第19回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/15(Wed) 00:20:21 [No.621] |
└ 場所を変えてみたら - ひみつ@大遅刻の6575 byteorz ネタバレはありません - 2008/10/19(Sun) 22:53:04 [No.651] |
└ over - ひみつ@4844 byte EXネタバレ パロディ注意 - 2008/10/19(Sun) 13:32:31 [No.650] |
└ 犯人はだれだ!? - ひみつ@EXネタはない@9,332 byte /超遅刻すみません - 2008/10/18(Sat) 16:23:16 [No.646] |
└ 変心の実 - ち゛こ゛く@≒2331bite EXネタバレ有り - 2008/10/18(Sat) 00:57:20 [No.641] |
└ 真説・本能寺 - ひみつ@EXネタ有 時間&容量オーバー 30419 byte - 2008/10/18(Sat) 00:11:35 [No.639] |
└ 「また」リコール隠し - ひみつ@6.824kb バレなし - 2008/10/18(Sat) 00:07:21 [No.638] |
└ [削除] - - 2008/10/18(Sat) 00:03:23 [No.637] |
└ 仲間外れでも許せる理由 - ひみつ? 9207 byte - 2008/10/17(Fri) 22:45:54 [No.636] |
└ 変わるモノ - ひみつ@22437 byte EX微バレ 容量オーバー - 2008/10/17(Fri) 22:28:04 [No.634] |
└ 0:10えむぶいぴーらいん - しゅさい - 2008/10/17(Fri) 22:13:00 [No.633] |
└ [削除] - - 2008/10/17(Fri) 20:52:28 [No.632] |
└ 焼菓子騒動 - ひみつ@13993 byte EXネタバレ0.1%くらい - 2008/10/17(Fri) 20:47:33 [No.631] |
└ 笑顔で - ひみつ@8673 byte EXバレなし - 2008/10/17(Fri) 04:59:11 [No.630] |
└ わたしはあなたのゆめをみる - ひみつ@8940 byte 十七禁 - 2008/10/16(Thu) 21:16:14 [No.629] |
└ 繰り返しの中の小さな矛盾。 - ひみつ@6486 byte - 2008/10/16(Thu) 18:44:20 [No.628] |
└ かわらないきみ と かわらないぼく - ひみつ@ネタバレなし 5382 byte - 2008/10/16(Thu) 12:10:36 [No.627] |
└ 視線の先には - ひみつ@15451 byte微かにEXネタバレ - 2008/10/15(Wed) 23:47:20 [No.626] |
└ 狂った天秤 - ひみつ@9504byte - 2008/10/15(Wed) 18:31:19 [No.625] |
└ We don't forget our journ... - ひみつ 15332byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 13:45:10 [No.624] |
└ ずっといっしょに - ひみつ@6817byte EXバレなしー - 2008/10/15(Wed) 03:18:29 [No.623] |
└ 感想会後半戦について - 主催 - 2008/10/19(Sun) 01:31:27 [No.647] |
いつからだろうか。 私は自問自答する。 だが考えても答えは出ない。 気づいたときには変わってしまっていたのだから仕方ない。 「ふぅー」 益体もない考えを振り払うように息を吐くと、パソコンに向き直り仕事を再開した。 変わるモノ 「あーちゃん先輩」 「ん?なに?」 顔を上げると、目の前で二木さんが少し心配そうな表情を浮かべて立っていた。 ふむ、最近ポーカーフェイスを私相手にも見せなくなってきたわね。 うん、いい傾向だわ。 ……でもどうしたのかしら。 「もしかしてお疲れですか?」 ああ、そういうこと。 さっきまでの表情を見られてたってわけね。 「んにゃ、そんなことないわよ。ちょっと考え事してただけ」 「はぁ、だったらいいんですけど」 納得したのか二木さんはさっきまで作業していた机に戻り、開いていたノーパソを閉じた。 「あら、かなちゃん。どっか行くの?」 私がそう呼びかけると、途端に彼女は不機嫌な表情を浮かべてしまった。 あー、そこは相変わらずなのね。 「その呼び方は止めてくださいといつも言ってるじゃないですか、あーちゃん先輩」 そしていつも通りの反論。 即座に反応してくれるのは可愛いけど、いい加減認めて欲しいわね。 まあ、とりあえずこの場は折れておきましょう。 「悪かったわ、二木さん。……それで、どっか行くの?」 「ええ、買出しに」 「買出し?……ああ、あれね」 記憶の中からキーワードを見つけ頷く。 確かに買いに行かなくてはならないものがあったけど、あれって結構量があったはずじゃ。 「1人で大丈夫?」 なものだからついつい尋ねてしまう。 二木さんのことだからしっかり対策済みだとは思うんだけどね。 「大丈夫ですよ。たぶんそろそろ……」 言葉を切り、寮長室の扉に視線を向けたので、釣られてそちらに首を動かすとタイミングよく扉が開いた。 「はぁー、やっと終わった……」 入ってきたのは直枝くん。 息も絶え絶えって感じね。 男子寮長が問答無用で引っ張ってちゃったけど、どんなトラブルだったのかしら。 「ちょうど良かったわ、直枝。付き合って頂戴」 「え?いや、今帰ってきたとこなんだけど……どこへ?」 「駅前に買出し」 「か、買出し?」 「そう、買出し」 にべもない二木さんの言葉に直枝くんの表情が引きつる。 「い、いや、疲れてるんですけど。せ、せめて少しだけでも休憩を」 「ダメよ、仕事はまだいっぱいあるんだから」 直枝くんの精一杯の訴えは即座に却下されてしまった。 いやー、相変わらず厳しいわね、二木さんは。 「うう、僕ただの手伝いなのに」 深い溜息を吐いて直枝くんは項垂れてしまう。 でもそこはちょっと訂正が必要よね。 「あら、何を言ってるのかしら。直枝くんは次期男子寮長なんだからただの手伝いなんかじゃないわよ」 もうすでに私と現男子寮長の間では確定事項な事柄だ。 というか彼以上の人材は現状いない。つかいるならすでに寮会の仕事を手伝わせてる。 「やっぱり確定なんですね」 「当然」 少し胸を反らせて答えると、直枝くんはがっくりと肩を落としてしまった。 「大変ねー、直枝は」 からかい気味に二木さんは直枝くんに話しかけるけど。 「何言ってんの。二木さんも私の後継者確定なんだから2人で頑張るのよ」 私の言葉に二木さんも深い溜息を吐くのだった。 失礼ねー、2人とも。 「コホン、とりあえず行きましょう、直枝」 「い、いやー、僕はもうちょっとここで休みたいなーって」 「却下」 「はい」 直枝くんの僅かばかりの抵抗は即座に破られてしまう。 まー、口で直枝くんが二木さんに勝てるわけないわよね。 「ほら行くわよ、直枝」 「ちょ、腕掴まないで!歩くから。ちゃんと歩くから、だから腕組もうとしないで」 直枝くんの抗議の声を無視して二木さんはさっさと寮長室を出て行くと、そのまま彼を引きずるように歩いていってしまった そんな光景を私は笑いながら見つめる。 「相変わらず強引ね、二木さんは。……あれは積極的なのかしら、それとも無意識?」 二木さんの性格的に無意識に抱きついてるように思う。 と言うか意識したら絶対出来なさそうだわ、あの子の場合。 「さてと。じゃあ残りの仕事をさっさと終えてしまいましょうか」 いつ2人が帰ってくるか分からないし、進められるだけ進めちゃいましょう。 二木さんも言ったように仕事はいっぱいあるんだから。 ……改めて自覚するとテンション下がるわねー。 そうして仕事を再開して少し経ったころ、コンコンと控えめに寮長室の扉がノックされた。 「どうぞー。遠慮せず入ってらっしゃい」 私が答えると、おずおずと女の子が入ってきた。 「あら、棗さん」 入ってきたのは私の猫友達である棗鈴さんだった。 「どうかしたの?」 入った途端きょろきょろと中を見回す彼女に声を掛ける。 すると少しばかりうろたえた表情で棗さんは答えた。 「うみゅ、理樹は?」 「直枝くん?買出しに行っちゃったわよ」 「え……理樹、いないのか……」 私の言葉に僅かに目を見開くと、シュンと肩を落としてしまった。 分かりやすいくらい落胆するわねぇ。そんなにショックなんだ。 「何か用があったの?」 「うー、新作のモンペチが出たんだ。だから買いに行くのに付き合ってもらおうと思ってたんだが」 「新作?」 それはなかなかに聞き逃せない情報ね。 私の表情を察したのか、棗さんは小首を傾げた。 「うん?寮長もいる?」 「そうねー、一つでいいから買っておいてくれない?お金は後で払うから」 「ん。わかった」 「じゃあお願いね」 私の言葉にチリンと鈴を鳴らし彼女は頷いた。 「うみゅ〜、けどどうしよう。1人じゃ持ちきれないし……だけど馬鹿兄貴に頼むのはなんかやだし」 棗さんは腕を組んで悩みだす。 ……そんなに棗くんと兄妹で買い物に行くのが嫌なのかしら。 少し彼に同情しちゃうわね。 まあ、とりあえず目の前の彼女の悩みを解決してあげましょうか。 「大丈夫よ。直枝くんが買出しに向かったのは駅前だし。棗さんが行くのも駅前でしょう?」 「うん、駅前のペットショップ。寮長も利用してるとこだと思う」 「ああ、そこね。……そうねー、今から急いで出れば追いつけるんじゃないかしら。ちょっと前に出かけたばかりだし」 壁に掛かっている時計を見上げながら答える。 たぶん河川敷あたりで追いつけるんじゃないかしら。 「そっか」 「ええ。それに二木さんも一緒だしね。のんびりおしゃべりでもしながら歩いてるんじゃないかしら」 私の言葉に棗さんはピタリと動きを止めた。 そしてそのまま油の切れたブリキ人形のようにギギギと首をこちらに向けた。 「……かなたも?」 「ええ、そうよ。2人っきりで仲良くお買い物。……ふむ、そう口にするとなかなかに意味深ね」 「なにぃ!?」 棗さんは驚愕に目を見開く。 ……ふふ面白そうね。 「そういえば腕組んで歩いていたわね」 更に焚きつけてみた。 「なぁっ!?」 予想通り更に驚きの表情を見せると。棗さんはよろよろと数歩後ずさった。 面白い。棗さん、いい反応だわ。 「くっ、こうしてはいられない。いってくる」 「はいはい、いってらっしゃい。あっ、私の分の新作モンペチも忘れないでね」 私の言葉に一度頷くと、くるりと踵を返し棗さんは廊下を走っていってしまった。 さてさて、どんな修羅場が生まれるのかしら。 我慢しきれずついつい駅前の方へと私は視線を向けてしまうのだった。 それからしばらくして新たな訪問者を私は迎えていたのだけれど。 「ねぇ、棗くん。するなとは言わないけど、漫画だけ読みに来るのって酷くない?」 私は後ろの席で寮長室に置いてある漫画を読み耽っている棗くんに抗議の視線を向けた。 その私の視線に気だるげに彼は目線を返した。 「いいじゃねえか。たまには息抜きさせてくれ」 「だったら自分の部屋で読めばいいでしょう。……というか就活終わったの?」 私の記憶が確かなら、棗くんはまだ就職先は決まってなかったはずだ。 案の定、彼は言葉を詰まらせる。 「……だから息抜きさせてくれって言ってんだよ。自分の部屋とか教室もいいんだが、 たまには気分を変えてみたくもなる」 「分からなくもないけど人が必死こいて仕事している後ろで遊ばれてるとムカつくのよ。 こんな美少女がいるんだから漫画なんて読まずに話しかけなさいよ」 「……それは逆に仕事の邪魔にならないか?」 「いいのよー、そう思うと気分が良いから。それに黙々とやるより適度な会話の方が効率的よ」 「そういうもんかね」 疑わしそうな視線を彼は向けてくる。 まあぶっちゃけ黙々と仕事してるのが寂しいだけなんだけどね。 けど、彼が近くにいるだけで良しとしますか。 「まっ、いいけどね」 私はくるりと身体を前に戻すと、仕事を再開した。 キーボードに指を躍らせ数値を打ち込んでいく。 単純作業だけど量が膨大だから疲れるのよねぇ。 そんなことを考えつつ資料に目を通し、キーボードを叩く。 すると。 「よいしょっと」 すぐ隣で椅子を引く音がした。 思わず数字を打ち間違えてしまう。 「……棗くん?」 私はそちらを振り向き、動揺を悟られないよう、努めて冷静な声で尋ねる。 すると彼は軽く肩をすくめて視線だけこちらに返した。 「どうせ一緒の部屋にいるなら隣同士のほうが自然かと思ってな」 「……そうね」 なにがそうね、なのだろう。 自分の言葉を疑問に思いつつ私はそれ以上何も言わず、視線をパソコンに戻し作業を開始した。 そんな私の行動を見るともなく見て、彼は尋ねてきた。 「そういや理樹は?」 「直枝くん?二木さんと一緒に買出しに行ったわ」 「ありゃ、そうなの?」 声が若干気落ちしているように思える。 ……さては彼に会いたくてここに来たな。 「二木さんが強引に連れてっちゃってねー」 「へー、あの二木が」 彼も意外だったのだろう。 声に驚きが含まれているのが分かる。 「で、そのあと棗さんがこの部屋に来たから2人が仲良く買出しに行ったって焚き付けといてあげたわ」 横目で彼を見ながら答えると、彼は少しばかり非難の視線を向けてきた。 「人の妹で遊ぶなよ」 「あら、私は事実を教えただけよ」 追いかけるという選択をしたのは彼女自身なのだ。 まぁ、そうなるように少しだけ誘導したきらいはあるけれどね。 「やっ、まぁそうなんだろうけどさ。……でもあの二木がか。そいつはちょいと予想外だな」 「あら、棗くんでも予想できないことってあるんだ」 結構本気でそれは意外だった。 何でも……特に親友や仲間内で起きる出来事に対してはどんなことでも把握してると思ったのに。 「別に俺は万能じゃねえよ。特に恋愛関係は口を出す気ないからな」 「そうなの?棗くんのことだからてっきり直枝くんと棗さんにくっついてもらいたいとか思ってると考えてたんだけど」 シスコンでブラコンだからてっきりそうなるように動くとばかり思ってたんだけど。 「そりゃ本心ではな。けどそればっかりはあいつら自身が決めることさ。俺は一切関知する気はない」 ニヒルな笑みを浮かべると、彼はもうこれ以上このことを話すつもりはないとばかりに漫画に視線を落としてしまった。 ふーん、意外ねえ、本当に。 「……そう言えば棗くん自身はそういうのないの?」 気になっていた疑問を口にしてみる。 彼ってもてるくせに全然そんな噂立たないのよねえ。 「俺?」 何故か彼は心底意外そうに尋ね返す。 そんなに変な質問だったかしら。 「そう、貴方。いないの、そういう相手」 「あー、特にいねえなぁ」 ガシガシと頭を掻きながら彼は答える。 「そうなの?いつも遊んでいる……えーと、リトルバスターズだったわよね、確か。あの集団にも結構女の子いるでしょう?」 そういうのに近い関係の子とかいると思ってたんだけど。 けれど彼は首を横に振る。 「あいつらか。ないな、それは。……あいつらは俺の扱いがぞんざい過ぎる」 「リーダーなのに?」 「そいつはもう理樹に譲った」 前髪を軽くかき上げながら彼は答えた。 うーん、そんな仕草が嫌味にならず決まるとこがいやよねー。 「それに元々新生リトルバスターズは俺じゃなく理樹を中心として結成されたものだしな」 「なるほど。つまりみんな直枝くんにベタ惚れと。大変だなー、棗さんは」 同じ猫好き同士応援してあげたいけど二木さんとか他の知り合いもその面子に含まれるわけでおいそれと頑張れとは言えない。 「ベタ惚れかどうかは分からんが、好意は持ってるだろうな」 その声に一抹の寂しさを感じた。 一瞬女の子達の好意が自分に向けられてないからかなとも思ったけど、私の知ってる彼はそういうのに拘る人間じゃなかった気がする。 だとすると。 「直枝くんに構ってもらえず寂しい?」 「おう」 予想通りの回答を予想外の素直さで認めた。 「それに鈴も最近小毬とか女子メンバーとばかりつるむようになってなぁ。はぁー、すげえ寂しいぞ」 それは聞いてないんだけど、ホント筋金入りのシスコンね。 私は軽く溜息をついた。 「なんだよ、失礼なやつだな」 「べっつに〜。でも恋愛に興味はあるんでしょ?」 流し目で彼を見ながら尋ねてみる。……が、何故か彼は歯切れ悪くまあなとしか返さなかった。 「何よその反応。……はっ、まさか噂はマジなの?」 「はぁ?なんだ、噂って」 「えっと、男にしか興味ないって噂」 さっきからの会話を聞く限り、あながち根も葉もない噂ってわけじゃないわよね。 や、まさか真実。うわっ、それはかなりショックかも。 「ちげえよっ!!」 一拍遅れで反応が返ってきた。 「反応遅いわねー。まさか結構真実?」 「1パーセントも混じっとらんわ?あまりの内容に言葉を失ってただけだ。誰が噂してるんだ?西園か?西園なんだな?」 えらく真剣な表情で詰め寄られる。……ち、近いって。 それになんで西園さんの名前が出るのかしら。 「と、特定の誰かというよりそこらかしこで噂になってるわよ」 「……マジかよ」 青ざめた表情で呆然と棗くんは呟いた。 いやー、そんなにショックを受けられるとさすがに可哀想になるわね。 「貴方が彼女でも作れば一発で消えるんじゃない、そんな噂。と言うかもてるのに彼女を作らないからそんな噂が出回るのよ」 前々から思っていたことを指摘すると彼は深い溜息をついて私を見返した。 「そう言われてもなぁ。女に興味ないわけじゃないが彼女作る気が沸かないんだよな」 「なにそれ」 「別に。恋愛よりも理樹たちとバカやってる方が今は楽しいって思ってるだけだよ」 「ふーん」 なんと言うか見た目に反して男の子……て言うか子供よね。 まっ、そこが彼らしいちゃらしいんだけどね。 ……あー、どうしようかしら。話の流れ的に聞きやすいけど……いいや、聞いちゃえ。 「でも付き合ってみたらそっちの方が楽しくなるかもよ」 「楽しく、ねぇ」 「ほら、ちょうどここにこんなお買い得な美少女がいることだし、試しに付き合ってみない」 しなを作り、ちょっと冗談めかしつつ尋ねてみた。 そんな私を彼は頭の先から爪先までじっくりと見渡してポツリと呟いた。 「ないな」 「ちょ、なにそれ。ひっどいわねー。結構傷くつわよ」 なにあっさりさっぱり結論を出しやがるかね、この男は。 私は怒鳴りだしたい気持ちを抑え付け、できるだけいつも通り冷静な態度を見せる。 「あー、まぁ、お前ってうちの連中みたいにぞんざいな扱いもしないし、クラスの女子みたいに変に持ち上げてもこないからさ。付き合い易いっちゃ易いし、何よりお前との会話は楽しいけどさ」 「けど?」 そこが重要だ。 と言うかかなんでそんな高評価であっさり断られる? 「主導権を握れる自信がねぇ。つか絶対振り回される」 「おいおい」 それが理由? 私は軽く眩暈を覚える。 が、何とかそれをおくびに出さず僅かに溜息を吐くだけに留める。 「まあそう言うわけだから軽い気持ちで付き合う気にはなれないんだ。わりぃな」 彼は無駄に爽やかな表情でそう締めくくった。 軽い……ね。まっ、そういう態度で誘ったんだから仕方ないか。 よし、気持ちを切り替えよう。 「まー、棗くんがそう答えるのは分かってたわ」 「ん、そうか?」 少し意外そうな表情を棗くんは覗かせる。 その表情が少し可愛いなって思うけど、ここは敢えてそんな気持ちは切り捨てよう。 「ええ。だって私ってこんなでしょ」 自分の胸を両手で持ち上げるような仕草をし、そのまま腰、お尻と手を這わせる。 傍から見るときっとエロイ仕草よね。棗くんも少し顔を赤らめてるし。 まっ、それは無視して行きましょうか。 「ほら、私ってロリでもペタでもないじゃない。……はぁー、実年齢より年上に見られる自分の容姿が恨めしいわ」 止めに顔を隠し、ヨヨヨと嘘泣きをしてみた。 「だー、誰がロリコンだ、誰がっ」 「棗くん」 すかさず人差し指を突き刺してあげる。 私の迷いのない仕草に一瞬棗くんは動きを止める。 「だ、誰が噂をしてるんだ?」 冷や汗を掻き、顔を引き攣らせながら棗くんは聞いてきた。 分かり切ってることことなのにぃ。 「学園中の噂ね、たぶん」 「ぐあっ……」 今度こそ頭を抱えると、棗くんはその場でのた打ち回るのだった。 うん、ちょっと楽しいかも。 そんな奇行にはしる彼の様子を見て楽しんでいると。 「なんか寮長と恭介さんの組み合わせって珍しいデスね」 寮長室の扉を開け、三枝さんがひょっこりと顔を出して私たちを見ていた。 「あら、どうかしたの、三枝さん」 珍しい訪問者に声を掛ける。 あの三枝さんが寮長室に来るなんてよっぽどのことよね。 「やはは、ちょっとかなたがいないかなって思って」 「二木さん?なんだ、そういうこと。てっきり日頃の行いを反省しにきたのかと思ったわ」 私がそう言うと三枝さんはあははと汗をかきながら頭を掻いた。 ふむ、自覚はあるわけね。反省もして欲しいんだけどな。 「そ、それは置いといてですネ……えーっと、お姉ちゃんは」 「ああ、はいはい。二木さんなら直枝くんと仲良く買出しに行っちゃったわよ」 「なんですとーっ!!」 驚愕の表情を張りつかると、身体をよろめかせた。 棗さんもそうだけど、二木さんがそんなことするのってそんなに意外かしら。 と、思ってると。 「言っとくが鈴も一緒だぞ」 いつの間にか復活した棗くんがそう告げると、あっさりと三枝さんは落ち着きを取り戻した。 ちっ、余計なことを。 「なるほど、鈴ちゃんも一緒かー。じゃあ何にも問題ないデスネ。それによく考えたらあのお姉ちゃんが例え2人っきりになれたとしても理樹くんとどうにかなるわけないっすね。めちゃ奥手だし」 「実の姉に酷い評価ねー」 「やー、事実だからしょうがないデスヨ」 能天気に彼女は笑う。 ……あー、そういえば気になってたんだけど。 「ねえ。なんで棗くんがのた打ち回ってた時つっこまなかったの?」 あの異様な光景をスルーするなんて、私なら出来なかったと思うんだけど。 「へ?ああ、恭介さんの奇行にいちいちつっこんでたら体持ちませんヨ。そう言うのは理樹くんの役目なんデスヨ」 彼女の言葉に少しだけ同情の視線を棗くんに向ける。 どんだけ軽く見られてるのかしら、彼は。 「あ、あー、そういやお前は二木に何の用だったんだ?」 声に若干の動揺を見せながら棗くんは三枝さんに尋ねた。 「え?ああ、シフォンケーキを作ったんで味見してもらおうかなって思いましてネ。でもお姉ちゃんいないならどうしよっかなぁ」 頭を掻きながら軽く悩むと、すぐさまポンと手を叩いた。 なにか結論が出たのかしら。 「そういや寮長へクド公から伝言があったんですヨ」 「え?能美さん?」 い、いきなりなんなのかしら。 「新しい茶葉が手に入ったんで近々持っていくそうデスよ」 「あ、ああそうなの。じゃあ待ってるわって伝えといて」 「はいはーい。了解でーす。じゃあはるちんはこれにて帰ります」 ビシッと敬礼をするとそのまま三枝さんは寮長室を出て行こうとした。 「ちょ、シフォンケーキは誰に味見してもらうの?」 私が慌ててそう聞くと、忘れてましたよなどとのたまわった。 だ、大丈夫なのかしら。 「えっと、美魚ちんに頼んでみますヨ」 「西園さん?」 「いやー、あとで本借りに行くつもりだったからちょうど良かったデスネ。ってことで今度こそあでゅーです、寮長、恭介さん」 「え、ええ」 「お、おう」 返事を返したときにはもう彼女の姿は見えなかった。 相変わらず嵐のような子ね。 誰が言ったか騒がし乙女の面目躍如ってとこかしら。 ……けれど。 「変わったわね、彼女」 「ん?そうか?」 彼女が出て行った扉を見ながら零した私の呟きに彼は反応した。 「あら、かなり変わったじゃない。二木さんのこともそうだけど他にも色々と」 例を挙げればキリがないけど、前より楽しそうなのは間違いない。 私はパソコンに視線を落としたまま言葉を続ける。 「三枝さん……ううん。二木さんも含めてリトルバスターズのメンバーは大なり小なり変わったわよね」 あの子達の顔を思い浮かべる。 あの来ヶ谷さんすら変わったのよね、いい方向に。 「二木はメンバーじゃないんだがな」 「同じようなもんでしょ。……それに特に棗さんと直枝くんは変化が顕著ね」 私の言葉に微かに隣の椅子がギシッと軋んだ。 「……お前の目から見てあの2人はどう変わった?」 「どう?」 棗くんの言わんとする意図がいまいち分からなかったけど、私は素直に答えた。 「頼もしく……なったかしら。成長した、と言い換えてもいいけど」 私がそう答えると、彼は満足そうにそうかと呟いた。 「でも貴方は変わらないわね」 顔を見ないまま呟く。 すると彼は当然と言った感じで彼は答える。 「俺はバスターズの要だからな。おいそれと変われないさ」 「リーダーは譲ったのに?」 「それはそれ、これはこれさ」 楽しそうに彼は笑う。 それが凄く晴れ晴れとしたものだったので、私はそうとだけ呟いた。 「けどそれも俺が卒業するまでだな。そりゃ今後も関わると思うが、あのグループを纏めていくのは理樹と鈴だろうからさ」 「全てを託すってこと?」 「舵取りはすでに任せちゃいるが、あのグループを率いる責任ってやつも背負ってもらうつもりだ」 「なるほど。そりゃ大変だ」 と、人事ではない。 私も寮長を辞して二木さんに役目を譲るんだ。そう言う事もちゃんと考えなきゃいけないわね。 ああ、二木さんだけじゃない、直枝くんも一緒か。 「けど直枝くんは二束の草鞋で大変ね」 「ん?ああ、そういやそうか。だが理樹なら大丈夫さ」 全幅の信頼、そう取って構わない声で彼は頷く。 そしてふと気づいた。 彼の彼らに向ける視線の変化に。 「棗くん、前言撤回」 「あん?」 「君も十分変わったわよ」 ニコリと笑顔を向けて教えてあげる。 「え?」 私の言葉に呆けた表情を見せる。こう言う表情は珍しいわね。 「ちゃんとあの子達を信頼できるようになったのね」 「は?前から信頼してるぞ」 「それは保護者としてでしょ。あの子達のできる範囲を知ってるからこその信頼。けど今は根拠なく信じられるでしょ?」 「あ、ああ。そう言われればそうだな。……けどそれはあいつらが成長したからだろ」 確かにそうかもしれない。 けれど。 「けど昔ならなんだかんだで世話を焼いてたはずよ。託すなんてしなかったんじゃない」 全部自分でしようとしなくなった。さっきの彼の言なら責任を全部背負い込まなくなった。 それはきっと成長に違いない。 「……参ったな。よく見てるな」 「あら、これでも寮長なのよ。その辺分かんなきゃ務まんないわ」 「俺は男子だが?」 「ああ、貴方たちは特別。なんてったって色々な意味で有名だもの」 笑いながらそう告げると彼は苦笑を返すのだった。 そしてそれからも適度のおしゃべりを交えながら私は仕事の励み続けた。 「ふぅー」 吐き出すように体中の空気を外に出すと、背もたれにもたれ掛かった。 「ん?終わったか?」 「ええ、目処わね。けど終わりはしないわよ、まだまだ」 仕事はホント、山のようにある。 はぁー、何でこんなにあるのかしら。 出来れば自分の仕事は全部片付けてから二木さんに引き継ぎたかったんだけど、こりゃ無理かも。 「そっか、大変だな」 「ええ、大変なのよ」 コキコキと肩を鳴らしながら答えた。 うう、自分でも思うけどおばさんくさいなぁ。これでもうら若き乙女なのに。 「たまには息抜きしたらどうだ、俺みたいに」 漫画を片手にのほほんと彼は告げる。 ……なんか殺意沸くわねぇ。 「……目が怖いぞ」 「そう?気のせいよ」 私の言葉に納得してないのか怪訝な表情を浮かべたまま彼は読書に戻る。 その横顔を見ながら私はもう一度小さく嘆息する。 はぁー、ホントなんでなのかしら。 自分の心に生じた変化に頭を悩ましてしまう。そんなこと悩んでる暇ないのに。 「ボーっとしてるけど本当に大丈夫か?」 いつの間にか彼は近づき私の顔を覗き込むと、そのまま吐息が掛かる距離まで顔を寄せ頬にかかる髪を払いのけた。 「っ!!」 思わず身体が硬直してしまう。 それどころか心拍数が異常に跳ね上がってしまう。 けれど彼は私の気持ちに気づくことなく話しかけてくる。 「ふむ、顔色は悪くないみたいだし大丈夫か。……まっ、ホント、適当に休んどけよ」 「……」 私は口をパクパクさせるだけで何も言葉を発することが出来なかった。 こいつは、この男はなんてことをするんだろう。 容姿も性格もいいし、仕草も決まってるくせに自分がした行動が何をもたらすのか全く気づいてないのだろう。 ああ、腹が立つ。 私は思いっきり彼を睨みつけた。 「な、なんだよ」 でも一番腹が立つのは私がこんな気持ちを抱え彼に翻弄されていることだ。 本当、どうしたことだろう。 少し前までは彼に恋する女の子達を微笑ましく見ていた立場だったのに最近ではこの様だ。 何が私の気持ちに変化を与えたのか見当も付かない。 「はぁー」 仕事は終わらない。変な悩みも抱えてる。 どうしろって言うのよ。 「はふぅ」 そのまま机に突っ伏すように倒れこむと、彼の姿をちらりと横目で確認した。 片手で漫画を持ったままではあるが、表情は心配そうに私を見ている。 …………ああ、そうね。 この煮詰まった頭をどうにかするには彼の言うとおり息抜きする必要あるかもしれない。 「ねえ、棗くん」 「ん?」 気持ちが変化したのなら行動も変化すべきかしら。 分からない。 分からないけど少しは動いてもだろう。 「今度の日曜暇?暇よね?」 「え、えーと……」 慌てて彼はスケジュール帳を取り出し、予定を確認してるがそんなこと関係ない。 私がこう結論を出すきっかけを作った責任を取ってもらわなくちゃ。 「あ、いや、その日はだな……」 「問答無用。私に付き合いなさい。と言うか私を遊びに連れて行って」 「おい……」 半眼で睨んでくるけど私はそれを涼しげに受け流す。 「いいじゃない、たまには。デート、しましょ」 私は飛び切りの笑顔を彼に向けるのだった。 とりあえずはそこから始めてみよう。 fin [No.634] 2008/10/17(Fri) 22:28:04 |
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