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No.597へ返信

all 第18回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/09/24(Wed) 22:45:02 [No.594]
えむぶいぴーらいん - 主催 - 2008/09/27(Sat) 00:21:28 [No.610]
クロノオモイ - ひみつ 初投稿@EXネタバレ有 10283 byte - 2008/09/27(Sat) 00:02:44 [No.609]
崩落 - ひみつ@4275 byte - 2008/09/27(Sat) 00:01:22 [No.608]
[削除] - - 2008/09/27(Sat) 00:01:12 [No.607]
ある日の実況中継(妨害電波受信中) - ひみつ 12587byte EXバレなし - 2008/09/26(Fri) 23:59:02 [No.605]
[削除] - - 2008/09/26(Fri) 23:39:49 [No.604]
その傷を、今日は黒で隠し、明日は白で誤魔化す - ひみつ@11761 byte EXネタあり - 2008/09/26(Fri) 23:36:57 [No.603]
傘の下 - ひみつ・初@EXネタなし@11403 byte - 2008/09/26(Fri) 23:30:52 [No.602]
計り知れないヒト - ひみつ@ 16232 byte EXネタバレありますヨ - 2008/09/26(Fri) 23:05:33 [No.601]
向こう側の話 - ひみつ 14619 byte - 2008/09/26(Fri) 22:59:53 [No.599]
ネタバレなし - ひみつ - 2008/09/26(Fri) 23:02:32 [No.600]
[削除] - - 2008/09/26(Fri) 22:32:25 [No.598]
こんぶのかみさま - ひみつ@18230 byte バレありません - 2008/09/26(Fri) 22:13:37 [No.597]
イスカールのおうさま - ひみつ 18892 byte EXバレ有 捏造設定注意 - 2008/09/26(Fri) 00:33:03 [No.596]
出た!!!! - ひみつ@EXネタバレあーりませんの 11216 byte - 2008/09/25(Thu) 01:43:51 [No.595]


こんぶのかみさま (No.594 への返信) - ひみつ@18230 byte バレありません

 ことこと、ことこと。お出汁が煮立ってしまわないよう、とろ火でことこと。
 じっくり、じっくり、慌てないで、出来上がるのをのんびり待つ。
 お鍋のふたのすきまから、ふんわり香るお出汁のにおい。
「おいしくなーれ、おいしくなれー」
 こうするとあら不思議、本当においしくなってしまう。いっつ・わんだほー・じゃぱーん。

 完全に煮える少し手前で火を止めて、後は余熱で。
 お出汁がぎゅーっと染み込ませる。
「おいしくなーれ、おいしくなれー」
 おまじないをもう一度。こんぶのかみさまにお願いする。
 とても落ち着くいい香り。ああ、なんだか、眠く、なって、きた…



