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No.664へ返信

all 第20回リトバス草SS大会 - 主催 - 2008/10/30(Thu) 20:57:32 [No.656]
いしのいし - ひみつ・遅刻@EX分はない@4685 byte - 2008/11/02(Sun) 14:47:27 [No.675]
いしのいし 修正版(クドのセリフの途切れなどを修正) - mas - 2008/11/03(Mon) 01:29:49 [No.680]
MVPここまで - 主催 - 2008/11/01(Sat) 00:29:01 [No.669]
”初恋”を恋人に説明するとき - ひみつ@6566バイト EX佳奈多シナリオバレ - 2008/11/01(Sat) 00:26:11 [No.668]
[削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:13:33 [No.667]
[削除] - - 2008/11/01(Sat) 00:08:59 [No.666]
いしに布団を着せましょう - ひみつ@ 13.095byte EXバレなし - 2008/11/01(Sat) 00:01:38 [No.665]
路傍の。 - ひみつ@初@6498byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:56:34 [No.664]
約束 - ひみつ@20161 byte EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 23:26:00 [No.663]
石に立つ矢 - ひみつ@12553 byte ネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 20:28:57 [No.662]
重い石なのに柔らかい - ひみつ@5791 byte EX微ネタバレ 微エロ - 2008/10/31(Fri) 16:23:12 [No.661]
『重い石なのに柔らかい』解説 - ウルー - 2008/11/03(Mon) 00:51:50 [No.677]
みんなの願い - ひみつ@4564byte 初めて EXネタバレなし - 2008/10/31(Fri) 01:25:44 [No.660]
死体切開 - ひみつ@ 6546 byte EXネタバレなし スプラッタ・猟奇注意 - 2008/10/30(Thu) 23:52:21 [No.659]
ともだち記念日 - ひみつ@14988byte - 2008/10/30(Thu) 23:40:37 [No.658]
10本目の煙草 - ひみつ@ 7033 byte EXネタばれ多分ない - 2008/10/30(Thu) 21:46:20 [No.657]
MVPとか次回とか - 主催 - 2008/11/03(Mon) 00:52:33 [No.678]


路傍の。 (No.656 への返信) - ひみつ@初@6498byte EXネタバレなし

暮れなずむ夕暮れ時の河原。
夕日の赤と夕影の黒とのコントラストが鮮やかに彩りを見せていた。
川面はプリズムのように乱反射する光が輝きを放っている。
秋口に入ったとはいえ、陽が沈み行くこの時間でもまだ暖かい。
私は近くにあった小石を水面に向かって投げていた。
対岸まで届かせることに執心してひたすらに投げていた。

ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃ…

小石は水を弾きながら遠くへと進み、やがて沈んでいった。
川幅の広いこの川では決して向こう岸に届くことはないのだろう。
それでも私は水切りを続ける。
拾っては投げ、また拾っては投げる。
幾度となく繰り返し、小石が沈むのを見届けてから再び投げ入れる。
その間にも夕日は大分地平線上へと隠れていく。
少し黒ずんだ色。未だに日の光を受けて輝く色。
そのどっちつかずな色の中に私は小石を投げ込んでいた。
何度も、何度も、投げ続けていた。
「来々谷」
不意に後ろから声をかけられる。
「……恭介氏か」
後ろにいるだろう恭介氏の方へは振り向かずに答える。
その間も小石を拾っては投げることを止めはしない。
私はいつの間にか小石を投げ終えることに未練すら感じて始めていた。



結局私は理樹君に想いを告げることはなかった。
正確にはなかったのではなく出来なかったのだが。
理樹君はあの凄惨な、それでも奇跡的に全員が生還したあの事故の後間もなくして鈴君に告白した。
その告白が晴れて実を結び、病院のベッドの上で理樹君と鈴君からその事実を聞いた私は特段と落胆することもなくすんなりと受け入れることが出来た。
むしろ少年と鈴君の赤面する顔が見れたことを眼福だと思っていたくらいだった。
それでも私は心のどこかで彼と付き合い始めることがあるのかもしれないと思っていた。
実際、そんな妄想に何度か耽っていたこともあった。
だがそれが叶わなかったとしてもそれで良かった筈だ。
それが鈴君にせよ小毬君にせよクドリャフカ君にせよ誰にせよ理樹君が誰を選ぶかなんて話は本人の意志以外に判断を委ねることなど無い。
理樹君が誰と付き合うかだなんてものは言ってしまえば可能性論で片づいてしまう話に過ぎなかった。
だからどんな結果だろうと気に病むことはない筈だった。
その筈だった。



「恭介氏はまた何故ここに」
「ああ。ちょっとばかし学校に忘れ物をしてな。そのついでだ」
「学校に、か」
そう言って私は恭介氏の言葉に思わず苦笑する。
学校から離れたこの河原にそんな理由で来る筈がないと私が訝しむことは恭介氏も分かっている筈だ。
彼のことだ。彼は私がここにいるという凡その確証を抱いてここに来たのだろう。
私は敢えて言及することを止め、恭介氏の言葉を黙って聞くことにした。
「だからついでと言っただろ。風が気持ちいいからここまで散歩がてらに足を運んだのさ」
「では、そういうことにしておこうか」
「ああ、そういうことにしておいてくれ」
恭介氏はそれを言ったきりで私が小石を投げ続けるのを黙って眺めていた。

