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No.555へ返信

all 第17回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/09/11(Thu) 21:30:32 [No.548]
直枝理樹のある生活 - ひみつ@22336 byte EX微バレ 大遅刻&容量オーバー - 2008/09/13(Sat) 19:55:03 [No.573]
――MVP的K点―― - 主催 - 2008/09/13(Sat) 00:11:35 [No.569]
君が居た夏は - ひみつ@11312バイト バレほぼ無し - 2008/09/13(Sat) 00:02:29 [No.568]
茜色の雲 - ひみつ@9540byte EXネタバレ無し - 2008/09/13(Sat) 00:01:34 [No.567]
一つの絆 - ひみつ@初投稿 8316byte EX微バレ - 2008/09/12(Fri) 23:54:30 [No.566]
孤独を染め上げる白 - ひみつ@10452byte - 2008/09/12(Fri) 23:32:21 [No.565]
ブラックリトルバスターズ - ひみつ 16138 byte - 2008/09/12(Fri) 22:22:11 [No.564]
奇跡の果てで失ったもの - ひみつ@10365 byte EXネタバレありません - 2008/09/12(Fri) 21:59:19 [No.563]
奇跡の果てで失ったもの・蛇足 - 117 - 2008/09/14(Sun) 23:41:16 [No.584]
トライアングラー - ひみつ@どうかお手柔らかに わかりにくいEXネタバレあり 15730 byte - 2008/09/12(Fri) 21:34:15 [No.562]
はぐれ恭介純情派 - ひみつ・7738 byte - 2008/09/12(Fri) 20:07:25 [No.561]
[削除] - - 2008/09/12(Fri) 19:16:22 [No.560]
[削除] - - 2008/09/15(Mon) 10:03:25 [No.586]
ただひたすらに、ずっと。 7772 byte - ひみつ@BL注意 - 2008/09/12(Fri) 19:02:31 [No.559]
ずっとずっと続いてゆくなかで 19760 byte - ひみつ@EX激ネタバレ、BL注意 - 2008/09/12(Fri) 18:44:41 [No.558]
ありがとう - ひみつ@6304 byte ネタバレ無し - 2008/09/12(Fri) 18:34:27 [No.557]
ありがとう〜Another Side〜 - 117 - 2008/09/21(Sun) 00:49:53 [No.592]
夏の所為 - ひみつ@10029 byte - 2008/09/12(Fri) 06:10:29 [No.556]
パーフェクトスカイ・パーフェクトラブ - ひみつ@10940byte - 2008/09/12(Fri) 01:53:27 [No.555]
二人ごっこ - ひみつ@7286 byte - 2008/09/12(Fri) 00:44:54 [No.554]
ココロのキンニク - ひみつ@19786 byte - 2008/09/12(Fri) 00:21:22 [No.553]
滲む幸せ - ひみつ・12858 byte - 2008/09/12(Fri) 00:00:41 [No.552]
一つの過ち - ひみつ@初投稿 8316byte EX微バレ - 2008/09/11(Thu) 22:41:40 [No.550]


パーフェクトスカイ・パーフェクトラブ (No.548 への返信) - ひみつ@10940byte

 恋をしたことがない。多分、したことがない。

 多分、なんていう曖昧な言葉を使ったのは、それが一体何でどんな形をしていてどんな味がしてどんな匂いがするものなのかを全く知らないからだ。テレビドラマや漫画、小説、ゲームの中にある恋愛ならなんとなく知っている。正直に言って、全く興味がない。あんなものは実際に恋を経験した人が当時の甘酸っぱい(もしくは苦い)思い出を追体験し、共感するために見るものであって、本当の恋を知らないお子様がそれを見てわかったような気になっているのは端的に言って頭が悪いだけだと思う。
 大体の話だ、恋愛などという概念自体がどこか胡散臭い。ぶっちゃけそれって単なる性欲と一体何が違うの? わかりやすく説明できるなら誰か私に説明して見せてほしい。そんなものに夢中になって、あなたたちは猿か何かですか? 脳みそまで下半身で出来てるんですか?
 まぁ、いい。
 思春期を迎えた男女が集まる学校のような場所ではそれこそ朝から晩まで、そういう色恋沙汰には事欠かない。毎日毎日飽きもせず、誰が好きで、誰が嫌いで、誰が誰と付き合って、別れて、またくっついて、離れて――
「ねえ、神北さんは誰か好きな人いないの?」
 そらきた。
 そういう時はね、おもくそにっこり笑って、えへへのへー。えーだれ、だれなのーなんていう追及もなんのその。逃げに逃げ、話題が私からずれた時を狙い、気配を殺してそっとその場から立ち去るのだ。私のにっこし笑顔をもってしてかわせないものはない。ふははははと笑い出したいのを我慢しながら私は一人屋上を目指す。もちろん、おやつだって忘れちゃいない。わっふる、ポテチにメロンパン。たまには和風にどら焼きだって構わない。財布に隠した屋上へ鍵を手早く解除し、準備おーけー。視界いっぱいに広がる青空が私に向かってにっこり笑いかける。
「ぶいー」
 誰にするでもなく、私は私にブイサイン。青空に勝利の報告をして、また私はまどろんでお菓子の国の夢を見る。



    △▼△▼△



 私は恋をしたことがない。する前に死んじゃうかもしれない。
 というか、もう九割九分九厘死んじゃうんですけど。

 きっかけは修学旅行に行く途中に起こったバス事故。運転手のミスか突発的不運かは知らないけど、とにかく私たちを乗せたバスが崖から転落し、あっけなくお陀仏――かと思いきや、私を含む九人の仲良し集団、通称リトルバスターズの面々は、神の思し召しか、繰り返す一ヶ月余りという終わりなきループ現象に捕らわれてしまったのである。正直、ゲームみたいな話だと思う。
 唯一状況を全て把握してるっぽい恭介さんが言うには、理樹くんと鈴ちゃん以外の人はバスガス爆発的なことで、もう助からないらしい。で、折角こうして起こってしまったループ現象なんだから存分に利用しようじゃないかとなり、仲間内で唯一生き残れるっぽい二人を鍛えて外の世界でも頑張って生きられるようにしよう作戦、名づけて『Forever Love 〜理樹鈴よ、俺達の屍を越えていけ〜』がミッションスタートしたというわけだ。
 仕掛け人は恭介さんに、真人くんに謙吾くん、それに私だ。死んじゃう他の子達も状況はなんとなく感じてはいるらしいんだけど、はっきりとは把握しきれていないみたいで、仕掛け人会議での厳正な協議の結果、彼女達には好きに動いてもらうことにした。なんかその方が私達の目的にとって効率が良さそうだし、何よりエキストラ達を動かすのと違って手間がかからなくていい、とのことだ。でも、ゆいちゃんだけは大方の状況を理解しているみたい。「最低限付き合うが私は基本的に好き勝手やらせてもらうぞ。悪く思わないでくれ」と、表立っての協力はしてくれていないけど。
 ミッションは仕掛け人の働きもあって、概ね滞りなく進んでいった。理樹くんは持ち前の可愛さと顔に似合わない手練手管でもって次々とみんなの心のわだかまりを解きほぐしていった。その手腕には私も感心せざるを得なかった。
 が、しかし。
 どうしても私は理樹くんのいい加減さが気に入らなかった。要するに彼は無自覚にとは言え、この現象に巻き込まれた女の子全員を何らかの形で口説いているわけだ。毎回毎回手を変え品を変え、押してみたり、引いてみたり、たまには甘く囁いてみたり。全員に対して一線を越えているかどうかは定かではないが、少なくとも私の時は――まぁ、いいか。ぶっちゃけ、あんまりよく覚えてないし。
 理樹くんはみんな一人一人それぞれと、毎回毎回“恋”をしているのだろうか。少なくとも相手の子達はみんな理樹くんのことを好きになっていた。恋をしていた。みんな理樹くんのことが大好きなんだ。でも、肝心の理樹くんは状況次第であっちに転んだりこっちに転んだり。「あなたのことが好きで好きでしょうがない」というような意味のことを言った次の回にはもう他の子に対して「君が好き」だとか言ってしまうのだ。
 まったく、ため息が出る。
 これは理樹くんだからそうなのだろうか。それとも男の人ならみんなそうなのか。お互いがお互いを運命の人だと思い合っている恋人同士でも、私達のようなループ現象に巻き込まれたら、状況次第で他の人とくっついてしまうのだろうか。例えば、告白するタイミング。例えば、出会いのシチュエーション。例えば――
 私は恋を知らない。だから、その一つ一つが恋なのかどうかなんてわからない。
 でも、納得はいかない。こんな不完全で、不確定なものを、どうして私達は恋などと呼ばなくてはならないのだろうか、と。