「はっ!?」
 いけない、うとうとしてしまったみたい。時計を確認。よかった、ちょうどいい時間だ。
 気付けばお腹もすいていた。よし、それではいただきましょう。
「おいしくできましたでしょうか…」
 鍋つかみをはめて、おそるおそるふたを開ける。
 持ち上げたふたのすきまから、ほんわりと溢れる湯気。湯気。…湯気湯気ゆげゆげ…
 ぼわんっ!
「わふーっ!?」
 まるで火山の噴火のようにふきだした湯気に驚いてしりもちをつき、思わずふたを落としてしまった。
 目の前は湯気で真っ白。まさか火事かとも思ったけれど、焦げたり燃えたりのにおいはない。
 湯気はすぐに晴れていき、私はまず鍋の無事を確認した。…確認しようとした。
 けれど、お鍋の前に立ちはだかる人影によって、それはかなわなかった。
「おっす、オラ昆布食(こん・ぶくう)!」
 来ヶ谷さんだ。
「おっす、オラ昆布食!」
 腰まで届くつややかな黒髪。何もかもを見透かすようなあるかいっく・すまいる。ばいん・きゅ・ぷりん!のDynamiteなBody。
「どこから見ても来…」
「私は来ヶ谷唯湖などという人間ではない。現世には確かに私によく似た絶世の美女がいるらしいが、それは別人だ。他人だ。面識もなければ血のつながりもない」
「わふー…」
 なんだか怒涛の勢いで否定されてしまった。そういうところが間違いなく来ヶ谷さんだと証明していると思うのだけれど、言えば余計にややこしくなるだろうと思えて口をつぐんだ。
「ふむ、私が何者か知りたいかね?よし、教えてやろう」
 何も聞かないうちから話が進んでいく。とりあえず彼女に任せてみる。
「まず始めに、君には礼を言わねばならないな、能見クドリャフカ君。いつも昆布を美味しく料理してくれてありがとう。そう、私は昆布の守り神、ちなみに名前が中華風なのはその場のノリだ、気にするな」
「そ、そうですか」
 小さな疑問まで先回りされては、私が言葉をはさむ隙がない。
「君の昆布への愛情には本当に頭が下がる。そこで、君に何か恩返しをしようと思い、やってきた」
「いえいえそんな、恩なんて…」
 昆布が好きだから料理しているだけで、改まってお礼を言われると、かえって気が引けてしまう。
「謙遜は多くの場合美徳だが、こういうときは遠慮せず、素直に受け取っておくほうが相手も喜ぶぞ」
「わ、わふ…わかりました。ありがたくいただきます」
「うむ。では君に、これを進呈しよう」
 昆布さん(仮名)は満足そうに頷いて、胸元から3枚のカードを取り出した。
「とらんぷ…?」
 大きさも形もトランプそっくりだけれど、片面が白紙で、トランプのセットに1枚は入っている予備のカード。それが3枚。
 正直もらっても使いみちに困りそうだけれど、あまり高価な物をもらってしまうよりは気が楽だ。
「ほっとしているところ悪いが、それはただのトランプではないぞ。願いがかなうトランプだ」
「願いが、かなう…ですか?」
 唐突にそんなことを言われて信じろというほうが無理な話だ。トランプにそんな凄いぱぅわーがあるようにも見えない。
「ふむ、信じられないのも無理はないな。物は試しだ、一枚使ってみるといい」
「どうやって使うですか?」
「白い面にこのペンで願いを書けばいい。どうだ、簡単だろう?」
 渡されたサインペン片手に、私はしばらく考え込んでしまった。急に言われると願いというものはなかなか出てこない。
「そんなに難しく考えることはない。というか待つのに飽きたからささっと書いてしまえ」
 昆布さん(仮名)の脅しに屈した私は慌ててカードにひとつめの願いを書いた。
『胸を大きくしたいです』
 いくら慌てていたとはいえ、もっとましな願いはなかったんだろうか。
「ふむ、なるほどな。クドリャフカ君らしい願いだ。私としては今のままのほうがげふんげふん」
 私らしいってなんだろう。ちょっと本気で考えようと思ったそのとき、願いを書いたカードがまばゆく輝き始めた。
「わ、わふっ、あくしでんと・ふぉー・みー!」
 がらがらっ!私の声を聞いたのか、そのとき家庭科部室の戸が勢いよく開かれ、宮沢さんが飛び込んできた。
「どうした能見っ!」
「い、いえこれは別に何でもっ!」
 トランプの光は収まっていたけれど、そこに書いた文字を見られるのは恥ずかしいので咄嗟に後ろ手にトランプを隠す。
 宮沢さんは、私の言葉が本当か確かめるように見ていた。すると、ある一点に目を留めてわなわなと震えだした。
「何でもないわけあるか!何だその胸はっ!?」
「わふっ!?」
 血相を変えて、私の胸を指差しながらずかずかと歩み寄って来る宮沢さん。
「可愛そうに…こんなに抉れてるじゃないか!」
「え、えぐれてなんかないのですーっ!!」
 まるでそこに大きな傷口でもあるかのように、おそるおそると手を伸ばしながらも触れることができないという様子で…もちろん私としては触られたくはないけれど、そこまで痛々しいのかとひどく傷つきもしてしまう。
 そして、一瞬のためらいのあと、意を決したように、
「心配するな、俺が揉んで、今すぐに大きくしてぐはぁっ!?」
 とてもいやな手の動きとともにせまってきた宮沢さんを殴り倒したのは、抜き身の愛刀を手にしたくるが…昆布さん(仮名)でした。
「人が呆気に取られている間に何をしとるか、全く」
 このときばかりは彼女が頼れる姉御であることを実感する。いや、普段も頼れることは頼れるのだけれど、それ以上にせくはらがごにょごにょ。

