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「理樹、あたしは旅に出る」 何が起きたのかは不明だが、やたらと真面目に、しかも何が入っているのか、パンパンに膨らんだバッグを背負って神妙に語る鈴に、僕は固まる。大事な恋人がどこかの世界の電波を受信した場合の対処法なんて、どんな本にも載ってない、載ってる訳がない、載っててたまるか。 なるほど、もしかしておかしいのは僕の耳の方なのか。目の前に立ち尽くす無慈悲な現実を否定すべく、僕は口を開く。 「ごめん、ちょっと耳の調子がおかしいみたい。ちょっと確認させてね。最近仲間に加わった猫の名前、言ってみてくれるかな」 「レノン」 「じゃあ、小毬さんのフルネーム」 「かみきたこまり」 「じゃあ、笹瀬川さんのフルネーム」 「ささささささせ子」 おーけい、感度良好。僕の耳は正常だ。 「ごめん鈴、何かする、って言ってたよね。それをもう一回言ってくれないかな」 「あたしは、旅に出る」 やっぱり現実は、見えるままそこにあった。ここはツッコむところなんだろうか、見送るところなんだろうか、はたまた諭すべきなのか。どうすればいいのか解らない、挙句何に何をツッコむのかすらわからなくなってきた僕は、とりあえず話を膨らます方向へ進めることにした。 「何で、旅に出るの?」 「願いを、叶えるためだ」 後悔した。話は、膨らみすぎて割れた風船の破片のように飛散しており、さっぱり解らない。僕はどうすればいいんでしょう。 「知っているか、理樹」 とりあえず話は続くらしい。それ以外に選択肢を思いつけなかったため、僕はそれに耳を傾けることにした。 「この世界には、7つのボールがあるんだ。それを集めると、龍の神様が現れて、どんな願いでも叶えてくれるんだ」 いや、まあ、うん。 すごくどこかで聞いたことのある、というか見たことのある話だ。単行本は全部読んだし、アニメも見た。たまに、来ヶ谷さんが練習中に口ずさんでいる歌は、確か一番初期の主題歌だ。空前絶後の大ヒットを世界全域で巻き起こし、関連分野における経済効果もものすごいものだったという話だが、今はそんなことはどうでもいい。 「今までお前に隠してきたが、棗家に代々受け継がれてきた秘宝の中に、この・・・」 言いつつ、制服の胸のあたりに手を突っ込んで、取り出したものは。 「四星球があったんだ」 どこに隠してたんだ、とか、それ、僕には星型の折り紙を貼り付けたボールにしか見えないんだけど、とか。ツッコミどころは多すぎるがゆえに、どれにも手をつけられない。故に言葉にもできない。そんな中で、ただひとつ言えることは。 それがあってもなくても、サイズは変わっていなかったという事だけだ。どこの、だって?そりゃあ、ねえ。 「他に散らばる六つを探す手段が今までなかったんだが、ついにあたしは手に入れた!」 取り出した、なんだかよくわからないモニタ付のものは、やっぱりアレなんだろうなぁ。 「これは昨日、いろいろあった末に、スパッツさんにもらったレーダーだ」 「誰だよっ!!」 「む、何だ理樹、スパッツさんを馬鹿にするのか?」 「しないけど、名前が可哀想過ぎるよっ!」 「しょうがないだろう。でもいい人なんだぞ。道ですれ違ったあたしに、これをくれたんだからな」 「そのエピソードに、何一つとして好意や信頼を抱ける要素がないよねっ!?」 よかった、まともだ、僕のツッコミが。それはこの世界のたった一つの光明だ。僕は抜け出すんだ。このツッコミを武器に、いつもの日常へ帰るんだ。いや、無理だ。どう考えても無理だ。そんなことを考えている時点で、すでに僕もまともじゃない。どうしましょう。 「ふーむ、次の反応は東に2,000kmか」 「多分、太平洋の真ん中かと」 「それ以外だと、これか。南へ50,000km」 「地球の円周よりも長いのは何で?」 「または、地核方向へ3,000km」 「普通に無理だから」 「大丈夫だ。あたしは必ず、絶対に、帰ってくるから。だから、・・・いや、何でもない」 「そこで、何で最終回的なノリになるのかな」 「じゃあ、行ってくる」 まったく人の話を聞かずに、鈴は出て行く。ありえないものを探しに。 そういえば、大切なことを聞いていなかった。鈴は何を願うのだろう。遠くなっていく背中に問いかける。 「猫たちとあたしの、楽園を作るんだ!」 大声で叫んだ鈴の言葉は、最後までおかしかった。 ◇ 「笑うか、うなされるか、どっちかにしろ」 目を開けてすぐ飛んできたのは、そんな鈴の文句。もちろんバッグは背負っていないし、なんだかよくわからない機械も持ってはいない。 「鈴、棗家に代々伝わる秘宝って存在する?」 「起きて早々、意味がまったく解らんぞ」 「7つのボールは、捜しに行かないの?猫の楽園、作るんでしょう?」 「お前、大丈夫か?」 夢の世界からの帰還。現実との差異。起き抜けの頭でぼんやりと思う。 寝ながら見る夢は、普段は意識していない願望が如実に現れることもある、そう聞いたことがある。ならば、今の滅茶苦茶で微笑ましい夢は、何だったのだろう。 願望、願い。まとまらず、弾む思考。7つのボール。願いを叶える龍の神。その延長線上にある、僕の願いは。 「ねえ。もし今、どんな願いでも一つだけ叶うとすれば、鈴なら何を望む?」 「いきなりだな」 「うん。寝起きだからおかしいんだよ、今の僕。とにかく答えて欲しい」 真摯な想いを汲み取ってくれたのか、どうなのか。腕を組んだり、辺りを見回したりと、若干怪しい挙動を示しながらも、たっぷり三分ほどは悩んで搾り出した願い。 「みんなに、謝りたいんだ」 どんなに願っても、もうできないこと。取り返すことはできないもの。解っているからこそ、こぼれた言葉、だった。 「そうだね」 願えるなら、もう一度。ほんの少しを、もう一度だけ。 「生き返らせて欲しい」、そんな、原作で何度も謳われた言葉を、僕らは使う気はない。その願いは、現在の僕らの否定だ。彼らは亡くなることで、そして僕らは先へ進むことで、あの世界の意味を全うさせた。仕方なかった、なんて割り切ることはきっといつまでたっても出来ないけれど、突き詰めればきっとそういう事なのだ。 鈴の願いを叶えてあげたい。それこそが僕の願い。それもまた、叶うことのない望みである事は解っている。だから、僕は。 「鈴、キャッチボールしよう」 鈴の願いは、笑っている事。僕の願いは、鈴の願いを叶えること。 グローブを二つ、ボールを一つ、鈴を一人、部屋から引きずり出す。 七つそろえても龍の神が出るわけでもなく、どんな願いが叶うわけでもない、星も付いてはいない、何の変哲もない、ただのボールだけど。 ここから、僕らを始めよう。 [No.528] 2008/08/30(Sat) 00:04:20 |
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