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No.861へ返信

all 第24回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/08(Thu) 00:13:56 [No.855]
赤い雨が降る - ひみつ@1754Byte 遅刻 20分で書けとかorz ぐろくないよ、ほんとだよ - 2009/01/10(Sat) 22:05:26 [No.878]
MVPしめきり - 主催 - 2009/01/10(Sat) 00:54:00 [No.874]
水溜まりに飛び込んで - ひみつ@とりあえず何か一つ書ければよかった 5550 byte - 2009/01/10(Sat) 00:37:05 [No.872]
[削除] - - 2009/01/10(Sat) 00:19:23 [No.870]
空にも快晴が広がっていた - ひみつ@7258byte - 2009/01/10(Sat) 00:00:30 [No.868]
雨の中の待ち人 - 秘密 @4406byte - 2009/01/09(Fri) 23:58:52 [No.867]
雨の中の待ち人 - 訂正と言ったら訂正なんです - 2009/01/10(Sat) 00:06:30 [No.869]
冬の雫 - ひみつ@7670byte - 2009/01/09(Fri) 23:49:19 [No.866]
鳥が羽ばたく日 - ひみちゅ 4137byte - 2009/01/09(Fri) 23:40:16 [No.865]
[削除] - - 2009/01/09(Fri) 23:22:41 [No.864]
雨のあとに見えたもの - 秘密 @3160byte - 2009/01/09(Fri) 22:21:13 [No.863]
雨後の筍 - ひみつ@8829 byte - 2009/01/09(Fri) 22:03:53 [No.862]
雨の日は部屋で遊べ - 秘密@17854byte - 2009/01/09(Fri) 17:40:45 [No.861]
雨のち晴れたら嬉しいな - ひみつ@8293 byte - 2009/01/09(Fri) 13:42:43 [No.860]
雨ときおりハルシネイション - ひみつ@20374 byte - 2009/01/08(Thu) 23:41:15 [No.859]
雨のひ、ふたり。 - ヒミツ@12168 byte - 2009/01/08(Thu) 22:51:59 [No.858]
最後の涙 - HIMITU@ 8214 byte - 2009/01/08(Thu) 21:22:21 [No.857]
MVPと次回について - 大谷 - 2009/01/11(Sun) 01:30:26 [No.879]
Re: MVPと次回について - west garden - 2009/01/19(Mon) 00:56:25 [No.885]
Re: MVPと次回について - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:53:13 [No.886]


雨の日は部屋で遊べ (No.855 への返信) - 秘密@17854byte

「また今日も雨か…」
 誰ともない呟き。天気に文句を言っても仕方がないとは言え、冬にこう連日雨ばかりだと気が滅入るというものだ。
「野球の練習も出来ないし、本当に雨は嫌なものだな」
 黄昏ながら言って振り返る謙吾。振り返った先にいるみんなはというと、真人は筋トレに忙しいし女の子たちはお菓子やお茶などを持ち寄って談笑中。何だかんだでしっかりとみんな雨の日常を満喫していた。
「ふんっ! ふんっ! 筋肉、筋肉ぅ!!」
「でねー、ここのモンブランっておいしいでしょ? あとねあとね、エクレアも美味しんだよ〜」
「それは楽しみだな……。うん、今度はあたしが買ってくる」
「お菓子も美味しいですがこの紅茶も絶品です。来ヶ谷さん、どこで買っていらしたのですか?」
「はっはっは。それはイギリスから送られたものだ。懇意にしている農家の方が厚意で送ってくださってるもので、数の関係から一般市場に出回らないものらしいぞ」
「ふむふむ。最近のお茶はグレードが高いですネ。昨日のクド公の緑茶とおせんべとようかんも激ウマでしたし」
「当然よ。クドリャフカの和菓子とお茶は一級品ですもの」
「は、葉留佳さんに佳奈多さん。そんなに褒めないで下さい」
 和気あいあい。とても和やかな空気が流れていた。もう謙吾の存在なんかいらないと言わんばかりに。
「…………」
 物凄く寂しそうな顔をする謙吾だが、筋トレしている真人とお茶組は全く気が付いていない。
「そ、そうだよね! 雨って本当に嫌だよね!」
「み、宮沢様のおっしゃる通りですわ! こう雨ばかりだと外で運動する事も出来ませんし、体がかびてしまいますわ!」
 そんな謙吾に慌ててフォローを入れる理樹と佐々美。そして相手をして貰った謙吾の表情が一気に明るくなる。
「そうだよなっ! やっぱり雨でも体を動かして遊ばなくちゃダメだよなっ!」
「あん? 俺はちゃんと体を動かしてるぞ」
 筋トレが一段落ついたのか、汗を拭いながら謙吾の言葉に答える真人。流石の真人も、あの女の子のみで構成された空間に割り込む勇気はなかったらしい。もしくは、ただ単純にこの中で一番筋肉を持っている謙吾に惹かれただけか。
(後者だったら嫌だなぁ)
 そんな意味の無い事を考える理樹はさておいて、謙吾と真人、そして佐々美の話は進む。
「いや、そういう意味じゃなくてだな。やはりいつもみたいに遊びたいと、そういう話だ」
「なんで今の話の流れでそれが分からないのかしら?」
「いや、でもよぅ。恭介がいないと何して遊んでいいのか分からないじゃねえか」
 そうなのだ。雨とはいえ、みんなが部屋の中で大人しくしているのは恭介がいないからだ。いつもの通りにどことも知れぬ町に就職活動に出かけ、帰ってくるのはいつになるのか分からない――
「みんな、待たせたな!」
 ――噂をすれば影。恭介の声が響く。反射的にみんなで出入り口に目を向ける。が、そこに恭介の姿はない。
「あ、あれ? 幻聴か? 恭介と遊びたいと思った俺が聞いた幻聴なのか?」
「いや。みんな声に反応したから、それはないと思うけど……」
 頭を抱える謙吾に声をかけつつも首を捻る理樹。
「そっちじゃない。こっちだこっち!」
 また声が聞こえる。だが妙に声がくぐもって、どこから響いてくるのか分からない。天井か、もしかしたら地下から来たのか。いや、もしかしたら既に教室内に紛れ込んでいるのかも。全員で首を動かして恭介を探す。
「こっちだって!」
 ドンドンドンと何かを叩く音が聞こえる。そのはっきりした音源に、今度はしっかりと全員がそちらの方に視線を向ける事が出来た。何の事はない、恭介はいつもみたいに窓から来たのだ。
 今は冬の上に雨だから、窓はピッチリと閉まっている上にカギまでかかっているけれど。
「窓を早く開けてくれ、寒い!」
 恭介は結構切羽詰まった様子でみんなに声をかけてくる。というか、何を考えてこの冷たい雨の中、窓の外から来ようと思ったのか。みんなの呆れを代表して鈴が口にする。
「風邪ひけばーか」





 雨の日は部屋で遊べ





「ふう、助かったぜ」
 教室内に飛び込んだ恭介はわしゃわしゃとタオルで頭を拭く。ちなみにそのタオルは掃除用具入れから恭介自身が取り出したものだ。そんなものまで用意していたという事は、やはりあのボケは確信犯だったらしい。
「それで、今日は何して遊ぶんだっ!?」
 そんな事はどうでもいいと言わんばかりの笑みの謙吾。
「…………え?」
 それを聞いた、恭介の意外そうな顔。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 表情が消えた謙吾は、トボトボと歩いて教室の出入り口へと向かう。
「ちょ、待ってよ謙吾! ちょっと今はシャレにならないから早く冗談だって言ってよ恭介!」
「もちろん冗談だ」
 結構本気で謙吾を引き留める理樹に、恭介が冷や汗混じりに言う。
「何だ、冗談だったのかよ! 早く遊ぼうぜ恭介ぇー」
「ああ、宮沢様の笑顔、素敵ですわっ!」
 そして一瞬で笑顔になる謙吾。本当に躁鬱の激しい人物である。そんな謙吾の顔を見て悦に浸るのはもちろん佐々美。
「って、アレ? さーちゃんが好きな人って理樹君じゃなかっ――モガァ!?」
「声が大きいですわ、小毬さん!!」
 不用意な発言をした小毬の口を慌てて押える佐々美。チラリと横目で理樹の事を見る佐々美だが、反応がなく聞こえていなかったようなのでほっと安堵の息を吐く。ちなみに理樹の方ばかり気にしているので、少し冷たく、だけどなま温かくもある視線を送る来ヶ谷と佳奈多、クドには全く気が付いていない。
「あのですね、憧れと恋は別物なのですよ」
「はぅぅぅ。ごめんね、さーちゃん。だけど苦しかったよ」
 軽く涙目な小毬。そんな小毬を見て佐々美も少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「わたくしの方こそごめんなさい」
「ううん。いいよ〜」
 ほのぼのした空気が流れる傍らで、恭介はゴソゴソと道具を取り出して大声で宣言する。
「今日はこれで遊ぶぞ!」
 そして恭介が取り出したのは何本もの割り箸と、紙コップ。割り箸の先には何か文字が書かれているようだが、割り箸の先にある文字である。遠目では何が書いてあるのかよく見えない。理樹がそれについて聞く前に、恭介が自信満々と一言。
「王様ゲームだ」
「ひゃっっっほーーーーう、王様ゲェェェーム!」
「来たぁぁぁぁ!」
 一気に盛り上がる謙吾と来ヶ谷、いや謙吾は元からだが。
「へっ。この俺の筋肉に最適なゲームが来やがったぜ」
「いや王様ゲームに筋肉は関係ないからね」
「え? そうなのか?」
 静かに闘志を燃やしていた真人にしっかりとつっこむ事を忘れない理樹。
 だが、他の人間は微妙な表情のまま。
「お、王様ゲームって…………」
「既に古ゲーの領域にありますよネ?」
 姉妹で呆れる葉留佳と佳奈多。そしてその側で額をつき合わせているのはクドと小毬、そして鈴。
「王様げーむ……とはなんなんでしょーか?」
「う、ううん。私は知らないよー」
「ちなみにあたしも知らん」
 呆れる以前の問題な3人はうんうん唸りながら考えるが、当然答えはでてこない。
「全く、物を知りませんわね。いいですか、王様ゲームと言うのは――」
「くじ引きで命令権を持つ王様を決め、王様が命令をするゲームです。ちなみに王様以外は誰にも分からない番号を持ち、命令は番号で行います」
 彼らの側にいた佐々美と美魚が見かねて口を出した。と言うか、美魚がおいしいところをかっさらった。
「西園さん…………」
「? なにか?」
 睨みつけてくる佐々美を、きょとんとした顔で見返す美魚。とぼけているのか本当に分からないのか、美魚の表情からはよくわからない。多分、前者だろうけど。そして説明を受けた3人の様子と言えば、
「「「???」」」
 だった。ゲームを口で説明するのが間違っていると言えば間違っているのだけど。話を聞いていた理樹がほろ苦い顔で3人に話しかける。
「まあ、やれば分かるから。ほら、恭介から説明があるよ」
 理樹の言葉に3人が恭介を見ると、それを見計らったように恭介が声を出す。
「ここでは色々と場所が悪いな。理樹と真人の部屋に移動しようか」
「色々ってなにっ!?」
 思わず理樹がつっこんだが、とりあえず全員にスルーされた。落ち込み気味の理樹を引き連れて、男子寮の一室に移動する一同。その間に恭介が恭介がゲームの説明をする。

 ルールは基本的に普通。ただ、番号が書かれた棒は人数分の12本ある。余った一本が王様の番号になり、それは王様も知らない。
 ちなみに、余りが王様だったらやり直し。命令は常識の範囲内である事。

「王様の番号ってどういう意味ですかネ?」
 部屋にたどり着く直前に説明が終わり、疑問点を葉留佳が訊ねる。
「王様の棒を含めて13本ある訳だ。つまり、誰にも引かれない余った棒が一本ある。それが王様の番号だ。つまり王様は命令が自分に降りかかる可能性がある訳だな」
「13って数字も不吉ですよねー」
「自分から聞いておいて脈絡がないな!?」
 何だかんだで全員、部屋に車座で座る。そこで理樹は恭介の後ろに見慣れないダンボールを見つけた。
「恭介、それはなに?」
「ああ、色々な道具だ。命令に活用してくれ」
「そんな大きな物なんて持ってなかったよね!?」
「ああ、この部屋に置いといたからな」
「僕たちに何の断りもなく!?」
 理樹が絶叫する。今更私物を部屋に置かれた事で目くじらをたてる間柄ではないはずなのだが、突っこむところには突っこまないと落ち着かない性格をしているのかも知れない。
 恭介はその辺りがわかっているからか、キョトンとした顔で言葉を続ける。
「就活に行く前に、ちゃんと真人に許可をとったぞ?」
 グリンと真人の方を向く理樹。真人に静かに笑い、言う。
「忘れた」
「こいつばかだっ! 脳味噌まで筋肉でてきてるのかっ!?」
 鈴が遠くから思わずつっこんだ。
「ありがとよ」
「いや、ほめてないから」
「え? そうなのか?」
 心底不思議そうな顔をする真人。理樹は始まる前から疲れきっている。その間に暇そうな来ヶ谷と佳奈多は恭介の後ろにあるダンボールをのぞき込んでいた。
「これはまた、色々と用意したものだな恭介氏」
「だろう? 苦労したんだぜ」
「こんな物を買うお金があるなら就職活動の旅費にあてれば歩かなくても済むのじゃないかしら?」
 佳奈多は本気で呆れているが、もちろん恭介はそれを聞いていない。
「さあ、そろそろ始めるか!」
 爽やかな声で恭介が宣言した。



「ほわぁ!」
 小毬の声。箸を配り終えた時点でこの声をあげるという事は、間違いなく小毬が王様だ。
「おっ。こまりんが王様ですか」
 葉留佳はニンマリ顔で笑う。だけど小毬はそれどころではなくて、落ちつきなく周りを見渡していた。どうしたらいいのか分からないらしい。
「えっと、えっと…………」
「簡単だ、番号と命令を言えばいい」
 そんな小毬に端的な助言をするのは恭介。それを聞いて深呼吸を一つ。
「それじゃあ、3番の人に〜……」
 間延びした声の後に、
「このお菓子をプレゼント!」
 ドザザザザと、物凄い量のお菓子が積まれた。
「……こんな量、どうやって持ち歩いているのよ」
「それはわたくしも疑問ですわ……」
 佳奈多の呆れ声にルームメイトの佐々美が賛同する。
「で、肝心の3番は誰だ?」
 謙吾の声に、元気なく手が上がる。
「この量の菓子をいったいどうしろと言うのだ…………」
 来ヶ谷だった。無茶苦茶困った顔をしている。
「あ、ゆいちゃんか〜。おめでとう」
「…………」
 来ヶ谷は小毬の声に顔をひきつらせる事でしか反応できない。
「とりあえず、お茶請けにしたら?」
「ああ。そうさせて貰うよ、少年」
 解決したらしかった。



「あら。わたくしが王様ですのね」
「王様と言うか、女王様な雰囲気が出てる気が…………」
 理樹の率直な感想は佐々美の一睨みで黙らされた。
「ん〜。そうですわね…………」
 目で全員を軽くなでる佐々美。そうしてからダンボールの中に入っていたブラシを取り出し、命令。
「1番の方が10番の方のブラッシングをすると言うのはどうでしょう?」
「うにゃ!」
 いきなり鈴が大声をあげた。
「…………鈴、何番だ?」
 恭介が訊ねると、鈴は泣きそうな顔で箸に書かれていた番号を見せる。1と書かれていた。
「そうか…………」
 恭介も鈴に番号を見せる。10と書かれていた。満面の笑みだった。
 鈴は、いつの間にか物凄く嫌そうな顔に変わっていた。



 一応手は抜かなかったらしい。猫で鍛えられたブラッシングにより、恭介の髪は光沢を放っている。ちなみに表情も髪と同じくらい輝いている。
「王様だーれだ!」
「ハゲろ、ばーか」
 無駄にハイテンションとなっている恭介に、鈴が無表情でつっこむ。心の中ではわざとわしゃわしゃやって、毛根に致命的なダメージを与えればよかったとか思っているのかも知れない。
「ふっふっふっふっふっ…………」
 そして不気味な笑みを浮かべるのは、来ヶ谷。
「ゆいちゃんが王様?」
「だからゆいちゃんと言うなと…」
 すぐに崩れたけれど。それはともかくと、気を取り直した来ヶ谷は女性陣をしっかりと凝視する。凝視した上で、ゆっくりと言葉を口にする。
「6番が――」
 ピクリとクドの体が震えた。ギラリと来ヶ谷の瞳が輝く。
「この、クドリャフカ君用に作ったエロゴスロリを着る事っっっ!!」
 ふっさぁ〜と、どこからともなく取り出したエロゴスロリを風にたなびかせる来ヶ谷。
「だからそれはどこから出したのよ……」
 佳奈多の疑問に答える人はいない。
「わふぅー!」
 目を丸くしたクドはゴスロリを見て固まっている。ところどころにアブナイ切れ込みが入っているし、多分スカートの長さも股下10センチ程度しかない。
「こ、こ、これを私が着るのですか?」
「そうだ。王様の命令は絶対だ」
「お、王様ゲーム、恐ろしいです…………!」
 生き生きとし過ぎている来ヶ谷の言葉に色を失うクド。助けを求めるように首を動かしても、全員成り行きを見守るだけ。そんな中、理樹の表情がクドの目にとまる。顔を少し赤く染めて、目を閉じている理樹の表情が。
(リキ……)
 その理樹の顔を見てクドは決意を固め、口を開く。
「あら? ちょっとクドリャフカ。あなたの番号は6番じゃないわよ」
「わかりまし――え?」
 その直前に佳奈多がそんな事を言ったために、変な言葉になってしまったけれども。言った佳奈多はというと、クドが持っていた箸を逆さまにする。
「持ち方が逆なのよ。あなたは6番じゃなくて9番」
「そうだったのですかっ!」
 びっくりしているみんなと、とてもびっくりしているクド。天然らしい。
「では、6番はどなたでしょう?」
 美魚の言葉に、一斉に周りを見渡すみんな。特に来ヶ谷は必死である。そんな中、持っていた箸をひっくり返すのが一人。
「あ、俺だ」
 真人だった。



「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 嫌な雰囲気だった。一人を除いて静まり返っている。
「ううう……。せっかく作ったクドリャフカ君用のエロゴスロリ服がぁ…………」
 そして残った一人はすすり泣いているのが嫌な空気に拍車をかけている。
 目の前の筋肉は、毒だった。自分の体より3周りは小さい服を無理矢理着たせいで、服はところどころが裂けている。大きさの面からいっても当然だし、ビジュアルを優先したせいで布の強度の面からいっても当然だ。そして裂けた部分が更に露出を上げているのだが、その下にあるのがたくましい男の筋肉だと拷問でしかない。そしてトドメに裾、明らかに足りてない丈は真人のへそですら満足に隠せていない。つまり、真人のトランクスは丸だしだ。
「お、王様ゲーム、恐ろしいです…………!」
 戦慄が走っているクドの言葉。さっきと同じセリフでも重みが違う。
「さすがの俺の筋肉でも、これは着こなせないぜ…………」
「いや、その筋肉だからこそ着こなせないんだと思うけど。着たのが僕ならまだ――って、なにを言ってるの僕っ!?」
「うおおおぉ! よもやこの筋肉があだになるとわぁぁぁ!!」
 気力が無くとも律儀につっこんで自爆した理樹と、ゴスロリ筋肉が頭を抱えて自己嫌悪に陥っている。
「…………次に、いこうか」
 疲れた恭介の声で箸をひく一同。ちなみに来ヶ谷は鼻をすすっていた。どうやらマジ泣きだったらしい。
「…………で、王様は誰だ?」
 真人から目を逸らしつつ司会進行を一手に引き受ける恭介の言葉に、手をあげたのは美魚。ちなみに余りに美しくないものを見たせいか、彼女にしては珍しく傍目からでもズーンとしているのが分かる。
「……もうなんでもいいです。と言う訳で12番の方、この本の感想文を書いて下さい」
 そう言って美魚が取り出したのは薄い本。詳しい説明は省くが、濃くて薄い本である。どのくらい濃いかというと、表紙を見ただけ一般人が硬直するくらい濃い本である。
「み、み、美魚ちゃん…………?」
「どうかしましたか、神北さん?」
 上手く言葉を出せない小毬に可愛らしい仕草で問いかける美魚。何度か口をパクパクと動かした小毬だったが、やがて全てを諦めて肩を落とした。チラリと自分の番号を見て安堵のため息を吐いている。
「…………」
 で、顔面蒼白になっている直枝理樹という名前の少年。
「ゴメン。何番だって?」
「12番です」
 もう一度、穴が開くほど箸の番号を凝視して、試しに上下を逆にして、ついでに裏表も逆にしてみる。12という数字は変わらない。
 ぐったりとして美魚に手を出す理樹。
「…………読まさせて頂きます」
「そんなにげんなりしなくても大丈夫ですよ。漫画ですし薄いですし、私のお薦めですから」
 美魚は滅多にしない、満面の笑みを浮かべながら理樹にその本を手渡した。



 再起不能なくらいに沈んだ雰囲気の中、呪われているかのように誰ともなく箸に手を伸ばす。
「王様だ〜れだ……」
 やる気が微塵も感じられない声。
「へっ。とうとうこの筋肉が王様になる時が来やがったか」
 ほとんどの人間がどうでもよさそうな表情をしている中、得意顔で立ち上がるエロゴスロリ筋肉。そして精神汚染物質はゆっくりと全員の顔を見渡す。
「改めて見ればどいつもこいつも筋肉の足りない顔をしやがって」
「いや、顔にある筋肉は表情筋くらいだから」
 薄い本を抱えながらもアイデンティティを守る理樹。
「ん? そうなのか?」
 そしてそういう真人の顔には、表情筋以外の筋肉がついているのかどうかが激しく疑問である。
「まあいい、俺の命令は単純だ。校庭を5周して筋肉をつけてこい!」
 全員して外を見る。ザアザアザアと冷たそうな雨は降り続いている。
「…………マジか?」
「本気と書いて友と読む」
「なんでこの流れでマジという言葉が出てこないのっ!?」
 呆れた恭介、得意顔の真人、相変わらずアイデンティティを守る理樹。
「番号は、7番だぁ!」
 一斉に自分の番号を見る一同。声は誰からもあがらない。
「ん? 誰だ? クド公か? 理樹か? 西園か?」
 呼ばれた人間はみんな首を横に振って番号を見せる。11・5・9。確かに違う。
 彼らに続いて、みんなも次々に自分の番号を見せていく。2・8・10・6・1・12・3・4。みんな違う。
「という事は……」
 代表して恭介が残った番号を表にする。書かれた数字は、7。
「俺としたことが。良かれと思ってやった事がかえって俺の筋肉のみを鍛える事になるとはな。ますます筋肉偏差値が広がっちまうじゃねぇか!」
「なにその偏差値」
「うおおおー! 俺の前で偏差値という言葉を使わないでくれぇー!!」
「どーゆー精神構造しとんじゃぼけぇ!」
 スパコンと鈴のハイキックが炸裂する。だがげんなりとし過ぎているせいか、イマイチいい音がしない。
「くっ。もしも3番と言えばこのキックに筋肉がくっついて、素晴らしいものになったというのによぅ!」
「きしょい事言うな!」
 ふかー。と威嚇する鈴だが、やはり真人は意に返さない。
「じゃあな。俺はもう一段階上の筋肉を目指してくるぜ!」
 そして颯爽と去っていく。エロゴスロリ服パンツ丸だしのままで。

 ――い、井ノ原。お前は何をしているんだ。って言うかなんていう格好をしているんだ?
 ――そうだな、あえて言うなら新たな筋肉に生まれ変わる為の儀式、か。
 ――その格好でどんな筋肉に生まれ変わる気だお前っ!?
 ――横断歩道。さあ、そこをどいてくれ!!
 ――……………………? あ、ああ! 問答無用だな!
 ――つか直枝ー。井ノ原は俺たちじゃもうどうにもならん。早く来てつっこんでくれ。
 ――別に宮沢でも棗でもいいぞー。コイツにつっこんでくれるなら。
 ――邪魔だぁ!
 ――わぁ!? い、井ノ原、そっちは外だぞ!?
 ――俺は、校庭を3周しなくてはならないんだぁ!
 ――この雨の中をかっ!? いや、雨の中だからこその儀式なのか!?
 ――風邪ひくぞっ!?
 ――いや、バカは風邪をひかんだろう。
 ――それもそうか。

「さて」
 コホンと咳払いを一つしてから恭介が仕切る。
「そろそろお開きにするか」
「お疲れさまですっ!」
「来ヶ谷さん、お菓子を運ぶのを手伝います」
「うむ。ありがとう、ついでに少し食べていってくれると助かる」
「あ〜。私も私もっ!」
「じゃあ、みんなでゆいちゃんの部屋でお菓子パーティーをしようよ〜」
「いいですわね」
「あ、僕はタオルを用意しておくよ」
 みんなは一気に三々五々、散っていく。
「ぅぅぅ。結局俺は参加できなかった……」
 凹んだ謙吾だけを残して。

 ――キャアアアアア! 校庭に、校庭に変態が!!
 ――ふっ、ふっ。筋肉、筋肉!
 ――井ノ原ぁ! お前は何をやっているんだ!

 外の声は雨音が邪魔で聞こえない。


[No.861] 2009/01/09(Fri) 17:40:45

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