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No.124に関するツリー
第1回リトバス草SS大会(仮)
- 主催 -
2008/01/09(Wed) 22:19:44
[No.124]
└
M
- ひみつ@超遅刻ついでに半オリキャラ -
2008/01/13(Sun) 13:35:25
[No.132]
└
戦いの終わりは。
- ひみつ@大遅刻 -
2008/01/13(Sun) 00:36:13
[No.131]
└
馬鹿兄妹
- ひみつ -
2008/01/12(Sat) 22:01:01
[No.130]
└
夕焼けに赤く燃える男と男の友情
- ひみつ -
2008/01/12(Sat) 18:20:51
[No.129]
└
そこに○○○○がある限り
- ひみつ -
2008/01/12(Sat) 02:35:57
[No.128]
└
対男子(一部女子含む)用殲滅兵器くどりゃふかまーく...
- ひみつ -
2008/01/12(Sat) 01:51:58
[No.127]
└
感想会ログとか次回とか
- 主催 -
2008/01/14(Mon) 00:35:04
[No.134]
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第1回リトバス草SS大会(仮)
(親記事) - 主催
詳細はこちら
http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/rule.html
この記事に返信する形で作品を投稿してください。
お題は「戦い・バトル」です。
締め切りは1月12日土曜午後10時。
厳しく締め切るつもりはありませんが、遅刻するとMVPに選ばれにくくなるかも。詳しくは上に張った詳細を。
感想会は1月13日日曜午後10時開始予定。
会場はこちら
http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/chat.html
はじめにMVP投票(最大3作まで投票可能)を行いますので、是非是非みなさまご参加くださいませ。
読みオンリー、感想オンリー、投票オンリー、大歓迎でございます。
[No.124]
2008/01/09(Wed) 22:19:44
対男子(一部女子含む)用殲滅兵器くどりゃふかまーくわん
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ
帰ってきた恭介が突然言い出したバトルランキング。驚きはしたけれども誰も嫌がったりはしなかった。どんな無茶なことだって面白くできるのが恭介であり僕らリトルバスターズだ。バトルだからちょっとは危ないこともあるかもしれないけれど、大変な被害なんて起きるはずがない……そう信じていた。
「宮沢さんですか。がんばります」
「はは、お手柔らかに」
「クーちゃん、がんばって」
ポイッ
「よっ。小毬さんありがたくいただきます」
投げ込まれた武器を見た時は誰もが謙吾の勝利を確信していた。その時のクドはランキングの上位にいたけれどそれはストレルカとヴェルカの力があってこそのもの。2匹が昼寝している時点でクドは勝ち目がなかったはず。けれどその時は誰一人知らなかった。クドがそれを使った瞬間それはただの武器を超えてしまった。謙吾をそしてこの戦いを観戦していた多くの人の精神がそれによって破壊された。これはのちに『白い破壊神事件』と呼ばれ、使用を禁止されたある武器をめぐる悲しい記憶である。
小毬さんが投げ入れたミルクバーはあまりにも危険なものだった……
対男子(一部女子含む)用殲滅兵器くどりゃふかまーくわん
〜このわんは数字と犬の鳴き声をかけた高度なギャグなの(プロフェッサーK.I談)〜
「いくぞ」
謙吾の最初の一撃でネットにもがき苦しむ姿を見ているともう勝負は見えていた。たとえ謙吾相手でももっと強い武器だったら勝てるかもしれないけれど、食べ物で勝つなんて無理だと思う。クドも投げ込まれたのが食べ物なのを見て少しとまどっているみたいだ。
「えっとこれは食べればいいのですか」
「食べちゃいなよ、ゆー」
クドは全体的に小さい。当然その口も。そんなクドにはそれは少し大きいみたいだ。だから丸呑みするのはあきらめてその小さな舌でなめとろうとした。
ペロッ
えっと、今のは何だったんだろう。バトルには十分なスペースが必要だから観客は10メートルほど離れている。それなのにまるで僕の耳元でなめたような生々しい音が聞こえた気がする。ネットをかぶせられて身動きが困難な中、わずかに動ける部位を使ってそれをなめる。特別なことでないはずなのにそれはなぜかものすごく……えっと、あの、その、エ、エッチだった。ああ、真面目に謙吾に挑んでいるクドをそんな風な目で見るなんて僕は最低かも。後悔しながら少し周りを見ていると、まるでここだけ音が消え去ったように静まり返っていた。そんな状態が2,30秒ほど続いた。
「エ、エロ」
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
僕の知らない生徒の一言をきっかけに、学校どころか町中に響き渡るような叫び声があげられた。
「お、俺は今一体何を思った!」
ドスドスドスドス
この光景に衝撃を受けたのは僕だけじゃなかった。中でも対戦相手の謙吾は特に衝撃が大きかったらしい。何かを反省するように地面に自分のこぶしを打ち付けている。あまりの威力に謙吾のこぶしからどんどん血が流れていく。自分を傷つけようとしている謙吾の姿が見てられず駆け寄ろうとした僕の肩に手が置かれる。
「待て、理樹。バトル中は二人以外は立ち入ってはダメだという約束だろ。それに今お前に助けられてみろ。謙吾のプライドはもうどうしようもないくらい砕けてしまうぞ」
恭介の言葉にはっとなる。そうだ、今謙吾を助けても謙吾は喜ばない。僕にできるのは謙吾が勝利することを信じることだけだ。どちらか一方に肩入れなんてしたくはないけれど、今ばかりは謙吾の方を応援してみようと思う。ありがとう、恭介。それに気付かせてくれて。でもね、恭介僕は今そのこと以外にもう一つ大事なことに気付いたんだ。どれだけかっこいいセリフを言っていても、クドの様子を見て鼻血を流しながらだとかっこ悪くなっちゃうんだね。
「や、やべ。ちょっと部屋戻って少し抜いてくる」
「おい、我慢しろ。今ここでちゃんと見なければ後悔するぞ」
「お前、部室へ戻ってカメラ取って来い」
「嫌です」
「こんな貴重な映像を逃してどうする」
「そう言うのだったら自分で取りに行って下さい」
「馬鹿野郎。そんなことしたら俺だけ見れないじゃないか」
パァーン
「い、今何て言っての。次回は百合同人でいくなんて」
「ごめんなさい。今だから言いますけれど私本当は女の子を描く方が好きなんです」
「だったら、今までなんで」
「それは……お姉さまがいたから」
ポッ
グラウンド周辺は混乱していた。最初の叫び声をきっかけに徐々に人が集まり、ひょっとしたら全校生徒がこの戦いを見ているのではないかというくらい人があふれかえっていた。クドがミルクバーをなめたり、少し溶けて小さくなったミルクバーを口に含むことの衝撃は相当大きいらしく、様々なドラマが繰り広げられていった。
「なんだかすごいことになっていますね」
「謙吾君どうしたんだろう。お腹空いていたのかな」
この混乱の原因……ひょっとしたら元凶の方が正しいのかもしれないけれど、小毬さんは何でこんなことになっているのか全然気づいてないようだ。でも説明もしづらいことだしどうしよう。
「いやはや、小毬君の発想は恐ろしいものがあるな。このような手があったとは。今度またこの手を使ってみよう」
「直枝さん、またいつか恭介さんと戦う時が来たら必ず投げ入れますから。ぜひ受け取って下さい」
「受け取らないから」
「直枝さんが受け取らなかったら落ちて食べられなくなってしまいます。食べ物を粗末にするのはいけません」
「食べ物で戦うのが一番粗末にしているから」
「細かいことを気にしてはいけません」
いつの間にかリトルバスターズのみんなで固まって観戦していた。恭介はこの光景を一瞬たりとも逃さないくらい目を大きく見開いている。真人はちょっと複雑な表情で謙吾の様子を見ている。鈴や小毬さんはよくわかっていないらしい。来ヶ谷さんと西園さんは何かを考えているようだ。葉留佳さんはちょっと意外かも。顔を少し紅くして恥ずかしがっている。こんな様子にもみんなの特徴が出ててちょっと楽しい気がする。
「どうした、理樹。何だかこうもやーとっした顔しているぞ」
「鈴君、それは違うぞ。この場合は萌えーっとした顔の方が正しい」
「そうなのか。じゃあもえーっとした顔だ」
うわあっ僕そんな顔していたのか。謙吾を心配しているようで、やっぱり無意識にクドを見て興奮していたのだろうか。そう考えるとこれだけ騒がれているのに落ち着いている真人はすごいと思う。
「真人はその、クドを見て何とも思わないの」
「ひょっとしたら今この場にいる男子の中で真人君が一番落ち着いているのは。しかしこの場合むしろ落ち着いていることの方が問題か」
「ライバルに対する複雑な感情を内に秘め第三者との戦いに勝利するのを信じる……井ノ原さんに対するポイントを少しプラスしておきます」
「おい、何だか俺のこと変な風に思ってないか。俺だってなんで今クド公が騒がれているかわかるし、今のクド公をちょっとエロいなとか思うぜ。ただ俺は謙吾みたいなむっつりじゃねえってことだ」
「たしかに、以前よりはずっと良くなったとは言え元々謙吾は自分のうちに溜めておくタイプだからな。もう少しこっち方面の話でもオープンになった方がいいと思うけれど」
「はあ……ですがあちらの方みたいになられるのもどうかと思いますけれど」
「私には何も見えません」
その言葉を聞いて僕は葉留佳さんが目をそらした方に目を向けた。
「あぁぁーん、クドリャフカ。あなたは最高よ。お願い、佳奈多さんてちょっと切なげに言って」
「わかりました。か、佳奈多さん」
「いいわ。クドリャフカ。あなたを食べさせて」
今この場で一番クドに夢中になっているのはどう考えたって佳奈多さんだろう。どれだけ混乱してても他の人はある程度距離をとることだけは守っている。超至近距離で写真を撮りながら様々な要望を口にしている。ここにいる誰もがクドの様子に色々思うことがあると思うけれど、それでもさすがに佳奈多さんの様子にはドン引きしている。そんな話の間もバトルは進み、謙吾は意識をしっかり保とうと頭を地面に打ち付けていた。
『ああ……古式か。すまない。どうやら俺はお前のことを忘れて……えっ!? 自分の思い違い……武道ばかりやってて男を見る目がなかっただって』
「うおおおおい! こんな理由で成仏しないでくれ!」
地面にガンガン頭を打ち付けていた謙吾が前のめりに倒れそうになったとき、ついにこの戦いに決着がつくのかと思った。しかし終わらなかった。謎の叫び声をあげ謙吾は再び立ち上がった。
「負けられない。絶対負けられない理由が俺にはある。たあーっ!」
謙吾はそう言ってクドに絡まっていたネットを力いっぱい引っ張った。その威力でクドはまるでコマみたいに回され手にしていたミルクバーを空中へ手放してしまった。
「かっ……」
ペチャ
「わふー。気持ち悪いです」
放り投げられたミルクバーは奇跡ともいえる絶妙な角度でクドの胸元の隙間に入り込んだ。取り除こうとボタンを外している暴れているうちにクドは謙吾のそばで倒れこんだ。
再び会場が静まり返ったようになる。あまりのことに頭が付いていけなくなっているけどがんばって状況を整理してみる。クドの胸元は少し開かれ、口の端と胸元そして取り除こうとしているうちに手にも少しミルクバーの白い液体が付いている。クドは気持ち悪かったのか少し涙目になっていて、地面にペタンとなって謙吾を上目使いに見ている。それは謙吾はもちろんだけど周りで見ている僕らにも威力が大きすぎた。ようやく頭が追いついた瞬間激しい衝撃が体中を駆け巡る。謙吾だけでなくその場の多くの人に測定不能のダメージを与えたそれによって、僕は、いや僕たちは意識を手放した……
「しょーごー・ふぉー・ゆー! とぅーゆー! なのですっ」
謙吾は『女房に逃げられた旦那』の称号を得た!
「うおおおっよりによってそんな称号!」
「ちょっと待って!」
僕の止める声も聞こえないかのように泣きながら謙吾は駆け出して行った。まだ昼休みとかはもうでもいいらしい。
「これはあまりにも危険すぎる。能美、いや能美だけじゃなく全員に言う。今後ミルクバーは使ってはならないぞ。いいな」
真剣な目で恭介はそう宣言する。でもやっぱり鼻血を流しながらだときまらないよね。
「それとこんな危険なことをした能美をほっておくわけにはいかない。特別に称号をつける」
「はあ、なんだかよくわかりませんけれどわかりました」
クドは『白い破壊神』の称号を得た!
翌日恭介と鈴の戦いに小毬さんが投げ込んだ魚肉ソーセージが、再び大きな悲しみを生むことになったけれどそれはまた別の話。
[No.127]
2008/01/12(Sat) 01:51:58
そこに○○○○がある限り
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ
今、僕の目の前には、おっぱいがある。
けれど、揉むべきか揉まざるべきか――それが問題だった。
そこに○○○○がある限り
「リキ、後で手伝ってほしいことがあるのですが……」
朝、教室で顔を合わせたクドにそう言われ、僕は「いいよ」と頷いた。
話によれば、古くなったテーブルやら何やらを取り換えたいけれど、どうしても一人じゃ運べそうにないから人手が必要らしく。ルームメイトの佳奈多さんは風紀委員会の活動で忙しいだろうし、なるべく早いうちにやっておきたいから僕に白羽の矢を立てたようだ。女子寮から校舎の旧家具部の倉庫まではかなり距離がある。確かに女の子の細腕では、捨てに行くのも一苦労だろう。クドなら尚更。
ということで、放課後に僕がクドの部屋まで足を運ぶことになった。
何だか当たり前のように女子寮に入ることに対して、クドも含め誰も言及しないってところは正直どうなのかなと思うけど、信頼されてると考えれば、それは喜ぶべきなのかもしれない。いやまあ、男として見られてない可能性もあるけどね……。
とにかく授業が終わってすぐ、一旦自分の部屋に荷物を置いてから、僕はクドの部屋に向かった。
相変わらずというか、懲りずに突撃しようとしては竹箒やトンボの柄でドスドスと突かれている男子生徒を横目に玄関へ踏み入る。今回は誰と一緒ってわけでもないのに、やっぱりすんなり通してくれた。見当違いな恨みがましい視線を背中に感じながら、僕は苦笑する。入口の女子生徒に軽く会釈をし、少しだけ早足で急いだ。
何度か来たことのある部屋の前に差し掛かり、一応礼儀として軽く二回ノック。頻繁とは言わないまでも、人の行き交う廊下に立って、ドアが内側から開かれるのを待つ。
でも、しばらく待ったのにもかかわらず、開かないどころか返事の一つもなかった。
「……あれ、おかしいな」
クドは部屋にいる、って自分で言ってたはずなんだけど。
もう一度ノックを繰り返してみる。それでも返事はなし。
首を傾げ、ちょっと迷って、僕はノブに手を掛けた。……鍵が掛かってない。
「入るよ、いいね?」
念のため最後に確認の言葉を投げかけ、ノブを握る手に力を込める。前に押したドアは呆気なく動いた。
躊躇いを覚えつつも中に入ると、部屋のどこにもクドが見つからないことに気付く。
代わりに目に留まったのは、視界の左側に並ぶ二つのベッド、その奥の方だった。
「佳奈多さん……?」
何故か、風紀委員長として校内を忙しなく見回っているはずの佳奈多さんがここにいた。
入口先に立つ僕に背を向ける形で、掛け布団も被らず横になっている。起きる様子がないから、たぶん眠ってるんだろう。寝息は全く聞こえないけれど、特にうなされたりしているわけでもなく、割と深く寝てるのかな、と思った。
現に、僕が近付いても一向に目覚める雰囲気がない。そろそろと正面に回ると、佳奈多さんの顔が目に入る。普段よく見せているものとは違う、どこか無垢で穏やかな表情だ。
長い睫毛がぴくりと動いて、佳奈多さんは小さく、ん、と声を漏らした。
「………………」
しばし、その姿に見惚れる。
理由はわからないけど、クドは戻ってきてないみたいだからどれを運べばいいのかわからないし、とりあえずここで待つのがいいように思えた。何より、佳奈多さんの珍しい寝顔を眺められるというのは、またとない機会だ。
机の椅子を失敬し、腰を落ち着ける。きぃっ、と僅かに軋む音が響いたけど、佳奈多さんはまだまだ起きそうになかった。
……でも、どうしてここで寝てるんだろうか。考えられる可能性を頭の中で一つ一つ挙げてみるも、勿論それは推測にしか為り得ない。一番もっともらしいのは、疲れが溜まってたから仮眠を取りに来た、なんてところだけど、絶対そうかと言われると微妙な気もする。
「……それにしても」
佳奈多さんの寝顔は、本当に無防備だった。普段堅物な、隙のないイメージが強い分、余計にそう感じる。
膝を微かに曲げ、胸の前に手を置き丸まるような姿勢で横になった姿は色々と隙だらけで、もし手元にカメラの類があったら迷わずシャッターを切りたくなるほど貴重な状況。正直に言って、不謹慎ながら僕はクドが部屋を空けていたことに感謝していた。
ふと、無意識のうちに右手が佳奈多さんの頬に伸びていて、それに気付き慌てて引っ込める。
さすがに触ったら起きてしまうだろう。心中で冷や汗を掻いていると、
「うぅん……」
悩ましげな声を上げて、佳奈多さんが寝返りを打った。
といっても反対側に身体が動いたわけじゃなく、横向きが仰向けになっただけのことだけど、重要なのはそこじゃない。
胸の辺りにあった手が左右に投げ出され、今、僕の目の前で二つの膨らみが存在を主張している。
しどけなく組まれた足、僅かにスカートがめくれて露わになった太腿、それらは勿論素晴らしい。
でも、僕はどうしても――おっぱいから目を離せなかった。
来ヶ谷さんに隠れていまいち目立ってないけれど、実は葉留佳さんもかなりおっぱいが大きい。となると双子であり、体型がほとんど変わらない佳奈多さんも同じくらい大きいという図式が成り立つ。制服越しにその輝かしいまでの質量を見せつけてくる双丘は、地球の重力に晒されても醜く潰れることなく、美しい曲線を維持していた。
視線を逸らせなくなったのと同時、僕の心に耐え難い衝動が湧き上がってくる。
それは、悲しい男の性だ。あまりにも当然で単純な、原初の欲求だ。
……あのおっぱいを揉みたい。
何故そんな気持ちになったのかは自分でもよくわからない。けれど何が何でもそうしなければならないような、一種の強迫観念を僕は感じていた。まるで目に見えない高位の存在に操られているかの如く、突如胸の中に生まれた得体の知れない感情を持て余していた。
僕の、男としての本能が告げる。佳奈多さんのおっぱいは、間違いなく柔らかい――と。
「……いやいやいやいや」
何を考えてるんだろう、僕は。
一瞬ぴくりと動きかけた腕を下ろし、深呼吸する。
じっとしてるからいけないんだ、という考えに至り、立ち上がって静かに歩き回り始めた。
二人部屋とはいえ、家具が置かれているため決して広くはない空間をぐるぐると何周もしながら、さっきの煩悩を洗い流そうと他のことを脳裏に思い浮かべる。……それにしてもクドは遅い。どこに行ってるんだろうか。
「………………うぅ」
けれども考え事の数には限度があって、結局僕は誘惑に抗えず、再び佳奈多さんの前に座るのだった。
ああ、見れば見るほど惹かれてしまう。静寂が支配する中、佳奈多さんが時折微かに身じろぎするたびにおっぱいは揺れ、その光景が僕の脳髄を痺れさせる。音はせずとも、ぷるるんと柔らかな音色が聞こえてくるような気がした。制服に押さえつけられていてもなお、震える胸。
思わず僕は手を合わせて祈った。今この瞬間、佳奈多さんのおっぱいには神が宿っていた。
……もし触れることができたら、どれだけ幸せなことか。あまつさえ揉んだのなら、僕は涅槃を垣間見られるのか。
抗い難い、もうほとんど飢えにも似た心の訴えに、また腕が動きかける。――だめだ、まずい、自制しなきゃ。ここは最後の境界線だ。仮に僕が佳奈多さんのおっぱいに手を出したとして、その後どんな展開が待っているかは想像に難くない。瞬く間に変態の烙印を押されるだろう。おっぱいとは、わざわざそんな危険な橋を渡ってまで揉むべきものなのか。
「耐えろ、耐えるんだ僕……」
呟き目を閉じてみるも、いつの間にか瞳の裏に焼きついて離れなくなっていた。
決して遠い場所にあるのではなく、立ち上がり、身体を前に傾け手を伸ばせば届く距離だ。その事実が、僕の心に迷いを生み出している。ごくり、と生唾を飲む自分の喉の音が、殊更よく響いた。
「んふ……ぅ」
二度目の、鼻に掛かった悩ましげな寝言とも取れない声。
しかし実に寝相が綺麗な人だった。寝返りに近い動きはしたものの、ベッドの中心からはまるでズレることがない。だからこそ仰向けの姿勢も保たれているわけで、僕は眠っていてもきっちりしている佳奈多さんに頭の中だけで称賛を贈った。
それと共に、僅かな優越感も覚える。厳格な風紀委員長として、おそらくは大半の生徒に認識されている佳奈多さんの新たな――ルームメイトのクドくらいしか知らないであろう一面を目の当たりにしていることに、正直言えば、興奮を隠し切れなかった。
あまりにも隙だらけの姿を、佳奈多さんは僕に晒している。そう考えると自然に心臓が激しく高鳴り、尋常でない鼓動が右手にも伝播したのか、小さく震え始めた。慌てて左手で押さえるも、一度身体に宿った熱は到底誤魔化せるものじゃない。
「く、ぅ……」
最早これは、戦いだ。自分自身との孤独な戦い。
他の誰にも止められることのない現状において、僕の理性を持たせられるのは僕だけだ。獣のように暴れる本能を叩き潰し、己に勝って初めて、僕はいずれ目覚めるであろう佳奈多さんに爽やかな挨拶の言葉を述べられる。
けれどもし己に屈してしまえば……予想し得る結果は、想像するまでもない。
落ち着け、落ち着くんだ……。深い呼吸を繰り返し、荒れ狂う胸の弾みを徐々に鎮め、いつもの自分を取り戻せばいい。
そう言い聞かせ、目を閉じ考えた通りの行動を現実でなぞり、ゆっくりと瞼を開いた時、
「ん……ふふ」
佳奈多さんが再度、僕の方へ寝返りを打った。夢を見ているのか、花咲くように頬が緩み、信じられないほど優しい笑みを浮かべる。が、僕が視線を外せないのはそこではなかった。
――天井側の腕、つまり右腕が、ベッドに挟む形でおっぱいを押し潰している。
絶妙なバランスを保っていた双丘は、今やその美しくすらあった形を歪めていた。細い腕は重力に従っておっぱいに埋没し、さらにベッドの方へ押しつけているため、制服の上からではわからなかった谷間を強調するのに一役買っている。僕にはそれが、まるで揉んでくださいと哀願しているようにさえ思えた。
どうにか平常に戻したはずの心臓がどくんと強く跳ね、あっという間に喉が渇く。
理性の糸は、気付かないうちに音もなく千切れていて、僕を突き動かすのは、ただ、佳奈多さんのおっぱいを揉みたいという純化した衝動だった。
あと十センチ。五センチ。四センチ。三、二、一……。
ふにゃり、と。
片胸を鷲掴みにした五指に、手のひらに、布の生地の存在を忘れるほど柔らかい、脳がとろけそうになる感触。
ああ、本当に、生きててよかった――
「……何を、やっているのかしら。直枝理樹」
「あ、…………えっと、その」
「遺言を聞いてあげるわ。三秒以内に述べなさい」
「最高のおっぱいでした。できればまた揉ませてくだs」
「死ねこの変態があああああああああああああああああああああっ!」
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!」
そして、女子寮に佳奈多さんの怒号と僕の絶叫が響き渡った。
直枝理樹 ×(地獄の九所封じ→地獄の断頭台 三秒)○ 二木佳奈多
ちなみに、クドは家庭科部の件で寮長さんに呼び止められていたらしい。
……もっとも、それを僕が聞くことができたのは次の日のことだけど。朝までずっと起きられなかったし。
あと、何故か佳奈多さんは部屋でのことを誰にも言わなかったようだった。代わりにしばらく口を利いてくれなくて、みんな(特に葉留佳さん)に何かあったのかと勘ぐられたけれど、何でもないと嘘を吐いておいた。勿論公言できるはずもない。
うん。また次回、機会があったらチャレンジしよう。
おっぱいとは、全ての男が等しく抱く、夢と浪漫を内包するものなのだから――。
[No.128]
2008/01/12(Sat) 02:35:57
夕焼けに赤く燃える男と男の友情
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ
「ねぇテヅカ、今日は何して遊ぶ?」
鈴が理樹君と一緒にどこかに行ってしまってからすぐ、イルファンがおずおずと脇から顔を出した。こいつはいつもそうだ。引っ込み思案というか、なんというか。
「そうだなぁ……」
周りを見回すと、みんなわらわらとここから離れていくところだった。僕らは元々そこまで団結しているわけではない。鈴が僕らの前に顔を見せる時には必ず顔を見せること。僕らの中で暗黙の了解といえるものは、せいぜいそれぐらいだった。
イルファンは僕の脇でびくびくと僕の方を見ている。まるで僕の顔色を伺っているように。僕は彼から見えないように溜息をつく。別に悪い奴じゃないんだけど、なぁ。
「天気もいいし……」
「うん」
やっぱり、あそこがいいか。どうせどこへ行こうとみんな結局あそこに行くのだから、面倒がない。
僕は、立ち上がって伸びをする。頭から尻尾の先まで。
「行こうか」
「どこへ?」
決まってる。最近の僕らの溜まり場だ。
「野球場」
野球場に着くと、そこには先客がいた。
「やー! テヅカー!」
にゃあっ、と一声鳴いて、とっとことっとこ駆け寄ってくるのはシューマッハ。僕より先輩の牝猫で、僕が新入りの頃から何かと僕を可愛がってくれる。たまにお姉さん風を吹かそうとしてくるのが、どうにもうっとうしいような、くすぐったいような。まぁシューマッハも猫らしく飽きっぽい。結局長くは続かないので、気にならないといえば気にならない。
「今日はヒットラー、嬉しそうだったねぇ」
「ヒットラー、羨ましかったなぁ……」
僕の斜め後ろからイルファンの呟き。イルファンは鈴に遊んでもらうのが、人一倍大好きなのだ。今日重点的に遊んでもらったのはヒットラーだったから、今日のイルファンにとって、ヒットラーは羨望の的というわけだ。しかし、イルファンのやつ、そう思うならもっと積極的に鈴によって行けばいいんだよ。いつもおどおど、みんなの後ろをうろちょろしてるから折角の構ってもらえるチャンスをみすみす逃したりするんだ。でも、鈴は普通の人とは違うから、そうやっておどおどしてるイルファンの心すら読み切ったかのように手を差し伸べてくれる。
「確かに、今日の鈴はいつもより長く遊んでくれたような」
「でもそのせいで理樹っちに、迷惑かけちゃってたみたいだね」
「あれ、理樹君はそんなに待ってたの?」
「うん。あたし見てたもん。理樹っち、けっこ前から見てた」
シューマッハが言うなら間違いない。シューマッハは見てないようで周囲の様子を見てる。視野が広いっていうのかな。みんなのお姉さん猫としての自覚がそうさせてるのかもしれない。
「彼もさ、苦労人だよねえ……」
他人事ながら、超同意。まぁ、僕らとしては鈴に遊んでもらったほうが楽しいに決まってるので、そんなに気にするわけではないんだけど。
「そういえば」
シューマッハが思い出したように口を開いた。
「あの新入り君は?」
「レノン君のこと……?」
珍しくイルファンが口を挟んだ。
レノンとは、最近入った一番の白毛の新入りだ。イルファンにとっては初めての後輩で、一生懸命彼と話そうとしている彼女を何度か見たことがある。
「新入り君の尻尾に結ばれてた紙。鈴ちゃんは何やらそれに執着しているみたいだったよ」
「執着ねぇ……」
そこまでとは思わなかったけど。鈴がその紙っきれを気にしているのは確かなようだった。
「イルファン、レノンはなんか言ってた?」
ぷるぷる。首を横に振るイルファン。
「レノン、教えてくれなかった……」
「そっか」
レノン。僕らの名付け親でもある恭介さんが連れてきた彼は元々孤独を好む傾向にあるのか、僕らの中にいまだ馴染まずにいた。もちろん僕らは猫だから、そういう性格をしている奴は珍しくない。僕らのように大勢でつるんでいる猫の方がもしかしたら少数派なのかもしれない。けど、恭介さんに名前をもらい、鈴に面倒を見てもらえば、どんな壁があろうとも僕らは仲間になれたはずなんだ。まるで、鈴たち五人のように。
そんなことを話しているうちに、わらわらとみんなが集まってきた。
「もう時間みたいだね」
ぴょんっと、シューマッハが立ち上がった。僕らもそれに倣う。けれど、僕の中にはどこか釈然としない気持ちがわだかまっていた。後でドルジのところにでも行ってみるか。彼なら、何か知ってるかもしれない。
「さ、今日もいっしょうけんめー遊ぼう! やー!」
青空の下、グローブを手にした鈴の姿が瞳に映る。僕はさっきまでの気分を忘れたかのように、シューマッハの声に合わせて「やー!」と大きく声を上げた。
☆ ☆ ☆
「うなぁ」
ドルジはいつもと同じように地面に突っ伏したままで、およそ猫とは思えない唸り声をあげていた。本当にアザラシなんじゃないかと僕らの間でひそひそ話されたこともあるが、どうやら本当に猫らしい。
「ねぇ、ドルジは何か知ってる?」
「……うなー」
ドルジは迷ってるのか、馬鹿にしているのか、それとも本当に僕の声が聞こえていないのか、判別がつかない。厄介な奴だ。しかし、間違いなく僕らの中では一番の年長者だ。しかも、彼だけは恭介が連れてきた猫ではなく、元々この学校に住み着いていた猫らしい。ドルジに次いで最古参のアリストテレスがそう教えてくれたことがある。
「うな、ごめんごめん。眠くて。うなぁ……」
「ドルジは一日中寝てるじゃないか。まだ眠いの?」
「うな」
超スローモーションで頷くドルジ。
「それにね、わしも知らないよ。新入りのレノン君のことだったよね、確か」
「うん……そっか、ドルジも知らないんじゃしょうがないなぁ」
「彼、ちょっと変わってるよね」
アンタがそれを言うかーと口に出そうになったが「なご」と言葉を濁しておく。
「実はね、君だけじゃなくて、ファーブル君やオードリー君も彼のことを聞きに来たんだ」
「えっ、いつ?」
「ついさっき」
「わしは話を聞いてただけなんだけどね、彼、あんまり立場が良くないみたいだね」
はっとした。悟られないように頷いたつもりだったが、ドルジの目はきっと誤魔化せなかっただろう。僕は溜息をついた。
ドルジの言うとおりだった。レノンは仲間内であまり良い評判を立てられてはいなかった。もっと言えば、嫌われていた。必要以上に鈴にべったりくっついて、時には鈴の行動を阻害しているようにも見える。まるで監視しているような。レノンが尻尾にくくりつけてくる謎の紙のことも、仲間内の空気を悪化させるのに拍車をかけたのかもしれない。
「正直、レノンの行動にも問題があると思うよ。僕や、イルファンなんかはそうでもないけど」
「君たちは、優しいからね」
うなぁとドルジは興味なさそうにあくびをした。不思議と腹は立たない。ドルジはドルジなりに僕らのことを気にかけてくれている。そうでなければ僕のことなんか放っておいてさっさと昼寝を再開するはずなのだ。
「わしもね、彼のことはよくわからないけどね。けど」
「けど?」
「けどね、彼はけして悪い奴じゃないよ」
ドルジはのっそりと立ち上がった。喧騒は遥か遠く、辺りには夕闇が近づいていた。ドルジはそろそろ自分の寝床に戻るつもりなのかもしれない。
「君は優しい奴だから、ひとつだけ」
「何?」
「彼のこと、少し気にかけてあげたほうがいいかもしれない。なんだか厄介なことになるかもしれないから」
ドルジはそんな預言めいたことを僕に告げて、たるんだ身体をぷるぷると震わせながら去っていった。実は、同じ事を僕も思っていた。だけど、気にかけるにしても、僕はあの白毛の新入りのことをあまりにも知らなさ過ぎた。ドルジほどに、僕はレノンのことを信用は出来なかった。
ドルジの預言が現実のものとなったのは、それから数日後のことだった。
☆ ☆ ☆
昼食後に中庭隅のひだまりでぼんやりと惰眠を貪っていた僕は、シューマッハらしくない狼狽した声にたたき起こされた。
「テヅカっ! 起きてテヅカっ!」
「にゃい……どうしたのシューマッハ、もんぺちの新味が当たったの……?」
「んなわけないでしょっ! ああんっ、もうっ! 早く起きて! 寝ぼけんな! 行くよ早くっ!!」
「んあっ!?」
カプリと僕の耳を噛むシューマッハ。痛い。痕になったらどうすんだーと抗議しようとした僕の声を彼女の切羽詰った声が遮った。
「イルファンが大変なのっ! 早く来てっ!」
イルファンの名前で僕の頭は完全に覚醒した。ちっぽけな脳みそが高速で回転を始める。
「どこっ!?」
「ついてきてっ」
言うが早いか、疾風のように彼女は駆け出した。シューマッハの名は伊達じゃない。仲間内で最速の足を持つ彼女だ。僕は必死で疾走する彼女のあとを追った。
状況は最悪というには足りなかったが、目を覆わんばかりだった。
「イルファンっ!!」
「テ……テヅカ……?」
イルファンは倒れていた。傍らには明らかに狼狽した仲間たち、それに普段よりは冷静さを失ったように見えるレノンの姿があった。
「おいっ、イルファンっ! 何があったっ!!」
「ボクは別に大丈夫だよ……それより、レノンが、いじめられて」
どう見ても、いじめられていたのはレノンではなくイルファンにしか見えなかったが、まぁそんなことはどうでもいい。とにかくこれは、ドルジが危惧したことが現実になったということなのだろう。仲間の不義に対する粛清。急進派が動き出してもおかしくはないタイミングだ。仲間になってからまだ日が浅く、まだ僕以外の猫と親交を深めていないイルファンがわけもわからずに間に入ってとばっちりを食ったのだろう。
「やったの、誰だよ」
「テ、テヅカ……そんなに怒らなくても」
「ゲイツ、お前は黙ってろ。多分お前じゃないだろ、やったのは」
気が小さいゲイツがそんな攻撃的なことをするとは思えない。
「俺らだよテヅカ」
ずいっと一歩前に出たのは、ファーブルとオードリー。仲間内でも運動神経に優れた二人組み。僕が行く前にドルジのところにレノンのことを相談に行ったという話だったが。比較的話が通じそうなファーブルに向き直る。
「ここまですること、ないんじゃないか」
「……イルファンのことに関しては謝る。彼女がまさかあんなに強引に割り込んでくるとは思わなかったんだ」
「イルファンのことだけじゃないよ。レノンに対しても、だ」
僕とファーブルを遠巻きに見ているレノンがぴくっと身体を震わせた。視界の隅にいる彼は、どこかうろたえているように見えた。
「そいつは……疫病神だ」
穏やかでない言葉に、ぎくりとする。隣にいるオードリーも「お、おいファーブル」といさめるようなそぶりを見せる。
シューマッハ。
僕は彼女に目配せをした。敏い彼女はそれで全てを了解したようだ。
「さ、みんな。もう時間だから野球場に行こう。イルファンちゃんも。ね、立てる?」
「う、うん……」
シューマッハはみんなを連れて野球場の方に歩いていった。イルファンだけは心配そうにこちらをちらちらと振り返るが、早く行けと前足で合図してやると、すごすごとシューマッハが連れた一団に加わった。後に残されたのは、僕とファーブル、それにレノン。
「お前だって気付いてるだろ、テヅカ。そいつが来てから、どんなことが起こってるか」
分かっている。レノンが来てから、何かがおかしい。鈴は前ほど一緒に遊んでくれなくなった。放課後だって、前までなら僕らと遊んでくれていたはずなのに、野球なんてスポーツを始めてしまうし。妙な紙を見て理樹君と何かしてるんだとして、そのせいで鈴が遊んでくれなくなったとしたら、全ての原因をレノンという新入りが運んできたのではないか。そう、考えるのは別に不思議なことではない。僕だって、そう思ったことがないわけじゃない。実際に実行するか、そうでないかの違いでしかない。
僕の迷いを見て、ファーブルの昂ぶりが若干冷めたのかもしれない。少し落ち着いた口調で
「レノン、お前が悪いわけじゃないのかもしれない。もしもそうなら今やったことも全て謝ろう。本当の所、どうなんだ? あの紙は、一体何なんだ」
レノンは答えない。見ると、尻尾の先がぶるぶると震えている。何かを知っている。そう確信させるに十分な反応だった。しかし、レノンはぎゅっと口を結ぶと決然とこう言った。
「言えない……!」
「なんだと?」
「言えないって、言ったんだ。ファーブルさん。私は言えない」
ファーブルの頭にかっと血が上るのが視認できるようだった。危ない。ファーブルはこのままだと彼にまた暴力をふるう。そんなことは認めるわけにはいかない。僕らは仲間だ。仲間は仲間に暴力などふるわない。喧嘩することくらいはあるかもしれない。だけど、これは喧嘩じゃない。
「テヅカ、どけ」
言われてから僕ははっとした。僕は無意識のうちにレノンをかばうように立っていた。僕の背後から息を呑む様な声がした。
『けどね、彼はけして悪い奴じゃないよ』
僕は、ドルジの言葉を思い出していた。僕はドルジの言うことが不意にわかったような気がした。
「レノンは、僕らの仲間だ」
ドルジが僕に言いたかったのは、そういうことじゃないのか。こいつがどんなやつか、僕はまだ知らない。けれど、こいつは恭介さんからレノンという名をもらい、鈴に面倒を見てもらい、一緒に遊んだ。そういう猫のことを、僕らは仲間と呼ぶ。
「ファーブル、勝負だ」
「なんだと?」
「君が勝ったら、レノンのことは君に任せる。でも、僕が勝ったらレノンのことは僕に任せてくれ」
ファーブルは無言で僕を睨んだ。彼は今、僕の言葉を吟味している。僕の言葉がどういう意味を持つのか、どういう結果を生むのか。彼をその先を思っている。
「わかった。それで、どうする」
「ついてきてくれ」
僕は二人を先導して歩き出した。
「テヅカさん」
不意に隣に並んだ影。レノンだ。
「ごめんなさい、迷惑かけて」
「別にお前のためじゃないよ、レノン。それに謝る必要もない」
「……え?」
僕はそれ以上口にせず、レノンを置き去りにして歩みを少し速めた。
目指すは――野球場だ。
ルールは簡単。鈴たちがやってる練習に混じっていつも僕らがやっていること。飛んできたボールをキャッチして、守備に取らせないように妨害する。これは、遊んでくれない鈴に対するいやがらせとして、シューマッハが考え出したことだ。まったく子供じみていて、笑える。ボールを取られた時の理樹君の顔と鈴の怒りっぷりが傑作なんだ。
つまり、こういうことだ。
僕とファーブルで、多く球をキャッチした方の勝ち。他の猫がキャッチした分はカウントせず、自分の身体で止めたボールだけをカウントする。
野球場についた僕は早速シューマッハに事情を説明する。他の猫全てに説明する必要はない。これは僕とファーブルの間の勝負なのだから。全て理解したシューマッハは球のカウントとジャッジを担当してくれることになった。
勝負は二十球の間に決する。僕とファーブルの間の緊迫した空気を嗅ぎ取ったのか、みんな僕らから一歩引いた位置取りをする。
「それじゃ、はじめるぞ!」
恭介さんの声が野球場に響き渡る。
僕らの勝負が始まった。
所詮僕らは猫、僕らの守備範囲などたかが知れている。自分のところに飛んできたボールをいかに取りこぼしなくキャッチするか。前に守り過ぎても頭を越されるし。後ろに守りすぎても、こちらまで飛んでこない。
敵はファーブルだけではない。他の猫たちもそうだし、守備要員だって僕らの敵だ。彼らに取られたら一応ラリーは続くことになっているが、それは確実ではない。理樹君が打ち漏らすこともあるし、次に飛んでくる球は僕の居るほうに来ないかもしれない。あさっての方向に飛ぶならまだいい。それなら取れないから、僕とファーブルはイーブン。しかし、次に飛ぶ方向が間違ってファーブルの守備範囲にあったとしたら、それはもう既に失点なのだ。
つまり、この勝負は好球必捕と、理樹君の打球予測、それに則したポジション取りが明暗を分ける。
僕は理樹君の最近の傾向と打力を考えて、ショートに位置する来ヶ谷の少し前にポジション取りすることにした。サードには恭介さんがいて、理樹君にとって、この三遊間は取りこぼしのない区間である。わざわざ流してライト方向に打球を飛ばすメリットは少ないはず。
ファーブルは僕のポジション取りを見て、セカンドの少し後方に位置した。ライトにはそこそこ守備に信頼感のある三枝葉留佳がいて、鈴の投球にさしこまれた理樹君が苦し紛れに狙いそうなところ。僕よりも身体能力が高く、守備範囲の広いファーブルならではの選択だった。
勝負は概ね互角に進んだ。僕とファーブルの選択は間違っていなかったらしい。他の猫にはほとんど触れさせることもなく、長くラリーを続かせることもなかった。
勝負が動いたのは十八球目の前。今までセカンド付近にいたファーブルは突如僕の前を横切り、サードにいる恭介さんの前に位置した。今のところ点差はない。あと三球で決着をつけなければならない。一球目に最も信頼感のある恭介さんの方向を理樹君は狙う。そう判断したということか――
キィン!
僕がファーブルの行動に気を取られている間に理樹君が打った。打球は見事サード正面。ファーブルはジャンプ一番、難なくそれを捕球した。
これでファーブルが一点リード。勝つためにはもう一球も逃せない。ファーブルが取った球を無視するように鈴のモーションが始まる。
その時鈴のグラブの内側が僕の目に入ったのは幸運だった。あの握りは4シーム、ライジングニャットボールの握り――
「うおおおぉぉぉ――――っ!!」
考えるよりも先に身体が反応する。重力に反して浮力を得る鈴の魔球、理樹君のバットはかろうじてとらえるも、打球は力なくセカンド方面への凡フライになる。僕はその球を滑り込みでキャッチする。
「ラスト一球っ!!」
シューマッハの声が聞こえるよりも早く、僕は駆け出していた。最後は恭介さんのところへ。考えていたことはファーブルも同じだった。ファーブルはもう三塁正面で構えている。僕は必死で走るが間に合いそうもない。鈴のモーションは始まっている。
ちくしょう、これで終わりか――
そう思ったその時、僕の頭の中に響いた一つの声があった。
――違う、そこじゃない! お前が今いるところ、そこにいろ!
瞬間、僕は金縛りにあったように動けなくなった。足が止まったのは来ヶ谷よりも三塁よりの少し後方。
理樹君が打った。真っ直ぐ僕の方を目掛けて飛んでくるライナー。ファーブルの位置からでは反応しきれない球速、しかし恭介さんなら容易に届く。打球は無情にファーブルの横を駆け抜け、僕の視界は恭介さんのグラブで遮られる。引き分けが頭をよぎる。そして、僕はまたあの声を聞いた。
――よくやったな。お前の、勝ちだ。
そして、視界が開けた。
恭介さんのグラブに収まるはずのボールはそれをすり抜け僕の身体を直撃した。
ゲームセットと僕の勝利を告げる鈴の怒声が響き、僕は意識を手放した。
☆ ☆ ☆
「恭介さん、あの球捕れたんじゃないかな」
帰り道、シューマッハがぽつりと呟いた。
「どうなんだろうね」
「何よテヅカは当事者でしょー、どうなのよ、本当のところ」
「さぁ」
「むぅ、手ごわい」
シューマッハがまたぶちぶちと僕に文句を言う。イルファンはしきりに僕の身体を心配していた。レノンはそんな僕らの一歩後ろを申し訳なさそうに歩いていた。
そう、あの球、恭介さんが『わざと逸らした』と考えるなら、全ての説明がつく。他にあそこで恭介さんが球を逸らす理由がなかった。『僕を勝たせようとした』とするなら。しかし、僕とファーブルの勝負を人間である恭介さんが知っていたなんて、あり得るのか。いや、恭介さんなら、いやいやそんなはずは――
「どしたのテヅカ、痛む? 痛むの?」
「いや、大丈夫。ありがとイルファン」
相変わらずイルファンは心配性だ。ていうか、元はといえば、こいつが変な男気だすからいけないのか。牝なのに。
そう考えて、そもそもの元凶のことを思い出した。
「あー、そうそうレノン」
「は、はいっ」
「これで君の身柄はめでたく僕のものになった。というわけで、だ」
レノンは表情を堅くした。こうしてみると、みんなに馴染めずにいたレノンだが、実際のところイルファンなんかとそんなに変わらないように見えた。フィルターを通して他人を見るって、こういうことなんだろうな。
「君は今まで通りにしていいよ。言いたくないことは言わなくていいし、別に無理して皆とつるむ必要はない。君の好きにやんな」
レノンは驚きで目を丸くした。
「あ、あの。テヅカさんは、何も聞かないんですか……?」
「だって、言えないんだろ?」
「う……は、はい……」
「なら、余計な詮索はしないよ。誰だって秘密くらいあるものだし、ね。君が言いたくなったら、言えばいいさ」
「あ、ありがとうございましたっ!」
レノンは急に改まって僕らに一礼した。僕らはその姿に、一様に目を見合わせ、そして笑った。
「な、なんでしょう……?」
「いやぁ、ちょっと面白かっただけ。気にしないで」
「そうですか?」
「あーあー! 思い出した思い出した! 君に一つだけ注文があったんだ」
そう言って彼の目の前にびしり! と前足を突き出して言ってやる。
「僕たちはもう既に仲間なんだ。仲間に対して遠慮はなし! 必要以上に感謝するのも謝るのもなし! わかったか? わかったら返事!」
「は、はいっ!」
「よおし! 男と男の約束だっ! 忘れるなよっ!」
そうして、僕らはかんらかんらと笑い転げた。
夕焼けに染まる無人の野球場はがらんとして、なんだか寂しい光景だった。誰かがいるっていうのは、なんて幸せな光景なんだろう。そしてそれが仲間だったとしたら、もう言うことはない。仲間に言えないことはある。仲間だから許せないこともある。けど、ただそこに居てくれるという、それだけのことが、きっと誰にとっても救いなのだ。
オレンジ色の太陽が沈んでいく。一人ぼっちの太陽。背後で聞こえてきた「私、牝なんですけど……」という小さな呟きは僕らの笑い声と一緒に風景に溶けていった。
[No.129]
2008/01/12(Sat) 18:20:51
馬鹿兄妹
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ
最近、理樹と小毬が一緒にいるのをよく見るようになった。
二人の様子からして、彼氏彼女の関係には恐らくまだ至っていないのだろう。でも、互いに憎からず思っているのは間違いない。
理樹の幼馴染として嬉しくもある反面、鈴の兄として少し複雑なところがあるのもまた事実。
あいつになら、鈴を任せられると思っていたから。
ずっと、理樹と鈴が互いに支え合う関係になってくれることを願っていた。それは俺のひどく勝手な期待だったけれど。
理樹と小毬の関係が少し変化していることに、鈴も気づいているようだった。その変化がどんな意味を持っているのかも分かっていたのだろう。あいつなりの遠慮なのか、鈴は自分から理樹に話しかけることをあまりしなくなった。
この半年で鈴は大きく成長した。その結果が理樹から距離を取る鈴の姿なのだとしたら、それは、とても皮肉なことだと思う。
「うー」
「どうした、鈴。筋肉痛か?」
「……どうしてそこで筋肉痛なんて言葉が出てくるんだ、お前は」
「んだと謙吾この野郎、筋肉痛なめんなよ!」
「うっさいボケっ!!」
鈴の蹴りが真人を襲う。
むしゃくしゃしているのか、普段より幾分力が入っているようだ。
「がふっ……」
脇腹を蹴られた真人が少しわざとらしく声を漏らす。それぐらいの蹴り、本当は防御できないお前じゃないだろうに。真人、お前の優しさはいつも遠回し過ぎる。
鈴はよろめく真人に追撃を加えようとする。
が、その肩を謙吾に掴まれた。
「落ちつくんだ、鈴。そこの馬鹿に当たっても何の解決にもならん」
「うー」
八つ当たりだという自覚があったのか、鈴は素直に攻撃をやめる。
ここのところ鈴が不安定な理由なんて、真人も謙吾ももちろん分かっているだろう。その上で、鈴のフラストレーションが溜まり過ぎないよう気を使ってくれている。
本当に感謝するよ、真人、謙吾。
「……くちゃくちゃだっ! 何かよくわからんがくちゃくちゃだっ!」
叫ぶように言って、またうーうーと唸り出す鈴。うろうろとその辺を歩きまわる。
そんな鈴の様子を見て、謙吾は小さくため息をついてから俺に視線をやった。どうするつもりだ。声に出さず、謙吾は口の動きでそう伝える。
どうすればいいのか。どうするのが正しいのか。鈴の兄貴として。理樹の幼馴染として。小毬の友人として。
よく分からなかった。このまま何もせずに見守るのが一番いいようにも思えるし、それが最も悪い手のようにも思えた。
俺は真人の方を見る。真人は何か言いたそうでも、それどころか、何かを考えているようにさえ見えなかった。あくまでもいつも通りの真人がそこにいた。それは無言の信頼だった。理樹に対する、鈴に対する、俺に対する、絶対的な信頼だった。
そうだ、俺は棗恭介。
リトルバスターズのリーダーで。
そして。
鈴の、たった一人の兄貴なんだから。
「任せとけ」
真人と謙吾に聞こえるよう、小さく、言った。
「よお、鈴」
今までなら理樹か小毬と一緒に過ごすはずの放課後を、一人、猫たちと遊ぶ鈴。
猫に囲まれてなお少し寂しげに座りこむその姿に、俺は声をかけた。
「きょーすけか」
「おう」
「何だ、何か用か?」
「用って程でもないが……鈴、お前、最近ちょっと荒れてるみたいじゃないか」
どういう手段を取るべきか考えて、考えて、考えて、結局真正面から当たっていくことにした。
俺にも鈴にも、それが似合っているような気がしたのだ。
「何か悩みでもあるなら、聞いてやるぞ」
「うっさい、馬鹿兄貴には関係ないだろっ」
「関係ないわけあるか。お前は俺の妹で、俺はお前の兄貴だ。馬鹿だとしてもな」
「うー」
言い返したいけれど言い返せない、といったところか。身体を小さくして、少し拗ねるように鈴は唸る。
確かに俺はいい兄貴ではないのだろう。でも、それでも、俺は鈴の兄貴だった。馬鹿であろうと何であろうと、鈴は俺を兄貴と呼んでくれるのだった。
だから、俺はこいつの力になってやらなければいけなかった。
力に、なってやりたかった。
「……理樹と小毬のことか?」
恐らく自分から言い出せはしないだろう。そう踏んで、俺から切り出す。
鈴は一瞬驚いたように目を見開いて、それから、小さく、こくりと頷いた。
「……この辺が、きゅーってなるんだ」
胸の辺りを押さえて、鈴が言う。
「理樹とこまりちゃんが仲良くしてるのを見ると、きゅーってなって、二人を見たくなくなって、何か知らんがイライラして、わけわからんくなって、もう全部くっちゃくっちゃなんだ」
不器用な言葉に、鈴の気持ちが確かに表れていた。
ああ、そうか。
――お前は、そんなに理樹のことが好きだったんだな。
「鈴」
「何だ」
「お前、理樹のこと好きか?」
「いきなりでよくわからんが、嫌いではないぞ。少なくとも、馬鹿兄貴よりはずっとマシだ」
微妙に傷つく俺。
でも、もちろん、ここでやめるわけにはいかなかった。
「理樹を小毬に取られて寂しいのか?」
「違うっ!」
鈴が立ちあがって言う。
急に動いた鈴に、猫たちは慌てて鈴から距離を取る。
「あ、あたしはそんなに子供じゃない。理樹を取られたからって、そんな……違う……はずだ……」
多分、今、鈴の中では、おもちゃを取り上げられて泣きわめく子供の姿が浮かんでいるのだろう。そんな子供に自分を重ねてしまって、それを否定しようとしているのだろう。
つまるところ鈴は、恋愛対象として理樹を捉え切れていないのだ。なまじ小さな頃からずっと一緒にいる仲間だから、それは仕方のないことなのかもしれない。
でも、客観的に考えられる、理樹と小毬の関係は推測できてしまう。二人の仲が男女のそれに近づいていると理解できてしまう。
だから、自分の気持ちが分からなくなる。今の鈴が抱いている感情は、誰から見ても嫉妬と呼ばれるものなのだけれど、鈴自身はそれに気づくことができない。
だとすれば。
「鈴、お前は、多分、理樹が好きなんだ」
「何言ってんだ。だから、それはさっきも……」
「違う、違うんだ、鈴」
自分の気持ちをしっかりと自覚させてやること。
それが、俺がお前にしてやれることだろう?
「小毬が理樹を好きなのと同じように、鈴、お前も、理樹が好きなんだ」
それをはっきりとさせてしまうのは、兄貴として、少し寂しい気もするけれど。
「……っ!」
目を大きく見開いて。
頬を赤く染めて、それから、俯いて。
鈴を心配しているかのように、猫が集まり、足元に寄り添う。
しばらくの後。
おずおずと、鈴は口を開く。
「そ、そうなのか? あ、あたしは、理樹のことが……す、好き、なのか?」
「お前のことだろう? 鈴、それに答えを出すのは、俺じゃない。お前自身だ」
その反応を見れば一目瞭然なのだが、一番大切なところは鈴自身が自覚しなければいけないはずだ。
「で、でも、理樹にはこまりちゃんが……」
「それは今関係のないことだ。理樹と小毬が付き合っていようと、理樹と真人が付き合っていようと、お前の気持ちをお前が理解するのに、そんなのは全然関係のないことだ」
「……真人とか、そんなきしょいこと言うな」
「……そうだな。俺が悪かった」
すまん真人。悪気はなかった。何ていうか、ノリで。
「それで、鈴。お前は、理樹のことが好きか?」
「……よくわからんが、理樹がいなくなるのは嫌だ」
「このままいけば、理樹は小毬と付き合うだろう。そうすれば今までみたいにお前のそばにはいられなくなる」
「うー」
好き、という言葉が鈴の口からはっきり出て来なかったことを少し残念に思うのと同時に、どこかほっとする自分も確かにいた。
恐らく、口にはしないだけで、鈴は自分の気持ちを自覚したのだろう。
顔を赤く火照らせて、やはり拗ねるように言った。
「こまりちゃんのことは好きだ。でも、理樹を取られるのは嫌だ。……どうすればいいんだ」
それに対する俺なりの答えは既にあった。
理樹と小毬の様子に気づいたその時、すぐに思い浮かんで、必死に消そうとした考えだった。それは、あまりにも勝手なものだったから。
うーうーと唸る鈴。
自覚してしまったからだろう、これまで以上の苦悩が、容易に見て取れた。
許されるのだろうか、と俺は思う。今から俺が言おうとしていることは、上手くいくはずの理樹と小毬の仲を邪魔することに他ならない。
そんなことが、許されるのだろうか。
「おい、そっちから言ってきたんだろ、何とか言え、馬鹿兄貴」
でも。
そう、俺は馬鹿兄貴だから。
「簡単だ」
理樹の幼馴染で、小毬の友人で、リトルバスターズのリーダーで。
だけど、それよりもっと前に。
――鈴の、兄貴なんだから。
「戦って来い、小毬と」
「た、戦うのか?」
「そうだ。理樹をかけた真剣勝負だ。言っておくが、殴ったり蹴ったりじゃないぞ。そんなのは真人や謙吾にやらせておけばいいさ」
「じゃ、じゃあどうやって戦うんだ」
「鈴と小毬、どっちがより理樹に好かれるか。女同士の一騎打ちだ」
「り、理樹に……」
真っ赤になる鈴。
それをとても可愛く思う。少しだけ、理樹が羨ましいとも。
「行って来い、鈴。まずは小毬に宣戦布告だ」
「こまりちゃんに?」
「運動会だってそうだろう? 正々堂々戦うことを誓いますって。ほら、急げ。今こうしている間にも、理樹は小毬のものになっていくんだぞ」
「そ、それは嫌だ……」
理樹も小毬も大切な仲間だけど。
すまんな、二人とも。
俺にとっては、鈴の幸せが、やっぱり何よりも一番大事みたいなんだ。
「じゃあ、行って来い」
「う、うっさい、この馬鹿兄貴」
そう言い残して、鈴はこの場を立ち去る。
猫たちと一緒にその後ろ姿を見送りながら、俺は小さく小さく呟く。
さあ。
戦って来い。
――俺の自慢の、馬鹿妹。
[No.130]
2008/01/12(Sat) 22:01:01
戦いの終わりは。
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ@大遅刻
『マジカル・ラジカル・ドリーミィ。愛と正義の使者、マジカル☆エレガー澪ちゃん、フラッシュアーーーップ。わたしの愛でつつんであ・げ・る♪』
りんかい線にのりながら数時間前のわたしの痴態を思い出して頭がいたくなります。
結局最後までなれることはできませんでした。……慣れたら人間として終わりそうですけど。
別にすきであんな呪文をいったのではありません。これにはのっぺきならない事情がありました。
8月。
待ちに待った、夏コミの季節。わたしは原稿を落としてしまいました。
コミケに作家として参加するのは2度目という超新参者なのに、原稿を落とすという失態を犯したわたしは罰ゲームを受けることになりました。もちろん落とすなんてことをしたらいけないなんてことはわかっていたのですが、どうしてもかけなかったのです。理樹と――最近理樹とは名前で呼び合うようになりました――恭介さんをモデルにしたSSを、どうしても書くことが出来ませんでした。理樹と名前を呼び合う関係になってから、どうもうまくいかなくなったのです。冬コミではちゃんとできたのですが。
まぁそんなわけで罰ゲームとして、コミケ会場およびそこの往復にマジカル☆エレガーの黒崎澪のコスプレをして行動することになってしまったのです。
ピンクの制服に白手袋、黒帽子。昔みたエレベーターガールの衣装そのままです。
衣装がエレベーターガールというのが新しい萌えを呼び出したらしく、1年ほど前、男女問わず人気になった作品でした。……正直、今の日本の萌えに少しついていけません。
本当に恥ずかしかったです。
ただコスプレするだけならまだしも、呪文を唱えるなんて最悪でした。
しかもヒロインの名前がわたしと発音が同じっていうのがまた堪えます。
コミケの場を戦いの場と称されることがありますがわたしにとっては今年はコミケは自分との戦いでした。
いかに恥ずかしがらないという……、この戦いは地獄でした。
まぁ幸いにもこの3日間、知り合いにあわなかったのでまだ良しとしましょう。この3日間、誰にも知り合いにあわなかったことは神様に素直に感謝しています。寮にもどるときも誰もすれ違いませんでした。本当によかったです。
ほしい本もほとんど手に入れられましたしよかったです。そのことを考えると勝利、ということでいいのでしょうか。
そんなことを思いながら、コミケの終わりを実感していました。
戦いの終わりは。
『神様はいないんじゃない、いるけどただ残酷なだけ――』そういったのは誰でしたでしょうか?
そのことをわたしは今、深く、深く実感しています。だって。
「美魚、だよね?」
なんで、こんな夜遅く、こんなところで理樹とあうのでしょうか。あと自室までほんの100メートル、といったところで理樹にあいま
した。こんな姿を一番みられたくなかった理樹に出会うのでしょうか。
わたしの戦いはまだ終わっていなかったようです。しかもコミケ以上に負けられない戦いが!
大丈夫です、コミケに勝ったのだから、これくらいの勝負、わけありませんっ。
なんとかして、ごまかしましょう。
「ひ、人違いです、わたしはどこにでもいるただのエレベーターガールです」
……何言っているんでしょうか、私は。単なるスーツ姿でごまかせたかもしれないのに、なんでこんなことをいってしまったのでしょうか。き、気を落ち着けましょう。と、とりあえずなんとかやりすごせたらそれでいいんです。
「だから人違いです、それともあなたのいう美魚って人は、こんな衣装を着るんですか?」
「美魚は普通着ないけど……」
よし、なんとか、ごまかせそう……。
「……でもこんな可愛いてれた顔を魅せてくれるのは僕は美魚以外しらないから」
……理樹、その言葉は反則です。体が硬直してしまいます。
出会ったときから、理樹はヘタレ攻めだとおもっていた(公式設定)のですが、平気でこんなこといえるのは間違いなく攻めです。こん
なことを平気で言わないでください。と、理樹の顔をみると顔が赤くなっていました。平気ではないのですか……自分でも恥ずかしいのなら、なおさら言わないでください。
「で、美魚は、なんでそんな格好を――」
「だから人違いです」
と、とにかくこの場はごまかしましょう、ほんとに。
明日になればしらばっくれればいいだけです。
そんなことを考えていると、理樹がおもむろに一冊の本をとりだしました。この前わたしが貸した本でした。
わたしに本をポン、と手渡します。
「面白かったよ」
――面白かった、面白かった、面白かった、理樹の言葉がなんどもわたしの中でリフレインされます。
この本が――面白かった――。
「そうですか、面白かったですか。この本の特徴は、トリックが解かれることを前提につくっていることですね。私は普段トリックについてはよく考えないほうですがそれでもこの話のトリックはわかりました。本の中での、西園萌絵と犀川助教授のやり取りの中でも見られるようにこの本はそれを解いた上でどう思うか、です。本のタイトルを踏まえればこの話の最後の仕掛けもお分かりでしょう。ああ、この本のよさがわかるとは、やはり理樹は私の見込んだ人、人、――人違いです」
……うう、はめられました、理樹に。卑怯です、わたしのウィークポイントをつくなんて。
「えーーと、とりあえず、美魚の部屋にでもいこうか。これからいくところだったんだけど」
にっこりと理樹はそういいました。
「はい…」
わたしは、とうとう、観念しました。わたしの最後の戦いは完敗、だったみたいです
「理樹はドSです、わたしがいままで出会った中で一番ドSです」
「……そんなことはないと思うんだけど」
二人で部屋に入り、そういって、理樹は苦笑します。その顔はほんとうにかわいらしいです。
中性的なかわいらしい顔してドSとは本当に、反則です。(だからこそ、やおいSSに最適なモデルなんですがそれはさておき)
たとえるなら、エロゲーの主人公のようです。普段はおとなしいのに、そういうシーンになったら攻めるという…。
わたしだったら理樹を理樹が心いくまで、うけとめ…こほん。
あ、あと、わたしは清楚なのでそういうゲームはやったことありませんよ?そういう知識は、コミケに参加するまでになるとどうしても入れてしまうのです。でもボーイズ系18禁はそのうち……こほんこほん。
「で、どうして美魚はそんな格好をしていたの?」
「罰ゲーム、です、ちょっと原稿を落としてしまって……」
「誰の?」
「……誰の?」
意味がわかりません、そりゃわたしのに…、ああ。
「わたしの知り合いの、です、PCにデータが残っていたから助かりましたが」
理樹は原稿を落とすの意味すらわかっていないようです。
普通の人はあんまり使わない言葉ですしね…、しょうがないかもしれません。
しかし、理樹は無垢ですよね、こういう方面に関して。あまりに無垢で涙が出そうなくらい。
「よかったね」
特に訂正する必要もないですから、そのまま答えます。
「はい、まぁその関係でこんな服を着ているわけですけど」
「どうして、隠したりしたの?」
「理樹、最高にデリカシィに欠けますよ?こんな服装、わたしが好き好んで着るわけないですか」
「なるほどね……でも、そんな服をきた美魚もかわいいよ?」
その言葉に顔を赤くします。自分の顔の体温ってここまで上げることが出来たんでね。
「な、なにをいっているんですか」
「ほんとに、かわいいよ」
そういってにっこりと笑っています。……だからその顔は反則ですっ。もう少し自重してくださいっ。
直視すると、吸い込まれそうで、なんでも許したくなってしまいます。無垢なところと、少し強気な性格がこの笑顔を形成するのでしょうか、そんなことをふと思いました。
「だから、さ…」
「はい……?」
数分後、理樹との最後の戦いが始まりました。
本当はしたくなかったのですがここでもわたしは、理樹の笑顔に負けてしまったようです。
許したくはなかったのですが、許してしまいました。
あの笑顔は本当に卑怯です。
この格好、で、この格好で、この格好で〜。
……何をしたのかは想像にお任せさせします。
終わり。
[No.131]
2008/01/13(Sun) 00:36:13
M
(No.124への返信 / 1階層) - ひみつ@超遅刻ついでに半オリキャラ
「はあ」
身の入らない授業。彼女にとって苦手なはずの古典は、普段は一文字残らずノートに書き写すのだが、どうしても集中することが出来ない。今日はどの授業も似たようにずっとため息をついていた。ノートには、今日の痕跡は何一つ残っていない。誰かに借りるしかないな、と考え、古典を諦めた。
「はあ」
頬に手をつき、外を見やる。他のクラスが体育をしているようだ。種目は100メートル走。そこで小柄な女子が一際目立つスピードで白線の中を駆け抜けていた。
その少女の姿を目に入った瞬間、ビクンと彼女の身体は波打った。息が乱れる。力が入らない。我慢できず、机に突っ伏す。
何故、授業に身が入らないのか。その理由は彼女自身も分からない。
ただ、夜、彼女に会うのが待ち遠しい。
『M』
古典から、そのままホームルームまで。彼女の興奮が落ち着くことは無かった。汗をびっしょりとかき、顔は高潮している。
傍から見れば、身体の調子が悪い人に見える。興奮しまくっているだけなのだが。
「右菜、大丈夫?」
彼女を心配して、同じソフトボール部仲良し三人組の左恵子が声を掛けた。
「あ、うん。大丈夫だから」
「どこが大丈夫なのよ。明らかに調子悪そうじゃない」
右菜の声を聞き、ソフト部三人組最後の一人、中島が突っ込みを入れる。誰が見ても普通の調子ではない右菜を見て、冷たく言い放つ。「今日は部活休め」
冷たく聞こえるが、彼女を知るものであれば、何故自分達に嘘をつくのかという怒りからの物言いなのだが。
「ううん、行けるよ」
「無理だ。ほら、これあげるから」
そう言って、中島が渡したものは、黒ずんだ如何にもゴミにしか見えないものだった。
「これは?」
「佐々美様の練りかけた消しゴムのカス。レモンの香りを放っているから、気分が悪くなったら匂いを嗅ぐとすっきりするはずよ」
「ありがとう」
早速、右菜は匂いを嗅いだ。中島の言うとおり、その物体からはレモンの香りがした。それでいて、奥底には佐々美の汗の匂いまで含まれている仕様に驚く。先ほどまでの興奮もあり、その上更に憧れの佐々美の匂いまで嗅いでしまった右菜のボルテージはMAXまで振り切り、オーバーレブ、メーターは赤色を越え、前人未踏の虹色空間へとのぼりつめる。鼻血は勢いよく飛び出し、穴と言う穴から謎の液体を振りまく。
「ちょ、え? 大丈夫!? 人として大丈夫!?」
「あへへ、ちょっろ興奮しすぎららけらからぁ」
言葉も覚束ない右菜は、なんとか左恵子にふらふらとしつつも返事する。左恵子からティッシュを借り、とりあえず、飛び出した液体を拭き、鼻にもティッシュを詰める。下半身の液体までは、恥ずかしくて言えず、寮に帰ってから恥ずかしいシミがばれないように洗濯をすると心に誓う。
こんなリアルに天国へと旅立てるアイテムをくれた中島。戸惑いながらも、聞いておかねばならないことがある。
「これほんろにもらっへいいろ?」
何を言っているか分からない。中島には通じたようで、ゆっくりと首を縦に振る。
「あげる。その代わり早く元気になること。オッケー?」
「あふぅ……」
「じゃあ、私ら部活行くから。気をつけて帰るんだよ」
「ふぁーい」
興奮しすぎて、もう何がなんだか分からなくなっている右菜。とりあえず、腰砕けになっていて、帰るのに時間かかりそうだなと、人事のように考えていた。
***
まともに立てるようになってから、下校の準備を始める。既に陽は沈み始めていた。
右菜は、自分の馬鹿さ加減に呆れつつも、手際よく準備を進め、足早に教室を後にした。
一人きりで夕日色の廊下を歩く。昼間あれだけいた生徒達は誰もいない。運動部の声は外から聞こえてくるので、不安感は特には無いのだが、妙な気分になる。わくわくするというか、どきどきするというか。知らず、スキップのような足取りになっている自分に気づくと恥ずかしくなったが、誰もいないことを思い出すと、寧ろ自主的に早足からスキップへと切り替えた。
スキップなんて小学生以来だろうか。なんだか楽しくなってきて鼻歌までこぼれだす始末。それでも楽しければ何でもいいのだ。
次の角を曲がれば下駄箱だ。ならば、我がVターンの餌食にしてやろうぞ。
妙な思考に捕らわれ、右菜はスケート選手のような体勢を取り、直角ターンを決める。
「ぎゃっ」
が、決めた矢先、誰かにぶつかってしまう。
ぶつかった反動で右菜も倒れてしまい、腰を打つ。元々低い姿勢で決めたターンだけに身体的なダメージはそれほど無い。それよりも相手だ。
視界の端に映ったのは、長い髪の少女がごろごろと転がって、壁にぶつかっていた映像。死んでいないか心配で恐る恐る声を掛ける。
「きゅー」
「え、あ、な、棗さん」
右菜がぶつかってしまった相手は、毎晩寮で壮絶な戦いを繰り広げている相手。憧れの佐々美のライバルである、棗鈴だった。
佐々美のライバルといえば、憎き人物である。佐々美が自分達を見ず、ずっと鈴を見ていることは知っていたし、こちらを見て欲しいと嫉妬に駆られる時もあった。だが、毎晩戦う内に、次第に考えが変わっていく。我侭で子供少女だと思っていた彼女を、ひとつ見直す出来事もあった。そして、あの蹴り。
右菜の視線は一箇所に集中する。それは鈴の太もも。小さい体の、比率としたらモデル並みにすらりと伸びたそのしなやかな白花石膏のような真っ白な太もも。力強さの内にも、女性らしい柔らかさも含んだその足。毎晩蹴られている内に右菜は目覚めたのだ。
蹴られる快感に。
誰にも言えなかった。体育の時間に走る鈴の体操服姿が眩しすぎてじゅんじゅんなったなんて。スパッツ最高だなんて。
スパッツ?
