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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 第25回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:55:58 [No.887]
来ヶ谷唯湖の悩み事相談室 - ひみつ@9137byte@ちこくー - 2009/01/24(Sat) 17:04:15 [No.903]
チャイルドフッド - ひみつ@9072 byteしめきられたのです - 2009/01/24(Sat) 00:59:18 [No.901]
MVPしめきり - 主催 - 2009/01/24(Sat) 00:23:11 [No.900]
始まりの日 - ひみつ@15087バイト - 2009/01/24(Sat) 00:05:15 [No.899]
始まりの日(一字修正) - Foolis - 2009/01/25(Sun) 05:24:59 [No.906]
砂浜のこちらがわ - ひみつ@12638byte - 2009/01/24(Sat) 00:00:52 [No.898]
最果て―sai-hate― - ひみつ@1353 byte考察には値しない - 2009/01/23(Fri) 23:50:12 [No.897]
月の彼方 - ひみつ@ 9365 byte - 2009/01/23(Fri) 22:40:48 [No.896]
[削除] - - 2009/01/23(Fri) 22:08:43 [No.895]
コジロー - ひみつ@6650 byte - 2009/01/23(Fri) 21:14:09 [No.894]
哲学者の憂鬱 - ひみつ@ 3093 byte - 2009/01/23(Fri) 20:12:25 [No.893]
西園美魚の排他的友情概論 - ひみつ@19628 byte - 2009/01/23(Fri) 18:57:43 [No.892]
マグメルに至る道 - ひみつ@12122byte - 2009/01/23(Fri) 17:21:46 [No.891]
哀愁の鈍色スパイラル - ひみつ@5849 byte - 2009/01/23(Fri) 15:10:53 [No.890]
見事なる筋肉の躍動が世界を覆い尽くした後の世で - ひみつ@7972byte - 2009/01/23(Fri) 10:03:09 [No.889]
MVPとか次回とか - 主催 - 2009/01/25(Sun) 01:33:44 [No.904]


月の彼方 (No.887 への返信) - ひみつ@ 9365 byte

 ああ、どうしてこんな事になってしまったんでしょうか。目の前にいる佳奈多さんを見てこっそりとため息をついてしまいます。二人部屋ですから、助けも期待できません。
「にゃーにひんきくはぁい息はいへんもみょクドリャフュカァ!!」
 私の目の前には呂律の回っていない、真っ赤な顔をした佳奈多さんが。というか、もはや何を言っているのかさっぱりです。



 月の彼方



 今日、商店街のガラガラで2等を当てました。景品は日本酒10本でした。それで今この状態です。
 いえ、途中で井ノ原さんがお酒を運ぶのを手伝ってくれたり、来ヶ谷さんがお酒の怖さを教えてくれたり、葉留佳さんがイタズラでペットボトルにお酒を詰めたりしていたりと色々あったのですけど。というか、最後のが今の状況の原因のような気がします。そのペットボトルを間違えて飲んだ佳奈多さんがしばらく目を回した後、急に据わった目でお酒を飲み始めたのです。来ヶ谷さんが言った通り、お酒は怖いです。ついでに私も飲めと言われました。怖くて断れませんでした。
「佳奈多さん、これ以上は体に毒ですから」
 聞いちゃいません。黙々とコップにお酒を注いではあおっています。こうした時はどうしたらいいのでしょうか? 先程、来ヶ谷さんに頂いたメモ帳を取り出して中を確かめてみます。どうしてお酒を未成年が飲んではいけないのかという事から、お酒の正しい飲み方、そして酔っ払いの対処の仕方など色々な事が書いてあります。それによると、酔っ払っている人には大量のお水を飲ませるといいらしいです。こんな物をまるで予期していたかのようにあっさりと用意出来た来ヶ谷さんは不思議ですが、今はありがたく使わせて頂きます。
「か、佳奈多さん」
「ひゃーひよ」
 た、多分『何よ』と言ったのだと思います。
「佳奈多さん、酔っ払ってますよね?」
「ひゃひゃひはひょひぇひゃい!!」
 ダメです。解読不能です。英語よりも圧倒的に難しいです。でも来ヶ谷さんのメモ帳によれば、酔っ払っている人ほど酔ってないと言うらしいですから、きっと佳奈多さんは酔っ払ってないと言いたかったのでしょう。
「よ、酔っ払ってないのならこのお水を一気飲み出来ると思うのですが」
 そう言って私が冷蔵庫から取り出したのはお水のペットボトル。2L入りのお買い得品です。
 佳奈多さんは私をジロリと睨むと、お水をひったくって飲み始めました。ちょ、ちょっと怖いです。ごっきゅごっきゅとすごい勢いでお水が減っていきます。そして、本当に2Lを一気飲みしてしまいました。
「どーよクドリャフカァ! ちゃんと一気飲み出来たでしょーが」
 よかったです、佳奈多さんの呂律が元に戻りました。これで少しはまともになって――ムリです。目は据わったままです。
「じゃあ今度はあなたの番ね。これ、一気飲みなさい!」
 ドンと私の目の前に置かれる丸々1本の日本酒。ちなみに1本は2升に相当したりします。
「か、佳奈多さん、日本酒2升一気飲みは流石に」
「飲め」
 ダメです、目が据わりきっています。下手に意思疎通が出来てしまった分、逃げ道がなくなってしまった感じです。
 仕方ありません。日本酒が入ったコップを置いて、少しも減っていない瓶を傾けて、グビグビと。
「あははははははははははははは、クドリャフカ、一気よ一気!!」
 佳奈多さん、テンション高すぎます。笑い上戸さんなのでしょうか?
 そうは思っても瓶に口をつけたままでは言う事も出来ません。そのまま飲み続けて飲み続けて、瓶が空になるまで飲み続けて。
「ぷはぁ」
「おめでとー!」
 パチパチパチと佳奈多さんから拍手が。そして拍手が終わるとまたコップに口をつけてお酒をあおります。ダメです、止まりません。
「佳奈多さん」
「なに、あなたも飲み足りないの?」
 続きを言う前にコップにお酒が注がれます。コップがお酒でいっぱいです。自分でも分かる程、困った視線をコップに落としますが、佳奈多さんは全く気にしてくれません。ただ日本酒の入ったコップを傾けるのに夢中です。あ、また自分のコップにお酒を注ぎました。
「ほらほーら、あなたのドンドン飲みなさい!」
「なんというか、三枝さんみたいなノリです」
 私が嘆息まじりに言って、コップを傾けます。ゴクゴクと中の液体の量が減らしていきますが、無限地獄のようにお酒は注がれてしまいます。瓶にして後7本以上。いつに終わるのか不安です。
「ぷは」
 コップを空っぽにして、覚悟が決まらないで佳奈多さんの方を見ると、佳奈多さんの目から涙がポロポロとこぼれていました。
「へ?」
 あんまりに予想外な佳奈多さんの涙に、どう反応していいのか分かりません。ポロポロと涙を流しながら佳奈多さんはコップを傾け、そして私にお酒を注ぎます。ダメです、行動が全く変わっていません。
 それでも辛そうに泣きながらお酒を口に入れる佳奈多さんに、心配で声をかけるのは止められません。
「あの、佳奈多さん。どうされたんですか?」
「ううん。何でもないの」
 そう言いながらお酒を喉に流し込んで、またコップにお酒を注ぎ。あおります。前言撤回です。変わってなくなんてありません、確実にお酒を飲むスピードがあがっています。
「何でも無いわけないですよ。佳奈多さん、すごく辛そうです」
 ピタリと佳奈多さんの手が止まる。持つ手の中で波をつくるお酒が、震える佳奈多さんを教えてくれます。
「気持ちが悪いわ」
「佳奈多さんっ!?」
 全然違いましたっ!?
「冗談よ」
 佳奈多さんはお茶目に笑って、一気にコップの中身を空にしました。
(飲み方がすごく格好いいです)
 ポーっとする私の視線の先で、佳奈多さんはコップにお酒を注いでいます。
「って、行動が本当に変わらないです」
 呆れるますが、そんな私に構うことなく佳奈多さんはポツリと言葉を落とします。
「クドリャフカ、あなた、後悔してることってあるかしら?」
「後悔、ですか?」
「ええ。出来る事なら、過去の遡ってでもなんとかしたいくらい、後悔してる事」
 視線を私から逸らしながら辛そうに言う佳奈多さん。そんな佳奈多さんを見ながら、私の頭には一人の笑顔。私が一番後悔しているコトが頭に浮かんでくる。
「私は、あるわ」
 そんな私に気がつかないで、佳奈多さんは言葉を続けます。
「葉留佳のことよ」
 三枝さん。傍から見てて痛々しい程に、お二人は憎しみあっているように見えます。そんな佳奈多さんが、三枝さんの事で後悔してるなんて、ちょっと意外です。
「三枝さんの事ですか?」
「ええ。どうしてこうなっちゃったのかなって思うのよ。昔みたいになんて言えないけど、それでも」
 そこで佳奈多さんの言葉が途切れてしまう。もう機械的になりつつある、コップを傾ける作業。
「佳奈多さん?」
「それでも。どうしたいのかしらね、私は。葉留佳と、どうしたいのかしらね」
「佳奈多さんは、どうしたいのですか?」
 話が見えないで重ねて問いかける私に、佳奈多さんは寂しそうに笑います。
「私は、佳奈多を苦しませなきゃならないのよ」
「え」
 そう言った佳奈多さんに、私はすぐにはかける言葉が見つかりませんでした。それでもコップにお酒を注ぐ姿を見ながら、私はなんとか言葉を探し出します。
「なぜ、ですか?」
「そうじゃないと、葉留佳がもっと苦しむから。
 知ってる? あの子、ここに来るまで人間の扱いすらさせて貰えなかったのよ」
 佳奈多さんの言葉に、私は頭をガツンと殴られたみたいでした。佳奈多さんはご自分の言った言葉の意味に気がつかないみたいで、お酒を飲むことに夢中です。
 思わず私も手の中にあるコップをグイーっと傾けてしまいます。
「いい飲みっぷりね」
 空になるとすぐに笑いながらお酒を注いでくれます。
「佳奈多さんは、」
「え?」
「佳奈多さんは、三枝さんとどうなりたいんですか?」
 考えた事も無かったといった風で私の顔を見る佳奈多さん。けれどもそれも一瞬でした。すぐに寂しそうな顔をつくると、首を横に振ります。
「どうなりたいなんて、私の意思は関係ないの。私は葉留佳を苦しめなきゃならないの」
「それでも佳奈多さんの気持ちを知りたいです。佳奈多さんは、三枝さんと憎みあっていたいのですか?」
「そんな訳ないじゃない」
 すぐに否定してします。でもそれ以上は佳奈多さんは何も言いません。だから、私が言葉を続けます。
「三枝さんと、仲直りがしたいんですか?」
 佳奈多さんはお酒を飲みます。答える声はありません。ですが、何も言わない事が何よりも佳奈多さんの返事になっていました。
「頑張って、みないんですか?」
「無理よ」
 佳奈多さんはそうとしか言いません。諦めきった言葉です。
「もうね、私と葉留佳は仲がよくなる事なんて無いもの」

