第23回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2008/12/10(Wed) 23:14:11 [No.760] |
└ 空中楼閣 - ひみつ@遅刻@1088byte - 2008/12/13(Sat) 21:37:26 [No.784] |
└ 解説っぽいもの - 緋 - 2008/12/14(Sun) 23:57:22 [No.789] |
└ 花は百夜にして一夜で散る。 - 遅刻・秘密 7182 byte - 2008/12/13(Sat) 20:09:26 [No.782] |
└ 天球の外 - ひみつ@3479 byte - 2008/12/13(Sat) 00:27:48 [No.781] |
└ MVPしめきるー - 主催 - 2008/12/13(Sat) 00:26:25 [No.780] |
└ 一度やってみたかったこと - ひみつ@17禁 3681byte - 2008/12/13(Sat) 00:21:51 [No.779] |
└ ちょっとだけ涙がこぼれた夜のこと - ひみつ@8881 byte - 2008/12/13(Sat) 00:20:36 [No.778] |
└ 塗り潰される現実、塗り返される虚構 - ひみつ@20477 byte - 2008/12/13(Sat) 00:18:18 [No.777] |
└ 夜討ち - ひみつ 6895 byte - 2008/12/13(Sat) 00:12:04 [No.776] |
└ 夜討ち(改訂版) - ゆのつ@8624 byte - 2008/12/17(Wed) 23:34:44 [No.808] |
└ [削除] - - 2008/12/13(Sat) 00:04:31 [No.775] |
└ [削除] - - 2008/12/12(Fri) 23:59:54 [No.774] |
└ 恐ろしい夜に会いましょう - ひみつ@15208 byte - 2008/12/12(Fri) 23:58:28 [No.773] |
└ あれまつむしが ないている - ひみつ@10269byte - 2008/12/12(Fri) 23:40:41 [No.772] |
└ とある寮長室での出来事 - ひみつ 初です@5834 byte - 2008/12/12(Fri) 23:37:11 [No.771] |
└ 割り切れない数字 - ひみつ@13762 byte - 2008/12/12(Fri) 21:27:33 [No.770] |
└ 朝を迎えに - ひみつ いじめないでください…(涙目で上目遣い)@4486byte - 2008/12/12(Fri) 21:23:45 [No.769] |
└ 現実逃避をしたい男たちの夜の過ごし方 - ひみつ@4883byte - 2008/12/12(Fri) 20:34:05 [No.768] |
└ ぼっちの夜 - ひみつ@4948 byte - 2008/12/12(Fri) 15:30:07 [No.767] |
└ きっと需要がない解説 - ウルー - 2008/12/14(Sun) 11:23:20 [No.788] |
└ 宇宙的進化論 - ひみつ@6248 byte - 2008/12/12(Fri) 14:51:11 [No.766] |
└ 恐怖の一夜 - ひみつ いじめてください(スカートたくしあげ)@16283 byte - 2008/12/12(Fri) 00:45:10 [No.765] |
└ 冬の天体観測 - ひみつ@3790byte - 2008/12/11(Thu) 18:08:04 [No.764] |
└ 夢渡り - ひみつ@3371 byte - 2008/12/11(Thu) 03:22:28 [No.763] |
└ 貧乳少女 - ひみつ@13851byte - 2008/12/10(Wed) 23:43:50 [No.762] |
└ MVPとか前半戦ログとか次回とか - かき - 2008/12/14(Sun) 01:47:17 [No.785] |
└ 後半戦ログ! - かき - 2008/12/15(Mon) 00:18:07 [No.791] |
彷徨っていた。 彷徨い悩み、どうすることもできない事実に打ちのめされ僕は一人土手で佇んでいた。 もうとっくに夜の帳は降り、辺りは真っ暗な世界へと切り替わっていた。 街の明かりも届かず、月の光だけが頼りのこの場所。 寂しく静かでまるで世界に取り残されたような錯覚を覚えてしまう。 「取り残されたのは僕じゃないのに」 自嘲の笑みがつい浮かんでしまう。 にしても本当に日が落ちるのが早くなった。 それは11月が終わろうとしている事実を如実に指し示していた。 「もう、1ヶ月か」 彼女が、笹瀬川さんが虚構世界から脱出できず現実世界から消えてもうそんなにも経っていた。 彼女が居たという事実を示すものはいたるところに転がっているのに、彼女のことを覚えている人は誰もいない。 その矛盾が僕に希望を抱かせ、同時に絶望も与えていた。 「ホント、なんて僕は馬鹿なんだろう」 失うまで気づかない。本当にその通りだ。 今でも好きかどうかは分からない。けれど彼女のことは本当に大切だった。 それは揺るぎのない事実。 なのにあの時それに気づけず動けなかった。 だから僕は後悔をしながら生き続けていく。 「でも……」 希望がなければそれを受け入れて強くあれたのかもしれない。 けど僅かな希望が見えてしまったから、僕は足掻きたくなってしまう。 「ホント、間抜けだ」 あの時足掻けば良かったのに。 自分の心の原動力に気づけなくて諦めることを選んでしまった。 だから僕は彼女が戻ることを祈り続けるしかなかった。 「よわっちいな、僕は」 なのにそれすら覚束ない。 忘れないだけならできたかもしれないけど、待つことがこんなにも辛いだなんて。 最初の数日は問題なかった。 でも1週間、2週間と過ぎもうすぐ1ヶ月が経とうとした頃には僕の心はすっかり磨耗してしまった。 戻ってくるかもしれない、でも戻ってこない。 希望を捨てればきっと普通に過ごせたかもしれない。 でもそれはもう捨てられない。それは絶対にできなかった。 「分かってたはずなのに……」 両腕に僕は顔を埋めた。 「大丈夫?」 「え?」 突然声を掛けられたことに驚き、僕は顔を上げた。 そこにいたのは綺麗な女の子だった。 印象的なのはその金色の髪。 笹瀬川さんの夜の闇を思わせる艶やかな髪とは対照的に月明かりに照らされたその髪は明るく輝いていてた。 初めて見る顔のはず。 「っ……」 なのに僕の胸はざわめいた。 ……彼女の顔から目が離せない 会ったことはないはずなのに、何故か心の中から何かが溢れ出して……涙が一滴頬を伝った。 「うわっ、ちょ、理樹くんっ?ど、どうしたの?」 僕の様子を見て彼女は思いっきり動揺してしまったようだ。 それが最初の神秘的な雰囲気を覆すもので、僕は泣きながらも笑みが浮かぶのを止められなかった。 ・ ・ ・ 「落ち着いた?」 「うん、ごめんね」 初対面の人の前で泣くなんて何してんだろ。 けれど女の子は軽蔑したような素振りは見せず、ただ心配そうに僕の顔を見つめた。 「何かあったの?」 「え?……ああ、何かはあったけど、泣いたのは違うんだ」 「そっ」 何故だろう。 人見知りする性格じゃないけど、それでも初対面の女の子にこんな気軽が口調で会話できる性格じゃなかったはずなのに。 なのに僕はまるでずっと前からの知り合いのように女の子に話しかけ、それを直す気も起きなかった。 それに女の子も気にしていないようだし。 「ねえ、変なこと聞くけどいい?」 「ん、なに?」 「僕たち、どこかで会ったことない?」 傍から見たら下手なナンパでもしているような台詞。 けれど女の子は僕の言葉に笑うでもなくただただ目を見開くばかりだった。 「ごめん、変なこと言ってると思うけど、君の顔を見たら何故か懐かしくて悲しくなって、それ以上に嬉しかったんだ」 でも喋るのを止められなかった。 自分でも何故なのか分からない。 こんなこと初対面の男から言われたら通報ものだ。 僕だったら間違いなくそうする。 「ごめん、変なこと言っちゃって。忘れてくれると嬉しい」 言いたいことを言ったら急に恥ずかしくなって、僕は頭を下げていた。 ホント、何をやってるんだろう僕は。 「いいわ、気にしないわよ。それにもしかしたらどこかで会ったかもしれないし」 彼女は笑顔を向ける。 その顔はどこか泣きそうで、でもとても穏やかだった。 なんでそんな顔をするんだろう。 それが酷く僕は気になった。 「まあ今回それはいいわ。またそれに関しちゃ話す機会があるだろうし」 「え?」 「それよりもあなたに起きた事を聞かせて欲しいわ」 彼女の顔はとても真剣だった。 それは冗談とか遊び半分とかでは決してない顔つきだった。 「不躾なのは分かるし、初めて会う人間に言う話題じゃないのも重々承知してるけど、でも聞きたいの。何か力になれるかもしれないし」 「でも……」 「お願い」 彼女の顔はとても真剣だった。だからこそ僕は素直に答えようと思った。 「信じられないかもしれないけどこれは事実なんだ」 「うん、信じるわ」 彼女は強く頷く。 それに力を得て僕はゆっくりと語りだした。 あの世界で起きた僕と笹瀬川さんの物語を。 そして話を終えた。 何があったかを。そして僕が出来なかったことを。 「……」 彼女はジッと黙っている。 呆れているんだろうか。いやそもそも僕の話を信じてくれたのだろうか。 彼女がどんな反応を示すのか不安に思いながら口を開くのを待ち続けた。 「まるで何かの漫画のような話ね」 「うん……」 その言葉に落胆してしまう。 こんな突飛な話、普通なら信じたりなんてできないだろう。 予想していたこととは言え、想像以上に凹むなぁ。 「でもそう言う事もあるかもしれないわ」 「え?信じて、くれるの?」 僕は呆然として呟くが。 「初めに言ったわよ、信じるって。それにあなたは嘘を付くような人じゃないもの」 まるで太陽にように明るい笑顔で彼女は言い切った。 その言葉が無性に嬉しかった。 「でも……」 「うん?」 「それならあなたがすべきことは決まってるんじゃないの?」 「え?」 決まってる? 僕にできることなんてあるのだろうか。 「簡単なことよ、信じること」 それは……僕を落胆させた。 そう、確かにそうなのかもしれない。でも信じても信じても彼女は帰ってこない。 それが僕の心を磨耗させているのに。 「分かってるよ。でも辛いんだ、彼女が帰ってくるのを待ち続けるだけなんて。時間が経てば経つほど自分の無力さと、あの時何もしなかった自分への後悔でどうにかなりそうになる」 それでも自分を保ち続けられるのは強くなったからかもしれない。 ……いや、本当に強ければこんなこと悩むことすらなかったと思う。 だから僕は本当の意味で強くなんてない。 けれど女の子はそんな僕を見て違うわと首を振った。 「待つのが辛いなら会いに行けばいいじゃない」 「……え?」 「会い行けるって信じた?その様子じゃ信じてなさそうだけど」 その言葉に僕は目を見開く。 言われてみれば僕は彼女が帰ってくるのをただひたすら待っていただけだ。 「でもどうやって?それこそ奇跡を起こさないと会えないよ」 けど僕にはそんなもの起こせない。 そんな凄い力なんてない普通の人間だから。 「別に奇跡なんか必要ないわよ」 だから彼女の言葉はとても意外だった。 「ただ祈ればいい。ただ会いたいと願えばいい。そうすれば絶対叶うわ」 「……なんでそう言い切れるの?」 すると彼女は不適な笑みを見せ言い放った。 「だって、真摯に願い続ければどんな望みも叶うものでしょ」 それはとても普遍的でありきたりの台詞だった。 望めば叶う。まだ何も知らない子供に向かって言う台詞だ。 だと言うのに僕は何故かその言葉を素直に受け入れることができた。 それはきっと彼女が口にした言葉だから……理由は分からないけどそう思えた。 「……それにね、きっとその女の子もあなたに会いたがってるわ」 「どうして……」 急にトーンが落ち、何かを懐かしむような後悔するような、そんな表情を見せる。 「その子の気持ち、よく分かるから。大好きな人を置いてったんだもの、口でどうこう言おうが心の中では不安でいっぱいなはずよ。絶対あなたに助けて欲しいって思ってる」 それは綺麗事を言ってるわけでなく、本当に理解しているような表情だった。 「……君も、誰かを置いていった事があるの?」 だからだろう。僕は無意識の内のそんな質問をぶつけていた。 すると彼女はええと寂しそうに頷いた後、僕の顔をジッと見つめて呟いた。 「けどね、本当は置いていかれた人のほうがもっと悲しんで、傷ついているんだってこと、その時のあたしは分からなかった。きっとその女の子も気づいていない。好きな人をそんな気持ちにさせるだなんて本当に罪深いのに……」 彼女の表情は罪を告白する罪人のようだった。 ……この子が罪深いと感じる気持ちは分からなくはない。 でもなんで僕にこんなにも真摯に気持ちをぶつけてくるのだろう。 これじゃあまるで僕がその置いていかれた相手みたいだ。 「だからね、その子に再会したら君は思いっきり怒っていいと思うわ。うん、あたしが許す」 「ええー」 さすがにそんなことできないよ。 あの時現実に一人で戻ってきてしまったのは僕が彼女を強く思えなかったことが原因なんだし。 「会えるのかな……」 不安が勝手に口から零れた。 すると彼女は髪を掻きあげ、強い意志を秘めて瞳で僕を射抜いた。 「信じなさい。きっと世界は繋がっている。それに互いが互いに思いあってるなら彼女を助けてだってあげられるはずよ」 「助け、て……」 それは失念していたことだった。 でもそうだ。なんで忘れていたんだろう。 笹瀬川さんは強くて、そのくせ僕の助けがなければ何もできない人だったのに。 「きっと心細くて泣いてるわ。君はそんな子、放っておけないでしょ」 「うん」 僕はその言葉に躊躇なく答えた。 「なら大丈夫よ。……それに現実離れしたことが起きてその子が消えてしまったと言うなら、逆に言えば現実離れしたことが起きてその子に会えるかもしれないってことじゃない」 「それは……うん、そうだね」 奇跡だというならすでに起きていた。 ならすでに起きた奇跡に巻き込まれに行けばいいんだ。 「だから頑張って。奇跡なんて起こせなくてもあなたなら困ってる女の子を助けるくらいできるわ」 それは確信めいた言葉だった。 自覚はないし、記憶もすでに風化している。 けれど僕は確かにどこかで誰かをこの手で助けることができた。 そんな想いの残滓が僕に力を与えてくれる。 「うん、大丈夫そうね。それじゃあ最後のアドバイス」 「え?」 もう充分なほど助けてもらったのにこの女の子は更に僕に世話を焼いてくれるらしい。 見ず知らずのはずの相手なのに。 「過去は未来に影響を与える。けど未来だって過去に影響を与えられるのよ」 その言葉はとても不思議で、でもそれを口にした彼女の笑顔は今日見た中で一番綺麗なものだった。 そして彼女は立ち上がるとくるりとこちらを振り返った。 「じゃあまた会いましょ。今度は元気なあなたに会いたいわね」 「え?帰るの?」 「うん、もう遅いからね。それじゃあ、また」 彼女は手を振り離れていこうとする。 それがどうしようもなく僕の心を苛んでいく。 「会えるよねっ。また絶対会えるよねっ」 だから気づいた時にはそう叫んでいた。 すると彼女は僕の必死な言葉に笑わず、それ以上に真剣な声で返してくれた。 「うん、大丈夫。今度はいなくなったりしないわ。だから、またね、理樹くん」 それはとても穏やかでそして勇気付けられた。 だから僕はその再会の約束を信じることができた。 「うん、また」 僕は再会を信じ、彼女を見送った。 大丈夫、二人を隔てる壁は無い。何故か分からないけどそんなことを思った。 「って、あれ?そう言えば僕、名前教えたっけ?」 『理樹くん』って最後に名前で呼ばれた気がする。いや最後だけじゃない、一番最初もだ。 彼女は絶対そう呼んだ気がするんだけど、なんでだろ。 そう思ったが彼女の姿はとっくにどこかにいってしまい聞けそうもなかった。 「なんか不思議な女の子だったな」 やっぱり何処かで会った気がする。 それに何故だろう。 リトルバスターズに誘ったら一発で馴染むんじゃないかって半ば確信めいたものを感じるのは。 彼女が立ち去った後、また世界は静寂に包まれた。 それを僕は寂しく感じていると。 「相変わらずモテモテだね、理樹君は」 「だ、だれっ」 突然の声に僕は驚いて辺りを見渡す。 けれど周囲は暗くてどこから声がしたのか分からない。 どうやら気づかないうちに月が雲に隠れてしまい、文字通り真っ暗闇になっていたようだ。 「こっちだよ」 「え?」 声がした方に振り向く。 そこには影から現れたように女の子が立っていた。 いや、でも彼女って。 「と言うか誰って酷いなぁ。忘れちゃったの?」 不満そうな声。 そう、僅かな光で確認できるシルエットを見るに僕は彼女のことを知っているはずだ。 ……でも。 「ごめん、分からない」 僕の知っている彼女と雰囲気が違いすぎて正直戸惑った。 すると彼女は仕方ないなと言った風で口を開いた。 「あたしは西園美魚だよ、理樹君」 そう、彼女の容姿は確かに西園さんだ。 声も姿形もどれも僕が知ってる彼女のものだ。 でも違う。 「違う。君は西園さんじゃない。彼女はもっと静かに笑う女の子だよ」 目の前の彼女は暗くて分かりづらいけど、どこか小悪魔めいた笑顔を浮かべているように思えた。 「残念、今回は正真正銘の『西園美魚』だよ」 「え?」 でも僕の言葉に彼女は少しだけ儚げな笑顔を浮かべた。 「あたしは『わたし』のままだから違うってのは不正解。……でも同じじゃないってちゃんと言ってくれたのは嬉しいな」 もう惑わされないんだねっと嬉しそうに言葉を続ける。 どういうことだろう。 目の前の『西園さん』は僕の知ってる西園さんじゃないのに別人とも思えなくなってきた。 「まあこうやって言葉を交わせたのは嬉しいけど、今はあたしのことはどうでもいいよ。あたしがここに来たのは理樹君のことが心配だったからだよ」 「僕?」 「そっ。なかなか帰ってこないんだもん。心配になって探しに来ちゃった。……まあ見つけたと思ったらなんか知らない女の子とイチャイチャしてるし。……理樹君ってやっぱり歩くフラグ製造機?」 「はっ?」 何を言ってるんだろう。 「美少女ホイホイとかって案もあったけどね。これ、リトルバスターズ女子メンバー共通の呼び名だから」 「ちょ、ええーっ。なんかすっごい理不尽な呼び名な気がするんだけど」 さっきまでの彼女への不信感が吹っ飛ぶような衝撃の告白だった。 「何言ってんの。実際あんな綺麗な子と知り合ってるし。……でも、話している内容は予想と違ったけど」 「……聞いてたの?」 「正確には聞こえた、かな。理樹君探してたら声が聞こえてね。出るに出られなかったよ」 「そう、なんだ」 つまり笹瀬川さんについての説明も聞いたと言うことか。 そういえば笹瀬川さんのことを知ってるかと言う質問はしたことあるけど、あの世界の出来事を含めた話は誰にもしたことなかったな。 ならもしかしたらこれがきっかけで何かしら思い出す可能性も……。 「で、最初に謝っておくけど、あたしはやっぱりその女の子のこと知らない。あたしだけじゃない、たぶんみんな知らないっていうと思う。どんなに説明してくれたとしてもね」 「っ……」 一瞬淡い希望を持ってしまったが故にその言葉はかなりショックだった。 けれど彼女は「でもね」と前置きをして話を続けた。 「あたしも含めてみんなその子のことを知らないけど、たぶん理樹君のほうが正しいって思うな」 「え、なんで?」 笹瀬川さんのことを知ってるのは僕だけなのに。 「んー、現実でも起きるとは思わなかったけど、みんなの認識が変わっちゃうってのは経験あるからね。だから信じるよ」 「経験?」 どういうことだろう。 こんなことが過去にあったというのだろうか。 すると僕が呆けた顔をしたのに気づいたのか、彼女は寂しそうに笑った。 「うん、やっぱり覚えてないよね。まっ、いいや。理樹君は覚えてなくても『わたし』が覚えてるからそれで満足しておくね」 「……」 分からない。分からないけど、何故か罪悪感がこみ上げてくる。 「まあそんな話は置いといて。改めて言うけどあたしはその女の子のことを知らない。理樹君風に言うなら覚えていない。でも理樹君の手助けくらいはできるよ」 「手助け?」 「そ、手助け。みんな理樹君がここ最近元気ないこと気にかけてたからね。その事情を知ることができたのがあたしってのが何か運命を感じちゃうな」 そしてしばらく楽しそうに笑うと、彼女は先ほどまでの態度を引っ込め真剣な声で話し始めた。 「さっきの子が言ってたように信じることが重要だってあたしも思う。それも待つだけじゃ駄目。会いに行かないと」 「うん……」 「でも今回はどこに行けばいいかあたしも分かんないんだけどね。夢で会いに行くってのがもしかしたら一番の正解かも」 「夢で会いに行く?」 悪い冗談のような台詞だ。 「そう。虚構世界ってのはある種夢に似てるからね。さっきの子が言ってたように強く願えば世界が繋がるかもしれない」 確かにそうかもしれない、けど。 「それにね、虚構世界は悪意とかそんなものじゃない、きっと純粋で綺麗な願いでできてるはず。そして理樹君は元々そこに何かするために呼ばれていた。だったらその役目を果たしに行こうと願えばきっと向こうから扉を開いてくれるって」 役目……か。 たぶんそれは笹瀬川さんの手助け。 一人ではきっと動けない彼女の背中を押すのが僕の役目なんだろう。 ……なら。 「そうだね。だったらやるしかないよね。可能性は低いと思うけどなんかやれるような気がしてきた」 さっきの女の子とこの目の前の西園さんのようでそうでない女の子に会えて、何故か僕の中では奇跡みたいな不思議なことが起きるんじゃないかって言う気持ちが大きくなっていた。 僕のちっぽけな手じゃそんな大層なものは起こせやしない。 けど奇跡の場に立ち会うことくらいできるはずだ。 「ありがとう、心配してくれて」 気持ちを強く持てたのは彼女のお陰だと思うから。だから僕は頭を下げた。 「いいよ、別に。それにね」 「ん?」 「理樹君が心配だからってだけじゃないんだ。あたし達もその人に会って言いたいことができたから」 「言いたいこと?」 なんだろう? すると彼女はニヤリと笑みを浮かべた。 「理樹君の気持ちを勝手にかき乱して傷つけてどっかに行っちゃったその人にはかなり怒ってるんだ。だから直接文句言わない時が済まないの」 「ええー」 「まあ静観してたら横から掻っ攫われそうになった自分たちに一番不甲斐なさを感じているんだけどね」 何を、言っているんだろうか。 よく分からないけど何か嫌な予感がする。 「だから覚悟しておいてね、理樹君。その子が帰ってきたら勝負だから。みんなもやる気だよ」 ビシッと指を突きつけて彼女は堂々と宣言したのだった。 「え、あ、うん……」 その勢いに流されるように僕は訳も分からず頷いてしまった。 って、なんかすっごい拙い事言われたような。 「ふふふ、じゃあ頑張ってね、理樹君」 「え?ちょっと待ってっ」 まるで何処かに行ってしまうような台詞に僕は慌てて彼女に駆け寄り手を伸ばした。 「待ってっ」 そしてその腕を掴んだ。 するとその直後雲が晴れ、月明かりが彼女を照らし出した。 「……痛いですよ、直枝さん」 「え?西園、さん?」 僕が腕を掴んだ女の子はいつもの西園さんだった。 「ええ、そうですが。……いきなり女性の腕を掴むなんてセクハラで訴えられても仕方ありませんよ」 この物言いは間違いなく僕の知っている西園さんだった。 「あ、あの、さっきまで僕が話していた女の子は……」 慌てて周囲を見渡すが西園さん以外に人影は見当たらない。 すると彼女は何を言ってるのだろうと言う視線を向けた。 「先ほどから直枝さんと喋っていたのはわたしですが」 「え?でも……」 「夢でも見ていたのではないですか?もう一度言いますが先ほどまで直枝さんと話していたのは間違いなく『わたし』です」 はっきり言い切られてしまうと自信が持てなくなる。 確かにいつもの彼女とは別人の雰囲気だったはずなのに、言われると彼女もそう言う雰囲気を持っているような気がしてしまう。 「さて、もう遅いですし帰りましょうか」 「う、うん」 そう言われてもなかなか僕は動けないでいた。 すると彼女は少しだけ冷めた目線で僕を見返した。 「直枝さんはこんな暗がりで女性を一人帰すような方なのですか?」 「え?あ、送るよ。それは当然」 僕は慌てて彼女の隣に立ち寮へと歩き出した。 「ふふ、役得ですね」 「え?何か言った?」 小さな声で聞き取れなかった。 「いえ、なんでも。ああ、そうそう。先ほども言いましたがこれから覚悟していてくださいね」 そうやって笑う彼女の笑顔はどこか小悪魔のようだった。 「とまあそんなことがあったんだよ」 それ以外のことについても簡単に纏めて僕は彼女に伝えた。 「そう、ですの。そんなことが。だから会ってすぐあなたはわたくしのことを怒ったのですね?」 「え、うん、そうだね。ただあの時は色々と感情的だったからそれだけじゃないけどね。それに勇気がなかったのは僕もだからあんなふうに怒るのは本当は卑怯なんだけど」 今考えても顔から火が出るほど恥ずかしい話だ。 すると彼女はゆっくりと首を振った。 「いえ、あなたがどんなこと苦しんだのか全く想像できなかったわたくしが愚かだったのですからどうか気にしないでください」 「笹瀬川さん……」 またもう一度会うことができた彼女の名前を万感の思いを込めて呼ぶ。 「じゃあさ、どっちも悪かったってことで手打ちにしない」 「そうですね。それがいいでしょう」 そして僕ら二人は笑った。 「ところで」 「うん?」 「先ほどまでの延々と長い話とこの現状はどういう関係があるのでしょうか?」 こめかみをヒクつかせながら笹瀬川さんはできるだけ平静を保った声で尋ねてくる。 いや、凄い怖いんだけどね。 「えーと、それは……」 視線を横に逸らす。 そこには。 「あ、小毬さん。ポッキー頂戴」 「はいどうぞー。あ、みおちゃんもいるー」 「ええ、いただきます」 笹瀬川さんの部屋に何故かあやと美魚(そう呼ぶように言われた)が寛いでいた。 「ん、なに?何か文句ある?」 僕らの視線に気づいたのかあやは挑発するような笑みを浮かべる。 「文句と言うか何故いますのっ」 「何故って理樹くんがいるからかな」 「それと笹瀬川さんが不埒な行いをしないようにでしょうか」 美魚までしれっと凄いことを言う。 「何が不埒なことですかっ。先ほども話もありますから感謝はいたしますが、わたくしと直枝さんはパートナーですのよ。他の方につべこべ言われる筋合いはございませんわ」 その堂々とした立ち居振る舞いについつい見惚れてしまう。 やっぱり笹瀬川さんはこうじゃなくちゃね。 「でもさーちゃんってあの世界でふられてるんだよね」 「か、神北さん?」 突然の小毬さんの台詞に僕ら全員固まってしまった。 けれど小毬さんは相変わらずほわほわとした笑顔を振りまいている。 げ、幻聴か? 「そうですね。それに1ヶ月以上直枝さんを放っていたのですからどうこう言う権利はありませんよ」 いち早く再起動した美魚が冷静に笹瀬川さんに言い返す。 「くっ、確かに……」 笹瀬川さんは何も言い返せず俯いてしまった。 「まっ、もうすぐゆいちゃんたちも来るし、それから話し合えば?」 「そ、そうですわね」 小毬さんの台詞に笹瀬川さんは勢いよく立ち上がる。 「もう一度、今度こそ直枝さんを振り向かせてみせますわ」 「ふん、理樹くんはあたしと結ばれる運命にあるんだよ」 「妄言は大概にしてください。そんな運命などありません」 それからやいのやいのと言い合いが始まった。 ちなみに当事者であるはずの僕は完全に除け者で。 「理樹くん大変だね」 「いや、はは……」 いくら鈍い僕でも愛の告白紛いのことをさっきから言われてるのは分かる。 と言うか他の人からも似たようなことを最近されている。 「まっ、私も理樹くんのことは好きだよ」 そしてさりげなく小毬さんのアピール。 「ふぅー」 なんか溜息が出てしまう。 ホントこれからが大変だ。 でも、今だけは失ったはずのものを手に入れることができた。その喜びを噛み締めよう。 あやたちと元気に言い合う笹瀬川さんを見ながらそう思うのだった。 [No.777] 2008/12/13(Sat) 00:18:18 |
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