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   クラナドリレーSS本投稿スレ - かき - 2006/04/16(Sun) 23:47:39 [No.37]
たぶんこれは第9話 - 海老 - 2006/10/04(Wed) 23:51:40 [No.80]
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ついカッとなって書いた。反省してる第四話 - のど - 2006/04/19(Wed) 11:46:36 [No.44]
話の大まかな流れを決める3話 - おりびい (代理:かき) - 2006/04/16(Sun) 23:54:13 [No.40]
第二幕 - 仁也 (代理:かき) - 2006/04/16(Sun) 23:52:44 [No.39]
いち - かき - 2006/04/16(Sun) 23:49:45 [No.38]



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クラナドリレーSS本投稿スレ (親記事) - かき

一度、『クラナドリレーSS説明』スレの方にも目を通していただけると僕幸せ。

作品の投稿はこちらに。
それ以外の修正報告、宣言などはもう一方のスレに。
投稿は「この記事にレスする形で」お願いします。


[No.37] 2006/04/16(Sun) 23:47:39
いち (No.37への返信 / 1階層) - かき

 ……さようなら……

 ……  っ……

















 ――。

 ――――。





 透き通るような、夢を見ていた。
 柔らかな永遠。一面の白、ただそれだけが頭に残っている。
 とても悲しくて、寂しい夢だったように思う。
 具体的な中身は思い出せない。ひどくぼやけていて、掴み取れそうになかった。
 右手を軽く握ってみる。思った通り、何も掴み取れはしない。
 ――僕は、一体……?
 漠然とした思考。焦点はなかなか定まらない。
 意識をかき集める。濃い靄(もや)の中、自分を探し求める。
 どくん、どくん。心臓の音が聞こえる。自分は確かに生きている、とそれだけで少し安心する。
 ふと、気付く。左手の温もり。
 優しい、優しい温もりだった。それはそう、泣きたくなるぐらいに。
 離さないよう、ぎゅっと握り締める。柔らかい心地よさ、壊してしまわないよう注意しながら。
 ぎゅっ、握り返される手。
 嬉しくなって、少しだけ力を込める。
 ――ぴくっ。
 途端、揺れる。
「……朋也、くん?」
 少しの間を置いて、声。
「朋也くんっ」 
 あれ、この声は……
 促されるようにまぶたを開く。真っ白な天井。
「朋也くんっ!」
 声のした方に顔を向ける。
 その時になって、ようやく自分がベッドに寝かせられていることに気付いた。
 ベッドの横。俺の左手を握っているのは……
「ふる、かわ?」古河渚、だった。
 まどろみの中で感じた温もり。彼女に違いなかった。
 ずっとこうして手を握っていてくれたのだろうか。……多分、そうなんだろうな。
「古河?」返事のない古河にもう一度声をかける。
「……え?」
 え? 返ってきたのはたった一文字。それも疑問の言葉。
 不安になって俺は口にする。あまりにも分かりきった、馬鹿げた質問を。
「古河じゃ、ないのか?」
「……」
 返事はない。質問の馬鹿さ加減に、呆れて声も出なくなったのだろうか。
「おーい、古河?」
「……岡崎です」
「お、岡崎? いやいや、お前、古河だろ?」
 古河の口から出てきた予想だにしなかった言葉。驚いて、がっと身を起こす。
 突然の動きに、それまで寝ていた身体と、それにベッドが合わせて軋む。
 何とかそれをやり過ごし、改めて、俺は女性の姿を目に映した。
 癖なのだろう、高い位置で二本跳ねた髪がまず目に付いた。大きくて少し垂れ気味の目が俺の顔を見つめている。
 髪は少し長くなったようだ。頭の後ろ、青色のリボンで束ねられている。
 初めて見る髪型だったけど、でも、どう見ても彼女は「古河渚」だった。
「古河……だよな?」
「……朋也くん」古河の声は震えていた。「ひどい、です……」
 それは今にも泣きそうに。気の弱い古河だから、こっちとしても泣かれるのはたまらない。
 たまらない、のだが、それ以上に古河の言葉に違和感を持った。
 朋也くん。……朋也くん?
 確か古河は俺のこと、「岡崎さん」って呼んでなかったか?
「ちょ、ちょっと待ってくれ古河っ!」
「……ません」
「え?」
「古河じゃありませんっ! 岡崎ですっ!」
「え、と。じゃ、じゃあ、お、岡崎?」
 予想外に強い古河の口調に、情けなくも俺は押される形になってしまう。
「……」
 言われたとおり岡崎と呼んでみたのに、それでも古河は不満そうだった。
「……渚」
「は?」
「渚。わたしの名前です」
「いや、いやいやいやちょっと待てよ」
「待ちません。渚、です」
 ずいっと身を乗り出して。
 今までずっと「古河」だったのに、それを突然、「渚」と。
 呼べるはずもなかった。
「渚、です」
「いや、だから」
「な・ぎ・さ」
 古河は頑固だった。相当に。
 こんなところもあったんだ。古河の意外な一面を知って驚く。
 同時に少し微笑ましくも思う。そして、嬉しくも。俺の知る古河は、自分を出すことのできない、優しいけれど気の弱い奴でしかなかったから。
 変わったのだろうか。それとも今まで表には見せていなかっただけだろうか。
 少し考えて、俺は頭を振る。そんなのどっちでもいい
 こうして俺に対して強く迫ってくる古河。それが現実。
 違うか。だから古河じゃなくて――
「……なぎ、さ?」
 言われた通り、名前で呼んでみる。
「はい」
 ふんわりと。
「……渚」
「はいっ」
 満面の笑み。見ているだけでこっちも幸せになれそうな、そんな笑顔。
 いいな。素直にそう思う。
「朋也くん」渚は握った手にまた少し力を加える。「身体、平気ですか?」
「身体?」
「はい」
「ん、どうもないけど」言って、少し考える。「そもそもさ、俺、どうしたんだ?」
「覚えてないんですか?」
 心配そうな渚の顔。胸が痛む。
「……ああ。正直さっぱりなんだ。つーか、ここは?」
 と、今さらといえば今さらな疑問。
「病院です。藤林さんの勤めてる」
「ふ、藤林ぃ?」
「はい。そうですけど」こくん、と小首を傾げて言う。可愛い。「どうかしたんですか?」
「い、いやだって」
 勤めてる?
 おいおい、だって俺たち――
「俺たち、高校生だろ?」
「え、えええええええっ!?」


[No.38] 2006/04/16(Sun) 23:49:45
第二幕 (No.37への返信 / 1階層) - 仁也 (代理:かき)

「つまりですね。朋也くんは記憶喪失なんですよ」
 ビシっと指を突きつけて彼女はそう結論を出した。
 あれから古河は半パニック状態に陥りながらも俺にあれこれ質問を浴びせてはうんうん唸りながら考え込んだ。
 そして出た結論が………
「古河……お前がアホな子なのはよく解ってたつもりだったが……」
「可哀相な人を見るような目で見つめないでください!」
 怒鳴りつけられた。
 あの古河がこんなテンションの高いツッコミをするなんて……。
 俺の知る古河のツッコミとはもっと控えめだったハズだ……。
 どういうことだ?
 まず、状況を整理しよう。
 目の前のこの人物は俺と一緒に演劇部を再建しようと頑張っていた少女、古河渚に限りなく似ている。
 その声、その容姿。しかし容姿は俺の知るそれより若干変わってる印象がある。
 そして次になにより重要なのが俺が病院のベッドに寝かしつけられている理由に全くもって心当たりがないということだ。
「朋也くんが驚くのもわかります……。わたしが朋也くんの立場だったらやっぱりなかなか理解できなかったでしょう……」
 困ったような顔でそう呟く古河……しかし次の瞬間には決意のこもった表情で俺を見据える。
「だけど現実を受け入れてください!!」
 その声と同時に俺の眼前に手鏡をつきつける。
 そこに映っていたのは………
 ………俺だ、俺に似ている……けどちょっと老けてるよな……?
 じゃあ、それは誰だ?
 考えるまでもない。鏡を覗き込んで別の人物の顔が映し出されるなんてホラーものの世界だけで十分だ。
 ………つまり。
「………え?」
 真っ白な壁に囲まれた病室内、今度は俺の声が疑問の形となってその中に響く。
「私もにわかには信じられませんが、朋也くんは高校3年のときからの記憶がすっぽり抜け落ちてるんです………朋也くんの話を聞く限りそうとしか考えられません」
 そう……なのか………。
 信じられないようなことだが、信じるしかないようだ。ここまで手の込んだドッキリもあるまい。
 内心複雑な気分だった……。

――俺は今幾つなのだろう?

――失ってしまった高校生活最後の一年がもったいない?

――いや、俺はそれほど有意義に時間を使えるような人間だろうか?

――でも古河が居ればあるいは………

――そもそも高校を卒業した俺は一体どんな生活をしてるんだ?

 いろんな思考が頭の中でごちゃごちゃになってよくわからなくなる。
 とりあえず俺は今できる最善の解決策を選ぶ。
「俺は……そのあと、どうなったんだ?」
 俺の記憶は古河と出会ってから数日後くらいまで残っている。
 そのあと…俺の記憶にない部分で俺はどんな風に生きてきたんだろうか?
「はい、それはですね…」
 そこで彼女は何故か気合いが入ってるようで、両の拳を握り締め、若干頬を赤らめながら答えた。
「わたしと朋也くんが付き合い始めてですね…」
「なに!?」
 その衝撃的な告白に思わず聞き返してしまう。
「そしてお互い下の名前で呼び合うようになったんです……」
 さっきのはそういうことか……。
 ん? 名前といえばさっき古河は変なことを言ってたな……自分のことを『岡崎』だって……
「それで高校を卒業したあと結婚したんです!」
「え……?」
 今度は驚きのあまり聞き返すようなことにはならず、むしろ言葉を失ってしまった。
「……えっと……それは…つまり……」
「私たちは夫婦なんです!!」
 頬の赤みが最高潮に達しながらも声量は衰えず、力強くそう断言する渚。
 俺はその言葉に衝撃をうけた。
 夫婦? 俺と古河が? え…えぇとちょっとマテ。

 高校三年の春……俺は古河渚という少女と出会った。
 なんにでも一生懸命で健気な少女……。
 だけどいつも小さな不運が連なって結果が伴わない……そんな不器用な少女。
 俺と同じ……落ちこぼれの場所に居ながらも、俺と違って必死に前に進んで行こうと努力していた少女。
 俺はそんな彼女がまぶしいと思った。
 でも元を辿れば彼女だってひとりでは進んでいけなかったんだ。
 俺が背中を押さなければ……。
 俺が背中を軽く押してやるだけでアイツはどこまでも行くから………。
 だから俺は柄にも無く、彼女には自分がついてないとダメなんだと思った。
 放っておけない。
 けど一緒にいると救われる。
 そのせいだと思う。
 俺は古河のことが………………
 ………好きだった。

 だけど告白するとか、付き合うとか柄でもないことは考えなかった。
 そんなことよりコイツの頑張ってる演劇部再建を是非とも叶えたいと、それに必死になってた。
 けどまぁ、俺も年頃の男の子なワケで。
 夜な夜な、古河のことを思い浮かべながらあ〜んなことしたいなぁ、とかこ〜んなことしてみたらどうだろう?とか思うわけですよ!
 あいつウブだからなぁ、恥ずかしがりながら言うこと聞いてくれたり………くはぁ〜〜。
 も、もちろん単なる妄想ですよ?
 実際にしたいという欲求を妄想で補ってるわけです!
 犯罪に走らないための代償行為ですよ!?
 で? 今なんつったコイツ。
 夫婦? 俺と古河が?
 つまりなんですか、俺が今まで妄想で補ってたこと現実にしても全然OK牧場(謎)、至って合法というそんなオイシイポジションにいるわけですか、だーまえさん!?
 具体的にいうと体操服とかスクール水着とか靴下オンリーとか………はぁ、はぁ。
 あ、しかも夫婦ってことは避●しなくてもいいんじゃん!
 ナマですよ、ナマ!?
 気持ちいいって聞いてたけど、どんだけいいんだろ……。
 あぁ、もう!

「渚!!!」
 そう言って俺は彼女の両肩を掴む。
「で、ですね朋也くんは電気工のお仕事について、アパートを借りて二人で暮らして…」
 ………………まだ続いていた。
「それで、春原さんが髪を黒く染めたんです」
 どうでもいいよ、果てしなくどうでもいいよそれ………。
 俺はとりあえず落ち着くことにする。
 古河とは夫婦なんだ、焦らなくても逃げはしない。
 今は情報を整理するほうが鮮血……じゃなくて先決だろう。
 どうやら今の俺はアパートで古河と二人暮らししているらしい。
 お互いの親がいる実家ではないのでヤリタイ放題だ……うっへっへ。
 しかも俺のことだ。電気工で稼いだ金で古河を工事する為の道具も、たぁくさん買い揃えてあるだろう。
 信じるぜ、未来の俺!
 そう心を決めると、俺は落ち着いて古河の話に耳を傾ける。
「で、ですね。朋也くんとの間に子供ができたんです。汐ちゃんて言います。しおちゃんです。えへへ」
 Why?
 今なんつったコイツ。
 子供?
 俺と渚の間に………
………
……

 処女じゃねぇのかよおぉーーーーーー!!!
 古河が! 俺の古河が!! 初めての行為に戸惑い、恥じらいながらも俺の言うことに従順に従ってくれる俺の古河が!!! 苦痛に耐えながらも俺を受け入れてくる古河が!!!
 俺のドリームがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
「朋也くん……」
 気付くと古河は悲しそうな顔で俺を見つめていた。
「ごめんなさい……こんな状況になって朋也くんが一番戸惑ってるはずですよね……。それなのにわたし早く朋也くんに記憶を取り戻して欲しいばかりにちょっと強引でした……」
 俺の内心の大寒波が表情に出てたようで、古河が慰めてくれる。やっぱ可愛いなこいつ。
 俺はそっと彼女の頭に手のひらを載せる。
「朋也くん……?」
 不思議そうに見上げてくる古河。
 そうだ、もっと前向きになろう。
 過ぎ去った過去は帰ってこないんだ。
 ならばせめて思い出したい。
 俺が古河の初めてを戴いたときのことを……。
「渚……」
 彼女の手をとり視線を合わせる……。名前で呼ぶのはまだ恥ずかしいけど(さっきのは勢い)。
「俺も同じだ……早く記憶を取り戻したい……だから二人で頑張ろうぜ!」
「……はい!」


[No.39] 2006/04/16(Sun) 23:52:44
話の大まかな流れを決める3話 (No.37への返信 / 1階層) - おりびい (代理:かき)

 トゥルルルルル、ピッ

「どうしたの椋、こんな時間に電話なんて…えっ朋也が目覚めたって…嘘、記憶喪失なんてドラマや漫画だけのものだと思ってた…渚の事とかもほとんど覚えてないの…ふんふん…仕事の合間にわざわざ教えてくれたありがとう。それじゃ」

 ピッ

 高校3年生、この頃の事を杏が思い出すのには写真も日記も何もいらない。
 好きになった少年、その少年を妹が好きなことを知って諦めようとした自分、そしてその少年が好きになった少女。
 苦くはないが甘酸っぱい記憶は、この先どれだけ多くの月日が流れても決して色あせることはないだろう。
(…高3からもう一度やり直せたら今度は恋人になれるかも知れないの)
 ほんの少しの違いで結果は大きく違っていたかもしれない。
 けれどもどれだけ小さな違いでもそれが過去になってしまったのなら、それは人の努力が及ぶ先になってしまう。
 過去を変える事は決して誰にもできない。

「記憶喪失か。もし陰であたしと付き合ってたなんて言ったら朋也信じるかな…えっ!?」

 何気なしにつぶやいた独り言に杏自身が驚いてしまう。
 そしてその驚きが完全に諦めたと思っていた恋心に火をつけた。
 少しの思案の後に自分の計画に必要な人物に連絡を取ろうと携帯を手に取った。



 繰り返して言う、過去を変える事は決して誰にもできない。
 しかし記憶はひょっとしたら変える事ができるかも知れない。







「みんなもう揃っているなんて感心感心」
 杏が呼び出した先のレストランには既にことみ、智代、風子が待っていた。
 なぜ彼女達がこうして付き合いがあるかといえばぶっちゃけご都合主義ということになる。
「多分あんた達のところにはまだ連絡いってないだろうから言うけど、今日朋也の意識が回復したんだけど、なんでも記憶喪失らしいの」
「わかった。朋也くんの記憶を取り戻すために私たちが友情パワーでがんばろうってお話なの」
「話は最後まで聞いて。それで今の朋也渚と付き合う直前ぐらいの状態になってるのだけど」
「またずいぶんと狙ったようなタイミングだな」
「風子ご都合主義はよくないと思います」
「いや、ほんと。それはあたしも思う。とりあえずそれは置いといて。今だったら朋也の記憶改竄できるかもしれないけど…この際自分のルートを通った事になってほしいという欲を捨てて、朋也にハーレムルート後の世界と思わせることで協力しない」
 その衝撃の一言を聞き、ことみはケーキを口に運び、智代はパフェのさくらんぼを今食べるか最後まで取っておくか悩み、そして風子はシャーベットの冷たさで頭を抱えていた。
「そりゃあたしが呼んだわけだから今日はあたしが払うけど、もうちょっと食べ物よりも話の方に意識向けてもいいんじゃない」



 そう文句は言ってみても杏もまた女性。
 ケーキセットが運ばれてくるとしばし言葉を忘れその美味しさに夢中となった。
 レストランにふさわしくない密談から、レストランらしい甘い物談義に花を咲かせたが、やがて全員食べ終わると再び話は朋也に戻った。
「そんな計画無理に決まっているでしょう。渚さんもいるし、いつ朋也の記憶が戻るかもわからないのに」
「智代は反対。ことみと風子は?」
「朋也くんと同じ学校に入ったのに二人重ならなかったから、私の高校時代はほとんど何もない真っ白な光景が広がっているの。でももし朋也くんとの思い出があったなら、きっと素敵な色に染まっていたと思うの」
「岡崎さんは別にいいですけれども、汐ちゃんが風子の妹になるのならば協力します」
「ことみと風子は賛成。というわけでこの先智代は脇役どころか出番もろくにないだろうけどあきらめてね」
「別に私は一言もやらないとは言ってない」
「ちょっと言葉が足りないのじゃないの」
「クッ、私が浅はかでした。どうか仲間に入れてください」
「じゃみんな賛成ね」
「それでは5人力を合わせてがんばりましょう」
 そうして伸ばされた手に次々と手が重なり合う。
 お互いの顔を見合わせてみて全員が確証する。
 その瞳を見れば決して裏切ったりしない信頼のおける仲間だとわかる。
 一人一人だったら困難な道であろうともこの5人が揃ったなら必ず大丈夫だと。

「「「「「エイエイオー!」」」」」

「ところであなたは誰ですか?」
 風子の誰何の一言でようやく残る3人は一人部外者がいる事に気づいた。
 先ほどまでの話し合いに加わってなかった人物に。
「仁科さんがどうしてここに?」
「どうしてと言われたら、ここは私のバイト先だからとしか答えられないですが」
 かつての同級生の智代の一言に、仁科はありのままの事実を述べた。
「あのバスケットボールの時に、私も岡崎さんから勇気をもらって、その、好きに…」
「仁科さん…そういうことは顔グラをもらってから言いなさい!」
「それでは私の出番は?」
「ないんじゃないの」
「ないと思うの」
「ないのではないか」
「そこはかとなくないと思います」
「そんな…渚さんのルートだったら一番確実に出番があるのに」



 自分を連れて行こうとする店長に抗議しながら、仁科はこの場から立ち去った。
「あんまり増えるとややこしいからこのメンバーでいこう。それでは早速色々と考えていきましょ」
「まずはチームの名前だな」
「決めポーズの練習だと思います」
「最初は応援歌を作るのが良いと思うの」
「作戦って意見はないんだ」


 こうして4人の大いなる野望へ向けての戦いが始まった。
 絶対的な朋也と渚の夫婦の絆が勝つのか。
 過去に挑む事ができるチャンスを得た4人の思いが勝つのか。
 そして3回目にしてこんな問題だらけの展開にした俺が刺し殺されることはないのか。
 全てはこれからの作者の筆にかかっていた。









出番

出番


出番



出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番出番



 後仁科さんの出番も


[No.40] 2006/04/16(Sun) 23:54:13
ついカッとなって書いた。反省してる第四話 (No.37への返信 / 1階層) - のど

 前回までのあらすじ(嘘

 春原陽平は社会人である。高校を卒業した彼は地元に帰り、知り合いのつてでとある事務所に就職をした。そして仕事にある程度慣れてきたと、本人がある程度自覚し始めてきたここ最近事件はおきてしまったのである。
 その日事務所には春原しかいなかった。そして、彼は運悪く体調――主に腹を――崩していた。
 時計の針が十一時を示そうかとしていたとき、突如として彼のおなかに現れたビックウェーブ、台風十二号。
 括約筋の堤防が決壊する前に早く行かねば、と春原はPCに打ち込んでいた書類を途中にして距離にして十二メートル、仕事場から右手方向にある男子便所へと駆け込んでいったのだった。何とか最悪の結果は免れたらしい。
 だが、更なる不幸が彼に襲い掛かろうとしていたとは、当の本人はもちろんのこと、ネバネバタ州のミシシッシッピー川で川くだりをしてるガリクソンさん(百八歳)も気づいていなかっだろう。
 二メートル四方の閉鎖空間、春原は背筋から上りあがる感覚に身を震わせ、解放感に酔いしれていた。
 両目を閉じ、もう一度下腹部に力を込める。皮膚の下で腸が再び躍動していくのがわかる。
 ゆっくりと目を開け、春原は思った。
 勝った。何に勝ったと聞かれれば言葉に詰まるが、それでも春原はそう思った。
 さて、この高揚感を胸に残りの仕事を片付けようと思った春原は手を左に動かし――かくはずのない冷や汗をかいた。
 首を左へ。そして首はある一点でピタリと止まる。視界に飛び込んできた現実に先ほどまでの高揚感は跡形もなく代打逆転満塁サヨナラホームランされ、太陽輝く昼空に吹き飛んだ。
 瞳孔は収縮を、瞼は開閉を繰り返す。思考限りなくゼロのままで、視点は一点からピクリとも動かない。
 辺りを見回す。
 所々にひびが入った灰色の壁、タイル張りの薄汚れた床、そして転がり落ちている天寿を全うされたトイレットペーパーの芯二つ。
 思わず、声も無く絶叫しそうになった。
 何かトイレットペーパーの代わりになるものはないかと、辺りを探す、ポケットをまさぐる。
 捜索から十五秒。紙片はあった。一応、あった。その紙片の名は一万円紙幣、またの名を虎の子の福沢諭吉大先生と言った。
 みっちゃん、道々う○こたれてー、という昔懐かしい童謡が頭の中でリフレインされていた中、春原はその紙片を左手に持ち、そして右手を見る。
 選択肢は二つ。ライフカードは二つ。続きはウェブ上でなく目の前でリアル。
 どうする、アイフル(業務停止)。どうする、春原。まだ給料日まで十日以上も先だぞっ。





 『第四話、あらすじなんて飾りみたいなものだよね』





 病室での目覚め、衝撃の事実、感動の誓い、抱擁。その全てが終わった後、朋也は体力が尽きたのかまた眠りについた。前もって言っておくがこれが体力回復のための睡眠であり、意識不明とかそういうのではない。
 寝息を立て静かに眠る朋也の姿を確認した後、渚はそっと病室を出た。そして、階段下へと向かう。
 お昼を少し過ぎた病院のロビー及び待合コーナーは人がまばらだった。
 パジャマを着た入院患者らしき人たちが喫煙コーナーで世間話をしていたり、診察待ちをしているご老人達が自分たちの病気談話に華を咲かせ、きっと親の付き添いで来ただろう子供たちがロビー狭しと走り回る。
 どこにでもあるような病院風景だった。
 渚はそんな光景を尻目にロビーの一角、待合コーナーへと歩を進める。
 おじさん、おばさん、ご老人、子供たちが座る席になど目もくれず待合コーナーの片隅、渚とほぼ同年齢くらいの女性がいる席まで一直線に向かうと、何事もないようにそこへと腰を下ろす。
 時間して数秒くらいであろうか、渚とその女性は互いに存在を確認すると、目線を交わさないまま会話をはじめた。

「……残念ですが、潜入には失敗しました。ですが、確実に動いてきます」
「そうですか。椋ちゃんを通じて朋也くんが目を覚ました情報を流した甲斐があります」
「今現在の構成メンバーは、藤林杏さん、一ノ瀬ことみさん、伊吹風子さん、坂上智代さんの四名。構成員の増減に関してはこれからも監視を続けるつもりです」
「ありがとうございます」

 なんとその女性とは、前回の話でレストランの店長により退場を余儀なくされた仁科その人であった。

「それでこちらの手勢は?」
「先ほども言いましたが椋ちゃん、それに杉坂さんも手を貸してくれるそうです」
「りえちゃんが……」

 仁科は高校時代は親友として付き合い、高校を卒業してからも度々連絡を取り合う親友のことを思い出した。
 渚が汐を出産しようとした時、彼女が生死の境を彷徨っていた時。その瞬間のことを思い出しながら杉坂はこう仁科に独白していた。
『たぶん、古河さん……いや、渚さんがあの時死んでいたら、私、渚さんの遺骨を全部飲んでいたと思う』
 こんなことを真面目な顔をして言うものだから、仁科は思いました。
 ああ、日本が同姓婚を認めていなくて良かった、と。
 きっと認めていたら、杉坂はあらゆる姦計、策略、謀略、罠を用い朋也を蹴落とし、踏み潰し、亡き者にして渚を手中に収めていただろう。良かった、ああ本当に良かった。ここが日本であってオランダじゃなくて。

「では、私も心当たりをあたってみます。たしか、前に偶然街で会った宮沢さんも岡崎さんのことを心配してましたから、こころよく協力してくれると思います」
「味方は多いに越したことはありませんから。お願いします、仁科さん」

 そう言った渚の横顔を仁科はふと見る。
 何か違っていた。そこには仁科が良く知っていた頃の渚はいなかった。
 少し自信無さ気で、ドジで、天然で、でも憎めなくて、年上なのに可愛らしくて、女性というよりも少女という言葉が似合っていた二つ年上の後輩はほんの少しの間で明らかに成長を遂げていた。それはまさしく、一人の妻であり、母親であり、――女であり。

「変わりましたね」
「え」
「渚さん、変わりました。何か、こう、強く」
「そ、そんなことありません。わたしはドジばっかして、いつも朋也くんやお父さんにからかわれてばかりのおっちょこちょいさんですっ」
「いや、そういうのじゃなくて。……えーと、内面的ていうか何というか」
「あ、やっぱり。胸が大きくなっちゃったのわかりますか?」
「え、ホントですか!? 羨ましい――じゃなくて、かもし出す雰囲気とか、あー、もう、自分がなに言いたいんだかわからなくなってきたっ!」
「に、仁科さん。落ち着いてくださいっ」

 結局、ぐだぐだになった。アンガールズチックにぐだぐだになった。じゃんがじゃんが。
 一つ二人に言うことがあるならば、病院内はお静かに。





 数時間後、また新たな組織が結成された。その名も「岡崎家死守同盟」。どっかのパクリとか言っちゃいけないのですよ、赤坂。
 この後繰り広げられた彼女らの戦いは、まさしく凄惨の一言が似合う戦いであった。
 その凄惨さを言葉で表すならば

 そーらを飛ぶ
 まーちが飛ぶ
 雲ーを突き抜け
 星になる
 火ーを吹いて
 やーみを裂き
 スーパーシティーが舞い上がる

 てな感じ。
 第五列が跋扈し、買収に謀略、裏切りや密告が横行する情報戦が繰り広げられたり、ヒトデが乱舞し、辞書に眼鏡、あんぱんやバイオリンが横行する肉弾戦が馬鹿らしく繰り広げられたりと彼女らのことを知っている人たちが見れば思わず次の日出家したくなるくらいの勢いだ。
 これが郷土史上最強にして最凶の出来事、通称「彼女らの七日間戦争」の舞台はこうして幕を広げたのであった。















 え、あらすじの春原はどうしたって?
 きっと、後の人が思い出したように補完してくれるさっ(ひでぇ)


[No.44] 2006/04/19(Wed) 11:46:36
何も進展のない五話 (No.37への返信 / 1階層) - イクミ

「そういえば」

 杏が思い出したかのように呟いた。
 あのよく分からない同盟結成の翌日、杏、椋、風子の三人は、最初の会議をしたレストランに再び集まっていた。ことみと智代は何かと忙しい身であったので、この暇人三人で時間を潰す、もとい作戦会議をしていた。

「なんで朋也って記憶喪失になったの?」
「検査によると強い衝撃を頭に与えられたようなんですが……はっきりとした原因は、よく分かっていません」
「風子知ってますよ」
「はあ? なんで、あんたが知ってるのよ?」
「それは……」




 その日、風子は汐ちゃんと遊ぶ約束をしていたので公園で待っていました。そこで秋生さんが、いつもの如く仕事を放棄して少年達と野球を楽しんでいる姿を発見しました。

「よくあのパン屋潰れないわよね」

 風子もそう思います。
 それで、暇だったので風子はその野球の試合をベンチに座って観戦することにしたんです。場面は九回裏、ツーアウト、ニ塁三塁。バッターボックスには四番の秋生。

「あんた口調が変わってるわよ」

 気にしないで下さい。雰囲気って大事だと思うんです。空気読んでください。
 その時、秋生さんのチームは7−6で負けていました。つまり一打逆転のチャンスです。ここで打てれば目立ちます。しかし、一塁が空いていました。賢い投手であるならば、この場面では秋生は敬遠するでしょう。そう思って見ていたら、案の定捕手が立ち上がりました。やはり敬遠することにしたようです。

「あんた野球詳しいわね」

 普通です。これぐらい常識です。むしろ知らないとヤバイです。
 秋生さんとしてはおもしろくないことです。どうやってクソボールを打ってやろうかと考えていたことでしょう。
 しかし、投手の子が振りかぶり投げたボールは、秋生さんの予想外の場所へと投げ放たれました。それはど真ん中。誰もが不意を突かれていました。捕手も、もちろんバッターである秋生さんも、そしてこの風子も。

「知らんがな」

 慌てた捕手が辛うじて腕を伸ばし捕球することが出来ましたが、もし後ろに逸らしていたら同点は間違いなかっでしょう。
 捕手が文句を言いながら投手の子へと返球しましたが、それでも投手の子は何も言いませんでした。何も言わずに秋生さんを睨みつけていました。これぞ男って感じです。
 まさかのど真ん中。絶好球を見逃した自分。睨みつけてくる少年。秋生の中で何か忘れていた熱いものがこみ上げてきた。それと同時に堪らなくおかしくなった。こいつは正真正銘の馬鹿だ。しかし、自分はそんな馬鹿が嫌いではなかった。どちらかといえば好きな部類である。ふと、自分の娘を掻っ攫っていった小僧のことが思い浮かんだ。

「あんた誰よ。キャラ変わってるわよ。まあ、いいわ。続けて」

 やれやれという風に捕手が腰を落としました。言っても聞かないことが分かったのでしょう。伊達にバッテリーは組んでいないようです。それを見て投手の子が満足そうに笑いました。爽やかでした。風子一瞬キュンときてしまいました。ちなみに投手の子は小学生です。

「あんたの趣味が分からないわ……」

 きっと彼には結果が見えていたはずです。古河秋生と勝負するということ。自分の力量。全て分かった上でも、尚逃げることは出来なかったのです。ちっぽけですが、それが彼のプライド。風子、思わず抱きしめてしまいました。

「邪魔してんじゃないわよっ!」

 続く二投目。投手の子は力んでしまったのか、ボールは秋生さんの顔面目掛けて飛んでいきました。
 そのボールを秋生さんは避けようとしませんでした。彼ならば簡単に避けれるようなボールです。しかし、彼は敢えてそれを受け入れました。そして一言。

――これはお前のことを信じられなかった俺への罰だ。

 風子思わず秋生さんに抱きついてしまいました。

「だから、邪魔してんじゃないわよっ! ていうか、顔面にくらったらデッドボールじゃないの?」

 そんなこと気にしてたらこの先に生きていけませんよ。
 そして、秋生さんに抱きつきながら風子も一言。

――これ以上風子のために争わないでくださいっ!

「間違ってるから」

 風子という女の子を賭けた勝負。

「だから違うって」

 投手の子が目を閉じ、瞑想を始めました。きっと今までのことを思い出しているのでしょう。
 双子の弟の事故死。あの相撲部での日々。壊してしまった右肩。タッちゃん、風子を甲子園に連れてって。

「あ、仁科さん。コーヒーのお代わり頂戴」

 全ての想いを込めた第三球。球種は勿論ストレート。コースも当然ど真ん中。力対力。
 秋生さんが大きく左足を上げました。それは秋生さんが本気を出した時にのみだす一本足打法っ! 風子、腰が浮きました。

「ずずず。……で?」

 まあ、慌てないで下さい。
 秋生さんの左足が地に着くと同時に甲高い音が、その公園に鳴り響きました。
 
「結果は?」

 逆転サヨナラスリーランホームラン。

「投手の子、負けちゃったのね……」

 はい。結果は秋生さんの勝ちです。投手の子は顔を伏せていました。

「当然よね。負けちゃったんだもん」

 守備陣が投手の周りに集まりました。皆なんて言葉を掛けていいか分からないようでした。そんな暗い沈黙を破ったのは、意外にも投手の子でした。

――わりぃ。打たれちまった。

 そう言った彼の顔には弾けるような笑顔が張り付いていました。
 それを見て風子、思わずジュンッってきちゃいました。

「いや、意味分かんないから」
「これが、風子が見た話の全てです」
「なるほどね。いい話聞かせてもらったわ。ありがとね」
「礼には及びません。風子も話せて満足です」

 壮大な少年の成長物語を聞いた杏は、満足気にコーヒーを啜っていた。そして、もし自分に男の子が出来たら野球をさせようという決心を密かにした。
 風子もまた、満足気にデラックススーパージャンボパフェを口に運んでいた。想像以上の大きさに注文したことを後悔したが、今度はお姉ちゃんと食べよう、そう密かに決心した。

「あのー」
「あれ? 椋いたの?」
「気付きませんでした」
「ひどっ」

 これまで一言も喋らなかったので、忘れられてもしょうがない。もともと存在感薄いし。ドンマイ。

「ま、まあ、それは別にいいんです。それで、岡崎くんの記憶喪失の原因はなんだったんですか? 今の話で一回も岡崎くん出てきてないんだけど」
「「あ」」
「ち、ちょっと、ちゃんとしてよねっ! もう天然なんだからっ!」
「すいません。記憶の中の投手の子に夢中になってしまいました」
「お姉ちゃん?」
「な、何よ?」
「忘れてた?」
「そ、そんな訳ないでしょっ! 馬鹿っ! 椋の馬鹿っ! 巨乳淫乱ナースっ!」
「ち、ちょっと落ち着いて、お姉ちゃんっ! こんな所で何言ってるの!」
「うるさい、うるさいっ! 朋也のことを私が忘れるわけないでしょ!」
「風子忘れてました」
「風子は正直すぎっ!」
「お姉ちゃん?」
「そ、それで、風子っ! さっきの話と朋也の記憶喪失、一体何の関係があるの?」

 誤魔化すかのように、ていうか、誤魔化すために大声で風子に問いかける杏。

「秋生さんの打ったホームランボールが、偶然近くの電柱で仕事をしていた岡崎さんの頭を直撃していました」
「あのおっさんの所為かいっ!」
「大丈夫です」
「何がっ!」
「目撃者は風子だけです」
「そうねっ! 大丈夫ねっ!」
「お姉ちゃん、落ち着いてっ!」
「落ち着いてるわっ! すいません、モンブランとトイレットペーパーひとつくださいっ!」
「風子、ヘルシア緑茶を所望します」
「あーん、誰か助けてー」




 相変わらず意味不明な風子。
 朋也のことをすっかり忘れていたことを誤魔化すために妙なテンションの杏。
 そんな二人に振り回される椋。
 そして欠席したことみと智代。
 こんなメンバーで大丈夫なのか?
 朋也との素敵な日々を掴み取ることが出来るのか?
 そして何も進展しなかった第五話。
 あと、春原は一体どうなったのか!




 次回きっと急展開の六話!
 仰ご期待!


[No.49] 2006/04/22(Sat) 20:30:43
色々と真っ黒な6話 (No.37への返信 / 1階層) - 翔菜




 ――あらすじ配信ここから(スポンサー:〜どこでも繋ぎます!〜スキマ産業株式会社〜)――


 川くだりは順調だった。
 俺を阻む者はいない。
 吹きさらす風となりてガリクソンさん(百八歳)はネバネバタ州のミシシッシッピー川をくだっていた。

 『紙が、紙が――』

 突然頭の中に響く声。
 ……否、これは想いか。
 ガリクソンさんはそれでも川くだりを続ける。
 この想いに応える事が出来ないのは彼が一番わかっていた。
 けれども何をすればいいのかがわからなかった。


 ――I do not understand Japanese.


 だって日本語わかんねぇし。


  *


 春原は電波を送っていた。
 トイレという閉鎖空間に置いてでも電波は送れる。
 だってほら、携帯電話通じてるじゃないか。
 春原が送っている電波はそれとは全く違うのだが、それでも彼は届く事を信じる。
 だがしかしそれが届きそうな気配は無い。
 頭を垂れ、絶望に暮れ、しかし諦めない。
 曰く、ウサ耳は月−地球間の交信が可能だととある偉大な神主様は言っていた。
 ならば、

「届けっ、僕の想い!」

 両手を頭の上にウサ耳のように。
 そう、月−地球間の交信が可能だと言うのならば自宅との交信などわけもないはずだ。
 さらに妹と言う血縁の深い者であればより一層成功確率は高まるに違いあるまいと、春原は考える。
 紙を、紙を、紙をと電波を送り続ける。


 ――I do not understand Japanese.


「!」

 受信に成功したのか、何かが聞こえた。
 行ける、そう思い春原は再度送信を行う。
 受信したのは英語。ならば英語で返さなくてはと頭から英語を搾り出す。
 春原に外国人の知り合いは居ない、ならば知らない人。
 そう、まずは自己紹介だ。春原は意外と礼儀正しかった。

「ア、アイアム」

 驚きだ春原、ちゃんと言えたじゃないか。
 頑張れ!

「アイアム北京原人!」


 ――あらすじ配信ここまで(スポンサー:〜あなたのお尻に座薬と言う名の安らぎを〜イナバ薬局)――











 第6話 「ない頭絞って4話のあらすじの続き考えてみました」











 カンカン、と歩くたびに響く金属音。
 古ぼけ、錆付いた階段は崩れるのではないかと言う幻想すら覚えさせる。
 そして幻想は、現実になり得る。
 これから出会う相手は、場合によっては今人間関係に置いて自らの立っている場所を崩しかねない相手だ。

 ひとつ、犬の鳴き声。
 夜間の住宅街の一角に轟くそれは、不思議と恐怖を抱かせる。
 否、……こんなものはよくある事。
 日常のようでいて非日常。それが今、杉坂(ノイズが入って名前が表示されない)に恐怖を抱かせているのだ。

 指定された部屋の前に立ち、杉坂は唾を飲み込む。
 ノックしようとし、一瞬だけ躊躇をした後、それでも叩く。
 しばらくするとそれに応答するような声がして……、
 ノブが回り、ドアが開く。

「いらっしゃいませ、杉坂さん」

 そこからは顔を覗かせたのはにこやかな裏の無い――だからこそ恐ろしい――笑みを浮かべた女性……藤林椋だった。

「……」

 杉坂は、睨む。
 敵などではなく、信用など出来そうも無い相手を見る目で。

「ふふ……そんな顔、しないで下さい。決して、杉坂さんにとって悪い話ではないと思いますから」

 そう言うと、杉坂を部屋に招き入れようとするように背を向け歩き出した。


  *


「ここまでほぼ計画通り……なのですけれど、1人でも味方がいれば助かります」

 椋がコト、とマグカップを置く。
 来客用のものである。
 湯気が僅かに視界を霞ませ、しかしそれは恐怖を霞ませるには至らない。
 重い沈黙の中正面に座るが口を開く様子は無く、
 ――試されている。
 そう気付き、杉坂が口を開く。

「でも、まさかあなたが……」
「不思議でもないでしょう? 渚さん側の勢力につけば渚さんの手に岡崎くん……いえ、朋也くんを他の方々に渡さないようにしなくてはならない」
「ですが、」
「ですがもデスノートもデストローイもありません。私ではあの4人組に加わる事はほぼ不可能。だから、独立勢力なんですよ」

 誰を呪ってやればいいのだるか。
 こんな、危険人物に目を付けられてしまった事は。
 視線を外すと、そこには女性の1人暮らしだと言うのに食器棚にある、使われた事の無いペアのマグカップ。
 一体それにはどんな祈りが篭っているのだろうか。

「けれどそれは……!」
「拙い、でしょう? だから渚さん側の勢力についた『フリ』をするんです」
「……」

 言葉に詰まる。
 渚側についた『フリ』をして、粛々と逆フラグを立てるべく動く。
 杏たちを抑える事は実質不可能だから、そちらにはあくまで中立であるかのように装う。

「それで、知ってしまった杉坂さんはどうするおつもりですか?」
「私は」

 自分から拒否もさせず教えたのに、何を言っているのかと思う。
 が、それを言葉として紡ぐ事は出来ずまた、詰まる。
 自らの心に迷いがあるとわかった。
 それでも、仁科を裏切ることなど杉坂には出来そうに無かった。
 渚の幸せを考えてもいた。
 訪れる沈黙。しかしすべてが静まり返るのでもなく、また響く犬の鳴き声。
 つーかうるせぇ。酔っ払いが犬に絡んでやがるなこれ。

「私は、守ります」

 何かを決意したかのように、杉坂。
 ふっ、と微笑み、椋は問いかける。

「こちらには、来て頂けませんか?」
「守るべき物が、ありますから」

 沈黙。ただ重くは無く、そして椋に押されるでもなく。
 揺るがし難い雰囲気を持った杉坂に有利とも言えそうな沈黙だ。

「杉坂さん」
「なん、でしょう?」
「法律なんてどうでもいいじゃないですか」
「ですよねー♪」

 ですよねー♪じゃねぇよ。
 つーかぜってぇ迷いないよお前。
 それよりも守るべき物っては法律だったのか。そーなのかー?

「協力、しませんか?」
「報酬は?」
「私が朋也くんを手に出来たとき、あなたの手に渚さんを」

 妖艶な笑みを浮かべる目の前の椋に対し、杉坂は冷や汗を掻きながらも不敵な笑みを返す。
 他の者が岡崎朋也を手中にすべく動く中、渚を狙うのは杉坂だけだ。
 唯一の敵となる朋也も、ハーレム状態(ある意味地獄)の中そう簡単には対処出来まい。
 もしも対処しようと杉坂との接触を試みれば「そんな影の薄い奴に興味があるのか!」と袋叩きにされる可能性も0ではない。
 記憶を失っているとは言っても、それくらいまでなら朋也だって頭が回るだろう。
 でもそこまで考えて別に影薄くねーよとちょっと泣きたくなる杉坂。むしろ泣いてもいいですかここで。

「でも、どうするんですか……椋さん。あなたのルートは」

 ふと、何かを受信した杉坂がそんな事を口走る。
 逆フラグ、それ即ち無理矢理自らのルートに引き込むという事だから。
 杉坂は躊躇う。同盟即刻破棄の可能性もある言葉を口にする事を。

「お姉ちゃんのルートのバッドエンド、ですよね」
「!」

 理解……否、認めていた。
 しかも同じ物を受信していたらしい。
 盟友として、幸先のいいスタートである。

「それについては問題ありません。何故なら、」

 椋は口元を悦に浸るかのように歪め、続ける。

「本当は、お姉ちゃんのエンドこそが私のルートのバッドエンド扱いなんですから」
「……あなたは」

 前言撤回。全然認めてなかった。
 むしろ開き直ってた。
 駄目だこいつ……早くなんとかしないと。そう思いつつも、杉坂は感じる。
 こいつは只者ではない……新世界の神にも届く女だ、と。
 現時点で敵に回すのは自らを奈落の底へ叩き落とす事になるかもしれない。
 一瞬考えた、やはり断るという選択を杉坂は即座に排除する。

「……何にせよ。私としても1人よりは2人の方が心強いですから」

 椋はそう言い、苦笑いを浮かべながら杉坂に向かって手を差し出す。
 杉坂もそれに応じるように手を差し出し、2人の手が重なる。

「紙に書くなんて大袈裟な事は出来ませんし、証拠を残すわけにもいきませんから」
「これで、同盟成立と言う事で」

 同じ意見。
 そして腹の中で考える事も同じだ。
 都合が悪くなれば裏切る、と。
 これは口約束のようなものだから、けれど、少なくともその時までは。
 2人は誰よりも強い絆を、繋いだままでいるだろう。


[No.55] 2006/05/12(Fri) 13:19:10
1分で読み終わる第7話 (No.37への返信 / 1階層) - 心華

 さて、あっちらこっちらで血生臭い、いや、違うか。泥臭い、これも違うか? じゃあキナ臭いか? まぁそんな感じの濁った会合が行われていた頃、その渦中の人、岡崎朋也は戸惑っていた。
 なぜなら……

「パパ、リンゴむけたよ。ハイ、あ〜ん」

 と、ヒマワリのような笑顔で、不器用に切り分けられたリンゴを差し出した少女の存在の所為だったりする。

「あのさ、汐ちゃん……って、あっ」

 行った傍から、己の発した言葉をうらんだ。あちゃーと心の中で呟くが、もう遅い。
 とりあえず自分の記憶が吹っ飛んでいることを考慮しながら、慎重に言葉を選んだ。否、選んだつもりだった。
 しかし、「汐ちゃん」と呼ばれた傍から彼女「汐」は、ほっぺたを膨らませてぶんむくれさせていった。

「もぉ〜っ。パパったら、いい加減にわたしのこと、汐っていつもみたいに呼んでよね!」
「んなこといわれてもなぁ……」

 そう、さっきから彼女のことを「ちゃん」付けで呼んでは、今のように怒られるのである。
 朋也が記憶しているだけでも既に8回(今回で9回目)注意されている。2桁の大台には乗せたくない気分である。以後注意せねば、と心に誓う。
 それにしても……と朋也は思った。彼女――汐――を見れば見るほど、朋也には信じられない。
 なにせ彼女は自分の娘だというのである。朋也の記憶には18才までのものしかなかったから、これほど大きい娘が居るという話が信じられないのも当然の話だった。

「記憶が跳んでも、パパはパパなんだかんねっ。あ、それとも……」
「それとも?」
「いっそ愛人にでもなったげよっか?」

 ゴンッ!!
 激しい音を立ててベッドに備え付けの机に頭を突っ込ませる朋也。
 痛い……と思いたいところだったが、どっかの神経が麻痺してるらしく、意外と痛くない。
 心配そうに顔を覗かせた汐が言った。

「ああ〜、パパ、大丈夫?」
「意外と」
「今のショックで記憶が戻ったりは――」
「残念ながら」
「もっかいやってみる?」
「遠慮しとく」
「残念」
「残念がるなっ」
「えー」
「えー、じゃありませんっ。大体なんだよ愛人って、恋人ふっ飛ばしていきなり愛人かよっ」
「いやぁ〜、恋人にはママがいるからさ、それならば愛人に落ち着くのが一番の解決策かと思いまして」

 そーゆー問題じゃないだろ……と、ぐったりした朋也を見て、はっはっはっと汐が笑う。

「ま、記憶が跳んじゃったのはしょうがないって、そのうち戻るといいよね」

 そういった汐の顔が、少しだけ寂しそうに見えて、すまん、と朋也は謝った。
 寂しい顔をさせてしまったのは、明らかに自分の所為で、でも早く記憶を戻せと急かしたりしない汐に、申し訳なくなったからだ。
 割りと自然に出てきた自分の台詞に驚きつつ、新しい自分を見つけたような気分になりつつ、複雑な気分で、朋也は汐を見た。

「なぁ、汐?」
「ん? なに?」
「汐が覚えてるだけで良いからさ、聞かせてくれないか? 汐と俺の……俺たちの、思い出」
「いっぱいあるよぉ〜」

 まるで宝物を友達に自慢するような笑顔――実際そんな気持ちなんだろう――で、ニッ、っと笑って汐は言った。
 望むところだ、朋也も笑顔で返す。

「それじゃあまずは、割りと最近のことからでね……」

 たまには、記憶をなくしてみるのも良いかもしれないな。
 記憶の戻らない、病院の一室で朋也はそんなことを思った。
 とてつもなく下らない陰謀が、自分の知らないところで、でも自分を中心として、うごめいているとは露知らず……。


[No.58] 2006/05/27(Sat) 16:14:15
遅くてごめんなさい&とりあえずかきさんの伏線は回収したよ8話 (No.37への返信 / 1階層) - 春日 姫宮

 2003年

 部屋は散乱していた。
 部屋にひとつだけある机の上には読みかけの雑誌、散乱した空き缶。床には脱ぎっぱなしの制服。しかしそんなことには構わず、彼は急いでトイレに入った。
 ガサガサっという音。「ふぅー、たすかったー」という声。そして再びトイレの扉が開き、笑顔がこぼれる。
「サンキュー、ガリクソン」
 窓をガラガラと開け、その向こうに見える青空に向かってVサインを決めた。
 ――本当に呑気な男。
 それから、彼は机の上の雑誌を手に取り、パラパラとめくる。雑誌の表紙には、下着姿の女性が描かれていた。
 何故か体がカっとして、わたしは思わずぎぎぎ、と音を立てる。今のわたしにはそれしかできないからだ。
「ん?」
 彼は音のした、つまりわたしの方を向いた――見た目よりはずっと繊細なのかも知れない――そしてやっとつぶやいた。
「そういえば、僕なんでここにいるんだろう?」
 ポリポリと腕をかく。
「どうやったら戻れるのかな?」


 それからが大変だった。
 彼は、自分のおかれた状況を理解する間に、時計の長い針がくるりと一回まわった。


「つまり、僕は今、僕が高校生だった頃の時間、その頃住んでいた寮にいる……ってことでいいのかな?」
 そのとおりだよ、とわたしは彼に言いたかった。
 そして謝りたかった。
 彼のことも助けることができなかったからだ。
 彼とあの人が、不完全な形で世界を遡ることになったのは、わたしの力がもう足りなくなってしまったからだった。
 そのせいで、彼とあの人は15年の時を隔ててこころとからだが入れ替わり、わたしは一緒に遊んでいた「人形」の中に――この何もできない体の中にいる。
 扉が開く音がした。
「あ、岡崎」
 彼はヒンズースクワットを止め、玄関に向けて顔を上げる。
「やあ」
 あの人――敢えて呼ぶなら、おとうさん――だった。おとうさんは憔悴していた。瞳の周りには隈がべったりと張り付いている。
 そのはずだった。わたしのせいでおとうさんも、いきなり15年後からこの世界にとばされてきたんだから。
 ふたりは同じ15年後からやってきた、仲間だった。わたしもそのひとりだった。
 でも、きっとふたりともそのことに気付かないまま、この誤った世界を生き続けるのかも知れない。
 自分のしたことが、恐ろしかった。
 叫んで、本当のことを話して、何度も謝って、そして罰して欲しかった。
 おとうさんは暴漢からわたしを庇おうとして、刺されたんです。春原さんは地震が起きて、運悪く落ちてきたトイレの天井に潰されるところだったんです。
 またひとりぼっちはいやでした。だから、なにかしたかったんです。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい――
 わたしはずっと孤独に耐えて行けばよかったんだ。今までもそうして来たんだから。
 ひとを助けるなんて、思い上がりだった。
「なあ岡崎、信じないと思うけど聞いてくれ。多分僕15年後から来た」
「春原お前もか!」
「馬鹿って言わないでくださいねぇっ。これは本当の事なん……ってあれ?」



