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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 第27回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/19(Thu) 00:32:27 [No.930]
Future_Drug - ひみつ@4940バイト 1秒遅刻するのも1日遅刻するのも同じ。 - 2009/02/21(Sat) 03:04:05 [No.941]
しめきるー - 主催 - 2009/02/21(Sat) 00:18:56 [No.940]
[削除] - - 2009/02/21(Sat) 00:00:59 [No.939]
みんないっしょに - ひみつ@14804byte - 2009/02/20(Fri) 23:57:41 [No.938]
透明な涙 - ひみつ 20464byte - 2009/02/20(Fri) 23:51:44 [No.937]
彼女と赤橙の空 - ひみつ@20428 byte - 2009/02/20(Fri) 23:49:52 [No.936]
リトル・ホリデイ - ひみつ@17364byte - 2009/02/20(Fri) 23:48:02 [No.935]
ダブルサプライズ - ひみつぅ@1851 byte - 2009/02/20(Fri) 22:47:06 [No.934]
ある晴れた日のカクテル光線 - ひみーつ@10741byte - 2009/02/20(Fri) 10:12:23 [No.933]
愛のおはなし。 - ひみつ@11951byte - 2009/02/19(Thu) 08:47:35 [No.932]


愛のおはなし。 (No.930 への返信) - ひみつ@11951byte

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 消去法なんて無意味だと聞いたことがある。例えばそこで殺人事件。容疑者は六人。とか決めた時点で既に消去法を使ってしまっているからだ。容疑者は人類全員だ。消去法はそこから始まる。犯人は超能力者でサンディエゴから念力で日本にいる男性をひねり殺したのかもしれない。犯人はブードゥー教の敬虔な信者で数千km離れた地にいる女性を自宅にいながら呪殺したのかもしれない。馬鹿言うなって?僕もそう思う。例えば最後の一頁に初めて出てきた男が犯人だったり本文に一行も記述されない女が犯人だったりなんてのはちゃぶ台返しもいいとこだ。とはいえ実際問題そんなもんじゃないか?人は「愛してる」なんて臭い台詞を何遍だって吐くことを許されているし許されていなきゃ困るだろう?誰かと交際を始めたらエンドロールが流れ始めてそのまま人生に幕が引かれる?なんだなんだその茶番!人は一度好きになった相手を嫌いになることがあるんだ。そしてまた別の誰かを好きになることもあるんだ。当たり前だろう?とかぐだぐだ考えていても何も変わらないので僕はこの状況を適度に肯定。適度に拒否!大切なのはバランスだ。消去法=無意味説は正しいと今でも思うが、僕はどうやら両手で数えられるぐらいの数の女の子しか恋愛対象として許されていないし未来で誰かと恋愛することもないようだ。そんなわけで僕はここで誰かと恋愛した方がいいし誰とも恋愛しないというのはおかしいわけだ。ロリとか巨乳とか活発系とか大人しめ系とかほんわか系とか色々揃っているので誰か一人ぐらい好みな子がいるはずでいないのはおかしいことなのだ。はいはいそうですよどうせ僕はおかしいんだ!と開き直ってぶん投げたら世界は暗転。バッドエンド!ィィハハハ!誰か僕を助けてほしい。

