第25回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:55:58 [No.887] |
└ 来ヶ谷唯湖の悩み事相談室 - ひみつ@9137byte@ちこくー - 2009/01/24(Sat) 17:04:15 [No.903] |
└ チャイルドフッド - ひみつ@9072 byteしめきられたのです - 2009/01/24(Sat) 00:59:18 [No.901] |
└ MVPしめきり - 主催 - 2009/01/24(Sat) 00:23:11 [No.900] |
└ 始まりの日 - ひみつ@15087バイト - 2009/01/24(Sat) 00:05:15 [No.899] |
└ 始まりの日(一字修正) - Foolis - 2009/01/25(Sun) 05:24:59 [No.906] |
└ 砂浜のこちらがわ - ひみつ@12638byte - 2009/01/24(Sat) 00:00:52 [No.898] |
└ 最果て―sai-hate― - ひみつ@1353 byte考察には値しない - 2009/01/23(Fri) 23:50:12 [No.897] |
└ 月の彼方 - ひみつ@ 9365 byte - 2009/01/23(Fri) 22:40:48 [No.896] |
└ [削除] - - 2009/01/23(Fri) 22:08:43 [No.895] |
└ コジロー - ひみつ@6650 byte - 2009/01/23(Fri) 21:14:09 [No.894] |
└ 哲学者の憂鬱 - ひみつ@ 3093 byte - 2009/01/23(Fri) 20:12:25 [No.893] |
└ 西園美魚の排他的友情概論 - ひみつ@19628 byte - 2009/01/23(Fri) 18:57:43 [No.892] |
└ マグメルに至る道 - ひみつ@12122byte - 2009/01/23(Fri) 17:21:46 [No.891] |
└ 哀愁の鈍色スパイラル - ひみつ@5849 byte - 2009/01/23(Fri) 15:10:53 [No.890] |
└ 見事なる筋肉の躍動が世界を覆い尽くした後の世で - ひみつ@7972byte - 2009/01/23(Fri) 10:03:09 [No.889] |
└ MVPとか次回とか - 主催 - 2009/01/25(Sun) 01:33:44 [No.904] |
「なんてことだ」 鞄を逆さにして、中身を振り落とす。ばらばらばら。筆入れ、クリアファイル、教科書類。どうでもいい。どかす。現文のノート、英語のノート、数学のノート……肝心の、生物のノートが見当たらない。 「なんて……ことだ……」 明日は、生物の授業はない。別に今日宿題が出来ずともなんとかなるし、そもそも生物は宿題が出ていない。 僕は、立つ。立たねばなるまい。 「ふっふっ……お? 理樹、どっか行くのか?」 「ちょっと……愛を、取り戻しに」 「おう、そうか。頑張れよー。ふっふっ」 腕立てと腹筋を同時に行う新トレーニングに精を出す親友へ、心中で同じ言葉を送った。 校舎に着いたまではいいが、真夜中であることを失念していた。暗い。当然鍵はかかっていなかったので、そのまま上がり込む。 「静かだなぁ」 静かすぎて、別に恐くはならない。寂しいとは思ってやってもいいかもしれない。さっさと用を済ませて、部屋に帰ろう。僕は、回り道しながら教室を目指す。 道中、謎の生命体に遭遇した。真人みたいに大きい。僕はおもわず、畏まってしまった。 「ど、どうも、こん」 ばぁん。 たぶん、銃声。きっと、銃声。僕は勢いよく振り返る。自覚できるくらいには勢いがあったと思う。 変な仮面付けた、鈴みたいな髪型の、鈴みたいにちっこい人が銃を構えて立っていた。ぱっと見、鈴程度には女の子っぽい。つまり女子の制服を着ていた。 また銃声。銃声の向こうで、鈴の音。近くで、重たい音。真人みたいに大きな謎の生命体が、倒れ伏せていた。 「手強い相手だった。だが死ぬ時は一瞬だ」 仮面の人が、こっちに歩いてくる。鈴みたいな歩幅だった。僕の目の前で止まって、見上げてくる。仮面の、細い切れ目の向こうにある瞳は――。 「あたしは……えーと、あれだ。名前はまだない」 「はあ、どうも。2年の直枝理樹です」 「こんな時間に、こんなところで何をしている」 「ちょっと、愛を取り戻しに」 「愛ィィィィ!」 いきなり叫ぶもんだから、びっくりした。なんだか悶え苦しんでいる。おさまった。 「ちょっとした発作だ。気にするな」 「はあ。じゃあ、僕はこれで」 このまま付き合っていたら、夜が明けてしまいそうな予感に襲われた。そういうわけにはいかないのだ。