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WINGBEAT COFFEE ROASTERS

all 第27回リトバス草SS大会(ネタバレ申告必要無) - 主催 - 2009/02/19(Thu) 00:32:27 [No.930]
Future_Drug - ひみつ@4940バイト 1秒遅刻するのも1日遅刻するのも同じ。 - 2009/02/21(Sat) 03:04:05 [No.941]
しめきるー - 主催 - 2009/02/21(Sat) 00:18:56 [No.940]
[削除] - - 2009/02/21(Sat) 00:00:59 [No.939]
みんないっしょに - ひみつ@14804byte - 2009/02/20(Fri) 23:57:41 [No.938]
透明な涙 - ひみつ 20464byte - 2009/02/20(Fri) 23:51:44 [No.937]
彼女と赤橙の空 - ひみつ@20428 byte - 2009/02/20(Fri) 23:49:52 [No.936]
リトル・ホリデイ - ひみつ@17364byte - 2009/02/20(Fri) 23:48:02 [No.935]
ダブルサプライズ - ひみつぅ@1851 byte - 2009/02/20(Fri) 22:47:06 [No.934]
ある晴れた日のカクテル光線 - ひみーつ@10741byte - 2009/02/20(Fri) 10:12:23 [No.933]
愛のおはなし。 - ひみつ@11951byte - 2009/02/19(Thu) 08:47:35 [No.932]


みんないっしょに (No.930 への返信) - ひみつ@14804byte

 しゅらり。かりかり。ん、けほっ。咳払いひとつにも配慮を求める、圧し掛かるような沈黙の中、紙をめくる音と文字を書き付ける音とがその空隙を埋めていく。
 ひどく乾燥した室内は、普段ならば歳経た紙の放つ、かすかに埃じみた匂いで満たされているのだろうが、この時期は利用者が規則ぎりぎりで持ち込んだガムや飴の香料が際立った存在感をもっている。 
 そのうちの一人が、今まで止めていた呼吸を再開して喘ぐと、ばりばりと髪をかきむしりながら叫んだ。
「ぬぅおあああっ!だ、ダメだ、オレはちょっと腕立て伏せしてくるぜ……」
「ちょ、ダメだよ真人、まだ二問しか解いてないじゃない!」
 暗くよどんだ瞳で立ち上がる真人を理樹は慌てて引き止める。そこに横から冷えた言葉が飛んできた。
「理樹、馬鹿は放っておけ。そいつに高校受験などどだい無理な話だ」
「てめぇ、勉強も出来ない筋肉は、その立派な肉体がまぶしくて邪魔になるだけだから受験なんかさっさとあきらめて筋肉だけ鍛えていろとでも言いたげだなぁっ!」
「誰もそんなこと言ってないよっ、何その言いがかり!?」
「いや、全くその通りだ」
「謙吾も認めないでよっ!?」
「お前らうっさい!どこまで訳したかわかんなくなっただろーが!!」
 そこまで騒ぎに目もくれず、しかめ面でテキストを睨みつけていた鈴は、立ち上がると騒ぎの元凶に窮屈な受験勉強で蓄積したフラストレーションを叩きつけた。主にハイキックという形で。
「何でオレだけっ!?」
 首をあらぬ方向に捻じ曲げながらも倒れない真人を鈴は無言で蹴り続け、理樹が取り押さえた頃には周囲の視線が氷柱となって全身に突き刺さっていた。
「……お静かに願います」
 誰かがぽつりと呟いた一言に、理樹たちは逃げるようにそそくさと退出するしかなかった。
 