 気を失った宮沢さんをロープでぐるぐるまきのうえ廊下に叩き出して、ようやく落ち着くことが出来た。
「わふー、宮沢さんは一体どうしてしまったんでしょう」
 ふだんからねじの外れた人だとは思っていたけれど、女のひとにいやらしいことをするような人ではないと思っていたのに…。
「おそらく、トランプの効果だな」
「どういうことでしょうか?」
「そのトランプは確かに書かれた願いを叶えるのだが、『効果には個人差があります』というやつでな。一瞬で効果が出ることもあれば、長い時間をかけて効果が出るよう働くこともあるのだよ」
「でも、それで宮沢さんがどうして」
「おそらく、今のクドリャフカくんは、男に胸を揉ませたくなるようなフェロモンを発散しているのだろう。堅物の宮沢少年を狂わせるほどだ、外に出れば男子どもにもみくちゃにされるだろう事は想像に難くない」
「わふーっ!どうしてそんなことにっ!?」
「胸を大きくするには男に揉まれるといい、という話を聞いたことがあるだろう?根拠のない俗説だが、その状態で校内を歩けば、揉まれ過ぎて腫れてしまうだろうな。願いどおりに大きくはなるわけだ」
 それで願いがかなっても全然うれしくない。このままじゃ外に出ることも出来ないし、怖くてぶるぶる震えていると、なぜか昆布さん(仮名)が身悶えていた。ゆれる黒髪とあいまって本当に昆布みたいだ。いや、どちらかというとわかめだろうか。
「ああっ、怯えるクドリャフカくんも可愛い…だが、安心しろ。むくつけき男どもにくれてやるつもりはない」
 安心しろと言われてもまるで安心できないというのがすごいと思う。けれど、今は彼女だけが頼りだ。忍び寄る危機感はこのさい無視することにしよう。
「クドリャフカくん、さっき願いを書いたトランプを破け。そうすれば願いが破棄され、効果は消える」
 言われたとおりにトランプをまっぷたつにびりびりと破くと、書いた文字がすうっと消えていった。
 ほかに何も起こったようには見えなかったので、少し不安になったけれど、ためしに昆布さん(仮名)同伴で廊下に転がした宮沢さんの前に出ても今度は発狂しなかった。

 無事トランプの効果が消えたことを確認すると、昆布さん(仮名)は颯爽と去っていってしまった。もちろん歩いて。
 あとに残されたのは、2枚となった願いをかなえるトランプ。
「どうしましょうか、これ…」
 せっかくいただいたのだから使わなければもったいないという気はする(ちなみに裏には「本日中にお使いください」と書いてあった。生ものらしい)
 ただ、さっきのようなことにならないためにも、願い事は慎重に選ばなければ。
 ああでもない、こうでもないと悩んだ結果、ふたつめの願い事は、『英語がぺらぺら話せるようになりたい』と書いた。
「わふっ」
 さきほどのように、願いを書き終えるとトランプが輝きだし、やがて収まりました。
 これでぺらぺらになったんだろうか。それとも、今度はあめりか人さんが寄ってきちゃったりするんだろうか、後者だったら嫌だなと思いながら、まずは今の英語力が上がっているかどうか確かめてみることにした。

「…わふ、ぜんぜんだめですー」
 鞄から教科書とノートを取り出し、今日授業でやったところをおさらいしてみたけれど、全く変化していない。むしろ、忘れた分だけ悪くなっていた。
「やはりすぐには効果が出ないということでしょうか…」
 トランプを指先で弄んでいて、私は間違いに気付いた。
「『話せるようになりたい』じゃだめじゃないですか…」
 これじゃ、良くなるのは英会話だけだ。書き直そうと思ったけれど、上から何度書いてもすぐに消えてしまう。一度願いを書くと変更はきかないみたいだ。
 仕方ない、英会話だけでもぺらぺらになるのなら、きっと英語の勉強にも役に立つだろう。
 それなら、どれくらい上手くなったのか確かめてみよう。

