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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 第27回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/19(Thu) 00:32:27 [No.930]
Future_Drug - ひみつ@4940バイト 1秒遅刻するのも1日遅刻するのも同じ。 - 2009/02/21(Sat) 03:04:05 [No.941]
しめきるー - 主催 - 2009/02/21(Sat) 00:18:56 [No.940]
[削除] - - 2009/02/21(Sat) 00:00:59 [No.939]
みんないっしょに - ひみつ@14804byte - 2009/02/20(Fri) 23:57:41 [No.938]
透明な涙 - ひみつ 20464byte - 2009/02/20(Fri) 23:51:44 [No.937]
彼女と赤橙の空 - ひみつ@20428 byte - 2009/02/20(Fri) 23:49:52 [No.936]
リトル・ホリデイ - ひみつ@17364byte - 2009/02/20(Fri) 23:48:02 [No.935]
ダブルサプライズ - ひみつぅ@1851 byte - 2009/02/20(Fri) 22:47:06 [No.934]
ある晴れた日のカクテル光線 - ひみーつ@10741byte - 2009/02/20(Fri) 10:12:23 [No.933]
愛のおはなし。 - ひみつ@11951byte - 2009/02/19(Thu) 08:47:35 [No.932]


リトル・ホリデイ (No.930 への返信) - ひみつ@17364byte


 クドリャフカはサンタクロースだった。しかも相当ドジなサンタクロースだった。なにぶん体が小さいうえに威厳も何もないため、トナカイたちの手綱を豪快に持て余していた。
「わーっ! ストレルカ、ヴェルカ、すとっぷなのですぅぅぅ」
 加えてトナカイたちはずいぶんと気性が荒かった。無理やり付けられたツノの感触が不快なのか、頭をぶんぶんと振り回しながら己が思う方向に突き進んでいた。
「うう……またプレゼントを配る予定が遅れてしまいました」
 ようやく目的地である家にたどり着くと、クドリャフカは律儀にも煙突からよちよちと住居侵入を試み、気が遠くなるほど長い時間をかけて、また煙突から煤まみれの姿で這い出てきた。
 要するに、格式や作法に対して真面目すぎるクドリャフカは、サンタクロースにはめっぽう不向きなのだった。
「ふぅ……これでようやく半分終わりなのです。あと半分がんばらねばです」
「つってもさー、もうクリスマス終わって三日だよ? いくら子供でもさすがに待ちくたびれちゃってるに決まってんじゃーん」
 ソリに戻ってみると、トナカイが一頭増えていた。
「三枝さん……あの、なにをされているのでしょうか」
「ノンノン、私はトナカイのハルカだよ」
「だから三枝さんじゃないですか……」
「全然ちがーう。私と容姿端麗才色兼備文武両道焼肉定食なはるちんは別物なの。ここテストでるよー」
「そ、そうなのですか。それで、どういうご用件でしょうか。申し訳ありませんが私、まだ大切なお仕事が残っていますので……」
「その必要はないよ、クドリャフカ君」
 声はトナカイたちの背後から聞こえた。クドリャフカのソリには見知った人物が座っていた。
「来ヶ谷さんではないですか。あの、なぜストレルカたちの手綱を?」
「いや違うな。私はサンタクルーガーだ。まあサンタクロースの親戚のようなものだ」
「そ、そうなのですか。それであの、なぜストレルカたちの手綱を?」
「クドリャフカ君が困っていると聞いてな、子供たちの永遠のヒーローにふさわしく、こうやってピンチに馳せ参じてみたというわけだ」
「助けていただけるのですかっ。あの、ではなぜストレルカたちの手綱を?」
「いやなに、君のその風体を見て気が変わってな、どうしようもなく虐めてみたくなったのだよ」
「は?」
「ではクドリャフカ君、あとは一人でがんばりたまえ。ハイヨー、ストレルカ、ヴェルカ、ハルカ!」
「あいあいさー! わんわんわおーん!」
「え、ちょ、あのーっ!?」
 トナカイたちはサンタクルーガーの手に落ち、クドリャフカはその場に一人置き去りにされた。
「ええー……」
 ただでさえ要領が悪いのだから、トナカイがいなければクドリャフカはサンタクロースとして無能だった。
 しかも、プレゼントの入った袋は、トナカイのソリの上だった。
 何もなくなってしまったものだから、クドリャフカは身も心も寒くて死にそうだった。
 あてもなく歩くしかなかった。

 鈴は七福神の弁才天だった。しかも相当人見知りする弁才天だった。なにぶん男集団の紅一点という理由だけで花形に抜擢されたため、神事や慶事などに全く無関心な鈴は、面倒で苦痛な行事のための準備などから幾度と脱走を図っていた。
「あたしはもうこんなとこにいたくないんじゃーっ!」
 その蹴り技は神界でも名を轟かせており、彼女に手を伸ばす者はことごとくその餌食となっていった。なので彼女を取り押さえるのはもっぱら屈強な毘沙門天と大黒天の役目だった。
「いててて、おい謙吾、早くそっちの手を抑えろ!」
「貴様こそしっかり肩を抑えていろ」
「くそっ、筋肉の神様の力を舐めるんじゃねーぞ!」
「くっ、毘沙門天であるこの俺がここまで手こずるとは……」
「離せぼけーっ! 触るなーっ! きしょいーっ!」
 鈴の蹴りには容赦がなかった。謙吾と真人はぼこぼこになりながらもなんとか鈴を離さずにいた。
「鈴、落ち着いて……」
 布袋な理樹はやや離れたところから冷静を訴えるしか術はなかった。
「鈴、鈴ってば、そんなに暴れないで。ちゃんと話し合おうよ」
「話し合うことなんかないっ!」
「一体何が不満なのさ? お正月の準備は毎年みんなで一緒にやってきたことじゃない」
「ああそうだ毎年毎年毎年毎年毎年毎年毎年毎年な! もう嫌でも嫌になるわっ」
「で、でも、僕たち七福神が大晦日までに準備を済まさないと、みんながお正月を祝えなくなるんだよ?」
「そんなのあたしはしらん! 正月を祝いたいやつは今年から寺にでも行け寺に。毎年神社にばっか集まってくるな!」
「やれやれ、鈴はとんだお子ちゃまだな」
 理樹の背後から恭介が姿を現した。肩に釣り竿を担いでいる。恭介はチーム・リトル七福神ズのリーダー・恵比寿だった。
「鈴、お前の気持ちもわからんではない。お前も年頃の女の子だ、年の瀬のこの時期だからこそ友達とキャッキャして遊びたいんだろう」
「そんなつもりは断じてないが……」
「だがな鈴、俺たち七福神は、そういう時期だからこそせっせと働かなければならないんだ。なぜだかわかるか?」
「しらん」
「そういう宿命なんだ。そして俺たちがこの尊く崇高な仕事に身を尽くしているのには理由がある。わかるか?」
「しらん。まさか人の幸せのためだとか言いだすんじゃないだろうな」
「それは……野球より楽しそうだったからだ!」
 単なる一個人の飽き性と好奇心だった。
「死ね!」
 いい顔の恭介を宝船の甲板に沈めると、鈴はそのままの勢いで真人たちの手を引き離し、あかんべーをして逃げた。
「ああっ、鈴、どこ行くのさ!」
「どこだっていいだろ、ばーか」
 行くところなど限られていた。
 1、2の3で、鈴は地上界へと飛び降りた。

 クドリャフカにしてみれば、辛くなって空を見上げていたところに、突如として和服姿の少女が降ってきたのだからたまったものではない。
 鈴にしてみれば、誰もいないと思って着地しようとしたところに、突如として煤まみれの少女の姿が浮かび上がったのだからたまったものではない。
「わふーーっ!?」
「じゃまだどけーーっ!!」
 そうして二人は、12月28日に出会ったのだった。

「では、あなたは私の知る鈴さんによく似ているうえに同姓同名の、七福神の弁天さまなのですね?」
「ああそうだ、あたしの知ってるクドによく似てる同姓同名のサンタのひと」
 たんこぶをさすりながらお互い自己紹介をした後、二人はその奇妙な偶然に驚いた。
 一通り驚いてから、思う。
 なぜ、こんな時期に七福神が下界をうろついているのか。正月の準備で忙しいはずではないのか。
 なぜ、こんな時期にサンタクロースが町をうろついているのか。その汚れまくった格好はなんなのか。
 お互いの視線の意図を悟ったのか、クドリャフカはにこりと、鈴はかろうじてへへへと笑う。
「私のことはクドで良いですよ。さんたくろーすというのは仕事で使う、いわば芸名のようなものですので」
「あたしも鈴でいいぞ。七福神とか弁才天とか、あたしとってはにはどうでもいいことだからな」
 二人はとりあえず、公園のベンチに腰かけた。雪を掃ったばかりのベンチは座ると、ひやりと冷たい。
「どうでもいいというのは少し悲しい気がしますが……」
 クドリャフカは、探るように丁寧に言った。
「悲しくなんかないぞ。むしろあたしは今、ものすごく清々しいんだ」
「清々しい、ですか」
「ああ、これでようやく自由になれたんだからな」
 鈴は、隠すことなく身の上を話した。気分が高揚しているためか、早口だ。同僚たちの悪口も、しっかりと内容に盛りこまれている。
「なるほど。それはたいへん窮屈な思いをされていたのですね」
「そうだろう。しかもあいつら、面倒くさい仕事は全部あたしに投げてよこすんだ。宝船の先頭に立って、てんのーこーごーみたいに手を振らされたり、大勢の人前でうまそうな名前の楽器を弾かされたり。あたしが人前に出るの嫌なこと知ってるくせにだぞ」
「ひどいと思います。人権問題ですっ」
「神さまだけどな。自分で言うのもなんか恥ずかしいが」
 言ってから、鈴は照れた。ほとぼりも幾分か冷めたことで、鈴はクドリャフカが困ったような顔をしていることに気づいた。しまったしゃべりすぎたか。鈴は少しばかり反省する。
「お前は?」
「はい?」
「お前はどうしてここにいるんだ? クリスマスはとっくの昔に終わったと思うんだが」
「……お恥ずかしい話なのですが」
 情けなくて人には言うまいと思っていたが、鈴が先に話してくれたおかげで、クドリャフカは驚くほどすんなりと自分の身の上話を口に出すことができた。
「なるほどな。で、トナカイに逃げられてしまったわけか」
「逃げられたといいますか、連れ去られたといいますか……」
「なんにしろ、そのサンタグローバーだかサンタクルーンだかサンタクロマティとかいうやつは最低だな。困ってるお前をさらに困らせにきたってことだろ」
「来ヶ谷さんも決して悪気があったわけでは……いえあったんでしょうけど、決して悪いさんたさんではないのです。全部私がのろまなのがいけないのでして……」
 クドリャフカは、しおしおと小さくなっていく。
 鈴は、どう声を掛けていいものか悩んだ。悩んでも答えは出なかった。生まれてこのたび、ほとんどの時間を宝船の上で過ごしてきた鈴は、クドリャフカのような少女とまともに話をしたことなどなかったからだ。
 だから鈴は、直感のままに動くことにした。なんとなく重苦しい雰囲気をなんとなく嫌い、なんとなく走り出したくなった。
「お互い、同僚に恵まれなかったってことだな」
「……」
「走るぞ、クド」
「えっ?」
 返事も待たず、鈴はクドリャフカの手を掴んで駆け出した。
