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屋上は言わば私のしーくれっとべーす。今日も今日とて私はお昼休みの時間に屋上へと向かう。ドライバーを使って侵入することにも慣れて、ちょっぴり感じる背徳感に思わず苦笑い。 屋上に出て、空を見上げればお日さまがさんさんと輝いてぽかぽかした陽気を与えてくれている。このまま午睡と洒落込みたいところ。だけど午後からは授業がある。サボりは駄目なのですよ。私は自分にそう言い聞かせるも瞼はもう既に重たくて、体からは"眠らせて〜"とシグナルを発している。 とりあえず私は給水タンクの段差に腰掛けて、まどろみながら持ってきた袋からお菓子を取り出す。今日のお菓子は一口サイズのあんドーナツ。普通のあんパンも美味しいけれど、砂糖をいっぱいまぶしたこのあんドーナツはとっても甘くて私の最近のお気に入り。取り出したあんドーナツを口に放り込む。始めに砂糖の甘さ、そして噛むたびにあんこの甘味も加わって私はとっても幸せな気持ちになって思わず顔を綻ばせてしまう。うん、やっぱり美味しい。誰も見ていないことをいいことに私はお行儀悪く手についた砂糖を舐め取る。 「小毬さん?」 「ほわぁ?!」 いきなりの来訪者に私はびっくり。思わず背中から後ろに倒れてしまう。重力に従って私の頭は上の段のコンクリートとこっつんこ。 「うう…痛い……」 「だ、大丈夫?」 見上げれば理樹くんが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。ちょっぴり顔が近いことに私はどきどき。 「うぅ…理樹くんにお行儀悪いところ見られちゃったぁ〜」 「え、えっと手についた砂糖はついつい舐めちゃう…よね?」 「何で疑問形なの〜」 うう、恥ずかしい。よりによって理樹くんに見られるなんて思いもしなかった私は頭の痛さと相まって自分の情けなさに思わず涙が出る。今日はお客が来ないと踏んで油断していた私が甘かった。って、あれ? 「ほぇ? そう言えばなんで理樹くんがここにいるの?」 「今日は天気が良かったから久しぶりに屋上でお昼を食べようかと思ったんだ」 理樹くんは笑いながらサンドイッチを取り出す。私は理樹くんの座るスペースを確保しようと体一つ分だけ横にずれる。それを見た理樹くんは先程まで私が座っていた場所に腰掛けた。 「小毬さんはいつもお昼になると屋上で食べちゃうし。だから一緒に食べようかなって」 「そっかー。そうだ、あんドーナツ食べますか?」 「うん、ありがとう」 「はい、どうぞー」 ごそごそと袋の中に手を入れてあんドーナツを取り出す。今の私はとっても上機嫌。理樹君と一緒にいると不思議となんだかとってもハッピーな気持ちになってしまうのです。 理樹くんがあんドーナツを手に取ろうとしたところで急に景色が暗くなる。そして、ぽつりと水滴が落ちた音を耳にする。さっきまでのぴーかん模様が嘘のよう。まさに青天の霹靂。どんよりした色の雲がいきなり空を覆ったと思いきや、お日さまを隠して雨を降らしてしまう。 「あわわっ!?」 「小毬さん、取り敢えず中に戻ろう!」 私と理樹くんは急いで学校の中に戻る。幸いなことに紙袋の中のお菓子は無事だった。けれど、しとしと降り始めた雨はだんだんと雨足が強くなっていくだけ。 「…戻ろっか」 「あ、あはは。そうだね」 あまりに急過ぎる出来事に理樹くんは力なく苦笑う。私も思わず空笑いを浮かべるしかなくて結局は教室で理樹くんと一緒にお喋りしながらお昼休みを過ごす他なかった。 あれだけ晴れていたのに、と私は思わず心の中でお天道様に呪詛の言葉を投げつけてやった。 ● 午後の授業が始まってからというものの、雨の勢いは収まることは無くそれどころかさらに激しくなりつつあった。私は授業をそっちのけで窓ガラスの奥の景色とにらめっこ。折角の時間を無駄にしてくれたにっくき雨をただじぃっと睨めつけて過ごした。だから午後の授業をちゃんと受ける気にもなれなくて、私がやっとのことで窓の外から視線を外したのは放課後を告げる鐘が校内に鳴り響いた時だった。 じめじめして鬱陶しい雨の中を帰るのは嫌だったけれど、今の雨足では当面止む気配もない。寮までの距離はさして距離があるというものではない。それに、カバンの中には折り畳み傘が入っている。多少濡れてしまうことを覚悟すればものの数分で自分の部屋に辿り着くことが出来る。あんまり気乗りしないけれども仕方なく私は重々しい足取りでげた箱のある昇降口へと向かった。 「…あれ?」 げた箱から靴を取ろうと向かった先には理樹くんの姿。何かを思い出したようで頭に手を当てている様子が窺える。思わずいそいそとげた箱の中の靴を取り出して理樹くんのもとへと駆け寄る。 「理樹くんどうしたの?」 「あ、小毬さん」 既に靴を履いてしまった理樹くんは困ったような表情を私に見せる。 「雨なんて降るわけないと思ってたからさ、傘の持ち合わせが無いことに気がついちゃって」 理樹くんはそれから独り言をぶつぶつと呟いている。 「雨が止むまで待とうかな。いやいや、早く帰りたいから濡れるのを覚悟して走って帰ろうか。いっそのこと、この辺の傘を取っていって…いや、駄目だ」 なにやら悩んだり迷ったりと表情をころころと変えていて不謹慎ながらちょっぴり可笑しくなる。って、いけないいけない。理樹くんは本気で困ってるから私も何か考えないと。二人して難しい顔で考え続ける。暫くして、ふとある考えが私の頭を過る。 「そうだ、それならいい案があるよ〜」 「え、どんな方法かな?」 「えっと、理樹くんが私の持ってる傘に一緒に入ればいいんだよー」 「なんだ。小毬さんが傘を持って……ってえええ!?」 昇降口に理樹くんの驚いたような悲鳴が響き渡る。途端、その場にいた生徒は一斉に理樹くんと私に視線が集まって、今更ながら深く考えずに言った解決法が恥ずかしいものだと気付いた。 「えっと…ほら。私は気にしないよ?」 「僕が気にするよ!!」 「うう…それはそれでなんか嫌かも…」 「ご、ごめんっ! そういう意味じゃなくて…」 よく見れば周りで何やらひそひそと話している生徒がちらほらと見える。話している内容は分からないけれど、心なしか理樹くんの方に視線を巡らしているのが見えた。何だか私も居た堪れない気分になってくる。 「えっと…それじゃあ折角だから、ご相伴に預かろうかな」 「うん、えへへ」 どうやらこの場の雰囲気やら重圧やらに圧し負けた理樹くんは観念したのか、私と一緒に帰ることを承諾してくれた。理樹くんに対する返答に声が多少裏返る。それを聞いていた理樹くんと一緒に思わずはにかむ。だってしょうがないよ。私だって恥ずかしいんだから。 「うう、理樹君が笑った…」 「小毬さんこそ笑ってるよ」 「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよー」 カバンの中から傘を取り出して雨空の下に出る。理樹くんも私の後をゆっくりと着いてきて私の傘の中に入ってくる。一つの傘に二人の人影。これはいわゆる相合傘なんだろうなと、ぽけーっとした頭でそんなことを思う。 「小毬さん、濡れてるよ」 「ほわぁ!」 ぼうっとしていたら理樹くんに私の右半身が少し湿ってしまったことを指摘される。理樹くんは傘の位置を少しずらすために私が持つ傘の持ち手に手を重ねて半ば無理矢理に位置を調節する。触れられた部分がぽわあっと温かく感じるのはきっと気のせいじゃないのだろう。 「うん、これで大丈夫」 傘が覆う場所は私が濡れないようにしてくれた配置。だけどこれだと理樹くんの左半身がびしょ濡れになってしまう。折角の理樹くんの好意はありがたいけれど理樹くんが濡れることは何だか凄く悪い気がしてならなかった。だから私は理樹くんが濡れないように傘の位置を先程の位置に戻す。すると理樹くんはむぅ、と頬を膨らませる。 「僕は大丈夫。それより小毬さんが濡れちゃう方が僕は辛いよ」 「ううん。私はだいじょーぶなのですよ。このままじゃ理樹くんも風邪をひいちゃうよ」 「いやいやいや、小毬さんが…」 「ここは理樹くんが……」 遠慮の押し付け合い。傘の譲り合いが次第にヒートアップしていく中、掴まれた手もだんだんと熱を帯びてくる。それだけで私の心臓はとくんと跳ねる。それからこの言い争いが不毛だってことに気が付いて、二人してさらに内側に寄り添うことが暗黙の了解になったのは少し後のことだった。 無言の時間が続く。結局あれからあまり歩けていない。時折理樹くんとの視線が合うとお互いに気恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。でもこの距離感は恥ずかしいけど嫌じゃなくて、むしろ近すぎるくらいがとっても居心地がよくて。それがもっと続けばいいなと思うのは私の我儘なんだろうか。 でもそんな時間が長く続く筈もなくて、あっという間に女子寮の目の前まで辿り着いてしまう。話すこともなくただ歩いているだけならばやっぱり大した距離じゃないんだなあと改めて実感する。どうして長く続いて欲しいと願うと時間は残酷なまでに短いと感じてしまうんだろう。 「えっと、ここまでだね」 「うん、ありがとう。あとは自分で行けるよ」 理樹くんが私の手を離そうとしたそんな時だった。 「あ―」 どちらともなく漏れ出た言葉。空を仰げば先程までの雨がまるで無かったかのような快晴。そして何よりも、私達の眼前にはくっきりとした虹が見えていた。 「私、久しぶりに虹を見たよ」 「うん、僕も。でも、いつ見ても…」 「綺麗、だよね」 きれい、と一言で済ませるには勿体無いほど美しい虹に思わず私と理樹くんは見とれてしまう。それから虹が消えるまで、私達は空に架かる橋を眺めていた。 「それじゃあ、僕は行くね」 「あ、うん…じゃあ、また後でね」 「うん、また後で」 私は理樹くんに手を振ると理樹くんもそれに返してくれた。虹が消えたと同時に離される手に物寂しさと名残惜しさを感じずにはいられなかったけれど、ちょっと前の出来事を回想するだけで今日がしあわせだったってことを再確認。そして前言撤回。あんなにも濃密な時間とこんなにも綺麗な景色を見せてくれたお天道様に感謝の言葉をそっと口にして呟いた。 さてと。それじゃあ、風邪をこじらせちゃったりんちゃんの所へお見舞いに行く準備をしようかな。 ● 「鈴、風邪の具合は大丈夫?」 「だいじょうぶって朝にも言ったぞ。なんで来たんだ」 「だって僕は…鈴の彼氏だからね」 「だからそんなはずい言葉を使うな!」 「だって実際にそうでしょ?」 「うう……理樹のぼけー」 [No.821] 2008/12/30(Tue) 08:58:27 |
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