[ リストに戻る ]
No.480へ返信

all 第15.5回リトバス草SS大会(仮) - かき - 2008/08/06(Wed) 22:57:13 [No.478]
第零種接近遭遇 - ひみつ@呆れるほどに遅刻。 8516 byte - 2008/08/09(Sat) 05:44:35 [No.495]
――MVPコウホココマデ―― - 主催 - 2008/08/09(Sat) 00:22:55 [No.493]
野郎どものクリスマス 3700byte - ひみつ - 2008/08/09(Sat) 00:11:06 [No.491]
野郎どものクリスマス - 雪蛙@5010byte 暇だったのでちょっと加筆・修正してみた - 2008/08/14(Thu) 02:19:01 [No.504]
二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない - 2008/08/08(Fri) 23:59:46 [No.490]
Re: 二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない 7104byte - 2008/08/09(Sat) 00:11:09 [No.492]
七人の直枝理樹 - ひみつ 10112 byte - 2008/08/08(Fri) 23:55:38 [No.489]
兄として思うこと - ひみつ 7531 byte - 2008/08/08(Fri) 23:49:39 [No.488]
円舞曲 - ひみつ 5331 byte - 2008/08/08(Fri) 23:26:58 [No.487]
とある夜 2852byte - ひみつ@初 - 2008/08/08(Fri) 22:34:32 [No.486]
彼が居ないと - ひみつ 10233byte - 2008/08/08(Fri) 19:25:47 [No.485]
寂寥は熱情の常 - ひみつ 8656 byte - 2008/08/08(Fri) 16:09:14 [No.484]
ガチ魔法少女なつめりん - ひみつ 9211byte - 2008/08/08(Fri) 02:12:04 [No.483]
ふぁみりー - ひみつ 10236 byte - 2008/08/08(Fri) 01:04:45 [No.482]
家族 - ひみつ@いまさら 7162 byte - 2008/08/10(Sun) 17:02:56 [No.500]
『そして誰もいなくなった』starringエクスタシー三人... - ひみつ 9912 byte - 2008/08/07(Thu) 23:50:04 [No.481]
宮沢謙吾の休日 - ひみつ 9673 byte - 2008/08/07(Thu) 23:00:22 [No.480]
ログとか次回とか - 主催 - 2008/08/11(Mon) 00:01:38 [No.501]


宮沢謙吾の休日 (No.478 への返信) - ひみつ 9673 byte

 宮沢謙吾の朝は早い。特に休日の朝は早い。

「いやっほーう、日曜日だーーーっ!」

 午前4時、目が覚めると同時に高らかに喜びを歌い上げる。ルームメイトは土曜の夜には耳栓をつけて眠る習慣がついた。



 寝巻き代わりの甚兵衛から道着へ着替え、さらにその上から手製のジャンパーを羽織ると、昂った気持ちを落ち着けるためにジョギングに出かける。

「自転車発見!勝ーー負っ!!」
「野良犬発見!勝−−−負っ!!」

 緩急をつけるために、自転車や野良犬と競争し、勝利する。ここ2ヶ月の戦績は86戦86勝。そろそろオートバイや自動車に勝負を挑むべき時期に来たと考えている。



 身体が十分に温まったところで寮に帰り、素振り。道を究めるために最も大事なことは基本である、という信念を持つ彼は、決して素振りを疎かにしない。

「652!653!654!655!」
「きゅう千きゅう百きゅう十ごっ!きゅう千きゅう百きゅうじゅうろくっ!きゅう千きゅうひゃくきゅうじゅうしちっ!きゅうせんきゅうひゃくきゅうじゅうきゅう!いちマーーーーーンっ!!」

 素振りを終える頃にはしゅうしゅうと全身から湯気が立つ。ジャンパーに刺繍された猫も心なしか汗をかいているように見える。普段ならこの後剣道部の朝練に出るが、今日は顧問がいないため休み。いつもの日曜より長い自由時間だ。



 浮き足立つ自分を鎮め、ここからの休日に備えて身を清めるために、シャワー室で水垢離をする。洗面器に冷水を溜め、頭から被る。何度も、何度も、何度も。唇が紫色になるころ、校内一のクールガイ、宮沢謙吾が誕生する。



 いったん部屋に戻り、時計を確認すると時刻は午前7時。食堂も開いている時間だが、一人で食べてしまうのはもったいないので、幼馴染である直枝理樹と井ノ原真人の部屋に行く。
 理樹はまだ寝ているだろうが、真人は筋トレのために起きているはずだ。それにもし真人が外に出ていれば部屋には理樹が一人ぼっちだ。起きたとき一人では心細いだろう。傍にいてやらねばなるまい。
 それでもし真人がなかなか戻ってこないようなら、自分が優しく起こしてやればいい。休日だからといって遅くまで寝ているのは不健康だ。起きたら身支度も整えてやろう。あいつはしっかりしているようで結構抜けているからな。



