第16回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/08/28(Thu) 00:07:52 [No.506] |
└ そのボールをど真ん中ストレートで投げ込む - ひみつ@5064 byte EXネタだけどシナリオのバレは無し - 2008/08/31(Sun) 11:31:29 [No.539] |
└ 銀玉 - ひみつ@13291 byte 遅刻 ネタバレしようがない。そしてごめんなさい。 - 2008/08/30(Sat) 05:41:46 [No.530] |
└ ――えむぶいぴーらいん―― - 主催 - 2008/08/30(Sat) 00:11:15 [No.529] |
└ 願いの叶うボール - ひみつ@5505 byte ネタバレなし 頭カラッポにして読んでください - 2008/08/30(Sat) 00:04:20 [No.528] |
└ 左目で見据えるもの - ひみつ 19283 byte EX要素若干あり - 2008/08/30(Sat) 00:01:47 [No.527] |
└ そーろんぐ・ぐっどばい - ひみつ・10928byte EXネタありだけどバレはほぼなし - 2008/08/29(Fri) 23:59:17 [No.526] |
└ 熱闘・草野球 - ひみつ@3342byte - 2008/08/29(Fri) 23:55:12 [No.525] |
└ [削除] - - 2008/08/29(Fri) 23:48:26 [No.524] |
└ Refrain - ひみつ@12911 byte EX微バレ - 2008/08/29(Fri) 23:42:50 [No.522] |
└ Primal Light - ひみつ@8341 byte 多分ネタバレなし - 2008/08/29(Fri) 23:15:20 [No.521] |
└ 居眠り少年は空の隙間に極彩色の夢を見る - He Meets You"ひみつ"@17347byte - 2008/08/29(Fri) 22:49:03 [No.520] |
└ 一日だけの仲間入り - ひみつ@EXネタバレ有り 11411 byte - 2008/08/29(Fri) 22:43:01 [No.519] |
└ それは白く柔らかくボールのようで - ひみつ@12791 byteEXネタバレなし - 2008/08/29(Fri) 22:37:21 [No.518] |
└ 解説&あとがき - ひみつ@orz - 2008/08/31(Sun) 12:04:34 [No.540] |
└ 生き抜いたその先に - ひみつ@7580byte EXネタバレ有 初 - 2008/08/29(Fri) 20:34:12 [No.517] |
└ 生き抜いたその先に 加筆修正 - ひみつ@7580byte EXネタバレ有 初 - 2008/09/01(Mon) 20:45:54 [No.544] |
└ Re: 生き抜いたその先に 加筆修正 - ひみつ - 2008/09/11(Thu) 23:49:55 [No.551] |
└ ぼくのいやなこと - ひみつ@バレない程度にEXネタ微 15891 byte - 2008/08/29(Fri) 01:12:43 [No.515] |
└ 八月三十一日。夏休みの終わり - ひみつ@8442 byte - 2008/08/28(Thu) 23:21:27 [No.514] |
└ ネタバレなし - ひみつ@8442 byte - 2008/08/29(Fri) 08:57:24 [No.516] |
└ 独り言 - ひみつ・初・EX捏造似非ネタ微混入…申し訳ない…・19434 byte - 2008/08/28(Thu) 21:41:54 [No.513] |
└ 誰にもみとられなかった白 - ひみつ@8047 byte - 2008/08/28(Thu) 21:00:47 [No.511] |
└ [削除] - - 2008/08/28(Thu) 21:02:38 [No.512] |
└ 目の前にある、やみ。 - ひみつ@8,968byte - 2008/08/28(Thu) 18:21:03 [No.510] |
└ はるか遠くに転がっていくボールを追いかける犬のよう... - ひみつ@EXちょこっとだけネタバレ・お手柔らかにお願いします - 2008/08/28(Thu) 15:05:02 [No.508] |
└ 容量:14914byte - ひみつ - 2008/08/28(Thu) 15:12:17 [No.509] |
└ ログと次回と感想会後半戦のご案内なのよ - 主催 - 2008/08/31(Sun) 01:53:24 [No.536] |
私がそれに気づいたのはいつだったでしょうか。きっかけは何だったでしょうか。よくわかりません。ただ、いつの間にか理解していていつの間にか受け入れていた、というのが一番正しいと思います。リキさんにリトルバスターズに誘われて、いろんな人と仲良くなれて、それから……そこからがよく覚えていませんです。ただ、リキと一緒に勉強したりリキと一緒に遊んだり、それからリキと恋人同士になったり。今となってはそんなこともあった、程度の記憶しかありません。でも私は間違いなくリキと好き合っていたんです。 それはまどろみの中に落ちていくような感覚。布団の中に入って眠る時と同じような、温かいような気持ちのいいような、寂しいような。でも、これだけは間違いありません。リキは私を救ってくれたんだと。 そこからの私はほかの人を救うための歯車になりました。私はもう救われたから。だから次はわたしじゃない誰かの番。 私はリキのことが好きです。だから今度は私がリキを救います。 と言っても、私ができることはせいぜい他の皆さんの手助けをすることくらいなのですが。 すべてが終わって、私は本当の私のことを思い出しました。リキと一緒にいた世界が温かい夕日の中だとしたら、本当の私は底なし沼の底にただよっています。 私は救われました。リキに幸せを分けてもらいました。だから、もう十分です。歯車としての役割と終えた私は、やがて燃やされてこの地に還るのでしょう。 だから、リキ。私の好きな人。あなただけはまばゆい太陽の下へ帰ってください。真人さんが、謙吾さんが、恭介さんが、みんなが助けた命を輝かせてください。 ……なのに、なぜ世界がこんなに明るいのでしょうか? なぜ私は沼の底ではなく太陽の下にいるのでしょうか? なぜリキが私の手を握っているのでしょうか…… 夢か現か、幻か。 夢が現実に、現実が夢に、幻は幻に。 「あ、クド」 「あっ、こんにちはリキ。えーと…どぅーゆーふぁいんせんきゅー?」 「え、えと……I’m fine thank you」 「おう! いっつぐれいと!」 2学期が始まって何日かしたある日の昼休み。家庭科部の部室で昼食を取ろうとしているところでリキに会いました。いや、さっきまで同じ教室で勉強していましたから今日初めて会ったわけではないのですが。それでも授業中と休み時間では嬉しさが違います。授業中は勉強しないといけないのですが休み時間ならリキと遊んでも怒られません。 「リキ、もしよかったらこれから家庭科部の部室に行きませんか? 今日は二人分もないですがおすそ分けくらいはできますよ」 「それは魅力的だね。どうしようかなぁ……」 返事は分かっています。リキを好きな人は私だけじゃありません。それに 「ごめん、先に約束があるんだ。ごめんね、クド」 「いいえ、気にしないでくださいリキ。部室にはほかの人を誘います」 「ごめんね。それじゃ、また後で!」 「しーゆーネクストじゅぎょー!」 私は元気に手を振ってリキを見送ります。何かを追いかけるように駆けていくリキ。いえ、あれは追いかけられているのでしょうか? どちらにせよ、リキの瞳に映る姿は私ではなく他の人。 私は救われた。魂をリキに。身体をリキと鈴さんに。その二人が一緒になることは素直に喜ぶべきと思いますし、それ以上を望むなんてとんでもないことです。せめて二人を祝福してあげること。みんなで一緒にいられることを喜ぶこと。 私はとっても幸運なのですから。 「おっ、クド公。やはー。こんなところで突っ立ってどうしたの?」 「あ、三枝さん。こんにちわです」 ぺこりとお辞儀をする。おじい様が「日本人は礼に始まり礼に終わる」と言っていたのを私は忘れていません。三枝さんは手にお弁当箱らしき巾着と何かの袋を持っています。購買で買ったものでしょうか? 「クド公これからご飯たべるとこ?」 「そうですが、三枝さんは?」 「あ、よかったらこれあげようか?」 と、購買の袋らしきものを私に向けて差し出します。 「いいのですか? いただいてしまって?」 「うんうん、はるちんは優しいからね。やははは」 「では遠慮なくいただきますです!」 中身はパンでしょうか、サンドイッチでしょうか。わくわくしながら袋の中を覗き込んで、嗅ぎなれた匂いがすることに気付きます。中に入っているのはパチンコ玉ほどの茶色いボールがたくさん。 「ってこれ犬の餌です!!」 「そだよー、ストレルカとヴェルカのごはんだからねー。いやぁ、クド公ならイケるかなぁ、と」 「わふー!私一応人間ですっ! それにストレルカとヴェルカのご飯を私が食べるわけにはいきません……」 「あ、問題そこなんだ……いやね、お姉ちゃんからストレルカとヴェルカにこれ届けてこいって言われちゃって。まったく人使いが荒いのですヨ」 三枝さんと佳奈多さんは順調に関係を修復しているようです。この前はみんなで佳奈多救出作戦なるものも実行しました。あれは楽しかったですねー。わふー。 「とりあえずこれ届けないといけないからサ、中庭行かない?」 「いいですねー、そうしましょう」 家庭科部室での落ち着いたご飯は好きですが、こうやって誰かと一緒に食べるご飯も好きなので万事おっけーなのです。一人で食べるより二人で、みんなで食べたほうがご飯もおいしいのですから。 本当はリキと一緒に食べたかったのですが。 「ストレルカ、いけません、許してください、そんなところ…わふっ!」 「素直にもう無いって言いなよ」 ご飯欲しさにじゃれついてくるストレルカに押し倒されている私を見て、三枝さんが苦笑いしています。でも私は必死なのです。これは食うか食われるかの生存競争で、負けた方は食べられてしまうのです。ご飯を。 「ごめんなさいストレルカ、もうご飯がないのです! 許してください!」 そんな言葉に構わずストレルカはどこかにあるんじゃないかと私の体をあちこち探します。このままではあられもない姿にされてしまってお嫁にいけなくなってしまいます。 「三枝さーん、ヘルプみーってご飯食べてる!? しかもそれ私の煮物ですー!」 「いいじゃんいいじゃん、細かいことは気にしないでサ。お、この里芋おいしー!」 「あああああああ、いけません、それはダメなのです! それだけはお許しをー!」 私は必死の抵抗を試みますが、ストレルカは離れてくれません。 「このしいたけもいけるなぁ…ねえクド公これ全部食べちゃっていい?」 「私の分がなくなってしまいますー!」 「いいじゃんケチー。減るもんじゃないし」 「減ってますー!!」 そこでストレルカもようやくもうご飯がないことに気づいたのか解放してくれました。あわてて三枝さんのところへ行くと 「はいこれ」 色とりどりのおかずが入っているお弁当を手渡されました。 「これは……?」 「お姉ちゃん特製のお弁当。半分だけなら食べていいよ。私もクド公の半分食べちゃったから、交換」 「なるほど、それはいいアイデアです」 「じゃ、ランチターイムとしましょうか」 「わふー!」 佳奈多さんのお弁当は手間暇がかかっていてとてもおいしいものでした。三枝さんも私のお弁当を美味しいと言って食べてくれてとてもうれしかったです。 ご飯を食べた後は三枝さんとストレルカ・ヴェルカと遊んだりしていました。今日はフリスビーがなかったので、そのあたりに転がっていたボール(リトルバスターズの練習中に飛んできたまま忘れられたのでしょう)を投げて、とってくる遊びです。もちろんストレルカが投げて私が拾いに行くパターンも。それ見て三枝さんは 「いやぁ、さすがクド公ですナ」 「わふ? 何がですか?」 「だってあのわんこたちと対等に遊べるのってクド公くらいだもん」 それはほめられているのでしょうか、それとも馬鹿にされているのでしょうか……少し考えましたが好意的に受け止めることにしました。 「ありがとうございます」 「あ、ごめんけなしたつもりだったんだけど」 「けなしてたですかー!」 「いやぁうそうそ、ほんと心の底から褒めてましたヨ?」 何か疑わしい気もしますが、素直に喜んでおきましょう。と、向こうにリキの姿が見えました。鈴さんと手をつないで歩いています。 「うわー、あつあつだねー」 「そうですねー…」 「あれ、クド公ジェラシー?」 「そ、そんなわけない……ですよ」 そんなわけはありません。でも言葉に詰まってしまいました。本当にそうなのか、と心のどこかで私じゃない私が言うのです。 「未練タラタラだね〜」 「そ、そんなことはありませんです!」 思わず声を荒げてしまい、ストレルカとヴェルカがいぶかしげな視線を向けてきたのであわてて「なんでもないのですよ」と取り繕ってしまいました。二匹はそれ以上のことはしてきませんでしたが、なんだか心の機敏まで覗かれてしまったような感じです。 「よ〜し、ほらクド公、とってこ〜い」 「わふー!」 唐突に三枝さんがボールを投げると、思わず体が反応してしまいました。