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No.916へ返信

all 第26回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/05(Thu) 21:25:32 [No.908]
死ねない病 - ひみつ@6617 byte まにあったきがする - 2009/02/07(Sat) 21:33:50 [No.925]
しめきりー - 主催 - 2009/02/07(Sat) 00:15:37 [No.923]
持たぬ者 - ひーみーつ@6144Byte - 2009/02/07(Sat) 00:05:34 [No.922]
[削除] - - 2009/02/07(Sat) 00:00:46 [No.921]
馬鹿につける薬はない - ひみつ@10133byte - 2009/02/07(Sat) 00:00:25 [No.920]
ガチ魔法少女 マジカル☆みおちん - ひみつ@13165Byte・作者は病気 - 2009/02/06(Fri) 23:58:32 [No.919]
桃缶はっぴぃ - ひみつ@9202 byte - 2009/02/06(Fri) 22:57:21 [No.918]
風邪をひいた日に - 秘密 @4507Byte - 2009/02/06(Fri) 22:47:32 [No.917]
手樫病 - ひみつ@9345 byte - 2009/02/06(Fri) 22:43:28 [No.916]
世界の卵 - ひみつ@19577byte - 2009/02/06(Fri) 19:16:02 [No.915]
pony症候群 - ひみつ@12934 byte - 2009/02/06(Fri) 18:04:37 [No.914]
一滴の涙 - ひみつ@14144 byte - 2009/02/06(Fri) 07:36:37 [No.913]
裏庭での一時 - ひみつ@17018byte(冒頭、若干修正) - 2009/02/06(Fri) 05:09:24 [No.912]
わらしべクドリャフカ - ひみつ@20356 byte - 2009/02/06(Fri) 00:01:36 [No.911]
父娘の平日〜看病編〜 - ひみつあーんど初 5810byte - 2009/02/05(Thu) 21:46:40 [No.910]


手樫病 (No.908 への返信) - ひみつ@9345 byte

「ふうっ……」
 陶然としたように美魚がため息をつく。部屋を掃除しているうちに奥深くのところに眠っていた最初に買った同人誌を発見した。当時はまだ恥ずかしさがだいぶあったため、今美魚が買っているような同人誌やBL小説と比べると性的な描写が薄い作品だが、その分こまかいしぐさなどでの繊細な描写はふんだんに含まれていた。世間的には眉をしかめられるようなものだがそれを愛おしく抱きしめながら思う。
「(優しい作品です。次の作品はこのようなものもよいかもしれません。次の作品……次の)」
 そして美魚は現実に立ち返る。
「あああああっ!?」
 ここへきて掃除をし存在を忘れかけていた本を読んでいるうちに三時間も時間をロスしていたことに気づいた。締め切りが近付いたというように一向にネタが出ず、部屋を模様替えしたら気分が変わってネタが出るかもしれないと思って掃除をしていたが、当然そんなことをしてもネタは出てこずただ無情に時間が過ぎただけであった。
「はあ、気分転換するつもりでそのままずるずると行ってしまうなんて馬鹿です。滑稽です……自虐ネタなんてそこまで需要のないネタをするキャラは、リトルバスターズみたいな少数グループに二人も要りませんね」
 自虐的な発言をするがそれすらも二番煎じということに気付き、さらに美魚の気分は深く沈んでいった。そしてしばらく生気のない瞳でブツブツとつぶやいていたが、やがてその瞳に暗い光が宿る。そしてその間にさらに10分ほど締め切りまで近付いたことには少しも気づかない。
「なんでしょう。急に朱鷺戸さんのような買う専門のオタクが憎くなってきました。今も彼女は締め切りとか考えずに楽しく過ごしているんでしょうね……ふふ……ふふ」
 コンコン、ガチャ
「西園さん。また何か漫画貸し、ニュギャフッ!?」
 そんな風に美魚が暗い考えを巡らせている最中、恐ろしいまでの空気の読めなさであやが扉を開けて顔をのぞかせた。瞬間美魚が普段からは想像できないほどの機敏な動きで近くにあった一冊の本をあやに投げつけた。別にそれはただすぐ近くにあった本ではない。一瞬であったにもかかわらず美魚はその本を選んでいた。あやに著しいダメージをもたらした本、それはしばし攻撃力というおよそ本に必要ない要素で語られることがある本。コミケカタログと並び称される二大兵器、すなわちガンガンであった。ちなみに美魚はアル×エドというリバ派である。



「一体何なのよ、さっきのあれは!?」
「すみません、たまたまあなたに殺意がわいた時に来られたからつい」
「たまたまで人殺したくなるの!?」
「ですが殺したくなるほど愛していると言われれば納得できませんか」
「えっ! 西園さん、あなたあたしのことそんなに好きなわけ」
「いえ、嫌ってはいませんけどそこまで好きというわけでは」
「あたしはあんたのこと大嫌いだ!」
 気を失って部屋に引きずり込まれたあやが目を覚まし突然起きたことについて詰問する。その受け答えに思わず切れてしまったが、さすがに自らの態度を反省した美魚が深く頭を下げたことでようやく落ち着きを取り戻す。
「で結局なんであたしはいきなり攻撃されたの。あたし何か西園さんに悪いことした?」
「すみません、今わたしは病気にかかっていて」
「病気? どこも悪そうに見えないけれど」
「精神の疾患でしょうか。いわゆる手樫病にかかってしまったのです」
「はあ? ごめんもう一度言って。手樫病って言ったように聞こえたのだけど」
「はい、その通りです。手樫先生のように全然ネタが出てこないで作品が全然進まなくなる病気。これを俗に手樫病といいます」
「病気ってただのさぼりじゃない」
「全然違います。これはまぎれもない病気です。中核症状の作品が進まないことのほかに、先ほどのようにやたらと攻撃的になる、反対にうつ状態になる、暴飲暴食をする、過眠や不眠になる、逃避行の旅に出る、模様替えをしたくなる、ゲームや漫画などに集中するなど様々な周辺症状があらわれる大変な病気なのです!」
「たしかにいろんな意味で今の西園さん病気っぽいね」
 血走った眼で自分に詰め寄る美魚の姿を見てあやはそう感想を述べる。時々変なことをするけれど基本的にはしっかりした人間というのがあやの美魚に対する印象だったが、今の美魚の姿はその印象をがらりと変えてしまうぐらい異常であった。あやは本来の目的であった漫画を借りるというのはとても無理だとはわかったが、それでも今の美魚はとってもほっておけないと思い、美魚の落ち着きを取り戻すために家主に代わって二人分のコーヒーを用意した。



 疲れている時には糖分がよいと思い砂糖たっぷりのコーヒーを出したあやがあらためて美魚の話を考えてみる。かつてあやがいた国々とは違う日本の平和の象徴が漫画やアニメである。恭介や美魚はもちろんリトルバスターズ以外でも漫画などをきっかけに友達になった人もいる。あやは確実にオタク化が進行しているが、そんな彼女であっても今の美魚の状態はとても理解できなかった。
「ねえ、西園さん。そんなつらいのだったらやめたら」
「なんてことを言うのですか。やめていいわけがありません」
「いや、だってそういうの書くのただの趣味でしょ。なんでそんな必死になってるの」
「それは……」
 何かを言おうと思いはしたが言葉が途切れた。実際美魚自身も時々疑問に感じることがある。好きなことをやっているはずなのになぜこんなに苦しんでいるのか。好きなことをしているのであればもっと楽しんでいるはずではと考えることがある。普段であればたとえそういう考えがわき起こったとしても、すぐにネタが出ないから苛立ってるだけだと意識から外すが、こうして他人から言われることでその問題を直視せざるを得なくなってしまった。
「う、産みの苦しみです。途中で苦しんでも完成した時には何物にも代えがたい喜びがあるからです」
「だったら締め切りとか気にしないでゆっくりと完成させればいいんじゃないの」
「そんな当たり前のように締め切りを破るなんて手樫病の末期症状ではないですか。あなたもなかなか連載されないことを文句を言っているではないですか」
「それはそうだけど西園さんのは仕事じゃなく趣味でしょ。趣味だったらさぼっていいじゃない」
「二次創作はそんなに甘いものではありません。今やかつて同人誌などを書いていた人がプロになる例は決して珍しくありません」
「えっプロ目指しているの」
「あっええと、どうでしょう」
 言われて美魚はふと考える。あやが言ったようにプロを目指しているのであれば苦しい思いをしてまで書くことも理解されやすいと思うが、そこまではっきりとした考えはない。せいぜい好きなことを仕事にできたらいいな程度の気持ちであり、そして彼女は同時にそんな簡単に仕事にできるほど甘くはないと考えている。現状では間違いなくちょっと変わった趣味でしかない。創作という中毒性の強いものに侵された人間の気持ちは、興味がない人からすればとても理解できないだろうことはわかってはいるが、それでも美魚には何か譲れないものがあった。そこでアプローチを変えて攻めてみることにした。ちなみに今この瞬間締め切りが近いのにネタが出ないことは完全に美魚の頭の中から抜けていた。
「今から質問をいくつかしていきますがそれに答えていってくれますか」
「ええっうーん、まあいいけど」
「原作とアニメで違う展開をどう思いますか」
「いいんじゃないの。そっちの方が面白いのあるし」
「ファンがもしこうだったらいいなとか考える。あっこれはわざわざ聞くまでもありませんね」
「うん、結局秘宝何なんだろう。それ分かるまであたし絶対死ねないから」
「手樫が秘宝を明かしたら本気を出すというやつですか。じゃあ考えるだけでなく文章などにして形にする」
「えっ何かすごいって」
「ではその文章などを本にしてお金を取る」
「同人誌ってこと。西園さんには悪いけどちょっとそれおかしいんじゃないかなって思う。そんなんでお金取ったりしたらダメだと思う」
「ですが原作と違う展開のアニメのDVD買っていますよね」
「あれ?」
「では作者自ら同人誌を出して原作とは違う展開を書くのはどう思いますか」
「そんなのいるの?」
「さすがに数は少ないですけれどたしかに存在しています」
「えーと、うん、うーん」
 オタク化が進行しているとはいえ、あやが本格的に漫画などに触れたのはこの学校へ来てからのわずかな期間。長年オタクをしている美魚とでは知識も経験も圧倒的に差がある。美魚の立て続けの質問で知らなかったようなことにもふれ、あやは混乱してしまった。
「すみません。少し意固地になってしまいました。二次創作をどう思うかは意見の違いの問題であって、意見の優劣ではありません。漫画の読者数全体などからすれば、朱鷺戸さんのように二次創作に興味がない人の方がはるかに多いでしょう。興味がない方が普通といえます。それでも創作するからには少しでもいいものを作りたいと思ってしまうのです」
「まあ、他にも何人かやってる人知ってるけど、何かみんないろいろ頑張ってるなとは思ってるけど」
「ありがとうございます。手樫先生はつつましく生きればもう一生暮らすだけのお金を稼いでいます。それでも手樫病と揶揄されながらも書き続けているのは、苦しんでもいいと思うほど創作の楽しさを知っているからでしょう……どちらかというと病気より麻薬ですか。その後の禁断症状が苦しくても一瞬の喜びがやめられない」
「なんか怖いね」
「ちなみに手樫病の症状の一つとして、今のように創作そのものよりも創作論をしたくなるというのもあります」
「ほんと迷惑な病気ね!」
 そうあきれたように言ったもののあやは少しうらやましくも感じていた。日本での暮らしに最初はとまどいそれらになれることに必死の日を送ってきた。ようやく生活に困ることはなくなったがそうなることで少し身気力感を感じていた。リトルバスターズのメンバーと過ごすのは楽しいし、戦場では考えられない大量の漫画なども楽しいものの、何か新しい目標はないかと最近考えることが多くなっていた。そして少し考えあやは口を開いた。
「あたしも一度やってみようかな」
「じゃあ……」
「ああ、西園さんがやっているのはダメ。あたしは熱い展開がいいの」
「あれはあれで熱い展開ですが。今年は戦国物がブームになるでしょうが、舞台が戦国だけに熱い展開にもっていきやすいですし。石田三成×直江兼続のカップリングは……」
「だからそっちは興味ないって」
「うっかりすると『え』の字を直枝さんの字と間違いそうになるのが問題ですね」
「だーかーら」
 そしてこの日あやをBL系に興味を持たせるべく、美魚は友情やライバル関係の豊富な漫画などを紹介していった。そんな彼女が締め切りのことを思い出したのは翌日の朝のことであった。





 それから数日後あやはスクレボを題材にしたSSを書いた。初めてのため誤字脱字は多く非常に短くまた展開も拙いもののそれでもあやが二次創作の喜びを知るには十分であった。美魚や恭介に見てもらったときそこには満面の笑みが浮かんでした。しかしこの時あやはまだ知らなかった。美魚があの日語らなかった手樫病の非常に重要な特徴を。二か月がたったある日、
「うんがーっ!? ネタが! ネタが!」
 手樫病は非常に感染力が強い病気であることを。


[No.916] 2009/02/06(Fri) 22:43:28

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