第25回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:55:58 [No.887] |
└ 来ヶ谷唯湖の悩み事相談室 - ひみつ@9137byte@ちこくー - 2009/01/24(Sat) 17:04:15 [No.903] |
└ チャイルドフッド - ひみつ@9072 byteしめきられたのです - 2009/01/24(Sat) 00:59:18 [No.901] |
└ MVPしめきり - 主催 - 2009/01/24(Sat) 00:23:11 [No.900] |
└ 始まりの日 - ひみつ@15087バイト - 2009/01/24(Sat) 00:05:15 [No.899] |
└ 始まりの日(一字修正) - Foolis - 2009/01/25(Sun) 05:24:59 [No.906] |
└ 砂浜のこちらがわ - ひみつ@12638byte - 2009/01/24(Sat) 00:00:52 [No.898] |
└ 最果て―sai-hate― - ひみつ@1353 byte考察には値しない - 2009/01/23(Fri) 23:50:12 [No.897] |
└ 月の彼方 - ひみつ@ 9365 byte - 2009/01/23(Fri) 22:40:48 [No.896] |
└ [削除] - - 2009/01/23(Fri) 22:08:43 [No.895] |
└ コジロー - ひみつ@6650 byte - 2009/01/23(Fri) 21:14:09 [No.894] |
└ 哲学者の憂鬱 - ひみつ@ 3093 byte - 2009/01/23(Fri) 20:12:25 [No.893] |
└ 西園美魚の排他的友情概論 - ひみつ@19628 byte - 2009/01/23(Fri) 18:57:43 [No.892] |
└ マグメルに至る道 - ひみつ@12122byte - 2009/01/23(Fri) 17:21:46 [No.891] |
└ 哀愁の鈍色スパイラル - ひみつ@5849 byte - 2009/01/23(Fri) 15:10:53 [No.890] |
└ 見事なる筋肉の躍動が世界を覆い尽くした後の世で - ひみつ@7972byte - 2009/01/23(Fri) 10:03:09 [No.889] |
└ MVPとか次回とか - 主催 - 2009/01/25(Sun) 01:33:44 [No.904] |
筋肉暦0079、天帝たる井ノ原真人の命の灯が消えようとしていた。 人類万民の母星、地球の日本国という小さな島国、その片隅に佇む一都市に生れ落ちた彼は18の誕生日に天啓を受け、筋肉革命によって世界を掌握した歴史について今更語るまでもない事だが、そもそも政界、財界共に接点を持たずごく普通の学生であった彼がどのようにしてその勢力を広げていったかについては余り多くは語られていない。世界を、そして宇宙さえも掌中に収めた一人の男。彼を支え共に歩んだ者達について、ここでは語る事にしよう。 さて、そんな彼らの真実は正確に残されていない。見事な筋肉を身に纏い圧倒的なカリスマによって燦然と輝いていた巨大な恒星こそ井ノ原真人であったとするなら、あたかも裏側を漂う衛星群のようである。ただしこれは彼らの無力を表すものではなく、その役割は巨星に付き添い守り続ける衛星兵器であり、井ノ原真人という灼熱より水素燃料を抽出し人々に日々の糧を与えるプラントであった。つまりそれは帝国を築き上げるため、維持するために切り捨てる事の出来ない重要な存在である。 細かな業績についてはやはり不明ではあっても彼らが果たしてきた役割は見過ごす事は出来ない。だが公式にも非公式にも彼らが正当な評価を受けた事はなかった。無数の勲章とも、重大な役職とも常に無縁だったのである。120の上級国民議会、3万の下級議会、27の総督、全宇宙600万を越える官職の名簿を幾ら開いたところで彼らの名は見つける事が出来なかった。 これは考え難い問題である。片田舎の農業惑星に飛ばされるような落ち目の官吏ならともかく、帝国の給与は控えめに言っても高給であり、一山幾らの一兵卒等は「奴らの貰うクレジット一月分あれば、辺りから海賊を一掃するに十分な装備が手に入るのに」と恨めしく語るほどだ。それを受けない理由があったのだろうか。 信賞必罰は社会体制の理である。成果を認められない社会、過不足無く正しい罰が下る社会。両者が同時に成立してこそ人々は正しく生きる事を望み、どちらか一方でも崩れてしまえば人心は荒廃する。古来より多くの体制はこれによって崩壊してきたのだ。 では、何故彼らは褒賞を求めなかったのだろうか。だというのに何故支え続ける事が出来たのだろうか。彼らの間には特別な繋がり、利害を超え得るだけの絆のようなものがあったのかもしれない。 ☆ ☆ ☆ 筋隆宮には合計で21の建物があり、丁寧に手入れされた庭園がそれらを繋いでいる。巨大な噴水があるわけでもなく、大理石の東屋もない。とても全宇宙の支配者とは思えぬほど質素なものだ。その代わりにサイドチェストやダブルバイセップス・バックなど、様々なポーズをとる天帝の彫像がそこかしこに飾られていた。著名な彫刻家によって彫られたそれらは人の居ない庭園で、見事な笑顔を見せていた。 奥へと進むと寝所に辿り着く。元々は巨大な館であったのだが、天帝自身の指示によって近年大幅に改装され、現在は不思議な造りになっていた。外見こそ荘厳ではあったが内部は非常に狭く、個室に机と二段ベッドが置かれている。臣下達は揃って口をあんぐりと開いていたが、井ノ原真人は満足だった。何故ならそこはもっとも思い出の詰まった場所であり、帰るべき場所なのだから。故に彼はそこを他者に踏み躙られるのを嫌い、何人の立ち入りも許さなかった。 いや、ただ一人を除いては。 「理樹……居るのか?」 「うん。ここに居るよ」 優しい声音で答えた老人は、ベッドに寄り添うようにして腰を下ろした。二段ベッドの下段、本来彼が眠っているはずの場所に真人は横たわっていた。老境に入ってもなお血気盛んであり筋骨逞しい姿を維持していた真人ではあったが、人としての死を避けるには至らない。上段で眠る事を望んでいたが、ついにはその力も失われていた。 「夢を、見てた」 「どんな夢?」 「昔の事だ。すっげぇ昔の事」 「そっか……色んな事があったものね」 真人は日の大半を眠りながら過ごし、唯一立ち入る事の出来る直枝理樹に世話を任せている。かつてはトレーニングが占めていたその時間を、寝所を改装した事からも分かるように懐古が染め上げていた。 急に咳き込み出した真人に、理樹は立ち上がろうとしたが手のひらで軽く制された。吐き出すような咳は残り僅かな体力さえも奪っていく。土気色の顔は苦痛に歪み、瞳から精彩な輝きが擦れていく。 「あ……あぁ。本当に色々ありすぎて、思い出してて飽きねぇよ」 「波乱万丈な人生だったよ」 「こっそり宮殿を抜け出して海賊の連中を片っ端から潰してやったのは楽しかったなぁ」 「発案したのは恭介だったね。クドと小毬さん以外は皆ノリノリだった」 「まさかあそこで鈴の蹴りが決定打になるとはな。あれには度肝抜かれたぜ」 「猫を苛めた恨みは深いんだね」 「猫って言や、まさかドルジが宇宙人だったとはな」 「しかも人類を滅ぼすべきかどうか審判していたなんてね」 「あの時奴が味方を裏切ってくれてなきゃ、今頃人間は滅亡していただろうな」 「あと5秒遅かったらそうなっていただろうね」 真人はやけに饒舌だった。瞼を閉じて過去を噛み締めるように言葉に変えている。 「……でも、今は俺達二人だけになっちまった」 「うん、仕方ないよ」 「すっかり寂しくなっちまいやがった。もっともっと騒ぎまくりたかったのに」 言葉も無く、理樹は見守っていた。看取ることが出来たもの、叶わなかったもの、両方あったがどちらにしても最期は静かに言葉を受け取る事こそ最後の一人になってしまうだろう自分の役割だと信じていた。 「帰りてぇよ……また、あの頃に。《ここ》に帰りてぇ。あぁ、理樹、居るのか? お前は本当に居るのか?」 「居るよ、真人。僕らは《ここ》で一緒に過ごしていたじゃないか」 全てが始まる日の以前、学校の寮の一室で二人は常に共に居た。真人の回顧は究極的な場所としてそこを望み、閉じられた瞼の裏にはあの日と変わらぬ日常が映っているのだろう。それに応えた理樹の言葉に、表情が安らいでいく。 「そうか……悪いな。お前のベッド占領しちまって。もう一眠りしたら、起きるから」 「良いよ。ゆっくり休んで」 「おう、起きたら……また、リトルバスターズで……」 声はやがて小さく弱く消えていった。それでも最期まで真人は言葉を続けていた。友人達と派手に暴れまわる自分の姿を呼吸が途絶える瞬間まで夢見ていたのだ。その時に帰る事を祈りながら。 「真人……お休み」 こうして全宇宙を制覇した絶対の支配者、天帝はただ一人の親友に看取られ息を引き取った。この事実は公式に明かされる事は無く、真人は巨大なベッドの上、多くの医師団に見守られながら崩御したと伝えられたが、どちらが幸せだったかなど彼の安らかな寝顔を見るまでも無く明らかだろう。 全ての人類に筋肉と平和を与え賜うた井ノ原真人に栄光あれ! そしてその影に寄り添い続けた者達に安らぎあれ!! −完ー 「ついに―――ついに完成したよ! 真人!!」 「やったな、理樹! 最高だ! 筋肉最高だ!!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!!」 バタバタとアホ共が騒いでいた。寮の自室に四日間も篭りきりで完全徹夜していたためナチュラルハイになっているから……というわけでもなく、普段からこんなノリである。隣人達にしても慣れたもので苦情の類は一つもなく、即ち誰も止めやしない。 「凄い、凄いぞ理樹! これは最高だ!」 「当然だよ。原案が真人で執筆が僕なんだ。最高に違いないよ!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!」 奇怪な踊りを始める彼らの足もとには分厚い原稿用紙の束が無数に散らばっている。 『大筋肉帝国伝説・筋肉革命編』 『大筋肉帝国伝説2・帝国黎明編』 『大筋肉帝国伝説3・宇宙革命編』 『大筋肉帝国伝説4・宇宙戦争編』 『大筋肉帝国伝説外伝・大胸筋サポーター物語』 『大筋肉帝国伝説外伝2・ベンチプレス殺人事件』 『大筋肉帝国伝説5・筋肉復興編』 そしてようやく最終巻である『大筋肉帝国伝説6・落日編』を完成させたのだった。見事な大長編でありスペースオペラもどきであり生粋の妄想小説である。四日でこれを全て書き上げたというのだから驚きだが、誰も力の使いどころを間違っていると突っ込める人間が居なかった事は悲劇の内に数えて構わないだろう。 尤も、誰かがそう言ったところで彼らは耳を貸さなかっただろう。真人の妄想を、それも恐らくは脳みそではなく筋肉によって生み出されたものを、そのまま文章に書き起こすという愚行を四日間もぶっ続けで成し遂げさせたのは、理樹もまた筋肉で思考する生物へと退化してしまったからに他ならない。 それでも、彼らの努力には一応の根拠はある。 「何とか間に合って良かったね」 「まったくだ、一時はどうなるかと思ったぜ」 「これで明日は朗読会が出来るね!」 「大喜びする奴らの顔が目に浮かぶぜ!」 「感涙に咽び泣くね!」 「筋肉に惚れこむぞ、絶対!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!!」 「筋肉、筋肉ぅ〜!!」 飛んだり跳ねたり走り回ったり転がったり足の小指をぶつけて悶絶したり、大騒ぎである。明日はきっと更に激しくなるだろう。勢いに任せて外へと飛び出していった彼らを見送るように、原稿用紙が一枚捲れた。 大筋肉帝国伝説第一巻の序文がそこにある。 『星は回る。世界は回る。なら、魂だってきっと回るだろう』 その後には『つまり筋肉から生まれた我々が筋肉へと回帰するのは至極当然の摂理だったのである』などという絶妙な妄言が続いているわけだが、それはともかくとして……。 明日は真人の18歳の誕生日なのだった。 [No.889] 2009/01/23(Fri) 10:03:09 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。