第12回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/06/19(Thu) 20:18:18 [No.363] |
└ のぞめない七色 - ひみつ@出来れば日付が変わる前に上げたかった・・・ - 2008/06/21(Sat) 01:03:09 [No.380] |
└ この手に抱けぬ、遥か彼方の宝物 - ひみつ - 2008/06/21(Sat) 00:15:49 [No.379] |
└ 一番の宝物 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 23:30:23 [No.378] |
└ 宝者 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 22:54:03 [No.377] |
└ 宝はついに見つからず - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 21:55:43 [No.376] |
└ 宝物 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 19:37:51 [No.375] |
└ ものがたりはつづいていった。 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 19:18:10 [No.374] |
└ 似た者○○ - ひみつ@今回一番の萌えキャラを目指してみた - 2008/06/20(Fri) 19:07:28 [No.373] |
└ 直球勝負 - ひみつったらひみつと言い張る六月の夜 - 2008/06/20(Fri) 18:13:23 [No.372] |
└ 子宝 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 17:50:25 [No.371] |
└ 覚醒杉並 - ひみつ@しょうじきすまんかった - 2008/06/20(Fri) 16:39:42 [No.370] |
└ Lunch - ひみつ@EX資金が溜まったぜっ! こ、これで、佳奈多を(ry 爆 - 2008/06/20(Fri) 16:13:30 [No.369] |
└ その境界を越えて - ひみつ@Ex記念に初書きしてみました - 2008/06/20(Fri) 10:43:04 [No.368] |
└ 海の話 - ひみつ@一度参加してみたかったんです - 2008/06/20(Fri) 01:13:44 [No.367] |
└ 宝の山に見えて、ついカッとなってやった。反省してい... - ひみつ - 2008/06/19(Thu) 22:19:59 [No.366] |
└ そんなあなたが宝物 - ひみつ - 2008/06/19(Thu) 20:33:17 [No.365] |
└ ログとか次回なのですよ - 主催 - 2008/06/22(Sun) 23:45:36 [No.383] |
「理樹が家を買ったらしい」 「ええっ」 珍しく早めに仕事が終わったその日、夕食の席でのこと。理樹本人からメールで知らされた衝撃的事実を伝えてやると、小毬は案の定飛び上らんばかりに驚いてみせた。まったく、いくつになっても可愛いやつだなぁおまえは。 「きょーすけさん、私それ二週間ぐらい前から知ってたんだけど……ええっ。てっきり知ってて話題にしてないものだと思ってたのに」 「……ああ、そうか。ははは」 くそう、あいつらめ。小毬には教えといて俺にはなんもなしかよ……。 でもまあ、いいさ。こういう扱いにももう慣れた。なぁに、ストレートなデレよりツンデレのほうが愛情こもってるっぽい感じがするからな、問題ない。例を挙げると、「はい、プレゼント(はあと)」よりも「べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!」のほうがなんかこう、ラブ的な意味をより強く感じないか? つまりそういうことだ。え? 忘れられてただけでツンですらないって? いや、それはありえない。根拠はないが、断言してやろう。 「でも、すごいねぇ。まいほーむだよ、まいほーむ」 ああ、そうだ。理樹が家を買ったことについての話だったな。俺より早く結婚したうえに、俺より早くマイホームまで手に入れやがるとは……なんというか、理樹も大きくなったもんだ。 しかし、やはり“マイホーム”という言葉の響きには、男として何かしらの憧れを抱かざるを得ないと俺は思うわけだが。要するに羨ましい。 「まったく、兄夫婦が狭いアパートで慎ましく生活しているってのに」 「それはしょうがないよ〜。だってきょーすけさん、理樹くんと違って安月給だもん」 ふふ……今日も笑顔が眩しいぜマイハニー。 「でもね、給料の額なんて問題じゃないよ。どれだけ安月給でも、幸せに生きていくことはできるから。私は、きょーすけさんがいてくれればそれだけで幸せ」 そしてフォローを忘れないあたりが最高だ。ああ、いい嫁さんもらったなぁ俺。 ふと思ったが、ここはキスの一つでもしておくべきじゃないだろうか、雰囲気的に考えて。いっそ口移しで食べさせ合うとかどうだろう。うむ、我ながらナイスアイデアだな。そうと決まれば行動あるのみ。 「小毬……」 「え? あの、きょーすけさん?」 小毬は戸惑うようにしながらも、拒もうとはしない。まったく、可愛いやつめ……。 「馬鹿父、娘の前で堂々とママを襲うような真似をするな」 唇が重なるまであと数センチといったところで、小毬の横から邪魔が入った。いや、邪魔なんて言ったら悪いな。なんたって、俺たちの大事な大事なお姫様なんだから。 「毬子」 「なんだ、馬鹿父」 「おまえ6歳のくせに、どこでそんな言葉を覚えてくるんだ。それと、恭介パパって呼んでくれていいんだぞ?」 「いやだ」 さすが我が娘、ツンデレというものをよく心得ているな。 「小毬ママも小毬ママだ」 「ふえ?」 「馬鹿父がいればそれだけで幸せって。じゃあ、私はどーでもいいのか」 可愛らしく頬を膨らませて拗ねてみせる我が娘。その様子には、何かこう、胸にキュンキュンくるものがある。 小毬はそんな毬子の頭を宝物でも扱うように撫でながら、俺にだって聞かせてくれないような甘く優しい慈愛に満ちた声で言う。 「毬子ちゃん。確かに私はきょーすけさんがいてくれるだけで幸せだけど。毬子ちゃんはね、いてくれるだけで、ものすっごく幸せなの」 「ものすっごく……馬鹿父のと比べるとどのくらい?」 「え? う〜ん、十倍くらい、かな?」 ふふ……今日も笑顔が眩しいぜ、マイハニー。 「ほんとう?」 「もちろん本当ですよ〜」 「……小毬ママ、好きだ」 「私も毬子ちゃんのこと好きだよ〜」 フォローはなかった。 「……とりあえず、年明けたら理樹んところ行くか」 ボソリと口にした言葉は二人の空間に入り込んでしまっている母娘には当然届かず、俺は一抹の寂しさを覚えながらアサリ入りの味噌汁を啜った。 しょっぱかった。 二週間ほど経っての元旦。やってきた理樹と鈴の愛の巣、その和室で新年の挨拶も早々に終わらせると、毬子はとてとてと理樹に走り寄っていった。そのまま叔父の顔を見上げて、動きを止める。理樹は毬子の意図を察したのか、小さく笑って懐から封筒ほどの大きさの紙袋を取り出した。 「はい、毬子。お年玉だよ」 「ありがとう」 よしよし、ちゃんとお礼言えるなんて偉いぞ。さすがは俺の娘だ。 「中、見ていい?」 「もちろん」 折られている口をそっと開いて、毬子は恐る恐る中を覗き込む。しばらくそうしていた後、再び理樹を見上げる。 「こんなにもらっていいのか?」 「子供は遠慮なんてするもんじゃないよ」 子供、という言葉に毬子は不満げな表情を見せたが、それだけだった。目に見えて不機嫌になったり拗ねたりするでもなく、もう一度お礼を言ってから、今度は鈴と一緒にこたつでぬくぬくしている母親のもとへと駆けていく。 「見てくれ小毬ママ。こんなにもらった」 「わぁ、すごいねぇ」 毬子が掲げてみせているそれは、諭吉が二人……いや、三人いるように見える。今朝俺が毬子に渡したお年玉の、実に三倍に値していた。安月給で悪かったなチクショウ。 「ふっふっふ。驚くのはまだ早いぞ、まりこ」 じゃじゃーん、とセルフ効果音を伴いつつ、鈴までもがお年玉袋を取り出した。いや待て、おまえら毬子にどんだけお年玉を与える気なんだ。というか去年も同じことを思ったような気がするわけで、たしか子供にお金を与えすぎるのはよくないとも言っておいたはずだが、相変わらずなのか。