」 「なんだそりゃ」 「さっき鈴さんは理樹の傘に入れられたことがあるって言ってましたけど、忘れ物したりするような子の方がかわいらしくて、しないわたしみたいなのはあまりかわいげがなくて人気がないような気がして」 「鈴ちゃん、ほんと守ってあげたくなるくらいかわいいよね」 「わっちょっとこまりちゃん」 「ふむ、一理あるな」 「でも私は来ヶ谷さんや西園さんはしっかりしてかっこいいと思いますけど」 「女性同士ではそうでも男性からはかっこいい女よりかわいい女の方が好かれていると思います」 それなりに男性向けのゲームとかの知識もあるけれど、それに出てくるヒロインはどこか守りたくなるような弱さを持ったかわいらしい女の子ばかり。ツンデレキャラにしたって最終的には弱さを見せるから人気なので、最初から最後までツンツンしてるだけだったらたぶん嫌われるだけ。男性に人気なのは二次元だろうと三次元だろうと強い女性ではなく弱い女性。がんばればがんばるほど人気がなくなるなんて絶対に損している。 「普段はドジばっかりして好きな男の子に迷惑をかけたりするけれど、いざとなると好きな男の子のために信じられないくらいすごいことをする。そういう子が一番愛されると思うのです」 「ねえ、みおちゃん。それって真人君だよね」 「あああああああああっ!?」 わたしが出した素っ頓狂な叫び声に少し前を歩いていた二人が振り向いた。やっぱりわたしといる時よりもよっぽど恋人っぽいじゃないですか。 「ダメです、理樹のバカ! そんなにわたしより井ノ原さんの方がいいのですかっ!?」 「いやいや、何言ってるのさ。僕が誰よりも好きなのは美魚に決まっているよ」 「そ、そうだよな。理樹が一番好きなのは西園何だよな。俺はガマンしなきゃなんねえんだよな」 「真人くんも微妙な発言しますネ」 「なあ、美魚君聞きたいのだがこれは真人少年だから嫌なのか? これが恭介氏や謙吾少年だったらどうなのだ?」 「えっ!?」 来ヶ谷さんの変な発言で少し考えてみる。恭介さんの一緒に傘に入っている理樹は簡単に想像できるくらいぴったりはまっていると思う。それこそわたしよりもずっと合っていると思うくらい。でも前はそれを望んでいたはずなのに今はそれで少し胸が苦しくなる。わたしの中に理樹の一番近くを誰にも渡したくないという独占欲を強く感じる。 「……わたし以外の人はみんな嫌です」 「ああーっその何だ、西園すまん。理樹、もうあとちょっとだから走って帰るわ」 「そんな真人、美魚はちょっと興奮してるわけだから気にしないで」 「けどよ……」 「真人君、私の傘に入るのはどうだ」 「はあっ」 「はあっとは失礼だな。これだけの美女の誘いがあったら転がり回って喜ぶのが礼儀であろう。これ以上真人君が理樹君と相合傘をすると美魚君の精神が持たないだろうし、かといってこのまま雨の中走らすのも忍びない。どうだ?」 「ああ、あんがとな」 「これにて一件落着ですね」 「というわけにはいかないな。日ごろ見せつけられている仕返しに美魚君をからかい過ぎた。すまなかった」 その言葉を聞いて次々と頭がさげられていく。先ほどまでの会話に特にからかってるような発言がなかった神北さん、鈴さん、能美さんまで。ただつられただけですか、それとも内心腹が立っていたのですか。 「でも、みおちん大変だね。理樹くんはライバル多いから」 「ふーっ仕方ありません。男の子にも女の子にもモテモテ、そんな大変な人と付き合っているのですから」 「安心してよ、美魚。僕は美魚のこと大好きだから」 「理樹……」 「だからさっきみたいに無理してキャラ作らなくていいよ」 「キャラ?」 「さっきやってたでしょ。ドジっ子キャラのふり。僕はあんな似合わないキャラじゃなくいつものしっかりした美魚が好きだから」 「……聞こえていたのですか。先ほどの恥ずかしい演技」 「ばっちり。ああいういかにもかわいいキャラなんて美魚じゃないよ」 何をさわやかそうな顔をしながらわたしを叩きのめすようなこと言っているのですか。それだとわたしはかわいくないと言っているようなものじゃないですか。皆さん空気を読んだのかわたしたちを無視して再び寮へ向けて歩き始めた。そして残ったのはわたしと空気を全く読めない男だけ。 「理樹」 「美魚」 「嫌いですっ!」 「ええーっ! 何でっ!?」 私の心の中の天気は、太陽が差しかけたと思ったら一瞬のうちに土砂降りに変わった。そんな私の心の雨を避ける傘はない。 [No.338] 2008/06/06(Fri) 22:16:32 |
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