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all 第25回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/01/19(Mon) 22:55:58 [No.887]
来ヶ谷唯湖の悩み事相談室 - ひみつ@9137byte@ちこくー - 2009/01/24(Sat) 17:04:15 [No.903]
チャイルドフッド - ひみつ@9072 byteしめきられたのです - 2009/01/24(Sat) 00:59:18 [No.901]
MVPしめきり - 主催 - 2009/01/24(Sat) 00:23:11 [No.900]
始まりの日 - ひみつ@15087バイト - 2009/01/24(Sat) 00:05:15 [No.899]
始まりの日(一字修正) - Foolis - 2009/01/25(Sun) 05:24:59 [No.906]
砂浜のこちらがわ - ひみつ@12638byte - 2009/01/24(Sat) 00:00:52 [No.898]
最果て―sai-hate― - ひみつ@1353 byte考察には値しない - 2009/01/23(Fri) 23:50:12 [No.897]
月の彼方 - ひみつ@ 9365 byte - 2009/01/23(Fri) 22:40:48 [No.896]
[削除] - - 2009/01/23(Fri) 22:08:43 [No.895]
コジロー - ひみつ@6650 byte - 2009/01/23(Fri) 21:14:09 [No.894]
哲学者の憂鬱 - ひみつ@ 3093 byte - 2009/01/23(Fri) 20:12:25 [No.893]
西園美魚の排他的友情概論 - ひみつ@19628 byte - 2009/01/23(Fri) 18:57:43 [No.892]
マグメルに至る道 - ひみつ@12122byte - 2009/01/23(Fri) 17:21:46 [No.891]
哀愁の鈍色スパイラル - ひみつ@5849 byte - 2009/01/23(Fri) 15:10:53 [No.890]
見事なる筋肉の躍動が世界を覆い尽くした後の世で - ひみつ@7972byte - 2009/01/23(Fri) 10:03:09 [No.889]
MVPとか次回とか - 主催 - 2009/01/25(Sun) 01:33:44 [No.904]


始まりの日 (No.887 への返信) - ひみつ@15087バイト

 秋も深まる10月の終わり。実家に戻って二ヶ月がたっていた。部屋の外で鈴虫が鳴いている。
 実家には嫌な思い出しかないけれど、窓から聞こえてくる、鈴虫の鳴き声が私は好きだった。鈴虫の鳴き声を聞きながら、私は携帯電話の待ち受け画面を眺める。
 画面の中で葉留佳と直枝が微笑んでいた。こうしてみると、本当にお似合いの二人に見えた。画面の中の二人は、本当に――幸せそうだ。だからこそ、私の選択が間違っていなかった、と思う。
 そんなことを考えていると、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。私は急いで携帯電話を隠すと、叔父がいきなり、部屋に入ってきた。いつものことなので、腹もたたない。
「佳奈多、まだおきていたのか――今、何時だと思っている?」
 時計をみると、午後11時だった。いつもの私の生活から考えると、まったく遅い時間ではない。大体、昔はこんなときに寝かせてもらったことなんて、ない。それどころか寝ていたら、たたき起こされたじゃないか。そう心の中で毒づいて、私は叔父にこう、答える。
「すみません、叔父様。明日のことを思うと緊張してしまって」
 そう、答えると、私の答えが気に入らないのか、顔をゆがませた。
「……結婚前で緊張するのはわかるが、明日はお前の人生で一番重要な日だ。早く寝なさい」
 それだけ告げると、叔父がさっていた。さすがに結婚前だからか、もう、竹刀でたたいたり、暴力を振るうことはなかった。

 結婚。

 もう明日だというのに、実感がまるでなかった。
 だからといって、不幸だとは思わなかった。ずっと前から決まっていたことであるし、それに――。
 もう一度、私は二人の写真をみた。――見事なまでに、最高の、終わりを私は迎えることが、出来たのだから。


 私はここ数ヶ月のことを思い出す。
 葉留佳との、数年越しの和解して。直枝が寮会にはいってきて。直枝――私の初恋の人――からの「二木さんが、好きなんだ」と告白されて。
 直枝と二人ですごす、恋人としての時間、直枝と葉留佳と三人で過ごす時間はとても楽しかった。
 どちらとも私にとって、重要な時間だった。
 そして。
 私は部屋の電気を消し、もう一度携帯電話を開く。直枝と葉留佳が、相変わらずの笑顔で写っていた。
 ――この結末。
 最高の終わりだ、と思う
 私と別れたら、葉留佳と付き合ってくれたらうれしい、そうおもったことは何度もあったけど、まさか、本当にそうなるとは思わなかった。何も事情を知らない第三者がこのことをしったら、直枝をせめるかもしれないけれど、このことに関して、直枝が悪いはずがない。……すべて、私のせいだから。
 いや、この言い方は葉留佳にすごく失礼だ。葉留佳と直枝、二人がんばってこの光景があるのだろうから。


 私はそんなことを考えながら――私が直枝と葉留佳と最後に一緒にすごした、夏休み最後の日のことを思い出していった。



”始まりの日”


 空は雲ひとつない快晴の夏休み最後の日、私は直枝と葉留佳、二人と一緒に最近オープンした遊園地である、デウスガーデンに来ていた。
「BOOKといえば本、THE BOOKといえば聖書。AMUSEMENT PARKといえば遊園地、THE AMUSEMENT PARKといえばデウスガーデン!」
「葉留佳、あんまり騒ぐのはやめなさい、みっともないわよ」
「夏休み最後の日なんだからこのくらいさせてくださいヨ」
 遊園地につくなり、騒ぐ葉留佳に私と直枝は苦笑する。周りの人間も何事か、という感じで葉留佳のことをみていた。もっとも当人は気にしていないのだけれど。
「葉留佳さんも昨日までがんばっていたんだからさ、これくらいいいんじゃない?」
「確かに葉留佳はがんばったとは思うけど……けど、元々は自業自得よ?」
「まぁそうだけどさ」
 葉留佳はバス事故での入院から退院したあと、夏休みがうれしくてずっと遊んでいて、宿題をほとんど何もやっておらず、私と直枝になきついてきたのである。
 葉留佳は宿題を写させてもらう気満々だったみたいだけど、泣きついてからの日々、直枝と私の二人が勉強を教えていた。直枝と私は寮会の仕事があるとはいえ、私は風紀委員をやめたおかげでそのための時間もたっぷり取れた。葉留佳は「鬼〜、悪魔〜、鬼畜〜、人でなし〜」といいながら泣いていたけど。そんな日々もなんとか昨日で終わり、私たちはここ、デウスガーデンに遊びにきた、というわけである。
「そういえば、遊園地って久しぶりだなぁ」
 感慨深く、直枝がつぶやいた。
「二木さんは?」
「私たちは、初めて」
 直枝はそう答える私にちょっと驚いて、私たちの家庭の事情に思い至ったのだろう、すぐにしまった、という顔をした。
「ごめん、無神経なこと、聞いて」
「いいわよ、気にしていない」
「でも、ごめん」
 本当に申し訳なさそうに、直枝がもう一度謝った。
「本当に気にしていないから、せっかくだから、楽しみましょう、時間は有限なんだから」
 ――本当に、有限なんだから。
「うん、そうだね、今日は楽しもう、二木さん」
 そういう直枝は、笑顔だった。