相変わらずなんだな。いや別に俺が惨めだからだとか、そんな理由では断じてないぞチクショウ。 「……でも、りんねえ。もうりきから貰った」 しかしまあ、その点ウチの娘は人間が出来ている。あの歳で相手への気遣いを持てるっていうのはなかなかできないことだと思うぞ、俺は。 「なんだ、理樹のお年玉は受け取ったのに、あたしのお年玉は受け取れないっていうのか」 「いやいやいや、お酒の席じゃないんだからさ」 理樹は未だにツッコミ役から解放させてもらえないようだった。毬子はというと、おずおずと鈴の差し出すお年玉袋に手を伸ばしていた。まあ、ああ言われては受け取らざるを得ないだろう。鈴はにっこりと機嫌良さそうに笑ったあと、子猫にでもするかのように優しく毬子の頭を撫でてやっていた。 三十分ほど経ったころ、こたつを占拠する小毬たちから離れて、俺と理樹はキッチンのテーブルでちびちびと酒を飲み交わしていた。正確に言えば、理樹から二人で飲もうと誘われたというのが正しい。友人として義兄として、断る理由などあるはずもなかった。 「しょうがないじゃない、他にあげる相手もいないんだし」 俺が毬子にお年玉をやりすぎるな、おまえらはあいつのじーちゃんばーちゃんか、などと文句を垂れ始めると、理樹は溜息交じりにそんなことを言った。 「だったら自分たちのために使えよ」 「使ったさ。この家買うのに」 それでもまだ有り余っている、と。なんか悲しくなってくる。 「……まぁ、もっと大きな家買うって手もあったんだけどね」 理樹はボソリと言った。 理樹たちの新居は、俺のイメージしていたものとは少しズレていた。まず第一に、そんなに大きくない。そもそも、一階建てだった。他にもまあいろいろとあるが、一見しただけでは高給取りの家には見えない。 「どうせ僕と鈴の二人だけなんだし、そんなに大きな家買ってもしょうがないと思って。そもそも家買った理由の半分は、猫飼うためだしね」 前に二人が住んでいたマンション(アパートではない)はペット禁止だった。鈴はそれでも近所の野良猫と戯れることで満足していたらしいのだが、ある時期を境に「ちゃんと飼いたい」と言うようになったらしい。もっとも、肝心の猫の姿は今のこの家の中には見えなかったが。 そんなことよりも、俺にはもっと気にかかることがあった。 「なあ、理」 「それで、お年玉の話だけどさ」 狙ってやったのか、それとも素だったのか、いいタイミングで俺の言葉は遮られた。気にかかると同時に、それは聞きづらいことでもあり、強引に話を戻そうという気にはなれず、理樹の話に合わせることにした。 「鈴、わざわざ毬子のお年玉のためだけに短期のバイト入ってさ、お金稼いでたんだよ」 「鈴が? マジでか」 「マジマジ」 こたつの中で毬子を抱きかかえて、一緒にぬくぬくしている鈴に視線を向ける。鈴も毬子も、実に楽しそうだ。鈴はあるいは俺以上に毬子から懐かれているかもしれないわけだが、その様子は本当の母娘であるように見えないこともない。実際のところ、毬子の愛らしい容姿は間違いなく小毬譲りだが、物言いが妙に男っぽかったり尊大だったり、俺には懐かず小毬とばかり仲が良かったり、その内面は鈴を想起させるものであると言ってしまっても間違いではない。もっとも、あの歳ぐらいだったころの鈴と違ってウチの娘は実にしっかりとしているが。 とにかく、性別の問題を無視すれば、小毬と鈴の子供だと言ったほうがしっくりくると、俺ですら思う。 「本当に、自分の娘みたく思ってるのかもね」 思わず口に含んでいた酒を吹き出しそうになった。辛うじて喉の奥まで流し込み、俺は理樹の顔を見遣った。 猫のようにじゃれ合っている鈴と毬子、その二人を見る理樹の横顔が、あまりにも悲しそうで、あまりにも寂しそうで――俺はその理由を知っているのに、聞いてはいけないことだとわかっているのに、問わずにはいられなくなってしまった。 「おまえは、どうなんだ」 「毬子は僕の可愛い姪っ子だよ」 答える理樹は、あのころと同じ優しい笑顔を浮かべていて。 それきり、欠片の悲しさも寂しさも、見せてはくれなかった。 [No.371] 2008/06/20(Fri) 17:50:25 |
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