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No.627へ返信

all 第19回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/15(Wed) 00:20:21 [No.621]
場所を変えてみたら - ひみつ@大遅刻の6575 byteorz ネタバレはありません - 2008/10/19(Sun) 22:53:04 [No.651]
over - ひみつ@4844 byte EXネタバレ パロディ注意 - 2008/10/19(Sun) 13:32:31 [No.650]
犯人はだれだ!? - ひみつ@EXネタはない@9,332 byte /超遅刻すみません - 2008/10/18(Sat) 16:23:16 [No.646]
変心の実 - ち゛こ゛く@≒2331bite EXネタバレ有り - 2008/10/18(Sat) 00:57:20 [No.641]
真説・本能寺 - ひみつ@EXネタ有 時間&容量オーバー 30419 byte - 2008/10/18(Sat) 00:11:35 [No.639]
「また」リコール隠し - ひみつ@6.824kb バレなし - 2008/10/18(Sat) 00:07:21 [No.638]
[削除] - - 2008/10/18(Sat) 00:03:23 [No.637]
仲間外れでも許せる理由 - ひみつ? 9207 byte - 2008/10/17(Fri) 22:45:54 [No.636]
変わるモノ - ひみつ@22437 byte EX微バレ 容量オーバー - 2008/10/17(Fri) 22:28:04 [No.634]
0:10えむぶいぴーらいん - しゅさい - 2008/10/17(Fri) 22:13:00 [No.633]
[削除] - - 2008/10/17(Fri) 20:52:28 [No.632]
焼菓子騒動 - ひみつ@13993 byte EXネタバレ0.1%くらい - 2008/10/17(Fri) 20:47:33 [No.631]
笑顔で - ひみつ@8673 byte EXバレなし - 2008/10/17(Fri) 04:59:11 [No.630]
わたしはあなたのゆめをみる - ひみつ@8940 byte 十七禁 - 2008/10/16(Thu) 21:16:14 [No.629]
繰り返しの中の小さな矛盾。 - ひみつ@6486 byte - 2008/10/16(Thu) 18:44:20 [No.628]
かわらないきみ と かわらないぼく - ひみつ@ネタバレなし 5382 byte - 2008/10/16(Thu) 12:10:36 [No.627]
視線の先には - ひみつ@15451 byte微かにEXネタバレ - 2008/10/15(Wed) 23:47:20 [No.626]
狂った天秤 - ひみつ@9504byte - 2008/10/15(Wed) 18:31:19 [No.625]
We don't forget our journ... - ひみつ 15332byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 13:45:10 [No.624]
ずっといっしょに - ひみつ@6817byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 03:18:29 [No.623]
感想会後半戦について - 主催 - 2008/10/19(Sun) 01:31:27 [No.647]


かわらないきみ と かわらないぼく (No.621 への返信) - ひみつ@ネタバレなし 5382 byte

 くしゅっ。
 彼女がくしゃみをした。
 もうだいぶ肌寒くなったって言うのに、意地をはって薄着のまま歩き回ったから。
 結局、僕が寒くないふりをして、上着を一枚貸すことになるんだ。
 そういうところは、昔とちっとも変わらない。


――かわらないきみ と かわらないぼく――


「店の中だけだぞ」
 長い押し問答の末、しぶしぶと僕の上着を羽織った鈴は、まだ往生際悪くそんなことを言っていた。
「ここが寒いだけだ。そとは天気がいいんだから平気」
 そんな馬鹿な。外は風もあるんだから、店内の方が暖かいに決まってる。
 でも、それを言ったところでまた意地になるだけだから、黙っておく。
「なんだ、にやにやして気持ち悪いな」
「いや、気持ち悪いはひどくない?」
「じゃあ、やらしい笑いだ」
 いやまあ、そりゃ脚に見とれてたけど。
「…気持ち悪いでいいや」
 へんなやつ、と呟いた唇で彼女はコーヒーを飲み干す。
 僕の笑いの苦さは、そいつよりはましかもしれない。
「…映画、けっこう面白かったな」
 カップを置いて、たっぷりと間をおいてからぽつりと呟いた。
 頬杖を吐き、窓の外を眺めていた僕は、その声で向き直る。
「そうだね、鈴が寝ちゃうんじゃないかと心配したけど、楽しんでもらえたならよかった」
「うん」
 頷いた彼女は、それきりまた黙ってしまった。
 カップのふちを指先でなぞりながら、言葉を探している。
 てっきり、馬鹿にするな、とか怒るのかと思っていた僕は少し拍子抜けだ。
 でも、そんな彼女を見ているのは、窓の外を眺めるよりは楽しいかもしれない。


「チケット、いくらだった?」
 ようやく口をひらいて、出た言葉はそれ。
 鈴には悪いけど、笑ってしまった。今度は純粋に、ただおかしくて。
 案の定彼女は怒ってしまったので、苦労して宥めたあと、ようやく答えられた。
「いいよ。最終日だったし、余らせるのももったいなかったから」
 彼女はだけど、と言いつのるけど、本当だと念を押して、ようやく折れてもらった。
 ひとつ問題が解決したせいか、鈴はちょっと饒舌になった。
 会社の仕事や同僚の話、気に入らない上司のことを話す彼女は、やけに無邪気で可愛かった。
 親に学校のことを話す子供みたいだ、と思ったのは言わなかった。


