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No.824へ返信

all 第2回小大会 - 主催 - 2008/12/28(Sun) 00:17:36 [No.817]
話は下で果てる - ひみつ 遅刻ってレヴェルじゃねーぞ!@3710 byte - 2008/12/31(Wed) 23:45:57 [No.846]
似たもの夫婦 - ひみつ 遅刻@2533byte - 2008/12/31(Wed) 00:25:33 [No.839]
――MVPここまで―― - 主催 - 2008/12/31(Wed) 00:21:11 [No.838]
たなからぼたもち U - ひみつ@1248 byte - 2008/12/31(Wed) 00:13:44 [No.837]
男心と秋の空 - ひみつ@ 8745byte - 2008/12/31(Wed) 00:09:19 [No.836]
郷に入りては郷に従え - ひみつ@10234Byte - 2008/12/31(Wed) 00:07:57 [No.835]
馬子にも衣装 - ひみつ@8331 byte - 2008/12/31(Wed) 00:04:30 [No.834]
空谷の跫音 - ひみつ@6424 byte - 2008/12/31(Wed) 00:04:24 [No.833]
壺中の天地 - ひみつ@5354byte - 2008/12/31(Wed) 00:04:05 [No.832]
[削除] - - 2008/12/31(Wed) 00:02:48 [No.830]
[削除] - - 2008/12/31(Wed) 00:01:52 [No.829]
[削除] - - 2008/12/31(Wed) 00:03:55 [No.831]
身の毛がよだつ - ひみつ7403 byte - 2008/12/31(Wed) 00:00:37 [No.828]
Лучше горькая правда, чем с... - ひみつ@4414 byte - 2008/12/30(Tue) 23:45:57 [No.827]
一期一会 - ひみつ@3412byte - 2008/12/30(Tue) 22:54:09 [No.826]
猫に小判 - ひ・み・つ。6,915byte - 2008/12/30(Tue) 22:12:05 [No.825]
蓼食う虫も好き好き - ひみつ@10,239 せふせふっ - 2008/12/30(Tue) 19:42:27 [No.824]
棚から牡丹餅 - ひみつ 1954 byte - 2008/12/30(Tue) 17:58:12 [No.823]
[削除] - - 2008/12/30(Tue) 15:26:49 [No.822]
人間万事塞翁が馬 - 秘密 8571byte - 2008/12/30(Tue) 08:58:27 [No.821]
春眠暁を覚えず - ひみつ@3857 byte - 2008/12/29(Mon) 17:13:27 [No.820]
大は小を兼ねる - ひみつ 4019 byte - 2008/12/28(Sun) 09:42:53 [No.819]
金は天下のまわりもの - ひみちゅ 4137byte - 2008/12/28(Sun) 02:16:25 [No.818]


蓼食う虫も好き好き (No.817 への返信) - ひみつ@10,239 せふせふっ

 蹴り殺したい奴がいる。
 電車賃全部使って帰ってこれない馬鹿兄貴。あたしに荷物いっぱい送ってきた。誰が得すんだ、あれ。中身みおに見られた。怖いこと言われた。クドが部屋来たがるようになった。焼いてるとこはるかに見られた。くるがやに心配された。もう帰ってこないで欲しい。
 問題なのはもう一人。
「え〜っと、キップ買わなきゃだねぇ」
 キーホルダーがいっぱいぶら下がったピンクの携帯。きっぷ売り場のまんまえで、うんうん唸ってがちゃがちゃさせる。
「あれ? うーん? どれだろ?」
 通り過ぎる人たちがみんなジロジロ見ながら歩いてく。
「……むむむ、ちょっと待ってくださいね? って、ほわぁ!」
 画面を見ながら歩いていって、おじさんにぶつかった。
 転びそうになったのを理樹が支える。
「ごごご、ごめんなさい〜」
 二人がばたばたしてるところで、人の流れが詰まった。
「り、理樹くん、ありがと〜」
 理樹がこまりちゃんの手を握って、ケータイも取った。簡単そうに弄くって、画面を指してこまりちゃんに見せた。こまりちゃんは笑った。いっしょに理樹もすごい楽しそうに笑った。
 少しして理樹がきっぷ売り機に歩いてく。
「あっ! 理樹くん、お金お金!」
 こまりちゃんはポケットからピンクのクマさんの財布を出したけれど、理樹はニコニコ笑って、
「いいよいいよ。きっぷ二枚分くらい僕が出すからさ」
 そう言ってウィンクした。
「待っててね、こまりん♪」
「うにゃあああああああああ!!!」



蓼食う虫も好き好き



 蹴り殺されたいのかおまえ!
 怒鳴りそうになったけど、こまりちゃんがキョロキョロしだしたから慌てて柱の影に隠れた。
「どうしたの、こまりん?」
「うんとね、いま、すっごい元気な猫さんの声がしたの〜。あれはアメリカンショートヘアーだよ」
 なんでそんな限定するんだ!
 声には出さず、右手だけでエアーツッコミ。
「ははは、ノラネコは今発情期だからね」
 大嘘ぶっこくな! もう10月だろ!
「わ〜理樹くん物知り〜」
 ダメだこまりちゃん、そいつの言うこと信じちゃダメだ!
「伊達に十何年もネコの面倒みちゃいないさ」
 それはあたしのことか!? あたしのことなのかっ!? いいからはよ行け!
 はははははー、と二人で笑い合って、ようやく理樹はきっぷを買ってきた。あたしはよくわからんから一番高いのを買った。
「ツッコミは疲れるな……」
 凝ってきた肩をぐるぐる回して疲れを癒す。長く険しい戦いの予感に武者震いがした。




 二人を追うから手を貸せ、と言ったら馬鹿と馬鹿はびっくりしていた。もにょもにょなにか言ってから、
「よし、鈴! 今日は飲もう!」
 と、可哀想な子にするようにあたしの肩を掴んだ。
「なぁに、男なんて筋肉の数ほどいるってことよ。だから今日は騒ごうぜ!」
 反対の肩を掴まれる。
 振りほどこうとしても、馬鹿ぢからで押さえ込まれて、そのまま担がれた。
「真人! 魂の絆スキップだ!」
「待ってました! わっせろい! わっせろい! 筋肉! 筋肉!」
「よっしゃあ! ほら、鈴もご一緒に! わっせろい! わっせろい!」
「やめんかああああああああああああ!!!!!」
 廊下でサッサクレンザーとかなたに見られた。


 電車で居眠りしてたら夢に見て気持ち悪くなった。まったく使い物にならん馬鹿どもだ。はさみに相談した方がまだましだった。
 電車を降りて、気持ち悪いのを我慢しながら頑張って歩いた。前の方で、こまりちゃんと理樹は肩をくっつけておしゃべりしていた。
「楽しみだなあ、こまりんのモンブラン」
「えへへへ、がんばるよ〜!」
「じゃあ僕も頑張って拾おうかな」
「うん! お願いしまーす! いっぱい作るからいっぱい拾ってね!」
 二人は掘っ立て小屋みたいなとこに入っていった。栗狩りなんとか、というらしい。きゃぴきゃぴしながら受付をして、きゃぴきゃぴしながら帽子を被ったりしていた。見つからないようおじさんを盾にしながら色々書いた。二人は反対のドアから出て行ったから、あたしも追った。
 空は青くてほんのり寒くて、昔遊んだ裏山っぽかった。他に誰もいなかった。
「なんだかいー匂いがするね〜」
 こまりちゃんはそう言って深呼吸した。
「栗の匂いかなあ?」
「分かるの? こまりん」
 理樹の奴、図に乗ってる。こまりちゃんの優しさにつけこんで、きのあるそぶりでたぶらかそうとしてる。だが、あたしの目が黒いうちはそうはいかない。不埒なことに及ぼうとする前にとっちめてやる。
「ううん。こういうとこ来るの初めてだよ〜。理樹くんは?」
「うーん、栗の花の匂いなら知ってるけどね。今度好きなだけ嗅がせてあげるよ」
「やだー理樹くんったら〜!」
 バンバン、とこまりちゃんが理樹の背中を叩いた。
 ふみゅ。栗の花?
 理樹め、あたしの知らない特技を隠し持ってたのか。だがどうするんだ? 手のひら擦ると出てくるのか? ロマンスなのか?
 いくら考えても謎だった。謎だがともかくすごいきしょい気がした。結論を出したら二人がいなくなっていた。あちこち見回してみてもやっぱり誰もいない。
 うみゅう。
「こまりちゃんも、理樹のどこがいいんだ」
 二人を探しながら呟いてみた。
 親友として心配になってくる。
 こまりちゃんなら理樹を預けられると思ったけれど、理樹はこまりちゃんと付き合う器じゃない。最近やっと分かった。
 思えば女の子を見つけたらすぐ飛んでいってた。軽薄なやつだ。ムカついてきたからエアーハイキックする。びゅんびゅん。
 でも、と素振りしながら歴史的思い付きがひらめいた。
 優しいこまりちゃんのことだから、理樹の馬鹿に乗ってあげてるだけかもしれない。
 そう考えたらなんかスッとした。そういえば誰にでもあんな感じだ。いっつもニコニコしてる。いやもう、きっとそーに違いない。うん、さすがこまりちゃんだ!
 でも理樹は馬鹿だからそれに気づいてないで、不埒なことに及ぼうとするかもしれない。あたしは二人の捜索を続けた。理樹の服は地味地味だからこまりちゃんの行方を捜した。
 やっと、木の向こうに、小毬ちゃんのリボンがひらひらしてるのが見えた。最後の最後に助けてくれるのはやっぱりこまりちゃんだった。
 木の陰に隠れながら、そっと覗く。
 理樹は木に身体を預けていた。その肩をこまりちゃんが押さえつけていた。二人は身動きもしないで目と目を合わせていた。
 それから、大きな栗の木の下で、こまりちゃんは理樹にキスした。口と口だった。
「えへへ……」
 こまりちゃんは顔を真っ赤にして理樹から離れた。
 その肩を理樹が抱き寄せた。ほっぺたに手を添えて、もう一回自分からキスした。長くて、長いキスだった。
 何が起こったのか分からなかった。
 けどなんだか武者震いがした。身体中に力が漲ってきた。握った手のひらに伸ばした爪が刺さった。ぷるぷる手が震えるのが自分でも止められなかった。
 こまりちゃんになんてことするんだ!
 叫ぼうとしたら、急におなかから力が抜けた。
 でも、漲ったパワーはどこにもやり場がなかったから――

「ちぇすとぉぉぉお!!!!!」

 思いっきり、隠れていた木を蹴った。ばしぃん! といい音がした。反射神経で降ってきたイガグリをかわしながら、逃げ切らなかったパワーを脚にこめて全力で山を登った。
「ほわああああああ!?」
 後ろからこまりちゃんの悲鳴が聞こえたけれど、今はパワーを逃がすのが先決だった。



