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ぷちん。とシャツのボタンを外すと、解放を待ちかねたようにまろび出る雪のようなもち肌。 半ば以上を精緻なレースの城壁に包まれ、全貌は明らかではないが、その状態ですら他を圧倒しうる威容を誇っている。 守りの要たる優しき鉤爪は、質量の尖兵の絶え間ない圧力に今まで良くぞ持ちこたえている。 もし衆目の前で彼らが果てることがあれば、平和な日常はたちまちの内に蹂躙され、阿鼻叫喚の巷となるに違いない。 げに恐るべきは豊穣の化身。 羨望すら抱けない畏怖のような心持で思わずまともに見入ってしまったものだから、流石に姉御に窘められた。 「葉留佳くん。私の肉体をねっとりじっくりたっぷりと観察するのは構わんが、手を合わせるのは勘弁してくれ」 「へ?おおっと私いつのまにっ!」 余りの畏れ多さに無意識のうちに合掌していたらしい。なむなむ。 ○○○○○ 「しかし、私のこれが人とは違うことは自覚しているし、大きい方が男子に好まれ、女子に羨まれることも知っているが……」 湯船にぽゆゆんと浮かぶ双子のお月様でお湯をかき混ぜながら、姉御は誰に聞かせるともなく呟く。と言うかここには他に私しかいないんだから私に聞かせてるんだけど。 「これにそれほどの価値があるとはどうしても理解できん。ただの脂肪の塊だぞ?それがたまたま胸に偏っただけじゃないか」 姉御の言い分は確かにもっともなんだけど、何か実も蓋もないっていうか。それに頷ける人は少ないんじゃないかな。 私もそうだ。だから私は人差し指を立てて言うのだ。 「ちっちっち、分かってないっすねー姉御。それは持てるもののゴーマンってやつですヨ?持たざる一般大衆の支持は得られないですねー。ぁあ、そういえばカシューナッツって実なんですかね、それとも種?植えたら芽が出るかな?」 この間はじめて食べたんだけどアレって止まらなくなっちゃうねー。なんてことを考えていたら姉御がこっちをじーっと見ていた。あれ、何で?私また何かやっちゃった? 「食用としているのは種の殻を取り除いた中身の部分だな。生でもないから植えても芽は出ないよ」 「そっかー、ちぇー。種だったらこっそり植えて食べ放題ーとか考えてたのになー」 よかった、ちゃんと会話できてたみたいだ。お友達と一緒にお風呂なんて始めてでテンション上がっちゃってるから、何か失敗しちゃうかもと思っていたけど。 まあ、失敗したとしても姉御ならきっとスルーしてくれちゃうんだろうなあ。あれ?じゃあもしかしたら失敗してたのにスルーされたのかもしれないのか。ま、いいや。考えてもわかんないし。 「じゃあ、みかんの種にするかー。みかんって種ありましたっけ?」 「いわゆるみかんとして最もポピュラーな温州みかんはほとんど種をつけないな。だが、夏みかんやオレンジ、伊予柑、柚子など他の柑橘類なら種があるよ」 ゆいねえは私の突発的な疑問にもすらすらと答えてくれる。ホントすごい人なんだなーっと思う。 お互いの裸を見せ合うのは凄く恥ずかしいし、ちょっと肌が触れ合うだけでドキドキするけど、嫌なことを考えなくてすむ。 それだけで、お泊り会に参加してよかったなーって思う。もちろん、楽しいのはお風呂だけじゃないけどね。 ◇◇◇◇◇ 「三枝さんっ、今度私のお部屋でお泊り会をするのですが、三枝さんもご一緒に参加していただけませんか?」 いつものようにみんなのいる教室に遊びに来た私に、クド公が尻尾を振って駆け寄ってきた。まあ、尻尾はイメージだけど。 「そっか、クド公旧館に引越したんだっけ。もう片付いたの?」 「はい、それでお披露目をかねて、ぱじゃまぱーてぃをしようと小毬さんたちとお話していたのですっ、わふー!」 「うん〜。はるちゃんもぜひ来て欲しいなっ♪」 クド公に次いで、こまりんとみおちんも現れた!こまりんの攻撃!みおちんは見守っている。