「はあぁ……また追い出されちゃったよ」
 電車で二駅も離れた図書館に来たのに、またしても騒ぎになってしまった、と理樹は肩を落とす。これでもう四件めだ、立てかけられた周辺地図を眺めてまたひとつため息をついた。この二酸化炭素で気温が1度くらいは上がっているかもしれない。
 そんな彼をはさんで両側からかけられる慰めの声は、優しく明るく、そして軽い。
「なんだ、暗いな理樹。まあげんきだせ」
「そうだぜ、そんなに気にすんなよ!」
「二人は気にしてよっ!」
「……まあ、仕方あるまい。この二人に大人しくしていろというほうが無理だったんだ」
 一人自販機で買ったコーヒーをたしなんでいた謙吾がさも当然という調子で言うと、何故か真人は得意気に鼻を鳴らした。
「へっ、オレの筋肉をあんなちいせぇ箱に閉じこめようってのが間違いなのさ」
「この馬鹿といっしょにするな」
「んだとぉ?オレの筋肉さんは天然物だから狭い箱の中で育てると病気になる、だから広い空の下でのびのびと育ててくださいとでも言いたげだなぁっ!……ありがとよ」
「そんなこと言っとらんわっ!」
「……付き合いきれんな」
 ちょうど飲み終えた缶をくず篭に捨てると、袴の裾をひるがえし、言い合いをはじめた二人に背を向けた。
「あ、待ってよ謙吾、帰っちゃうの?」
「今日はもう勉強にならんようだからな。素振りでもした方がマシだろう」
「ああ、うん、そっか、剣道の練習か……確かに、最近は勉強ばかりで練習できてないよね」
 肩越しの答えを、よく言えば物分りよく聞き分けて理樹は頷いた。しかし顔を見なくともにじみ出る心細さに謙吾は軽く息を吐いて足を止め、訂正した。
「一日でも休めば腕が鈍る。だから毎朝の稽古だけは欠かしていないぞ。……不本意ながら、あの馬鹿のトレーニングと一緒だ」
 その言葉で目に見えて明るくなった表情に、謙吾はこっそりとまたため息を吐いた。
「謙吾はすごいなあ……。もしかして剣道で推薦取れたんじゃない?」
 なのに理樹たちと同じく一般入試を希望している。理樹のその疑問に謙吾は「いや、そんなに甘くはないだろう」と頭を振った。
「生徒の自主性を重んじる自由な校風を掲げていて、特にスポーツに力を入れているというわけではないようだからな」
「へぇ、そうなんだ?」
 人事のように驚いてあっさり納得した理樹に、「それくらい調べておけ」とだけ答えた。
 そこへ、いつの間にかそばに戻ってきた真人と鈴が混ざってくる。
「なんか大変なんだなぁ。ま、オレは筋肉スイセンで一発合格だけどな!」
「そんなもんあるか、馬鹿」
「ねぇのかよっ!?」
「あるわけないよっ!」
「…じゃあ、じゃあオレは一体、どう・すりゃ・いいん・だぁーーっ!!」
「勉強してよっ!」
「無茶言うなよぉっ!?」
 うっすらと空を覆う雲の下、賑やかで平和な阿鼻叫喚を、謙吾は一人冷めた目で眺めていた。
「やれやれ…」

「はあぁ…」
 地図で見つけた次の図書館へと向かう道すがら、理樹はまた一つ地球温暖化を促進させた。
「お前ため息ばっかだな」
 隣を歩いていた鈴がうっとうしそうにしても、理樹は力なく笑うのが精一杯だった。
「だって、もう一月も終わりなのにちっともまともに勉強できてないじゃない。まぁ、今から勉強しても急に頭が良くなるわけじゃないけどさ」
 一緒にいるはずのもう二人は、行き先を決めるや否や競争だと言って走り去ってしまった。ずっと身体が動きたがっていた真人はともかく、帰ろうとしていた謙吾も。だから理樹の泣き言を聞かされる相手は鈴だけだ。
「鈴は不安にならない?」
「いや、全然」
「その自信はどこから来るのさ……」
 授業中はいつも気もそぞろな鈴の成績は、真人ほどでないにしろ決して芳しくはない。しかし、まるで気に病む様子もなく、むしろ誇らしげにその平らな胸を反らした。
「やってだめなら行かなきゃいい。べつにそんなの行かなくても全然へーきだ」
「鈴、それは現実逃避とか負け惜しみとかいうものだと思うんだ」
「そんなことないぞ。あれだ、しかれたレールの上をはしるだけの人生なんてまっぴらごめんだ」
 立ち止まり、仁王立ちになってどこかで聞いたような台詞を言い切った鈴の顔を、半眼になった理樹がじとっと見つめる。小鼻がひくひくと動いている。しかもかなり棒読み。
「それ、言ってみたかっただけでしょ」
 ひゅーっ、と風が吹いて、くしゃみが一つ、鈴の音が一つ。