なんとか夜のうちに、目的を達成しなければならない。回り道に戻らなければ。 「待て」 待たないよ。 「止まらなければ、撃つ」 「なんでしょうか」 死ぬわけにも眠りに落ちるわけにもいかないとしたら、僕はいったいどうすべきなのか。ただ、そこに立ち止まるばかりだ。 「おまえは、愛ィィィィ! を取り戻せると思っているのか?」 「そもそも愛ってなんでしょう」 「あたしが知るか、ぼけ」 僕は、何を取り戻そうとしているのだろう。なぜ取り戻そうとしているのだろう。そもそも取り戻せるようなものなのだろうか。何もかもわからない。代わりに、わからなければいけないとも思わない。 仮面っ子はぷい、と背を向けて歩き出した。こつこつこつ。よくわかんないけど、見逃してもらえたのだろうか。と思ったら立ち止まった。 「おまえの言う、愛ィィィィ! が何なのか、あたしは知らん。知らんが」 くるりと、舞うように振り返る。つられて、髪の房が躍り、鈴が鳴った。聴き覚えのある光景。見覚えのある音。頭が痛くなってくる。 「それは、きっと」 「僕には、あなたのほうがよっぽど分からない」 「幻で、幻想で、まやかし。なんですよ〜」 まるで無視。ひどいもんだ。 窓の外から、月明かりがタイミング良く都合良く射し込んで、彼女の星飾りを煌めかせた。少し離れたそこから、僕を見つめている。本当に僕を見ているのだろうか? だって、その仮面の向こうは――。 「覚えてないんだよね?」 「でも、それは、確かにあったはずなんだ」 「思い出せないんだよね?」 「でも、それは」 なら、それは。と、彼女は言う。 「幻と、幻想と、まやかしと。なーんにも変わらないよ」 ふわふわと柔らかなその声は、まるで突き刺さるかのように。例えば、もらったワッフルの中に針が仕込まれていたとしたら、きっとこんな風に。いたい。 「だから、ね。忘れちゃいなよ、ゆー」 覚えていないのに、思い出せないのに、何を、いったいどうやって、忘れろというのだろう。訊いたって、答えてはくれないくせに。ただ、そうすることだけを僕に求めて。 僕は、問うた。 「あなたは、誰なんだ」 月明かり。 「理樹くん、本当はもう気付いてるんじゃないデスカ?」 へんてこツーテールが。 「リキは、気付かない、わからないフリをしているだけなのです」 帽子とマントが。 「逃げ腰の直枝さんがアリだというのは間違いないのですが」 白い日傘が。 「いつまでもそのままでいられてもね。報われないのだよ、少年」 おっぱいが。 入れ替わり、立ち替わり。しかしたった一人の、仮面の少女が。励ましでも助言でも、ましてや罵声でもない。僕に何かを伝えようとしている。何も伝えようとしていない。 「あなたは、誰なんだ」 鈴の音が聴こえる。 「早く戻ってこい、理樹」 からん、と音を立てて仮面が落ちた。 「起きたか」 「……」 鈴の見慣れた顔。 「バカが、理樹がもどって来ないって騒いでたんだ。そんで、さがしてた」 こんなところで、何してたんだ? 鈴の顔はそう言いたげで、僕は答えるかわりに起き上がった。僕の顔を覗き込んでいたらしい鈴に頭突きをかます結果となる。 「な、なにすんじゃボケー!」 怒りはするけど、手は出ない。両手でぶつけた額を押さえているからだ。足も出ない。どうしてなんて、知るはずがない。 ごめんごめん、と軽く謝りつつ見回すと、ここは学校の廊下だった。真っ暗でびっくりする。 「いつものあれか?」 「ああ、うん……たぶん」 不思議な気分だった。僕はまだ眠っているのではないだろうか。そんな気がする。鈴の手を握る。ちっこくて温かくて、確かにそこにある。はっきりしている。でも僕は、まだ疑いを拭うことができない。僕はまだ眠っているのではないだろうか。 「どうした」 「なんでもないよ」 鈴はどうしてここにいるのだろう、と思った。訊くと、猫だ、とそれだけ返ってきた。 「猫?」 「白猫。ここらへんじゃ見かけないから」 「ふーん」 そいつが校舎に入っていくのを見かけたんだろう。結局僕より猫優先なのが間違いなく鈴で、安心する。ああ、鈴だ。僕は起きている。 「ほら、いつまでも座ってないで立て。帰るぞ」 うん、と頷く。立ち上がると、手を離してさっさと歩いてしまったので、ふりふりと振れるしっぽを追った。ふいに、馬鹿なことを訊いてみようかと思った。寝起きの戯言だからたぶん許してくれるだろう。 「ねえ、鈴。愛ってなんだと思う?」 「理樹がバカになった!」 恭介が帰ってきて、野球やるぞとか言い出して、それに振り回されて、それが楽しくて。 「なんてことだ」 そんなある日の夜に、僕は寮の自室で鞄を開くのだ。真人は逆立ちしながらスクワットしている。 「なんて……ことだ……」 鞄の中身は、見事に――。 [No.890] 2009/01/23(Fri) 15:10:53 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。