 2018年

「なんだここ。ってうわっ」
 突如激しい揺れが彼を襲った。と、同時にぐわん、という、意識を失うほどの大きな音が彼の頭上に響いた。
 何がなんだか分からなかったが、何か影が降りてきた気がした。それを反射的にかわした。
 いきなり雨が降る。雹が降る。
 頭に叩きつけられる水、氷、地面は煙をあげ部屋は真っ白になる。
 部屋? 部屋なのに何故雨が降るのか?
 気が付くと、がれきの中に彼の体は埋もれていた。
 目から5cm――いや3cmのところに、鈍い光を放つ棒があった。先ほどの影はこれだったのか。
「ははっ。人にこき使われて神経のすり減った大人だったら、これであの世行きだったかも知れないけどなっ」
 とりあえず笑ってみる。たちまち口の中に砂が入り、彼はむせた。
「げほっ、げほっ。これ、ひょっとして今でもピンチ?」
 何故だか分からないけれど、ズボンもパンツも足下に落ちていた。びしょ濡れで。


[No.71] 2006/07/16(Sun) 00:56:13
たぶんこれは第9話 (No.37への返信 / 1階層) - 海老

 ごゆっくりどうぞ。
 店員はそう言い残すと、踵を返し店の奥へと戻っていく。壁際に位置したテーブルの上にはコーヒーが三つ。それぞれが手を伸ばし、取り敢えずは喉を潤した。
「久しぶりだな。宮沢」
「お久しぶりなの」
「お久しぶりです。坂上さん、ことみさん」
 お昼には少し早いくらい。そんな、どこかのんびりとした一時に、智代、ことみ、有紀寧の三人は、とあるオープンカフェに集まっていた。
 快活な青空の下、三人の横目に映るテラス席がぽつぽつと賑わいをみせている。
「二人とも知り合いだったのか?」
 外とは打って変わり人気のまばらな店内。智代の声に応じて、ことみと有紀寧は顔を見合わす。
「お会いするのは今日が初めてですね」
「私も初めましてなの。えっと……」有紀寧です。とタイミング良く合いの手が入る。「有紀寧ちゃん。私はことみ。ひらがなみっつで、ことみ。呼ぶ時はことみちゃん」
「初めまして、ことみさん」
 言いながら微笑む有紀寧とは対称に、ことみの笑顔は小さく歪む。
「有紀寧ちゃんは」瞳をうるうるさせながら有紀寧を見る。「いじめっ子?」
「いえ、ことみさんは年上ですから」
「それなら私も『有紀寧さん』って呼ぶの」
「わたしは年下ですよ」
 そう、やんわりと答える有紀寧。「うー」と駄々でも捏ねるようにじたばたすることみ。
 それを見る智代は、頬杖を付きながら呆れ顔を浮かべる。
 ――『お久しぶり』から入ったのは会話の流れのためのご都合主義、ということにしたとしてもだ、
「年上の方には正しい敬称が必要ですから。ね、ことみさん」
 じたばた、うーうー。
 ……この二人、本当に年下(年上)なんだろうか――。
 と、智代はそこまで考えると、わざとらしく咳払いを一つ。仕切り直しでも図るかのように二人の顔を見る。
「二人とも、そこら辺でいいか。早めに本題に入ってしまいたいんだが」
「……そうだったの」思いだしたようにことみ。
「朋也さんのお話、ですか」笑顔のままに有紀寧。
「ああ。まずは現状を宮沢に説明したいと思う」





 たぶんこれは第9話。





「――というのが数日前の出来事で、一応、私とことみは朋也ハーレム化計画に参加していることになっているんだ」
「そんなことになっていたんですか……」
 智代はああと頷きつつ、ふうとため息も一つ。まあ、それもそのはず。『朋也の現状の説明』なんて面倒にも程がある。それこそ、タイトル挟んで省いてしまいたくなるくらいに。
「じゃあ、今日わたしをここに呼んだのは、わたしもそのグループに――という事なんでしょうか?」
「いや、そうではないんだ。ことみ、ここから頼む」
「わはっはほ」
 いつの間に頼んでいたのやら。ほぐほぐとアップルパイを口いっぱいに含みながら、ことみが智代と席を入れ替わる。
「けふろ……」含んでいた物をゴクンと飲み込み、何でもなかったように話し出す。「結論から言ってしまうと、智代ちゃんに有紀寧ちゃん、それに私を加えたこの三人で手を組んでほしいの」
 有紀寧が一瞥した先で、こくりと智代が頷く。
「正確に言えばことみと私はすでに同盟済みだから、あとは宮沢だけという事になる」
「……ことみさんと坂上さんは、ハーレム化計画の一員ではないんですか?」
「宮沢、それはあくまで『一応』だ。私とことみはハーレム化計画に入った翌日には、もう二人で同盟を組んでいる」
 ふふふ、とどこか恍惚とした表情でカップを目の前に持ち上げながら、そんなことをのたまう智代。あの智代さん、コーヒーが微妙に残ったままカップを回されるのはどうかと存じますが。
「まあ、表面上はあちらにも所属し続けるつもりだ。あんなチームに何か出来るとも思わないが……戦いに敵の情報は必要不可欠だからな」
 妙な重さを持った智代の言葉。無意識に有紀寧はつばを飲み込む。
「それに」アップルパイの最後の一切れを含んで、ことみが続ける。「この三人はすごくバランスがいいの。有紀寧ちゃんが遠距離のおまじないが使えて、智代ちゃんは接近戦も可能。そこに私の知識や兵法を組み込めれば隙はなくなって――間違いなく、勝率は全グループ中最高値になるはずなの」
「理論上の問題は何一つなし。どうだろうか、宮沢」
 ことみ、智代。二人の視線が有紀寧へと集中する。
 すっと張り詰めていく空気。今まで聞こえていなかった時計の針の音までが、有紀寧の耳に飛び込んでくる。
 瞳を閉じ、ゆっくりと有紀寧は考える。
 ――手を組んでしまっていいのだろうか。そもそも全グループとは他にどれくらいあるのか。理論上とは言うものの、ペナントレース開始前のプロ野球の順位予想のように、最後には無かったことにされてしまうのではないか。私のおまじないの情報はどこから。兵法を一体何に使うのだろう。というか、あっさり『一応』と言い切ってしまうようなグループと手を組んでいいものか。でもだからといって自分一人、どことも手を組まずに朋也さんの奪取は可能なのか――。
 逡巡よりも長い思考の果て、深呼吸のような深い吐息ともに、有紀寧はゆっくりと瞳を開ける。


 ――悩んでは、いけない。


 恋は戦い、愛は死合。
 恋は愛のために、愛は恋のために。
 こんなところ、悩むことが必要な場面じゃない――。
 有紀寧は二人それぞれに視線を送り、すっと頬を緩ませた。
「一緒に頑張りましょう。智代さん、ことみさん」
 綻んだ有紀寧の笑顔が、波紋のようにことみと智代にも広がっていく。
「よかったの。有紀寧ちゃんならそう言ってくれると思っていたの」
「――よし。これで役者は揃ったな」

 



 かくして生まれた新同盟。
 あのハーレム化計画の翌日。何かと忙しい身――で、いなかったはずのことみと智代は、実は裏で手を組んでいた。
 そして、そこに有紀寧が新規メンバーとして参入。
 その実力はどれほどか――。
 正直、現時点では予想できないので、続きはWEB、今後のお話の中で。


[No.80] 2006/10/04(Wed) 23:51:40
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