 二人は結局、途中で道が分からなくなって戻ってきた。戻ってきた二人は全身汗だくで、遠くからでも分かるほど湯気を上げていた。
「不覚だ。目的を忘れてひたすら走ってしまった……」
「一体どこまで行ってたの?」
「ありゃあどこだろうな?なんか川沿いで橋の近くだったぜ」
 先ほど見た地図で言えば端のほうだ。往復で10キロ近く走ったことになる。
「こいつらアホだっ!」
「よく戻って来れたね…」
「この馬鹿が『こっちから理樹のにおいがする』などと言い出してな。半信半疑だったが」
「んだよ、合ってたんだからいいじゃねぇか」
「いや、せめて人間らしくしようよ」
 気力をごっそりと削がれ、理樹の突っ込みにも勢いがない。車道を大きなトラックが過ぎていく。
「……今日はもう帰ろうか」
「なんだ、図書館はやめか?」
 熱のない理樹の言葉に、汗臭い男二人から距離を置いていた鈴が尋ねる。声が弾むのを隠しもしない。
 自分の欲求というか人見知りへの正直さにほんの少し笑みを取り戻しながら、急な方針転換に戸惑う残り二人を交互に見る。
「寒くなってきたし、二人ともそのままじゃ風邪引いちゃうでしょ?」
「へっ、謙吾はともかく、オレの筋肉はこのくらいじゃ負けねぇよ」
「まあ、俺はこの程度で風邪を引くほどやわではないし、何とかは風邪を引かないというからな」
「マジかよ、ナントカってのはすげぇな。ナニ人だよ…」
「こいつ馬鹿だ!?」
 真人の勘違いを放置したまま、謙吾は理樹に尋ねる。
「帰ろう、なんてどうしたんだ急に」
「うん……今日はもうみんな勉強する気分じゃないみたいだし、つき合わせるのは悪いから」
 理樹の言葉に、原因の大半を作った真人が神妙な顔をした。
「そんなことはねぇんだけどよ。ただ、10分以上机に向かってると頭がこむらがえっちまうだけで」
「そうだぞ理樹。馬鹿の事をいちいち気にしていたらきりがない」
「うん、それはそうなんだけどね」
「ちょっ、見捨てないでくれよ理樹さまぁーーーっ!」
 少し意地悪く笑って謙吾に乗った理樹は、うろたえる真人を見て今度は本当に笑った。

 それを謙吾が提案したのは最寄駅の近くまで来た頃だった。昼下がり、馴染みの薄い駅前は人の少なさも相まってよそよそしい。
「なぁ理樹、まだ時間が早いから、少し寄り道していかないか?」
「いいけど、何か買い物?」
「いや、そうじゃない。…確か、隣の駅じゃなかったか?」
 その言葉で、すぐに思い当たったのは鈴だった。騙されて亀ゼリーを食べさせられたときのような顔になる。
「…きょーすけの学校か」
「そうだ。そして、俺たちが行く学校だ」

 がらがらに空いた電車の、扉のすぐ横の席に鈴、隣に理樹、そして二人の前に真人と謙吾が立った。
「やっぱり帰る」
「鈴、家は逆方向だよ」
「うう……」
 他の三人が行くのでついてきていたものの、鈴は数分ごとに繰り返した。
「あんまりくっつくなっ、でかいんじゃぼけー」
「いでっ、蹴るんじゃねーよっ!」
 一駅5分の乗車時間、真人はずっと脛を蹴られ続けていた。
 そして、男三人でできるだけ人目を遮りながら、何とか目的地が見えてきたところで、ついに鈴は一歩も進まなくなった。
「帰る」
「ここまで来て?」
「あたしはテレビを見なくてはいけないんだった。こうしてはいられない、先に帰るぞ」
 つけていない腕時計を見る振りをして、踵を返す鈴。しかしその足はそこから先を踏み出さない。
「いちおう聞いてみるけど何の番組?」
「う……噂の岐阜マガヅン」
 口にしたそれは確かにこの時間に放送されているものの、内容は行政や悪徳業者への不満云々。
「ええー」
 完全に足を止めてしまった鈴に理樹たちが頭を抱えたとき、その人は現れた。
「よう、来たな」
「ふにゃっ!?」
 黒をベースにした制服をホストのように着こなし、さっきまで誰もいなかったはずの門柱にもたれかかった少年は、切れ長の目を真っ直ぐに理樹たちへ向け、口許にいつもの笑みを浮かべていた。
「恭介!」
「なんだよ、そんなに俺に会いたかったのかい、顔に出まくってるぜ?」
「なわけあるかっ!」
「おっと」
 駆け寄りざまに蹴り上げられたつま先をひょいとかわし、恭介は久しぶりに会った妹に愛情を垂れ流す。
「おいおい、そんなに照れるなって。鈴は本当にお兄ちゃんが好きなんだなぁ」
「しねばーか」
「うっ……。ハハ、まったく、素直じゃないなぁ」
 胸を押さえてよろけても、あくまで爽やかな笑顔は崩さない。
「きしょい」
「そうか、ツンデレってやつだな?鈴は本当に恥ずかしがりやさんだなあ」
「まだ認めねぇぞ……」
「ある意味凄い精神力だね……」
「哀れな……」
 和やかな兄妹の再会を、理樹たちはしばしの間、離れて見守った。

