第23回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2008/12/10(Wed) 23:14:11 [No.760] |
└ 空中楼閣 - ひみつ@遅刻@1088byte - 2008/12/13(Sat) 21:37:26 [No.784] |
└ 解説っぽいもの - 緋 - 2008/12/14(Sun) 23:57:22 [No.789] |
└ 花は百夜にして一夜で散る。 - 遅刻・秘密 7182 byte - 2008/12/13(Sat) 20:09:26 [No.782] |
└ 天球の外 - ひみつ@3479 byte - 2008/12/13(Sat) 00:27:48 [No.781] |
└ MVPしめきるー - 主催 - 2008/12/13(Sat) 00:26:25 [No.780] |
└ 一度やってみたかったこと - ひみつ@17禁 3681byte - 2008/12/13(Sat) 00:21:51 [No.779] |
└ ちょっとだけ涙がこぼれた夜のこと - ひみつ@8881 byte - 2008/12/13(Sat) 00:20:36 [No.778] |
└ 塗り潰される現実、塗り返される虚構 - ひみつ@20477 byte - 2008/12/13(Sat) 00:18:18 [No.777] |
└ 夜討ち - ひみつ 6895 byte - 2008/12/13(Sat) 00:12:04 [No.776] |
└ 夜討ち(改訂版) - ゆのつ@8624 byte - 2008/12/17(Wed) 23:34:44 [No.808] |
└ [削除] - - 2008/12/13(Sat) 00:04:31 [No.775] |
└ [削除] - - 2008/12/12(Fri) 23:59:54 [No.774] |
└ 恐ろしい夜に会いましょう - ひみつ@15208 byte - 2008/12/12(Fri) 23:58:28 [No.773] |
└ あれまつむしが ないている - ひみつ@10269byte - 2008/12/12(Fri) 23:40:41 [No.772] |
└ とある寮長室での出来事 - ひみつ 初です@5834 byte - 2008/12/12(Fri) 23:37:11 [No.771] |
└ 割り切れない数字 - ひみつ@13762 byte - 2008/12/12(Fri) 21:27:33 [No.770] |
└ 朝を迎えに - ひみつ いじめないでください…(涙目で上目遣い)@4486byte - 2008/12/12(Fri) 21:23:45 [No.769] |
└ 現実逃避をしたい男たちの夜の過ごし方 - ひみつ@4883byte - 2008/12/12(Fri) 20:34:05 [No.768] |
└ ぼっちの夜 - ひみつ@4948 byte - 2008/12/12(Fri) 15:30:07 [No.767] |
└ きっと需要がない解説 - ウルー - 2008/12/14(Sun) 11:23:20 [No.788] |
└ 宇宙的進化論 - ひみつ@6248 byte - 2008/12/12(Fri) 14:51:11 [No.766] |
└ 恐怖の一夜 - ひみつ いじめてください(スカートたくしあげ)@16283 byte - 2008/12/12(Fri) 00:45:10 [No.765] |
└ 冬の天体観測 - ひみつ@3790byte - 2008/12/11(Thu) 18:08:04 [No.764] |
└ 夢渡り - ひみつ@3371 byte - 2008/12/11(Thu) 03:22:28 [No.763] |
└ 貧乳少女 - ひみつ@13851byte - 2008/12/10(Wed) 23:43:50 [No.762] |
└ MVPとか前半戦ログとか次回とか - かき - 2008/12/14(Sun) 01:47:17 [No.785] |
└ 後半戦ログ! - かき - 2008/12/15(Mon) 00:18:07 [No.791] |
僕は悩んでいた。 ここ数日ずっと。 「1.428571……はぁー、何度数えても割り切れないよなぁ」 ノートを前に頭を悩ませる。 やっぱりどうやっても整数にはならない。 でもそれは当然、分かっていたこと。 「別のアプローチが必要だよなぁ」 思い切って数を減らすか?いやいや、それはないな。 なら割合を増やす?うーん、やれなくはないけど全部はちょっとなぁ。 それに別の問題もあるし……。 「……なんだ理樹?もしかして宿題か?」 いつの間にか部屋に戻ってきた真人が、げんなりと言った表情で僕のノートを覗き見ようとする。 「うん、数学」 「ぬおぉおおーっ」 答えると真人は頭を抱えて転げまわってしまった。 相変わらず言葉だけで苦しむんだな。 ホント真人はよくこれで学園生活を送れてるよね。 「それよりも筋トレはもういいの?」 「ん?おお、もう夕食時だしな。切り上げてきた」 「え、もうそんな時間?」 言われて時計を見ればもう19時を回ってる。 気づかなかった。ちょっと集中しすぎちゃったな。 「ごめんごめん。じゃあ食堂行こう」 「おう」 僕は慌てて筆記用具を片付けると、真人と一緒に食堂へと向かった。 割り切れない数字 「それで、今日は真人は何を食べるつもり?」 道すがら何を頼むか尋ねてみる。 決めてなかったから真人に合わせてみるのもいいかなって思ったんだけど。 「そりゃ当然カツだな」 「えー、またトンカツ?よく飽きないね」 昨日も食べたってのによく食べる気になるものだ。 ちょっと信じられないなぁ。 「何言ってやがる。カツは筋肉になるんだぜ。飽きるわけねーじゃねーか」 「でもクドがよく言ってるじゃない。野菜も採ってバランスよく食べなきゃ駄目だって」 「あー、クー公か」 ウンザリといった表情を見せる。 「そんな不満そうな顔しないで。栄養が偏っちゃうよ」 と言いつつも真人が病気になることなんて滅多にない。 よくあの食生活で健康を維持できるものだ。 身体をあそこまで鍛えれば不健康な食生活も補えるとでも言うのだろうか。 けれど彼の回答は予想外のものだった。 「ふっ、理樹、安心しろ。その辺はちゃんと考えてあるさ。必要な栄養素をとらねーと筋肉は効率よく鍛えられないからな」 「あ、そうなの?じゃあどうやって栄養補給してるのさ」 不思議に思って尋ねる。 すると真人は自信満々に答えてくれた。 「そりゃあれだよ、マッスルゲイザーさ」 「マッスル……ああ、あれ?」 真人特製の栄養ドリンク。あれ効果あるんだ。 「おうよ。改良に改良を加えたからな。今じゃあれ一本飲み干せば筋肉さんに必要な栄養は補えるって寸法よ」 得意げに彼は告げる。 はぁー、カロリー計算とか栄養バランスの計算とか結構面倒なのによくやるもんだ。 やっぱり筋肉関係だからかな。 「でもそっか。別の時間に補ってるのか」 「ああ、そういうことだな」 「なるほど……」 これは意外なヒントかもしれない。 筋肉以外でも真人が役に立つことってあるんだなぁ。 一人心の中で感心しつつ食堂へと向かった。 そして食堂へ着くと見知った顔が二つ。 「待たせちゃったみたいでごめんね、恭介、謙吾」 我らがリトルバスターズの元リーダーの恭介と初期メンバーでもとクール担当、現ネジが数本外れて真人と別ベクトルでバカ度を進行させている謙吾が席に座っていた。 二人ともすでに料理を持ってきている。 「なんだよ、つめてーな。待っててくれてもいいだろ」 「そう言うな。何も買わずに席で待ってるのはさすがに気が引けるって」 「うむ、まあ安心しろ。まだ食ってはおらん。早くお前たちも買って来るといい」 言われてみれば確かに二人とも食事に手をつけていない。 「うん、分かった。じゃあ早く買いにいこ」 僕は真人を促し券売機の前に行こうとした。 「ちょっと待てよ。まだ鈴たちが来てねえぞ。あいつら待ってから行ってもいいんじゃねえか?」 「え?あ、そっか」 真人の言葉に伝え忘れていたことがあるのを思い出した。 「ごめんごめん。言い忘れてたけど今日鈴たちは来ないらしいよ」 「あん、そうなのか?」 「俺もそう聞いている。なんでも女子メンバーでミーティングだそうだ」 真人の言葉に謙吾が反応した。 大方古式さんから聞いたんだろう。 「ごめんね、伝え忘れてて」 「いいって気にすんな」 僕の謝罪の言葉を真人は笑って受け止める。 こういうのところが真人が大きいなって思う部分だ。 「………俺も聞いてないんだが」 対して元リーダーがどんよりとした空気を漂わせて呟いた。 あれ、鈴とか言ってないんだ。 「あー、まあなんだ。理樹に伝えれば十分とか思ったんじゃねーか」 「う、うむ。ほら連絡系統が複数あれば拙いだろう」 慌てて二人がフォローに回る。 うーん、最近恭介への扱いがみんな軽いからなぁ。 「そういえば恭介って今日は何注文したの?僕まだ決めてないから参考にしたいなって思ってたんだ」 なので僕は誤魔化す方向で動いてみた。 「あん?他人丼だが……」 「へー、珍しいもの食べてるね。親子丼とかなら分かるけどなんでそれ?」 恭介が頼んだのは牛肉と卵を組み合わせた他人丼だった。 僕の感心した口調に機嫌を良くしたのか恭介は嬉々として語ってくれた。 「おう、実はな。俺も最初は普通の丼物を食おうと思ったんだがこいつを見つけてな。スタンダードな組み合わせもいいけどたまには変わった組み合わせも面白いと思って買ってみた」 「へー、食事にも面白さを求めるなんてさすが恭介だね」 「ふっ、褒めるなよ。それに珍しいって言ってもゲテモノ料理とかと違ってこれは普通に美味い料理だから安心だぜ」 「なるほどねー」 変わった組み合わせってのもありだな。 スタンダードなのもいいけど珍しい取り合わせで互いの良さを引き立てる可能性もあるか。 それに個々ではどれも最高だしね。 「やっぱり恭介は凄いねー」 発想力という点ではまだまだだなぁ。 「ん、そ、そうか?」 僕の手放しの賞賛に少し戸惑った顔をしてしまう。 あー、ちょっとこっちの事情もあったからといって大げさにしすぎちゃったか。 「ん?理樹も恭介の同じものにするのか?」 「え?ああ、美味しそうだと思うけど昨日も丼物だったしね。今日はアッサリしたものにするよ」 「ならA定食がいいんじゃないか。俺も頼んだが結構食いやすそうだぞ」 謙吾の言葉に首を振ると彼は自分の頼んだものを指し示した。 面白味ないけど謙吾らしくていいな。 それに確かに食べやすそうかも。 「そうだね。じゃあ今日はそれにするよ。行こう、真人」 「おう、分かった。じゃあ行ってくるぜ」 二人に挨拶して僕らは券売機へと向かった。 「おや?」 券売機に並んでいるとトレーを持った二木さんの姿が見えた。 「二木さん」 「ん……直枝?」 僕の声に気づいたらしい。 一度溜息をつくと僕達のところに寄って来た。 「今から食事?」 「うん、二木さんは?もう終わったの?」 トレーの上には空になった器が一つ。 「ええ。まだ仕事が残ってるからさっさと終わらせたの」 「仕事って寮会の?あとで手伝おうか?」 これでも僕は男子寮長だ。それくらいする義務はある。 けれど二木さんは冷たい視線で僕を睨んだ。 「結構よ。誰が原因で仕事が後れたと思ってるの?」 「えっと、僕?」 恐る恐る自分を指差すと二木さんの視線は更に険しくなった。 いや、まあ二木さんが何を言いたいのか分かっているけどさ。 「分かっているなら結構。だから手伝いはいらないわ」 「あ、うん、ごめん。ちょっとしたお茶目のつもりだったんだけど」 「……お茶目、ですって」 「うっ」 殺気すら纏いだしたし。 後ろで関係のない真人ですら震えだしてしまった。 「直枝ー、あんた一度教育する必要がありそうね」 「で、でも二木さんだって本気で嫌がってなかったでしょ」 「ぐっ……」 僕の反論に今度は二木さんが言葉を詰まらせる。 そしてそのまま顔を真っ赤に染めてしまった。 「う、五月蝿いわねっ。ともかく手伝いは結構よっ、いい?」 「りょ、了解」 「ふんっ」 二木さんは言い捨てると肩を怒らせながら人ごみへと消えてしまった。 「理樹。いったい二木に何したんだ?」 恐る恐るといった口調で真人が問いかけてくる。 「あー、ちょっと仕事中にね……あはは……」 さすがにおおぴらに言うと二木さんに殺されると思うので笑って誤魔化す。 うーん、やっぱり苛め過ぎちゃったかな。 今度は優しくしてあげよう。そう心に決めるのだった。 まあそんなハプニングもありつつ無事食券を買い夕食を受け取ることが出来たので僕らは恭介たちのところへ戻ることにした。 「真人はやっぱりカツなんだね」 「あたぼーよ。理樹も頼めばいいのに」 「いやいや、こってりとしたもの連続は僕には辛いよ」 そんなことを話しながら歩いていると。 「ありゃ、あれ杉並たちじゃねーか」 「あ、ホントだ。席探してるのかな」 最近話す機会が増えた杉並睦美さんとその友達二人。 友達の名前は……なんだっけ。覚えてないや。 まあ親しいのは杉並さんなんで他は別にいいけど。 「杉並さん。席探してるの?」 「ふぇ?な、直枝君か」 僕に突然話しかけられて杉並さんはびくりと身体を震えさせた。 こっちを振り返った彼女の表情はいつものように目元まで前髪で隠れていて分かりにくいけど、僕の顔を見て安心したようだ。ただ少しだけ前髪の下から覗くその顔は赤いようにも見えるけど。 「直枝と井ノ原?」 「何、なんか用?」 あとの二人は不審そうにこっちを見やる。 「いや、もし席が見つからないからこっちで一緒に食べないって誘いに来たんだけど」 「は?何い「いいのっ?」……ちょ、むつー」 遮るように杉並さんが聞いてきたので僕は笑顔で頷く。 「今日は僕と真人、恭介と謙吾だけだからね。近くの席が空いてるんだ」 別に開けて欲しいって言ってるわけじゃないけど、何故かいつも同じ場所がぽっかり開いてる。 2学期になってからはその数の大幅に増えちゃったんで悪いなって気持ちはかなりあるんだよね。 「じゃあお邪魔しちゃおうかな。二人ともいいよね」 杉並さんの言葉に渋々と残り二人は頷いた。 まあ来ヶ谷さんとかいなかったら了承したんだろうけど。 「良かった。席空いてなかったからどうしようか迷ってたの」 そう語る彼女の前髪から覗く眼はどこか熱っぽい。 「ん?なんか具合悪いのか?」 隣に立つ真人も気づいたらしく杉並さんに声をかける。 「う、ううん、大丈夫だよ」 杉並さんは慌てて否定するけどそうは見えない。 じっくり見れば普通の体調じゃないことはすぐ分かってしまう。 「そうなんだよ。むつー調子悪いみたい」 「部屋で休めばって言ったんだけど食欲はあるからとか言ってさ」 後ろの二人も揃って同意する。 やれやれ。 「大丈夫?」 僕は杉並さんの顔を覗き込みながら尋ねる。 すると彼女は更に顔を赤く染め大丈夫と頷いた。 「まっ、それほど酷くなさそうだし食事くらいいいんじゃない」 安心させるように真人たちに告げた。 それでもまだ少し不安そうな顔を杉並さんの友達は見せたが、彼女が再度大丈夫だからと繰り返し、スッと後ろを振り返るとそれ以上何も言わなくなった。 ……まあ席に着き恭介たちの顔を見た彼女らは途端に杉並さんのことを忘れて楽しそうに話し出したので気にする必要はないんだろうけど。 ふぅー、やっぱり今でも恭介たちは女の子達に人気あるんだなぁ。 そうやって珍しい面子を加えての夕食も終わり、僕らはそれぞれ自分たちの部屋へと戻っていった。 杉並さんはまだ少しふらふらしてたけど大丈夫かな。 一応口でも言っておいたけどメールもしておこう。 そんなことを考えているといつの間にか部屋へ着いてしまった。 「理樹、今日はどこも遊びいかねえのか?」 「ん?ああそうだね。ちょっと後で出かけるけど今日は基本的に部屋の中で過ごすよ」 「そっかそっか」 真人は満足そうに頷いた。 そういや最近あんま真人と遊んでないな。 やることはあるけど今日はちょっと構ってあげよう。 そう思いつつ部屋の中へ入るのだった。 ……で、いつも通り筋トレをする真人に適当に声をかけながら僕は真新しい手帳に文字を書き込んでいった。 夕食中の会話でもいくつかヒントになりそうなものがあったのでノートにまとめ配分も計算した。 ベストかどうかはさすがに分からないけど不具合が生じればあとで調整すればいいだろう。 「最初がやっぱ肝心だしこれなら確実に面白い作用が出そうかな」 まあこんなものだろう。 昨日まで悩んでたにしては上出来だ。 「ん?終わったか?」 「うん、ごめんね一緒に遊べなくて」 「いいってことよ。たっぷり筋トレできたしな。それに理樹の声を聞きながらだったからいつもより楽しかったぜ」 「そう?」 よく意味が分からないけど。 「でもいったい今度は何やってたんだ?」 「え?うーん、科学かな?」 「ぐぉおおおおぉーっ」 予想通り頭を抱え、真人はその場でのた打ち回った。 埃立つから止めて欲しいんだけどなぁ。 「あっと、かなり時間経っちゃった。ごめんちょっとだけ出てくる。先に寝ちゃってていいよ」 「お、おお」 床に突っ伏したまま息も絶え絶えといった声で真人は答えた。 「じゃ、行ってくる」 まぁ大丈夫だろうと判断し、僕は静かに部屋を出た。 「さてと連絡連絡」 携帯を取り出しメールアドレスを呼び出す。 「と、そうだ。場所も考えなくちゃ」 あの二人も一緒の部屋だからな。 それにこの時間からじゃさすがに危険だろうし。 とりあえず今から出かけることを連絡しておくか。 素早くメールを打つとすぐ返信がきた。 見ると丁寧に場所も指定してくれている。 きっとこっちの状況を考慮してくれたんだろう。 「結構気が付く子なんだな」 僕の中で評価アップ。 今日はいつもと趣向を変えて苛め過ぎた分優しくしてあげよう。 それにしても場所のことを忘れてたのは痛いな。 任せるわけにもいかないし、それも前もって決めておこう。 心の中で頷き、僕は待ち合わせ場所へと急いだ。 待ち合わせ場所。そこには夕食の後別れた杉並さんが立っていた。 「待ってたよ、直枝君」 前髪を掻き分けはっきりとその表情を見せる彼女の瞳はさっきよりも熱っぽい。 その目が僕をジッと見つめる。 「うん、お待たせ」 そんな彼女に僕はいつも通りの口調で返す。 ……そう、いつも通り。 「うん、本当に待った。待ちくたびれておかしくなっちゃうかと思った」 その声はいつもと違いとても艶っぽく、背筋にゾクリと刺激が走った。 みんなの前と僕の前とでこうも雰囲気が変わるとは。 やっぱりちゃんと話してみないことには分からないものだね。 「ごめんね」 謝罪の言葉。けれどそれはまったく悪びれたものじゃないことに彼女は気づいているだろうか。 いや、きっと気づいている。 気づいているけど僕のその態度が逆に嬉しいのだろう。 ……だって。 「くすっ」 僕がポケットから取り出した機器を見て、彼女は悦びの表情を浮かべたのだから。 「人気はないよね」 「うん、ここなら外から見えないよ。それに来たとしてもすぐ分かると思う」 「そっ」 確かに大丈夫そうだ。 思った瞬間僕は指に思いっきり力を込めた。 「!!!!???」 あまりに突然すぎたのだろう。 その衝撃に立ちながら何度も痙攣を繰り返すと、杉並さんは糸の切れた凧のようにその場に崩れ落ちそうになった。 「おっと、危ない」 予想はできていたので地面に倒れる前に抱きとめ、その耳元でそっと囁いた。 「御褒美、あげるね」 「はい、お願いします」 嬉しそうな彼女の唇に優しく口付けを交わした。 ・ ・ ・ 「さてと、こんなものかな」 事を終え、身支度を終えた僕はいまだ眠る杉並さんの髪を撫でながら一人呟く。 持って来た手帳にはさっきまでなかった文字が複数書き込まれている。 もちろん書き込んだのは僕。 まあ彼女の意見も参考にはしてみたけどね。 やはりというか僕が知らない穴場も複数見つけていたらしい。 これは鈴たちにも聞いて後で修正を加えてみるのもいいかもしれない。 でもとりあえず。 「子猫を二匹相手にするなら場所はあそこしかないよね」 初めての試みだしまずは通い慣れたとこにすべきだろう。 僕はほくそ笑み、パタンと手帳を閉じ上着に押し込めた。 「もう少しだけ寝かしてあげようかな」 もう一度彼女の頭を撫でる。 「シチュエーションはその都度考えるか」 全て事前に決めちゃ面白くない。 何事も楽しまなくちゃ。 僕は低く嗤いながら夜空を見上げるのだった。 [No.770] 2008/12/12(Fri) 21:27:33 |
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