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all 第26回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/05(Thu) 21:25:32 [No.908]
死ねない病 - ひみつ@6617 byte まにあったきがする - 2009/02/07(Sat) 21:33:50 [No.925]
しめきりー - 主催 - 2009/02/07(Sat) 00:15:37 [No.923]
持たぬ者 - ひーみーつ@6144Byte - 2009/02/07(Sat) 00:05:34 [No.922]
[削除] - - 2009/02/07(Sat) 00:00:46 [No.921]
馬鹿につける薬はない - ひみつ@10133byte - 2009/02/07(Sat) 00:00:25 [No.920]
ガチ魔法少女 マジカル☆みおちん - ひみつ@13165Byte・作者は病気 - 2009/02/06(Fri) 23:58:32 [No.919]
桃缶はっぴぃ - ひみつ@9202 byte - 2009/02/06(Fri) 22:57:21 [No.918]
風邪をひいた日に - 秘密 @4507Byte - 2009/02/06(Fri) 22:47:32 [No.917]
手樫病 - ひみつ@9345 byte - 2009/02/06(Fri) 22:43:28 [No.916]
世界の卵 - ひみつ@19577byte - 2009/02/06(Fri) 19:16:02 [No.915]
pony症候群 - ひみつ@12934 byte - 2009/02/06(Fri) 18:04:37 [No.914]
一滴の涙 - ひみつ@14144 byte - 2009/02/06(Fri) 07:36:37 [No.913]
裏庭での一時 - ひみつ@17018byte(冒頭、若干修正) - 2009/02/06(Fri) 05:09:24 [No.912]
わらしべクドリャフカ - ひみつ@20356 byte - 2009/02/06(Fri) 00:01:36 [No.911]
父娘の平日〜看病編〜 - ひみつあーんど初 5810byte - 2009/02/05(Thu) 21:46:40 [No.910]


わらしべクドリャフカ (No.908 への返信) - ひみつ@20356 byte

 昔の服のポケットから古銭が出てきた。一銭玉だった。
「わふーっ」
 クドリャフカは幸せな気分になり、得意のパッチワークで小物入れをつくり、中に一銭玉を入れてお守りにした。
「さいきょーなのですっ」
 そしてクドリャフカは、反対側のポケットからもう一枚の一銭玉を発見する。頭上にかざし穴があくほど見つめながら思い出す。そういえばこの小さい服を着ていた幼いころ、日本贔屓の祖父が愛蔵していたものを何枚かねだってもらったんだっけ。
 さてどうしたものか。
 思いがけぬ再会の喜びはもう充分に噛みしめたし、形にも残した。同じお守りは、二つもいらない。
「一銭の価値もない、と人は言いますが」
 一銭には一銭以上の価値がある、そのことを証明しよう。
 幸せを、誰かにおすそわけしよう。
 クドリャフカは再び裁縫箱を開ける。

 最初に出会った相手にプレゼントしようと決め、クドリャフカは恋する少女のような足取りで部屋を出た。
「わふーっ!」
 お守りをポケットに忍ばせてズンタカポンと行進し、寮の階段を降り立ったところで、クドリャフカは昇降口に小毬の姿を見つけた。
「小毬さん小毬さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「あ、クーちゃん。私はお散歩中だよ〜」
「そうなのですかー。私もこれからお散歩に出かけるところなのですっ」
