第21回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2008/11/13(Thu) 00:16:22 [No.684] |
└ 秋の味覚、柿 - ひみつ@2748byte 投票対象外 グロ注意 - 2008/11/16(Sun) 19:29:26 [No.712] |
└ 夏の終わる日。 - ひみつ@5980byte…小話なのに大遅刻… - 2008/11/15(Sat) 02:18:52 [No.704] |
└ MVPここまでなのよ - 主催 - 2008/11/15(Sat) 00:21:38 [No.703] |
└ 秋といえば - ひみつ@20186 byte - 2008/11/15(Sat) 00:02:28 [No.702] |
└ [削除] - - 2008/11/15(Sat) 00:02:25 [No.701] |
└ もみじ - ひみつ@2803byte - 2008/11/14(Fri) 23:50:21 [No.700] |
└ 秋の夜空に想いを馳せて - ひみつ@7366byte - 2008/11/14(Fri) 23:48:47 [No.699] |
└ 唇寒し - ひみつ@8597byte - 2008/11/14(Fri) 23:42:01 [No.698] |
└ Re: 唇寒し - あまりにひどい誤字だったので修正版を載せておきます。 - 2008/11/15(Sat) 23:13:31 [No.709] |
└ 季節の変わり目はこれだから困る - ひみつ@2755 byte - 2008/11/14(Fri) 23:23:09 [No.697] |
└ Merchendiver - ひみつ@13333byte - 2008/11/14(Fri) 22:58:24 [No.696] |
└ 白はいつ辿り着く? - ひみつ - 10777 byte - 2008/11/14(Fri) 22:56:24 [No.695] |
└ 食欲の秋、運動の秋 - ひみつ@ 8804 byte - 2008/11/14(Fri) 19:51:51 [No.694] |
└ 秋の夜長の過ごし方 - ひみつ@12571 byte - 2008/11/14(Fri) 18:58:09 [No.693] |
└ 紅い葉っぱ - ひみつ@ 11933 byte - 2008/11/14(Fri) 00:09:52 [No.692] |
└ もみじ ゆうやけこやけ きんぎょ - ひみつ5141 byte 鬱注意 - 2008/11/14(Fri) 00:06:38 [No.691] |
└ たき火 - ひみつ@ 初 4123byte - 2008/11/13(Thu) 23:32:07 [No.690] |
└ まちぼうけ - ひみつ@17584 byte - 2008/11/13(Thu) 22:16:07 [No.689] |
└ 秋の理由 - ひみつ 3978 byte - 2008/11/13(Thu) 22:03:33 [No.688] |
└ 秋の風物詩 - 秘密(初 10KB - 2008/11/13(Thu) 16:14:24 [No.686] |
└ 注意 - おりびい - 2008/11/13(Thu) 17:13:09 [No.687] |
└ 後半戦ログと次回と - 主催 - 2008/11/17(Mon) 00:15:49 [No.714] |
「早朝の散歩に行きませんか?」 きっかけは、ほろりと零れた西園さんの一言だった。 恋人になってからの僕達は映画館や本屋など色々な所に赴いていて、これまでに散歩をしたことも何度かあった。 しかし、早朝に散歩をしたことは未だかつてなかったことであって。 もちろん僕は西園さんの提案に快諾した。 早朝の散歩に惹かれたのもあったけど、何よりも彼女である西園さんの誘いを断ることなんか元より考えもしていなかったことだった。 地平線から太陽が昇り始めている。 僕は朝日の眩しさに思わず目を細めた。 少しだけ肌寒いけれども澄み切った空気や鳥のさえずりが朝を清々しく感じさせてくれる。 秋にしては気温が低いのだろうか。 吐く息は白く、隣にいる西園さんの顔は少し赤みが差していた。 「寒くない?」 「そうですね、少しだけ寒いかも知れません。けど、大丈夫です」 西園さんは少しだけ肩を縮こませて言う。 とても寒いと言うほどの気温でもないけれど、悴んだ手に息を吹きかけて温めている姿を見て放って置けるわけにはいかなかった。 僕は西園さんにすっと手を差し伸べる。 初めはきょとんとした表情で僕の顔を見ていたけれど、僕の意図が通じてくれたのかそっと握ってくれた。 