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No.914へ返信

all 第26回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/05(Thu) 21:25:32 [No.908]
死ねない病 - ひみつ@6617 byte まにあったきがする - 2009/02/07(Sat) 21:33:50 [No.925]
しめきりー - 主催 - 2009/02/07(Sat) 00:15:37 [No.923]
持たぬ者 - ひーみーつ@6144Byte - 2009/02/07(Sat) 00:05:34 [No.922]
[削除] - - 2009/02/07(Sat) 00:00:46 [No.921]
馬鹿につける薬はない - ひみつ@10133byte - 2009/02/07(Sat) 00:00:25 [No.920]
ガチ魔法少女 マジカル☆みおちん - ひみつ@13165Byte・作者は病気 - 2009/02/06(Fri) 23:58:32 [No.919]
桃缶はっぴぃ - ひみつ@9202 byte - 2009/02/06(Fri) 22:57:21 [No.918]
風邪をひいた日に - 秘密 @4507Byte - 2009/02/06(Fri) 22:47:32 [No.917]
手樫病 - ひみつ@9345 byte - 2009/02/06(Fri) 22:43:28 [No.916]
世界の卵 - ひみつ@19577byte - 2009/02/06(Fri) 19:16:02 [No.915]
pony症候群 - ひみつ@12934 byte - 2009/02/06(Fri) 18:04:37 [No.914]
一滴の涙 - ひみつ@14144 byte - 2009/02/06(Fri) 07:36:37 [No.913]
裏庭での一時 - ひみつ@17018byte(冒頭、若干修正) - 2009/02/06(Fri) 05:09:24 [No.912]
わらしべクドリャフカ - ひみつ@20356 byte - 2009/02/06(Fri) 00:01:36 [No.911]
父娘の平日〜看病編〜 - ひみつあーんど初 5810byte - 2009/02/05(Thu) 21:46:40 [No.910]


pony症候群 (No.908 への返信) - ひみつ@12934 byte

 その日、登校した西園美魚が着席すると、読み途中の小説を鞄の中から取り出すより早く、騒がしい声が飛んできた。つまりかなり早い。
「みっおちーん!」
 当然三枝葉留佳である。やってきたスピードアタッカー葉留佳は、美魚の反応など完全無視でバルカントークを繰り出した。一発一発はぶっちゃけどうでもいいが、弾数の多さがウザいことこの上ない。しかも葉留佳のくせにたいした連射性能なのが気に食わなかった。
「葉留佳」
 シールド代わりに、普段しない呼び方をする。連射が止まった。いかにも悪戯好きそうな子供っぽい瞳の奥に、キラキラした何かが見える。よくわからんが喜んでいるっぽかった。さらに喜ばせてあげよう、美魚は思った。
「葉留佳がバルカントーク!」
「…………」
「く、くくっく……」
 これは上手いこと言った、と美魚は一人で笑う。こんなにおかしいのだ、葉留佳のことだからきっと大笑いしているに違いない、美魚が視線を上げると、いわゆるレイプ目の葉留佳がそこにいた。輝きは失われている。死んだ魚の目のようだ。そういえば私の名前には魚という字が入っているが、それはどうでもいい。
「ところで三枝さん。どうしたんですか、その髪」
「……はっ。へ? え? あれ? どったの、なんだってみおちん」
「どうしたんですか、その髪」
 さっきまで死んだ魚の目だったのだから、今は生きた魚の目ということになる。こんな目の魚いたら嫌だ。いつもは左から生えている葉留佳のトレードマーク? が、今日は真後ろから生えていた。
「席替えの結果、そこのほうが光合成に都合が良くなったとか」
「いやそりゃ日向ぼっこは好きだけどさー。いくらなんでも光合成はねーっすよ、みおちん」
「そ、そうなんですか!? では、頭から自生している花の養分はどこから……」
「しまいにゃキレるぞ、コンニャローッ!!」
「それで、なんなんですか」
「くそぅ、しれっと言っちゃってぇ……そんなの、ポニーテールに決まってるじゃないデスカ」
 ポニーテール。女性の髪形の一。別に男性でもいい。こんな可愛い子が女の子のわけないじゃないですか的男性ならばいい。髪を後頭部で一つにまとめて、毛先をポニーのしっぽのように垂らしたもの。
「世の中にはしっぽが二本あるポニーがいるんですね……知りませんでした。ご教授ありがとうございます」
「ムキーッ! その言い方は、はるちんをそこはかとなくバカにしてるなー!?」
「いえ、おもいっきり、ですが」
「そんなみおちんがすきだーっ!」
 飛びついてきたのを、ひょい、と椅子ごと避ける。どんがらがっしゃん。
 机と椅子と、教科書やらノートやらプリントやらが混ぜ混ぜになった海に沈む葉留佳を見下ろして、一言。蔑みながら言ってやった。
「このドMが」
「ひゃうん!」
 ビクンビクン、と幾度か痙攣してから、果てた。まったくお話にならない。美魚は席を立つと、窓際の席で優雅に黄昏ている来々谷のところへ向かった。なぜかそこだけ夕暮れなのだ。
「来々谷さん。その髪はいったいどうしたのですか」
「おや、西園女史」
 美魚と来々谷は、それぞれ妄想派と実践派として、夜な夜な激論を交わしている間柄である。何度か(文字通りの意味で)ベッドを共にしたこともあり、美魚にとってはもっとも親しい友であると言えるかもしれない。
「放熱索……ですか?」
「いや、ただのポニーテールだが」
「ポニーテールといえば放熱索です」
 力説する美魚に、来々谷は若干引いていた。
 ちなみに来々谷のポニーテールは、別に珍しくない。体育の授業など、邪魔になりそうな時には適当にまとめている。まあ常時であればそんなことはないのだが。つまり、やっぱり珍しかった。
「それで、なんなんです」
「まあ、ちょっとした気分転換さ。特に意味はないよ」
 胸元で、まとめた髪の先を指にくるくると巻きつけて遊びながら、来々谷は口元を緩めた。なんか色っぽくてムカついた。小さい胸が好きな殿方もいるんですから。小さい胸が好きな殿方もいるんですから。小さい胸が好きな殿方もいるんですから……。
「ど、どうした、西園女史。なぜ泣く?」
「なんでもありませんっ」
 ぶわっ。回れ右して走り出す。人とぶつかった。
「きゃっ」
「わふー!?」
 間違い。犬とぶつかった。たいした衝撃でもないはずだが、お互い様々な意味においてちっこいせいで、尻餅をついてしまう。
 ぱさり、と小さな音。たぶん、犬がかぶっていた帽子を落としたのだろう。
「ああ、すいません、能美さん」
「あっ、いえいえ、こちらこそ」
 先に立ち上がった美魚が、手を差し伸べる。その手を取る能美さんことクドリャフカ。愛称クド。放熱索を装備していた。
「…………」
「わふ……? 西園さん、どうかしましたか……?」
「わんちゃんが舌を出してハァハァ言っているのは、熱を逃がすためだと聞いたことがあります」
「さすが西園さん、物知りなのです。その舌出し呼吸は、ぱんでぃんぐと言って」
「つまりっ、それはっ、舌……舌なんですね?」
「わ、わふ……?」
「そんなわけないじゃないですか! 裏切りものっ、裏切りものーっ!」
「ああっ、西園さんっ。うぇいと、うぇいとなのですーっ」
 自己完結した美魚はまさに無敵で、クドの制止など馬の耳に鳥の詩であった。今度は誰にも犬にも猫にもぶつからず、美魚はどこぞへと走り去っていく。
 その背中を呆然と見送った一匹と、すぐそばで傍観していた一人。
「ど、どうしたのでしょう、西園さん……」
「さてな。ま、拗ねているだけだろうさ」



 廊下を疾風のように駆け抜ける美魚。嘘。そんなに早いわけがない。
「あ、こら、廊下を走るな!」
 途中ですれ違った元風紀委員現女子寮長も、ご多分に漏れなかった。途中ですれ違ったがっかりおっぱいも、ボケボケスパイも。どいつもこいつもアホだ。バカだ。
「ぜはあっ……ぜはぇあっ……ヒュウゥぅ、ヒュゥゥゥ……げほっがはっ」
 ろくに体力のない娘っ子が全力疾走などしたものだから、当然こうなる。最後には歩くことすら出来なくなり、美魚はリノリウムの冷たい廊下の上で崩れ落ちた。
「……こんな……惨めな……なんで……わたし、は……」
「わ〜っ!? み、みおちゃんっ、だいじょうぶ!?」
 聞こえてくるはエンゼルボイス。我らが小毬さんの登場である。倒れたままピクリともしない美魚に駆け寄り、涙目でその名を呼びかける。
「みおちゃん、みおちゃん! しっかりぢてっ」
 涙目の涙声。ああ、美しきは友情かな。
「ええと、ええとっ、あ、そーだっ! ぽっきーはいかがですかっ。それともワッフル?」
「……わっふる……わっふる……」
 それきた、と小毬が美魚の口にワッフルを詰め込んだ。ヒットポイントが30回復した。
「ふぅ……助かりました」
「よかったぁ〜……あ、ゴゴティーもありますよ〜」
「いただきましょう」
 ごきゅごきゅごきゅ。ヒットポイントが55回復した。美魚の最大ヒットポイントは801なので全快には程遠いが、まあ無いよりはマシである。
「それで、そのチョンマゲはなんなのです」
「ほえ?」
 いつもは頭の両側をちょこんと結えている小毬だが、今日はそれが、チョンマゲ的位置にあった。いつもの髪留めは、そのチョンマゲ的位置の一か所にまとめてくっついていて、少しばかり野暮ったい感じである。
小毬が心外だとばかりに、けっこうある胸を張りながら、えっへんと訂正する。
「違うよ〜、これはポニーテールだよ〜」
 また放熱索か、と美魚は呆れた。そんな放熱索のどこがいいと言うのだ。というか、そもそもチョンマゲである。美魚は心を鬼にして、言ってやることにした。
「いいですか、神北さん」
「うん?」
「……あなたに足りないもの、それは! (胸の)謙虚さ、おつむ、ダイエット、謙虚さ、謙虚さ、謙虚さ、謙虚さ! そして何よりも――長さが足りない!!」
「がーんっ!?」
 よろめく小毬。しかし倒れる寸前で、踏ん張ってみせた。
「で、でもほら、これ!」
 くるりと背中を向ける。チョンマゲの星飾りから、長さが変わることで有名なリボンが計四本、垂れている。
「見ようによってはポニーテールみたいな感じに、ほら」
「姑息ですよ」
「う、うう……みおちゃん、いじめっこ〜……」
「私は今日も恭理本に囲まれて幸せですが、何か?」
「うわーんっ!!」
 よくわからんが、決着した。見事に恩を仇で返した美魚は、満足げに、はんっ、と鼻を鳴らす。非常にいい気分だった。軽くエクスタシィ。ほとがホットだぜひゃっはー。さて教室に戻りましょう。
 ちなみにここは一階だったので、窓の外に猫と戯れる鈴の姿を見つけたのも、多分偶然ではない。



 皆が変わってしまった中で、鈴だけがそのままでいた。
 渡り廊下まで出て、声をかけようかかけまいかと考えている内に、鈴は立ち上がる。たちまち猫たちが大合唱。にゃーにゃーぬおーにゃー。じゃれつく猫たちを、こら、あたしはこれから授業なんだ、と優しく振り払う。優しすぎて、猫たちは遊んでくれているのだと勘違い。鈴があっち行け、と優しく。それにじゃれつく。ループって恐い。
「鈴さん」
 美魚が声をかけると、猫たちはにゃーにゃーぬおー言いながらどこかに逃げて行った。美魚は、鈴の猫たちとはあまり親しくないのである。
「ん、みおか。ありがと、たすかった」
「どういたしまして」
 ちりん、と鈴が鳴って、一緒に鈴の放熱索、否、ポニーテールが風に揺れた。
 その時である。
「にゃおん!」
 どこかに隠れていたらしい猫の一匹が、何をチャンスと思ったかは定かではないが、鈴に飛び掛かった。より正確に言うと、鈴のポニーテールに飛び掛かった。つまりチャンスを窺ってたとかではなく、動くものに反応しただけだった。美魚に気を取られていた鈴は、反応が遅れる。
 ずるっ。
 その猫はちっこかったので、体重はたいしたことはない。でも、髪の一房で支えるには重すぎた。すなわち、ずるっ、とは鈴のかつらがズレた音であった。そして落ちた。
「いやいやいや」
「うにゃー!? なんてことしてくれてんじゃー、ボケー!」
 怒りまくっているが猫相手では手も足も出ない鈴。にっくき猫畜生は、“堕ちた鈴のポニーテール付きかつら”(ルビは“エンゼルフォール”でよろしく)でうにゃうにゃと遊んでいた。
 現れたのは花の女子高生生活をドブに捨てているようなつるっぱげガールでなく、普通のショートヘア娘である。それはそれで似合っている、というか直枝さんの制服着せたらサイズ的にダボダボで、だがそれがいい、つまりかなり美味しそうな男の娘(こ)になるんじゃないか、恭介×鈴・禁断の兄弟愛編……これはイケます、と美魚は思った。
「というか、ヅラだったんですか」
「ヅラゆーな」
「かつらだったんですか」
「まあな」
 なぜか偉そうな鈴である。
 美魚は屈んで、うにゃうにゃごろごろとしている猫の横から、かつらの髪を何本か掬い上げる。鈴の頭にぶら下がっていた間は艶やかに見えたそれが、今は輝きを失っているように見えて、どういう仕組みなのだろう、と割と真面目に考えてしまった。
「最近? それとも、昔から?」
「高校上がった頃だから、最近か」
 鈴によれば、恭介は長い髪の子が好きらしく、趣味の押し付けがいよいよウザくなってきた頃から使い始めたという。実に恭介らしいキモさで、美魚はその話をすんなりと信じた。
「まあ、髪長いのは見てる分にはいいんだけどな。くるがやはきれーだし、クドはかわいいし。はるかはどーでもいいが」
 美魚は、親指をグッと立てた。鈴も応える。奇妙な、それでいて必然の連帯感。哀れなのは葉留佳だけだった。つまりいつも通り。これが彼女向けの親愛表現なのだから仕方ない。そんなこんなで棗鈴式髪型論が続く。
「でも、自分でやるのはゴメンだと思う。動くときにうっといし、手入れはめんどいし」
「ですよね、ですよね」
 美魚は嬉しくなった。今朝になってからなんとなく感じていた疎外感が綺麗さっぱり吹き飛ばされていくような、素晴らしい気分だった。
「でもまあ、最近は伸ばしてもいいかなー、なんて思ってる」
 一転ずんどこに落とされ、美魚は逃げ出した。



 こういう時逃げ込むのは屋上だと相場が決まっているが、まあ決まっていなくてもいいが、どちらにせよ残念ながら鍵がかかっていた。どこぞのドジ娘がドライバーを置き忘れていたりするわけでもなく、美魚は埃だらけの踊り場に腰を下ろした。
「わかっているんです」
 天井を見上げる。その向こうには、青い空が広がっているはずだ。いとしいあの子が溶けた、青い空。曇りでも雨でもない晴天。
「本当は、わかっているんです。でも」
 チャイムが鳴った。教室に戻る気は起きない。何か本を持ってくればよかった、と美魚はそれだけを後悔する。
 そういえばあの頃は髪を伸ばしていたなぁ、と天井を眺めながら回想する。いつ、どうして切ってしまったのだろう。今となっては思い出せない。それとも、覚えているほどでもないつまらない理由だったのか。後者のような気がした。むしろそれで間違いないような気がした。なら、
「……髪、伸ばしてみましょうか」
 つまらない理由でそうしたって、いいじゃないか。むしろそうするべきだ、と美魚はなぜか義務感にすら駆られていた。



 丸一日授業をサボって、放課後。
 ずっと姿を見せなかったせいでみんな心配しているらしく、メールやら電話やらが来まくったのだが、未だケータイを使いこなせない美魚は、結果的に全て無視した。今時ジジババでもケータイ程度扱えるというのに、ひどい体たらくであった。
 しかし、今の美魚は希望に満ち満ちている。
 髪が伸びたら、どうしてみよう。やっぱりまずはポニーテールだろうか。ちょっと媚びた感じがするが、ツインテールなんてものが現実に通用するのか試してみるのも一興だ。三つ編みにしてメガネかけて、図書委員を装ってみるのも楽しそう。
 気分はウキウキ、下手クソなスキップでグラウンドへ。悪戦苦闘の末、理樹に生存報告のメールを送っておいたから、みんなはいつも通り野球の練習に勤しんでいるはずだ。
 カキーン、と気持ちのいい音が空を突き抜けるように。しかし打球はグラウンドを転がっていた。理樹が打ったその球を、恭介が拾い、返す。こんなセリフ付きで。
「理樹は本当にショートヘアが好きだなぁ。球筋に出てるぜ」
 直後、来々谷を筆頭とする女性陣とノリで参加した真人と謙吾、ドルジによる粛清の嵐が吹き荒れ、マウンドの鈴は“エンゼルフォール”を装着した。もう堕ちてないのでただの“エンゼル”だった。意味がわからないが、ポニーテールは至高なので“エンゼル”でいいのだ。
「……べ、別にそれがどうしたっていうんですか」
 美魚は苦し紛れに空を見上げた。何か大笑いされている気がするが、美魚はこれでけっこう頑固なので、今さら後には退けないのである。
 なんとなく視線を大地へと戻すと、小毬がにょわにょわと伸ばしたリボンで恭介にトドメを刺していた。再び空を見上げた。
「ポニーテールは素晴らしいです。ショートのうなじの色っぽさ、ロングのしっとりした女性らしさ、一見矛盾する二つの要素が見事に融合した、まさにリリンが生み出した文化の極みなのです。きっとそうに違いありません。違いありませんとも」
 言い聞かせる。
 なんか真面目に、髪伸ばしてみようか、と思えてきた。



 さすがに髪をバッサリやるような子は出なかったので、「なんという直枝無双……死ねよあの野郎」だとか「やっぱり恭介先輩が本命なのよ、きゃっ!」などという噂が立つことはなかった。ポニーテールも消えた。美魚は、まだ髪を伸ばす気でいる。いつまで続くかはわからない。
 今日も、つい体調を心配してしまいそうなほど青い空が広がっている。


[No.914] 2009/02/06(Fri) 18:04:37

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