「そうなんだ〜。今日はいい天気だもんね〜」
「ですね〜」
「……ふぅ」
「あれ、小毬さん、なんだか元気がないみたいです。どうかされたのですか?」
「えっ……そんなことないよ?」
「隠してもダメです。私にはわかります。今の小毬さんはどちらかというと困りさんです」
「よ、よくわからないけど……う〜ん、そうだね、ちょっとだけ疲れちゃってるのかも」
「なにか疲れるようなことをされているのですか?」
「うん、ちょっとね。私、ボランティア活動をしてるんだけど、最近そっちが忙しくて」
「おおー! 偉いです小毬さんっ。尊敬しちゃいますっ」
「そんなことないよ〜」
 クドリャフカは深く感心する。周囲の同年代がバイトだデートだとはしゃいでいる中でボランティアとは! クドリャフカは躊躇なくポケットに手を入れた。
「そんな偉い小毬さんにプレゼントですっ」
「私に? なんだろなんだろ〜」
「これ、私がつくった幸せのお守りです。よろしければどーぞっ」
「わぁぁ、ステキなプレゼントだね。かわい〜」
「元気の出るお守りです。これで元気になったら、またぼらんちあーがんばってくださいですっ」
「一生大事にするよ〜」
 プレゼントしてよかったとクドリャフカは思う。彼女ならきっと、幸せを何倍もの大きさにして他の人に還元してくれるはず。一銭も計り知れない価値を持つことだろう。
「じゃあじゃあ、私からクーちゃんにおかえし〜」
「ふぇ?……これは、ぽっきーですか?」
「うん。食べると元気出るよ〜」
「あうあう、それなら私より小毬さんに必要なものだと思うです……」
「私はクーちゃんから元気の出るお守りをもらったからだいじょーぶ。ね、私からの気持ち、もらってくれる?」
「……そこまで言われてしまうともらわないわけにはいかないです。小毬さん、ありがとーございますっ」
 そうして二人は別れた。古銭の入ったお守りはクドリャフカから小毬の手に渡り、お返しにクドリャフカはぽっきーを得た。
「わふーっ!」
 ぽっきーを咥えながらズンタカポンと行進し、女子寮を出て北校舎を通り抜けたところで、クドリャフカは渡り廊下の陰に鈴の姿を見つけた。
「鈴さん鈴さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「クドか。うん、ちょっと困ったことになっているんだ」
「お困りですかー。どうされたんですか?」
「猫が排水溝から出てこないんだ」
「はいすいこー?」
 鈴の視線の先をクドリャフカは追った。校舎に沿って伸びた側溝は、渡り廊下に差しかかったところで小さな空洞になっていた。
「この中に猫さんが入ってしまったのですか?」
「レノンのやつだ」
「なんでまた、こんなところに入ったんでしょう……」
「あいつ、コバーンと大喧嘩したんだ。よくわからんが、方向性の違いとかなんとかが原因らしい」
「それは……ある意味当然の結果だったのでわ……」
「で、喧嘩に大負けして、この中に引きこもってしまったんだ」
「引きこもりですかー」
「そうだ、ニートだ。むしろニャートだ」
「それはなんとも現代的で社会的で非生産的な事態ですっ」
「……もう、二時間もずっとこのままなんだ」
 クドリャフカは、鈴の真剣なまなざしに気づく。我が子の安否を気づかう母親の顔に近い。
「……なんとか出てくるように説得できないのでしょーか」
「あいつは猫一倍気難しいやつだからな。何回か試してみたが全然ダメだった」
「では、なんとかして引っ張りだしてしまうとか」
「あと少しのところで手が届かないんだ。ねこじゃらしでおびきだそうとしてみたが、うまくつかまってくれない」
「うーん……」
 鈴がダメだったのでは自分の手の長さではどうにもできるわけがないし、そもそも自分の浅知恵で思いつくことなど、鈴のことだから一通りは試した後だろう。打つ手なし。クドリャフカは歯がゆさを覚えるしかない。
「このままではエサもやれない……」
「はうー……あ、それならよいものがありますですっ」
 クドリャフカは、小毬からもらったぽっきーの袋を取り出した。まだ何本か残っている。
「おお、それだっ」
「これなら手が届かないところにいる猫さんにも食べさせてあげられますっ」
「いや、もっといいことを思いついたぞ。クド、あたしにそれを一本くれ」
「あ、はい」
 鈴は、ぽっきーを受け取った手をそのまま排水溝にねじこんでいく。3、2、1でフィッシュオン。素早く抜け出された手にはぽっきーと、それに齧りつく猫の仔一匹。
「おおーっ、見事な一本釣りですっ」
「こらレノン、暴れるなっ。あたしの指まで食おうとするなっ」
「とてもお腹がすいていたのですねー。よしよし、もっとあるからねー」
 ぺろりといかれた。
「全部食べられてしまいました……」
「まったく、食い意地の汚いやつだな。罰としてお前は今日の昼飯抜きだ」
「ええっ、そんなかわいそうですっ」
「いいんだ。あまりエサをやりすぎてぶくぶくに太ったら、将来困るのはこいつなんだ」
「そうなんですか……ああっ、レノンが猫なで声で激しく抗議してますっ」
「だからこのレノン用のツナ缶はクドにやる」
「ああっ、抗議の矛先がこの瞬間私のほーにっ!?」
「もらってやってくれ。それがレノンのためでもあるんだ」
「ああっ、こちらを見ながら激しく爪を研ぎはじめましたっ!?」
「早く行ってくれ。この子にはあたしからきつく言い聞かせておくから」
「よいのでしょうか……」
 そうして二人(と一匹と周囲の十数匹)は別れた。ぽっきーはクドリャフカから鈴の手(レノンの腹の中)に渡り、お返しにクドリャフカはツナ缶を得た。
「わふーっ!」
 ツナ缶を手にしながらズンタカポンと行進し、渡り廊下から南校舎に入ったところで、クドリャフカは掃除用具入れの陰に葉留佳の姿を見つけた。
「三枝さん三枝さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「やはークド公じゃん。見ての通り逃亡中だよ、現実から」
「戦わなきゃ現実と、ですっ」
「うん、本当は風紀委員から逃げてるんだけどねっははー」
「お元気そうでなによりなのです。で、今日はなにをやらかされたのですか?」
「キュートな顔してなにげに毒吐くなぁクド公よぅ! 私はただ風紀委員が校則違反のお菓子を持っているのを偶然目撃してしまったから、その不法行為を是正しただけなのだよ!」
「なんとーっ! それでは三枝さんは悪の組織から恨みを買ってしまった正義の味方的な感じみたいなですかっ」
「ま、校則違反者から没収したブツだったってオチだったんだけどね。食べちった後で知ったけど」
「勘違いなうえに食べてるんじゃないですか……」
「だってわかんないじゃーん。おいしそうだったから仕方ないじゃーん。実際においしかったじゃーん」
「不慮の事故だったとしても、風紀委員のかたが三枝さんを追いかけまわるのもわかる気がしますです……」
「お腹すいてたんだから大目にみてほしいよまったく。こちとら金欠でお昼抜きだったんだからさー」
 申し合わせたようなタイミングで葉留佳の腹が鳴る。
「……お菓子を食べたはずなのでは?」
「んなもんで足りるわけないじゃん。こちとら花も恥じらう育ちざかりの乙女ですヨ」
「恥じらってない、恥じらってないのです……あ、そうだ、よいものがありますっ」
「お、食べ物? 食べ物?」
「先ほど鈴さんからいただいたツナ缶がここに……あ、ダメですこれ、猫用って書いてます」
「食えりゃいーのサっ。もーらいっ」
「ああっダメですダメですっ。お腹を壊してしまいますっ。それに缶切りがないと開けられないタイプなのですっ」
「ばりばりばりー!」
「あああっ、そんな歯でなんてっ!? 三枝さん恥じらい恥じらいっ!」
「あーおいしかった。意外といけるネこれ」
「もう食べ終えてますし……」
 にっこり笑ってピースサイン。三枝葉留佳の辞書に悪気という文字はない。
 そのとき、廊下の奥から慌ただしい足音が近づいてきた。三枝は見つかったか、今こっちから妙な金属音が、それは怪しいわね行ってみるわよ見つけたら即刻捕獲しなさい、ワンワン、などという穏やかでない声が聞こえてくる。
「あー近いねこりゃ。ここが見つかるのも時間の問題だなー」
「はわわわ、三枝さん、早く逃げてくださいっ」
「ん、じゃーそろそろ行くね。あそだ、お返しにこれあげるよー」
「これは……たんばりんですか?」
「そ、ノリノリタンバリン。これでキミもノリノリタイガーだっ」
「いえふーっ! ノリノリですっ」
 そうして二人は別れた。ツナ缶はクドリャフカから葉留佳の手に(缶だけ)渡り、お返しにクドリャフカはノリノリタンバリンを得た。
「わふーっ!」
 タンバリンをシャカシャカヘイしながらズンタカポンと行進し、南校舎から中庭に降り立ったところで、クドリャフカは大きな木の下に美魚の姿を見つけた。
「美魚さん美魚さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「能美さん、こんにちは。私はちょっと芸術の壁と戦っているところです」
「芸術の壁ですかっ。いわゆるぐらふぃてぃあーとですかっ」
「それは、壁の芸術ですね。まあ壁となっている建物の所有者にしてみれば、芸術だなんてとんでもない話だとは思いますが」
「まともに返されてしまいました……」
「私がやっているのは、短歌です。良い詩が書けずに悩んでいたところです」
「おおーっ、短歌ですかっ。それはすばらしいですっ」
「能美さん、今から私が創作中の詩を詠みますので、ちょっと聞いてもらえませんか?」
「わふーっ、もちろんですっ」
『直枝さん 受けと見せかけ 鬼畜攻め 恭介謙吾 真人もいける』
「一応完成の形をとってはいますが、どうもしっかりこなくて……能美さん、どこかおかしいと感じるところはありませんか?」
「ありすぎて困るくらいなのですが、いろいろと素人の私が口出ししてはいけないと防衛本能が訴えるのですよ……ぶるぶる」
「そうですか……芸術とはやはり難しいものですね」
「わ、わふー……あ、そうです。芸術ということですので、ここは新しい視野を持つという意味で、別の芸術に触れてみるのはいかがでしょーか?」
「別の芸術、ですか?」
「音楽ですっ。幸いここに三枝さんからいただいたたんばりんがありますですっ。さあこれを持って、れっつみゅーじっくちぇけらっ、ですっ」
「こう、でしょうか」
 シャカシャカヘイ、シャカシャカヘイ。世にもシュールな二人組の音楽が繰り広げられる。
「わふーっ、たくさんシャカシャカしすぎて疲れましたっ」
「私もです……しかし、良い刺激が受けられたおかげで、良い案が浮かびました。そう、ここをこう変えて……」
『直枝son 受けと見せかけ 鬼畜攻め 恭介謙吾 真人でもイける』
「多少字余りですが、すばらしい出来です。文句のつけようがありません」
「わふーっ、もうよくわかりませんがこれで万事解決ですっ」
「能美さんのおかげです。本当にありがとうございました」
「お役にたてたようでなによりですっ」
「それでご相談なんですが、このタンバリン、よろしければ私に譲っていただけませんか? またアイデアに詰まったときに使いたいですので」
「はいもちろんっ。実はいただきものなのですが、私が持っているより誰かの役にたつほうがたんばりんも喜ぶと思いますっ」
「助かります。ではお返しにこれを能美さんに差し上げます」
「わふーっ……め、めがねですか?」
「メガネです」
「でも私、視力だけは英語の成績よりもよいですので……」
「能美さんの英語の成績がいくつなのかは怖いので聞きませんが、大丈夫です、伊達ですから」
「ふぇ? 伊達めがねなんですか?」
「はい、伊達じゃないメガネじゃない伊達メガネです」
「………………えーと?」
「伊達じゃないメガネじゃない伊達じゃない伊達メガネです」
「ああああ」
「……つまり、伊達メガネですね」
「おー、それなら私でも大丈夫なのですっ」
 そうして二人は別れた。ノリノリタンバリンはクドリャフカから美魚の手に渡り、お返しにクドリャフカは伊達メガネを得た。
「わふーっ!」
 伊達メガネを掛けながらズンタカポンと行進し、中庭から食堂横の裏庭に差しかかったところで、クドリャフカは自動販売機の近くに唯湖の姿を見つけた。
「来ヶ谷さん来ヶ谷さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「おや、なんだか今日は知的に見えるクドリャフカ君ではないか。誘っているのかねそうなんだろうええ?」
「最初からぶっとばしすぎですこの人……」
「まあ、特に何をしていたわけではないな。あえて言うならひなたぼっこだ」
「ひなたぼっこですかー。それはとても楽しそうなのですっ」
「ああ、楽しいとも。こうやって下級生の教室の窓からよく見える場所でミステリアスでアンニュイな雰囲気を醸し出しながらひなたぼっこをしているとだな、可愛らしい下級生の少女が潤んだ瞳でラブレターを持ってくることがよくあるんだ。たまに可愛らしくない男も釣れてしまうのが難点だが」
「そういえば来ヶ谷さんはもともとこのようなお方なのでした……」
「しかし最近はどうも掛かりが悪い。どうやらおイタが過ぎて警戒されるようになってしまったらしいな。ゆゆしき事態だ。クドリャフカ君は解決策をどうみる?」
「ええっ……えと、えーと、よくわかりませんが、いめーじちぇんじをはかってみてはいかがでしょうか」
「なるほど、今キミがしているようなことをしてみる、というわけだな」
 唯湖は流れるような手つきで、クドリャフカの顔から伊達メガネを抜き取った。実に瞬きひとつの間の出来事。驚いている暇もなかった。
「どうだ、似合っているか?」
「と、とてもよくお似合いだと思いますですっ」
「ハハハ、そうだろうそうだろう。よし、これで万事解決だな」
「ただ私が言いたかったのは、もう少しこう内面的ないめーじちぇんじといいますか……って、なんか潤んだ瞳でらぶれたーを持った下級生女子が押し寄せてきましたーっ!?」
「ハハハ、よしよし、慌てずとも全部読んであげるから順番に並びなさい。ああ至福至福」
「もうなにを信じてよいのかわからなくなってきました……」
「そういうわけでクドリャフカ君、おねーさんはこれから大事な用事ができてしまったわけだが」
「はい……私はそろそろ行きますです。そのメガネは差し上げますのでお役にたててくださいです」
「恩にきるよ。そうだ、お返しにこれをあげよう」
「これは……ぶ、ぶらじゃーですかっ!? た、たいへん申し上げにくいのですが、のっぴきならない身体的な事情ゆえ、これを私がいただいても有効活用しかねると思うのですが……」
「不満か。ならばぱんつも付けよう」
「いえあの、そういうことではなくっ」
「ついでにサービスでもずくも付けておくか。ハハハ」
「もはや私にどうしろと……」
 そうして二人(と下級生女子大勢)は別れた。伊達メガネはクドリャフカから唯湖の手に渡り、お返しにクドリャフカは???のブラジャーと???のぱんつともずくを得た。
「わふーっ!」
 ブラジャー(そうびできない)とぱんつ(そうびしかねる)ともずくをとにかく所持しながらズンタカポンと行進し、裏庭から部室棟を抜けてグラウンドに出たところで、クドリャフカはグラウンドの中心に真人と謙吾と恭介の姿を見つけた。
「皆さん皆さん、そんなところでなにをしているのですか?」
「能美か」
「お、いいところに来やがったな!」
「わ、わふーっ? なにがですか?」
「事情は後だ、とにかく武器をくれ」
「できるだけ強そうなのを頼むぜ、クー公!」
「わ、わ、わふーーっ!?」
「待て待て、それじゃ能美はわけがわからないだろう。俺がちゃんと説明する。かくかくしかじか四角いムー○」
「なるほど、いつものバトルが勃発して恭介さんが立ち会ったまではよかったものの、ギャラリーが誰もいないせいで武器が用意できずに困っていたと」
「そういうわけだ」
「さあ、わかったらさっさと武器を寄こしやがれ!」
「わ、わふーっ」
 投げこまれるブラとぱんつ。もずくは食べ物なので投げるわけにはいかない。
「し、下着だとっ?」
「うおーっ、ブラジャーなんかでどうやって戦ブラジャー!」
「おお、真人のやつやる気だな。さっそく「戦うんじゃー」と「ブラジャー」を合体させてやがる」
「まさかと思いながら聞いていましたが、やはりそういう意図なのでしたか……」
「しかし、これは布ではないか。こんなものでどうやって戦えというのだ」
「へっ、これは勝負あったな、謙吾」
「……なんだその自信は。貴様のブラジャーだって所詮は同じ下着ではないか」
「甘いな。テメーはひとつ重要な見落としをしてるぜ」
「なんだと?」
「ブラジャーはぱんつと違って……ワイヤーが入っている!」
「なっ……しまったぁぁぁぁ!」
「そこまで驚くようなことなのでしょうか……」
「ま、健全な男子学生にとっては未知の領域だからな」
「ちなみにオレも今手に持って初めて知ったが……とにかく、これだけ武器の性能差がはっきりしていたら勝負は決したも同然だな」
「くっ、どうすればいい……っ」
「落ち着け、謙吾!」
「……恭介?」
「ここは発想の逆転だ。武器にならないのなら……防具にすればいい!」
 青天の霹靂。謙吾にかつてない衝撃が走る。ついでにクドリャフカにも。
「そうか! つまりこういうことだな!……おおお、これは羽根のように軽く、少ない面積ながらも体幹をしっかりガードし、かつ視界の妨げにもならない、すばらしい面だ!」
 謙吾は、すでにアホに開眼した謙吾だった。
「テメーそんなのずりーぞ! そういうことならオレだって!……おおお、これは大胸筋を包みこみ、少ない面積ながらも心臓をしっかりガードし、かつ広背筋のトレーニングにもなる、とんでもねぇ胸当てだぜ!」
 真人は、元からアホだった。
「……ま、防具にした時点で勝ちはなくなるわけだがな」
 恭介は、アホだがフィクサーだった。
「よし、そこまでだ。この勝負、両者引き分けっ」
「ふ、貴様相手では珍しい、白熱した好勝負だったな」
「おう、たまにはこんな激しい戦いもいいな。気が引き締まるぜ」
「それはぶらじゃーを付けたままだからなのでは……ともあれ、お二人ともお怪我がなくてなによりなのです」
「クー公、この防具返すぜ、サンキューな」
「うむ、俺のも返そう」
「か、返されてもとても困ってしまうですっ。それはお二人に差し上げますっ」
「お、マジか。へへ、わりーな」
「そうか、ならばありがたくいただいておこう」
「ど、どういたしましてです……」
「お返しにこれ、やるぜ。理樹のノートだが」
「俺からもこの剣道部の面をやろう。最強の面を手に入れた俺にはもはや不要の品だ」
「あ、ありがとうございますです……」
「……いいな、みんな仲が良くて」
 仲間外れになっていた恭介が、地面にのの字を書いていた。
「俺なんかどうせ(チラ)……一人だけ学年も違うし(チラ)……」
「あわあわ、こんなものしかありませんが、恭介さんにもこれを差し上げますですっ」
「もずく、だと……? イヤッホー、もずく最高ーぅ!」
「喜んでいただけたようでなによりです……」
「お返しはこれだ。名作劇場DVD-BOX。ラッ○ーの健気さにむせび泣くがいい」
 そうして四人は別れた。???のブラジャーと???のぱんつともずくはクドリャフカからそれぞれ真人と謙吾と恭介の手に渡り、お返しにクドリャフカは理樹のノートと面と名作劇場DVD-BOXを得た。
「わふーっ!」
 面を被りノートとDVD−BOXを小脇に抱えながらズンタカポンと行進し、行くところがなくなって寮に戻ろうとしたところで、クドリャフカは男子寮の入口に理樹の姿を見つけた。
「リキ、リキ、そんなところでなにをしているのですか?」
「や、クド。僕は今日出た課題の準備をしているところだよ」
「課題? 今日の授業で課題なんか出ましたっけ?」
「いや、僕だけ特別にね。前の試験の結果があんまりよくなかったから、その補習みたいなもんかな」
「そうなのですかー。リキ、ふぁいとですっ」
「あはは、ありがとう……ゴホゴホ」
「おや、風邪引きさんですか?」
「うん、朝からちょっと体調がね。でも、今はそれどころじゃないんだ。ちょっと困ったことになってて」
「お困りですかっ。ならば私にご相談してみてください。なぜだかわかりませんが、今の私なら必ず困りごとを解決できる自信があるのですよ」
「その課題ってのが、名作劇場DVDを全巻観て、剣道の面を被りながら自分のノートに感想を書いて提出するってやつなんだけど、DVDも面も、なぜか僕のノートも見つからなくて困ってるんだ……」
「ここまでくるとさすがに作為的なものを感じざるをえませんが……リキのお役にたつためなら気にしませんですっ。リキ、これどーぞっ」
「わ、持ってるうえにくれるんだ? ありがとうクド!」
「どういたしましてですっ」
 クドリャフカはニコニコと理樹を見つめる。今度はどんなお返しがもらえるのだろうかとわくわくする。しかし、いつまで経っても理樹の手からは何も差し出されなかった。
「……?」
「あ、ごめん……何かお返しをしたほうがいいんだろうけど、僕、何も持っていないんだ……」
 リトルバスターズでのバトル時にも、基本的に人からもらったアイテムを活用していた理樹は、自分のアイテムをひとつも持っていなかった。
「あ……」
 クドリャフカは気づく。理樹がアイテムを持っていないことにではなく、人に幸せのおすそ分けをするために部屋を出たはずが、いつの間にか見返りを期待するようになっていた自分に。
「そ、そうでしたか。別になにもぜんぜん気になさらないでくださいです……」
「ごめん、本当にごめん……」
「謝らないでくださいです……謝られると泣きたくなってしまうのです……」
 クドリャフカは、自分の卑しさを呪った。

 その日、クドリャフカは遅れて理樹からお返しをもらった。
 もらったのは、風邪だった。
「ケホケホ。うう、辛いのです……寂しいのです……」
 ルームメイトの二木佳奈多は所用で実家に帰っており、クドリャフカは部屋で一人だった。
「やはりあさましい私への天罰なのでしょうか……」
 そのとき、部屋のドアがノックされた。クドリャフカはふらふらになりながらもベッドを這い出てドアを開けた。そこには……
「り、リキっ!?」
「僕の風邪が移っちゃったって聞いて……看病に来たよ」
「はわわわ、そんなダメですっ。リキに風邪が移っちゃいますっ」
「僕から移った風邪なんだから、僕は大丈夫だよ。ほらクド、病人なんだから早くベッドに戻って」
 クドリャフカをベッドに寝かせると、理樹は手際よく暖の確保や空気の入れ替え、掃除や炊事に取りかかった。
 全てを終えるころには、クドリャフカもすっかり理樹に甘えるようになっていた。
「ふーっ、ふーっ」
「あ、ごめん。お粥、熱かったかな?」
「少し。でも、とてもおいしいのです」
「熱はどうかな?」
 そう言うと、理樹はクドリャフカのおでこに自分のおでこを当てた。クドリャフカはドキドキしながらも理樹の行為に身を委ねた。
「……ちょっと熱いかな」
「はい、でもだいじょーぶなのです。今はこの熱が逆に心地よいのです」
「そうなの?」
「ですです」
 おでこを寄せ合ったまま、クドリャフカはこっそりポケットに手を這わせた。幸せのお守りは確かにそこに、ある。
「今日はずっと、クドのそばについているからね」
 幸せのおすそわけをして本当によかった、とクドリャフカは思う。
 一銭玉から始まった幸せは巡り巡って、こんなにも素敵なお返しになったのだから。


[No.911] 2009/02/06(Fri) 00:01:36

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