「うわっ、冷たっ」 握られた手は予想以上に冷たくて思わず驚いてしまった。 「そうでしょうか?」 「うん。冷たいと思わなかった?」 「少しだけ。もともと冷え症なので、人よりも冷たいのかもしれません」 繋いだ手に指を絡める。 冷え切ってしまった手を少しでも温めてあげたくて僕はぎゅっと繋ぐ力を強めた。 西園さんは微かな力で握り返してくる。 僕は未だに手を繋ぐことさえ慣れていなくて。 ましてや僕に出来るエスコートなんてあまりに稚拙なものだというのに。 それでも西園さんは確かに僕の気持ちに応えるように手を握ってくれる。 気恥ずかしさと喜びが混じり、寒さとは別の理由で頬に熱が巡る。 「直枝さんの手、温かいですね」 「そうかな」 「はい」 河原を歩く僕達。 川面は太陽の光でキラキラと煌めき、朝日の輝きをより一層眩いものとしていた。 お互いの足音だけが静寂を破っている。 会話こそないけれど、隣に西園さんがいてこうして散歩をしているだけでも僕は幸せな気持ちで満たされていた。 「あれは…」 「西園さん?」 しばらく土手を歩いていると西園さんの視線が少し下に向けられていることに僕は気付いた。 何を見つめているんだろう、と僕が思ったその時だった。 「あっ」 「うわっ」 何かに躓いてしまったのだろうか。西園さんの体が前方に傾いた。 僕達は手を繋いだままだ。 僕は同じように前に投げ出されるようにして躓く。 急に躓いた西園さんを引っ張ってあげることが僕には出来なくて。 結果、二人一緒になって転んでしまう形となってしまった。 「いてて…だ、大丈夫?」 「はい、大丈夫で――っ?!」 「西園さん?」 「…いえ、何でもありません」 西園さんはうつ伏せの体勢を正し、土手に座り込む。 そして、スカートについた葉っぱや泥を座ったまま払い始めた。 僕が情けないばかりに転ばせてしまったから、なんだか見ていて凄く居た堪れない気持ちになってくる。 「その、ごめん」 「どうして直枝さんが謝るんですか?」 「いや、だってあそこで引っ張ってあげてれば汚れることもなかったでしょ?」 「いえ、転んでしまった私の方に過失があります。どうか直枝さんは気に病まないで下さい」 その様子は我慢しているわけでもなく、普段と変わらない西園さんに見える。 けれど、先程一瞬だけ見せた歪んだ顔を見てしまっては僕はとても何でもないようには見えなかった。 「西園さ――」 「ときに直枝さん」 僕が西園さんの具合を確かめようと声をかけようとした。 ところが西園さんは僕の言葉を遮るかのようにして僕に話し掛ける。 「あの、西園さん?」 「…話しかけようとしているのはこちらですよ?」 「いや、西園さんが僕の話に割り込んだよね?」 「気のせいです」 「そうかな?」 「そうです」 物凄い勢いではぐらかされる。 恐らく、怪我を負ってしまったのは事実なんだろう。 そして西園さんはそれを努めて隠そうとしているのかもしれない。 僕は仕方なく言及することを諦めて西園さんの話に耳を傾けることにした。 西園さんはふう、と呼吸を整えてから話を続ける。 「私達が転んだ場所に生えているこの花は何の花だと思いますか?」 花? 花なんか咲いていただろうか。 そう思った僕は辺りを見やる。 すると、よくよく見ると転んだ近くに紫色の花が咲いているのが分かった。 見覚えがない花の形。 けれど、僕はこの花をどこかで見たことのあるような気がしてならなかった。 「うーん…どこかで見たことはあるんだけど。いまいち思い出せないなぁ」 「たぶん、直枝さんの記憶は正しいかと。これは藤袴という花です」 フジバカマ。 その名前にはどこかで聞き覚えがあった。 「萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」 「え?」 「山上憶良が詠んだとされる歌です。萩、尾花、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗。これらは一般的に秋の七草と呼ばれるものです」 「…ああ、思い出した。確か生物の授業でそんなことを言ってたかも」 「はい。直枝さんはこの間の授業のことを思い出していたのでしょう」 西園さんは藤袴をそっと撫ぜる。 その表情はとても穏やかで、慈愛に満ち溢れているように僕は見えた。 「藤袴は最近では滅多に見られる花ではありません。なので、つい目が向かってしまったのです」 確かにこの場所に咲いている以外には藤袴は見当たらず、それどころか他の花すら咲いていない。 雑草に囲まれた中で咲いている藤袴は美しくも可憐でもあり、何よりも孤高であるように感じた。 「綺麗、ですよね。儚げにすら思える位に」 「うん。でも、僕には儚いというよりは気高く咲いているようにも見えるよ」 「どうしてですか?」 