走り出した私を見て、ストレルカとヴェルカも走り出します。 「おぉ、どっちが早いか競争だー!」 「負けませんよ、ストレルカ、ヴェルカ!」 二匹はこっちこそ、とばかりにおんおん、と吠えたてる。ボールは遠くへ飛んで行ってしまったので、ストレルカとヴェルカの速さには勝てず、あっさりと抜かれてしまいます。「お、ヴェルカの勝ちか。ストレルカは早いけど茂みの中では動きづらいもんねー」 三枝さんのところにボールをくわえて戻ってきたヴェルカは得意そうにおん、と。ストレルカはちょっと悔しそうにくぅんと鳴きました。 「ねえクド公」 「はい、なんでしょうか三枝さん」 とぼとぼと帰ってきた私を、三枝さんはいきなり 「おりゃー、ヘッドロックじゃー!」 「わふー! やめてくださいですー! 苦しいのですー! ロープなのですー!」 必死に抵抗しますが、もう完全に首を取られてしまっているので身動きがとれません!がんばって抜けようとしますが無駄な抵抗のようです… 「ふっふっふ、諦めて降参して私の言うことを素直に聞くなら許してやらんでもないぞー」 「聞きますー! 聞きますから離してくださいー!」 「じゃあ聞くけど」 そこで三枝さんの力がふっと抜けました。逃げるなら逃げてもいいけどできれば素直に答えて欲しい。そんなところでしょうか。詳しくはわかりませんが。 「クドは、今も理樹くんのこと好きなの?」 「え?」 一瞬何の事だか理解できませんでした。中庭をそよりと風が流れ、木々のざわめきだけが聞こえてきます。ざぁ、と。それ以外のすべてが止まってしまったような、そんな錯覚がする沈黙。 「……よくわかりません」 長い沈黙の末、なんとかひねり出した答えがそれだった。 「そか」 三枝さんは短くそう言うと私を解放してくれました。でも私はそこから動けず、沈黙が続きます。 「ほーらクド公、とってこーい!」 「わふー!」 本能とは恐ろしいもので、さっきまで氷のように固まっていたはずなのにボールを投げられたら反射的に体が動いていました。今度はストレルカとヴェルカよりも先にボールをつかみます。すぐさま三枝さんのところまで持っていくと 「お、頑張ったじゃんクド公。ご褒美になでなでしてあげよう」 「わふ〜」 三枝さんがやさしくなでなでしてくれると気持ちがほわほわしてきました。さっきの沈黙なんて嘘のようです。これは三枝さんなりに「あんまり気にしないで」という気づかいでしょうか。そんなことしなくても気にしないですよ。 「犬っていつでも一生懸命だよね〜」 「そりゃあ、みんなマジメだからなのです!」 「マジメかぁ〜。私には程遠い言葉なのですヨ。やはは」 「そんなこと……ないと思います」 「今の間はナニクド公」 「いえ、そういうわけでは」 「もー、失礼しちゃうなー。でもさ、犬が一生懸命ボールとかおっかけるのはマジメだからとかそんな理由じゃないと思うな」 「というと?」 「ただ単に楽しいからってだけだと思うな。だって、楽しくないことやってもしょうがないじゃん?」 三枝さんが言うととても説得力がある言葉でした。といっても、三枝さんは分別のある人ですから本当に人が困るようなことはしません。ちょっとしたいたずら程度。やったほうもやられた方も、少しすればみんな笑顔になれる。だから楽しいのだと思います。恭介さんにも同じことが言えるかも知れません。 「クド公はさ、ちょっと自分を抑えすぎじゃないかな。別に無理やり諦めなくてもいいと思うんだけどネ」 微笑みながらの言葉。でもその微笑みは私だけに向けられたものではないことはわかりました。自分の奥底にいる自分へ向けて。三枝さんの本当の気持ちに向けて。 「でも、私は今幸せですよ。リキと、三枝さんと、リトルバスターズのみんなと一緒にいられるだけでも十分です。それだけでも十二分の幸せだと思います」 「私もちょっと前まではそう思ってたんだけどね」 と、そこへ先ほど見かけた二人が。どうやらご飯を食べ終わって中庭に出てきたようです。もう手をつないでいなかったことに少しだけホッとしている自分がいました。 「鈴さん! ぐっどいぶにんぐ!」 「ん、グッドナイスデイ」 「意味がかぶっちゃうよ、鈴」 「じゃあグッドナイト」 「まだお昼だしそれ寝る前の挨拶だから……」 リキと鈴さん、相変わらず仲がよくて見ていてとても微笑ましいです。 「ストレルカとヴェルカも元気そうで何よりだ」 鈴さんが声をかけるとストレルカとヴェルカもおん、おんと返事を返します。鈴さんは猫だけではなくて動物全般に好かれるのかもしれません。鈴さんは優しいですからね。 「あ、クド…さっきはごめんね」 「いえ、構いませんよ。結局三枝さんとここで一緒に食べましたから」 罰が悪そうな顔で謝るリキ。そういうところの気遣いだけは無駄にするんですね。 「……何かあったのか?」 「いや、その……」 案の定鈴さんがいぶかしそうにリキの顔を覗き込んでいます。リキはどうこたえるべきか迷っているようなので、 「ご飯の前に少し話をしただけですよ」 「そか。まあ大したことはないんだな」 とりあえずリキをフォローしました。別に全て話してしまってもどうにもならないのはわかっています。でも、なぜかそうしないといけない気持ちになったんです。二人の邪魔をしてはいけない、と。 「っていうか私は無視ナノデスカ!?」 「いやいや、そんなことないよ。こんにちは、葉留佳さん」 「鈴ちゃん鈴ちゃん、とりあえずこれで遊ぼっか」 「えぇ、ひどいよ…」 話に置いて行かれ気味の三枝さんはリキに声をかけたと思ったらすぐに鈴さんにボールを差し出しました。たぶん無視され気味だったことへのちょっとした仕返しなのでしょうね。あるいはいつものように脈絡がないだけかもですが。 「よーし、とってこーい!」 「わふー!」 「なにっ! 負けるか!!」 三枝さんがボールを投げると私と鈴さん、ストレルカとヴェルカが一斉に走り始めました。 「クドに負けるかー!」 「こっちこそなのですよー!」 転々とするボールを追いかける二人。 「うにゃっ!」 鈴さんがボールに向かって飛びこみましたが、掴みきれず弾いてしまいます。それを私がキャッチ。三枝さんのところへ。 「おー、クド公は偉いねぇ。なでなでしてあげよう」 「わふー……」 三枝さんになでなでされると気持ちがとてもほわほわします。やっぱりご褒美は大切ですね。 「もう一回だ! 理樹もやるぞ!」 今度は鈴さんがリベンジの要請。しかもリキの手を無理やり引っ張って参加させます。 「じゃあ私もやる!」 そう言って三枝さんがボールを放り出して私たちのところへ。 「ええ、それじゃあ誰が投げるのさ?」 「それはアレですよ、どこぞの誰かが適当に」 「適当すぎるよ……」 そこへストレルカがおん、と鳴いてボールをくわえました。なんだかやれやれ、って感じに見えますね。もしかしてストレルカは私が考えているよりもずっと大人なのかも知れません。 「ストレルカが投げてくれるそうです」 「お、やったね」 「よし、いつでも来い!」 「はるちん負けないぞー!」 投げられるボール。走り出す4人。 「わふー!」 「うにゃー!」 「うわあ、押さないでよ!」 「あはははっ、まてまてー!」 押し合いへしあい、みんなボールに向かって一直線。 そうです。こんなに楽しい時間を、私は手に入れたんです。どうしてこれ以上望むというのでしょうか。 「キャッチなのですわふっ!」 ボールをとった瞬間に転んでしまいました。それを見てリキが「うわ、大丈夫?」と手を差し出してくれました。私は少しためらいつつも、その手を取って立ち上がります。 「ありがとなのです、リキ」 「ううん。それよりも怪我とかしてない?」 「わふ、平気なのです」 リキ。優しいリキ。その手を離したくない。温かいその手をずっとつかんでいたい。 「クドはおっちょこちょいだな」 「わふ……」 でもそれはいけません。リキが好きなのは鈴さんだから。名残惜しさもありつつ、ゆっくりとリキの手を離します。 「クド公はすごいよね。あんなに一生懸命追いかけられるなんてさ。私なんか途中であきらめちゃいましたヨ」 「わふ、あきらめちゃダメですよ。どんなに遠くても取れそうになくても、追いかけることが大事なのですよ」 「そだね。じゃあ私は同じセリフをクド公に返すよ」 言われてはっと気付きました。 私の本心。私の本当の願いはそこに。 「もう一回だ!」 鈴さんが躍起になっています。それを見たリキが「わかったから」と言ってストレルカにボールを渡しました。 ストレルカがボールを投げると、また走り出す4人。 「わふー!」 「うにゃにゃー!」 「わあ、みんな速いよ」 「ほらほら、理樹くんも頑張って頑張って!」 「そうなのです! リキも頑張るのです!」 「わかってるよー!」 追いかけてもいいのでしょうか。諦めなくてもいいのでしょうか。 今の幸せ以上のことを願ってしまってもいいのでしょうか? リキと、鈴さんと、三枝さんと、みんなと走っていく。いつまでも。どこまでも。 まるで。 [No.508] 2008/08/28(Thu) 15:05:02 |
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