![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
「少年、虹のふもとには宝物が埋まっているらしいぞ」 だからどうした、というわけでもなく、そこで言葉を切ってしまう来ヶ谷さん。 いつも含みを持たせてくるその話し方とは違う。 視線は窓の外。雨降りのグラウンドを眺めている。 だから僕は、少し気になった。 「宝探しにでも行くの?来ヶ谷さん」 『のぞめない七色』 「む、何だそのあきれたような口調は」 「いや別にあきれてはいないけどさ」 その切なげな雰囲気が少し気になっただけ。 「分かっているさ。虹は空気中の水分の反射と屈折による産物だ。見る位置によって、虹の存在場所も異なってしまう」 「うん」 「私の見ている虹と理樹君の見ている虹が同じものとは限らない。だから」 そこで一端言葉を切って。 「虹のふもとなんて、ありはしないさ」 酷く寂しそうな笑顔。 「あったとしても、―――他人との共有は出来ない。」 「うん」 「辿り着けたとしても、―――宝物が埋まっているわけでは、ないんだよ」 その笑顔が、霞んで消えてしまいそうに見えた。 でもそれも一瞬。含みのある笑顔に変わる。 「『くだらない話はどうでもいいんだよ、それよりその胸の谷間に宝が眠っているんだそこを探らせろ、ぐへへへへ』というような顔をしているな」 「いやいやいや、そんなこと思ってないから、というか何で僕を変態扱いするのさっ!」 そこにいたのは、いつもの来ヶ谷さんだった。 でも。 「来ヶ谷さん」 さっきの表情の理由は分からない。 でも、消えて欲しくなかった。 消える?―――分からない。自問自答。 彼女は確かに目の前にいるのに。 虹のように、曖昧な存在ではないのに。 手を伸ばせば、触れられるのに――― 「雨が上がったらさ、きっと虹がかかるよ」 「・・・そうだな」 「そしたらさ、虹のふもと、探しに行こう。次のデートはそれに決めよう」 「・・・うん」 「手を繋いでさ、一緒に探そう。そしたらきっと見つけられるよ」 虹のふもとも。僕と来ヶ谷さんの二人の、二人だけの宝物も。 「だから、―――早く晴れればいいよね」 「・・・ああ、そうだな」 カレンダーを見る。日付は6月20日。 窓を叩く雨は、未だ止みそうもない。 目が覚める。 ここは―――僕と鈴の部屋、だ。 外からは日の光が差し込んでいる。とすると、今はまだお昼ぐらいなのかな。 いつものやつで、倒れてしまったらしい。 焦点の定まらない目で部屋を見渡すと、鈴の姿があった。 「鈴・・・」 「理樹、起きたか」 酷く懐かしい夢を見た。 いや、夢だったのかも分からない。 ずっと昔に経験した事のあるような、そんな漠然としたイメージ。 「大丈夫か、理樹。だいぶうなされてたぞ」 「鈴・・・?」 不幸は微塵もない場所にいた、気がする。 それなのに、うなされてた? 思い出そうとして、頭痛がひどくなる。 嫌だ、思い出すな、お前は何も経験していない。 もう手遅れなんだ。思い出しても悲しいだけ。忘れたまま生きてゆけ。 お前には鈴がいる。それがお前の宝物だ。 その他は何も望むな、鈴だけを守って生きていけ。 嫌な事、辛い事は全部閉じ込めておくから。 頭の中で、もう一人の僕が囁いている。 「理樹、本当に大丈夫なのか?」 「うん、心配かけてごめん」 カーテンを開ける。 広がっている青空。差し込んでくる光が眩しい。 「ありがとう」 「何がだ?」 「僕が倒れたから看病してくれてたんだよね」 「そんなの当たり前じゃないか」 「でも、退屈だったでしょ。天気もいいし、ちょっと出かけようか」 「お、何だ。さっきまで雨降ってたのに。いつの間にか晴れたんだな」 確かに、窓から見渡せるアスファルトには雨の跡が残っている。 「お、理樹、みろ!虹が出てるぞ!」 虹。その単語が、ふいにさっきの一フレーズを思い出させる。 ―――虹のふもと、探しに行こう。 ―――手を繋いでさ、一緒に探そう。そしたらきっと見つけられるよ。 カレンダーを見る。日付は6月20日。 雨はいつしか上がっている。 それでも。 その七色は、僕には望めない。 目をそらして生きる、僕には臨めない。 僕は手を離してしまったから。 虹のふもとに埋まった宝物を僕が掘り起こしに行く日は、永遠に来ない。 そんな確信がある。 [No.380] 2008/06/21(Sat) 01:03:09 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。