 そうして、また新しい一ヶ月が始まる。
 いつものように私は屋上で理樹くんが来るのを待つ。今日この日に理樹くんがここに来る確率は大体三割から四割というところ。三回の機会があって一回来るか来ないか、という計算だ。果たして今回はどうなるだろう。
「ふわあぁ」
 いつもと同じ青い空を、いつもと同じ雲が、いつもと同じように流れていく。もう何度これを繰り返しただろう。なんど繰り返してもこの空だけは変わらない。この空はいきあたりばったりな理樹くんの行動とは違う。完璧な事象。完璧な空だ。
 腕にした時計をちらちらと確認する。約束の時間まであと十分足らず。この時間を過ぎたら、今日はもう理樹くんが屋上に来ることはない。今回の理樹くんは、少なくとも私をターゲットにすることはない。
 あと五分。屋上へ続く窓が開けられる気配はない。私は日陰に横になりながらゆっくりとその時が来るのを待つ。あと三分。眠気が私を襲う。本来ならもうとっくに昼寝しているはずの時間。お腹を出して、恥じらいも気負いも知らないように、私は予定どおりに理樹くんを待ち続ける。一分。なぜかそれを心待ちにしている自分がいることに気づく。あと三十秒。二十秒、十秒、五、四、三、二、一――
「はい――おしまい」
 零。
 空が一層青く見える。流れる白い雲にも青が透けて見える。
 私は今、自由だ。誰よりも、何よりも、自由。
 これ以上、この世に素晴らしいことがあるのだろうか。
「――うふ」
 そんなつもりなんて全然ないのに、ひとりでに笑いが漏れてくる。
「うふふふふふっ」
 抑えきれない。タガが外れてしまったのだろうか。私を私で保つ安全弁。それが、
「あはははははははっ――!」

「――ご機嫌だな、小毬」

 驚くには値しない。
 もとより、この世界に不確定な物など数えるほどしかないのだ。
 この声、聞き違えるはずもない。
「何かいいことでもあったのか?」
「そうかも」
 いつもの笑顔で言うと、恭介さんは力なく笑った。

「菓子、ちょっともらっていいか」
「いいよー」
 いつも持ち歩いているポーチの中身をざらっとあける。恭介さんが選んだのはうすしおのポテチ。器用に破いて、コンクリートの床に広げる。
「もしかしたら小毬はもう気づいてるかもしれないって、思ってたんだけどな」
 ポテチをつまむ。そういう何気ない仕草でさえ絵になる。
「かなり、いなくなっただろ」
「みんなのこと?」
「そうだ」
 理樹くんが触れ合った相手は私を除いて、みんないなくなってしまった。姿だけは、確かにある。でもそれは周りに満ち溢れたエキストラとなんら変わりない存在だ。
 確定されてしまったんだ。
 可能性が。
「もう俺たちだけじゃこの世界を保てないんだ。理樹と鈴はこの学園を出てしまった。細かいところまで俺たちの手が及ばなくなってる。このままじゃ近いうちに――」
「もう、おしまいってこと?」
「……ああ」
 驚きはなかった。どこか、そんな空気を感じていた。終わらないものなど、この世にはないのだから。
「意外と短かったね」
「そうか? 俺には十分長かったさ」
 髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。
 ごまかそうとして、ごまかせていない不器用な恭介さん。もう余裕など、なくなっているのかもしれない。
「俺はあっちの世界をなんとかする」
「あっちって?」
「事故現場さ。タンクの方から漏れ出したガソリンがさ、周りの熱気にいつ引火してもおかしくないんだ。このままじゃ理樹たちが逃げる前にみんなお陀仏だ」
「なんとか、出来るの?」
「出来なくたって、なんとかするしかないだろ」
 恭介さんは不遜に笑ってみせた。作り笑いにしたって、もう少し上手く笑ってほしいと思う。
「あとのことは、お前に任せた」
「任せたって……私、どうしたらいいかわからないよ」
「何もしなくていいさ。もう仕掛けは打ってある。お前は今まで通りに過ごしてくれればいい」
「あと、どのくらいもつの?」
「さあな、もってあと一、二周……いや、もっと短いかもな……小毬、何か甘いもの、ないか?」
 たしか、ポーチの奥にワッフルがあったはず。私は慌ててポーチの中をあさる。
「はい」
「さんきゅ」
 びりびりーと乱雑に包装紙を破る。恭介さんはそれをぽいっと捨ててしまう。
「ぽい捨て禁止ー」
「いいだろこんな時くらい」
「こんな時だからこそ、人としてのルールを守りましょう」
「ちえっ」
 拾おうとした包装紙を、風がさらってしまう。舞い上がる包装紙。ぐるぐると巻かれるように空を飛び、やがてどこかへ消えてしまった。
「ねえ、恭介さん」
「なんだよ」
「私、実は誰かを本気で好きになったことって、ないんだ」
「理樹もか?」
「好きだよ。もちろん、鈴ちゃんも。みんなみんなだーいすき。でもね……何か違ったんじゃないかって、気がしてるの」
「そりゃ……参ったな」
 立ち上がり、恭介さんの横に立つ。校庭には、心のない人たちが、今日もいつもと同じように蠢いている。わらわら、わらわらと。
 だけど、きっとそうじゃない。
 心がないのは、本当に心がないのは、こうして彼らのことを“心がない”と感じてしまう私自身なんじゃないか。本当は、誰もがどこか他人に見えないところに脈々と息づかせているのではないか。消えてしまいそうなほど、か細い脈動を。
「恭介さんは、誰かを焦がれるほどに恋したことがありますか?」
「どうかな……もしかしたら、ないかもな」
「私も」
 そうして、私たちは笑った。笑いながら床に置いたポテチを頬張った。さっき吹いた風に大半がこぼれてしまっていた。蟻が、その一片にたかっている。
「もしも私が誰かを好きになるならね、本当に、本当にその人のことを好きになりたいな。何が起こっても、誰と出会っても、揺らぎようがないくらい。それこそ――」
 この日々を何度繰り返そうとも。
 小毬は夢見る夢子だなと、恭介さんは困ったような顔をした。



 △▼△▼△



 完璧な空がなくなっても、空は続いている。

 私たちは助かった。理樹くんと鈴ちゃんが私たちを救った。彼らを強くしようなんていうのが、ただの傲慢であったことが明らかになったわけだ。そんなこと、私や恭介さん、真人くんや、謙吾くん以外には知らないことだけど。
 私たちは少しの療養期間を置いて、また日常に還っていった。あの終わらない日々の残り滓をみんなのうちの誰かが何気なく口にした言葉の節々に感じることはあるけれど、それはそれだけのことではある。例えば私は今でも一人で屋上に行くし、はるちゃんは相変わらず整備委員を続けている。くーちゃんはいまだに英語が苦手だ。みおちゃんはみおちゃんで、まだ擦り切れそうな文庫本と日傘を手放さない。でも、ゆいちゃんは前よりたくさんピアノを弾くようになった。
 理樹くんと、鈴ちゃんは……どうだろう、よくわからない。
 結局のところ、紆余曲折を経て理樹くんが選んだのは鈴ちゃんだったということなのかもしれない。人によってはこれを運命と呼ぶかもしれないし、人によってはこれを偶然と呼ぶのかもしれない。私はそれを何と呼ぶのだろう。まだ決めかねている。
 でも、ふとした時、思ってしまうことがあるんだ。
 もしも、生き残るのが鈴ちゃんじゃなくて、例えば、はるちゃんだったら。くーちゃんだったら、みおちゃんだったら、ゆいちゃんだったら。理樹くんじゃなくて、真人くんだったら、謙吾くんだったら、恭介さんだったら。例えば、私だったら。
 どんな空が私たちを待っていたんだろう。
 そんなことを考えてしまうのって、間違ったことなんだろうか。

 今日も私たちの周囲には恋が溢れている。偶然に彩られて、それぞれに光を放っている。閉じていたまぶたが開いて、最初に見たものは君とあなたの笑顔。

 恋をしたことがない。
 する予定もない。


[No.555] 2008/09/12(Fri) 01:53:27

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