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朝起きて着替えていると、鈴が僕の背中を指差して言った。 「理樹。背中、真っ赤になってるぞ?」 「え?…ああ、昨日会社の先輩に叩かれたんだ。よくやったって」 先輩としては、僕の苦労をねぎらうためにしたことだろうけれど、高校以来鍛えていなかった僕の背中には真っ赤な手のひらがいまだに残っている。叩かれたときは、しばらく息が出来なかった。 「そんなことよりさ、鈴。今日は久しぶりの休みだから映画とかに行かない?前に見たいのがあるって言ってなかったっけ?」 着替えを済ましながら僕は鈴に言った。最近、大きな仕事を任されるようになってから残業は当たり前、土日出勤もざらだった。鈴にはさびしい思いをさせたかもしれない。昨日で仕事はひと段落したので、今日はずっと鈴と一緒に過ごすつもりだ。 僕の誘いに、しばらく何かを考え込んでいた鈴が言った。 「理樹、こーよーを見に行くぞ。」 澄んだ空の下、僕たちは近所の野山へと向かった。 木々の色はすっかり色を失い、道端には、誰かが掃除したのだろうか、落ち葉がまとまったひとつの塊となっていた。 ここへ来るにあたって、どうして紅葉なのか、と鈴に聞いたところ、 「お前の背中のもみじを見てたら、本物を見たくなった。」 と、だいぶどうでもいい理由からだった。しかし、鈴と一緒なら僕はどこでもよかったので、今こうしているのだけれど。 仕事のことや猫のことを話しながら頂上を目指す。何だか時間がゆっくり流れているような気がした。 あの事故の後、僕らはあらゆるものが変化した日常へと戻り、高校を卒業した。そして、鈴と一緒に、寄り添うように生きてきた。 いなくなったみんなは思い出へと溶け込み、なんとか一命を取り留めた葉留佳さんも、まだ目を覚まさない。今も、二木さんが彼女の帰りを待ち続けている。 歩いていてしばらくすると、休憩所のようなところへとたどり着いたので、休憩を入れることにした。二人で木製のベンチへと腰掛ける。僕たちのほかに人はなく、二人っきりだった。 しばらく周りの風景を堪能する。風で揺れるたびに、少しずつ、確実に、その姿を変える。 なぜか、みんなのことを思い出した。もしここにみんながいたら、どんな光景なのだろう。 小毬さんは、持ってきたお菓子をみんなに振る舞い、クドや西園さん、来ヶ谷さんとみんなでお茶会をしているだろう。その横では、葉留佳さんが落ち葉に飛び込もうとしているのを、二木さんが止めている。 真人や謙吾は、木に登って紅葉まみれになりながら落ちてきそうだ。 恭介は、きっとまた色々と企んでいるに違いない。みんなのリーダーは、きっと僕らが驚くようなことをするはずだ。 気がついたら、涙が流れていた。袖でこすっても、一向に止まらない。鈴はそんな僕の背中をずっとさすっていてくれた。 鈴と強く生きる。みんなとの約束。僕は、守れているのだろうか。 涙が止まっても、鈴は僕の背中をさすっていてくれた。 「鈴」 「ん?」 僕は鈴の手をぎゅっと握った。鈴も僕の手をぎゅっと握り返す。 ずっと握ってきた鈴の手。硬さを失くしたその手を僕はずっとつなぎ続けるだろう。 「鈴」 「ん?」 「愛してるよ、鈴」 「んなっ…。」 僕の言葉に鈴が口をつぐむ。顔が真っ赤だ。 空を見上げる。いつもより空が低く感じられた。 秋の空は低い。 今にも落ちてきそうな空の下で、紅葉が散った鈴の顔に、僕はそっと口づける。 [No.700] 2008/11/14(Fri) 23:50:21 |
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