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狭いアパートの一室を、ビーフシチューのにおいが漂う。私の夕食、もとい、私、と、お姉ちゃん、理樹くんの『夕食』、おいしく出来たみたいだ。味見をしてみると、やはりおいしい。肉やじゃがいもにしっかりと味がしみこんできたことがわかる。ここに来てから、お姉ちゃんの尽力のかいあって、料理の腕があがったおかげで大分鼻が利くようになったみたいで、においで料理の出来がわかるようになってきた。 そのことをうれしく思いながら、時計をみると、午後五時だった。二人が『バイト』から帰ってくる時間は午後七時くらい。でも、水曜は『忙しい』から、ひょっとしたら帰ってくるのはさらに遅れるかもしれない。せっかくだから、帰ってくるまで煮込んでみようか。 でも、早くお姉ちゃんと理樹くん、帰ってこないかなぁ。 コトコトと、小気味良い鍋の音を聞きながら、そんなことを考えた。 ”さいぐさはるかのあるいちにち” 私とお姉ちゃん、そして理樹くんが駆け落ちしてから三ヶ月がたっていた。私たち三人は、三人がお互い別の場所でアルバイトしながら生活していた。別の場所でアルバイトしはじめたのは、お姉ちゃんが、一緒の場所で働いた場合、三人がまとめて休みをとるのが難しい、そう判断したからだった。働いてみて、改めて、その判断は正しかったと思う。 今日はお姉ちゃんと理樹くんがバイトの日だから、私は家事をやっていた。 「今日は、いつ帰ってくるでしょうかネ」 部屋の中でひとりごちた。時計を見ると、午後六時。二人が予定通りだったら帰ってくるまであと一時間くらい。ビーフシチューが焦げていないか、注意しながら、今日は、二人とも時間通り、出来れば、なにごともなく、帰ってきてくれるといいな、と思う。でも、お姉ちゃんは頼まれたら断られないだろうし、理樹くんはああ見えて体力あるし、難しいかもしれない。でもその反面、毎週毎週、そんなことはないとも思う。 私はふと、二ヶ月前のことを思い出した。 二ヶ月前の火曜日、私が始めてバイトの時間が延びた次の日、理樹くんとお姉ちゃんが遅く帰ってきたときのこと。「いや〜、バイトって思っていたより大変ですネ」そういう私に、二人は苦笑いで答えたっけ。 もう、結構前なんだな、そんなことをふと思った。 コトコトコトコト 鍋から小気味よい音が相変わらず聞こえていた。鍋からは相変わらず、おいしそうなにおいが漂っていた。 三人で食べるのが本当に、楽しみだった。 『葉留佳、料理、ずいぶん、うまくなったわね』 『葉留佳さん、このビーフシチュー、おいしいよ』 そういって、笑顔でほめてくれる二人に、私は抱きついて、『こら、食事中よ』なんて、お姉ちゃんに笑顔でたしなめられる。 そんな光景を、私は思い浮かべて、私は望んで、笑みが、こぼれた。 午後七時になって、まず理樹くんが帰ってきた。 「理樹くん、お帰り」 「ただいま、葉留佳さん、佳奈多さんはまだ帰ってきてないの?」 白々しく、そんなことをたずねた理樹くんにまだ帰ってないことを告げると、理樹くんは「そう」といった。 「理樹く〜ん」 「わ、わ、葉留佳さんいきなりだきつかないで」 あわてる理樹くんにかまわず、私は理樹くんにだきついた。 そして首筋から漂ってくる――お姉ちゃんの、におい。 間違いなく、お姉ちゃんの、におい――。 そんなことを考えると、今度はお姉ちゃんが帰ってきた。 「お姉ちゃんに、今度はだきつき♪」 「わ、葉留佳、いきなりやめなさい」 笑顔でそんなことをいうお姉ちゃんにかまわず、抱きついた。そしてやっぱり首筋からただよってくる、理樹くんの、におい。二人とも 首筋が好き、みたいだ。……今日は、二人でどこのホテルにいったのだろう。 「二人とも、『バイト』お疲れ様」 そういうと、二人とも笑顔で「ありがとう」といった。苦笑いじゃなく、自然な笑顔で。 三人で夕食を食べる。 「葉留佳、料理、ずいぶん、うまくなったわね」 「葉留佳さん、このビーフシチュー、おいしいよ」 笑顔で望んだことをいってくれた二人に、私は笑顔で「ありがとう、理樹くん、お姉ちゃん」とだけ答えた。 [No.741] 2008/11/29(Sat) 00:01:52 |
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