第20回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/30(Thu) 20:57:32 [No.656] |
└ いしのいし - ひみつ・遅刻@EX分はない@4685 byte - 2008/11/02(Sun) 14:47:27 [No.675] |
└ いしのいし 修正版(クドのセリフの途切れなどを修正) - mas - 2008/11/03(Mon) 01:29:49 [No.680] |
└ MVPここまで - 主催 - 2008/11/01(Sat) 00:29:01 [No.669] |
└ ”初恋”を恋人に説明するとき - ひみつ@6566バイト EX佳奈多シナリオバレ - 2008/11/01(Sat) 00:26:11 [No.668] |
└ [削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:13:33 [No.667] |
└ [削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:08:59 [No.666] |
└ いしに布団を着せましょう - ひみつ@ 13.095byte EXバレなし - 2008/11/01(Sat) 00:01:38 [No.665] |
└ 路傍の。 - ひみつ@初@6498byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:56:34 [No.664] |
└ 約束 - ひみつ@20161 byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:26:00 [No.663] |
└ 石に立つ矢 - ひみつ@12553 byte ネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 20:28:57 [No.662] |
└ 重い石なのに柔らかい - ひみつ@5791 byte EX微ネタバレ 微エロ - 2008/10/31(Fri) 16:23:12 [No.661] |
└ 『重い石なのに柔らかい』解説 - ウルー - 2008/11/03(Mon) 00:51:50 [No.677] |
└ みんなの願い - ひみつ@4564byte 初めて EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 01:25:44 [No.660] |
└ 死体切開 - ひみつ@ 6546 byte EXネタバレなし スプラッタ・猟奇注意 - 2008/10/30(Thu) 23:52:21 [No.659] |
└ ともだち記念日 - ひみつ@14988byte - 2008/10/30(Thu) 23:40:37 [No.658] |
└ 10本目の煙草 - ひみつ@ 7033 byte EXネタばれ多分ない - 2008/10/30(Thu) 21:46:20 [No.657] |
└ MVPとか次回とか - 主催 - 2008/11/03(Mon) 00:52:33 [No.678] |
「メス」 「はい」 「鉗子」 「はい」 無機質な音と無感動な声がこの部屋を支配していた。点滴は一定のペースで人体へと呑み込まれてゆく。 とある高校の修学旅行へ向かう途中での事故。約四十名ほぼ全員が緊急の患者として、付近の病院へ搬送され、僕が勤めている病院にもそのうちの何人かが搬送されてきた。 先輩がトリアージ、つまりは最も生存率が高い患者を優先し、治療する順番を決めること、を行い、そのまま手術室へと向かった。僕もそれにならう。研修医の僕は治療行為を行うことができても、誰一人助けることが出来ない。だから、少しでも先輩の技術を盗もうと思う。 殺菌。そして、消毒。 オペの準備をしている最中、先輩が言った。 「直枝」 「はい」 「大丈夫か」 それは、同じような事故で生き残った僕の身を案じてくれたのだろうか。 「はい、大丈夫です」 「そうか」 先輩はもう話しかけてこなかった。 最初の患者はがっしりとした、筋肉質な少年だった。その少年を見て、僕はめまいを起こしそうになる。 その少年は、あまりにも僕の幼なじみによく似ていた。 彼の体を先輩のメスがゆっくりと裂いてゆく。その瞬間、僕は猛烈な吐き気に襲われた。 他人なのに。真人ではないのに。 このまま嘔吐してこの場から逃げ出してしまえたらどんなに楽なのだろう。しかし、許されない。歯を食いしばってこらえた。そして、一度大きく息を吐き、赤の他人への処置を眺める。 「今日はもう帰れ。そんな顔でうろうろされると助かるものの助からん」 先輩にそう言われて、無理やり帰らされることになり、家路に着く。道すがら、僕は真人に良く似た少年を思い浮かべる。 彼も真人と同じく、もう二度と目を覚ますことはなかった。 不意に視界がにじむ。現金なものだ。他人の死などもう何度も見てきたというのに。 目をこすり、再び現実を見る。いつのまにか、自宅にたどり着いていた。 時計に目をやる。とっくに日付が変わっていた。周囲の家に明かりはなく、街には僕しか住んでいないような錯覚を覚えるのは、少しセンチだろうか ドアノブに鍵を差し込み、帰宅の意を告げる。 「ただいま」 「おそい、まちくたびれたぞ、理樹」 電気をつけたリビングには、猫のように顔を洗い、眠気と闘っている鈴の姿があった。 少し驚いた。いつもならこんな時間まで起きているなんて、事をしているときにしかありえないのに。 「ごめん、もしかして待っていてくれたの?」 「夕飯、チンだけど食べるか」 「あ、うん」 「分かった」 僕の質問をさえぎって、台所に立ち、オーブンレンジのスイッチを入れる。待っている間の沈黙。今日のこともあって、僕のほうからはなんとなく声をかけづらかった。 僕たちはあの事故のあと、寄り添うように生きてきた。あんな事があっても、僕は鈴が好きだったし、鈴も僕を好いていてくれたと思う。みんながいなくなってから、僕はずっと鈴のそばにいて、ひたすら勉強に励んだ。いつかあの時のような決断を迫られたときのために。 そして、僕はバス会社からもらった多額の見舞い金で無事に医学系の大学へ合格、そのまま入学、鈴も一緒に住もうというプロポーズまがいのセリフをはいて、鈴とアパートで同棲を始めた。鈴は僕がいない間の家事を担当し、時々猫を拾ってきた。何かとお金が必要な同棲生活に、正直ペット代諸々は苦しかったけれど、鈴の喜ぶ顔が見れたならばそれだけで満足だった。そうして無事に大学、大学院生活は終わり、研修医として病院に配属されることが決まったとき、僕は鈴に正式にプロポーズした。そして、彼女の薬指には僕が渡した婚約指輪が光っている。 「あのな、理樹」 そうしているうちに、鈴が僕の前にやってきて、話しかけてきた。 「どうしたの?」 「もし、もしな、みんなが生きていたら、こまりちゃんやクドやくるがややみおが生きてたら、理樹はあたしと結婚してたか?」 驚いた。本当に驚いた。鈴の口からそんな質問がでてくるなんて。 「鈴」 「こまりちゃんやクドみたいに優しくない、くるがやみたいに胸も大きくない、みおみたいに―」 「鈴っ」 「むぎゅっ」 僕は鈴を力いっぱい抱きしめた。これ以上彼女にいらぬ不安を与えぬように。自分の思いを伝えるように。 「鈴。僕は鈴が好きだよ。誰にも、恭介にも負けないくらい好きだ。たとえみんなが、リトルバスターズのみんなが生きていても、僕は鈴とつきあっていたよ。」 「ほんとか?」 「うん」 「なら、聞いて欲しいことがあるん―」 ちょうどその時、オーブンレンジがチンと自己主張を始めた。 鈴はそれを聞いて、台所へと駆け出してゆく。戻ってくるとき、何故か夕飯を僕に見えないように後ろに隠していた。心なしか、鈴の顔が紅い。 「理樹、夕飯だ。座れ」 「え?うん…」 無理やり座らされた僕は先をうながす。 「ねえ、鈴。聞いて欲しいことって?」 鈴はそれに答えず、後ろに隠していた夕飯を取り出した。 そこには、丼いっぱいにお赤飯が乗せられていた。それがどんな意味を指しているのかは、当人である僕が一番良く分かっている。 「……。」 驚きで声が出ない。 「二ヶ月目だって言われた。理樹、よく聞け。あたしのお腹の中にお前とあたしの子供がむぎゅっ」 再び鈴を抱きしめていた。優しく。傷つけてしまわぬように。今僕が抱きしめているのは鈴だけじゃないのだから。 みんなにもう会うことは出来ない。奇跡でも起きない限り。 だからこれまでも、これからも、みんなの分まで背負って生きてゆく。 それが、みんなの願いだと信じて。 [No.660] 2008/10/31(Fri) 01:25:44 |
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