「まずはあれに乗りましょうヨ」
 園内に入り、葉留佳がまず指差したのはジェットコースターだった。入口で渡されたパンフレットをみると、高さ700メートル、長さ26キロメートルというジェットコースターで世界一のジェットコースターらしい。直枝がいうには普通の遊園地にはありえないくらいのジェットコースターらしい。
 ジェットコースターの場所につくと大量の人がならんでおり、私たちもそれに続くことにした。
「そういえば理樹君とお姉ちゃん、どこまでいっているんですカ?」
 並ぶなり、葉留佳が唐突にそう聞いてきた。
「A?B?それとも、C?」
「A、B、Cって言い方は、ちょっと古くない?葉留佳さん?」
 そんなことをいう葉留佳に直枝があきれたようにいう。
「じゃあ、キス?それとも、ペ……」
「だからって言い直さないでよ!」
 A、B、Cをいい直そうとする葉留佳に直枝がつっこんだ。
「にゃは♪」
「葉留佳、少しは場所を考えて発言しなさい」
 私がそういってもケロリ、とした顔で今度は直枝にだけ質問した。直枝のほうが与しやすい、と思ったのでしょうね。
「で、どこまでいったのですかネ?」
「どこまでって…」
 直枝が私のほうを見てきた。私は無言で直枝のほうをみる。
「手をつなぐくらい?」
 小学生でもあるまいし、その答えは何よ、と思わないでもないけど、本当のことをいわれるよりずっとましだ。そう思っていると、葉留佳がにやり、と微笑んだ。
「整備委員会を甘く見ていますネ、理樹君?」
「え……?」
「実は学園にはわが整備委員会が仕掛けた隠しカメラが学校での理樹君の行動を逐一…」
「それ絶対嘘だよね?」
 直枝があきれたようにいう。
「ふ、ふ、ふ、はるちんを甘く見てますネ?理樹君がそう思うのも無理はないですケド、実は有るんですヨ。私の手元にはベッドの上にお姉ちゃんを押し倒す理樹君の姿とお姉ちゃんの痴態をおさめた映像が…」
「え?え?」
 葉留佳のその言葉に直枝の顔が見る見る真っ赤になっていく。
 その様子に私は戸惑う。直枝が気づくよう必死にめくばせするが、直枝はすっかりあせってしまい、まったく気づく様子はない。
 きっと葉留佳の顔がさらに笑ったことにも気づいていないだろう。
「それにしてもびっくりですヨ。まさか保健室でお姉ちゃんを襲うなんて」
「ほ、ほんとに撮ってたの?――ってか、みてたの!?」
 その言葉に私は頭を抱えた。
「うわぁ、ほんとに保健室なんかでやっちゃったんデスか、理樹君とお姉ちゃん」
「え?……あ」
 そこでようやく、葉留佳がカマをかけたのに気づいたらしい。
「ふざけていったのに理樹君の反応がおかしかったから追及したんだけど、まさかこんなことがわかるなんて思いませんでしたヨ♪」
 葉留佳は笑顔でそういって直枝は頭を抱えていた。
「学園にベッドのあるところといえば、保健室くらいしかないですからネ。……風紀委員、失格ですネ、お姉ちゃん」
「風紀委員じゃないからいいのよ…」
 なんとかそれだけを葉留佳に返す。
「直枝……」
 そういって、私は直枝の顔をにらんだ。
「ごめん、二木さん」
 直枝が頭を下げる。
「まったく。どうしたの、いつものあなただったら、葉留佳のわるふざけって気づくでしょうに」
 いつもの直枝だったら、「学校にベッドなんて、ないでしょ!」とかいいそうだ。そして葉留佳が「保健室にはありますヨ?」とかいって、話をうやむやにするくらい直枝は出来そうなものなのに。――いくら状況が初めての情事のときと酷似していたとはいえ。
 ちょっと直枝を買い被っていたかもしれない、そんなことを思った。
「ごめん、昨日、寝不足で疲れてて」
 そこまでいって、直枝がしまった、という顔をした。
「……あれ?昨日の勉強って7時におわって、その場で解散したんじゃなかったんでしたっけ」
 葉留佳が不思議そうに言った直後、すぐに理由に思い至ったらしく、葉留佳がにやり、と微笑んだ。
「昨夜はお楽しみでしたネ?」
「直枝……?」
 ――本当に、買い被っていたみたいだ。
 私が直枝をにらむと、直枝は、さらにうなだれた。――もっとも、それで直枝への好意が変わることはないけれど。
「いや〜、しかしそこまでいっているんじゃ、さすがに私、今日お邪魔虫な気がしてきましたヨ」
「そんなことないわよ、ねえ直枝?」
 本当に、そんなことはない。 葉留佳とできる限り一緒にいたいんだから。
 直枝は、まだうなだれつつ、いった。
「まぁ二人ですごしたかったら、まぁ改めてデートに誘えばいいだけだから」
「やけますね〜お二人さん」
 そういって葉留佳がはやし立てる。