ぱしゃ、ぱしゃ…

川面は次第に黒が多くなる。
夕日の赤の精彩を欠きつつある川ではあるが、尚も懸命に小石を川の中に投じる。
「飽きないのか?」
恭介氏が尋ねる。
「飽く事など無い」
私は端的に答えた。
「今のところ飽くつもりは微塵もないな」
「そうか」
それからしばらくの間沈黙が流れる。
川のせせらぐ音と私の投げた小石が水を弾く音だけが無言の間に割って入るだけだ。
ちらと彼を一瞥する。
彼の視線は水を切る小石の方に向けられていて、私の事など目に入ってはいないように見えた。
「気のせいかもしれないが」
唐突に恭介氏が口を開く。
「何がだ」
「最近、理樹を避けていないか」
ぴくり。
小石を投げ終えたと同時に聞こえた恭介氏の言葉に私は反応せざるを得なかった。
が、変に動揺し図星だと思われることだけは避けたかった。
私は平静を装う。
「…恭介氏はデリカシィがないな」
「なんだ、藪から棒に」
「私が少年に対してセンチメンタルな気持ちに陥ってたとしたら、恭介氏は私の心の中へずかずかと土足で入られたようなものだ」
私は笑いながらうそぶく。
「そんな気持ちだったのか。それは失礼したな」
「なに、ただの冗談だ。恭介氏が気に病むことはない」
私は手の届く場所にあった小石を拾う。
「理樹が心配していたぞ」
「…分かっている」
でなければ、放課後になる度に理樹君がわざわざ声を掛けてくることもないだろう。
そもそも何故だろうか。いつの間にか私は理樹君との距離を故意にとっていた。
私の想いは誰に口外しているわけもない。
口に出していない想いは伝わる筈もない。
ならば、何故私は理樹君から逃げているのだろうか。
私はアンダースローの体勢から腰を回す。
股関節の可動域を出来る限り動かし、鞭のように腕をしならせ――
「いや、お前は分かっていない」

ぱしゃ…

投げる際に言われた一言で手元が狂った小石は僅かに撥ねただけで水流に飲まれた。
「本当に分かっているのなら、普通避け続けはしないだろ」
まさにその通りだった。
恭介氏の意見は的を得ている。
それでも私は彼の言葉を聞く耳を持ちたくなかった。
まるで私の中の何かが認めたくないと言わんばかりだ。訳が分からない。
「何が言いたい」
「俺はただ理樹が憔悴し切ってると言いに来ただけだ。それ以上も以下もない」
ゆっくりと体を翻す。
私はそこで初めて恭介氏と正対した。
彼の別に攻め立てるわけでもない様子が私をまごつかせる。
「ただ、あるとすれば何か思い当ることがあるんだろうな」
恭介氏のその言葉に私は考えを巡らす。答えは存外すぐに浮かび上がってきた。
ああ、そうか。
ようやく私の脳内からそれらしき感情を、持ち合わせている筈のなかった感情を該当させた。
「私は、嫉妬しているのか」
付き合っているという事を聞いた時には思いもよらなかったモノ。
妬みは知らずのうちに私の中に燻っていたのだ。
言葉として分かっていただけの感情に私は侵された揚句、彼等に目を向けることが苦痛だと感じるようになっていった。
だから逃げていた。だから目を背けていた。
気付けばなんと単純なことなのだろうか。
「来々谷。一つ、聞いてもいいか」
「なんだ」
「俺を、恨んでいるか」
「…そんなことはない。あの世界のお陰で私は得難いものを得ることが出来たのだろう」
それは紛れもない事実で。
そして、私は造られた虚構世界で想いを通わせることが出来た。
叶わない泡沫の夢を見せてもらえたのだ。
「私は少年が幸せならばそれでよかったのだよ。それ以上のことはもう望むまい」
それを口に出して認めた。認めてしまった。
そもそも嫉妬など私の独り善がりにすぎなかったのだ。
私の舞台はすでに幕が下りている。
カーテンコールが起こることのなかった舞台は幕引きしなければならない。
だから、もう充分だった。
「野暮なことを聞いたか」
「なに、気にしていない」
「理樹に謝っておけよ」
「…分かった」
それだけを言い、恭介氏は去っていく。
恭介氏が去った後も暫く私はその場に留まっていた。
私は息を整えてからおもむろに川の方を向き――
「……はっ!」
対岸に届けと渾身の力を籠めて投げた小石は川の中程まで水を切りそのまま沈んでいった。
「やはり、無理か」
思わず自嘲の笑みを零す。
それでも先程まで夢中になって投げ続ける使命感にも似た感情は霧散していた。



太陽が沈み切る。
辺りには外套もない。川面はもう光を受けることはなく、ただ黒を埋め尽くすだけだった。
手元に残った最後の小石を投げる。

ぽちゃん。

小石は一度も水を切ることなく、飛沫をあげて黒の中に沈んでいく。
波紋はやがて静まり、その場にぶくぶくと残っていた泡も川の流れに掻き消された。
私はそれを見て、ようやく呪縛から逃れたのだと悟った。


[No.664] 2008/10/31(Fri) 23:56:34

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