「わーーーっ!!」
「わーーーっ!?」
 すぐに転んだ。鈴は着物の裾を踏み、クドリャフカは巻き添えを食らった。
「くそっ、この布めっ」
「わーっ、破こうとしてはダメですっ。きっとすごくいい生地ですっ」
「そんなのしらん。あたしは今、走りたいんだ。というか、破れんな、これ」
「ほらほらほら、やっぱりすごくいい生地なのですよ」
「……呪いをかけられてるみたいで、なんかいやだ」
「呪い?」
「……ああもうっ、どれもこれもそれもあれも全部恭介のアホが悪いんじゃーーーっ!」
 クドリャフカは辟易する。鈴の一挙一動に圧倒される。
 クドリャフカとてサンタクロースのはしくれなのだから、これまでに大勢の子供を目にしてきた。中には鈴のように不可解な言動に突き動く少女もいた。しかし、目の前の少女ほど、世を嘆き、抱えこみ、もがき苦しんでいる子供を見るのは初めてだった。
 彼女を見ていると、自分の悩みなどちっぽけなもののような気がして、クドリャフカは体が軽くなったような気がした。同情したのではない。悩むことそのものが馬鹿らしくなったのだ。
「……私も、なんだかむかむかしてきました」
「なら、走ろう。走ると気持ちいいぞ」
 二人は大声をあげて、走った。今度は裾を踏んで転んでも、起き上がってまた走った。
 奇妙な光景に、公園に遊びにきた子供が、入口のところでまわれ右をする。砂場の鳩も、驚いて飛び去っていく。
 腹の音で、二人はようやく止まった。
「……お腹すきましたね」
「……そういえばそうだな」
「なにか食べたくはありませんか?」
「食べたい。あったかいものがいい」
「私もあたたかいものがよいです。それがこの国ならではのものだとなおよいです」
「そうだな。いくか」
「「ラーメン」」
 しかし、その望みは叶わなかった。お金を持っていなかったわけではない。ただ持っていたのが、鈴は百万円の価値はあるであろう小判、クドリャフカはユーロだっただけの話だ。
「この国は腐ってるな」
「まったくなのです。ぐろーばる社会の名が泣いてしまうのです。食べたいものも食べられないこんな世の中じゃぽいずん、なのですっ」
 二人は、腐った。腐った勢いのまま公園に戻り、百円自販機の下で見つけた百円玉でしるこドリンクを買って回し飲みした。
「まったくやってらんねーのでふよっ」
「そうらそうら」
 小豆飲料で器用に酔っぱらう二人だった。
「くるがやさんもくるがやさんなら、さいぐささんもさいぐささんなのでふっ。だいたいなんなのでふかその言いづらい名前わっ。噛んでしまうではないですかっ」
「それは噛むな。噛んでしまうな。その点あたしの周りはアホとアホとアホと理樹しかいないから恵まれてるな」
「そりゃ私もたいがい言いづらい名前でふが、「クド」といふにっくねーむがあるからまだマシなのでふ。省略しただけ? いいえ違いまふれっきとしたにっくねーむなのでふっ。なんでふか私も呼んでもよいのでふか同じよーに。「クル」「サイ」わああ、前者はともかく後者は誰のことだかまったくわかりませんでふーっ」
「よく考えてみれば、三人もアホがいるとわかりづらいな。「ア」と「ホ」と「アホ」と「理樹」でいいか……いかん、それだと理樹以外誰だかわからん」
 やいのやいの。寒空の下ですっかり陽気になった二人は、ブランコから靴や下駄を飛ばし、砂場で雪合戦を繰り広げ、すべり台の上から力の限り叫んだ。ついには草むらの陰に陣取って苦節数年のホームレスが、「たまらん」と言い残してとぼとぼと公園から去っていく。主の交代劇だ。しかし、当の本人たちは気づいていない。
「わふーっ!」
「ちょわーっ!」
 これだけ大騒ぎしても苦情のひとつ飛んでこないのは先代の功績か。都会の喧噪から離れた公園に、そういえば冬休み中だというのに人の子一人見当たらないのも変な話である。
「恭介のアホの差し金か……」
 腐っても七福神な鈴である。周囲の不自然が同僚の見えざる手によるものだと察した鈴は、まず真っ先にクドリャフカの存在も疑った。
「お前、ホントにサンタクロースなのか? あのアホからあたしを見張っておけとか言われたんじゃないのか?」
「わふー?」
「和風とか言うし、サンタっぽくない」
「わ、わふー……」
「……いや、すまん。お前はそんな感じじゃないな。ドジだし、そもそもそんな時間なかったはずだ」
 鈴の心ない一言に、クドリャフカはめそめそ泣いた。泣き上戸だった。
「おい、泣くな。悪かったって言ってるだろ」
「違うのです。辛くて」
「だから、辛くして悪かったって」
「違うのです、違うのです……」
 辛いのは、鈴の一言などではなかった。
「私、自分が情けないのです」
 だから辛いのだ、とクドリャフカは言う。
「私、自分のお仕事が大好きなのです。みなさんに幸せをプレゼントするこのお仕事が、本当に大好きなのです。寒いのは苦手ですが、この国でお仕事をするのは楽しいので我慢の子なのです。あ、私、この国担当のさんたくろーすなのです。偉い人がお前はドジだから小さな国のほうがいいだろうって。でも来てみたらすごくたくさんの人で、毎年毎年プレゼントを配るのが遅れてしまって……。小さな国だからということで、担当は私一人です。他に頼る人はいませんです。だから私、考えたのです。まずはこの国の人たちと仲良くなって、この国の人たちのことをもっとよく知れば、きっとうまくできるようになるんじゃないかって。私、変な出で立ちなので、変な目で見られることもよくあります。当たり前のことが当たり前でない私は、この国では異端です。でもきっとそれは私がしっかりしていないのがいけないからで、たとえば来ヶ谷さんみたいになんでもすまーとにこなせる人になれば、私みたいなのでも認めてもらえるんじゃないかってそう思って、でもなかなかできなくて……」
 辛くて。
 胸のうちに溜めこんでいたものをひと通り吐き出して、クドリャフカは俯いた。鈴は、黙ってそれを聞いていた。じっくりと時間を掛けて、鈴は考えて考えて、でもやっぱり何と言うべきかわからなくて、着飾らない言葉を発した。
「お前は、独りが嫌なんだな」
 クドリャフカは顔を上げた。親に置いていかれた、小さな子供のような瞳をしている。
 鈴は、喧嘩別れしてきた仲間たちの顔を思い浮かべた。
「あたしには、仲間がいる」
 だから辛いのだ、と鈴は言う。
「変なやつばっかなんだぞ。簡単に言うとアホとアホとアホと理樹なんだが、もう少しわかりやすく言えば筋肉とゲイと兄と理樹だ。もう大昔からの付き合いだ。毎年この時期になったら宝船を出して、地上界で新年の祝い事をするんだ。祝い事っていっても船上でどんちゃん騒ぎするだけなんだけどな。恭介のアホは自分が楽しければなんでもいいんだ。前なんかシーズンオフだからっていって船上野球とかはじめるしな。で、あたしも巻きこむんだ。たまったもんじゃないぞ。でもまー、あいつらとバカをやるのは正直楽しい。あたしは知らないやつと話すのが苦手だから、あいつらとバカやってる分には気楽でいい。あたしがそんなだし、一人だけ女だからってので、特にかわいがってくれてるのはなんとなくわかる。あたしが嫌がることをさせるのも、きっとその裏返しなんだ。こんなこと本人の前じゃ口が裂けても言えんが……その……あいつらには感謝してる。でも、ときどき思うんだ。あたしはこのままでいいのかって。あいつらに守られてぬくぬく生きて、それでこの先やっていけるのかって」
 不安なんだ。
 口にして、鈴は初めて自分が逃げ出した理由を自覚した。なんだ、そういうことだったのか、と納得する。
「鈴さんは、独りになりたかったのですね」
 顔を上げたクドリャフカは、もう小さな子供の瞳ではなかった。涙は乾き、慈しむような表情で、鈴を見上げている。
