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放課後、僕以外誰もいなくなった教室に恭介がやってきた。 「理樹、早く来いよ。もうみんな集まってるぜ」 窓の外のグラウンドでは、みんながキャッチボールやらランニングやらをしている。 いつもどおりの、当たり前の光景だった。 僕は恭介の顔を見る。目の下にクマが色濃く出ていた。疲れているのは、誰の目にも明らかだ。 そんな恭介に、僕は言う。 「ごめん、恭介。今日は僕抜きでやってくれないかな。少し疲れてるんだ」 誰の目から見ても恭介のほうが疲れているだろう。だけど恭介は、そんな疲れを微塵も感じさせなかった。 「そうか。なら仕方ないな。今日は俺たちだけで練習するよ」 そのまま教室を去ろうとする恭介に、僕はこう声をかけた。 「恭介、いつまでこんなことを続けるの?」 恭介の動きが止まった。その背中はそのまま動かない。 その背中へ向けて、僕はさらに言葉をぶつける。 「このみんなが創り上げた虚構の中で、あとどれくらい時間を過ごすの?」 「………」 「前に言ったよね。この世界は僕と鈴を強くするためにみんなで創り上げた偽物なんだって」 「…ああ」 「この世界の中で僕たちがどんな現実にも耐えることが出来るように強くするんだって」 「ああ」 「その事を言ったってことはさ、僕たちが強くなったって認めてくれた証じゃなかった の?どうしてずっと一学期をくり返し続けるのさ。僕と鈴は十分強くなったよ。二人 でなら、きっと前を向いて歩いていける。だから、」 「だめだ」 恭介が僕の言葉を遮った。たった三文字、否定の言葉が恭介の口から出ただけで、僕 は口を噤んでしまう。それほどまでに重みのある声色だった。 振り向かずに、恭介は言う。 「だめだ。お前たちはまだ強くない。」 振り向かずに、この世界は言う。 「お前たちが考えているより、現実ははるかに厳しいんだ。これから鈴と二人で生きていかなきゃならないんだぞ。理樹、お前と鈴の傍には俺たちはもうついていてやれないんだ。お前たちが強くなるまで、今ここで俺たちが守ってやらなきゃだめなんだよ。今だって、お前は野球を休もうとしているじゃないか。そんなことじゃ、まだまだ鈴を任せられない」 この世界の神は振り向いた。 「理樹。お前たちは、まだ子供なんだ。俺たちがいないと、だめなんだよ」 いやいやいや。 それだったら、なんで笑っているのさ。恭介。 恭介が教室から去った後、僕は目を閉じた。瞼の裏にも夕日が差し込んでいて、紅かった。 さっきの恭介の言葉を鵜呑みに出来るほど、僕は子供じゃない。いや、こうして反発しようすること自体子供なのだろうか。考えがまとまらない。 暗闇の中で、足元しか見えない道を歩いているようだな。そんなことを思った。 しばらくして、目を開ける。もう夕日が隠れる寸前だった。 僕は再びグラウンドを見下ろした。みんなはもう後片付けを始めていて、ボールを拾ったり、トンボをかけたりしている。 みんな泥だらけだったけれど、夕日に染まったみんなは、とても楽しそうだった。 その光景を眺めているうちに、日が完全に沈んで、ふと、窓ガラスに映る自分の顔が見えた。 蛍光灯に照らされた鏡の中の僕は、すねた子供のような顔だった。 寒さで目を覚ます。寝ぼけ眼で時計を確認すると、ちょうど丑三つ時。どうやら雨が降って気温が下がっているようだ。布団を探すと、鈴が僕から布団を奪って丸まっていた。安らかな寝顔。本当にかわいい。僕は寒さに震えながら、クスリと笑った。 この部屋の本来の住人である真人はいない。しばらく、謙吾の部屋で寝てもらっている。 最近、鈴と一緒でないと眠れなくなっていた。大人と子供の間で揺れる僕は、こんがらがってきている。 「鈴」 少し硬い髪に触れながら、彼女の名を呼ぶ。 「鈴、起きてよ。自分ばっかり布団に入ってないでさ」 起きないので、肩を揺らす。 「起きてよ、鈴。目を覚ましてよ。」 揺らし続ける。 「ねえ、鈴。僕には分からないんだよ、強くなっていいのか、みんなが本当に僕たちの成長を望んでいるのか。」 揺らし続ける。 「僕たちが強くなって、みんなを見捨ててしまうのが、本当に強くなったって言えるのかな。ねえ、鈴。答えてよ」 「………んなもん、知るかー!!!!!」 暗闇の中、ギラギラ光った眼のネコ科の動物が、僕に向かって跳びかかってきた。そのまま押し倒される。 「理樹、あたしは眠いんだ!こんな夜中に起こされる身にもなってみろ!強くなってみんながいなくなるんなら、もっと強くなればいいだろ!みんながいれるように強くなればいいだろ!あたしは、眠いんだー!ふかー!!!」 獲って食われるかと思った。それくらいの剣幕だった。 ご立腹のメス猫は、言うだけ言って、バタリと僕の胸に倒れこんだ。 鈴の大噴火の声は僕の耳にキーンと響いて、反響しながら、僕の心の中にも、キーンと響いた。 雨の音が静かに部屋の中に流れ込む。鈴の寝息が聞こえる。 なんだかおかしくなってきた。鈴に怒られたくないのでひっそりと笑った。笑い続けた。 ひとしきり笑ったあと、僕は、眠りこける鈴をギュッと抱きしめた。 そして、抱き合ったまま、布団をかぶって、眼を閉じる。鈴の鼓動が僕の鼓動と重なる。 僕一人では覚めることのない夜は、とてつもなく簡単に夜明けを迎えた。 雨も止んだ。もう迷わない。 夜が明けたら、胸の中の宝物と一緒にみんなを助けに行こう。 [No.769] 2008/12/12(Fri) 21:23:45 |
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