 入室の際、いつも声はかけるがノックはしない。向こうも部屋にいるときは鍵をかけていない。今は理樹が眠っているかもしれないので、控えめに声を掛ける。

「理樹、入るぞ」

 返事は無い。矢張り眠っているのだろうか。足音を立てないよう室内に滑り込む。起きている人影は無い。真人が眠っている訳は無いから、外でトレーニング中だろう。ベッドを見ると、頭が少し見えた。

「起きろー理樹ぃ。鳥さんがちゅんちゅん鳴いているぞー。鶏は一仕事終えて一杯やってるなあきっと。理樹も起きて遊ぼうじゃないか」

 傍らに膝をつき、気持ちよく目覚められるよう爽やかに語りかける。残念なことに壁を向いて寝ているため、寝顔を見ることができない。こちらに向かせようか。いや、それは駄目だ。自然に寝返りをうつ。その結果として寝顔を垣間見るからこそ価値があるのではないか。それに、無理に動かして覚醒を促してしまったら、それはもう寝顔ではない。ならば待とう。もしその果てに寝顔を見ることができなかったとしても後悔はすまい。
 自らの内の葛藤にケリをつけ、謙吾はじっと待つ。床に正座し、背筋を伸ばす。目を閉じ、息を潜め、心を穏やかに。試合の前のように、五感が研ぎ澄まされていく。そして、気付いた。

「ぐずっ」

 泣いている。理樹は今、眠りながら泣いている。怖い夢を見ているのだろうか。それとも悲しい夢だろうか。何もできない自分に歯がゆさを憶える。俺が人でなく獏であったなら、お前を苦しめる悪夢など暗い尽くしてやれるのに。嗚呼、俺は何故人間などに生まれた。
 せめてもの慰めと、背を向けたままの理樹の頭に手を伸ばし、そっと撫でる。ごわごわとした硬い感触。負けるな、理樹。

「理樹ぃ……」

 泣き疲れてしまったのだろう、しゃがれて野太くなった声。自分の名前を呼んでいる。夢の中では自分の存在が曖昧になることがあるという。迷っているのか、理樹。俺がついている、大丈夫だ。

「う……」

 思わず手に力が入ってしまったのかもしれない。軽い呻きとともに身じろぎする。目を覚ましてしまったたかもしれない。手を離し、身を乗り出し気味に寝返りを待つ。そして、岩のような巨体がごろり、と。

「茶番だああああっ!真人ォォォォォっ!!」
「うおっ!?何だいきなりっ!!」



 1時間後、それぞれ顔を当社比1.5倍程度に腫らした二人の姿が学食にあった。二人は顔を背けあったまま、仏頂面で山盛り飯を食らっている。

「……で、何だってお前は理樹の布団で寝ていたんだ?」

 結局一度も視線を合わせることなく食事を終え、食後の茶を啜りながら、ずっと疑問に思っていたことを問いただした。真人は謙吾を見ずに、プロテインを牛乳にぶち込みながら答える。

「……ゆうべ理樹のやつ帰ってこなかったんだよ。起きても理樹がいねえ部屋なんて寂しすぎるじゃねぇかっ。だからせめて理樹の匂いに包まれて……」

 真人はまだ何か言っているようだったが、謙吾には最初の言葉による衝撃が大きすぎて、まるで耳に入ってこなかった。

「……理樹が帰ってこなかった、だとぅ?」
「ん?ああ、帰ってこなかった」

 じろり、と鋭い目が真人を睨む。突然向けられたその圧力に、真人がたじろぎながら答えた次の瞬間。カッと眦を決すると、裂帛の気合を真人に叩き付けた!

「貴ッ様アアアアーーーーーッ!!何故俺に言わないんだああァーーーーーーーッ!!!」
「はあぁーーっ!?」

 謙吾の怒気が食堂全体をビリビリと震わせる。朝食を取っていた者達は、ある者はお椀を取り落として熱い味噌汁を浴び、あるものは最後に取っておいた玉子焼きを床に落として悲嘆に暮れる。食堂は阿鼻叫喚の地獄と化した。
 真人は幸いにもプロテインを口に含んではおらず、間一髪で惨事を逃れていた。真人が惨事を起こしていれば、巻き添えを食っていたはずの謙吾は、周囲の騒ぎに目もくれず、ひたすらに理樹の安否を気遣っていた。

「真面目な理樹のことだ、ひとりで夜遊びなどするはずがない。ならば可能性はただ一つ、何か事件に巻き込まれたとしか考えられないだろう!
 誘拐か?金を持っているようには見えないから営利誘拐はないだろう。ならば身体か!?そうか、理樹に悪戯するつもりで、ああーーーーーっ!!理樹、理樹ィーーーーーーッ!!無事でいてくれぇ……」
「なにぃっ!?理樹は誘拐されちまったのかよっ!?」

 最悪の事態を想像してしまい、いやいやと頭を振って必死にその可能性を振り払おうとする謙吾。しかし考えれば考えるほどにそれ以外無いと思えてしまい、椅子から転げ落ち、床に這いつくばってしまう。
 真人も、謙吾のただならない様子に事態の深刻性を見て取ったのか、顔を何時になく引き締める。