「どうしてだろう…周りが雑草でもしゃんと胸を張って凛々しく咲いていたから、かな」 「…直枝さんに気に入って貰えたようで嬉しいです。この花も、きっとそう思っていますよ」 西園さんが本当に嬉しそうに笑みを浮かべる。 僕もつられて笑みを零した。 それから彼女は腕に力を込めて立とうと試みるも、膝が伸びきる前に前のめりに倒れそうになる。 今度はすかさず僕が受け止める。 「すいません、どうやら足を捻ってしまったみたいで」 西園さんは足を押さえ、苦痛で思わず顔を顰めている。 やはり先程の転倒の際の歪んだ表情は足を痛めていたことによるものであった。 「どうしよう。肩を貸そうか?」 「いえ、出来れば、その…」 「その?」 「直枝さんにおぶって貰いたいです」 「うなっ!?」 僕は思わず顔を赤く染める。 西園さんはそんな僕の様子を見て半眼を投げている。 その表情は呆れているようにも怒っているようにも見えた。 足を押さえている西園さんは必然的に彼女から見れば僕の顔は上にある。 こんな状況下の中、不謹慎ながらも頬を染めながらの上目遣いが何とも言えないほど可愛く思えた。 「私だって恥ずかしいです。それを承知でお願いしているのです。それなのに直枝さんは断ると言うのですか」 「いや、うん、そうだよねっ」 「…直枝さんは鬼畜です」 「ごめん、わかった、おぶる! おぶるから!!」 僕はその場で屈んで西園さんが背中に乗っかりやすい様に背中を丸める。 西園さんは僕の肩を掴んで、ゆっくりと僕の体に体重を預けてきた。 もちろん西園さんの控え目ながらもとても柔らかい部分を僕は意識せざるを得ないわけで。 「どうしました?」 「い、いや、なんでもないよっ」 まだ早朝で人の姿がないのが幸いだった。 そうでなければ僕の心は羞恥心で見るも耐えないほどに押し潰されていたことだろう。 「少し、寄り道をしてしまいましたね」 「たまにはこんな寄り道もいいと思うよ」 「…そうかもしれません」 「動くよ? しっかり掴まっててね」 「はい」 西園さんを気遣いながらゆっくり歩き始める。 それでも僕は極度の緊張から歩き方はガチガチとした硬いものであった。 「…私は、重いですか?」 「そんなことはないよ」 「先程からとても重そうにしています」 「それは…好きな人をおぶってるんだから緊張するに決まってるよ」 「そうですか」 ふと、肩を掴む力が強まった気がした。 急に握りしめられた僕は様子が気になって振り向こうとする。 「西園さん?」 「振り向かないで下さい」 「え、なんで?」 「何でも、です」 「もしかして、照れてる?」 「…直枝さんはずるいです。好きな人におぶられて、照れていないわけがないじゃないですか」 消え入りそうな声で西園さんは呟く。 西園さんも僕と同じく紅葉のように赤く染まった顔をしているのだろう。 「直枝さんの背中、大きいですね」 「そうかな?」 「はい。それにとても温かいです」 それきり僕は恥ずかしくて何も言うことが出来なかった。 西園さんもただ黙ったまま、ぽふり、と西園さんは僕の背中に顔を埋める。 寮に着くまでの間は互いに喋ることはなく、ただ冷たい秋風が吹き抜けるだけだった。 「ここまでで大丈夫です」 再び西園さんが話しかけてくれたのは女子寮の前に来た時のことだった。 「大丈夫?誰か呼んでこようか?」 「心配には及びませんよ」 そう言って僕の体から早々と下りる西園さん。 誰かに見られるのがよほど恥ずかしいのか、あまりに早く下りてしまったので僕は名残惜しさを感じた。 と、同時に西園さんの足の具合が気になった。 立とうと試みるだけでも痛みが奔るのなら状態はあまり芳しくはないのだろう。 「無理しないで。歩けないほど痛いんでしょ?」 「大丈夫です。ああ……それと、捻ったことは実は嘘です」 「…へ?」 僕は西園さんの言ったことがよく分からなくて思わず聞き返す。 目の前にはついさっきまで足が地に着いただけで痛みを堪えていた西園さんが嘘のように平然と立っていた。 あまりに信じられない事態が目前で起こっていて僕は展開の早さに付いて行けずにいた。 「では、また後ほど学校で」 まるで秘かな悪戯が成功したような笑顔でくすりと笑う西園さん。 ああ、そう言えば西園さんって演技派だったっけ。 してやられてしまった僕は思わず愕然となり、女子寮へと歩く西園さんの姿を見続けることしか出来なかった。 ふと、西園さんの笑顔が誰かと重なる。 それは追憶の彼方にいる誰かを彼女の顔から垣間見ているような。 そんな思いを馳せながら、僕は河原に咲いていた一輪の藤袴を思い返していた。 [No.709] 2008/11/15(Sat) 23:13:31 |
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