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No.489へ返信

all 第15.5回リトバス草SS大会(仮) - かき - 2008/08/06(Wed) 22:57:13 [No.478]
第零種接近遭遇 - ひみつ@呆れるほどに遅刻。 8516 byte - 2008/08/09(Sat) 05:44:35 [No.495]
――MVPコウホココマデ―― - 主催 - 2008/08/09(Sat) 00:22:55 [No.493]
野郎どものクリスマス 3700byte - ひみつ - 2008/08/09(Sat) 00:11:06 [No.491]
野郎どものクリスマス - 雪蛙@5010byte 暇だったのでちょっと加筆・修正してみた - 2008/08/14(Thu) 02:19:01 [No.504]
二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない - 2008/08/08(Fri) 23:59:46 [No.490]
Re: 二人、一緒に - ひみつ@まったく自重しない 7104byte - 2008/08/09(Sat) 00:11:09 [No.492]
七人の直枝理樹 - ひみつ 10112 byte - 2008/08/08(Fri) 23:55:38 [No.489]
兄として思うこと - ひみつ 7531 byte - 2008/08/08(Fri) 23:49:39 [No.488]
円舞曲 - ひみつ 5331 byte - 2008/08/08(Fri) 23:26:58 [No.487]
とある夜 2852byte - ひみつ@初 - 2008/08/08(Fri) 22:34:32 [No.486]
彼が居ないと - ひみつ 10233byte - 2008/08/08(Fri) 19:25:47 [No.485]
寂寥は熱情の常 - ひみつ 8656 byte - 2008/08/08(Fri) 16:09:14 [No.484]
ガチ魔法少女なつめりん - ひみつ 9211byte - 2008/08/08(Fri) 02:12:04 [No.483]
ふぁみりー - ひみつ 10236 byte - 2008/08/08(Fri) 01:04:45 [No.482]
家族 - ひみつ@いまさら 7162 byte - 2008/08/10(Sun) 17:02:56 [No.500]
『そして誰もいなくなった』starringエクスタシー三人... - ひみつ 9912 byte - 2008/08/07(Thu) 23:50:04 [No.481]
宮沢謙吾の休日 - ひみつ 9673 byte - 2008/08/07(Thu) 23:00:22 [No.480]
ログとか次回とか - 主催 - 2008/08/11(Mon) 00:01:38 [No.501]