「まだ確証はない。が、可能性は限りなく高いだろう。もしそうだとすれば、賢い理樹のことだ、監視の目を盗んで何かサインを送ってくるかもしれない。真人、理樹からメールや着信があったらすぐに知らせてくれ。俺も、「そうか、あのメールは理樹からのサインだったのか!!」は?」

 謙吾を遮るように叫ぶと、真人はやおら携帯を取り出して操作する。

「ほら、これがゆうべ理樹から届いたメールだ。これ何かのサインなんだろ!?」

 真人が勢い込んで見せた携帯の画面には、理樹からのメールが表示されていた。

『今夜は鈴の部屋に泊まるよ。誰かに聞かれたらごまかしておいて。お願い(;´Д`)ハァハァ』



 1時間後、それぞれ顔を当社比3.6倍に腫らした二人の姿が女子寮のそばにあった。絶対防衛線、UBラインの前に無言で並び立つ。どんな表情を浮かべているのか、本人以外に窺うことは出来ない。

「真人、メールの返事はあったか?」
「いや。電話もつながらねえから、電源を切ってるか、電池切れか……」
「おそらく鈴がこっそり電源を切っているのだろう。姑息な」

 前方に聳え立つ鉄筋コンクリートの要塞を仰ぎ見る。あのどこかに理樹が囚われている。鈴の手の内でどんな拷問を受けているかと思うと居ても立ってもいられない。

「んで、どうすんだ謙吾っち。オレの筋肉でここを突っ切って鈴の部屋まで行きゃいいのか?」
「いや、それでは騒ぎが大きくなりすぎる。数で攻められても俺とお前なら負けることはないだろうが、手間取っている間に理樹をつれて逃げられてしまう」

 ここは敵地。無策に特攻しては敗北あるのみだ。理樹救出のために、失敗は許されない。

「ここは、陽動作戦で行こう」
「腸腰筋?」
「ひらたく言えばおとり作戦だ。一人が目立つ騒ぎを起こして気を引いている隙に、もう一人が内部に潜入。理樹を救出する」

 真人の筋肉ボケには一切付き合わず、自分の考えを整理するように作戦を説明する。すると、真人はフッと不敵に笑い、親指で己の胸を指し示す。

「いいねぇ。よし、任せろ謙吾っち!オレがばっちり理樹を救い出してみせっからよ!」
「何を言ってるんだお前は。理樹を救出するのは俺の役目だ。お前に潜入なんて出来るわけがない」
「あァ!?鍛えに鍛えた筋肉はそこにあるだけで目立ってしょうがねえから、こそこそ隠れたりしないで堂々と見せびらかしてやれとでも言いたげだなぁっ!?……ありがとよ」

 真人は言いがかりをつけているうちに、それが褒め言葉に取れることに気付き、最後には謙吾に礼を述べた。その言いがかりを横目で眺めながら、謙吾は理樹のことを思い出していた。
 出会ったばかりの頃は、恭介の後をオドオドしながら付いてくるだけの頼りない子供だった。体力面では鈴にも負けるみそっかすで、自分が手を貸してやることもしばしばだったのに。
 今はどうだ。確かに肉体的な強さはまだまだひ弱な部類に入る。しかし、精神的には頼もしくなった。場合によっては恭介や自分達すら超える強さを見せることもある。
 それは、嬉しいと同時に少し寂しい。我が儘なのは分かっている。しかし、まだ庇護者でいたい。娘を持つ父親というのは、こんなものなのだろうか。

「おい、そろそろやべぇんじゃねぇのか?」

 物思いに沈んでいた謙吾を真人の注意が引き戻す。もう長いこと同じ場所に留まっている。目立つ風貌の男が二人、女子寮の前で突っ立っていれば注目を引いて当然だ。棒を持った女生徒達も警戒して集まってきている。これ以上は危険だ、作戦どころではなくなってしまう。
 覚悟を固めると、互いの役割を無言で確認し、頷きあう。結構のときは来た。

「行くぞ、真人。ミッション……スター「うっといんじゃ、ぼけぇっっ!!!」」
「ちょ、り「問答無用じゃーーーっ!!」」

 甲高い叫び、鋭く風を切る音と鈍い打撃音が女子寮の壁にこだまする。
 数分の後、女子寮防衛隊が見たのは、小山のように折り重なった巨獣二頭の残骸と、その上に仁王立ちする小さな戦女神の姿だったという。

「む、無念だ……ッ」
「ふん、またつまらぬものをけってしまった」

 土埃舞い上がる中、地に這い動くこともままならない謙吾たち二人を一瞥もせず去っていく鈴。その背に謙吾は縋るように声を掛ける。

「ま、待て……理樹は、理樹は無事か……?」
「当然だ。あたしが理樹を傷つけるものか」
「そう、か……」

 立ち止まり、背を向けたまま答える。ちりん、と笑うように微かに鈴が鳴った。

「ちなみに今日はあたしとデートだ」

 振り向いたその顔は勝ち誇った笑みを浮かべ。

「うああああーーーーーーーーーーっ!!!!」

 よく晴れた空に絶叫は吸い込まれていった。

 そして今日も過ぎていく……。


[No.480] 2008/08/07(Thu) 23:00:22

この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。


- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS