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   場所お借りします - ウルー - 2008/06/08(Sun) 01:59:46 [No.353]
愛、込められて - ウルー - 2008/06/08(Sun) 02:02:29 [No.355]
そうして、彼は、彼女は。 - ウルー - 2008/06/08(Sun) 02:00:39 [No.354]



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場所お借りします (親記事) - ウルー

解説とかは要望があったら付けるという形で。

[No.353] 2008/06/08(Sun) 01:59:46
そうして、彼は、彼女は。 (No.353への返信 / 1階層) - ウルー

 どこまでも広がっていく青空の下、屋上にひとり。
 今日もお菓子に囲まれて幸せ。
 誰かと一緒だったら、もっと幸せだったのかな。
 私はふと下を眺めたくなって、ワッフル片手に立ち上がった。そのまま、手摺りの方に歩いていく。
「あ」
 校門のほうに、人影が二つ見える。
 一人は、見ただけでわかる特徴的なツインテールのはるちゃん。その横のもう一人は……うん、理樹くんだね。
「そっかぁ……決めたんだね、はるちゃん」
 前向きに、立ち向かうことを。
 昨日のお泊まり会ではるちゃんがゆいちゃんと何か話をしていたことは知っているけど、その時は眠くてしょうがなかったから内容までは覚えていない。でもゆいちゃんのことだから、きっと上手く言ったんだろうな。
「でも、大丈夫かな」
 今まで何度も失敗してきて、それで前に進むのが恐くなっちゃったはるちゃん。今度も同じことにならないとは限らないけど……そこは理樹くんに期待するしかない。
「うん、きっと大丈夫」
 はるちゃんは逃げ回ってたし、ゆいちゃんは鈍感だし、そんなこんなで理樹くんは私の所にばっか来ていたけれど。その私が言うんだから、間違いない。理樹くん、ちゃんと成長してるもの。
 ……でもなぁ。女の子の扱いが上手くなったとか、最近はそういう成長ばかりが目立つのはどうなんだろう。まあ、私はもう理樹くんのおかげでお兄ちゃんのこととか色々解決してるから、特にすることもなくて、それでそういう流れになっちゃうのは仕方ないとは思うんだけど。これって、理樹くんとりんちゃん、二人のこれからに役立つのかな。りんちゃんも女の子なんだから無駄になるってことはないと思うけど、私はそれ以上に、理樹くんがオンナたらしになったりしないか心配だよ。まあ、私から見ればもうじゅうぶんオンナたらしなんだけど、そればっかりはしょうがないことだし。
「そういえば」
 りんちゃんは、嫉妬とかしないのかな。みおちゃんの時も、クーちゃんの時も、私の時も。嫉妬、しなかったのかな。
 私は、いっぱいしたよ。今だってそう。理樹くんとはるちゃん、これからどこに行くんだろう。はるちゃんの家かな。はるちゃんの部屋で二人きりになって、キスとかしちゃうのかな。そういえば理樹くん、キスもすごく上手になったよね。うーん、はるちゃんが羨ましい。
 でもね。私が一番羨ましいのは――えへへ。やっぱり、理樹くんとりんちゃんの二人、なのかなぁ。
 だって。
 これからもずっと、生きていけるんだから。





「あのね、理樹くん。……大好きだよ」
 オレンジ色の空、寮の前。もう何度目になるかもわからない初めてのデートの帰り、私はいつものように満面の笑顔を浮かべて言った。理樹くんが反応するより早く、じゃあね、と駆け出す。
 そうやって自分の部屋まで戻ってくると、私は真っ先にベッドに飛び込んだ。顔を枕に押し当てて、足をバタバタさせる。
「う〜……すごかったなぁ、理樹くん」
 思い出して、頬が火照ってくるのがわかる。いつのまにあんな大胆なことできるようになっちゃったんだろう。ボートの上じゃなかったら……その、ちょっと危なかったかも。あれ、う〜ん、ボートの上じゃなければよかったな、ってしょんぼりすべきところなのかな? よくわからないけど、とにかくすごかったなぁ。はるちゃん、いったい理樹くんと何をやってたんだろう。
「そりゃ、ナニだろう」
「ほわあっ!?」
 どこからともなく声が聞こえてきて、私は飛び上がった。そして、ベッドの下からおもむろに姿を現すゆいちゃん。
「ゆ、ゆいちゃんっ! どこから湧いてでるのっ!」
「はっはっは。いやはや、小毬君は今日も可愛いなぁ。それと、ゆいちゃんはやめてくれ」
「ゆいちゃんゆいちゃんゆいちゃん!」
「ぐあああっ!」
 がっくりと膝をつくゆいちゃん。よし、勝ったっ。敗者のゆいちゃんには『本当はかわゆいゆいちゃん』の称号をぷれぜんと。ゆい、って二回連なっているのがポイントなのです。
 うん、冗談はおいておくにしても、ゆいちゃんが私の所にまで来た理由はわかる。最初のリトルバスターズを除けば、残っているのはとうとう私たち二人だけになってしまったからだ。はるちゃんはあれから、理樹くんと一緒に数度の失敗を経て、それでも挫けることなく、ゴールまで辿り着いた。
 それは、理樹くんがまた一歩前に進めたということで。もちろんそれは喜ばしいことなんだけど、私はどうしても一抹の寂しさを拭い去ることができなかった。
 また、お別れ言えなかったなぁ……。
「なぁ、小毬君」
 平静を取り戻したらしいゆいちゃんが、窓の外の世界で沈んでいく夕陽を眺めながら、ぽつりと言った。
「先の葉留佳君が、最後の一人だった。残ったのは、理樹君と鈴君、それに恭介氏と馬鹿二人。もうすぐ、全てが終わりになる」
「うん、そうだね」
 本当は、もうひとりいるんだけどね。ニブいなぁ。でもね。そういうところがかわいいよ、ゆいちゃん。
「そういうわけだから、小毬君」
 私の肩を掴んで、ずい、と前に出てくるゆいちゃん。その目は、とっても真剣だ。
「最後に一回、私と一緒にオトナの階段を登らないか?」
「ごめんね、ゆいちゃん。さっき理樹くんと一緒に登ってきちゃった」
 もちろん嘘――途中までだったから嘘で合ってるよね〜?――なんだけど、ゆいちゃんはこの世の終わりみたいな表情を浮かべてorzのポーズになっちゃった。そんなにショックだったのかなぁ。
「くっ……なぜだ、なぜ理樹君ばかりがいい目を見るっ!? 私だって鈴君やクドリャフカ君とあんなことやこんなことして甘酸っぱい性春を過ごしたかったのにっ!」
 ダンダンと床を叩きつけながら、ゆいちゃんが叫ぶ。ちょっと怖い。
 でも、ゆいちゃんの嫉妬は私のそれに比べれば――ずいぶんとかわいいものだと思う。この繰り返される世界の中で果たされてしまえば、それで満足してしまうんじゃないだろうか。私のは、そうじゃないから。
「ねぇ、ゆいちゃん」
「……なんだ、小毬く――!?」
 ちゅ。
 顔を上げたゆいちゃんのほっぺたに、不意打ち。
「な、な、なにを」
「えへへ」
 真っ赤になって照れているのがかわいい。うんうん、なるほど。されるのは苦手なんだ……ということは、今の理樹くんを相手にするのはちょっと大変かもね。ふぁいとだよ、ゆいちゃん。
「理樹くんと一緒に、甘酸っぱい青春、過ごしてきてね」
「こ、小毬君、ちょっと待――」
 世界が閉じていく間際、想う。
 もう私のところに来ちゃダメだよ、理樹くん。





 願いが叶ったのか、理樹くんはもう私のところに来ることはなかった。今までに彼が積み重ねてきた経験のおかげか、ゆいちゃんとの別れは思っていた以上に早かった。もっとも、やっぱり今までのようにお別れを言う機会は与えられなかったけれど。それどころか、今回は6月の半ばあたりに入ってからの記憶がすっぽりと抜け落ちている。世界が新しく始まってしばらく経ってから、ようやくゆいちゃんがいなくなったことに気付いた。
 そもそも、この繰り返しの記憶がどこまで信じられるものなのかはわからないのだけれど。私が覚えているのは、私の“正解”の道筋と、それ以降の繰り返しについてだけ。それ以前についてはまったく覚えていなくて、みおちゃんとクーちゃん、どちらが先にいってしまったのか、それすらもわからない。
 わからないものはわからないのだから、私は考えることをやめた。
 いっそ、全部夢だったらいいとさえ思う。夢から覚めれば、そこにはみんながいて。変わらない毎日を過ごしていく。私とりんちゃんは仲の良いお友達で、でも私はちょっぴり嫉妬したりして。うん、りんちゃんを独り占めする理樹くんに嫉妬するのもいいかも。理樹くんとりんちゃんの二人に、自分で考えてみても微笑ましい嫉妬をしている私。悪くない。
 でも、それこそが夢だということを、私は知っている。だから、微笑ましさの欠片もない醜い嫉妬を、二人に向けるしかなかった。
 理樹くんとりんちゃんが行方不明になってから、すでに三日が経っている。





 ついに終わりの時がきた。
「こんにちは、きょーすけさん」
「小毬か」
 崩れ始めた世界、そのグラウンドで二人を見送った恭介さんの背中に、私は声を投げかけた。制服の袖で目のあたりを擦るような動きを見せてから、こちらを振り返る。泣き腫らした跡は隠せていなかったけれど、私はそれを言おうとは思わなかった。
「ようやく、だね」
「ああ。残るは、最後の予習だけだ。その後で……」
「ごめんなさい。私のワガママ、聞いてもらって」
 私はもう、とっくにこの世界を去っていなければいけないはずの存在。それを、無理を言って留まらせてもらっていた。そのたった一つのワガママも、もうすぐ果たされる。そうして私は、みんなと同じ場所にいく。
 恭介さんが、呆れたように言った。
「あのな、おまえのはワガママとは言わない。ワガママってのは、自分のために言うもんなんだぜ?」
「ううん、ちゃんと自分のためのワガママですよ〜」
 恭介さんはまだ何か言いたそうだったけど、諦めたかのように口を噤んだ。
 うーん。恭介さんには、ワガママじゃないように見えるのかな。
「なぁ、小毬」
「はい、なんですか〜」
 塗料が剥がれていくかのように色を失っていく空を見上げながら、恭介さんはやけに神妙な面持ちと声で言った。私も少し、身構える。
「ありがとうな」
「え?」
「たったの一か月とちょっと、そんな短い時間でも……鈴に友達ができて、笑っているのを見られて。俺は、幸せだった」
 空を仰ぎ見ていた視線が、私に向けられる。彼は、照れ臭そうに笑いながら――それは、見慣れた子供のような笑顔ではなくて、ああ、なんて言うんだろう――私の頭の上に、ぽん、とその手の平を置いた。
「鈴に、おまえみたいな良い友達ができて、よかった」
 その手の平が、あまりに大きくて、温かくて――私はふいに、泣き出してしまいたい衝動に駆られた。必死で堪えようとして、でも堪えようとしているのが表情に出てしまいそうで、私は顔を俯かせるしかなかった。
「小毬?」
 怪訝そうな声がかかる。
「……え、えへへ。そんな、私……全然、良い友達なんかじゃなかったですよ〜」
 ずっと黙っているわけにもいかず、適当に言葉を吐いてみたけど、失敗だった。出てきたのは、今にも泣き出してしまいそうな、情けない声だったから。
「小毬……」
「だ、だって私、理樹くんのこと大好きだから……りんちゃんに理樹くん取られたくなくて、いっぱい嫉妬して……」
 私は、何を口走っているんだろう。止められない……いや、止める必要なんてないのかもしれない。だって、私も恭介さんも、もうすぐどこにもいなくなってしまうのだから。聞いても、知っても、全ては無に帰してしまうのだから。
 だったら……言ってしまおう。溜め込んできたもの、全て吐き出してしまおう。そうして、心を綺麗にしてから……それから、お別れを言おう。
「恭介さん。私、悪い子なんだ。りんちゃんだけじゃないの。理樹くんにも嫉妬して、羨ましくて、どうしようもないの」
「…………」
 いつのまにか、頭の上の手はどけられていた。でも、恭介さんはちゃんと私の話を聞いてくれている。
「だって、だってね? ……どうして、理樹くんとりんちゃんだけが助かるの?」
 それは、この世界の成り立ちを知ったその時から、私の中で芽生えて、少しずつ大きくなっていった思い。どうして、あの二人しか助からないのか。どうして――私は、死んでしまうのか。
 一緒にお菓子を食べながら、唇を重ねながら、ずっと胸に抱き続けていた、みっともない生への執着。これからも生きてゆける二人に向けた、醜い嫉妬。ああ、私は――なんて悪い子なんだろう。りんちゃんの友達を、理樹くんの恋人を演じながら、ずっと二人を嫉んで、妬んで。そうしてまで生きたがっている私。この人とは――私が今、縋りついてしまっているこの人とは、大違いだ。二人のために、一つの世界までをも創りあげてしまった、この人とは。
「私っ……私はっ……!」
 恭介さんの制服をぎゅっと掴んで、私はもう耐えず、そうしようとも思わず、泣き喚く。
「私は、もっと……もっと、生きていたかった! 生きて、いたかったよぅ……やだよ、こんなの……やだぁ……」
 恭介さんは、ただ黙って、受け止めてくれていた。そうすることしか、できないのかもしれない。だって……恭介さん、やさしいから。
「生きたい、死にたくない! だって、だって! だって、私は……!」
 その、やさしい恭介さんは……私の言葉に、何を思うのだろう。もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。それでももう、止められなかった。
「私は……!」
 止めようとも、思わなかった。
「私は、もっと……もっと生きていたかったのに! 理樹くんと、りんちゃんと、恭介さんと、みんなと! ずっとずっと一緒にいたかったのに!! みんなと、もっといろんな話をしたかったのに! いろんなことをしたかったのに! どうして!? どうして死ななきゃいけないの!? どうして……どうして理樹くんとりんちゃんだけなの!? っぅ、あぐ、あ、ぅあ……うわああぁああああぁああぁああああっ!!」
 後はもう、言葉にならなくて。私は恭介さんの、思っていたよりゴツゴツした胸に顔を埋めて、ただ泣き叫ぶことしかできなくて。
「……俺の胸でよかったら、いくらでも貸してやる」
 ふいに、恭介さんの声が聞こえた気がした。
「だから、思う存分泣け」





 私がようやく落ち着いた頃には、世界はすでに消滅する間近にまで迫っているようだった。
「えっと……ごめんなさい」
「いや、気にするな」
 私はまだ、顔を上げることはできない。上げたくなかった。だから、恭介さんがどんな顔をしているかもわからなかった。
「なぁ、小毬」
「は、はい」
 ビクッと身体が震える。何を言われるのか、わからない。恐くてしようがなかった。
「正直、拍子抜けだ」
「…………」
 それは、何に対してだろう。そんなのわかりきっている。恭介さんが、妹の良い友達だと言ってくれた、私に対しての。
 なのに、私の頭上から漏れ聞こえてきたのは。苦笑するような、小さな笑い声だった。
「悪い子だなんて言い出すから、どれほどのもんかと身構えてたのに」
「え……」
「結局、おまえは最後までおまえらしさを守ったわけだ」
 幻滅されたものだと思っていたのに、恭介さんはそんなことを言う。私はようやく顔を上げて、恐る恐る、恭介さんの顔を覗き込む。
 笑っていた。私はその笑顔に、見覚えがあった。いつか見たことのある――そう、りんちゃんや理樹くんに時折向けていたのと同じ、あの笑顔。
「ああ、実に小毬らしい。なんだかんだ言っても、根っこにあるのは鈴や理樹、みんなへの想いだ。まったく……すごいやつだよ、おまえは」
「そ、そんな……私は……ひゃうっ!?」
 そんなことない、と否定しようとした私の言葉は、恭介さんの突然の奇行によって遮られてしまった。
 なんだろう、これ。えっと……抱きしめられてる?
「きょ、きょきょきょ、恭介さんっ!?」
「悪い。つい、こうしたくなっちまってな。……うーむ。吊り橋ナンタラではないと信じたいところだが……」
 何かブツブツ言っているけど、もはやそれどころではなかった。顔から火が出そうってこういうことを言うんだろうなーだとか、そういえば理樹くんに初めて抱きしめられた時も似たような感じだったなーだとか、そんなどうでもいいことばかりが頭の中でグルグルと回っていて。さっきまで胸の奥底で渦巻いていたはずの死への恐れと生への執着、どちらも綺麗さっぱり消し飛んでしまっていた。
 恥ずかしいから離してほしい、あるいはずっとこのままでいてほしい、自分でもどちらなのか分からなくなってきた頃。さほど時間は経っていないはずだけど、永遠にも感じられる長さであったのもまた確かで。
「小毬」
 恭介さんの一声が、そんな時間に終わりを告げた。
「ごめんな。俺には、もうどうすることもできない。女の子があんなに泣いてるのを見て、それでも何もできない、無力な男だ。許してくれ……なんて言えるわけないな、はは」
 そう言って、恭介さんは……私の両肩に手を置いて、ゆっくりとその身を離す。
「きょ、恭介さん……」
「さあ、もう時間だ。……今まで、ありがとうな」
 そのまま、背を向けて、歩き始める。
 恭介さんの言葉通り、虚構の世界は終焉を迎えようとしているらしい。色を失って真っ白になっていた空が、その侵食を広げていく。みんなで野球の練習をしたグラウンドが、恭介さんの背中が、薄らいでいく。
「え、あ……!」
 その背中に、待って、と声をかけようとした。なのに、口が動かない。動こうとしない。動いたとしても……私は、何を言うつもりなのだろう。今の私は、言うべき言葉を持ち合わせていなかった。
 行ってしまう。背中が、見えなくなる。声も、もう――
「小毬ぃっ!」
「っ!」
 届かない、そう思っていたものが、逆に向こうから届けられた。
「最後だから言うぞ! 俺はっ!」
 それは、どんなに距離があっても届いてしまいそうな、大きな声で。
「理樹と鈴、真人や謙吾だけじゃない! 俺は……っ!」
 私は必死に、見えなくなってしまった恭介さんの姿をさがす。もうどこにも、その姿は見えなかった。
「おまえのことも……っ、おまえらのこともっ! 好きだった! 大好きだった!」
 何を言えばいいのかはわからない。でも……もう少し。もう少しだけ。お願いだから。
「最高に……愛してたっ!!」
「……恭介さんっ!!」
 その時。完全に白に包まれた世界の中で……恭介さんの笑顔が見えた気がした。
 だから、私も。今の私にできる、最高の笑顔で――





 夕暮れ時。私はひとり、屋上にいた。
 もう、じゅうぶん泣いた。涙と一緒に、いろんなものも流し落した。今なら、きっと果たせる。私のワガママ。
 笑って……笑顔でお別れ。
 だから、はやくおいで。わたしたちの、さいごのゆめに。


[No.354] 2008/06/08(Sun) 02:00:39
愛、込められて (No.353への返信 / 1階層) - ウルー



 11月も半ばを過ぎ、涼しかった秋の風は冷たくなりつつある。
 その風に晒されながら小毬の身体を背負って立ち上がった恭介の第一声は、
「そういや、あのチョコバットどうした?」
 という、一見まったく脈絡のないものであった。しかし、その脈絡のなさが小毬を動揺させた。
 あれから、もう一か月近くが経つ。小毬の答えを聞いたしばらくの間こそ背景に影を背負っていた恭介であったが、彼が立ち直るのにそう時間はかからなかった。それ以降、恭介は何もなかったかのように小毬と接している。
 むしろ、そうできずにいるのは小毬の方だった。だからこそ今、こうなっている。たまたま恭介と帰路を共にすることになり、その道中でいつかのように石に躓いて盛大に転んでしまったのであるが、小毬には、それだけ自分が挙動不審で動揺していた自覚がある。
 結果として、これもまたいつかのように、恭介に背負われて帰ることになった。恭介がそれを提案した時の「別に下心はないから安心しろよ」という言葉に、また動揺した。
 ともかく、訊かれた以上は答えなければならない。
「えっと〜……全部食べちゃいました」
「マジかよ」
 恭介がわりと真面目に驚く。なんだろう、何かマズいことをしてしまっただろうか……?
「一日三本食べたとしても、一年分はあったはずだぞ……それを一か月って、おまえ……」
 わりとどうでもいいことだった。
「……ああ、でも、道理でな。なんか前より重くなってる気がしたが、勘違いじゃなかったわけか」
「あぁうー、ひどいー……」
 ついでに年頃の女の子に対する禁句まで吐いて恭介は、はっはっは、と実に楽しそうに笑った。





「で、その後は?」
「えっとぉ……それだけ、なんだけど」
 もじもじと、両手でみかんを弄りながら言った小毬さんに、僕は小さく溜息をついた。
「な、なんで溜息つくのー!?」
「いや、そりゃあねぇ……」
 道行く人には、その光景はバカップルがイチャついているようにしか見えなかっただろうけど、二人の関係を知っている僕からすれば、それは不正解だと言わざるを得ない。恭介が小毬さんに大掛かりな仕掛けで盛大に愛を告白し、その結果として実にシンプルに振られたのはつい一か月ほど前のことだ。
 そもそも。なぜ僕は小毬さんからこんな相談を受けているんだろう。振られた方である恭介から相談されるならともかく。
 僕がこのような相談を小毬さんから受けるようになったのは、例の試合からしばらく経った頃だったはずだ。あまり人には聞かれなたくないとのことで、場所はもっぱら僕の部屋。その度、真人には席を外してもらっている。
「確認するけど、小毬さんは恭介と普通に接することができなくて困ってるんだよね?」
「うん、そうなんだよー……。今日も、すっごく恥ずかしかったし……」
 小毬さんは手持ち無沙汰なのか、弄っていたみかんを剥き始めていた。……よし、ちょっと試してみよう。
「そのみかん、実は恭介が持ってきてくれたんだよね」
 ぐじゅっ。
 と、まあ。実に嫌な感じの音がした。その音源、小毬さんの手元に目を向けてみれば、皮を剥く手に力を入れ過ぎたのか、みかんに指が一本突き刺さっている。……いやいやいや。力加減間違えたって指が刺さることはないだろう、普通。
「……ほわあっ!? み、みかんがー!? あぁうー、目がー!?」
 ワンテンポ遅れて、小毬さんはオロオロし始めた。飛沫が目に入ったらしくてゴシゴシと擦るけど、その手はついさっきまでみかんの皮を剥いていたわけで。そんなことしたら、余計に染みることになる。
「うぁあん!? あうぁーっ!?」
 ……なんというか、これはかなりの重症じゃないだろうか。いやまあ、傍目にはいつもどおりに自爆しているようにしか見えないけども。
 不思議な話だと思う。振られた方は吹っ切れたのか、さっさと立ち直ってその後はいつもどおりなのに、小毬さんはあれから一か月近く経つ今になっても恭介を過度に意識している。紆余曲折を経ることもなく鈴とうまくいっている……はずの僕には、その辺りの複雑に過ぎる心情の機微はどうにもわからなかった。
 どうせ僕には、難しいことはわからない。だったら、ストレートに訊いてみようと思う。
「小毬さんはさ」
「うー……なぁにー理樹くん?」
「恭介のこと、どう思ってるの?」
 今度は固まってしまった。
 意識しすぎて普通に接することができないなんて、もう答えはわかりきっているようなものだけど。でもそれなら、どうして小毬さんは今ここにいるのか。
「……私、わかんないんだ」
 ぽつりと聞こえた声は、ひどく儚げだった。
「きょーすけさんのことは、もちろん好きだよ。でも……」
「そういう意味での“好き”なのかどうかはわからない、ってこと?」
「……うん」
 それに、と小毬さんはさらに言葉を続ける。
「そもそも、誰かに恋をするってどういう気持ちなのかが、私にはわからないのかも」
「……どういうこと?」
 小毬さんは躊躇うかのように目を伏せた後、小さく寂しげな笑みを見せて、ゆっくりと口を開いた。
「私ね。好きな人がいたんだ……と思うんだけどなぁ」





 次の日曜日。
 小毬はまた帰り道が恭介と同じになった。また転んだ。また背負われた。
「……おまえ、呪われてるんじゃないか? それともまさか、何か妙なおまじないでもやってるんじゃないだろうな。自分で歩いて帰るのが疲れるー、とかで」
 溜息交じりの恭介の言葉に、小毬は内心ドキリとした。ほとんど図星だったからだ。もちろん、後者の方が。もちろん、歩いて帰るのが疲れるから、なんてしょうもない理由ではない。
 おまじないという程ではない。ただ、帰り道で会えたらいいな、となんとなく思う程度のことだった。
「そ、そんなピンポイントなおまじないは、ないんじゃないでしょーか……」
「いや、ある」
 誤魔化しに走った小毬の言葉を、恭介はきっぱりと否定する。
「この前、西園に教えてもらったおまじないを興味半分で試してみたんだがな……まあ、それはいい。とにかく、小毬。おまじないを甘く見るな。死ぬぞ」
「は、はいっ」
 無駄に力の籠もった恭介の言葉に、小毬はつい頷いてしまった。頷いてから、頷いている場合ではないことを思い出した。
 今日は恭介に、どうしても聞きたいことがあったのである。
「あの、きょーすけさん。ちょっと聞いてもいいですか」
「ん、なんだ」
 心の中で一度、いつもの前向きマジックを唱えてから、小毬はおずおずと口を開く。
「その……きょーすけさんが戻ってきてから……私とりんちゃんで、何か変わったと思うことってないかな〜、って」
「より仲良くなった」
 簡素かつ素早い回答。それは、わざわざ考える必要もないほどそう見えているということだった。当の小毬も、あの事故の後、鈴とは前にもまして仲良くなれたと思っている。
 だが小毬は、恭介の答えにほんの少しの落胆を覚えた。きっと誰よりもみんなのことを考え、見ているであろう恭介だからこそ、聞く意味があったのである。こればかりは、もっぱら相談相手になってもらっている理樹に聞くわけにもいかなかった。
 なんにせよ、小毬は、恭介なら答えを教えてくれるかもしれないと期待していた。そして結局、期待は外れることになった。いや、もしかしたら、それこそが答えなのかもしれない。
「……なるほど、理樹のことか」
「ふぇあっ!? えぁうー、あのそのっ!?」
 まさに今ちょうど考えていたことをずばり言い当てられた。この人はエスパーか何かと疑いたくもなるが、逆に考えてみれば切り出しづらい話を向こうから振ってくれたわけでもある。
「……えーと。うん、そう、理樹くんのことなんです」
「別に言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ?」
「ううん、聞いてほしい……かな」
 ふと、思う。面と向かっていたら、こんなことを言えるだろうか、と。
 きっと言えない。おんぶされているのは成り行きだったが、小毬はその成り行きに感謝した。
「……理樹くんとりんちゃんが恋人同士になったって知って。その時、私……嫉妬とか、そういうの、全然しなかったんだ。ただ、自分のことみたいに嬉しくて、本当にそれだけで……」
 想っていたはずの人に恋人ができて、それなのに。
 小毬は、そこまで口にすることはなかった。恭介なら、言わずともわかってしまうと思ったから。
「嫉妬できないってことは、これは恋じゃなかったんじゃないか。そう悩んでるわけか」
「うーん、まあ……そんな感じです」
 理樹のことは、一応初恋だった。いや、初恋のはずだった。なのに、まったく嫉妬できない自分に、二人を見ていて幸せな気持ちになる自分に、小毬はずっと戸惑っていた。
 その戸惑いは、恭介の行動によって悩みにまで発展した。何が“好き”なのか、何が“恋”なのか、分からない。そんな状態で恭介の気持ちを受け入れるわけにもいかず、そして今も、悩みは晴れないままだ。
 改めて考えてみると、それを当の恭介に訊くのは実に酷いことのように思える。いや、実際そうなのだ。それでも、訊かずにはいられなかった。
「……まあ、小毬らしくはある」
 恭介が、ぽつりと言った。そのまま、言葉を連ねていく。
「それが恋だったのかどうかはともかく、嫉妬できないっていうのは、おまえがそういう考え方、生き方をしてきたからじゃないか?」
「……うん。私も、そう思います」
 誰かを幸せにするということは、自分を幸せにするということ。誰かが幸せなら、自分も幸せ。幸せスパイラル。小毬が鈴に嫉妬していたとしたら、その連鎖は途切れてしまっていたかもしれない。
 だとしたら、それは悪いことではないはずだ。みんなが幸せでいられるのが、いちばんいい。
「この俺を感動させたほどだからな。おまえのそういう考え方は、きっと間違っちゃいない」
 でもな、と恭介は続けた。
「少しぐらいワガママ言わないと、自分の幸せ掴み損ねるぞ?」
「え?」
「俺が言えるのは、これぐらいだな」
 後は自分で考えろ。恭介の背中は、そう言っていた。





「……うん。恭介の言いたいこと、なんとなくわかるよ」
 小毬さんの話を聞いて、僕はなんとなく嬉しくなっていた。恭介も、僕と似たようなこと考えてたんだなぁ、って。
「うーん、やっぱり理樹くんにはわかるんだ〜……」
 小毬さんはなんだかしょんぼりしている。彼女なりに恭介が何を言おうとしていたのか、精一杯考えていたんだろう。
 でもこれは、小毬さんが一人で答えを出すにはいささか難しい問題だ。恭介だってそれはわかっているだろうに……単に人が悪いのか、それとも恥ずかしくて言えなかったのか。後者だとしたら、ちょっと面白い。あんな派手な告白をしておいて今さら恥ずかしがるってことは、やっぱり振られたこと引き摺ってるんだろうなぁ。
「やっぱり、私一人で頑張った方がいいのかなぁ……」
「いや、たぶん恭介は照れてるだけだから。というか、どうせ誰かに相談してることもお見通しだろうし」
「ふええっ!? バ、バレてるのー!?」
「たぶん、ね」
 なんかもう後者の方で確定したみたいな流れだけど、まあいいと思う。
「恭介はさ。小毬さんのことが心配なんだよ」
「心配……?」
「そ。小毬さんの理論でいくと、誰かのために何かをするのは自分のためでもある、ってことだけど」
 うん、と小毬さんが頷くのを確認してから、僕は話を続ける。
「傍から見てると、小毬さんが損してるようにしか見えない時が、たまーにあるんだよね」
「え……そ、そうかな」
「そう。今はその程度で済んでるけどさ、いつか他人の幸せのために自分を不幸にしちゃうんじゃないかって、僕は心配なんだ。きっと、恭介もね」
 いつだったか、恭介が、小毬さんがボランティアでやっている募金活動に協力しようとした時。感動のあまり旅の資金を募金箱に突っ込もうとした恭介に、小毬さんは、自分を不幸にしちゃダメだと言っていた。
 僕や恭介がわざわざ言わずとも、小毬さんはちゃんとわかっている。わかっていないのは、何が自分自身にとっての幸せで、また、不幸なのか、ということだと思う。
「小毬さんが好きだったかもしれないっていう人の話だって同じだよ。小毬さんが……身を引いた、というのかな、こういう場合……とにかく、それは傍から見てる僕からしたら、不幸なことに思えるかもしれない」
「……うーん。理樹くんがそういうこと言っちゃったら、ダメなんじゃないかなぁ」
「へ?」
 ううんなんでもないの、と小毬さんは曖昧に笑う。その笑顔が、どこか寂しげに見えた。この前、小毬さんからその話をされた時と、同じ笑顔。
「でも、うん、なんとなくわかるよ。理樹くんの言いたいこと」
 そんな表情も、次の瞬間には消えてしまっていた。あるのは、いつものほんわか笑顔だ。少し気にかかったけど、僕は深く考えずに話を続けることにした。
「それで、恭介の言葉に戻るわけだけど」
「うんうん」
「小毬さんの理論でいくと、小毬さんが幸せそうにしてたら周りもいい気分になるってことなんだよね」
 実際、鈴あたりは小毬さんが笑っていればその隣で特に意味もなく機嫌良さそうにしているだろう。というか、そういう光景をすでに何度か目撃している。それは鈴に限った話じゃない。もちろん僕だってそうだし、リトルバスターズのメンバーも、あるいは見ず知らずの人だってそうかもしれない。小毬さんの笑顔には、そういう力がある。
 その当の小毬さんは、なにやら呆けた顔をしている。
「ほあー……そっかぁ、そうなるよね〜……あー、う〜ん、そういう風に考えたこと、なかったなぁ」
 呆けながらもしきりに感心している様子を見るに、本当にこういう考え方をしたことはないようだった。誰かのためは自分のため、と小毬さんは言うけれど、やっぱり“誰かのため”が勝ち過ぎていたんじゃないだろうか。ここまで言ったなら小毬さんももうわかっているかもしれないけど、やっぱり最後まで言っておいた方が良い気がする。あくまで、確認として。
「……うん、だからさ。小毬さんはもっと、自分のことを考えていいと思う。誰かのためとか関係なしに、自分のために……そう、ワガママ言ったっていい、って。恭介は、そう言いたかったんじゃないかな」
 ここに至って僕は、恭介が小毬さんに惹かれた理由がわかった気がした。いや、どういう所が小毬さんの魅力なのかは僕もわかっているつもりだけど、それが恋心にまで成長した理由。
 放っておけなかったんだと思う。それは恋人のいる僕ですらそう思ってしまうほどだけど、恭介には、もっと強烈な何かがあったんじゃないだろうか。それが何なのかは――そう、あの試合の日、恭介は教えてくれなかった。今になってそれを聞き出そうとは思わないし、聞いてはいけないことだとも思う。
 なんにせよ、わかっているのは、小毬さんがひどく危なっかしい人であるということ。そう、それこそ――死の瀬戸際でさえ、ずっと誰かのことを想って笑っているような。だから恭介は、傍で見守っていたくなったのかもしれない。不幸になってしまうなら引き止めて、幸せになれるなら背を押して。そうやって、ずっと。
「……やさしいね、恭介さんは」
 独り言でも呟くかのように言った小毬さんの目は、どこか遠くを見ていた。何かを懐かしむような、そんな目。
「小毬さん?」
「うん、今日は……今日も、だね。ありがとう、理樹くん」
「え、あ、うん、それはいいんだけどさ」
 急に改まってお礼なんて言われたものだから、僕は戸惑ってしまう。
 いや、お礼が原因ではなかった。その言葉に込められた、もっと別の何かが僕を戸惑わせている。
「理樹くんのおかげで色々わかったし、すっきりしたよ。だから、ありがとう」
 そう言ってから、小毬さんはゆっくりと立ち上がった。
「今日は、もう帰るね」
「う、うん。でも、なんだかいつもより早いね」
「あんまり理樹くんを独り占めしてると、りんちゃんに怒られちゃうから〜」
 悪戯っぽく笑いながら、小毬さんはドアノブに手をかける。僕も見送るために立ち上がった。
 ドアを開けてから、小毬さんはこちらを振り返った。
「理樹くん、ありがとう」
 三度目のありがとう。
 小毬さんはもうここには来ないような、そんな気がした。





 また次の日曜日。
 小毬はまた帰り道が恭介と同じになった。また転んだ。また背負われた。
 ただし今度は、待ち伏せて、わざと転んで、怪我をしたと装って、おぶってもらえるよう頼んだ結果である。
 恥ずかしくはあったが、やることが決まっていれば自然と落ち着きもする。そうして小毬は、今になってその背中がとても大きく温かいことに気付いた。
「きょーすけさん」
「どうした?」
「私、やっぱり嫉妬してたのかも。ううん、きっと、いっぱいしてたんです」
「……そうか」
「それで、もう十分嫉妬して、満足しちゃって……だから、嫉妬できなかったんだと思います。だから、今の理樹くんとりんちゃんを見てて幸せな気持ちになれるんだと思います」
 チグハグな言葉に、だが恭介はしっかりと頷いた。それを見て、小毬は微笑む。そして、少し恥ずかしかった。
 ああ、覚えていてくれているんだ。
「あの、それで」
「ん?」
 今さら、遅いのかもしれない。でも、今しかないようにも思う。
 ちゃんと、恋だったってわかって。その終わりも、ずっと前に吹っ切れていたことを思い出して。今ならもう、前に進める。一歩、踏み出せる。踏み出したい。
「……ワガママひとつ、言ってもいいですか?」
「ははっ、なんだ、さっそく考えてきたのかよ」
 恭介は楽しそうに言った。嬉しそうでもある。
「よし、なんだって聞いてやるよ。それでおまえが幸せになれるならな」
「……本当に?」
「ああ。まあ、俺ができる範囲でだがな」
「じゃあ、その……」
 すぅ、と大きく息を吸う。はぁ、と吐いた。
 ようしっ。
「チョコバット一年分、お願いしますっ」
 きっと、自分の顔は真っ赤だろう。ああ、やっぱり面と向っていたら絶対言えなかっただろうなぁ。そんなことを考えながら、小毬は恭介の返事を待つ。
「なんだ、そんなもんでいいのか」
「……え?」
「まったく、食いしん坊だなぁ小毬は。いや待てよ……おまえの基準でいくと、一年分ってこの前の12倍は欲しくなるよな……。さすがにそれは……」
「あ、あの! この前と同じで、その……!」
「お、そうか? まあ来月の頭には準備できるだろうから、それまで待っててくれ」
「え、えぇっとぉ〜……」
 恭介が振り向いて、にかっと笑う。すぐ目の前にあるその少年のような笑顔に、小毬はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
(あぁうーっ、私のばかーっ!?)
 頷くだけでよかったあの時の自分に、小毬はほんのちょっぴり、嫉妬した。


[No.355] 2008/06/08(Sun) 02:02:29
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