七人の直枝理樹 (No.478 への返信) - ひみつ 10112 byte

「理樹が風邪をひいた」
 朝のショートホームルームまでの時間、リトルバスターズが集まり今日は何をするのか、と会議することが恒例になっていた。その場で、まさかの真人の衝撃発言である。恭介が卒業し、現在リトルバスターズの実質的リーダーは直枝理樹である。その理樹が今日は風邪をひいて寝込んでしまったらしい。理樹の病状が、あまり芳しくないのはルームメイトの真人、幼馴染の謙吾の表情から察することが出来たので、皆心ここにあらず状態に陥っている。彼らの中で直枝理樹という存在は相当に大きなものになっているようだ。
「こんな時、俺の筋肉はまったくの役立たずだ。俺の筋肉から湧き出る癒しの力を注いだが、何一つ効果は無かった……」
 くそっ、と真人が地面を殴る。自分の不甲斐なさに憤りを感じ、それを外に出さずにはいられなかったようだ。謙吾も同様に学校の柱に頭突きを繰り返している。謙吾の頭より、柱のほうが先にダメになりそうだったので、ヒビが入ったところで、皆が止めに入った。真人も床に穴が開いたところで殴るのをやめた。そして、神妙な面持ちで皆に言った。
「オレは理樹が大好きだ」
 真人が筋肉を奮わせて、何か言い出した。
「俺のほうが好きだ」
 それに謙吾が反論する。なんだか嫌だ。
「きしょいわ、ボケ。そんなこと言ったらあたしのほうが好きだ」
 これまで静観していた鈴も何か言い出した。
「いやいや、私のほうが好きかもしれないデスよ」
 今まで黙っていて、逆にそれが不気味さを醸し出していた葉留佳も完全にノリだけの発言をし出した。
「私も理樹くんのことなら大好きだよ〜」
 小毬がそう言うのは、一同なんとなく分かっていた。
「わたしも、好きです」
 美魚が言うと、なんだかリアリティがありすぎて困る。
「少年のことは嫌いじゃないぞ」
 なんの話か分からなくなってきた。
「リキのことは、その、あの、私だって、うー、す、す、しゅきです!」
 もじもじとした挙句、噛んだ。あまりに一人だけガチ過ぎるクドに対しては、全員無視を決め込んだ。ちょっと触れれない。
 後ろの方で、杉並が私こそが直枝くんのことを一番大好き、愛してるとか叫んでいたが、誰一人聞いていなかった。可哀相な娘だ。
「まあ、俺が一番理樹のことが好きだと言うことにして、とりあえず、今日はお前ら、オレのフォローをしてくれ」
 異論、反論は幾つもあったが、その描写は余りにも醜くかったため割愛させていただく。杉並の命のともし火が消えかけたとだけ言っておく。さて、真人のフォローとは一体どういうことなのだろうか。
「オレは日頃理樹にはお世話になっている。正直、オレなんて、あいつの筋肉の相談に乗ることぐらいしか出来ない、筋肉の申し子だ。筋肉の申し子っていいな。格好いいぜ。今度からオレのことは筋肉の申し子と呼んでくれ」
「話が逸れてるぞ、筋肉の申し子」
「おっといけねぇ。まあ、日頃の恩返しと言うことで、今日の授業は理樹の代わりにオレがあいつとして授業に出ようと思う」
「おい」鈴が頭に疑問符を浮かべながら言う。「この馬鹿は何を言ってるんだ?」
 その言葉に、誰も正確な解答が出来なかった。さっぱり意味が分かりません。
「つまりな、オレが理樹の代わりにアイツとして授業を受ける。理樹の変装をして」
 更に真人は、今日はオレは欠席だ、と哀愁を漂わせていた。
 真人の言葉に一同顔を見合わせて頷く。自分の為すべきことが分かったから。それならば、自分達も協力しよう。お前だけに任せてられるか。順番に授業を理樹の代わりに受ける。それが彼の為になるのならば。だって、理樹のことが大好きだから。なんという友情。なんという自己犠牲。
 直枝理樹は全教科出席しましたが、何か問題でも?作戦が本日8:05を持って発動した。


///


 一時間目は、古典である。
 最初の発言どおり、理樹の席には図体のでかい真人がチンと身体を小さくして座っていた。理樹を演じることに、真人は自信があった。付き合いの長い幼馴染。そして、ルームメイト。理樹の一挙手一投足で、今何を考えているのか感じることが出来る、と思っている。なので、理樹の完コピなんぞお茶の子さいさい、なのである。真人の中では。
 鞄に入れておいたカッターシャツに袖を通し、入学式以来着用することのなかったネクタイを久しぶりに締めようと思ったら、結び方を忘れていたので、そこはクドに結んでもらった。鉢巻もとり、髪型はワックスで七三分けにする。無い頭を使った結果、真面目っぽければ基本的に理樹の思想で七三分けをチョイスした。案外、これだけ変えるだけで、中々に真面目な男に見えなくも無い。バスターズメンバーには拍手を頂いていた。
 これで完璧だ。理樹、お前に病欠という汚点を残さずに済みそうだぜ、と真人は今はベッドで寝ているであろう理樹に心の中でそっと告げた。教師がそろそろ教室に入ってくる。本日、とんでもない筋肉は欠席し、潜在的マッスル直枝は出席しております。さあ、来るなら来い。
 ガラリと扉が開く。真人には自信がある。自分で鏡で見た時、そこには毎日四十時間ほど筋トレをした理樹の姿があった、と見間違えてしまうほどの変身を遂げていたのだから。
 教師が黒板の前に立つ。道具を教卓の上に置き、誰か欠席はいないかと教室を見回す。そこで、真人の存在が目に付いた。凝視する。何かが違う、と。
 真人も見つめ返す。オレが理樹だと言わんばかりに教師の目を穴が開きそうなほどの視線で射抜く。
 教師が何かに気づいた。ポンと手を叩く、古典的な表現をしてくれたので分かりやすい。
「自分の席に戻れ、井ノ原」
 やっぱりダメでした。