 20分後、すっかり憔悴した恭介の案内で、理樹たちは学園の中庭を散策していた。丸裸になった並木道は
今は寂しさを感じさせるが、春には青々と葉を茂らせ、夏には日差しから守る涼しい木陰を作るのだという。
「どうだ、受験勉強は?」
 出るべくして出た恭介の質問に、理樹は言葉を濁した。
「あー、うん。まあまあ、かな?」
 だが、無難なその答えのそこを見透かしたように、恭介は唇の端を吊り上げる。
「その様子だとはかどってないみたいだな」
「こいつが悪い」
「オレかよっ!?」
「実際お前のせいで図書館を追い出されただろうが」
 すかさず鈴が真人に罪をなすりつけ、謙吾が証言する。
「う……オレに筋肉以外の勉強なんてムリだっつーの」
 言い訳を諦め、開き直った真人に恭介が助け舟を出す。
「真人は大丈夫さ。一芸入試って手があるじゃないか」
「何だそりゃ?」
「おいおい、自分が受ける学校の制度くらいちゃんと調べとけよ」
 恭介は頬をかいて、真人たちに、何か秀でた特技を持っている受験生は、面接を受けることで筆記試験の点数に大幅に加点されると説明した。
 はじめはぽかんと口を開けているだけだった真人は、徐々に生気をみなぎらせていった。
「良かったね真人、それなら真人の得意分野で勝負できるよっ!」
「ぃよおおおっっし!オレは取るぜぇ、筋肉スイセンをなぁっ!!」
 「推薦じゃないから」という理樹の突っ込みも聞こえないのか、その場に仰向けになると早速腹筋の強化に励みだした。
「ああ、こんなところで始めちゃって……」
「ま、いいんじゃないか?本人がやる気なんだから」

 真人の筋トレを眺めながら、恭介は理樹たちをぐるりと見回す。
「さて、真人は筋肉として……」
「俺は問題ない」
 半ばはね付けるように言い切った謙吾に、恭介はその済まし顔を見て頷いた。
「……そうだな、まあ謙吾は大丈夫だな。となれば、理樹と鈴だ。どうだ?」
「無理だな」
「ちょ、鈴っ?」
 悪びれることなく言い切った鈴に、傍らの理樹のほうが慌てる。その答えも予想していたのか、淀みのない動作で懐から分厚い紙の束を取り出した。
「そんなお前たちにはコレだ」
「そんな量よく入ったね……」
 理樹が受け取って紙をめくると、横から覗き込んでいた鈴が呟いた。
「テスト?」
 どの紙にも、数式や年表、そして文章がびっしりと詰め込まれていた。得意げな顔の恭介に、理樹がおそるおそる尋ねる。
「どうしたのこの問題…まさか恭介」
「やばいもんじゃないから安心しろ。ここ数年の過去問から俺が作った予想問題だ」
 言われて良く見れば、書かれた字には恭介の癖が表れている。横で見ていた謙吾が、恭介に疑問をぶつけた。
「もしや最近連絡が取れなかったのはそれを作っていたからか?」
「ああ、この2週間かかりっきりでな。けど先生気分で面白かったぜ?」
「全く、あきれた奴だ」
 夢中で問題をめくっていた理樹は、喜びに輝く目で恭介を仰ぐ。
「凄いや恭介!これなら大丈夫な気がしてきたよ、ありがとう!」
「よかったな理樹」
「何を言ってるんだ、お前もやるんだぞ?」
「なにぃ!?」
 人事のように構えた鈴に釘を刺すと、理樹の手をとってその目を真っ直ぐに見つめた。
「理樹、鈴を頼んだぞ」
「うん…ええっ、僕っ?」
 恭介に見つめられ、反射的に頷いた理樹は、大役を任されたことに遅れて気付いた。
「だ、駄目だよ、自分が合格できるかも分からないのに」
「だからやるんじゃないか。分からないもの同士、お互いが力を合わせて乗り越えて行く。…な、燃えるだろ?」
「でも…」
 なかなか頷けない理樹に、恭介は声の調子を一段落とし、真剣な顔で告げる。
「いいか理樹、これは受験なんてちゃちなものじゃない、ミッションだ」
「また始まったな」
「うるせぇ。…理樹、クリアの条件は二人一緒に合格することだ。難しいが、やりがいがあると思うぜ?」
「けどさ…」
 それでもなお頷かない理樹に、恭介は態度を軟化させ、肩を叩く。
「……ま、分からないことがあったら教えてやるよ。謙吾もときどき見てやってくれ」
「仕方ない、たまになら引き受けよう」
「…わかった。やってみるよ」
 鈴はまだ眉間にしわを寄せてだんまりを通しているが、嫌だ、とは言わなかった。

