第17回リトバス草SS大会(仮) - 主催 - 2008/09/11(Thu) 21:30:32 [No.548] |
└ 直枝理樹のある生活 - ひみつ@22336 byte EX微バレ 大遅刻&容量オーバー - 2008/09/13(Sat) 19:55:03 [No.573] |
└ ――MVP的K点―― - 主催 - 2008/09/13(Sat) 00:11:35 [No.569] |
└ 君が居た夏は - ひみつ@11312バイト バレほぼ無し - 2008/09/13(Sat) 00:02:29 [No.568] |
└ 茜色の雲 - ひみつ@9540byte EXネタバレ無し - 2008/09/13(Sat) 00:01:34 [No.567] |
└ 一つの絆 - ひみつ@初投稿 8316byte EX微バレ - 2008/09/12(Fri) 23:54:30 [No.566] |
└ 孤独を染め上げる白 - ひみつ@10452byte - 2008/09/12(Fri) 23:32:21 [No.565] |
└ ブラックリトルバスターズ - ひみつ 16138 byte - 2008/09/12(Fri) 22:22:11 [No.564] |
└ 奇跡の果てで失ったもの - ひみつ@10365 byte EXネタバレありません - 2008/09/12(Fri) 21:59:19 [No.563] |
└ 奇跡の果てで失ったもの・蛇足 - 117 - 2008/09/14(Sun) 23:41:16 [No.584] |
└ トライアングラー - ひみつ@どうかお手柔らかに わかりにくいEXネタバレあり 15730 byte - 2008/09/12(Fri) 21:34:15 [No.562] |
└ はぐれ恭介純情派 - ひみつ・7738 byte - 2008/09/12(Fri) 20:07:25 [No.561] |
└ [削除] - - 2008/09/12(Fri) 19:16:22 [No.560] |
└ [削除] - - 2008/09/15(Mon) 10:03:25 [No.586] |
└ ただひたすらに、ずっと。 7772 byte - ひみつ@BL注意 - 2008/09/12(Fri) 19:02:31 [No.559] |
└ ずっとずっと続いてゆくなかで 19760 byte - ひみつ@EX激ネタバレ、BL注意 - 2008/09/12(Fri) 18:44:41 [No.558] |
└ ありがとう - ひみつ@6304 byte ネタバレ無し - 2008/09/12(Fri) 18:34:27 [No.557] |
└ ありがとう〜Another Side〜 - 117 - 2008/09/21(Sun) 00:49:53 [No.592] |
└ 夏の所為 - ひみつ@10029 byte - 2008/09/12(Fri) 06:10:29 [No.556] |
└ パーフェクトスカイ・パーフェクトラブ - ひみつ@10940byte - 2008/09/12(Fri) 01:53:27 [No.555] |
└ 二人ごっこ - ひみつ@7286 byte - 2008/09/12(Fri) 00:44:54 [No.554] |
└ ココロのキンニク - ひみつ@19786 byte - 2008/09/12(Fri) 00:21:22 [No.553] |
└ 滲む幸せ - ひみつ・12858 byte - 2008/09/12(Fri) 00:00:41 [No.552] |
└ 一つの過ち - ひみつ@初投稿 8316byte EX微バレ - 2008/09/11(Thu) 22:41:40 [No.550] |
「朱鷺戸さんって、男になってもカッコよさそうだよね」 「そう?」 訓練中の、ほんの少しの会話。 ずっとずっと続いてゆくなかで 練習後の、その日の夜。朱鷺戸さんとの待ち合わせ場所。 「ん。直枝か」 金髪の、男の人が立っていた。 「誰ですか…?」 「誰って…。忘れたのか?お前アホだな。…朱鷺戸沙耶だよ。覚えてねーのか」 「…ときど…さや…?」 聞いたことある名前の気がする。 …そうだ。 僕を三回殺そうとして、その上僕をパートナーにしたスパイ。 朱鷺戸沙耶。 いや、そんなわけがない。 朱鷺戸さんは女だ。 …違う人だよね。 「じゃあ、さっさと地下探索行くぞ。もうローソンとかファミマとかわけわかんねーこと言うなよ」 「え…。本当に?」 「いまさらなに言ってんだ。往生際が悪いな」 「ちがくてっ!!朱鷺戸さんは女じゃなかったの?!」 「は?」 変な顔をして、僕のほうを見た。 「元から男だろ。…お前またアホな電波でも受信してんのか?」 「え…えええええぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」 「夜中にうるせぇ」 「あ…うん…」 そのまま、僕をおいて先へと進む朱鷺戸さんらしい人。 本当に? 僕はこれを信じて良いのか? そんな馬鹿な。 とにもかくにも、今は朱鷺戸さん(仮)についていくことしか出来ないのだが。 「お前、大丈夫か?」 「うん…。もしかしたら頭がおかしくなったかもしれないけど」 本当に、そうなのかもしれない。 「それは元からな気がするが」 そういいながら、僕の額に手を当てる朱鷺戸さん(仮)。 熱を測ろうとしているのだろうか。 その人は、男の僕から見てもかっこよくて。 「調子悪かったら言えよ?パートナーに無理させるわけにはいかねーからな。…それに、巻き込んだのは俺だし」 朱鷺戸さんの、面影。 「…う、うん」 …なぜか速くなる胸の鼓動を抑え、僕は夜道を歩いた。 「お前…。すげーな…。パーフェクトだ」 「いや…偶然だよ」 「偶然でこんなまねできるか。運動神経良いのか?」 「むしろ悪いほうだと思うよ…」 地下探索が始まる。 緊張で、僕の手は汗をかいていた。 「ふぅ…」 「なんだ?緊張してんのか?情けねーな」 「いや…。そういわれてもさ。初めてだし。こんなの」 とりあえず、僕はこの人のことを朱鷺戸さんとすることにした。 違う人にしては似すぎているし、それに…もう闇の執行部が出てきた時点でおかしいんだ。僕の毎日は。 「じゃあ、進むか」 「うん…」 「頑張れよ。直枝」 笑顔で、僕を振り返って朱鷺戸さんが言う。 心臓が、高鳴る。 どうしたんだ、僕。 本当に頭がおかしくなったのか…?! 「なに一人で壁に頭ぶつけてんだ?」 「いえ…。なんでもないです」 つい異常行動に走ってしまった…。 大丈夫。僕は変な方向に目覚めてない。 そう言い聞かせた。 「…おーい、理樹ー」 「…真人?」 真人が話しかけるということは休み時間だろうか。 「すげー寝るな、お前」 「まあね。夜中起きてるし」 「なあ、久しぶりに筋肉で遊ばねぇか…?」 「最近遊んでなかったもんね…。うん。遊ぼう!!」 「いいのかっ!?理樹、ありがとうっ!大好きだっ!!」 横で、西園さんが変な目で見ていたが、気にしないことにする。 「筋肉、筋肉〜っ!!」 …早く、朱鷺戸さんに合いたいなぁ…。 って、僕は何を考えているんだ?! 本当にそっちの道に走り始めているのか?! …いや、楽しいから会いたいだけだ。そんなの当たり前じゃないか。 恭介だって、真人だって謙吾だって同じ。 友達だから、会いたいんだ。 当たり前だろ。何を考えてるんだ、僕は。 「理樹、大丈夫か?本当に」 「うん!!大丈夫だよ!!」 「おおー、なんかいきなり元気になった」 真人が僕の頭を撫でる。 …ほら、なんともないじゃないか。 「……」 朱鷺戸さんが、来ない。 「どうしたんだろう…」 心配だ。 もしかしたら、他のスパイに襲われたのかも…。 どうしよう。本当に心配になってきた。 「朱鷺戸さん…」 こうなっては、いても立ってもいられない。 そうだ、同じ男子寮なんだから(多分)部屋に行けばいいんじゃないのか?! 早く、行かないと…!! 「…直枝」 「はっ…!!え、あ…朱鷺戸さん?!」 「そうだよ…」 なぜかほほに線をつけ、微妙な顔で立っている朱鷺戸さん。 「…惨めだろ…」 「え?」 ぼそっと、朱鷺戸さんが喋り始める。 「人に忠告しておいて、このざま、滑稽だろ!!そうだよ、どうせ寝てたよ。スパイのくせに、自分の部屋でほほに線つけながら寝てたよ!!笑えば良いだろ?!いいよ、笑えよ。はっはっはっはっ!!って、むしろすがすがしいくらいに笑えば良いだろ?!」 「……」 「はーっはっはっはっは!!!」 「……」 「何でなんもしゃべんねーんだよ…」 「寝てたんだ…」 「…ってもしかして、寝てたこと気付いてなかった…?!」 朱鷺戸さんが、ものすごく落ち込んでいる。 「…ごめん…」 「なにが?」 「寝てた…。遅くなって、ごめん」 「いいよ。別に」 朱鷺戸さんが来てくれたのなら、僕はかまわない。 「何時にって約束してたわけじゃないし」 「…お前、じわじわ来るな…」 落ち込みながらも、校舎へと進む朱鷺戸さん。 「…ありがとな」 そう言って、僕の頭を撫でる。 「…っ?!」 「どうした?」 「いっ、いやいやいやっ。何でもありませんからっ」 「変なやつ」 どうしよう。 本気で、僕はおかしくなってしまったのかもしれない。 男の人に、ドキドキするなんて。 「直枝って面白いよなー」 …いや、朱鷺戸さんだからなのだ。 初めて生まれた感情に、僕はどうすればいいのか分からなかった。 「……」 恋? …本当に、そうなのかな。 「お前、そろそろ俺のこと名前で呼んでもいいんじゃねぇか?」 「え?」 「苗字って…よそよそしいだろ?だから、そろそろ良いんじゃないかな…って」 そういえば、確かにずっと苗字で呼んでた。 名前で? 「……」 …無理だ。 恥ずかしすぎる…!! 「さん付けもなんか寂しいし。いいだろ?」 「……」 「おい、理樹?」 「…っ??!!!」 いま、名前で呼んだ?! どどどどどどどうしようっ?! 今、ものすごくドキドキしてる。 名前で呼ばれただけだろ? 恭介にだって、真人だって謙吾だってみんな呼んでるのに!! どうして…? 「理樹。ほら」 「…う、うん…」 「なんだ、恥ずかしいのか?」 「そ、そそそそんなわけありませんからっ!!よ、呼ぶよっ!!呼べばいいんだろっ!?」 「なんで逆切れされてるんだかわけわかんねーんだけど…」 落ち着け、落ち着け直枝理樹。 たかが名前で呼ぶだけじゃないか。 「…さ…」 これではまるで鈴みたいだ。 「……さ…っ」 人見知りの、鈴のよう。 「…さっ…さささささ…っ!」 でも、理由はぜんぜん違う。 「沙耶っ!!」 「よく出来ました」 沙耶が頭を撫でる。 心臓が、飛び出しそうだ。 どうしよう。 僕は、どうしたらいいんだろう。 「じゃあ、行くぞ。理樹」 返事なんて、出来なくて。 それは目の前にいる、沙耶に対してのドキドキのせいだ。 こんなに近くにいたら、心臓の音が伝わってしまう。 どうしよう。 僕はこの人に。 恋を、してしまったんだ。 「…沙耶…?」 「大丈夫か?病気…なんだろ?」 僕の部屋。 沙耶が、僕の手を握ってくれている。 「…大丈夫だよ。いつものことだから」 沙耶の手は、つるつるで。 銃を握っているなんて、思えないくらい。 どうして、沙耶がそんなことをしなくてはいけないんだろう。 「……」 ただ、好きなんだ。 「…ありがとね」 「何言ってんだ。パートナーだろ?」 パートナー。 二人の、関係。 僕はこの関係にいられるだけでも幸せなのに。 これ以上、望んじゃいけないのに。 …本当は、めぐり合うこともなかったのに。 「理樹?大丈夫か?…今日は休んでたほうが良いか?」 「大丈夫。心配ないよ」 「そう…か」 コンコン。 部屋にノックの音が響く。 「理樹ー、今大丈夫かー?」 真人だ。 沙耶がいても別に問題はないだろうと思い、鍵を開けようと僕がベッドから立ち上がろうとすると、沙耶が開けてくれる。 「…誰だ?」 「…朱鷺戸沙耶。はじめまして。理樹から話はよく聞いてる」 「…そうか」 なんか、微妙な雰囲気。 「理樹、大丈夫か?また倒れちまったか」 「うん。心配かけてごめんね」 「いいってことよ。俺の筋肉さんも、役に立ててうれしいしな」 「ありがとう、真人」 「……」 沙耶が、しかめっ面をして黙り込む。 …どうしたんだろう。 「あ、そうだ、理樹。……あの…明日、放課後あいてるか?」 「どうしたの?」 なにか、改まって話すことがあるのだろうか。 「いや、少しな。ちょっとだけなんだが、時間、あるか?」 「別に大丈夫…」 「……っ」 「…え?」 「…なんでもない」 沙耶が、何か言ったと思ったんだけど…聞き間違え、かな。 「…じゃあ、明日の放課後ね。練習の後で良いかな」 「おう。大丈夫だ」 その日、沙耶は、僕と話そうとしなかった。 放課後の校舎裏のベンチ。 いつもどおりそこには誰もいなかった。 僕はそこに腰掛け、真人はとなりで立っている。 「真人も座れば?」 「いや、俺はいい」 真人は、一向に話し出そうとしない。 長い、沈黙。 「…理樹。落ち着いて、聞いてくれ」 「…う、うん…」 やっと、真人が話し始める。 「…俺は…理樹のことが…」 「……」 「好き、なんだ」 …好き? いま、好き、っていったのか…? 真人が? 僕に? 「……」 「ずっとずっと好きだった。俺と一緒に、軽蔑しないで筋肉で遊んでくれて、俺はとってもうれしかったんだ」 「…え……?」 「だから理樹…俺は…」 真人が僕に向き合った。 そして――― パンッ!! 冷たい銃の音が響き渡る。 通り抜けたのは、僕の真人の間。 「…お前…」 真人が呆然と音のしたほうを見る。 そこには。 「理樹に……」 金色の髪、きれいな色の目をした。 「理樹に、触るなっ!!」 僕の大好きな人が、立っていた。 「…沙耶…」 「……」 校舎裏。 今は、僕と沙耶の二人だけ。 真人は、沙耶が追い払った。 「…さっきのは…なんでもねーから…」 うつむいて、真っ赤な顔で言う、沙耶。 「…本当に、なんでもねーからな」 まったく説得力なんてなくて。 愛しい。 この人が、大好きだ。 「っ!?」 「…沙耶…」 後ろから、抱きしめる。 「お前…何して…」 「…好きだよ」 「なっ…」 「僕は、沙耶のことが好きだ」 大切なものを抱きしめるように。 そして、決して手を離さないように、ぎゅっと。 「何馬鹿なこといってんだっ、第一、俺とお前は男同士…」 「好きだ」 「何言って…」 「好き、だ」 何度も、確かめるようにその言葉を繰り返す。 大好き。 ただ、それだけなんだ。 「…好き。だよ」 「……っ」 そっと、沙耶に口付けた。 「……」 沙耶が、何も話さなくなった。 僕が何か話そうとすると、威嚇。 「……さ」 「うんが―――っ!!」 どうしろって言うんだ…。 っていうか、僕、沙耶にキス…したんだよね?! うわぁぁぁぁぁぁ…っ!!なんかいまさら恥ずかしくなってきたっ!! 「……」 「……」 結局、黙るしかないのか…。 「…敵だ…」 「えっ?!前倒したんじゃ」 「いるんだよ。前倒した部屋にも」 「…そんな…」 「…いける、な?」 「…うん」 沙耶となら、きっと。 「じゃあ、いつもの作戦だ。…ゲーム、スタートっ!!」 階下へと降りてゆく沙耶の後姿は、とても儚く見えた。 「沙耶…大丈夫…?」 「だいじょうぶじゃねーよっ!!てめーのせいだ、てめーがへんなこと言うからいけねーんだっ!!」 「いや、そんなこといわれても…」 「もういいから話しかけんなっ!!」 沙耶がそっぽを向いてしまう。 「……」 今日は何かおかしかった。 さっきの部屋から、ずっと、敵がいる。 前倒したところにも、全部。 その上敵まで強くなっていて…。 何が起こっているんだろう。 「…沙耶…」 不吉な、予感。 それは、これから手に入れるはずだった物が、なくなってしまうかのような。 