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No.630へ返信

all 第19回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/15(Wed) 00:20:21 [No.621]
場所を変えてみたら - ひみつ@大遅刻の6575 byteorz ネタバレはありません - 2008/10/19(Sun) 22:53:04 [No.651]
over - ひみつ@4844 byte EXネタバレ パロディ注意 - 2008/10/19(Sun) 13:32:31 [No.650]
犯人はだれだ!? - ひみつ@EXネタはない@9,332 byte /超遅刻すみません - 2008/10/18(Sat) 16:23:16 [No.646]
変心の実 - ち゛こ゛く@≒2331bite EXネタバレ有り - 2008/10/18(Sat) 00:57:20 [No.641]
真説・本能寺 - ひみつ@EXネタ有 時間&容量オーバー 30419 byte - 2008/10/18(Sat) 00:11:35 [No.639]
「また」リコール隠し - ひみつ@6.824kb バレなし - 2008/10/18(Sat) 00:07:21 [No.638]
[削除] - - 2008/10/18(Sat) 00:03:23 [No.637]
仲間外れでも許せる理由 - ひみつ? 9207 byte - 2008/10/17(Fri) 22:45:54 [No.636]
変わるモノ - ひみつ@22437 byte EX微バレ 容量オーバー - 2008/10/17(Fri) 22:28:04 [No.634]
0:10えむぶいぴーらいん - しゅさい - 2008/10/17(Fri) 22:13:00 [No.633]
[削除] - - 2008/10/17(Fri) 20:52:28 [No.632]
焼菓子騒動 - ひみつ@13993 byte EXネタバレ0.1%くらい - 2008/10/17(Fri) 20:47:33 [No.631]
笑顔で - ひみつ@8673 byte EXバレなし - 2008/10/17(Fri) 04:59:11 [No.630]
わたしはあなたのゆめをみる - ひみつ@8940 byte 十七禁 - 2008/10/16(Thu) 21:16:14 [No.629]
繰り返しの中の小さな矛盾。 - ひみつ@6486 byte - 2008/10/16(Thu) 18:44:20 [No.628]
かわらないきみ と かわらないぼく - ひみつ@ネタバレなし 5382 byte - 2008/10/16(Thu) 12:10:36 [No.627]
視線の先には - ひみつ@15451 byte微かにEXネタバレ - 2008/10/15(Wed) 23:47:20 [No.626]
狂った天秤 - ひみつ@9504byte - 2008/10/15(Wed) 18:31:19 [No.625]
We don't forget our journ... - ひみつ 15332byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 13:45:10 [No.624]
ずっといっしょに - ひみつ@6817byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 03:18:29 [No.623]
感想会後半戦について - 主催 - 2008/10/19(Sun) 01:31:27 [No.647]


笑顔で (No.621 への返信) - ひみつ@8673 byte EXバレなし

 いつもの中庭の木陰で、本を開いている。もう、読まなくても全てそらで言えるほど、擦り切れても、それでもずっと読み続けてきたこの本。わたしの全てが書いてある。
 開いているだけで、私の視線は上を向いていた。青く晴れ渡った空がある。今日もいい天気。暢気にそんなことを考えていた。今日が、この時間が、一瞬の永遠が、最後なのに。
「いやっほー」







『笑顔で』







「……こんにちは」
 右手をシュタッと挙げて、挨拶してくる彼女に対して、冷静にお昼の挨拶を返す。今、お昼だったっけ。まあ、そんな瑣末なことは、今の状況ではどうでもいいことだろうけど。
「隣いい?」
 わたしは無言で体を移動させて、空間を作る。それを返事と取ってくれたらしく、彼女も嬉しそうに「ありがとう」と言って、わたしの横に腰を下ろした。
「驚かないんだね」
 つまんないなぁ、と口を尖らせて言う。何を言うのか。内心とんでもなく動揺している。ただ、リアクションというものを知らないだけであって。「ああ、お姉ちゃん、リアクション苦手だもんね」この子は……。
 ジト目で美鳥を睨む。口元をニンマリとさせて笑っていた。
「はあ」
 この能天気そうな顔を見ていると、なんだか全部どうでもよくなった。顔は一緒なんだけど。
「ああ! 何ため息吐いてるの? 幸せ逃げちゃうよ? もったいなーい!」
「うるさい」
「んふふふ」
「はあ」
 何がおもしろいんだか。変な顔で笑ってる。なんだかむかつく。いや、顔は一緒なんだけど。
「なによー。なになに? あたしのこと嫌い? うざい?」
「若干」
「ひどっ!」
「嘘です」
 嘘に決まってる。それも分かってたんだろう。だよねー、とか言って、美鳥はもたれ掛かっていた木から体を離し、ごろんと芝生の上に寝転んだ。気持ち良さそうな顔をしていた。そんな美鳥をぼんやりと見ていると、わたしの視線に気づいたらしく、ばんばんと地面を叩き出した。わたしにも寝ろと言っているらしい。なので、わたしは本を読み始めた。
「って、おーい。無視しないでよー」
「冗談です」
「流石に傷ついちゃうよ。あたしだって結構繊細なこころの持ち主なんだから」
「へえ」
 気の無い返事をしてみる。そうすると、今度はぶーぶー、とブーイングをしだした。少し、笑ってしまった。わたしがこんな風に素で冗談を出来る相手は、この子以外いないなぁ、なんてことをしみじみ感じる。
「どうしたの?」
 そんなことを考えていると、傍から見たら呆けているようにしか見えなかったようで、美鳥がはてな顔で見ていた。なんでもない、と言うジェスチャーをすると、「まあいいや。さっさと寝転べー」と服の襟をふん掴まれ無理矢理寝そべられた。
 空は見えなかった。木の葉が視界全部を覆ったせいだ。
 目を閉じる。風も無い。虫の鳴き声もしない。無機質な闇が広がる。今の状況の異常さを示唆しているような気がした。でも。
「きもちいいねー」
 その声を言葉を聞いた途端、わたしも気持ち良くなった。二人で並んで寝転ぶ。たぶん、わたしがずっと憧れていたこと。所謂、夢。今それが実現している。二人で遊んでいた記憶がよみがえる。鏡越しにしかわたし達は、言葉を交わすことも出来なかった。言ってしまえば、全てはわたしの想像の産物に過ぎなかったわけだし。でも。
 そっと美鳥がわたしの右手を掴む。そのわたしの右手から伝わってくる体温は本物で、感触も本物で、わたしはギュッと強く握り締めた。美鳥とこうして会えたことが嬉しくて、それを噛み締める。
「こういうのね、憧れてたんだー」 
 わたしも。
「こうやって触れ合いたかった」
 わたしも。
「お姉ちゃんの手、温かい」
 美鳥だって、温かい。
「なんだか夢みたい」
 わたしも、夢見てた。
「あはは。まあ夢みたいなものか」
 いやだ。こうしてずっと遊んでいたい。美鳥と。二人で。わたしはそれで十分なのに。
「もうすぐ終わっちゃうんだよね」
 そんなこと言わないで。
「そうですね」
 感情とは裏腹に冷静な言葉が、わたしの口から発せられる。終わらせたくないと、一番願っているわたしが、それが来てしまうことを確信している。この世界が終わるということは、わたしの人生の幕も閉じるといういこと。でも、今嫌なことは、それ以上にこうして出会えた美鳥とお別れしなければいけないこと。わたしは、馬鹿なんだろうか。馬鹿なんだろう。馬鹿なんだ。馬鹿だ。ものすごく馬鹿。馬鹿。
「粋なことするよね、恭介さんも。最後くらいお別れ言わせようとしてんだよ。あの人だって、自分のことだけで精一杯だろうに」
「強いんですよ。きっと」
「そうだね。まあ、でも、そのおかげでこうして出会えたんだし。この時間を目いっぱい楽しもうよ」
「そうですね」
 そうだ。その通りだ。悔いなんか残したくない。やりたいことをしよう。でも。
 いざ、そう考えると、何も思いつかない。それは、美鳥も同じようで、えーとー、と悩んでいた。その姿がかなりかわいいと思ってしまった。まあ、同じ姿なんだけど。
「よし!」
 何か思いついたらしい。
「お喋りしよう!」
 何も思いつかなかったらしい。流石、わたしの妹。
「で、お題でもあるんですか?」
「無いよ!」
 自信満々だった。
「思うが侭にお喋り! 女の子らしいと思わない?」
「別に」
「女の子らしい話と言えば、ずばり恋愛話だね!」
 人の話を聞いていない。というか、聞こえていてスルーしているという線が色濃い。しかも恋愛話って……。
「で、お姉ちゃんは理樹くんのことがずばり好きだ!」
「いえ、それは……」
 無いとは言い切れないのが悔しい。というか、一度あれやこれやをしてしまったりしている時点でアウトだ。でも。
「直枝さんとは、あれきりという、割り切った関係とういうことでひとつお願いします」
「えろーい」
 何がだ。
「そういう美鳥の好きな人はずばり直枝さんですね」
「ぬ、ぬぅ」
 言い返せないらしい。だめ姉妹だなぁ、とつくづく感じてしまう。真っ赤な顔で、未だに、ぬう、と唸っている美鳥を見ているとかわいくて羨ましく思う。あの、それは顔は一緒ですけどね。
「ふふふ」
「な、なに笑ってるの?」
「美鳥、かわいいですね」
「な、にゃに言ってんの!」
 更に顔を真っ赤にして、噛みながらの反論。同じ顔じゃん! と言ったのは聞かなかったことにしよう。
 楽しい。本当に。その後、美鳥から、恋愛話は置いておいて、と路線変更の提案があったので、リトルバスターズとしての活動遍歴などを色々と話した。美鳥は、笑顔で聞いてくれた。わたしも普段に無い饒舌ぶりだった。でも。
 楽しい時間ほど過ぎるのは早い。
「楽しいね」
 本当に。
「でも、もうお別れみたい」
 嫌だよ。
「そんな顔しないで」
 休み時間にチャイムが鳴るみたいに、簡単にこの時間も終わりだということを告げる合図が。世界の崩壊。それが始まった。
「結構、あれだね。安っぽい感じがするね。こう、発泡スチロールが削れていく感じ? うまい例えじゃない?」
 まだそれは遠くの方から始まっていたので時間はまだある。
「あのね、美鳥。まだ、まだまだ、話したいことがあるんです」
「うん」
「この間、鈴さんが」
「うん」
「あの……すごく……」
 それ以上話すことが出来ない。涙と鼻水が邪魔をする。まだいっぱい話したいことがある。まだいっぱい遊びたい。まだいっぱい触れていたい。これでお別れなんて嫌だ。嫌だよ……。
 ふわりと、温かさがわたしを包む。美鳥がわたしを抱きしめていた。
 お姉ちゃんなのに、しょうがないなぁ。そんなことを言われても、わたしは反論出来ないでいた。
「あたしもこれでお別れなんて本当は嫌なんだけど」
 だったら。
「でも、あたしは、こうして抱きしめることが出来ただけで満足もしちゃったりしてるんだー」
「え?」
「だからね、これでお別れ。ばいばい、だよ」
 見て。美鳥が言う。世界の崩壊とともに、美鳥の身体も少しずつ、欠けていっていた。
 ギュッと、わたしも力を込めて抱きしめる。少しでも、美鳥の身体が残るように、力を込める。だって、これで終わりなんて、嫌だ!
「大丈夫だよ」
「何が、ですか?」
「これで終わりなんかじゃないから」
「だから、何が?」
「理樹くんと鈴ちゃんは、強くなったんだよ。お姉ちゃん達が強くしたんだよ」
「……」
「きっと信じられない事だって起こるんだよ」
「でも、美鳥が!」
「いいの。じゃあねー」
 暢気なお別れの挨拶。あの子らしいと言えばらしい。だから、わたしも言わなければ、きっと、駄目なんだ。これはお別れだけど。お別れじゃないから。だから。
「バイバイ。美鳥」
「あ、あとね、妹からのアドバイス!」
 声だけになっても、しぶとく話しかけてくる妹にずっこけそうになる。笑ってしまった。そして、こんなお節介な妹を持てたわたしは幸せ者だと思う。
 だから、笑顔で、私も消えていく。バイバイ。







 病室のベッドで目を覚ました時、奇跡というものはあるのだなぁ、と。真っ先に思ったことがそれだった。事の真相を聞いて、奇跡と考えたことを恥じた。これは努力の結果であって、決して奇跡なんて簡単な言葉で片付けては駄目だと思った。
 比較的。あくまでリトルバスターズの中での話、軽症の部類だったらしいわたしは、すぐに退院することが決まった。当分、このまま本の虫状態の入院生活でも良かったとは思ったことは内緒。







 学校に復帰した日。
 まだリトルバスターズとして、退院は一号である。本当は内緒で退院して、しなりと教室で本を読みながらおはようございますと言って驚かせるということも考えていたのだが、毎日お見舞いに来て、早く皆帰ってこないかなぁ、と連呼されてたら、つい退院の日取りをぽろりと溢してしまったので、それは無理になってしまった。その時、抱きつかれて変な声を出してしまったことは内緒。直枝さんが鈴さんからハイキックをいい角度で貰っていたことは知っておいて欲しい。
 やや、緊張気味である。美鳥の最後の言葉が思い浮かぶ。まだ驚かせたいと思う心はあるようで、退院一発目の景気付けとしては良さそうだ。
 がらりと教室の戸を開く。随分早く教室に着いたというのに、既に二人、そこには居た。嬉しそうに近づいてくる。
「おはようございます、鈴さん」
「うん。おはよう、みお」
 美鳥。
「おはようございます」
 見ててね。
「理樹くん」
「う、うん! お、おは、おは、おはよう!」
 効果は如何程だろうか。ねえ、美鳥?







「妹からのアドバイス! 弾ける笑顔で名前を呼んであげると、男なんてイチコロだよ!」


[No.630] 2008/10/17(Fri) 04:59:11

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