 日が傾き、校舎の色がゆっくりと変わって行く。理樹たちは恭介に見送られ、校門の外までやってきていた。長く伸びた影が足元で手を振る。
「今日はありがとう。僕もここに通えるよう、頑張るよ」
「ああ、こいよ。んで、また一緒にやろうぜ!」
「うんっ!」
「ああ」
「おうっ!」
 恭介の言葉に、男たちは晴れ晴れと応じる。そして、今だだんまりを通す最後の一人に理樹が促す。
「鈴も一緒にやろう…ね?」
「…ん」
 持ち主を真似るように鈴の音もひとつ、控えめに答えた。














 そして三月、合格発表当日。
「なんですのこの人ごみはっ?」
「うう…怖くて見にいけないぃ〜」
 同い年の少年少女とその保護者達でごった返す中庭に、理樹たちの姿もあった。
 謙吾は早々に結果を確かめたのか、今は鈴と理樹を人ごみからかばう盾となっている。
「どうだ理樹?」
「まだ……」
 小さな紙切れを手に、張り出された数字の羅列を一つ一つ追っていく。周りであがる歓声と悲鳴に心を乱されながら、列の半ばまで視線を進めたとき。
「えっと……あ、あーーーーっ!」
 何度も手元と見比べ、間違いがないことを確かめる。そして、晴れ晴れとした、やり遂げた顔で傍らの少年を見上げる。
「あった!あったよっ!ごうかく、ごうかくっ!」
 興奮のあまり言葉が断片となってしまう。謙吾もしっかりと頷いて、手元の紙片を見せる。
「おめでとう理樹。俺もだ、これからもよろしくな」
「うん、うんっ!!」
「あっ……あたしもあった」
 ぽつりと呟かれた言葉に視線を下ろすと、はにかんだ顔と視線が合った。
「鈴も。これからもよろしくね?」
「……ん」
 その鈴の音はかすかなものだったけれど、背後で始まった胴上げの掛け声にもかき消されることはなかった。

「……そういえば真人は?」
「あそこで固まっているぞ?」
 見れば、人ごみから頭一つ突き出た真人が、掲示板の前で彫像と化していた。
 駆け寄った理樹は、頭上から降って来る嘆きの声を聞いた。
「――ぇ」
「え?」
「オレの名前が、ねえぇーーーーーーーっ!!」

 後になって理樹たちは、補欠合格のところに真人の名前があったのを発見した。後日正式に合格の通知が来るまで、真人の筋肉はジャーキーのようにしおしおにしぼんでいた。

「やあ、みんな…こんなうんこ以下のオレの事なんか気にしねぇでくれよ。でも、もしオレのことをまだ仲間だって思ってくれるなら、そうだな、うんこマンとでも気軽に呼んでくれ。『おはよううんこマン』『うんこマン、ジュース買ってきて』『これ運んでくれよ、うんこマン』
 ……うあぁーーーーーーーーーーっ!そんなん耐えられるかーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 卑屈な真人の相手をするのは普段の倍以上疲れた。


[No.938] 2009/02/20(Fri) 23:57:41

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