「ああ、そうだ。そうすればきっと何かが変わると思ってた」
「でも、それは」
「間違いだ。あたしが気づいてなかっただけ」
「自分の幸せに」
 そうだな、と鈴は笑う。
 そうですよ、とクドリャフカも笑う。
 鈴は、胸のつかえがすっかり取れてしまっていることに気がづいた。
「お前は、すごいサンタクロースだな」
「ええっ、そんな、私なんてダメダメのダメ子ちゃんで……」
「謙遜するな。現にあたしは今、お前からすごいプレゼントをもらったんだからな」
「そんな……私は何もしていませんです。鈴さんが、自分で気づいただけで」
「お前が気づかせてくれたんだ」
 鈴は本心からそう思って、クドリャフカの手を取った。自分の幸せが、少しでも相手に伝わるように。
「お前はぜんぜんダメダメなんかじゃないぞ。あたしと違って、努力もしてるし、辛い思いをしても、めげずにがんばってる。なにより、お前は、お前だけにしか用意できないプレゼントをあたしにくれたんだ。他のサンタなんかめじゃないぞ。クド、お前は、あたしとっては最高のサンタクロースだ」
 クドリャフカは、また泣きそうになった。しかし、なんとか堪えた。泣くところではないと思ったからだ。
「いいじゃないか、ドジなサンタがいても。自分のペースでゆっくりやればいい」
「それでは、子供たちが待ちくたびれて怒ってしまいます」
「そんな我慢の足りない子供は、あたしが根性を叩き直してやる」
「鈴さん、神さまなのに」
 くすっ、とクドリャフカは笑った。
「そういえば、あたしは神さまのくせに正月の準備をサボってるところなんだった。一番我慢の足りないのって、もしかしてあたしか?」
「いいじゃないですか、神さまが神事をサボっても。きっとその分、仲間が助けてくれますよ」
「それじゃ、六福神になってしまうじゃないか……」
 二人は、声を出して笑った。これまでのヤケクソ感漂うものではなく、カラッとした気持ちのいい笑いだった。
「よし」
 ひとしきり笑った後で、二人はベンチから立ち上がった。
「あたしは帰る。帰ってまず、あいつらに謝ってみる」
「私も、仕事の続きに戻りますです。私はトナカイとソリを探すところから始めねば」
「お互いがんばろう。あ、そうだ。帰る前に、さっきのプレゼントのお返しがしたいんだが」
「そんな、私は別に何も……」
 言いかけて、クドリャフカは動きを止めた。見返りなど期待していなかったし、欲という欲もなかった。その瞬間までは。
「なんだ、どうした。はっきり言え」
「あの……そのぅ」
「あたしも一応神さまのはしくれだからな。ちょっとした願いごとくらいなら叶えてやれるぞ」
「あ、あの……実はですね」
 他に誰も聞いちゃいないというのに、クドリャフカはとっておきの内緒話をするように、鈴に耳打ちした。
「……なんだ、そんなことでいいのか」
「そんなこと、ではないのです。鈴さんにしか叶えられない、私にとって何よりも大切なお願いごとなのです」
「……ん。わかった。お前のその願い、絶対に叶えてみせるぞ」
 二人は並んで公園の入り口へと向かった。
 お互いの帰り道を、いっせーのせ、で指差してみる。見事に逆方向だった。二人は向かい合って、どちらからでもなく握手を交わした。
「あたしは鈴、弁才天だ。また来年の今日、ここで会おう」
「私はクドリャフカ、さんたくろーすなのです。また来年の今日、ここでお待ちしています」
 指きりをするようにして、二人は別れた。今日という出会いの日を、二人だけのささやかな祝日にすることを約束して。
 それぞれ逆方向の道を歩いていく二人は、申し合わせたわけでもないのに、1、2の3でジャンプした。


[No.935] 2009/02/20(Fri) 23:48:02

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