 気がついたら遭難していた。
 明らかに道がない。岩とか腐った木とかいっぱい転がってる。
「ふみゅう……」
 腕組みして考えてみるが、やっぱり道はなかった。右にも左にも上にも下にも道がない。したーの方に車が見えたけど、シロアリが走ってただけかもしれない。すぐ木に隠れて見えなくなった。
「これは困ったぞ」
 そう言ったらこまりちゃんの困りまくりの顔が浮かんで、パワーが沸いてきたからまた山を登った。
 気がついたら頂上を制覇していた。
 頂上には打ち捨てられたほこらがあった。茶色くて汚い。みるからに浮浪者の住処だった。賽銭箱も置いてあって、中につばでも溜まってそうな感じだった。
 でも、今あたしにできることは一つしかない。
「人里に返してください」
 五円玉を投げ入れて、がらがら紐を引っ張って、おじぎした。
 返事はなかった。
「うーみゅ」
 腕組みしてみる。
 お金が足りなかったか、さもなくば身体の調子が悪いんだろうか。
「前者だとしたらこま……つ救難隊」
「ふう、危なかった」
 前者だとしたら困惑する。きっぷでお金もない。後者ならやりようはあるんだが。
 ふうみゅーぅ。
 なんだか日が暮れてきて寒かった。ケータイを弄って、最近覚えたテトリスを始めたら、電池が切れそうになった。
 そうだ、ケータイで助けを呼ぼう。
 馬鹿と馬鹿と、馬鹿とこまりちゃんは、ダメだ。ほかのリトルバスターズのやつらも、なんかダメだ。そしたらもう友達がいなかった。
 高山病にかかったのか、目が痛くなってきた。涙も出てきた。鼻も垂れた。ティッシュは無かった。
 最後に、憎たらしい馬鹿兄貴の顔が浮かんできた。
 この際仕方ない。そう思ったけどケータイのメモリーに入ってなかった。本当に使えない馬鹿だった。
 受信BOXにあったと思うから、返信で頑張ろうと思ってケータイを弄くり回した。そしたら受信メールが全部消えた。あれだ。理樹があたしにケータイの使い方を教えてくれなかったのが悪い。
 賽銭箱の後ろの階段に座っていたら、ぐぅ〜、とおなかが鳴った。
「何奴だ!」
 バァァァンッ! といきなりほこらが開いて声がした。ちょっとちびりそうになった。
 おっかなびっくり振り向くと、毛むくじゃらの浮浪者が立っていた。変な絵がプリントしてあるシャツを着ていた。こわっ!
「なんだ、年端も行かぬおなごではないか。……名はなんと申す?」
 でもあたしは慌てず騒がず、
「こんにちは。二年Eぐみゅの棗鈴です」
 ちょっと噛んだ。
「鈴?」
 浮浪者は少し考え込んで、
「聞いた名だ。しかし、そんなわけが……」
 ぶつくさ言い始めた。なんか本気で怖くなってきた。
「どこから来た」
「下から来ました」
「なにをしている?」
「遭難しました」
「遭難か」
「そうなんです」
「不躾なことを尋ねるが、カッコイイお兄ちゃんがいたりしないか?」
「あたしに兄はいません」
「そうか……人違いであったか。もうゆけ。ここはおぬしのようなものが来る場ではない。選ばれし者が賢者を目指す神聖な場所なのだ」
 浮浪者はほこらの中に消えた。
「もし妹に会ったら、今も愛していると伝えてくれ」
 そう言い残して。

 あたしはまた独りぼっちになった。林の向こうに綺麗な街灯りが見えた。キラキラしてた。あたしの足元は真っ暗だった。風が冷たくて、ガサガサ音を立てた。またおっかなくなってきた。動いたら賽銭箱に脛をぶつけて死ぬかと思った。涙が出てきた。
 こんなとき、あたしに声をかけてくれた奴がいたはずなのに。
 変なこと思い出した。
 独りぼっちで辛いとき。そいつは、間抜けなりに手を引っぱってくれたんだ。困ったように笑って。
 泣きそうになった。
 そのとき、ポケットの携帯が震えた。
 取り出すと、ほんのりと周りが明るく照らされた。風がなくなった。
 理樹からだった。
「……遅いわ! ばかっ!!」
 あたしは涙声になっていた。構わず怒鳴って、携帯を開いた。










19:57 りき
やっほ〜元気? モンブランあるよ^^








「うにゃあああああ!!!!」



 あたしの叫びが森に響いた。
 漲るパワーに任せて携帯をへし折った。四つ折りにして石の地面に叩きつけた。
 余ったパワーでまた駆け出した。ふもとへ向けて。
 レノンたちはこんな状況から生き延びてきたのか。あいつらのことをちょっと見直した。浮浪者も、よくわからんが頑張ってるらしい。偉い奴っているもんだ。
 あいつらみたいに強く生きよう。
 同情ついで施しなんてあたしはいらん! 自力で何とかしてみせる!
 念じながら、走って走って走り抜いた。理樹を蹴り殺すことを考えた。どこまでも走ってゆける気がした。
 夜の野山を駆けるあたしは、どこまでも気高い野生の猫だった。


[No.824] 2008/12/30(Tue) 19:42:27

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