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絶体絶命のピンチだった。 ページをめくっていた美魚の手にはいつの間にか汗が握られている。二塁手の小毬は落ち着きなくソワソワと身をゆすり、一塁手のクドは逆に体をガチガチにこわばらせている。遊撃手の恭介と三塁手の謙吾も見た目落ち着きを払っているものの緊張感を隠せていない。かけ声だけは威勢のよい葉留佳も今だけは固唾を飲み、真人はブンブンと腕を振り回しているがそれも落ち着きのなさの表れだ。唯一泰然自若とあるのは来ヶ谷だけだった。 運動神経に長けたキャプテンチームを相手にリトルバスターズは四回の裏まで9対6と、三点差をつけていた。草野球らしい、よく言えば打撃戦、悪く言えば大味な展開だが白熱した好ゲームだった。 が、そこはキャプテンチームにも意地がある。初心者同士(細かく言えば全体で練習している分リトルバスターズチームに一日の長はある)とはいえ相手の半数は女子生徒。元が運動部員だけに揃いも揃った負けず嫌いな連中である。 簡単に終わらせるものかと始まった最終回の攻撃で二点を返しなお二死満塁。迎える打者はここまで本塁打を含む三安打中の四番柔道部キャプテン。 流れは完全にひっくり返されていた。解説者がいればしたり顔でうそぶいているだろう。野球に詳しくないものにも結末が見えそうなほどだ。 連続安打が続いた後だけに理樹はタイムをかけた。理樹だけでなく内野手が自然とマウンドに向かいかけて、足を止めた。止めざるをえなかった。 ここまで打ち込まれれば並の投手だって疲弊する。一呼吸いれるのは当然のセオリーだ。 それでも内野手全員がそうしなかったのはマウンド上でまっすぐに立つ鈴の姿があったからだ。人見知りで自信なさげな鈴はそこにいなかった。 目で「大丈夫だ」と告げられ理樹は引き下がりタイムを解いた。座り直す頃には鈴の自信のようなものが伝染したらしい、逆転されても裏の攻撃があると開き直るほどになっていた。 一球目。適度に荒れる鈴のボールがかすめるようにストライクゾーンを通過する。 二球目。投じられたボールは外野手の頭を大きく越えるファール。 追い込んだ。が、今日はここから本塁打が生まれていただけにバッテリーに油断の色はない。 ツーナッシングだがもとより遊ぶつもりはない。素人の理樹に配球の妙など分からなかったし鈴には細かいコントロールがない。何より鈴の性格上「間を置く」という選択肢などあるはずがない。 左足を一歩引き両腕が高々とあげられた。突然のワインドアップに虚を突かれつつもランナーが一斉にスタートする。緊張に我を忘れたわけではない。鈴の双眸にはただ一点。「これで決める」 「ライジング」 左足が高々と上がる。女性特有の柔らかな肢体を利用した目一杯の捻りが奇跡のストレートを生み出す。 「ニャットボールッ!」 技名を叫ぶのはもちろん恭介の発案。なぜってかっこいいから。 指先から放れたボールは理樹の構えたミット、すなわちど真ん中へ。柔道部キャプテンの反射神経は瞬時にストライクを判断し、野球部キャプテンが惚れこんだ(打順こそ八番だがオーダーは彼が決めた。本職の意地をかけて)バットの軌跡はボールの通過地点に向け最短距離で振り抜かれた。 ドンッッッ 鈍い音は、 理樹のミットから発せられた。 「ットラーク。バッターアウトっ!」 動くもののいないグラウンドに主審のコールが響きわたった。 息を詰めて見守っていた美魚が深々とため息を吐く。真っ先にマウンドに駆け寄ったのは小毬。「すごいすごい」と連呼しながら背中から抱きつき鈴がたたらを踏む。 満面の笑みを浮かべて恭介と謙吾はお互いのグラブを打ち付け合う。クドは緊張の糸が切れたのかへたり込んでいる。 外野からゆるゆると来ヶ谷が、奇声をあげながら葉留佳が、飛び跳ねるように真人が駆け寄る。 キャッチャーマスクを放り投げて理樹も目一杯の笑顔だ。 「9対8で、リトルバスターズチームの勝利」 両チームが整列し主審より勝ち名乗りを受ける。リトルバスターズの初試合初勝利の瞬間だった。 [No.525] 2008/08/29(Fri) 23:55:12 |
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