「…今度、一緒にデートしよう。これが、この戦いが、終わったら」 …いや、なくなるわけが、ない。 ないって、信じてる。 ずっと好きだったんだ。 やっと伝えたんだ。 「絶対に、行こう」 壊させない。 絶対に、誰にだって。 壊させや、しないんだ。 『ゲーム、スタート』 何度も聞いた言葉。 ずっと続いてゆく世界。 これは、あいつのゲーム。 繰り返してゆく、ゲーム。 「この学校の生徒だな?」 大好きだった。 理樹のことが。 俺の、初恋だった。 強くて、恥ずかしがり屋で、かわいくて、かっこよくて…。 最初はおかしいと思った。 男同士なのに、おかしいと思っていた。 でも、違ったんだ。 そんなのは違うって思えるくらい、好きだったんだ。 こいつのことが。 「……」 生徒手帳を放り投げる。 理樹に出会うため。 こんな狂ったゲームの中で、ずっと会い続けている。 こいつの存在が、俺の支えになっているんだ。 いつの間にか、こんなにも大きくなっていたんだ。 「…なあ」 どこかで会ったこと、ある? そんなことを聞かれたら、俺はどうするんだろうな。 好きなんだ。 ずっとずっと好きだから。 一緒にいるだけで、満足だから。 …地下、八階。 最下層。時風のいる場所。 俺はなんとしてでも勝って、そして、理樹との世界を守らなくてはいけない。 理樹と、一緒にいたいんだ。 理樹との約束を、守るんだ。絶対に。 一緒に、デートに。 「時風…」 この世界の神が現れた。 「理樹、下がってろ」 「え、でも…」 「いいからっ!!俺が倒すんだっ!!」 銃を二丁、構える。 「うおおおぉぉぉりゃあぁぁぁぁっ!!!!!」 絶対に、こいつを倒してみせる。 倒すんだ。何があっても。 「……負け…た…」 負けた。 俺は、負けたんだ。こいつに。 『…どうしてそんなに一生懸命になる』 「……」 どうして? 「そんなの、決まってるだろ…」 ずっとずっと、知らなかったもの。 「友情も、恋も、青春もっ!!何も知らなかったんだっ!!なのに、俺は死んだ。死んだんだよっ!!」 思いが、あふれ出てくる。 「ずっと、そんな場所が欲しかった。それが、ここに全部あったんだ!!一生懸命?当たり前だろ!!」 涙と、一緒に。 『……』 「…一度だけ…」 心からの言葉。 「もう一度だけ、チャンスをくれ」 『そんなに、俺を倒してこの世界を手に入れたいのか?』 「ちげーよ。…あいつとの約束を、果たすんだ」 『…理樹とのか』 「ああ」 あの日、理樹が言ってくれたこと。 デートしようって。 こんな戦いが終わったら、一緒に、二人で行こうって。 だから俺は――― 「…お願い、だ」 『…わかった』 よかった。 『もう一度だけ、チャンスをやろう』 約束、果たせるんだ。 『それが最後だ。…理樹との約束、果たしてやれ』 また、一緒にいられるんだ。 …あいつと。 会ったことが、ある気がするんだ。 僕はこの人のことが好きだった。 そんな気がして。 「…理樹…」 この人のことが。 「…沙耶」 なぜか。なんでだか、すごく。 「なんだよ」 「…昔、どこかで会ったこと、ある?」 「…っ!?」 沙耶が目を見開く。 やっぱり、そうだったんだ。 僕とこの人は、好きあっていたんだ。 「…理樹…」 「うん。なに?」 「キス、したい」 「…うん」 大好きなんだ。 この人のことが。 「…あああああぁぁぁぁぁっ!!!!」 「ど、どうしたの?沙耶っ?!」 「な、なんで俺たちあんなところであんなことしちまったんだっ!!」 「いや、街中でそんなこと叫ばれても…」 「ちっくしょーっ!!なんなんだ、てめーのせいで腰がいてーじゃねーかこんちくしょーっ!!」 沙耶と、デート。 二人で外にいるだけなのに、なんだか幸せな気分。 「…どこ行く?」 「沙耶が行きたいところ」 「…っ!!てめーが行きたいとこ行けっ!!お前は気を使いすぎなんだ、たまには俺に甘えろっ!!」 「そんなこといわれても…」 第一、男同士でデートって、どこに行けばいいんだろう。 デートらしいところに行くのもあれだし、かといって普通に遊ぶようなところに行くのもどうかと思うし…。 「よし…ゲームセンターだ」 「…え?」 突然沙耶が口を開いた 「ゲームセンターに行こう。そうしよう」 「どうしたのいきなり…」 「…さっさと行くぞ!!」 沙耶に手を引っ張られる。 …すごく、幸せだ。 「沙耶、行ったことあるの?」 「ないっ!!」 自信満々に答えられた…。 「じゃあどうして…」 「……お前と、行ってみたかったから」 「…え…」 「だから、デートするなら少し行ってみたいかなーって思っただけだよ!!特別とかそんなのねーし!!いや、お前のことは好きだがっ!!」 「……」 「って、何で俺は大声で告白してんだぁぁっ!!」 かわいい。 全部。沙耶の何もかも全部。 「…好きだよ、僕も」 「うるせぇっ!!」 「大好きだよ」 「だから言うなよっ!」 ずっと一緒にいたいんだ。 「……」 二人、手をつないで。 「すごい取れたぞっ!!何だ、理樹。これ欲しいのか?よし、譲ってやろう。俺からのプレゼントだっ!!」 「……」 ものすごいハイテンションだった。 沙耶は自分のスパイの能力を駆使し、あるもの全ての景品を取ってきた。 それはもう、抱えるほど。 「お前もやればよかったのになーっ」 「…うん」 「…って…」 沙耶の動きが、急に止まった。 「お前、何もやらなかった?」 「…?…うん」 「俺だけ、一人で楽しんでた?」 「いや、沙耶見てて僕は十分楽しかったけど…」 どうしたんだろう。そう思った瞬間に、沙耶が大声で喋りはじめた。 「俺は馬鹿だ!!なにやってんだ、理樹と一緒に楽しむためにゲームセンターに行ったのに、本当になにやってんだ?!なんで俺一人で景品取り巻くって、いよっしゃー!とか言ってたんだよっ!!いいよ、笑えよ。理樹、笑っちまえよ!!笑えったら、おい!!」 「……」 「はーっはっはっはっ!!!」 本当に、かわいい。 「…お前、ノリ悪いぞ…」 「だって、本当に楽しかったし」 「…本当か?」 「こんなことにうそついてどうするのさ」 大好きだ。 この人の、ことが。 地下探索。 今日はものすごい兵器がある。 「よし。じゃあ、ついたらすぐにこいつで襲撃するからな」 「うん…」 「がんばれって!お前はすげー訓練頑張ったから大丈夫だ。絶対成功する」 「そうかな…」 そういって、地下へともぐってゆく。 半ば反則技のような気もしたが、まあいいんだろう。 「そろそろ休憩するか?」 「そうだね」 地下七階。 沙耶の話によれば、次の階で最後の階らしい。 「…弁当、作ってきた」 「…え…?」 「ま、まずかったら食わなくていいからっ!だからあの…その…」 沙耶が、お弁当を差し出して。 「食べて、くれ」 僕がそれを、受け取った。 「ただ詰め合わせただけだからなっ!!別にそんなお前のために力を入れて作ったとか、そんなのはねーからっ!!」 「…うん」 卵焼きを、食べてみる。 「…おいしい…」 「あったりまえだろ!!俺が必死に本読んで研究して一時間かけて作ったんだからなっ!!」 「そうなんだ…」 「って、ちげーよ!!んなわけねーだろ!!」 必死に弁解する沙耶がかわいくて、僕はずっとお弁当をほめ続けた。 実際にものすごくおいしくて、僕のためにすごく頑張ってくれたんだな。暖かかった。 僕は、幸せものだな。 地下八階。 最後の階。 沙耶は、僕に作戦を伝える。 「分かったな?」 「う、うん…」 エレベーターを壊すと、誰かが現れた。 「…闇の執行部部長…。時風瞬…」 憎憎しげに、沙耶が名前を吐き捨てる。 『……朱鷺戸、沙耶』 作戦とは、僕を中心にして沙耶が時風の点対称の場所に動く、というものだった。 つまりはこの勝負の行方は僕に預けられたということ。 「…理樹っ」 「……っ…」 怖かった。 人を殺してしまうことが。 怖かった。 …でも…。 「っ!!」 パンッ! やらなくちゃいけないんだ。 僕が。 この、僕が。 エレベーターが、下降してゆく。 ゆっくりと。 この地下の最後へと。 「……」 何も喋れなかった。 …光に照らされた沙耶が。 ものすごく、きれいだった。 それだけ。 「…この中…だな」 すごく長かった。 やっとついた地下は、何かの研究室のような場所、それしかなかった。 「じゃあ、俺が行くから。…理樹は待ってろ」 「僕も行くよ!!」 「お前は、外を探しててくれ」 そう言われると、何も言えない。 「……」 沙耶が、部屋の中に入る。 探している。 何か分からない、何かを。 『……っ』 沙耶が驚いた顔をしている。 見つかった…? 「……」 そこにいたのは。 生物兵器。 「…沙耶?!…逃げてっ!!早く逃げてよっ!!」 硝子をたたく。 でも、割れない。 『理樹』 硝子ごしの僕に、話しかける沙耶。 その顔は儚くて、本当に消えてしまいそうで。 「…沙耶。いやだ。僕は…」 『俺は大丈夫だ。…お前に、いろんなものをもらったから』 笑顔で、自分の頭に銃を向ける。 ドアは…開かない。 「沙耶っ!!やめてよ、僕は、僕はどうすればいいんだよっ!!」 硝子をたたく。 その度に、沙耶の瞳が揺れる。 『理樹…』 「沙耶っ!!僕を、おいていかないでよっ!!」 『…り…き…っ!!』 涙が、溢れ出す。 『本当は、ずっといたかったよっ!!俺だって、ずっとお前といたかった!!でも…だめなんだ。俺はここで、いなくならなきゃいけないんだよっ!!』 「どうしてっ!!」 『…それは…』 目の前の景色がゆれる。 ああ、どうしてこんなときに。 『……』 沙耶の唇が動く。 『大好きだよ』 そう見えた。 …僕も。 「…だい…す、き…」 大好きだよ。 「…恭介…」 僕の部屋。 となりには、恭介。 「大丈夫か?」 「僕、どうしたの?」 今までのこと、全部夢だったのだろうか。 「倒れてた」 「…そっか…」 でも、部屋にあった。 あの、大きなぬいぐるみ。 あれは、沙耶との思い出だ。 「恭介、あのね…僕、戦ってたんだ」 だから、話した。 「ずっと、僕は一緒に戦ってた、僕のパートナーが大好きだったんだ。…さっきまで一緒にいたんだ。…でも、もういないんだ」 話すと同時に、涙があふれ出てきた。 「ねえ、…夢、だったのかな…っ、…恭介…っ」 「…それは分からない…。けどな」 恭介が、ゆっくりと話す。 「闇の執行部が、スパイに出し抜かれたという話を聞いた」 それは。 「理由はタイムマシンで逃げられたから、だそうだ。なんとも間抜けだが、本当だったらすごいよな」 理由もない、確信。 「まあ、本当かも分からんが」 それは、沙耶だ。 絶対に。 そんなこと、ないのかもしれないけれど。 それは、間違いなく僕の中にあるもので。 「…きっと、本当だよ」 僕の好きな人は、存在していたんだ。 …それだけ。 そんな、確信。 「……」 長い夢を見ていた。 あれ…俺、生きてる? 「あや」 お父さん? 「よく眠ってたね」 「…夢を、見てたんだ」 やさしい、夢。 「俺はスパイだったんだ。強かった。すげー強かった」 「やんちゃなあやっぽい夢だな」 思い出す。 「それで、パートナーと恋に落ちるんだ。…好きだったんだ。でも、俺…素直に言えなくて。あいつに…迷惑かけちまって…」 好きだったやつのこと。 そこにあった、青春のこと。 「あやは素直じゃないからな」 「そ、そんなことねーよっ!…だって、いえるわけねーだろ、初恋なのに」 トントン、とドアの音。 「あ、あの子じゃないか?」 「…りき?」 …そうだ。 こいつと、同じ名前だった。 「さや。遊ぼう?」 あの、楽しかった青春の夢は、こいつと一緒にいたんだ。 …好きだったんだ。 ―――また、いっしょにあそぼうな。りき。 「あれ、朱鷺戸さんって男じゃなかったの…?!」 「何言ってるのよ。あたしは元から女よ?」 [No.558] 2008/09/12(Fri) 18:44:41 |
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