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all 第12回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/06/19(Thu) 20:18:18 [No.363]
のぞめない七色 - ひみつ@出来れば日付が変わる前に上げたかった・・・ - 2008/06/21(Sat) 01:03:09 [No.380]
この手に抱けぬ、遥か彼方の宝物 - ひみつ - 2008/06/21(Sat) 00:15:49 [No.379]
一番の宝物 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 23:30:23 [No.378]
宝者 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 22:54:03 [No.377]
宝はついに見つからず - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 21:55:43 [No.376]
宝物 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 19:37:51 [No.375]
ものがたりはつづいていった。 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 19:18:10 [No.374]
似た者○○ - ひみつ@今回一番の萌えキャラを目指してみた - 2008/06/20(Fri) 19:07:28 [No.373]
直球勝負 - ひみつったらひみつと言い張る六月の夜 - 2008/06/20(Fri) 18:13:23 [No.372]
子宝 - ひみつ - 2008/06/20(Fri) 17:50:25 [No.371]
覚醒杉並 - ひみつ@しょうじきすまんかった - 2008/06/20(Fri) 16:39:42 [No.370]
Lunch - ひみつ@EX資金が溜まったぜっ! こ、これで、佳奈多を(ry 爆 - 2008/06/20(Fri) 16:13:30 [No.369]
その境界を越えて - ひみつ@Ex記念に初書きしてみました - 2008/06/20(Fri) 10:43:04 [No.368]
海の話 - ひみつ@一度参加してみたかったんです - 2008/06/20(Fri) 01:13:44 [No.367]
宝の山に見えて、ついカッとなってやった。反省してい... - ひみつ - 2008/06/19(Thu) 22:19:59 [No.366]
そんなあなたが宝物 - ひみつ - 2008/06/19(Thu) 20:33:17 [No.365]
ログとか次回なのですよ - 主催 - 2008/06/22(Sun) 23:45:36 [No.383]


のぞめない七色 (No.363 への返信) - ひみつ@出来れば日付が変わる前に上げたかった・・・

「少年、虹のふもとには宝物が埋まっているらしいぞ」

だからどうした、というわけでもなく、そこで言葉を切ってしまう来ヶ谷さん。
いつも含みを持たせてくるその話し方とは違う。
視線は窓の外。雨降りのグラウンドを眺めている。
だから僕は、少し気になった。


「宝探しにでも行くの?来ヶ谷さん」








『のぞめない七色』






「む、何だそのあきれたような口調は」
「いや別にあきれてはいないけどさ」

その切なげな雰囲気が少し気になっただけ。

「分かっているさ。虹は空気中の水分の反射と屈折による産物だ。見る位置によって、虹の存在場所も異なってしまう」
「うん」
「私の見ている虹と理樹君の見ている虹が同じものとは限らない。だから」


そこで一端言葉を切って。


「虹のふもとなんて、ありはしないさ」

酷く寂しそうな笑顔。

「あったとしても、―――他人との共有は出来ない。」
「うん」
「辿り着けたとしても、―――宝物が埋まっているわけでは、ないんだよ」

その笑顔が、霞んで消えてしまいそうに見えた。
でもそれも一瞬。含みのある笑顔に変わる。


「『くだらない話はどうでもいいんだよ、それよりその胸の谷間に宝が眠っているんだそこを探らせろ、ぐへへへへ』というような顔をしているな」
「いやいやいや、そんなこと思ってないから、というか何で僕を変態扱いするのさっ!」


そこにいたのは、いつもの来ヶ谷さんだった。

でも。

「来ヶ谷さん」


さっきの表情の理由は分からない。
でも、消えて欲しくなかった。
消える?―――分からない。自問自答。
彼女は確かに目の前にいるのに。
虹のように、曖昧な存在ではないのに。
手を伸ばせば、触れられるのに―――


「雨が上がったらさ、きっと虹がかかるよ」
「・・・そうだな」
「そしたらさ、虹のふもと、探しに行こう。次のデートはそれに決めよう」
「・・・うん」
「手を繋いでさ、一緒に探そう。そしたらきっと見つけられるよ」


虹のふもとも。僕と来ヶ谷さんの二人の、二人だけの宝物も。


「だから、―――早く晴れればいいよね」

「・・・ああ、そうだな」





カレンダーを見る。日付は6月20日。

窓を叩く雨は、未だ止みそうもない。




































目が覚める。
ここは―――僕と鈴の部屋、だ。
外からは日の光が差し込んでいる。とすると、今はまだお昼ぐらいなのかな。
いつものやつで、倒れてしまったらしい。
焦点の定まらない目で部屋を見渡すと、鈴の姿があった。

「鈴・・・」
「理樹、起きたか」


酷く懐かしい夢を見た。
いや、夢だったのかも分からない。
ずっと昔に経験した事のあるような、そんな漠然としたイメージ。


「大丈夫か、理樹。だいぶうなされてたぞ」
「鈴・・・?」

不幸は微塵もない場所にいた、気がする。
それなのに、うなされてた?

思い出そうとして、頭痛がひどくなる。

嫌だ、思い出すな、お前は何も経験していない。
もう手遅れなんだ。思い出しても悲しいだけ。忘れたまま生きてゆけ。
お前には鈴がいる。それがお前の宝物だ。
その他は何も望むな、鈴だけを守って生きていけ。
嫌な事、辛い事は全部閉じ込めておくから。

頭の中で、もう一人の僕が囁いている。


「理樹、本当に大丈夫なのか?」
「うん、心配かけてごめん」

カーテンを開ける。
広がっている青空。差し込んでくる光が眩しい。

「ありがとう」
「何がだ?」
「僕が倒れたから看病してくれてたんだよね」
「そんなの当たり前じゃないか」
「でも、退屈だったでしょ。天気もいいし、ちょっと出かけようか」
「お、何だ。さっきまで雨降ってたのに。いつの間にか晴れたんだな」

確かに、窓から見渡せるアスファルトには雨の跡が残っている。

「お、理樹、みろ!虹が出てるぞ!」

虹。その単語が、ふいにさっきの一フレーズを思い出させる。


―――虹のふもと、探しに行こう。

―――手を繋いでさ、一緒に探そう。そしたらきっと見つけられるよ。



カレンダーを見る。日付は6月20日。
雨はいつしか上がっている。
それでも。


その七色は、僕には望めない。
目をそらして生きる、僕には臨めない。
僕は手を離してしまったから。

虹のふもとに埋まった宝物を僕が掘り起こしに行く日は、永遠に来ない。

そんな確信がある。


[No.380] 2008/06/21(Sat) 01:03:09

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