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No.657へ返信

all 第20回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/30(Thu) 20:57:32 [No.656]
いしのいし - ひみつ・遅刻@EX分はない@4685 byte - 2008/11/02(Sun) 14:47:27 [No.675]
いしのいし 修正版(クドのセリフの途切れなどを修正) - mas - 2008/11/03(Mon) 01:29:49 [No.680]
MVPここまで - 主催 - 2008/11/01(Sat) 00:29:01 [No.669]
”初恋”を恋人に説明するとき - ひみつ@6566バイト EX佳奈多シナリオバレ - 2008/11/01(Sat) 00:26:11 [No.668]
[削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:13:33 [No.667]
[削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:08:59 [No.666]
いしに布団を着せましょう - ひみつ@ 13.095byte EXバレなし - 2008/11/01(Sat) 00:01:38 [No.665]
路傍の。 - ひみつ@初@6498byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:56:34 [No.664]
約束 - ひみつ@20161 byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:26:00 [No.663]
石に立つ矢 - ひみつ@12553 byte ネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 20:28:57 [No.662]
重い石なのに柔らかい - ひみつ@5791 byte EX微ネタバレ 微エロ - 2008/10/31(Fri) 16:23:12 [No.661]
『重い石なのに柔らかい』解説 - ウルー - 2008/11/03(Mon) 00:51:50 [No.677]
みんなの願い - ひみつ@4564byte 初めて EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 01:25:44 [No.660]
死体切開 - ひみつ@ 6546 byte EXネタバレなし スプラッタ・猟奇注意 - 2008/10/30(Thu) 23:52:21 [No.659]
ともだち記念日 - ひみつ@14988byte - 2008/10/30(Thu) 23:40:37 [No.658]
10本目の煙草 - ひみつ@ 7033 byte EXネタばれ多分ない - 2008/10/30(Thu) 21:46:20 [No.657]
MVPとか次回とか - 主催 - 2008/11/03(Mon) 00:52:33 [No.678]


10本目の煙草 (No.656 への返信) - ひみつ@ 7033 byte EXネタばれ多分ない

 紫煙が浮かぶ。
 吸って吐く。吐いて吸う。誰も立ち入ってはいけないはずの屋上で、太陽に向かって煙草の煙が立ちのぼる。
 その仕草は作業のようではなくて、だけど決しておいしそうに吸うようにも見えない。止まらずに吸っては吐いて、吐いては吸う。煙が空に消えていく。

 ガタ

 止まる。そして億劫そうに物音がした方を向く。入り口が閉鎖された屋上、その唯一の出入り口の窓の下、女の子が独りで立っていた。
「二木か」
「恭介さん」
 名前を呼び合った二人にそれ以上の会話はない。恭介は再び煙草を吸うし、佳奈多もそれを止めようとしない。ただゆっくりと佳奈多は恭介の隣まで足を動かす。
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。言葉はない。

「恭介さん、煙草を吸う方だったんですね」
 煙草が根本近くまで燃えた時に、蚊の泣くような佳奈多の声。
「今日だけだ」
 いつもより小さく短い恭介の声。また煙を吸う。
「いいのか? 風紀委員長が喫煙者の隣でゆっくりしていて」
 煙を吐く。
「もう、どうでもよくなりました」
 何が、なんで無粋な事は聞かない。それは他人が聞いてわかる物ではない事くらい、誰にでも分かる。佳奈多は空を見上げる。晴天の空はどこまでも気持ちよくて、憂鬱だ。
「どうして私は戦っていたんだっけ?」
 声と煙は空に溶ける。やがて恭介は煙草を吸い尽くし、残ったそれを灰皿に押しつけた。
「なんで灰皿なんて持っているんですか?」
「灰皿を買うのに年齢は確認されない」
 にべにもなくそう言って、新しい煙草を取り出した。安っぽいライターを取り出して、火が出るように摩擦する。
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「じゃあ煙草はどうやって?」
「職員室でくすねてきた」
 そう言えば漂ってくる臭いがさっきと違うと、佳奈多は灰皿に目を落とす。見ればそこにある煙草に同じ物は何一つとして無かった。一箱くすねるとすぐばれるから、開いている箱から一本ずつくすねてきたのだろうと、佳奈多は適当に当たりをつける。
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「恭介さん」
「ん?」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「後悔してますか?」
 止まる。
「後悔か」
「はい」
「そう、だな」
 紫煙が浮かぶ。吸われる事のない煙がユラユラと煙草から浮かんで空に消える。
「もし俺があのバスに乗ってたら。そう思う事はあるよ」
 みんなを助けられたのではないか。
「それを後悔と呼ぶのかは知らないがな」
 そしてまた吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「けどな、結局歩いていくしかないからな」
 ピクリと佳奈多の体が震えた。そろそろと、腫れ物にでも触るように恭介の顔を見る。疲れきった顔だった。
「強いんですね、恭介さんは。私は、そこまで強く在る事は出来ません」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「強くなんてないさ。俺は弱いよ」
 根本まで吸い尽くした煙草を灰皿に押し付けて、新しい煙草を取り出しライターをこする。また別の煙草の匂いが周囲に満ちる。
「強かったらこんな事で時間を潰してやしないさ。もう、歩き始めている」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「それでも私よりは強いと思います。私は歩こうとすら、思えませんでしたから」
「だけど強いのが正しいとは限らない」
 断定する恭介。そして佳奈多が口を開く前に強い口調で続ける。
「もしかしたらみんなは、いつまでも一緒に立ち止まっている事の方が嬉しいかも知れないからな」
 吐いて吸う。吸って吐く。煙が空に消えていく。それを見る。
「恭介さんは、」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「恭介さんは、どうして煙草を吸っているのですか?」
「また歩き出す為さ」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「みんなの事に区切りをつけないと歩けそうにないからな、煙草は線香に似てるだろ」
「素直にお線香をあげようとは思わなかったんですか?」
「それは思わなかったな」
 佳奈多の呆れたような言葉に、煙を吐きながら答えを返す。
「線香は、もう何十本ってあげたからな。でもみんなの事に区切りはつけられなかった。どうしても引きずっちまうんだ」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「今の俺はみんなの重さを引きずったまま歩けそうにないからな。煙草を吸えば、今だけは忘れられそうな気がした」
 そして吸い尽くした煙草を灰皿に押しつけて、また別の煙草を取り出した。
「これで最後だな」
「今、ポケットから煙草が見えた気がしたんですけど」
 煙草を口にくわええてライターを擦る。吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「線香の代わりだからな、9本でいいんだ。間違えて1本余分に盗ってきちまった」
 佳奈多は浮かんで消える紫煙を見る。恭介の方は見ていない。
「1本目は鈴」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「2本目は理樹、3本目は真人、4本目は謙吾、5本目は神北」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「6本目は来ヶ谷、7本目は西園、8本目は能美。そしてこれが、三枝だ」
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「そうなんですか」
 感慨深くそう言う佳奈多。そして彼女は恭介に手を差し出した。恭介は目を見開いてそれを見る。
「本気か?」
「本気です。何ですか、その反応は?」
「いや、悪い。二木が煙草を吸う光景が全く思い浮かばなかったもんだから」
 そう言って恭介は佳奈多に煙草を握らせた。佳奈多は恨めしそうな顔をしながらもそれを受け取り、口に運ぶ。そして、吸う。
「っっっ!!?」
 げへげへごほと思い切りむせた。
「おいおい、大丈夫か?」
 心配そうな顔の恭介を涙目で見る佳奈多。
「よく、こんなもの、平気な顔をして吸えますね」
「体質じゃないのか? 俺は1本目から問題なく吸えたぞ」
 普通に答えた恭介を一回睨みつけて再度煙草に口をつける佳奈多。吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。
「げほっ」
 佳奈多は軽く一回むせた後、もう二度と吸うものかと言わんばかりに煙草を恭介に押しつける。苦笑いでそれを口に運ぶ恭介。
「無理して吸う必要なんてないんだぞ?」
「いいんです、無理してでも吸いたかったんですから」
 けほけほと喉の奥のいがらっぽさを吐き出すように咳き込みながら、佳奈多は誰にも聞かれないような声で呟いた。恭介にも聞こえないような小さな声で。
 佳奈多はけほけほたくさんむせてから、やがて落ち着く。目には涙を滲ませて。
「――酷い目にあいました」
「ああ、煙草は目にしみるからな」
 そう言って恭介は10本目の煙草を佳奈多に差し出した。
「二木、いるか?」
「いりません。それは、恭介さんの煙草でしょう」
 憮然とした顔でいい返す佳奈多。しかし恭介は手を引っ込めないで言葉を続ける。
「俺は9本しか煙草を吸わないんだ、1本余る。もったいなから誰かが吸った方がいい」
 恭介は自分の口にくわえた煙草を揺らしながら言う。それをじっと見る佳奈多。
 吸って吐く。吐いて吸う。煙が空に消えていく。それを見る。
「ハァ」
 ため息をついた佳奈多はおずおずと手を出して、煙草を受け取る。
「それじゃ、頂きます」
 ついでにライターも借りて、火をつけながら煙草を吸う。
「っ! げほ、ごほげほ!!」
 途端にむせる。咳き込んで涙を流しながら、それでも煙草を吸って吐く。吐いて吸う。涙がポロポロと流れていく。
 そんな佳奈多を見ながら、恭介はそこでようやく最後の煙草を吸い尽くしている事に気がつく。恭介は億劫そうに9本目を灰皿に押しつけた。
「ああ、吸い終わっちまったか」
 ふと、思う。みんなを悼む為に9本の煙草を吸ったのならば、佳奈多が吸っている10本目の煙草は何を悼んでいるのだろうかと。
 その答えが浮かんでは消える。みんながいた過去だろうか? 笑い合えていたはずの今だろうか? 望んでいた未来だろうか? その全てにみんなの笑顔があった。
「ごほ、げほっ!」
 隣ではむせる佳奈多、目には涙。その煙が流れてきて、恭介の目をこすってゆく。目をこすった煙は空に消える。それを目で追う。
「ああ、やっぱり煙草の煙は目にしみる」
 目に入る前で光が歪む。

 晴天の昼、気持ちのいい日。煙は上に涙は下に。10本目の煙草が燃え尽きるまで。


[No.657] 2008/10/30(Thu) 21:46:20

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