なんちて。 お泊り会なんていう素敵イベントに誘われたら、いつもの私なら話を最後まで待たずに乗っちゃうところなんだけど。 「でも、クド公のルームメイトって確か……」 今はあいつがクド公の部屋にいるはずなんだ。 「佳奈多さんなら、その日はご実家に帰る用があるそうなので、後片付けだけよろしくとおっしゃっていました!」 「あ、そう……ふいー、さすがに風紀いいんちょと一緒じゃハメはずせませんからネ。安心したですヨ」 「……三枝さんは風紀委員にマークされていますからね。もっとも三枝さんは羽目を外しすぎる傾向がありますから、少しは自重したほうがいいと思いますが」 「ひどっ!?うう、そんなに羽目はずしすぎかなあ……まあいいや。そーゆーことなら私も参加するするー!」 あいつがいないなら断る理由もない。後でルームメイトがうるさいかもしれないけど、別にいいや、いつものことだし。 「もちろん私も参加するぞ」 「ひょわえぇっ!?」 突然耳元で声がして、私は飛び上がってその拍子にクド公につまづき、横にあった誰かの机を巻き込んでどかーんと転んでしまった。 「さいぐささんっ!」 「は、はるちゃん大丈夫〜?」 「あいたたたたぁ……はるちんついてないですヨ〜」 しこたま打ってしまったおでこをさすりながら何とか体を起こすと、姉御が不思議そうな困ったような顔をして手を差し伸べていた。 「すまんな、そこまで驚くとは私も予想していなかった」 「耳元不意打ちはひどいですよ姉御〜」 分かってたのに、また油断したところをやられてしまった。憶えている限り今のところ全戦全敗だ。 「はっはっは、まあそう怒るな。それよりクドリャフカくん。参加者はここにいる5人で決まりか?」 「はい、鈴さんも誘ったのですが、途中で逃げられてしまいましたー」 逃げられたかー。やっぱり鈴ちゃんはまだこういうの慣れてないみたいですね。そうなれば頼りになるのはこのお方。 「ふむ、そちらについては私に考えがある」 こうして姉御を中心に女の子たちの悪巧みが始まるのであった、マル。 ◇◇◇◇◇ かぱんっ。空の洗面器を滑らせてお風呂の壁に当ててみると、ちょっと間抜けな音が浴室に響いた。 「うーん、いまいちだなぁ。テレビとか漫画だと、かぽーんってもっといい音がしてたんだけどなァ。なんでだろ?」 「主に浴室の広さの問題だろうな。思うにその音が出てきたのは銭湯を描いた場面がほとんどではなかったか?」 「んー、言われてみればそうだったかも」 私が首を捻っていると、浴槽の中で縁にもたれてふんぞり返った姉御がその疑問に答えてくれた。さすが姉御、こういう意味なく偉そうな格好が似合う。 姉御も私も髪をタオルでぐるぐる巻いている。これも最初私はうまく巻けてなかったんだけど、姉御がちゃんとした巻き方を教えてくれて、今ではちゃんと自分で巻けるようになったんだ。 「しかしアレだな。再三言っている気はするが、理樹くんは年頃の男子としては少々初心すぎるんじゃないか」 「そうですねー。私も最近ようやく分かってきました」 さっきも鈴ちゃんがお風呂に入っている間、ずっとからかわれっ放しだった。可愛いなーと思うんだけど、頼りなくもある。 「よし、たまには強い刺激を与えてみるか。葉留佳くん、ちょっとそのままの格好で理樹くんを誘惑して来い」 「ちょ、私っすかーっ!?」 「うむ、私が出ても構わんのだが、少年には刺激が強すぎるだろう」 う、そりゃあ姉御のだいなまいつなぼでーよりは全然刺激が少ないですけどー、ってそういう問題じゃなくて! 「はっはっは、冗談だ。そんな刺激を与えても少年がエロスに走るだけで、成長とは呼べんだろう」 「はぁ〜、めちゃくちゃ焦りましたヨ」 椅子にお尻をぺたんと下ろして脱力する。本気でドキドキしてしまった。心臓に悪いですよ姉御。 ■◇◇◆◇ ちゃーぷちゃーぷ。たぱぱーっ。湯船の中で身体を揺らして大波小波。