///


 授業が終わり、休み時間に入る。
 真人が泣いていた。おいおい、と泣いていた。
「看病も出来ず、更に代わりに出席することも出来ず、オレはなんてどうしようもない筋肉の申し子なんだ!」
 真人の魂の叫びに、皆共感して、誰も隠そうとせずに涙を流したなんて感動的なことは一つも無く、役立たず、死ね、きしょい、筋肉三割カット、インポと口々に罵声を浴びせた。
 そして、「代わりに見本を見せてやる」という声と共に制服の謙吾が現れた。彼は、学校生活のほとんどを胴着で過ごして来た。制服をとにかく拒んだ。サンフランシスコを聖地とする人種にしか見えなくなるからだ。その証拠に、美魚がハアハアと興奮していた。そして、ハアハア興奮した美魚に、ハアハアと来ヶ谷が興奮していた。どうしようもない一方通行の関係がここに成立したことは、割とどうでもいい。


///


 二時間目は英語である。
「宮沢、席に戻れ」
 ですよね。


///


 授業が終わり、休み時間に入っても謙吾は真っ白な灰状態から戻ってこれなかった。彼は授業中もずっとこのように放心状態だった。ただの二酸化炭素とうんこを生成する産業廃棄物生成装置へと成り下がっていた。そんなエコ精神の対極に位置する存在である、謙吾に対して、誰も何も言えなかった。言ったら、ぼろぼろと崩れてしまいそうだから。しかし、一人の人物が立ち上がる。
 姓は来ヶ谷、名は唯湖。呼ぶときは、来ヶ谷さんと呼べと言う硬派な彼女。彼女が盛大に謙吾の顔面に蹴りをぶち込んだ。その攻撃を受けた謙吾は、教室の端の壁までぶっ飛んだ挙句、顔面から突き刺さった。
「お前らに見本を見せてやる」
 そう言うと、男子生徒の一人の制服をひん剥き、教室を出て行った。
 ちなみに、ひん剥かれた生徒の名は相川君と言うそうな。


///


 三時間目は数学である。
「直枝は欠席っと」
 来ヶ谷は、数学の授業には出ない主義なのだ。


///


「やあ」
 清々しい顔をし、右手をシュタっと挙げて来ヶ谷が教室に戻ってきた。男子生徒の制服をひん剥いておきながら、まったくもって格好は平常と変わらずの女子制服である。男子制服は、右手に掴んで持ってきていた。これでは、天国の相川君が浮かばれない。色々とツッコミどころ満載なのだが、誰一人うまくツッコめない。ツッコむ気も無い。こういう場面でこそ、理樹のツッコミがどれほど重要かを身に沁みて感じる。それは置いておいて、現在三時間を過ぎ、誰一人成功したものはいない。それどころか、下手したら理樹の教師の印象はどんどん悪くなっていっている、ただでさえ、リトルバスターズとか言う変態集団のリーダー的存在だと目をつけられているというのに。
 それでもお構い無しに彼らは行動する。名目上、理樹の為なのだから。実際のところ、なんだかおもしろくなってきたというのが本音。
 そして、次の挑戦者が現れた。来ヶ谷の腕から制服を奪取する。
「次ははるちんにまっかせっなさーいっ!」
 不安しかない。