 家庭科部室を出て、グラウンドの方へ向かう。リキたちが野球をしているかもしれない。
 突然あめりか人の団体さんとかに囲まれたりしたらたいへんなので、周りを警戒しながらそろそろと向かいます。
 歩いていると、中庭の近くでらんにんぐをしている井ノ原さんに出会った。
「井ノ原さん、はろーですっ!」
「よっ、クー公」
 そうだ、まずは井ノ原さんに試してみよう。
「ほぇあー・あー・ゆあ・べいすぼうる・ちーむめいと?」
「は?」
 井ノ原さんが目を丸くしている。今のはちょっと唐突だったかもしれない。
「あ、ごめんなさいです。ほかのみなさんはどちらにいらっしゃいますか?」
「あ、う…?悪い。もっかい言ってくれねぇか?」
 あれ、どうしたんだろう。聞き方が悪かったのだろうか。
「ええと…みなさんはぐらうんどにいらっしゃるんですか?」
「うおおお…おちつけ…落ち着くんだオレ…よし、スクワットだ!1っ!2っ!3っ!4っ!」
 私が聞きなおすと、なぜか井ノ原さんは苦しみ始め、かと思うと突然その場ですくわっとを始めてしまった。
「わふーっ!大丈夫ですか井ノ原さんっ、意味不明ですっ!?」
「うわああーーーーっ!!ロクシチハチキュジュジュイッ、げほごほっ!」
 私が駆け寄ると、叫び声をあげた井ノ原さんは猛スピードですくわっとをし、途中で回数を噛んでむせながらさらにスピードを上げた。
「な、何だかよく分かりませんがごめんなさいなのですーっ!」
 話しかけるたびにすくわっとのスピードが上がり、もはや近づくことも出来ない速さになってしまった。
 踏みしめた両足が摩擦でどんどん地面にめり込んでいく。ぶすぶすと靴底が焦げ、井ノ原さんから立ち上る熱気が上昇気流をつくりだす。
 風が…井ノ原さんを中心に風が渦巻き始めた。もしや、これがあの筋肉旋風なのだろうか…。
 いくら井ノ原さんでもこれ以上はたぶん危険だ。どうにもできず、困った私の頭に、一人の男の子の顔がとっさに思い浮かんた。
 慌てて携帯電話を取り出すと、彼の携帯に電話する。意識しなくても身体が覚えている。
 数回の呼び出しのあと、求めていた声が聞こえてくる。電話を通して耳に染み込んでくる。
「もしもし、クド?」
「リキっ!」
「クド、どうしたのっ!?」
 心細さとうれしさとがまじりあって、第一声が悲鳴になってしまった。リキが電話の向こうで心配してくれている。落ち着かなければ。
「あ、あの…井ノ原さんが、井ノ原さんが…っ!」
「真人がどうかしたの?」
「あの、話しかけたら急にスクワットを始めて、スピードが上がりすぎて筋肉旋風に!」
 落ち着いて説明しても意味不明!?リキも戸惑っているのが伝わってくる。
「…よく分からないけど、多分真人が何か大変なことになってるんだよね。すぐに行くから、待ってて!」
「リキ…」
 だめだ、私、泣きそうになっている。ぐっとこらえて、自分の居場所をリキに伝える。
「こーとやーど…って、たしか、中庭だっけ」
「そうです、中庭です!」
 こーとやーどの意味は分かりませんでしたが、居場所は伝わったようだった。電話を切ると、なぜだか、もう大丈夫だ、という安心感に包まれる。
 井ノ原さんのようすを確認すると、風はさっきよりも強くなっているようだけど、中心にいる井ノ原さんは今は楽しそうに笑っていた。
 もしかしたら私一人で大騒ぎしてしまっただけなのかもしれない。さっきのリキとの電話を思い出して、とても恥ずかしくなった。