 ――本当は、今日で最後なんだけどね。


 そんなことを話していると、私たちの順番がまわってきた。
 ジェットコースターにのる。最初に一番高いところまでいくらしく、ぐんぐんと上がっていった。
「ねぇ、直枝」
 私の隣に座っている、直枝の顔が青ざめているようにみえたのは気のせいではないだろう。
「……700メートルって長いわね?」
「う……うん」
 いまさらながら本当に理解した。いかに酷い乗り物に乗ってしまったのか。
「なんか私、降りたくなってきたわ…」
「僕も…」
 そんな私たちとは対照に葉留佳は「イケイケゴーゴーはるちん号♪」と叫んでいる。本来ならさっきみたいに注意するところだけど、注意する元気すら、ない。
 最高点にたっして……。その後のことは、覚えていない。
 ただ、すべてがおわったとき、「いや〜楽しかったですネ」と葉留佳一人が元気で、直枝と私二人はその場に倒れこんだ。もっともほかの乗客も同じようで、元気なのは葉留佳一人だった。


 それからいろいろな乗り物にのったり、食事したりして時間が過ぎて、もう夕方5時くらいになっていた。
「最後はあれに乗りましょう」
 そういって葉留佳が指差したのは観覧車。直径が1000メートルもある巨大なものだ。これもまた、世界一らしい。
「やっぱり最後は二人っきりがいいですかネ?」
 葉留佳がそういう。
「30分も一人でいたら退屈でしょう?遠慮しないでいいのよ、葉留佳……直枝もいいわよね?」
「うん」
 笑顔で直枝はそう答えた。
「……では、お言葉に甘えまして」
 私たちは3人そろっていっしょに乗ることにした。
「人がゴミのようだ、とはこのことですネ〜」
 下を見ると、ぐんぐんと地上を離れていき、下にあるものがだんだんと小さくなっていく。
「楽しかったね、二木さん、葉留佳さん」
 直枝がそういうと、葉留佳と私がうなづいた。
「また、こようね」
 そう、直枝がいった。
「ええ、またきましょう、お姉ちゃん」
「……そうね」
 私はただ、そう返事を返す。
 それから、今日あったことをいろいろ話して、話題が一段落したときに、ふと、葉留佳がつぶやいた。
「そういえば、どうして未だにお互い、苗字で呼んでいるんです?」



 ――そこで、目が覚めた。いつの間にか眠っていたみたいだ。外はもう、明るくなりはじめていた
 夢の続きを思い出す。たしか、直枝は、「なんとなく」と答えたっけ。そして、私は、「直枝っていうのになれちゃってね」って答えたんだっけ。
 だけど、本当の、理由は。
「直枝にこれ以上、近づきたくなかったから」
 これが、本当のことだ。”理樹”と直枝のことを名前で呼んでしまったら、もう、元に戻れなくなる、と思った。”理樹”と名前で呼ぶ練習をしたとき、”理樹”というだけで、胸の中がほわってなって、幸せに包まれて、どうしようもなくなって、みもだえて、クドリャフカに「どこか、悪いところがあるのですか?」と心配される、なんてことがあったのだから。

 遊園地から寮に戻ると、クドリャフカが食事にいっているときを狙って、私は実家に戻った。
 ”さようなら、実家に戻ります、もうもどりません”とだけ書いた手紙を残して。
「今思えば、最低な、女ね……」
 自分も人並みの恋がしたい。そう望んで、別れることが前提で直枝とつきあいはじめて、一方的に別れもいわずに去っていく。
 当時はわからなけれど、自分のことしか頭になくて、考えなかったけど……本当に――本当に、最低な女だったと思う。
 直枝には、本当に、悪いことをしてしまった。
 

 実家に戻ってから、実家では花嫁修業、と称されていろいろなことをさらに叩き込まれた。
 また、体の傷を少しでも隠すために手術も受けた。
 携帯には毎日のように葉留佳から批判のメールがきた。直枝からは、こない。彼には電話番号も、メールアドレスも教えていなかったから。
『どうしていきなり実家に帰ったのか』
『どうして何も、誰にも言わなかったのか』
 そんな文面が毎日のように送られてきた。そんな文面を私は無視した。私が学園を去れば、葉留佳が自由になれる。そのことはもう、葉留佳の両親の耳にもはいっているはずだから。
 だけど、ただ、一度だけ、返信を返したことがあった。
 そのときのメールには、こう、書かれていた。
『そんなことじゃ、私が理樹君をとっちゃうよ?』
 そのメールに、私は『がんばんなさいよ』と返すと、『お姉ちゃんの馬鹿っ』とだけかかれたメールが帰ってきた。
 
 それから、しばらくメールがこなくなった。再びメールがきたのは、一ヶ月くらいたった、誕生日の10月13日。
 メールには『仲直りしたい』という一文に、直枝と、葉留佳が笑っている写真が添付してあった。
 そのメールをみたとき、一瞬だけど、しかし確かに湧き上がった感情を――私が最低だと、これ上なく証明する感情を、私はきっと一生忘れないだろう。
「最低ね……、ほんと」

 それだけ呟いて、私は急いで準備を始めた。


 大勢の人たちに連れられ、私はあの町に戻る。なんの因果か、結婚式は私たちの学園の近くだった。私はウェディングドレスに着替え、化粧をし、待合室にいく。
 そこにおもいもかけない人物にあった。
「よう二木、なかなかきれいだな」


         ☆      ☆      ☆
 今、私は直枝と葉留佳と青空の下、一緒にいた。
 さっきまでのことが信じられなかった。
 結婚式の会場から、葉留佳や直枝たちに連れ出されたかと思うと、駆け落ちの計画を聞かされた。
 夢だと疑うことすらできない光景が、今、繰り広げられていた。
「本当に、信じられない」
 思わず、そうつぶやき、葉留佳と直枝のほうを見た。
 写真と同じように、ほほ笑んでいた。実際にみるのは初めてだけど、本当に幸せそうだった。そして、本当にすごい二人だと思った。
 あんなことをした、私を助けにきてくれたのだから。
 やっぱり、この二人は本当にお似合いだ。そんなことを考えながら、私は二人のことを聞いてみようと思った。そのくらいの権利くらいはあると思ったから。
「……そういえば、あなたたちは、いつから付き合い始めたの?」
 この質問に、直枝の顔が驚いていた。
「……え?」
「だって、あなたたち、付き合っているんでしょ?」
「付き合ってなんかないけど?」
 さらり、と直枝が答える。え?だって…。
 直枝は何を言っているのだろう?――ひょっとして、葉留佳と付き合い始めたことを気に病んでいるのだろうか。
 だとしたら、本当に直枝は馬鹿だ。あんなことをしてしまった私を気にする必要なんて全くないのだから。
 それに、ちゃんと証拠は握っている。
 私は直枝に葉留佳から送られてきたメールをみせようと携帯電話を開いた。『仲直りしたい』という一文に、直枝と、葉留佳が笑っている写真が添付してあるメールを。
 ほら、このメールをみれば、葉留佳と直枝がつきあっていることが……
 ・・・・・・つきあって、いること、が?
 そこまで考えて、もう一度、メールをみる。
『仲直りしたい』という一文に、『直枝と、葉留佳が笑っている』写真が添付してあるメールを。
 もういちど、メールを見た。
『仲直りしたい』という一文に、『直枝と、葉留佳が笑っている』写真が添付してあるメールを。








――――――――え?
 私はおもわず葉留佳の方をみた。笑いを思いっきりこらえているのがよくわかった。
 間違いなく、確信的、犯行だ。
「は、は、は、はる、はる」
 あまりのことに、言葉が続かない。やられた――葉留佳に見事にだまされた。
 そんなことを考えていると、葉留佳がちかづいてきて、耳打ちをする。
(今度、こんなことをやったら、本当に、私が理樹君をとっちゃいますヨ?)
 ……って、ことは直枝は。
「なお、え?、葉留佳とつきあっていないの?」
 確認するように直枝に聞いた。
「だからどうして、そうおもったのさ?――僕は、二木さんの彼女なのに」
 なんの迷いもなく、直枝はそう答えた。
「直枝、私がなにをしたのか、知っているの?私は――あなたに酷いことを本当にたくさんしたのに」
 別れることが前提で直枝と付き合い始めて、何もいわずに直枝から離れて、とつづけていく私の唇を直枝は人差し指でふさいだ。
「確かに、ひどいことを、二木さんはしたのかもしれないけれど、僕は、二木さんが好きだから」
 そういう直枝には一点の曇りさえ、なかった。
「直枝、あなたは、ほんとうに、ほんとうに」
 ふと、自分が泣いていることにきづいた。でも、私はぬぐうこともせず、言葉をつなげた。
「大馬鹿よっ」
 そういって、直枝にだきついた。


[No.899] 2009/01/24(Sat) 00:05:15

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