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 周りにいる女の子たちがあんまりにも好き好きスキスキ言ってくるもんだから、僕はかつて流行ったファービーのことを思い出していた。ファービーとは映画版グレムリンのギズモのような顔と形をした玩具のペットのことだ(間違っても水をかけてはいけない。壊れて声がイカレるだけだ。「ヴァー・ブルヴルヴゥー!」)。こいつは舌のボタンを押したり目隠ししたり背中を撫でたりすればセンサーが作動してリアクションを取ってくれる。その中に特定の順番でセンサーを作動させると愛の言葉を口にしてくれるというものがあった。隠しコマンド。イッツシークレット。こうだ。「クックドゥドゥドゥー!クックドゥドゥドゥー!ボク・キミノコト・ダイスキ!」。最高だろう?殴っても踏みつけても火に投げ込んでもこいつはいつでも愚直に僕のことを愛してくれる。僕がこいつのことを愛していなくとも。こいつが僕のことを愛していなくとも。「ボク・キミノコト・ダイスキキキィィ!キミノコト・ダイスキィィィハハハハハハ!」
 ジュースの自販機にお金を入れてボタンを押せばジュースが出てくる。間違っても野菜や電化製品や愛の言葉が吐き出されることはない。そういう風に出来ているのだから当然だ。普通は誰も自販機からジュース以外のものが出てこないことを疑問に思わない。自分に目があること鼻があること口があることを不思議に思わない。どうやら普通でないらしい僕は、僕がここにいる意味や僕が本当に本当に僕であるかどうかということを最近よく考える。残念ながら自分探しの旅を始めることはない。僕の断片が日本全国世界各国に散らばって落ちているわけないだろう?馬鹿げてる。足りない頭をひねって考えてみるに、珍妙な疑問を抱く原因は僕の周りにいるメタ化された女の子たちにあるようだ。責任を他人に押しつけるのは嫌だが事実なんだから仕方ない。彼女たちは軒並み僕に惚れていて隙あらば好感度を上げようとしてくる。まぁ気分は悪くない。なんたって水準を遥かに超える美少女たちを選び放題!抱き放題!とか思っていたのだけれどあんまりスキスキスキスキ言われるもんだから複雑だ。これじゃどっちが攻略してるんだか分かったもんじゃない。実のところハンバーグ好き好きビーフシチュー好き好きドーナツ好き好き言ってるのと理樹くん好き好き言ってるのは彼女たちの中で等価なんじゃないか?ピラニアの群れに投げ込まれた餌(不本意ながら僕のことだ)が誰に食べられたいかうだうだ考えてるようなもんじゃないのか?悶々とした気分のままで僕は寮の部屋に戻って眠る。

 □■□

 妙な胸騒ぎを覚えて目を開ける。「やっほー理樹くん」。目を閉じた。「そうよそうよ。理樹くんがうっかり忘れ物をして夜の校舎に一人現れてくれないから寂しくなって会いに来たのよ。滑稽でしょ、笑いなさ」。うるさい。唾を飛ばしながら喚き立てる沙耶の唇を奪ってやる。唇を離すと静かになっていた。ん?沙耶?待て待て。沙耶がいる?素朴な疑問。そして氷解。どうやら僕は沙耶を愛することになったらしい。冗談だろう?と言いたいがマジもマジも大マジだ。ここで問題が浮上する。これから沙耶を好きになったとしてその好きって感情は本物なのか?本物だとしてカレー好き好きケーキ好き好きと同じ意味の好きじゃないって証明できるのか?人はその時々で巨乳が好きだったり貧乳が好きだったり熟女が好きだったりロリが好きだったりツンデレが好きだったりヤンデレが好きだったり素直クールが好きだったりするようなことはない。そりゃ確かに人の嗜好は変わるけれど短時間で極端にコロコロコロコロ変わることはない。普通はそうだ。それなのに僕はどれだけ分裂すれば気が済むんだ?僕は気がつかないうちに自身の断片を色々な場所に撒き散らしてきたのか?
 状況整理。自販機でボタンを押せばジュースが落ちてくることと、沙耶がここに現れたこととはイコールだ。需要→供給の流れ。ジュースが飲みたいと思うように沙耶を求める誰かがいたということだ。要請に応じて僕は沙耶を愛し沙耶は僕を愛する。この時点で鈴と小毬さんとクドと西園さんと葉留佳さんと来ヶ谷さんと二木さんと笹瀬川さんとのフラグは消滅!ボキボキボキ!僕は一途に沙耶と愛を育む。めでたしめでたし。なわけがない!だろう?自販機のボタンを押せばボク・キミノコト・ダイスキ!という言葉が吐き出され、隠しコマンドを入力すればボク・キミノコト・ダイキライ!と返ってくるようなデタラメがあってどうして悪い?需要は常に供給されないし供給してやるつもりもない。押しつけの愛をはいそうですかと納得?そりゃ無理だ。拒否拒否拒否!
 沙耶が僕を見下ろしている。「眠いから帰って」とストレートに僕は言ってみる。「折角来たんだし話でも。ね?」。甘えた声が僕の頭をガンガン揺らす。ガンガンガン!「実は一ヶ月ぐらいお風呂入ってないんだ」。沙耶の表情が固まる。「歯は三ヶ月ぐらい磨いてないんだ」。沙耶が自らの唇を押さえる。火が点いたみたいに泣き出した沙耶が「うわーん!」と叫びながら走り去っていく。ファーストキスだったんだろうか?僕は安心して目を閉じた。
 
 □■□

「やっほー理樹くん」
 月曜日。早朝。驚いた。意味不明なことに沙耶がまた僕の部屋に来た。十年に一度の熟睡旋風が寮に吹き荒れて寮内の誰もが熟睡している最中のことだ。同室の真人は昨夜から寝ずのトレーニングに出かけている。もうたくさんだ。もうこりごりだ。早く帰ってくれと心の中で懇願するが口には出さない。どうしてだろう?なけなしの良心が疼くのか?そんなものがまだ僕の中に残っていた事実に思わず笑う。不覚にも笑ってしまった。「やっぱり起きてるじゃん!グッモーニン理樹くん」。まずい。「僕は恭介の愛を受け止められない……」と寝言を言ってやった。沙耶が一メートルぐらい後退して心の距離がさらに十メートルぐらい離れたのを知る。「うわーん」。沙耶が泣きながらどたどたと部屋を出て行く。妙な誤解を与えた気がするがまぁ結果オーライだと思うことにする。沙耶はもう二度と僕の部屋に来ないだろう。なけなしの良心がズキズキズキ!知ったこっちゃない。目を閉じた。

 □■□

 火曜日。早朝。「やっほー理樹くん」。なんてことだ。沙耶は僕が思った以上にしたたかな手合いであるらしい。しかし山奥で熊に出会えば死んだふりをするし寮で沙耶に出会えば狸寝入りをするのだ。誰だってそうするし僕だってそうする。「起きてくんないとキスしてやるー」とか言い出し始めた。シット!形勢は不利であるようだ。「昨日の餃子パーティ楽しかったなぁ」と寝言をつぶやく。にんにく臭に恐れをなした沙耶が「く、口じゃなくて頬っぺただもん」と自らを奮い立たせている。思い切り伸びをしてやる。ホォウァァァァッッ!口をホの字にして吠える。ガーリィック!「わーん!」。沙耶が泣いて逃走する。これで心は折れただろう。また良心がズキる。これは一体なんなんだ?目を閉じた。

 □■□

 水曜日。早朝。「やっほー理樹くん」。さすがに認めなくてはならないだろう。沙耶はマジだ。既に三日連続で熟睡旋風が吹き真人は不屈の闘志でトレーニングに励んでいる。真人は大丈夫なのか?世界の法則と真人の筋肉はどっちが強いんだ?僕は目を開け起き上がる。待ってましたとばかりに沙耶が「おっはよー!」と言う。「起こしに来てあげたの。萌えた?」心臓がバクバクバク!本当に馬鹿げたことに僕は萌えていた。どうして僕は萌えているんだ?どう考えたっておかしいだろう?「あたしは理樹くんのために朝ごはんを手作りしてあげるんだー」クリティカルヒット!心臓の鼓動は止まらない。沙耶がガスコンロを取り出す。フライパン。食材。調味料。エプロン。調理器具。片っ端から取り出す。どっから出したか聞くのは無粋だ。やばいやばいやばい!苦し紛れに「沙耶!背中にゴキブリ!」と叫んでやった。「うわーん!」。沙耶は全てを放り出して逃げた。僕はゴキブリに負けたのか?勝ったのか?ベッドに潜り込んで目を閉じた。ズキズキくる。厄介な良心め!

 □■□

 木曜日。夜明け前。ガンガンガン!僕は寮の扉に内側から木の板を打ちつける。寮内の人間は熟睡しているし真人はいない。二度あることは三度あるし三度あることは四度あるのだ。チャッチャカ板を押し当てて釘をガンガンガン!僕は部屋を密室に。沙耶が入れないよう厳重に。隙間があればそこから沙耶は入ってくる。それはまずい。いいことなんて何一つない。そうだろう?僕は誰に聞いてるんだ?まぁいい。僕は締め出さなくてはならない。ガンガンガン!ズキズキズキ!ふざけたことに釘を打つ度に心が同じ数だけ痛む。僕は厳重に厳密に完全に完璧に自分以外の存在を閉め出さなきゃならないというのに!ガンガンガンガン!ズキズキズキズキ!
 作業が全部終わってしばらくすると「お邪魔しまーす」。今日もまた沙耶が来た。「あれ?あれれ?」。ガチャガチャガチャ!開くわけがない。「理樹くん開けてよぅ」。僕は扉の前で息を殺して立ち尽くす。ズキズキズキ!どうして僕は沙耶が来るまでここで待っていたんだ?僕は真正の馬鹿なのか?とっととベッドに潜っていればこのズキズキも少しは大人しくしていてくれただろうに。「わーん」。沙耶の泣き声。ベッドに戻って耳を塞ぐ。塞いだってズキズキはやってくる。目を閉じた。沙耶!頼むからもう来ないでくれ!

 □■□

 金曜日。早朝。「やっほー理樹くん」。そして沈黙。廊下の方から妙な音が聞こえてくる。「理樹くん、危ないからそこにいるならちょっと離れててねー」と沙耶が声をかけてくる。僕は目を閉じたまま。ガガガガガ!ババババババババ!なんだなんだなんだ!僕は跳ね起きる。扉が引き裂かれたみたいにずたずたになっている。沙耶は重火器で扉をぶち抜いたのだ!三度あることは四度あって四度あることは五度あるから誰もこの騒ぎになんて気づきやしない。寮生は寝ていて真人はいない。蜂の巣になった扉が部屋の内側に向かって倒れる。舞い上がる埃の向こうに沙耶がいる。「理樹くんお目覚めいかが?」。僕の知る限り最高にクールな起こし方だ。ヘイ沙耶、僕を殺すつもりなのか?
 沙耶は部屋に入らず廊下側に立ち尽くしている。「さ。理樹くん早く出てきてよ」。僕は首を横に振る。沙耶はメタ化された恋人でしかないだろう?何も届かないんだ。何も。僕の心はズキズキ痛む。理屈とは無関係なところでズキズキズキ!沙耶は僕に向かって手を伸ばす。
「密室作って閉じこもってそれで終わり?腐っていじけて諦めて引きこもってたら満足なの?誰かに引っ張り出されるのを待ってるの?それとも一生そこにいるの?ばーかばーか!甘えんな!」
 泣ける言葉だ。手を伸ばせば何が変わる?この密室を抜けた先もまた密室だろう?この密室の向こうにある密室のそのまた向こうにあるのも密室じゃないのか?沙耶は僕をどこからどこに救い出そうとしてるんだ?
「あたしが手を握ってあげるわよ!だから手を伸ばせばいいじゃない!もう二度とばらばらにならないように握っててあげるんだから!」
 沙耶は僕を本当に救えると思ってるのか?思っているんだろう。最高だ。「ばらばら?僕が?」。「そう。理樹くんはばらばらだよ」と言って沙耶は笑う。やっぱり僕は自分探しの旅に出るべきかもしれない。どうやら自分の知らない自分があちこちにいるようだ。「どんな僕がいるの?」。「さぁ。二股三股四股と浮気しまってる理樹くんとか?」。最低で最悪で最高だ!僕より人生楽しんでるなんてどういうことだ?「結婚して子供を作ってる僕とかも?」。「いるいる。絶対!」
 無数にいる僕はどいつもこいつも密室の中にいるんだろう。結婚して家庭を築いて子供が生まれていても。誰かを愛し誰かに愛されていたとしても。ずっと閉じ込められたままなんだろう。そりゃそうだ。僕が無限に寸断されて僕が僕でなくなっても、僕は僕でしかいられないのだから。逃れられないのだから。そいつは確かに密室だ。《直枝理樹》という名の密室だ。沙耶はそこから僕を救い出そうとしている。それだけじゃない。ここにいる僕だけでなくここにいない無数の僕たちをも同時に救い出そうとしている。滅茶苦茶だ。イカレてる。笑う。
 僕はベッドを下りて沙耶と真正面から向かい合う。ドアは穴だらけでぶっ壊れて倒れているから僕たちの間を遮るものはない。どこのどいつが僕をばらばらに引き裂いたんだ?とか思わなくもないが今は差し置くことにする。伸ばした手を沙耶のそれと絡ませ僕はそのまま彼女を抱き締めて離さない。似合わない愛の言葉を沙耶の耳元で囁いた。この気持ちは嘘だろうか?そうかもしれない。どうだって構わない。腕の中に彼女の体温。繋いだ手。


[No.932] 2009/02/19(Thu) 08:47:35

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