「クド!真人!大丈夫!?」
 井ノ原さんの筋肉旋風が間もなく完成となるころ、おっとり刀で駆けつけてくれたリキの声が聞こえた。
 改めて先ほどの自分を思い出して顔がほてってくる。
「うわぁ、これは凄いね」
 もはや一陣の竜巻と化した井ノ原さんを見て、リキが溜息を漏らす。驚いたり呆れたりしているようだけれど、感動したりあこがれたりしているようにも見える。
「うむ、これは井ノ原少年だからこそ成し遂げられる偉業と言っても過言ではあるまい」
「わふっ!?」
「それはさすがに過言だと思うけど…」
 いつの間にか隣には来ヶ谷さんも来ていた。たぶん、リキと一緒に来たのに私が気付かなかっただけなんだろう。
「あの…」
「ん?何だねクドリャフカくん」
「あなたは来ヶ谷さんなのでしょうか、それとも昆布さんなのでしょうか…?」
「はっはっは、どうしたんだ。まるでどこぞの皮肉屋が書いた戯曲のようだぞ。なかなか哲学的な問いだ。さて、どう答えたものだろうな…」
 しかし、その答えを聞く前に、私たちの目の前で筋肉旋風は最高潮を迎えた。
「マッスルマッスル…マッスルマッスル…きた、きたぜぇーーっ!
 マッスルナイトォーーーッ・フィーーバァーーーーーーーーーぁぁっ!」
 どどぉーーんっ!!
 極限まで高まった筋肉の波動が、いっせいに天へと駆け上り、宇宙へと還っていった。
 やがて、宇宙に満ちた筋肉の波動が、太陽系だけでなく、銀河を、宇宙を筋肉で包んでいくのだろう。
 そして、全てをやりとげた井ノ原さんの巨体が、糸の切れた人形のように倒れ込む。
「真人っ!?」
「井ノ原さんっ!」
 地面に大の字になって横たわる井ノ原さんに私たちは駆け寄った。
「真人、わかる?僕だよ、理樹だよっ」
 リキに手をとられた井ノ原さんは、普段からは想像できないほど弱弱しく、今にも消えてしまいそうに見え、私は言葉を失った。
「理樹か…なぁ、見たか…?オレの、オレの筋肉旋風を…」
「うん…うん、見たよ!すごいよ、さすが真人だね!あんな筋肉は世界中、いや宇宙中探しても他にいないよっ!」
 井ノ原さんの目はすでに輝きを失い、あらぬ方を見つめている。リキはそれでも懸命に笑顔を作っていたけれど、あふれるものを押さえられないのか、ときどき言葉を詰まらせていた。
「そんなに、ほめる、なよ…。オレの、後は…理樹、お前、なんだから…よ」
「…まさと?そんな…真人ぉーーーーっ!」
 呆然と立ちすくむ私を押しのけ、来ヶ谷さんが井ノ原さんの容態を手際よく確認します。
「ふむ、空腹でぶっ倒れただけだ。全くの健康体だ」
「え?」
「ああ、やっぱり。さすがの真人でも、あれだけ動けば仕方ないか」
「がーーーーんっ!?」
 来ヶ谷さんはともかく、診断を聞いたリキまでけろっとした顔で話している!?
 さっきまであんなに思わせぶりに、思わせぶりにっ!私の涙を返せっ!
「ひーどーいーれーすーーっ!てっきり、てっきり私はっ…たちが悪いにもほどがありますっ!!」
 ぽかぽかぽか!身長差があってもリキがしゃがんでいる今ならのーぷろぶれむ!怒りを込めてリキをとっちめてやるんだ!
「いたたたっ!ご、ごめんよクド!落ち着いてっ!」
 これが落ち着いていられるかっ!と追いうちをかけようとしたけれど、後ろから伸びてきた腕に抱きかかえられてしまってかなわなかった。
「わふっ?く、来ヶ谷さんっ、離してくだひやぁっ!」
 今変なところを触られたっ!逃れようと暴れる私を来ヶ谷さんはなんなくおさえこんでしまう。
「まあ落ち着け。とりあえず今は確認したいことがあるだけだ」
「確認、ですか?」
 そうだ、と頷いて離してくれたので、私も暴れるのをやめて向き直った。リキはなぜかずっと、きょとんとしたような顔をしている。
「まず、真人少年だが、彼があんなことを始めたきっかけに心当たりは?」
 なぜあんなことになったのか、それは私のほうが聞きたいくらいだったので、即座に首を振った。
「ただ話していただけなのに、急にあんなふうになってしまったんです」
「普通に話していたのかね?」
 普通に、をやけに強調していたけれど、特別変わった話をしたわけでもなかったので頷く。
「はい、普通に。皆さんがどこにいるか聞いただけなのですが、急に苦しみだして…」
「今も普通に話しているな?」
「?はい」
 何の確認なんだろう。さっきからずっと黙っているリキの方を見ると、リキはきょとんとした顔をぱわーあっぷさせていた。
「では、最後の質問だ、クドリャフカくん。今きみは、何語で話している?」
「はい?」
 どういう意味なんだろう。どこか発音がおかしいとか、そういうことなんだろうか。
「日本語、ですけど。どこか変なのでしょうか?」
「いや…そうだな、彼に聞いたほうが早いだろう。少年、彼女は今何語を喋っている?」
 そういうと、先ほどからずっと黙っていたリキへと顔を向けた。なぜだかとても素敵な笑顔を浮かべていたリキに。
「クド、凄いよ、英語がすごく上手になってたんだね!参ったな、僕は半分くらいしか聞き取れなかったよ」
 私の願いは、確かにかなっていた。ただし、私のしゃべる言葉が全部英語になる、という形で。

