[ リストに戻る ]
No.922へ返信

all 第26回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/05(Thu) 21:25:32 [No.908]
死ねない病 - ひみつ@6617 byte まにあったきがする - 2009/02/07(Sat) 21:33:50 [No.925]
しめきりー - 主催 - 2009/02/07(Sat) 00:15:37 [No.923]
持たぬ者 - ひーみーつ@6144Byte - 2009/02/07(Sat) 00:05:34 [No.922]
[削除] - - 2009/02/07(Sat) 00:00:46 [No.921]
馬鹿につける薬はない - ひみつ@10133byte - 2009/02/07(Sat) 00:00:25 [No.920]
ガチ魔法少女 マジカル☆みおちん - ひみつ@13165Byte・作者は病気 - 2009/02/06(Fri) 23:58:32 [No.919]
桃缶はっぴぃ - ひみつ@9202 byte - 2009/02/06(Fri) 22:57:21 [No.918]
風邪をひいた日に - 秘密 @4507Byte - 2009/02/06(Fri) 22:47:32 [No.917]
手樫病 - ひみつ@9345 byte - 2009/02/06(Fri) 22:43:28 [No.916]
世界の卵 - ひみつ@19577byte - 2009/02/06(Fri) 19:16:02 [No.915]
pony症候群 - ひみつ@12934 byte - 2009/02/06(Fri) 18:04:37 [No.914]
一滴の涙 - ひみつ@14144 byte - 2009/02/06(Fri) 07:36:37 [No.913]
裏庭での一時 - ひみつ@17018byte(冒頭、若干修正) - 2009/02/06(Fri) 05:09:24 [No.912]
わらしべクドリャフカ - ひみつ@20356 byte - 2009/02/06(Fri) 00:01:36 [No.911]
父娘の平日〜看病編〜 - ひみつあーんど初 5810byte - 2009/02/05(Thu) 21:46:40 [No.910]


持たぬ者 (No.908 への返信) - ひーみーつ@6144Byte

 いつもどおりの変わらない朝。真人と一緒に食堂へ向かい、途中で鈴にも合流し、今日に迫ったキャプテンチームとの試合のことを話しながら、三人で食堂へと歩を進める。
 各々好きなメニューをトレイに乗せて、いつも僕たちが陣取っているテーブルに腰を下ろす。
 テーブルではすでに謙吾と恭介が先に朝食をとっていた。
 いつもどおりの風景。当たり前だけど、僕にとっては何よりの大切な日常。
 おはよう、と二人に声をかけて朝食を食べようとすると、テーブルの下から誰かが僕の足を突っつく。足元を見ると、見慣れた袴から突き出た足が僕の足を突っついている。謙吾の顔に向けると、謙吾は少し青ざめた顔で僕を見ていて、僕と目が合うと目線を恭介のほうへと向ける。つられて僕も恭介を見る。
 恭介は黙々と朝食をとっていた。僕と謙吾が見ているのにも気づかない様子で、黙ってご飯を口に運んでいる。ただ、箸を持った右手には真っ白い包帯が巻かれていた。
「恭介の右手、怪我でもしたの?」なんとなしに訪ねる。
 恭介は箸を止め、僕を見て、こう言った。

「……邪気眼を持たぬ者には、わかるまい」

 再び箸を動かし始める恭介。真人と鈴も、恭介を変な目で見ている。謙吾は僕に視線を戻し、どうなっているんだ、と目で問いかけてきた。そんなこと僕に言われても分からない。
「……ふっ、なかなかの食事だったぜ」
 恭介が朝食を食べ終えた。立ち上がって僕らに言う。
「俺は先に教室へ向かう。…授業が始まる前に二、三匹、片付けておかなければならない連中がひそんでやがるからな。」
 ぽかんとしている僕らを尻目に、恭介はトレイを持って歩いていく。
 その時。恭介がトレイを投げ出し、右手を押さえてうずくまった。食器が散らばり、食堂にいた生徒が恭介のほうを向く。食堂が急に静かになる。茶碗の転がる音が、大きく響き渡る。
「恭介っ!」
 僕は立ち上がり、恭介の下へ駆け寄る。すると、恭介が押し殺すような声で呟いた。

「…くそ!…また暴れだしてきやがった……!」

 そのまま立ち上がり、食堂から出て行く恭介。誰もが怪訝な顔をしながらも、自分たちの食事を再開する。自分たちのテーブルに戻ると、謙吾が言った。
「お前らが来る前に、俺も話しかけたんだがあんな調子だった…。理樹、何か心当たりはないか?」
「……全然分からないよ。鈴や真人は?」
 真人と鈴に視線を向けるけれど、二人とも首を傾げるだけだった。
 その時はまだ、いつもの気まぐれだろうと思っていた。




