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どんな感傷だろうか、俺はここに来ていた。耳に聞こえる陸上部の掛け声が遠い。屋上の一角、今まで一度として来た事のない場所に立つ。 「…………」 この景色が見れるのは恐らく今日が最後になる。それが覚悟になるとは情けない話ではあるが、実際ここに足を運んだ理由はそれに他ならない。明日より屋上は立ち入り禁止になるからその前に一度古式が死ぬ直前に見た光景を見ようと思っただけ。だけどそれが心に響き過ぎたから、古式と同じ時間でここからの町を眺めたくもなる。 「未練だな」 自嘲する。 「そうだ。ただの、未練だ」 自嘲する。 何がしたいのか分からない。古式が見た風景を見て、何がしたいのか分からない。心の奥底ではここから飛び降りたいとでも思っているのだろうか? …………分からない。 ガンッ! 重い扉が開く音が背後から聞こえた。一瞬、そこに古式がいるような気がして硬直する。そんな訳ないのに、もう彼女はこの世にいないのに。 動揺を隠すために少しだけ間を外し、そして誰がそこにいてもいいようにゆっくりと後ろを振り返る。そこに居たのは――恭介だった。 「よく、ここに俺がいると分かったな」 心にあるのは安堵か、それとも落胆か。自分の心が分からない。 「校庭から僅かに姿が見えた。まさかとは思ったが」 恭介はこれ以上ない位に真剣な眼差しでこちらを射抜いてくる。それだけで恭介の話の内容がなんとなく分かってしまった。先ほど感じた勘が正しかったのだと、恭介の様子が教えてくれた。そう言えば、部活からの呼び出しを喰わない為に携帯の電源を落としていた。漠然と、現実逃避気味にそんな事を思う。 「お前は、こんな所で何をしているんだ?」 分かっている、それが本題でない事くらい。そして恭介も分かっているだろう、俺が古式の最期の光景を見ていることくらい。つまりこの問いかけは実際に何をしているのかを聞いているのではなく、俺の心の中を知りたいが為の質問だろう。古式の死を、本当に俺に伝えていいのかどうかを計る問い。 「…………ここからの景色、どう思う?」 だから思った事をそのまま言ってやる。それがどんな結末になるか、俺にも判断がつかないが。 「綺麗だろう? …………俺もそう思う。だけどこれからは見れなくなる、屋上は立ち入り禁止になるらしい。まあ、仕方がないだろうな」 ゴクリと緊張で喉が鳴る。言えるのか、その事実が自分の口で言えるのか。それがまだ自分でも分からない。 「古式のように、また飛び降り自殺する生徒が出てはかなわんだろうからな」 杞憂。最上にサラリとその言葉は空気を震わした。 「本来ならば自殺なんていくらでもしようがあるはずだ。一つの場所だけ封鎖しても実質的な意味は少なかろう。だがまあ、学校側としても何かしなくちゃいけないというのも分かる。 分かるが、そんな場当たり的な対処で古式が最期に見た景色を潰されてしまうのはどうも、な」 あの言葉が出ればスラスラと滑らかに口が動いてくれる。そしてそんな俺を大丈夫と取ったのだろう、恭介は辛そうな顔で口を開く。 「――謙吾、落ち着いて聞け。実は先ほど古式みゆきが亡くなったと、病院から連絡が来た」 その言葉を、なんの心の動揺もなく受け入れられた自分に驚く。それは予感がしていたせいか、それとも――本当は古式の事を何とも思っていなかったせいか。笑みを浮かべる事さえしながら返事が出来る。 「ああ、ありがとう恭介。なんとなくそんな気はしたんだ。虫の知らせというやつか。30分程前だろう? 古式が息を引き取ったのは」 時間と空間に真空が生じる。俺と恭介、その間を何かが隔てている。この緊張感は、どこか剣道の試合を連想させた。 ――そしてやがて、恭介が口を開く。 「なあ。古式は最後、お前になんて言ったんだ?」 目が見開かれる。それは自分の中で封印していたはずの記憶、決して思い出すまいと思っていたソレを、恭介は容易にこじあけた。 「ありがとうございますって、言ったんだ」 自分の表情は想像できない。ただ最後の意地で声色だけは変えずに口を開く。 「馬鹿だよな、俺。古式がありがとうございますって言って、もう大丈夫だなんて思った。そんな訳、あるはずなかったのにな…………」 辛い、辛い辛い。そうだ、あの時に古式を引きとめられていたら、古式の決意を知っていたら。違った結末があったんじゃないだろうか? あの時、何か言葉を言えたら古式はっ…………! 「ここは空に近いな」 突拍子もなくそういう恭介。 「古式の最期の場所で、空も近い。ここなら、もしかしたら古式に言葉が届くかもな」 気休めだ。即座に俺の理性がその言葉を導いた。だけど同時、他の何か分からない部分が、恭介の言葉に強く惹かれる。 「そうだな、恭介」 一言、そうとだけ言葉を置いて広がる世界を視界に収める。そこは、古式が最期に見た光景。 (ここならお前に届くかな、古式……?) 俺の理性が否と言う。俺の何かが肯と言う。その矛盾を抱えたままで俺は古式への言葉を風にのせる。 「古式…………」 一言だけで十分だった。そのたった一言で、俺の目から涙がこぼれる。だけど、それでも。体も声も震えずに言葉は風に乗ってくれた。 「俺にはそんな資格は無いのかもしれない、悲しむ事すら許されないのかもしれない。 …………すまない、これは俺のワガママだ、分かっているんだ。だけど、悼ませてくれ…………。 そしてな、これだけは伝えたいんだ。俺は、お前が大好きだった。俺と出会ってくれて、ありがとう」 言いきった途端、体が震えた。嗚咽が漏れる、悲しみがよみがえる。 ああ、そうか。今更ながらに気がついた。今の俺は、昔の理樹と同じなのだと。俺の心は閉じていたんだ、誰に対しても。だから古式の死にも動揺出来なかった。 でも今は違う、今の俺は絶対に違う。今は悲しい、とても悲しい。精一杯に泣いて体と声を震わせて、それでも誰にも悲しみは理解されないだろうと思えるくらいに悲しい。 でも、それでも心は開かれたから。もしかしたら幻かも知れない、もしかしたら妄想なのかも知れない。それだとしてもその時だけは古式の笑みが見えた気がした、古式の声が聞こえた気がした。 ありがとうございます、そしてごめんなさい。最後にさようなら、宮沢さん。 [No.592] 2008/09/21(Sun) 00:49:53 |
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