///


 四時間目は、物理である。
「この服超臭い!」
「……」
「あ、センセ、センセ! 僕、直枝理樹だよ! 今日も直枝理樹は元気に授業に出席中だよ! さあ、早く、その出席簿の直枝理樹の欄に丸をつけちゃいなよ!」
「三枝、教室に戻れ」
「あちゃー! バレバレだよ! ていうか、バレないわけ無いじゃん! ずべしっ!」
「うるさいから、さっさと出てけ」
 期待通りの働きをしてくれた。


///


「いやー、なんでバレたんデスかね? 全く持って理解不能なんデスけども」
「葉留佳を回収していきます」
「って、お姉ちゃん!」
 ぺこりと礼儀正しくお辞儀をし、葉留佳の首根っこを掴んでずるずると引きずっていく光景は、なんとも仲睦まじい姉妹の姿に見えるわけが無い。ばいばーい、と手を振る葉留佳は笑顔だ。二人の関係は良好らしい。とんでもなくどうでもいい話だ。可哀相なことに教師達の理樹の評価はどん底の地にまでついているであろうが。
 葉留佳のものすごい失態っぷりに、誰もがテンションも下がり、ぶっちゃけ、これも飽きてきたなという時に真打登場である。
「よう、俺を呼んだか?」
「ぎょうぶげ?」
 いち早くその存在に気づいたのは普通に飯を食っていた真人だった。何故彼が一番初めに気づいたのかというと、彼の正面にもう既に卒業してどっかに就職したとかニートだとか噂の恭介が立っていたからだ。要はたまたまだ。
「お前らじゃ、理樹の代わりは無理だが、俺なら出来る。俺はそれを証明するために来た」
 そもそもなんで、この状況を全てこの人は理解しているのだろうか、という疑問は考えるだけ無駄なので、そこら辺は出来る限り無視の方向で。恭介のほうも、こんなこと言ってるが、ただおもしろそうなことやってるのに、俺だけ仲間はずれとかにすんなよこの野郎、というのが本当の理由だろう。寂しん坊根性丸出しである。
「それに俺には自信がある」
「なんでだ?」
 皆、無視してて可哀相なので心優しい真人が聞いた。
「髪型が少し似ている!」


///


 五時間目は世界史である。
「卒業生は出て行け」
「くっ、無理だったか」
 当然の結果だった。


///


「お前らは本当にダメな奴らだ。ああ、ダメだ。なんてだめな奴らだ。しね」
 撃沈軍団を前にして、鈴がドーンと仁王立ちをして言い放つ。口は悪いが、根も捻くれている。シャイな部分がとてもかわいい棗鈴様。
「お前らに見本を見せてやる」
 誰一人期待していない状況、謙吾なんて鼻を穿って食べてるし、恭介なんて鈴の発言の後に家に帰ったしまった。来ヶ谷は、鈴のナイ乳に興奮していた。本当に仲間? と疑問に思わざるを得ない。
「あたしには自信がある」
「なんでだ?」
 皆、無視してて可哀相なので心優しい真人が聞いた。
「声が少し似ている!」
 チャイムが鳴り響く。最後の授業の始まりだ。まるでリングの上で聞く、最終ラウンドのゴングの音のようだ、と鈴は思った。ボクシングなんてやったことない、と鈴は思った。


///


 六時間目は保健体育である。
「直枝」
「はい」
「直枝は出席と。ん? 棗は欠席か」
 なんでか成功した。


///


 授業が終わりを告げる。それと同時に歓声が上がる。奇跡が起きた。
 気づけば胴上げが始まっていた。今回のヒーローである鈴を、日本シリーズで優勝した監督のように皆で胴上げした。優勝した。あまり出番のなかった小毬、美魚、クドが率先して胴上げをした。
 鈴も、「うわ、落ちる!」とか「怖いわ、やめろ!」等と叫んでいたが、顔は笑顔だった。だって優勝したのだから。
 その後、教師に当然の如くバレて、バスターズ全員お叱りを受けたことは言うまでも無い。


[No.489] 2008/08/08(Fri) 23:55:38

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