![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
窓から射し込む陽光に覚醒を促される。相も変わらず、寝覚めは最悪だった。 起き上がって部屋を見回してみれば、珍しく私一人であるようだった。夜のうちに部屋に戻ったらしい。備え付けのベッドをこんなに広く感じるのは、久しぶりのことであるように思える。 毛布を蹴り飛ばして起き上がると、妙に肌寒いことに気付く。ふと自分の身体を見下ろしてみると、朝っぱらから気分の悪くなるものが目に入った。どす黒い、赤。 (ああ……裸だ、私) いつ脱がされたのか、覚えていない。そもそも着る前に押し倒されたのかもしれなかったが、夜の記憶があやふやなのはいつものことだったので、考えるのを止めた。どちらにせよ、物好きであることに違いはない。 (萎えないのかしら) あるいは、こんなものでさえ彼の自己満足に転化され得るのかもしれない。だとするなら、それは喜ばしいことだ。私にとっても悪いことではない。 しかしながら、いよいよ容赦が……いや、余裕が無くなってきたなぁ、と思う。そうさせているのは私だし、それがわかっていて何もしようとしないのも私。手首に付いた、赤い跡も日に日にその色を濃くしていく。最初は戸惑っていたくせに、随分と慣れたものだ。ちょっと痛い。 「……はーあ。シャワー浴びよ」 重い石なのに柔らかい 4時間目の授業があと15分ほどで終わるという所で、スカートのポケットに入っている携帯電話が振動した。 (……15分くらい待ちなさいよ) 机の下、携帯を教師に気付かれないよう取り出して開く。メール。送り主は、予想通り。直枝理樹。 (ったく……辛抱強いんだか、弱いんだか) 内容を読む気が失せたので、そのまま折り畳む。どうせ毎度の呼び出しだろうし、構わないだろう。違ったら違ったで、適当に謝っておけばいい。それでどうにかなる。 ふと窓の外に目をやると、うざったいくらいの晴天。ああ、鬱だ。残り15分は寝て過ごすことにしよう。 気付くと昼休みが半分終わっていた。 「あー……」 なんて不幸な私。もったいない。 「おはよう、二木さん」 なんて不幸な私。寝起きだというのに、こんなにも耳障りな声が。寝惚けてる風を装って、可愛らしく見えるようにキョロキョロと辺りを見回す。直枝は真後ろに立っていた。せめて横にいろよ。 「んー。おはよーぉ、直枝」 面倒だけど身体を横にして、さらにそこから首を45度回して直枝のほうを向く。笑っていた。苦笑ってやつだと思う。しねばいいのに。私の腹の上で無様にしね。 「で、なんでここにいんの」 「あれ、メール見てない?」 素直な女の子に生まれ変わったことになっている私は、素直に頷いてやった。苦笑される。まあこれはわからんでもない。 「いつまで経っても来ないから、どうしたのかと思って」 心配したんだよ、とでも言いたげだった。学校内で交通事故に遭うとでも思っているのだろうか。ああ、間違って窓から落ちるくらいはあるかもしれないけど。 「ごめんね。寝てた」 とりあえず素直に謝っておく。 「はは、みたいだね」 てめーのせいで寝不足なんだよ、って言ってやろうか。まあ、いつ寝たのか覚えてないから、案外ぐっすり眠っていたかもしれないけど。 「大事な話があるんだ」 「ふーん」 どうせロクな話ではない。 場所を移すことになった。直枝に腕を引っ張られて教室から出るまでに、けっこうな数の視線を感じる。 私じゃなくて直枝に文句言ってよ。 「教室まで来てほしくなかったな」 屋上に続く階段の、狭い踊り場。私は珍しく直枝の行動に文句をつけてやることにした。ああ、でも、はたして文句と言えるのかな、これは。 「ごめん、迷惑だった?」 「そうじゃないけど」 こんな程度でそういう顔しちゃうんだ。ほんっと……どうしようもないね、直枝は。そうさせてるのは私だけど。ああ、要するに私がどうしようもない女なだけか。 「ああいうの、印象悪いわよ。まだ一か月も経ってないんだから」 「ああ、そっか……変な心配させちゃったね。ごめん」 そうよ。あなたはずっと、そういう顔をしてればいいのよ、直枝。 「わかればよし」 こうして気配り上手を演じたところで、ようやく本題に入る。さてどんなロクでもない話が出てくるか。 「今週末にでも、学校を出よう」 棗さんのことはどうするの。 「もちろん、一緒に行くよ」 お金は。 「僕の両親が遺してくれたお金がある。口座止められる前に全部引き出しといたよ。あとはバイトかな」 住む場所は。 「情けない話なんだけど、二木さんのお父さんとお母さんが力を貸してくれて、うん、なんとかなりそうなんだけど」 これって駆け落ちよね。 「まあ、そうなるのかな……」 ちゃんと養ってね。 「いやまあ」 そもそも私は選択することを放棄している。 葉留佳が死んでから、人の言うとおりに動くだけでいい、意思のない人形でいるのは、ひどく楽な生き方になった。気に入らない二木の連中ではなく、いつかどこかで恋をした男を新しい持ち主に選んでから、何かを選択した覚えがない。それに不都合があるわけでもなかった。 たぶん、直枝にとっても都合は良かったと思う。反発しない私は荷物としては軽かっただろうし、だからこうしてこの関係も続いている。 紐で、手首足首をベッドの四隅に括りつけてもらう。半月もやっていれば慣れるもので、そう時間はかからない。じょうずじょうず、と褒めてやると、直枝ははにかんだ。 数少ない私からの要求だけれど、特に直枝の負担にはなっていないようだった。行為の趣旨にも合っているからだろう。思うに、これも長続きする秘訣の一つではなかろうか。 直枝が、シャツのボタンを一つずつ外していく。そういえば、手首に紐をかけていては脱がすことができない。ということは、昨日は脱いでから縛ったということになる。 「ん」 舌先が触れる。 「は、あ」 ひとつ賢くなったのは、キスをするのにもセックスをするのにも、愛なんてものは必要ないと知ったことだと思う。お互いに気持ちいいからやっているだけだし、それ以上の意味が必要だとも思えない。面倒事は御免なので、避妊はちゃんとやっている。 直枝から離れられないのは、単に気持ち良いからだ。けっこう上手いほうだと思う。幸い、彼は私の腕をまるで気にしないどころか舐めるような変態なので、こちらとしても気が楽なのが良い。 「ん、あっ……は、ぁん」 ただ面倒なのは、直枝理樹という人間はかなりヤワな作りをしているということだった。両手でようやく荷物を一つ持てるのだけど、本人は二つ持てると思っている。その点、私はわざわざ演じるまでもなく気配り上手だと思う。どうせ直枝は私に被虐趣味があるとしか思っていないのだろう。7割不正解。 「くっ、あ、んは、ああっ……なお、え……なおえっ」 明日から口を塞ぐための手拭いあたりも用意したほうがいいかもしれない。ああ、でも、それだとキスがしにくいだろうか。コンフリクト。 こんなに気持ちいいのだから、できるだけ長持ちしてほしい。 [No.661] 2008/10/31(Fri) 16:23:12 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。