「知っていますか」
 私の佳奈多さんもしばらくは無言でお酒を飲んでいました。けどその間、私は必死で頭を整理して、そして言葉を探し出します。
「お月さまは月黄泉(つきよみ)と言いまして、この世に無い物がお月さまにはあるそうですよ」
「クドリャフカ?」
 唐突な私の話に佳奈多さんも不思議そうな顔をしていますが、関わらずに話を続けます。
「御伽話ではかぐや姫なんかが有名です。この世のものとは思えない美女は月のお姫様で、お月さまには地球にないものがあると思われていたんでしょうね」
「クドリャフカ、あなた何言ってるの?」
 佳奈多さんの顔は、不思議そうな顔から困惑した顔になっていきます。
「探せばいいんですよ佳奈多さん。地球にないならお月さまからでも、どこにもないならどこにもない場所から取ってくればいいんです」
 呆然とした顔が最初にあって、それから段々と佳奈多さんの顔が緩んでいきます。
「クドリャフカ。あなた、どれだけ無茶な事を言っているのかわかってる?」
「実は、私も言いながら分からなくなってきました」
 てへへと誤魔化し笑いが漏れてしまいます。
 けど、すぐに顔を引き締めて。佳奈多さんに言わなくてはいけない事がありますから。
「佳奈多さん。私にも後悔していることってあるのですよ」
「え」
「お母さんに会いたいです。会って、ゴメンナサイを言いたいです。帰ってくるお母さんにおかえりなさいを言えなくて、ゴメンナサイって」
「クドリャフカ」
 佳奈多さんが悲しそうです。佳奈多さんの瞳に映る女の子が、今にも泣きそうな顔をしています。けど、その女の子はそれでも歯を食いしばって口を開きました。
「だからいつか宇宙に行って、ゴメンナサイって言いたいんです。お母さんに、届かないかもしれないけど」
 ふと窓から見える夜空を見上げます。今日は晴天で、まんまるお月さまが綺麗です。
「でも、お月さまにならきっとお母さんがいますから、届くと思うのです。佳奈多さんの探しものも、きっとあると思うのです。一緒に探してくるですよ」
「そうね、未来の宇宙飛行士さんにお願いしましょうかしら」
 コップをもてあそびながら、佳奈多さんはお酒を注ぐ。
「そう言えばクドリャフカ。せっかく二人で飲んでいるのに、乾杯してないわね」
「そういえばそうですね」
 佳奈多さんからのお酒を受け取りながら私は笑います。
「何に乾杯しようかしら?」
 佳奈多さんも綺麗な笑顔です。
「そうですね。佳奈多さんもいますし、せっかくですからここはシャレをきかせまして」
 私がコップを掲げると、佳奈多さんもコップを掲げます。
「月の彼方に」
 カチン!
「「乾杯」」


[No.896] 2009/01/23(Fri) 22:40:48

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