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No.487へ返信

all 第15.5回リトバス草SS大会(仮) - かき - 2008/08/06(Wed) 22:57:13 [No.478]
第零種接近遭遇 - ひみつ@呆れるほどに遅刻。 8516 byte - 2008/08/09(Sat) 05:44:35 [No.495]
――MVPコウホココマデ―― - 主催 - 2008/08/09(Sat) 00:22:55 [No.493]
野郎どものクリスマス 3700byte - ひみつ - 2008/08/09(Sat) 00:11:06 [No.491]
野郎どものクリスマス - 雪蛙@5010byte 暇だったのでちょっと加筆・修正してみた - 2008/08/14(Thu) 02:19:01 [No.504]
二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない - 2008/08/08(Fri) 23:59:46 [No.490]
Re: 二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない 7104byte - 2008/08/09(Sat) 00:11:09 [No.492]
七人の直枝理樹 - ひみつ 10112 byte - 2008/08/08(Fri) 23:55:38 [No.489]
兄として思うこと - ひみつ 7531 byte - 2008/08/08(Fri) 23:49:39 [No.488]
円舞曲 - ひみつ 5331 byte - 2008/08/08(Fri) 23:26:58 [No.487]
とある夜 2852byte - ひみつ@初 - 2008/08/08(Fri) 22:34:32 [No.486]
彼が居ないと - ひみつ 10233byte - 2008/08/08(Fri) 19:25:47 [No.485]
寂寥は熱情の常 - ひみつ 8656 byte - 2008/08/08(Fri) 16:09:14 [No.484]
ガチ魔法少女なつめりん - ひみつ 9211byte - 2008/08/08(Fri) 02:12:04 [No.483]
ふぁみりー - ひみつ 10236 byte - 2008/08/08(Fri) 01:04:45 [No.482]
家族 - ひみつ@いまさら 7162 byte - 2008/08/10(Sun) 17:02:56 [No.500]
『そして誰もいなくなった』starringエクスタシー三人... - ひみつ 9912 byte - 2008/08/07(Thu) 23:50:04 [No.481]
宮沢謙吾の休日 - ひみつ 9673 byte - 2008/08/07(Thu) 23:00:22 [No.480]
ログとか次回とか - 主催 - 2008/08/11(Mon) 00:01:38 [No.501]


円舞曲 (No.478 への返信) - ひみつ 5331 byte

円舞曲



 生意気盛りの子猫、年老いて動きのゆったりした猫、餌を食べ過ぎて丸々とした猫、逆にあまり餌を食べられずにやせっぽちの猫。鈴の周りに集まる猫は多種多様で、小さな猫の動物園みたいだ。
 陽気に誘われて一匹の猫があくびをすると、ドミノ倒しのように辺りへと広がって、ちょっとしたコーラスになる。さらに気持ちの良い場所を探して横になる猫たち。その中でも要領のいい猫が鈴の膝元へとたどり着くことができる。甘えた仕草で顔を擦り付けてくる猫の愛らしさにも関わらず、鈴の表情は一向に浮かない様子である。
「つまらない」
 ぼそっと呟きつつ、手にした猫じゃらしを振り回す。目敏く反応した一匹の猫がぱっと伸び上がり、両手ではっしと先を掴んだ。鈴の手を離れたそれは、格好の猫たちのおもちゃとなり、先ほどまで長いあくびをしていたものまで加わって大きな騒ぎへと発展する。
「ふん」
 ほんの少し前まで、鈴の周りには人が集まっていた。ひとりずつリトルバスターズのメンバーが、鈴の知らない時もあったが加わっていた。大勢の中に溶け込んでいくのは苦手ではあったが、徐々にそんな関係に慣れてきていた。自分から声をかけたわけではないのに、みんな鈴に対して優しかった。でも、短い期間で結ばれた関係は、また離れていくのも早い。
 そのきっかけになった人物が。
「理樹……」
 ずっとずっと一緒だった。一般的に言えばおさななじみ、でもそんな一言では片付けられないくらいぎゅっと濃縮された思い出が詰まっている。性別を越えて生活を共にしていた理樹がどこか遠くなってしまった、ようやく鈴は感じ取ることができた。
 目の前で遊ぶ猫の集団。いくつもの出会いと別れがあった。そのたびに悲しい思いもしたし、うれしいこともたくさん経験した。
 でも今抱いている感情はそれとはどこか違う、鈴の思考は答えを求めていた。
「ここにいたのか」
「恭介か」
 神出鬼没が服を着て歩いている人物。自分の兄でありながら鈴はなんとなく距離を感じている。様々な経験を積み重ねても、まだこの人物がよく分からないと鈴は思う。よく、馬鹿と鈴が切って捨てるが、そんな言葉では推し量れないと彼をよく知る人物も考えていた。
「ん、理樹じゃなくて残念って顔だな」
「ち、違うわぼけーっ! ちっともあいつのことなんて考えないっ」
「本当にお前は分かりやすいな」
 くつくつと笑う兄から不機嫌そうに目を逸らすと、鈴は足元に広がる猫の楽園に目を向けた。先ほど賞品になったばかりのねこじゃらしがばらばらに分解されて無残な姿を曝している。猫たちはもう用はないとばかりに目もくれないで、別の遊びを探している。
「なあ?」
「なんだ」
「何で言わなかったんだ?」
 ぴくりと鈴の体が震える。
「……そんなこと今更恥ずかしくて言えるもんか」
「でも」
 恭介が一呼吸置く。
「きっと彼女は言ったのだろう? いや、実際に見たわけではないがな。そして理樹もそれに応えただけなんだろうな」
 芝居のように両手を広げて恭介が言う。
「どうして」
「どうして、なんて理屈で答えられるわけなんかじゃない。恋愛なんて答えのないものが積み重なって結ばれていくもんだ。逆にああだから、とか理屈をつけたほうが長続きしないものさ」
「ふん」
 鈴は膝の間に顔を埋めた。ある程度兄の言葉にうなずけるものの、どこか最後の部分で納得していないように。
「まぁ、兄としても残念ではあったな」
「それは慰めているつもりかーっ」
「良かれ悪しけれ、恋愛っていうのは人を成長させるものだ。お前だって、今までは考えないことを考えるようになっただろう?」
「う……ん、そうなのか」
 にゃあにゃあと好き勝手に鳴く猫たち、それは恭介の言葉を肯定してるようでもあり、否定しているようでもある。
「そうではないと困るんだがな」
「は、それはいったい?」
 おかしいと鈴が思った時、
「時間か」
 恭介が空を見上げる。世界の端っこのほうで何かが割れる音が響く。
「俺は、本当に、お前の幸せを祈っているんだぞ」
 苦しげに息をつき、額に汗を浮かべる。なにやらただならぬものを感じた鈴が目を吊り上げて辺りを見回した。
「お、おい」
「茶番か、それもまあいいだろう。こんな世界なんて、な」
 恭介のどこか遠くを映す目が、次第に霞んでいく。あれほど鈴の周りに集まっていた猫はいつのまにかいなくなっている。
「恭介っ」
「その、お前の中で育った感情を大切にしろよ。きっとそれがお前の中で生きてくる」
「何を言ってるんだっ」
 鈴の問いに答える余裕は残されていないようだった。
「俺はなんて酷い人間なんだろう」
 恭介の脳裏に最後に映るのは鈴ではなく、ここではないどこかにいるはずの理樹の隣にいる少女。壁がひび割れてぽろぽろと落ちるように、少女の姿が崩れ落ちていく。
「恭介、いったいどういうことなんだ」
「大丈夫、どうせすぐに忘れてしまうんだ」
 兄として、せめて鈴を不安にさせないように声をかける、これが今できる恭介の全てであった。
「それでも忘れて欲しくはないものはあるんだけどな」
「恭介っ」
 鈴が怯えた表情で手を伸ばす。しかし恭介は動かなかった。
「それは俺の役目じゃないんだよ」
 恭介は未練を振り払うかのように目を閉じた。



 猫の甘える鳴き声と仏頂面の少女。
「また振られたのか」
 やれやれと首を振りながら、恭介は閉じようとする世界に向かって逆らうように歩く。
「肉親の情を優先させる……あいつらにはいくら謝っても償うことはできねえ」
 踏み出していく地面の存在を信じられない。太陽を遮る壁も信じられない。自らの後をついていく影も信じられない。ただひとつ確定しているのは、背中にじりじりとした不吉な風が吹き付けていることだけ。
「間違っているかどうかは分からん、が、俺のやりたいようにさせてもらうぜ」
 決意を揺るがせない証明か、恭介はここではないどこかへと嘯く。周りの風景とコントラストの差が激しく、不自然なほどくっきりと恭介の目に映る。
「もう少しか」
 恭介はさらに一歩踏み出した。初めて向こうが気づいたか、恭介に視線を飛ばす。明らかにその表情から読み取れる感情に、恭介は終わりが近いことを感じ取っていた。
「後始末はできそうにないなぁ」
 恭介の体を大きな影が覆う。それでも、確実に一歩一歩妹へと歩んでいく。
 まだ動けることに感謝をしながら。
「だから、俺の期待に応えてくれよ」
 慈しみに満ちた表情を、本人も気づかないうちに浮かべていた。


[No.487] 2008/08/08(Fri) 23:26:58

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