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鈴に朝食とカップゼリーを持っていくと、すでに鈴は起きていた。 「風邪、もう治ったの?」鈴に問いかけると、ベッドの上で鈴はこくりと頷いた。 数日前から、鈴は風邪をひいている。どうも前に出かけたときにうつされたらしい。特に鼻づまりがひどいらしく、しょっちゅうちり紙で鼻をかんでいた。顔色を見る分には、もう大丈夫そうに見える。でも、まだ油断は出来ない。今日も一日休ませたほうがいいだろう。 「まだ休んでたほうがいいよ」僕は朝食を差し出す。食欲はまだないのか、鈴はカップゼリーにだけ手をつけた。 食べ終わると、鈴が言った。 「理樹、みんなのところに行くぞ」 まだ休んでたほうがいいって。 結局みんなのところへ向かうことになった。鈴の風邪がぶり返さないか心配だったが、鈴の顔色も回復して桃色になっていたので、しぶしぶ了承した。 厚着をして出かける。季節の移り変わりは早く、つい二週間前までは秋だと思っていたのに、もう北のほうでは雪が降っているらしい。外を歩く人も少ない。道端に落ちていた柿も熟しきっていた。 寒さに負けないように、二人で手をつないだ。 「そういえば、鼻づまりなくなったね」 「なんか前より鼻がスースーする。」 「よかったんじゃない?」 「なんかいつもより色んなにおいがしたんだ」 「どんな匂いなの?」 「色んなにおいだ。くちゃくちゃ色んなにおいがする。」 「それじゃあ、みんなにあってもきっと色んな匂いがするんじゃないかな。」 「におい……こまりちゃんは甘そうだな」 「いつもお菓子を持ち歩いてるからね」 ポケットの大きさとお菓子の量がつりあってなかったことがあったけれど、あれってどうなっていたんだろう。 「でも、はるかもたまに甘いにおいがしてたぞ。」 「葉留佳さんも?」 「うん、なんか焦げてたにおいもしてた」 「……。じゃあ、来々谷さんは?」 「くるがやは…辛そうだ」 「辛そう?」 「うん。……あれだ、キムチのにおいがする」 確かにキムチを常備してる人なんてはじめて見た。 「くどは、嗅がれるより嗅ぎそうだな」 「子犬みたいだしね」 くんくんかぎまわるクドの姿が容易に想像できた。 「みおは…においがしない。水みたいだ」、 「香水とかもつけそうにないしね」 「あとの奴らは、汗臭い」 「…真人と謙吾は分かるけど、何で恭介も汗臭いの?」 「馬鹿兄貴はばかだ、だからバカ二人と同じだ。」 「いやいやいや、今すごく納得しそうだったけど。……じゃあ、僕は?」 「理樹のにおいだ」 「……。」 「理樹は、理樹のにおいがする。あたしは、理樹のにおいが一番好きだ。」 僕は返事をしなかった。 しない代わりに鈴の手をぎゅっと握った。 握り返された力は、同じくらい強かった。 しばらく無言で歩く。 空を見上げると、曇ってきたように思える。鈴の手を引きながら、みんなの元へと急いだ。 そのうちポツポツと雨が降ってきて、僕と鈴は少し雨に濡れながら、病院の自動ドアをくぐった。 エレベーターを使い、みんなの待つ病室へ。鈴は一言も話さなかった。 そして、鈴とつないだ手を意識しながら、みんなの病室のドアを開ける。開けた瞬間、何かが僕の中へ流れ込んできたような気がした。うまく説明できないけれど、とても優しい、心が満ち足りたような気分だった。しかし、その充実感もすぐに立ち消えてしまった。 みんなはまだ眠っていた。白い部屋でみんなは安らかに眠っている。 笑っているようにも見える。 怒っているように見える。 悲しんでいるようにも見える。 みんなが起きるときは来るのだろうか。みんなの匂いが戻る日は来るだろうか。 今のみんなは、等しく消毒液の臭いしかしなかった。 ズズッ。 鈴が、鼻をすすった。 僕も、風邪をひいていたらよかった。 [No.734] 2008/11/28(Fri) 18:01:23 |
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