あはは、揺れてる、面白ーい。 姉御は浴槽の外で縁に頬杖をついて眺めている。 「ふいー、ごくらくごくらくーっ」 「葉留佳くん、ちょっと行儀が悪いぞ」 「えー、そっすか?楽しいですよー。そだ、姉御も一緒にやりません?」 我ながら名案だと思ったのに、姉御はちょっと渋い顔をする。 「流石に二人で一緒に入ったら窮屈だろう。私はこのガタイだしな。私がクドリャフカくんや鈴くんのように小柄なら入ってやれんことはないが」 「それもそですネ。ちぇー」 急に飽きちゃったので大人しく湯船につかる。 「ときに葉留佳くんはクドリャフカくんと風呂に入ったことはあるか?」 「んー、たぶんないですね。やっぱこういうイベントでもない限り誰かと一緒にお風呂って入らないし」 「今度誘ってみるといい。彼女と仲が悪いわけではないだろう?」 「やはは、実は嫌われてたりするかもなんて思ったり思わなかったり。部屋一緒だから我慢してるだけで」 クド公とはうまく付き合えてはいると思うけど、あんまり自信はない。ほとんどの時間を特定の誰かと一緒に過ごすっていうのは、ちっちゃいころ以来だし。 「気を使うっていうのをどうやったらいいかわかんなくていつも試行錯誤ですよ。だからお風呂なんて無理むりー」 「勿体無い。一緒にお風呂だぞ?クドリャフカくんとひとつ湯船の中で密着、未発達のあんなところやこんなところを触り放題。ふふふふふ……」 「あ、姉御ー?おーいっ」 眼がなんか全然焦点合ってない。古典的に、目の前で手のひらをひらひらと振ってみたりしても全然反応なし。どーしたもんだろ。 ■◆◇◆◇ 「う〜、ちょっとのぼせたかも〜」 水に浸して絞ったタオルで首筋を拭う。あ〜、ひんやりして気持ちい〜。 でも姉御はそんな私を尻目にさっさと身支度を整えてしまう。冷たいなも〜。あ、閃いた! 「今の姉御とかけましてこのタオルと解く!」 「私は先に出るぞ」 そう言った姉御は既に脱衣所の扉に手をかけている! 「わー、まってー姉御ーっ!私まだ何も着てないーっ!!」 「あまりぐずぐずしていると、痺れを切らした少年が押し入ってくるかもしれないぞ?」 うう、分かりましたよ、着替えますよ。ちょっとだけぼやいたら、諦めて脱衣かごから下着を取り出し、身に付けていく。 「いやー。お風呂、楽しかったですネ」 「いつもキミはそう言うが、私相手でもそんなに楽しいものか?」 着替える私を眺めていた姉御は、無表情のまま、そう尋ねた。 「んー?そう言われてみると、あんまり楽しくもなかったような気もしますねー♪」 「ほう、なかなか正直だな?」 あれー?湯冷めしたのかな。背筋がぞくぞく寒いなー?なんて現実逃避していたら、姉御がどこからか模造刀を取り出していた。 「よし、正直な葉留佳くんにはおねーさんが飛びっきりのご褒美をくれてやろう」 ええっ!?なにこの何気なく選んだ選択肢でバッドエンド直行みたいな展開はっ! 「じょ、冗談ですってば、やだなー姉御。ちょっとしたお茶目お茶目ーっ」 「まあ言い訳はお仕置きの後でゆっくり聞こうじゃないか」 「今お仕置きっていったーっ!?」 もうしばらく理樹くんには待ってもらうことになった。ゴメンナサイ。 ■◆◇◆◆ 「しかし、私のこれが人とは違うことは自覚しているし、大きい方が男子に好まれ、女子に羨まれることも知っているが……」 湯船にぽゆゆんと浮かぶ夢の風船でお湯をかき混ぜながら、姉御は誰に聞かせるともなく、というか私に聞かせるために呟く。 「これにそれほどの価値があるとはどうしても理解できん。ただの脂肪の塊だぞ?それがたまたま胸に偏っただけじゃないか」 論理的とか合理的とか物事を見るのは姉御のいいところでもあるし悪いところでもある。もの凄く冷たい人と思われることもあるし。 私は人差し指を立てて言う。論理的でも合理的でもない人間の代表として、なんて大げさですかね。 「ちっちっち、分かってないっすねー姉御。それは持てるもののゴーマンってやつですヨ?持たざる一般大衆の支持は得られないですねー。あ、そういえばカシューナッツって実なんですかね、それとも種?植えたら芽が出る?」 やっぱり姉御がこっちをじーっと見ていた。そうやって自分とは違う、生きた『人間』てやつを観察しているんだろうか。 「食用としているのは種の殻を取り除いた中身の部分だな。生でもないから植えても芽は出ないよ」 「そっかー、ちぇー。種だったらこっそり植えて食べ放題ーとか考えてたのになー」 ゆいねえとの会話は楽しかった。肯定も否定も無視も、全部私を認識した上でしてくれたから。 できそこないの私に色々なことを教えてくれた。でも姉御はすぐに忘れちゃうアホの子相手で大変だったかな。 「じゃあ、みかんの種にするかー。みかんって種ありましたっけ?」 「いわゆるみかんとして最もポピュラーな温州みかんはほとんど種をつけないな。だが、夏みかんやオレンジ、伊予柑、柚子など他の柑橘類なら種があるよ」 姉御は、本当はそんな特別じゃない、普通の女の子だったのかもしれないと思う。 今になっても、お互いの裸を見せ合うのはやっぱり恥ずかしい。身体に自信ないし。でも、裸になると、身体だけじゃなくて心も、普段は見せられないところを見せている気がする。ほんのちょっとだけだけど。 それだけで、お泊り会に参加してよかったなーって思う。ここに来てよかった、とも。 ○○○○○ 「う〜、ちょっとのぼせた〜」 水に浸して絞ったタオルで首筋を拭う。あ〜、ひんやりして気持ちい〜。 でも姉御はそんな私を尻目にさっさと身支度を整えてしまう。やっぱり冷たいな〜。ではでは。 「姉御とかけまして!」 「私は先に出るぞ」 そう言った姉御は既に脱衣所の扉に手をかけている! 「ちょ、うそ、前より早い!?私まだ何も着てないーっ!!」 「何のことか分からんが、あまりぐずぐずしていると、痺れを切らした少年が押し入ってくるかもしれないぞ?」 うう、分かりましたよ、着替えますよ。理樹くんにお見せできるようなカラダじゃないし。諦めて脱衣かごから下着を取り出し、身に付けていく。 「いやー。お風呂、楽しかったですネ」 「いつもキミはそう言うが、私相手でもそんなに楽しいものか?」 着替える私を眺めていた姉御は、無表情のまま、そう尋ねた。 「んー?そう言われてみると、あんまり楽しくもなかったような気もしますねー♪」 よし、隠れろーっ!脱衣かごを服ごと被ってその場にうずくまる。 「……あり?」 姉御からのリアクションがない。静かに怒ってお仕置きたーいむとか言うはずなのに。 かごを被ったまま、おそるおそる姉御の方を振り返ってみる。 ゆいねえは笑っていた。 いつもの豪快な笑いでも不敵な笑みでもなく、優しい感じの、ほほえみを浮かべていた。 「姉御?」 「……私は楽しかったよ」 「ゆい、ねえっ」 あれ、おかしいな。そんなはずないのに。そんなはず、っ! 「わ、私も」 「葉留佳くん、どうした?」 「……ぇ?」 目を離さないで見ていた。瞬きをひとつしただけなのに。 ゆいねえはいつもの姉御に戻っていた。 「着替えたくない、理樹くんをこの湯上りバデーで悩殺だぜうへへというなら私は構わんが、風邪を引くぞ?」 「や、やはは……っ、そーんなわけないじゃないですか、やだなー。ちゃちゃーっと着替えますからもちょっと待っててくださいよっ」 私は背中を向けていそいそと服を身につけていく。顔も、洗わなきゃ。 ばしゃばしゃ何度も顔を洗っている間、姉御は何も言わず、最後にタオルを差し出してくれた。 行こうか、と今度こそ脱衣所の扉を開ける背中を追いかけて、私もお風呂を後にする。 言いそびれた言葉はしまっておこう。 [No.518] 2008/08/29(Fri) 22:37:21 |
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