「……」
いや、今私は何を考えた?
『スパッツ抜き取っちゃいなよ』
彼女の中の悪魔がそう呟く。
(いや、でもそれは犯罪じゃ)
『ばれなきゃいいじゃん』
(確かに……)
『ダメです!』
彼女の中の天使が叫ぶ。
『微妙にばれる痕跡を残して後でお仕置きキックしてもらうべきです!』
彼女の中の天使はドMだった。
右菜は覚悟を決めた。
オーケイ。私の中のエンジェル&デビル。これはミッションなのだ。気絶している内にスパッツを抜き取る。モロばれではダメだが、微かに私だと分かる痕跡を残しつつ。
完全犯罪以上の、未完成犯罪。そんな大きなミッションを前に、右菜は興奮で内股になりぷるぷる震えていた。今後のことを考えると……。
いやいや。そう、気を持ち直してミッションに望む。まずはゆっくりとスカートをまくり上げ……。いや、これはスカートを下げたまま抜き取るほうが興奮するのではないのだろうか。間違いない。そのプレイのほうが、お預け感がまるで違う。一人お預けプレイだ!
本格的に目覚め始めた、いや覚醒し始めた右菜を止めるものは誰もいない。
そろそろと、気絶した鈴のスカートの中に手を差し入れる。少し触れてしまった太ももが柔らかすぎて、一瞬気が遠くなったが、それも焦らしプレイのひとつと考え、幸福から逃げるように手を深く強くスカートの中へと進める。
集中。
頭の中でスカートの中をイメージし、そのイメージどおりに手を動かす。微かなミスも許されない。全て、理想郷のため。ハイキックパラダイスのために。
今までの人生で一番の集中力を発揮する右菜。そして、遂にスパッツの下腹部部分へと手が届く。あとはこれをゆっくりとずり下げるだけ。
1センチ。1ミリ。繊細な指使いが試される。今の彼女の指は、ベテランのパンツ職人並みへと昇華された。
スカートからゆっくりと黒いスパッツが姿を現す。それを目にした瞬間、彼女の思考はホワイトアウトしかけたが、それでも持ち直す。 このスパッツお持帰りぃ!
「んん」
ビクビク!
気絶しているはずの鈴の口から吐息が漏れる。が、起きる気配はまだ無い。ふう、と額の汗を拭う。
「鈴。まだ忘れ物見つからないのー? って、え?」
「え?」
時間が止まる。右菜は考えてもいなかった。下駄箱の前というポジショニングで誰かに見つかってしまうということを。普通の思考を持っていればそんなこと誰だって気づくはずなのだ。こんな公共の場所で何をしとるか、と。だが、スパッツ、ハイキックというスウィーツを見せ付けられた右菜には、目の前の人参しか見えずに突っ走るサラブレットの如く、止まることなんて考えもしなかったのだ。
他人にこんな場面を目撃されたら、それこそ犯罪者の烙印を押されてしまう。それだけは避けねば。避けねば!
「ナーウッ!」
「カッパーフィールド!」
走馬灯時に発揮されるような集中力により、職人から仙人レベルまでの超進化を遂げた右菜の指先は、鈴のスパッツを一瞬で引き抜く。そして、それをポケットにイン。
「サプラーイズッ!」
「ぎゃー! 目がー!」
目潰しをした後、目撃者の腕を取り、後ろに回りこむ。そして、人差し指を背中に突きつける。案外、これだけで何を突きつけられているか分からないもので。
「あら、あなたはいつも棗さんといる直枝さん……」
目撃者は、いつも鈴のそばにいる男子、直枝理樹だった。軽い嫉妬を感じ、右菜の中の悪魔がちらりと顔を覗かせる。
「う、あ」
「ふむ、あなたなら分かるでしょ? あなたは何も見ていない」
「あ、あ」
日本語を忘れてしまったように直枝理樹は、必死に首を縦に振った。
「ならば、開放しましょう。でも、もしも口外したら、その時は……」
理樹の耳元でそっと右菜が呟く。「あふぅ」と耳に吐息の掛かった理樹は敏感に反応してしまったが、告げられた内容を聞くと戦慄する。必死に「絶対誰にも言いません!」と何度も叫ぶ。
「よろしい」
ふと、理樹の背後から気配が消えた。理樹が後ろを恐る恐る振り向くと、そこにはもう誰もいなかった。
先ほどのことを思い出す。ちょっと背中におっぱいが当たってたり、一番の性感帯の耳を刺激されたり、女の子同士のあんなシーンを目撃してしまったり。
理樹は前傾姿勢になりながら、鈴の元へと駆け寄った。
***
やってもーたっ!
寮に戻った右菜は、ベッドの中で悶々としていた。
どうないしよ、どないしよ、とゴロゴロ転がっていると部屋のドアがガンと開かれた。顔を出したのは左恵子。
「右菜! 集合よ! 棗鈴が現れたわ!」
「棗様!」
「棗様?」
「ハッ! 棗サマンサ!」
ハッとしてすぐに誤魔化す。はてな顔の左恵子を尻目に右菜は部屋を飛び出す。勢いで無かったことにしようとした。
「早く!」
「あ、うん」
いつもの戦いの場に行くと、中島が一人で立ち向かっていた。
鈴のローキックをなんとか捌いている。
「あ、やっと来た!」
「何うらやましいことしてるのよ!」
「え? 何が?」
「ハッ! 早くアイテムを使って応戦よ!」
「あ、うん」
中島は『佐々美の飲みかけのレモンティー』を使った。
「佐々美様が私の中に!」
左恵子は『佐々美が鼻をかんだティッシュ』を使った。
「ああ、佐々美様ぁ!」
右菜は『鈴のスパッツ』を使った。
「うひょー! 棗様の恥骨部のにほひぃ!」
右菜はハッとソフト部の二人が白い目で見ていることに気づいた。
「皆どうしたの?」
「右菜それって」
「それ!」
「あ、棗鈴が蹴りを放ってきたよ! 私が受け止める!」
「あ、うん」
右菜は鈴の蹴りの軌道を一瞬で計算し、そこに尻を突き出す。
「あふぅ! ハッ!」
そして、目撃する。スパッツを履いていない鈴の純白の※レジェンドオブ逆三角形を。
(※レジェンドオブ逆三角形とは、普段はスパッツや短パンを履いている人の絶対に目撃することの出来ないパンツの総称)
それを見てしまった瞬間、右菜の鼻から血が噴出する。偶然、それが鈴の顔にかかり、鈴が怯む。その隙を鼻血を出しつつも右菜は見逃さず、すかさずスカートの中に顔を入れる。
「って、何すんじゃー!」
「うひょー! 絶景!」
松島の景色以上に美しい白いクレバスに、右菜は意識を手放す。
それを見ていたソフト部の二人、更に佐々美の三人は呆然とする。
血(鼻血)だらけの鈴が、背を向けこの場を去ろうとする。一度だけソフト部連中に顔を向けそっと告げた。
「付き合う人間を選んだほうがいいと思う」
鈴の言葉に、三人は無言で頷いた。
気まずい空気。呆然と立ち尽くすソフト部達は動かない。
一人右菜だけが、つま先をピンと張り、ビクビク痙攣しながら、幸せそうな顔をしていた。
[No.132]
2008/01/13(Sun) 13:35:25
感想会ログとか次回とか
(No.127への返信 / 2階層) - 主催
MVPはおりびいさんの「対男子(一部女子含む)用殲滅兵器くどりゃふかまーくわん」に決定しました。
何と何と二連覇でございます。
おりびいさん、おめでとうございます。
感想会のログはこちら
http://kaki-kaki-kaki.hp.infoseek.co.jp/Little1.txt
次回のお題は「冬」
締め切りは1/25 感想会は1/26
みなさん是非是非参加を。
[No.134]
2008/01/14(Mon) 00:35:04
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