第24回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/08(Thu) 00:13:56 [No.855] |
└ 赤い雨が降る - ひみつ@1754Byte 遅刻 20分で書けとかorz ぐろくないよ、ほんとだよ - 2009/01/10(Sat) 22:05:26 [No.878] |
└ MVPしめきり - 主催 - 2009/01/10(Sat) 00:54:00 [No.874] |
└ 水溜まりに飛び込んで - ひみつ@とりあえず何か一つ書ければよかった 5550 byte - 2009/01/10(Sat) 00:37:05 [No.872] |
└ [削除] - - 2009/01/10(Sat) 00:19:23 [No.870] |
└ 空にも快晴が広がっていた - ひみつ@7258byte - 2009/01/10(Sat) 00:00:30 [No.868] |
└ 雨の中の待ち人 - 秘密 @4406byte - 2009/01/09(Fri) 23:58:52 [No.867] |
└ 雨の中の待ち人 - 訂正と言ったら訂正なんです - 2009/01/10(Sat) 00:06:30 [No.869] |
└ 冬の雫 - ひみつ@7670byte - 2009/01/09(Fri) 23:49:19 [No.866] |
└ 鳥が羽ばたく日 - ひみちゅ 4137byte - 2009/01/09(Fri) 23:40:16 [No.865] |
└ [削除] - - 2009/01/09(Fri) 23:22:41 [No.864] |
└ 雨のあとに見えたもの - 秘密 @3160byte - 2009/01/09(Fri) 22:21:13 [No.863] |
└ 雨後の筍 - ひみつ@8829 byte - 2009/01/09(Fri) 22:03:53 [No.862] |
└ 雨の日は部屋で遊べ - 秘密@17854byte - 2009/01/09(Fri) 17:40:45 [No.861] |
└ 雨のち晴れたら嬉しいな - ひみつ@8293 byte - 2009/01/09(Fri) 13:42:43 [No.860] |
└ 雨ときおりハルシネイション - ひみつ@20374 byte - 2009/01/08(Thu) 23:41:15 [No.859] |
└ 雨のひ、ふたり。 - ヒミツ@12168 byte - 2009/01/08(Thu) 22:51:59 [No.858] |
└ 最後の涙 - HIMITU@ 8214 byte - 2009/01/08(Thu) 21:22:21 [No.857] |
└ MVPと次回について - 大谷 - 2009/01/11(Sun) 01:30:26 [No.879] |
└ Re: MVPと次回について - west garden - 2009/01/19(Mon) 00:56:25 [No.885] |
└ Re: MVPと次回について - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:53:13 [No.886] |
肩を並べて廊下を歩いていると、沙耶は機嫌良さそうに節をつけて何事かを口ずさみ始めた。 「ぽっつぽつ、ぽたぽた、ざーざー、どしゃどしゃ♪」 「いやいやいや」 「ん? どうかした?」 くるりと回って僕の前に躍り出た沙耶は、僕のほうを向いたまま、つまり後ろ向きで、スキップをし始める。スキップである。器用を通り越して不気味だけれど、そんな風にはしゃいでいる彼女は実に可愛らしかった。 「ざーざー、までは分かるけどさ。どしゃどしゃ、ってなんなのさ」 「ほら、どしゃ降りってあるじゃない? ちょうど今、外が――」 窓の外に視線を向け、沙耶はその笑顔を凍りつかせた。それがちょうど飛び跳ねて身体を浮かせていた時で、その一瞬をうまい具合に切り取ったら珍妙な絵画っぽくなるに違いなかった。後世になって評価される感じの。 それはともかく、妙なタイミングで硬直してしまった沙耶は、当然バランスを崩す。咄嗟に手を伸ばし、しかし不意にめくれそうになったスカートに目を奪われ、僕はついに動けない。そのまま後ろにすっ転んだ。結局スカートの中は見えなかった。 雨のち晴れたら嬉しいな 左手でリノリウムの床にぶつけた後頭部を押さえながら、びしぃ! と窓を指差す。窓の外を指差す。 「外! なんで! 雨! どしゃどしゃ!」 「軽く意味がわからないんだけど」 涙目になっているのが可愛い。それにしても痛そうだ。擦ってあげたくなる。擦ってみた。すりすり。 「……う、うう……なんたる、なんたる屈辱……あたし、凄腕のスパイなのに……なんでこんな……」 蹲ってぶつぶつと何事か呟いているのも、見慣れた今となっては可愛く思える。というかもう、何をやってても可愛い。恋ってすごいなぁ。ヤバいなぁ。なんだろう、これ。 「……何一人で満ち足りた顔してるのよ」 いつの間にか復活していた。蹲ったまま、どこか恨めしそうな視線を上目遣いに突き刺してくる。あれ? すごく可愛いんですけど。僕はどうすればいいんですか? 「沙耶、好きだ」 「うんがーっ!! あたしが言いたいのはなんでこんな大雨がげげごぼうぉえっ」 そのまま近場のトイレに駆け込まれた。 五分ほどして出てきた。ずかずかと、肩を怒らせながら歩いてくる。 「それで! どうして! こんな! 大雨が! どしゃどしゃと! 降ってるわけ!?」 「さあ?」 怒り顔も可愛い。 「さあ、って……今日は二人で一緒に、その……街で、日用品の補給をする予定だったでしょ! なのに、なんでそんな……!」 「いやまあ、朝からこんな感じで降ってたし。もう十分がっかりしたから」 「へ?」 きょとん、とした顔も可愛い。一分ほどそのままでいると、今度はわなわなと身をふるわせ始める。可愛い。 「……ふ、ふふふ……滑稽よね? 滑稽でしょ? 今日は理樹くんとお出かけだルンルルーン♪ と浮かれるあまり雨が降っていることにすら気付けなかったのよっ! これで凄腕のエージェント名乗ってるなんてとんだお笑い草だわっ、理樹くんだってそう思うでしょ!? 笑いたいんでしょ!? 笑えばいいじゃないっ、笑いなさいよっ! あーっはっはっはって笑いなさいよっ! あーっはっはっは!」 「恋は盲目ってこういうことを言うんだろうねぇ」 「きょげえええええっ!!」 実に可愛らしい奇声だった。 雨の日には雨の日の楽しみ方があるよ。背中を丸めてどんよりと影を背負う沙耶に声をかける。ちらり、とこちらを見る。拗ねた子供みたいで、可愛いを通り越して可愛かった。わけがわからない。 「とりあえず、外に出よう」 「やーよ。あたし雨きらい」 「そう言わずに」 沙耶の手を握ってずるずると引っ張っていく。鈴ほどではないけど、ちっこい手だ。そして、この細くて柔らかい指が、無骨な銃の引鉄を引いているのだ。そのギャップがどうにもおかしくて仕方がない。 「なにニタニタしてるの。おもっきし怪しい人になってるわよ、理樹くん」 「沙耶は可愛いなぁ」 「うんがーっ!」 気付けば昇降口まで辿り着いている。人影はない。夜中から降り出していたようだから、傘を忘れて立ち往生なんてことになっている人もいないわけだ。さて、沙耶はどうやって雨に気付かず登校したのだろう。 「……けっこう腕力あるのね」 「ん?」 「あたしもそれなりに踏ん張ってたんだけど」 沙耶は軽いからね。まるでそこにいないみたいに軽い。言い過ぎた。えーと、たぶんドルジくらい。急に重そうになった。なぜだ。 「女の子が踏ん張ってるとか言っちゃダメだよ」 嗜めるのは今さらな気もする。もともと女の子としてどうかと思われる言動の多い子ではあるし、それが沙耶らしさでもある。 「なんでダメなのよぅ」 なんでそんなに落ち込むんだよぅ。 とりあえず放っておいて、傘立てへ。僕の傘は、と。あった。何の変哲もないビニール傘。透明なやつ。 「沙耶、相合傘しよう」 「……? なによ、それ」 その反応は想定外だ! 何もかも説明するとぎゃあぎゃあ言われそうだったので、もちろんそんな沙耶を見ているのも楽しいのだけれど、幸いにもちょうど雨足が弱まってきていることだし、二人で一つの傘を使うことだよ、とだけ言った。理解できない、不合理的だ、とでも言いたげな顔をされた。された割には、僕らは一つ傘の下に身を寄せ合って歩いている。目的地はローソン。外出許可なんて取ってない。 「あ」 「ん?」 「理樹くん、肩濡れてる」 そりゃそうだろう。狭い傘の下に二人入っているのだから。 「沙耶が濡れてなければそれでいいんだよ」 紳士的なことを言っておく。まあ本心なのは違いないけど、男のほうから持ちかける相合傘というのはひどく自己満足的な側面を孕んでいるのだなぁ、と今さらながらに気が付いた。女の子のほうから、よかったら入る? なんて誘われたい。そうして初めてエセ紳士な振る舞いが許される、気がする。 「ふーん、そう」 そして時々すごく意地悪な沙耶は、たったそれだけの言葉で、僕にエセ紳士的振る舞いを強要するのだ。あうあう、恥ずかしい。わかってないでやってるに違いなくて、末恐ろしい限りだ。 「やっぱり理解できないわ」 「なにが?」 「あいあいがさ、だっけ。なんで二人で一つの傘使わなきゃならないのよ。濡れるに決まってるじゃない」 沙耶は怒っていた。怒っている、というよりはイライラしていると言ったほうが正しいかもしれない。昔イライラ棒ってあったよなぁ、と脈絡なく思う。 「これが雨の日なりの楽しみ方?」 なるほど、僕一人が勝手にそう思っていただけだったらしい。今さらだけど、確かにそんなに楽しくない。気恥ずかしくもなかった。沙耶の隣にいることを自然に感じられるようになってきているからだろう。 「実を言うと、相合傘っていうのは友達以上恋人未満の男女が一つ傘の下で身を寄せ合ってあれこれという嬉し恥ずかしイベントで、知り合いに目撃されると翌日にはもれなく黒板に落書きされて茶化されるという、なんというか青春の1ページ? みたいな感じの何かなんだよ」 「うんがーっ!」 実は空気読んでやってくれてるんじゃなかろうかと疑ってみる。 いつの間にか辿り着いていたローソンは、今日も青くて直方体だった。明日には赤くなっているかもしれない。いないかもしれない。間違いなく後者だろう。とりあえずからあげクンを全種類買ってみる。全というほど種類はない。沙耶が横からチーズ味をひとつ掻っ攫っていった。 「なにこれ、うまっ!」 ツチノコでも見かけたかのような顔をする。そういえばいつの間にか何事につけても可愛いと付け加えることをしなくなっていたけど、それはきっといちいち言うまでもなく可愛いからに違いなかった。可愛いので残るレギュラーとレッドも献上する。 「いいの?」 「いいとも」 「んー、じゃあ貰っちゃおうかしら。ありがと」 デートなら男が奢るのは当然だとよく聞くが、そんなことを言い出したのはどこのどいつだろう。偏見丸出しで悪いけど、きっとアタマの悪そうな女性誌かなんかだろう。迷惑な話だ。そんな風潮などなくとも、僕のような人間は奢るに決まっている。主に自分のために。 「よし、次はファミマに行こう!」 「は?」 怪訝な顔をされた。頭だいじょうぶ? とでも言いたげだ。 「ファミマの牛肉コロッケがさ、衣サクサクで美味しいんだよね。しかも一個60円と手頃な値段設定。これは行くしかないよ!」 「……まあ、付き合ってあげてもいいけど。ほんとにコンビニ好きね、理樹くん」 「違うよ、ローソンとファミマが好きなんだよ」 「あ、そう……」 早く景気回復してくれるといいなぁ、などと思いながら自動ドアの前に立つ。がー、と開く。どしゃどしゃ、と雨が降っている。傘立てから愛用のビニール傘が姿を消していた。 「まったく……いつになったら止むのよ。なんかこう、巨大ビーム兵器で撃ち抜いてぶわっと消滅させてやりたくなってくるわね」 「いつかは止むよ」 昨日の夕方ニュースで見た週間天気予報によれば、今週はずっと雨だった。来週もかもしれない。集中豪雨だかなんだかで、山間部では土砂崩れに注意してくださいだのなんだのと言っていた気がする。さすがに学校の裏山は崩れたりしないと思うけど。 沙耶は、雨が嫌いだと言った。じめじめして陰気だし、雨嫌いは沙耶に限らず珍しいことではないだろう。僕もあまり好きではないけれど。 「これだけ降った後に晴れたら、きっとすごく気持ちのいい天気になるよ」 沙耶が、チュパカブラでも見かけたかのような顔をして、僕を見る。 「虹も見えるかもね」 「虹」 さすがに虹は知っているだろう。そういえば、国や地域によって色の数が違うらしい。見る人によって、色の数も、色そのものも、違っているのだろう。 「ねえ、理樹くん」 満天の雨雲を見上げ、一度目を伏せ、次に僕の顔を見て、小さく、ほんの小さく笑う。 「一緒に、見られるといいね」 「傘買ってくる」 あまりに綺麗で、逃げ出していた。 「これください」 「599円になりまーす」 からあげクン三つも買うんじゃなかった、と後悔する。 [No.860] 2009/01/09(Fri) 13:42:43 |
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