 トランプの最後の1枚。私は自室に戻り、ベッドに横になったまま、最後となったトランプをもてあそんでいた。
 結局、2枚目の願いも破ってしまった。ずっと英語しかしゃべれないのでは意味がないから。
 時計の針はもうすぐ12時。このトランプもただの紙きれになる。
 相談しようにも今日は部屋に一人きり。もっとも、相談しても信じてもらえないような気がする。
 そういえば、せっかくつくった煮物は食べそこなってしまった。すっかり疲れてしまって、たっぱに分けてしまうので精一杯。
 こんぶの神様、怒ってるかな…。
 つくった煮物を食べないばかりか、もらったトランプもうまく使えない。私は相変わらず、だめだめなままだ。
 …だめだ、ねがてぃぶなほうにばかり考えてしまう。よし、悩むくらいならこのトランプ、何も考えないで使ってしまおう。
 頭の中をからっぽにして、ペンを走らせる。トランプが光りだし、そして…。

 髪をひと房、手にとってみる。手触りはいつもと変わりないのに、見える景色がまるで違う。
「真っ黒です…」
 つやつやと輝く、黒曜石の色。ずっと憧れていた、お母さんの色。
「わふー…」
 自然と笑みが浮かぶ。意味もなく髪の毛でほっぺをくすぐる。
「そうだ、鏡…」
 黒髪の自分は、どんな姿をしてるんだろう。いそいそと姿見に向かう。
「あはは…やっぱり」
 髪の色だけ変わっても、私が変わるわけじゃない。鏡に映るのは、髪の黒さが際立ってかえってちぐはぐな、ヘンな女の子だった。
「やっぱり、私はどっちつかずで中途半端なんですねー。はは…」
 浮き立った気分はあっという間にしぼんで、惨めな気持ちでうつむくしかできなかった。

――そんなことないわ、クーニャ――

「だれ、ですか?」
 聞かなくても本当はわかっている。聞き間違えるはずなんてない。
 顔を上げると、鏡の向こうに、お母さんが立っていた。
「おかあ、さん…お母さんっ!」
 間違いない、ずっと、ずっと会いたかった、私のおかあさん。

――クーニャ。誰かをまねる必要なんてないのよ。あなたはあなたのままで、もっと素敵になれる――

「自信、ないです。だって、私はいつまでたっても寂しがりで、出来がわるくて…」
 手を伸ばしても触れ合えない、鏡の向こうのおかあさん。

――私は知ってるわ。あなたはもう誰にも負けない素敵なものをたくさん持ってるの――

「そんなの、わたし、知らないっ…」
 鏡越しに私の手に重なる、お母さんの手。

――あなたが知らなくても、あなたの周りの人はちゃあんと知ってる。あなたの大好きな、あなたを大好きな人たちが――

「ほんとうに…?」
 あたたかい、お母さんのあたたかい手だ。

――ほんとうよ。胸を張りなさい、クーニャ。私たちの自慢の娘――

 お母さんのぬくもりが、ほほえみが、ゆっくりと薄れていく。
 口を開けば、引き止めたくて叫びそうで、がんばって唇をむすぶ。
 言えたのは、本当に最後、一言だけ。
「…はいっ」
 私の答えは、お母さんに届いただろうか。
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が、私を見つめ返していた。真っ直ぐに、胸を張って。



「はっ!?」
 いけない、うとうとしてしまったみたい。時計を確認。よかった、ちょうどいい時間だ。
 気付けばお腹もすいていた。よし、それではいただきましょう。
 ふたを開けて、器によそる。
「こんぶのかみさま、いただきます。おかあさん、いただきます」
 きっとおいしくできてるはずだ。


[No.597] 2008/09/26(Fri) 22:13:37

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