[ リストに戻る ]
No.609へ返信

all 第18回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/09/24(Wed) 22:45:02 [No.594]
えむぶいぴーらいん - 主催 - 2008/09/27(Sat) 00:21:28 [No.610]
クロノオモイ - ひみつ 初投稿@EXネタバレ有 10283 byte - 2008/09/27(Sat) 00:02:44 [No.609]
崩落 - ひみつ@4275 byte - 2008/09/27(Sat) 00:01:22 [No.608]
[削除] - - 2008/09/27(Sat) 00:01:12 [No.607]
ある日の実況中継(妨害電波受信中) - ひみつ 12587byte EXバレなし - 2008/09/26(Fri) 23:59:02 [No.605]
[削除] - - 2008/09/26(Fri) 23:39:49 [No.604]
その傷を、今日は黒で隠し、明日は白で誤魔化す - ひみつ@11761 byte EXネタあり - 2008/09/26(Fri) 23:36:57 [No.603]
傘の下 - ひみつ・初@EXネタなし@11403 byte - 2008/09/26(Fri) 23:30:52 [No.602]
計り知れないヒト - ひみつ@ 16232 byte EXネタバレありますヨ - 2008/09/26(Fri) 23:05:33 [No.601]
向こう側の話 - ひみつ 14619 byte - 2008/09/26(Fri) 22:59:53 [No.599]
ネタバレなし - ひみつ - 2008/09/26(Fri) 23:02:32 [No.600]
[削除] - - 2008/09/26(Fri) 22:32:25 [No.598]
こんぶのかみさま - ひみつ@18230 byte バレありません - 2008/09/26(Fri) 22:13:37 [No.597]
イスカールのおうさま - ひみつ 18892 byte EXバレ有 捏造設定注意 - 2008/09/26(Fri) 00:33:03 [No.596]
出た!!!! - ひみつ@EXネタバレあーりませんの 11216 byte - 2008/09/25(Thu) 01:43:51 [No.595]


クロノオモイ (No.594 への返信) - ひみつ 初投稿@EXネタバレ有 10283 byte

 そこであの人と出会えたのは偶然だった。
 辿り着いたその場所であの人と出会えたこと。その偶然を僕は心の底から感謝した。
 その人とここで出会えたのはきっと運命だったから。


   -クロノオモイ-


 あの日以来僕は常にあの人のことを目で追っていた。
 いや、目だけじゃない。彼女の後を常に僕は追いかけていた。
 さすがに入れない場所と言うのは存在するが、それでもいつも僕はあの人を追っていた。
 来る日も来る日も。どれくらい日が昇り、そして夜が来たか分からないくらい毎日。
 僕にはそれだけあの人を追いかける理由があるから。
「佐々美さまー。頑張ってくださーい」
 あの人と一緒にいつも白球を追いかけている女の子があの人に向けて声を掛ける。
 それに答えて彼女は腕を振るう。
 ブンッ
 こっちまで空気を切り裂くような音がしたような気がした。
 それくらいあの人の投げる白球は早く、力強かった。
 そしてあの人はいつもあの集団の中の中心だった。
 それが嬉しく思う。僕の特別な人があんなに凄いなんて誇らしく思えてくる。
 僕は日が暮れるまで彼女を見続けていた。

 別の日の夜。
 いつもように彼女の姿を探して歩いていると、突然女の子の叫ぶ声が聞こえた。
「なんでこんなとこにいるんだ、ざざぜがわざざみっ」
「笹瀬川佐々美ですわっ。相も変わらず失礼な方ですわね、棗鈴!」
 呼応するようにあの人の声も聞こえる。
 ああ、きっといつもの通り戦うんだろう。
 でも僕のあの人は強い。きっといつものように勝ってしまうに違いない。
 そう思いながら現場にへと向かうと、そこはすでに勝敗が決していた。
「ううっ……強い」
「ほーほっほっ、当然ですわ。行きますわよ」
「はい、佐々美様」
 勝ち名乗りを上げ踵を返すと、あの人の周りにいた女の子達も彼女の後について行ってしまった。
 きっとあのまま帰るのだろう。
 僕はふと残った彼女に視線を移した。
 『棗鈴』あの人がいつも呼んでいるからいやでも覚えてしまった。
 なにかとあの人とぶつかることの多い女の子と言うのが僕の中の認識だ。
 でも嫌いではない。寧ろ好きな部類だ。きっとあの人と持っている空気が似ているからだろう。
 だけど僕はこの人の傍に近寄る気はない。
 棗鈴の傍は嫌いじゃないけど、彼女の周りのあいつらは好きじゃない。
 いつも棗鈴を中心とした集団。
 仲良しこよしを否定するつもりはないが、あのぬるい空間に近寄る気にはならなかった。
「ん?お前……」
 彼女が僕に気づいたようだ。
 僕は彼女に話しかけられる前にその場から逃げ出した。
 話しかけられたら面倒なことになる。
 きっとあいつらが近寄ってくるから。
 でも僕は馴れ合うつもりはない。だって、僕の全ては彼女のためだったから。

 そんな毎日僕は繰り返していた。
 あの人に会えたこと。そのことが嬉しくて追いかけるだけで満足してしまっていた。
 きっと追いかけ続けていればあの人に受け入れてもらえる。そんな希望すら抱いて。
 ……でも、駄目だった。
 それを思い知らされたのはこれもまた偶然だった。
 いつものように白球を追いかけるあの人の眺めていた僕は、
たまたま近くに落ちた玉にそっと足を触れた。
 するとそこに彼女がやって来た。
 これを探しに来たのだろうか。
 チャンスだと思った。
 僕がこれを差し出せばきっと喜んでくれるだろう。
 そしてもしかしたら気づいてくれるかもしれない。……僕のことを。
 けれど近づいてきたあの人の次の行動は予想外のものだった。
「なっ……」
 あの人は僕を見て固まるとあからさまに目を逸らしたのだ。
 そして僅かな逡巡の後、僕のことなど目もくれず、
落ちていた白球を拾いその場を立ち去ってしまった。
 僕はしばらく呆然としていた。
 我に返ったのは彼女の姿がどこにも見えなくなった後だった。
 拒絶された。
 その思いが心を占める。
 明確な拒絶の言葉こそなかったが、あの人の行動はそれを補って余りあるものだった。
 思い返せば確かに他のやつらにも時折避けるような素振りを見せていた気がする。
 でも僕のそれはあまりにも顕著すぎた。
 嫌われている?それは何故?
 わけが分からなかった。こんなにも想っているのに。
 僕は混乱した頭のまま、闇雲に彼女の後を追おうと走り始めた。
 そして僅かに走ったところで僕は無様に倒れ付してしまった。
 ……ああ、気づいてしまった。
 希望とはこんなにも儚いものだったのかと。僕には時間がなかったのだということに。
 それからの僕は今まで以上にあの人の周りにいつもいるようにした。
 時には物陰から、時には木の上からじっとあの人を見守っていた。
 隙あらば彼女の傍に近寄ろうとすらした。
 もっともっとあの人の傍にいて、もっともっと自分を見てもらいたい。
 もっとあの人の温もりを知りたい。
 だから僕は行動した。

 ――――あいつのことを知ったのは僕が必死に行動している時だった。

 直枝理樹。
 棗鈴の傍にいることの多い男。
 自分も弱い存在だけど、それ以上にあいつの印象は弱そうだった。そして地味。
 それだけの男のはずなのに、何故か僕はあいつのことが会って以来ずっと引っかかっていた。
 あいつの周りには他に印象の強いやつはたくさんいるのに僕はあいつが気になっていた。
 分かることは、あいつの空気がいつか僕が身を委ねていたものに非常に似通っていること。
 何もかも、全てを失い孤独のまま死を迎えるだけだった僕が、
新しい家族と出会い、そして手に入れていた幸せ。
 あいつのことは何も知らないのに、どうしてもその記憶が蘇ってしまう。
 そんな不思議な存在。
 そして今、あいつはあの人と話している。
 話している内容は分からない。
 でも何故だろう。ひどく心がざわつくのは。
 それは僕の心に様々な想いを生み出す。
 ……ある種の予感を僕は感じていた。
 最後には彼に頼るのではないかと。
 託すのではないかと、そんな根拠もない予感を。


 そしてどれくらい過ぎただろう。
 彼女と会って、そして追いかけるようになってから。
 なのに僕は一向に想いを伝えられていなかった。
 いや、伝える術にすら辿り着けていなかった。……時間がないのに。
 気持ちばかりせくのに、解決する糸口すら浮かばない。
 分からないから行動する。少しでも長くあの人の傍にいられるように。
「待って、相川君」
 草むらを駆けていると直枝理樹の声が聞こえた。
 いつもと違う硬い声。
 でも僕にはあの人を探す以上に重要なことはないから、気にせず彼女を探して走り出した。
 そしてしばらく走っていると彼女を見つけることが出来た。
 どうやら一人ではないらしい。
 確か名前は……。
「それで神北さん。出来映えはどうですの?」
 そうだ、神北小毬。そんな名前だった気がする。
 あの人と一緒に暮らしているほんわかした女の子。
 あの人が気を許しているのだから、いいやつだと思うがどうにも苦手だ。
 僕は見つからないように物陰から2人を観察した。
「うん、美味しいよー。さーちゃんはやっぱり料理が得意なんだねー」
「ふん、お菓子作りに関してはあなたに負けますわ。けれどお陰で上手くいきましたわ。
感謝いたしますわ、神北さん」
「いいよー。お友達だもん。当然」
 なにやら幸せそうな空気が漂っている。
 そして甘ったるい匂いも。
 こんな匂いのするもののどこがいいのかさっぱり分からない。
 食べ物に甘さは必要ないと僕は思う。
「そう言えば修学旅行はどこ最初に行くか決めた?」
「最初に、ですか?いくつか候補は決めてますが、それが何か」
「うーん、一緒に回らないかなって思って」
「一緒に、ですか?わたくしは構いませんが、そちらはクラスメイトと回らなくて宜しいんですの?」
「あー、うん。そこで相談なんだけど」
「相談?」
「鈴ちゃんも一緒じゃ駄目かな?」
 その言葉にあの人は眉毛をピクリとさせた。
「神北さんは棗鈴と仲がよろしいんですの?」
「うん、お友達だよ〜」
「そう、でしたわね。あなたもあの集団のお仲間でしたわね」
 苦々しげに彼女は呟く。
「そんなに鈴ちゃんと一緒にいるのが嫌?」
「そ、そんなことはないのですが……棗さんのほうが嫌がるでしょう」
 そう呟く彼女の声はどこか弱弱しかった。
「そんなことないよ。きっとお友達になれるよ」
 対する神北小毬の返答は能天気なものだった。
 その言葉に少し逡巡した後、あの人は静かに首を振った。
「遠慮、しておきますわ。せっかくの楽しい修学旅行ですもの。
棗さんを不快な気持ちにさせるのは悪いですわ」
「むぅ〜、そっかなあ。2人はきっといいお友達になれると思うんだけどなー」
 まだ不満のようだ。
 そんな彼女を見て、あの人はフッと笑う。
「そう、ですわね。そうなれたらいいですわね。でも今回は遠慮しておきますわ」
「残念。でも少しは一緒に回ろうね」
「ええ、そうですわね」
 そうして2人は笑った。
 ……これ以上ここにいても仕方ない。
 甘ったるい空気も気になるし、あの人が1人になるまでどこかで待っていよう。
 僕は一度だけ振り返ると、その場を走り去った。
 そしてそれからも何度も何度も彼女の傍に寄り添おうとして失敗し続けた。
 想いを伝える術がない。それがこんなにも苦しいなんて。
 日に日に気温は暑くなり、徐々に力が奪われ衰えていくのに。
 容赦なく残った時間は削られていくのに。
 なのにあの人に振り向いてすらもらえない。
 いや、それだけならまだ良かったかもしれない。
 僕の姿を見るだけで辛そうな表情を浮かべる彼女に、僕はやるせない気持ちになってしまう。
 でも、どんなに頑張っても想いは届かない……。
 僕は最早諦めかけていた。
 もう、あの人のことを見ていられればそれでいいんじゃないかとさえ思い始めていた。
 そんな折、あいつにまた会った。
 最初、僕はあいつが直枝理樹だとは気づかなかった。
 それくらいあいつは変わっていた。
 どうしてかは僕には分からない。でもあいつを見た瞬間思った。
 僕も強くなれるんじゃないかと。
 体はこんなにも脆弱だけど、心だけでも強くあれば伝える術が君つかるんじゃないか、そう思えた。
 僕はふらつく体に激を入れ、歩き始めた。
 願おう。ただ強く願い続けよう。
 あの人のことだけを想い、生きていけば、伝えることがいつかできる。そう信じて。


 そしてとうとうその日を迎えた。
 思えば少し前に雨にあったのが拙かったのだろう。
 それを防ぐ手段を持たない僕は、雨に打たれながら彼女の匂いを追って歩き続けた所為だろう。
 次の朝を迎えたときには、元から搾りかす同然だった僕の命はほとんど失われていた。
 身体もほとんど動かず、酷く寒かった。
 それは最近急激に寒くなってきたこの気温の所為じゃきっとない。
 命が、零れ落ちていった代償に違いない。
 覚悟はしていた。
 ここに来た時には僕はもうボロボロだったから。
 だから死ぬことは怖くない。
 ただ心残りがあるとするなら、あの人に想いを伝えてないことことだった。
 伝え方が分からない。だから強い思いを抱いて彼女の傍にい続ける。
 それしか出来なかったのに、僕にはもうそれすら出来そうにない。
 必死に人目を避け、この『校舎裏』と言われるところまで這ってきたが、それで終わり。
 僕にはもう声を上げる力すら残っていなかった。
 この命が尽きる瞬間まであの人の傍にいたいという思いも確かにあった。
 でもそれがあの人の迷惑になることも分かっていたから。
 だから僕はここにいる。
 それからはあの人のことを考えながらただジッとここにい続けた。
 そして今日、僕は自分の命の火が消えようとしていることが分かった。
 悲しい、悔しい。でもどんなに思ってもどうにもならなかった。
 ただ、伝えたいだけなのに。
 ただ、ただ……。

 そして高かった日は傾き、地面に沈み暗く静かな闇へと世界は変わった。
 徐々に奪われていく体温。
 そして消えていく命。
 もう、僕には悲しさも悔しさもなかった。
 ただ一つの想いだけが僕の中に残っていた。
 ああ、消えたくない。消えたくない。この想いを伝えるまでは消えたくない。
 そう思った瞬間、僕は立ち上がっていた。
 そして残ったその命の全てを振り絞って鳴き叫んだ。
 あの人への……ママへの、大好きなママへの伝えたい想いを乗せて力いっぱい鳴いた。

 ”僕は『ここに、いるよ』と”

 そして僕の意識は闇の中へと落ちていった。

 fin


[No.609] 2008/09/27(Sat) 00:02:44

この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。


- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS