第26回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/05(Thu) 21:25:32 [No.908] |
└ 死ねない病 - ひみつ@6617 byte まにあったきがする - 2009/02/07(Sat) 21:33:50 [No.925] |
└ しめきりー - 主催 - 2009/02/07(Sat) 00:15:37 [No.923] |
└ 持たぬ者 - ひーみーつ@6144Byte - 2009/02/07(Sat) 00:05:34 [No.922] |
└ [削除] - - 2009/02/07(Sat) 00:00:46 [No.921] |
└ 馬鹿につける薬はない - ひみつ@10133byte - 2009/02/07(Sat) 00:00:25 [No.920] |
└ ガチ魔法少女 マジカル☆みおちん - ひみつ@13165Byte・作者は病気 - 2009/02/06(Fri) 23:58:32 [No.919] |
└ 桃缶はっぴぃ - ひみつ@9202 byte - 2009/02/06(Fri) 22:57:21 [No.918] |
└ 風邪をひいた日に - 秘密 @4507Byte - 2009/02/06(Fri) 22:47:32 [No.917] |
└ 手樫病 - ひみつ@9345 byte - 2009/02/06(Fri) 22:43:28 [No.916] |
└ 世界の卵 - ひみつ@19577byte - 2009/02/06(Fri) 19:16:02 [No.915] |
└ pony症候群 - ひみつ@12934 byte - 2009/02/06(Fri) 18:04:37 [No.914] |
└ 一滴の涙 - ひみつ@14144 byte - 2009/02/06(Fri) 07:36:37 [No.913] |
└ 裏庭での一時 - ひみつ@17018byte(冒頭、若干修正) - 2009/02/06(Fri) 05:09:24 [No.912] |
└ わらしべクドリャフカ - ひみつ@20356 byte - 2009/02/06(Fri) 00:01:36 [No.911] |
└ 父娘の平日〜看病編〜 - ひみつあーんど初 5810byte - 2009/02/05(Thu) 21:46:40 [No.910] |
「ついでに何か買ってくるよ。何がいい?」 「え、何でもいーい?」 「…500円以内で」 「えーっ、けちんぼー!」 「勘弁してよ…」 「じゃあ、じゃあねぇ…桃缶!」 「桃缶?桃じゃなくて」 「そう、桃缶たべたい!」 『桃缶はっぴぃ』 「うん。結構あるね、熱。今日は中止かな」 布団から身体を起こしている葉留佳に理樹は冷酷な現実を突きつけた。体温計の液晶には微熱以上高熱未満の数字がくっきりと浮かんでいる。 「いやいや大丈夫だってば。ちょーっと熱くてぼーっとするだけ」 「それ十分ダメだから」 「えー」 せっかくのお出かけ、諦めきれずに悪あがきをする葉留佳をすげなくあしらいながら、理樹は体温計をケースにしまう。念のため、葉留佳のおでこと首筋にも触れてみる。 理樹の手のひらは冷たいというほどではなかったけれど、くすぐったさに近い不意の感触に思わず声が出る。 「うひゃ」 「と、ごめん」 「手つきエローい。抵抗できない病人にナニをするつもりなのかなー?」 「違うから。しないから」 「えー」 「いやいやいや」 慌てて手を引っ込める理樹に、にぃっと唇の端を吊り上げてからかってみても、うろたえもしない。 膨れる葉留佳を改めて布団に寝かせ、顔にかかる髪を横に流す。いつもの髪留めは鏡台の上。赤みがかった髪はばらばらに広がっている。 「今日と明日、ゆっくり休んで治そうか。月曜には治るといいけど…」 「それじゃつまんなーい。お休みなのにぃ」 しかも久しぶりの土日休み。なかなか休日が合わない二人にとっては貴重な時間なのに。 「しょうがないでしょ。長引いちゃったらお店の人にも迷惑かかるんだし」 「やははー、人気者の辛いトコロですな」 「はいはい、だから大人しく寝なさい」 「スルーされたっ!?」 葉留佳の嘆きもスルーしながら、理樹は小さな冷蔵庫を空けて中を漁る。 「食欲は?」 「あんまりないかなぁ」 「卵と…うわ、なんか緑色の物体が」 「やん、見ないでぇえっちー♪」 「これも賞味期限切れてるし…」 一人暮らしのお約束を具現化したような冷蔵庫相手に苦戦する理樹は、食材としての使命を全うできなくなったそれらを葉留佳のボケごとゴミ袋に詰め込んでいく。 しかも軽く片付け終えた理樹は、冷たい水で汚れた手を洗ってすがすがしい顔までしている。 「…理樹くんがかまってくれないー。さみしーいー」 「帰っていいかな?」 「ひゃーごめんなさい許してあいらびゅー」 「誠意が感じられないし最後関係ないけど」 しょんぼりとうなだれる葉留佳を見て、しょうがないなぁ、と呟くと布団の横に腰を下ろし、あやすようにその頭を撫でた。 葉留佳は、かいぐりかいぐりと撫でられて目を細めながら、微妙に頬を膨らませる。 「ん〜っ、もしかしてコドモあつかいされてますかネ?」 「まあ、今の葉留佳さんは手のかかる子供だからね」 「なんか納得いかなーい。もっとあだるてぃなスキンシップを要求するー」 かもーん、とばかりに葉留佳が広げた両手は、すぐに理樹の手で布団の中に戻された。 「はいはい、後でね。とりあえず薬買ってくるから」 「いいよ薬なんか飲まなくてもー。お話してー。添い寝してただれた生活しようよー」 「すごい勢いで堕落したね」 「やはは」 結局、身支度を整え、ついでに何か買ってくるという理樹に桃缶を注文し、笑顔で手を振って理樹を送り出した。 すぐ戻るから、と約束して理樹は出かけていった。それから約3分。 「飽きたっ」 布団から手足を放り出し、ばたばたと暴れる。けれどなけなしの体力はすぐに尽き、ぐったりとして他の獲物を探す。 寝返りをうってすぐに目に入ったのは枕元の携帯電話。葉留佳の目がきらりと光る。 「お電話でんわー♪」 鼻歌交じりに履歴の2番めを選択。4回目のコールで相手が出た。 「あ、もしもしお姉ちゃん?」 『あら。今日はどうしたの?』 「何にもー。ヒマだったから」 ごろーりとうつ伏せになって枕を抱え込む。髪の毛が巻きついてくるのを首を振って振り払った。 『仕事は?』 「今週は久しぶりに土日休みなのですヨ」 電話越しにため息が聞こえる。 『あなたねぇ。それなら直枝に構ってもらえばいいじゃない。私に電話なんかしてないでデートでもなんでも行けばいいわ』 「いやー、私もそのつもりだったんですがネ。理樹くんに逃げられちゃいまして」 やはは、と笑いながら頭を掻いた。 『何、また喧嘩でもしたの?』 「またとはなんですか、私と理樹くんはケンカなんてしませんヨ?なんたってらぶらぶなんですから」 『あーはいはいご馳走さま。なに、のろけ?切るわよ』 「あー待ってまって待ってくださいお姉さま佳奈多さまーっ!」 切る、と言っておきながらいつも佳奈多は葉留佳が話すうちは自分から切らない。葉留佳も口調は慌てているものの顔に緊張感はない。 そして先より長いため息が聞こえてくる。 『それで?』 「へ?」 『だから、何で直枝に逃げられたかよ』 「そういえば私もそのうち直枝になるんですけど?」 『別にいいじゃない。葉留佳は葉留佳のまんまで』 「つまんないですネ。理樹、とか理樹さん、とか弟くんとかリッキーとかりっきゅん☆とか変えればいいのに」 『変えないわよ。いいから早く説明しなさい。あと3秒以内に。いち、に、さ』 ぴっ。 終了ボタンを押した葉留佳は、只今の通話時間が表示された画面をじっと見つめて待った。たぶんきっちり3.00秒。低音から始まる着信音が鳴り響く。 自作のその曲は、もちろん優しい姉をイメージして作ったもので、たっぷりその曲を堪能してから通話ボタンを押した。 「は――」 『切ったわね』 「やはは、なんとなくここは切るところかなって」 『もういいわ。どうせくだらない事なんでしょうから』 「何が?」 一瞬の沈黙。微かに聞こえる深呼吸。 『…だから、直枝が、逃げた、理由』 「やー、なんかお姉サマすっごい怖い顔してる気がしますヨ」 『…で?』 「あー…えっと、まあ私がカゼを引いちゃったもんで、薬を――」 『大人しく寝てなさい!』 それから理樹が戻ってくるまでの間、葉留佳は終始ニコニコと、悲鳴や呻き声を交えながら姉の説教を聞いていた。 「ただいま」 「やー、ごくろーごくろー♪」 理樹が小さなエコバッグを手に提げて戻ってきたのは、佳奈多と話し終えてすぐだった。葉留佳は身体を起こして鷹揚に出迎える。 「ねーねー、桃缶はー?」 「ちゃんと買ってきたよ。これでいい?」 「そうそう、その白いやつー。ね、ね、早く食べよ?」 「だめだめ、ちゃんとご飯食べてからね。待ってて、すぐおかゆ作るから。レトルトだけどね」 「はーい。あ、そだ。理樹くん理樹くん」 エコバッグからおかゆのレトルトパックを取り出した理樹を葉留佳は手招きする。 「なに?」 「んっ」 「?」 「んーっ♪」 目を閉じて、軽く上向けた顔をちょんと突き出してくる。何を待っているのかは明らかだけど、理樹はそれをあえて聞いてみる。 「何をしろと」 「ただいまのちゅー。ちゅーしろーっ!」 「ダメです」 「えー、けちー。いいじゃーん」 不満たらたらで今にも襲ってきそうな葉留佳に、理樹は仕方なく説得を始める。 「僕にうつして葉留佳さんが治るなら構わないんだけどさ、この前二人ともダウンしちゃって大変だったでしょ?」 「そんなの忘れましたー」 「懲りないなあ」 「私は過去にこだわらない女なのですヨ」 「ものは言いようだねぇ」 「だからしてして♪」 「元気になったらね」 「ちぇー」 まだ諦めきれない葉留佳の頬をなだめるように撫でて、理樹は笑った。 小鍋におかゆをあけて温める理樹の背中を、葉留佳は大人しく見ていた。換気扇のまわる音、理樹がねぎを切る音。布団がすれる音。時間がゆっくりと落ち着いていく。 「たまご入れるね」 「あ、2つ入れて、ふたつー」 はいはい、と請われるままに卵を2つ溶いて流し入れていく。ふたをして卵に火を通す。次にふたを取ったとき、鍋からねぎと生姜の香りが湯気に溶けて立ち上った。 「いいにおいー。ちょっとおなか空いてきたかも」 「おまたせ、できたよ」 茶碗に取り分けたおかゆをお盆に載せて、葉留佳の枕元へと運んでくる。たっぷり溶き入れたたまごは、とろっとした橙色、ふわふわの黄色、ぷりぷりの白がマーブル状に混ざり合って、ねぎの緑がよく映えていた。 「おいしそう!」 「熱いから気をつけてね」 「うん、熱そうだねー」 「そうだね」 にっこりと頷いた葉留佳は、お盆に載ったれんげに手を伸ばそうともしない。代わりに、傍らに座る理樹に熱い視線を送り続ける。 「じー」 「…はいはい」 ふーっ、ふーっ。 「はいあーん」 「あ〜♪」 ぱくり。差し出されたれんげを大口を開けて咥えると、まだ熱いおかゆを口の中で冷ましながら少しずつ咀嚼する。 「はちち…はふ…ぅん、おいひぃ」 「よかった。もう一口いく?」 「うん。あ〜♪」 少しの間、二人は親鳥と雛になった。 「ごちそうさまぁ」 「もういいの?」 「うん、おかゆはもういっぱい。ありがと、理樹くん」 空になった茶碗を下げる背中に、葉留佳は声を掛ける。 「ねーねー理樹くん、桃缶開けて?」 「お腹いっぱいなんじゃないの?」 「それはホラ、桃缶はベツバラってやつですヨ。てゆーか、それが楽しみだったんだから」 「普段は缶詰なんか全然食べないのになぁ」 台所で背を向けたままの理樹の言葉に、葉留佳は一瞬だけ言葉を捜した。 お見舞いの定番だから。むかし、そう聞いたから。 「や、だって桃缶は病気のときに食べるものと法律で決まってますからネ」 「誰が決めたのその法律」 「んー、裁判長?」 「そんな仕事もしてたんだね、知らなかったよ」 理樹は食器を洗いながら、そっけなく言葉を返す。葉留佳の顔は理樹からは見えない。 「まあまあ、細かいことは気にせずに、お願いしますよ旦那ぁ」 「なんで三下口調なのさ。…まあいいや、ちょっと待ってて」 「うん」 缶を開け、中の桃をまな板に載せている理樹に、そっと声をかける。 「…ありがとね」 「何か言った?」 「あ、うん。なるべく大きく切って欲しいなって」 「はいはい」 聞き返して振り返った理樹が見たのは、いつもの葉留佳の笑顔だった。 理樹が桃をガラスの器に盛り付けて戻ると、葉留佳が笑いながら携帯電話をいじっていた。 「はい、お待たせ。メール?」 「うん。あとでお母さんたち来るって。心配性だなぁ」 「いいじゃない、近くなんだし」 「そうなんだけどー」 「あ、でもまずは部屋を片付けないとね」 「あーっ、それは考えないようにしてたのにぃーっ!」 携帯を放り出し、葉留佳は頭を抱える。けれど一人の悲鳴はすぐに二人分の笑い声に変わった。 まだ熱は下がらないけれど。 独りで朽ちていかなくていい。 大好きな人たちがそばにいてくれる。 「はい、あーん」 特価380円の。 「んぅ、おぃし♪」 ――あまずっぱい幸せ。 「そういえばさ」 「んー?」 「黄桃じゃダメなの?あれも美味しいと思うんだけど」 「んー、なぁんか違うのですヨ、うまくは言えないケド」 「何が違うのかな?」 「んー…タマシイ?」 [No.918] 2009/02/06(Fri) 22:57:21 |
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