 お冷のグラスから、水滴がすっかりなくなる頃、僕らは店を出ることにした。
 支払いをどうするかでまた少しもめたが、今度はおごりにはさせてもらえなかった。
 もちろんおごりにさせもしなかった。
 別々に払う僕らに、店員が少しだけ迷惑そうにしていた。
 色づき始めた街路樹の下を、肩を並べて歩く。
 彼女は僕の上着にきちんと袖を通した。
 今の服装には余り合わないけれど、風邪を引くよりはいい。
「どこに行くんだ?」
 そぞろ歩く僕に彼女が尋ねる。
「さあ、どこにしようか」
 目的地も決めず、ただ歩く僕は正直に答える。
「無計画なやつだな」
「おっしゃるとおり。鈴はどこか行く予定じゃなかったの?」
 うーん、と少しだけ考えた彼女は、つまらなそうにかかとを鳴らす。
「冬服、いいのがあったら買おうと思ってた。なかったから今日はいい」
「そっか。どこか行きたいところ、ある?」
 このデート自体が急だったから、この後は本当に何も考えていない。
 彼女もたぶん、何も考えていない。
 昔と変わらない、行き当たりばったり。
「…どこでもいい」
 5分は悩んで、心底困った顔で降参した。
「本当にどこでもいいの?」
「しつこいな、理樹にまかせる」
 彼女の答えはあまりに投げやりで、僕のいたずら心が目を覚ます。
「じゃあ…、
 ――――に行こうか?」
「なああっ!?」
 耳打ちした言葉に、人目もはばからず声を上げる。
 顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせて。
「ば、まだ昼間っ」
 鈴が蹴りを放つことはなく、かわりに深い墓穴を掘りはじめた。
「へえ、じゃあ、夜ならいいの?」
「ちが、その、だからっ…行くかぼけぇっ!」
 僕の追い打ちに、鈴は蹴りでもチョップでもなく、ボディブローで突っ込んだ。


 お腹をさする僕と、そっぽを向いた鈴が、それでも肩を並べて川沿いの道を歩いている。
 小さくて河原もないけれど、懐かしすぎないからちょうどいい。
「危うくさっきのケーキが出るところだったよ」
「理樹がおかしなことを言うからだ」
 むくれる彼女だけど、僕だって文句を言いたい。
「冗談に決まってるじゃないか。まあ、たちが悪い冗談だったのは認めるけど」
「悪すぎるわっ!」
「ごめんごめん、でももう少し加減してよ」
 結局僕が謝っている。僕が悪いのは確かだから、仕方ないか。
 それに、僕がずっとお腹をさすっていたから、鈴もむくれるのをやめてくれた。
「…ごめん、まだ痛いか?」
「ん、ちょっとだけ。運動不足だね、きっと」
 うん、と頷いてももう鈴の音は聞こえない。
「ちょっとぷよっとしてる」
「くすぐったいよ」
 何も言わず、急にお腹を触るのは少し驚いたけれど、すぐに手は離れた。
 別に嫌ではなかったから、もっと触っていても良かったのに。
 それに、川沿いは冷え込むから、少しぬくもりを分けて欲しい、なんて虫のいいことを考えていた。


 秋の陽が落ちるのは早い。
 楽しい時間が過ぎるのも早い。
 のんびりしていたはずの僕らの時間が早く過ぎてしまうのは、さて、どちらの理由だろうか。
 不吉なほどに美しい夕焼けが空ばかりか地上をも染める。
 川縁の柵にもたれ、ビルの間にじりじりと沈んでいく夕日を眺めていた。
 どちらが先に言うか、気配をうかがいながら、互いに何度も言いそびれていた。
「行こう」
 結局、その言葉を口にしたのは鈴で、僕らは並んで駅へと向かう。
 口数が少ないのは別に寂しいからじゃない、と自分に言い聞かせたけれど、意味があるのかわからない。
 駅まではあと、辻ひとつ。
「夕飯、どうする?どこかで食べて…」
 悪あがき。必死だな。冷笑する僕が見ているのは、他でもない僕自身。
「ごめん」
 そんな悪あがきなど、気持ちいいほどにさっぱりと断ち切ってくれる、僕のおさななじみ。
「子供、待ってるから」
 この場面で、こんなに爽やかに、眩しい笑顔を見せる。


 長い白昼夢が醒め、僕らは家に帰る。
 駅の手前、向かい合って。
「さよなら。旦那さんによろしく」
「さよなら。奥さんによろしく」
 彼女の目に映る僕は、大人の顔をしているだろうか。
 握手して別れる、その間際。
 不意に手を引かれ、よろめいて。
 ごちん。


 最後がしまらないのは、昔とちっとも変わらない。


[No.627] 2008/10/16(Thu) 12:10:36

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