「中二病、だな」
 来々谷さんは、重々しい口調で、断言した。
「中二病って…。恭介は何かの病気に!?」
 思わず身を乗り出す。お昼休みになるまで、僕たちが耳にした恭介の奇行はとんでもなかった。
 まず、小テスト中に「奴ら、こんなときまで…!」と叫びながら教室を飛び出し、休み時間には何もない空間に気合一閃、掌底を叩き込み、「ふっ、俺の“眼”を欺けると思ったか…!」と叫び、体育での柔道の練習中にも「俺から離れろっ!死にたくなかったら今すぐに離れるんだ!」と暴れだした、というのだ。最初は信じていなかったけれど、そんな噂が次々に耳に入り、実際に確かめに鈴と一緒に恭介のクラスへ行くと、恭介の姿はなく、恭介の机には右腕に巻かれていたはずの包帯だけが残っていた。
 いくら考えても、恭介の奇行に思い当たる節はなく、僕たちでは手に負えないと思い来々谷さんに相談したのだった。
「落ち着け、少年。恭介氏は病気になどかかっていない。ただ…」
「ただ?」
「自分の妄想にとらわれている、とでも言うべきか。中二病というのはもともとはとある芸人が言い始めたのが広まったんだが…。少年、君は中学二年生ごろに、社会や大人のやり方に不満を覚えたり、学校で習っていることがどうしようもなく意味のないことに思わなかったか?」
「え…?」
「それが中二病だ。最近はネットスラングとしてのほうが有名だが、恭介氏が囚われているのも中二病の一種だ。『邪気眼』と言って、例えば自分は選ばれた勇者、もしくは魔王、そうでなかったら大天使の生まれ変わりであり、その“力”が強大であるがために自らの体の一部を封印している、という自分の中での設定を頑なに信じている。そして頭の中の空想と現実をごっちゃにしている。右腕に包帯が巻かれているのも、それが原因だろう。まさか恭介氏に限って…」
 来々谷さんはそのまま考え込んでしまった。礼を言って自分の席に戻り、頭を抱え込む。
「恭介…。なんでこんなことに…」
なにやら考え込んでた鈴が言った。
「理樹」
「どうしたの?」
「結婚してくれ」
「ええっ!?」
「あんなのが兄貴なんてあたしは嫌だ。今から棗鈴から直枝鈴になる。よろしく頼む、理樹。」
「鈴…。たとえ僕と結婚しても、鈴は恭介の妹なんだよ…」
「なにぃ!?」
 どうすればいいんだ、と再び真剣に考え込む鈴をなだめているうちに、お昼休みは過ぎていった。







 最終回、二死二、三塁。一打逆転の大チャンス。
 剣道部の主将が投げる球も、確実に遅くはなってきている。疲労は隠せていない。
 バッターは恭介。その凛々しい眼で相手を睨みつける。たまらず叫ぶ。
「恭介!!」
 恭介は僕のほうを振り返ると、にやりと笑い再びピッチャーと対峙する。カウントはフルカウント。
 ピッチャーが大きく振りかぶる。スクイズなんて男じゃない。僕らのリーダーにできないことなんてないのだから
 投げた。その渾身のストレートは、この試合中一番の豪速球だった。
 一際大きな音がして、バットが投げられる。
 僕と鈴は思わず走り出した。バッターボックスでうずくまる恭介に向かって。
「ぐうっ!また封印がぶほあっ!」
「死ね!この、バカ兄貴―――!!」
 鈴の声がいつまでも夕焼けの空に響き渡っていた。





 傷だらけでグラウンドの整備をする。鈴が俺に命じたからだ。責任を取って今日の片付け全部お前がしろ。散々蹴った後、鈴は俺にそう言い残し、理樹と一緒に寮へと帰っていった。キャプテンたちに帰らせると、他のみんなも呆れ果てた、と言う顔をしてそのまま手伝わずに帰っていった。薄情な奴らめ。
 鈴があそこまで勝ち負けにこだわったのはいいことだ、と自分を納得させ、俺は黙々と後片付けを始めた。
 途中で泥だらけの包帯をほどいてみたが、何が起きるわけもなく、ため息をついて片づけを再開する。
 明日のための準備も終わり、さすがに疲れ果てて部室へ戻る。中には、来々谷が一人で椅子に座っていた。
「二人のためか?」
 やけに真面目な口調だった。
「当たり前だろ。俺がこの世界で起こす何もかもが、あいつらのためさ」
「意味があるとは到底思えんが」
「そんなことはない。仮に、あいつらのどちらかが学校の教師になったとするだろ、そうすれば、今回の俺でそういう奴らとの接し方が分かるわけだ」
「それで二人から嫌われても?」
「そうだ。」
 俺が自信を持って答えると、来々谷はご苦労様、と言って部室から出て行った。
 部室を見回す。あちこちに書かれた落書き。積み重ねられた古いグローブとバット。隅の方に置かれた救急箱。俺は救急箱を手に取ると、その中から包帯を取り出し、右腕に巻きつける。
 どんな小さい可能性もすくい上げる。あいつらが困らないように。
 明日の設定はどうしよう。そう考えると自然に笑みがこぼれてくる。
 俺はもう一度呟く。
「ふっ、どうせ邪気眼を持たぬ者には分かるまい…。」


[No.922] 2009/02/07(Sat) 00:05:34

この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 30 日間のみ可能に設定されています。


- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS