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ある姉妹の日常 - ひみつ@801 遅刻って何?  - 2009/05/16(Sat) 22:06:39 [No.120]
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空を渡る紙飛行機 - ひみつ@9925byte - 2009/05/15(Fri) 06:23:43 [No.99]
レコンキスタ - ひみつ@5615 byte - 2009/05/15(Fri) 02:59:29 [No.97]
サイズ誤りです。実際は12450byteです。 - No97投稿者 - 2009/05/15(Fri) 03:12:54 [No.98]


大切な落とし物 (No.96 への返信) - ひみつ@17900 byte

 手紙が届いた。
「なんじゃそりゃ?」
「ラブレター、だな」
「封も切ってないのに適当な事を言わないで」
 会話をするのは鈴と真人、そして理樹。恭介は恒例通り就職活動でどことも知れない場所まで旅に出ているし、謙吾は最近遊びすぎたので売られていく子牛のような目で剣道部主将に引っ張られていった。
 そこら辺の事情はともかく、鈴と真人が見守る中で手紙の封をビリビリと破いていく理樹。そうして取り出された手紙には丸っこい女の子の文字が、どこか書き慣れていない風で並べられていた。
『リトルバスターズの皆さんにお願いです。
 とても大切な物をなくしてしまいました。どこを探しても見つからず、途方にくれています。確か裏山を走り回っている時に落としたと思います。
 私一人ではどうにもなりません。どうかよろしくお願いします』
 書いてある文字はこれだけ、差出人の名前さえも書いてない。
「落とし物を見つけたらどこに届ければいいんだろうな?」
 鈴はすぐにその問題点に気がついたらしく、首を傾げている。その質問に答えるのは真人。
「どこって、この手紙の差出人に普通に届ければいいじゃねぇか」
「その差出人がどこにいるか分からないだろーが、ぼけー!」
 ぱんつハイキックが真人の側頭部に炸裂する。理樹はその光景を見ながら鈴のツッコミも的確になってきたなと感慨深く思いながら口を開く。
「まあまあ。見つかったら落とし物として先生に届ければいいと思うよ。もしかしたら余り文字として残したくない落とし物なのかも知れないし」
 例えばぱんつとか。口にしたら確実に鈴に蹴られるだろう言葉は理樹の心の中だけに留めておく。
「つまり理樹は探すつもりなんだな。でも落とし物がなにかも書いてないのに、大丈夫か?」
 心配そうなのか面倒くさそうなのかやる気になっているのか、どうにも判断がつかない鈴の態度。つまりどーでもよさそうな態度だった。
「うん。人にお願いしてでも見つけたいものみたいだからね」
 理樹がそう返答すると、鈴はうっすらと笑った。
「理樹がそう言うならあたしも手伝うぞ」
「ふっ。この筋肉の真価、思う存分に発揮してやるぜ!」
 鈴が言えば真人ものってくる。
「頼りにしてるよ真人、本当に」
 落とし物が何かも分からないのに広い裏山を探し回るとなると、体力勝負根気勝負になってしまう。そういう時に真人の体力はとてもありがたい。そう思いながらも理樹は考えながら続く言葉を呟く。
「でもこうなると、どうしても人海戦術になっちゃうかな」

「わたし? いいよ〜」
 小毬。
「もちろんOKですよ。あ、ストレルカとヴェルカも連れていきましょーか?」
 クド。
「ん? ああ、もちろん行くぞ」
 来ヶ谷。
「私はあまり役に立てるとは思いませんが、ご一緒しましょう」
 美魚。
 ここまでは順調だったが、続く葉留佳でつまづいた。
「ぅぅぅぅぅ〜」
 涙を流しながら床にモップをかけている葉留佳を、佳奈多含む風紀委員十数人で厳重に見張っていた。
「佳奈多さん、邪魔したね」
「直枝もお疲れさま」
「うわーん理樹くん、見捨てないでー!!」
 にっこりと笑い合う理樹と佳奈多に滂沱の涙を流す葉留佳。
「じゃあ一応聞くけど、何してるの?」
「掃除に決まってるじゃん! まったくもう、私を見張るくらいならみんなで手伝った方が早く終わって無罪放免になるのに!」
「手伝ったら罰掃除にならないでしょう」
 慣れた風にため息をつく佳奈多。
「あわわわわ。お姉ちゃん、罰掃除って言っちゃダメー!」
「自分で無罪放免って言ってるじゃない」
「しまったはるちん自爆ー!?」
「いや、この状況を見て他の原因は想像できないから」
 うんうんと頷く風紀委員一同。ここまで厳重な監視に置かれるイタズラなんて想像したくないけど。
「ちぇー、ちぇー。ちょっと校庭に穴掘ったくらいでここまで監視しなくていいじゃん」
「ええ、あなたが毎回罰掃除をサボらければ私たちもここまで手を煩わされなくていいんですけどね」
 どうやら質ではなく量だったらしい。
「だって落とし穴だよ? 体育の授業中に校庭を走り回ってたらギャー! とか楽しそうじゃん」
「楽しいかどうかはともかく、それは立派な授業妨害よ」
「僕にはその落とし穴にはまっているのが葉留佳さん以外思い浮かばなかったよ」
 さらりとヒドい事を言う理樹。
「ともかく葉留佳さん。掃除、頑張って」
「理樹くんの薄情ものー!」
 泣きながら大声を出しながら掃除の手を緩めずにいながらの葉留佳を背にして歩きだそうとした時、ふと佳奈多が声を出す。
「そう言えば直枝、あなた葉留佳に何の用だったの?」
「いや、特に葉留佳さんじゃなきゃダメって訳じゃないんだけど、人手がいるんだ」
 そう言って届いた手紙について話す理樹。
「今、恭介も謙吾もいないから猫の手も借りたいんだけど、仕方ないよね」
「私の手は猫の手ですかっ!?」
「変な邪魔をしない分、猫の手の方がマシじゃない?」
 いっさいの加減がされていない姉の言葉にシクシクと涙を流す葉留佳。今日は泣きっぱなしだ。
「でもまあ、そういう事情なら私が手伝うわよ?」
 へ? という声は誰ともなしに。穏やかな笑みを浮かべた佳奈多に視線が集中する。
「妹の不始末も姉の責任だしね」
「はーいお姉ちゃん! それなら掃除を代わって! 理樹くんとは私が行くから」
「あなたの掃除は、義務。義務は肩代わり出来ません」
 カッキリスッパリ言う佳奈多に、むしろ困惑するのは理樹。
「でもいいの? 葉留佳さんの監視って風紀委員の仕事じゃないの?」
「これは任意の仕事だから。特に強制力のある事じゃないのよ」
 その言葉にぐるりと周囲を見渡す理樹。そこにいるのは風紀委員十数人。どう考えても風紀委員のほとんどが集まっているだろう。
「それだけ葉留佳さんが恨まれているのか、それとも佳奈多さんが慕われているのか」
「両方ね」
「それ、前はともかく後は自分で言うセリフじゃないと思うけど」
 葉留佳のツッコミもどこか元気がない。そんなもの意に返さないで佳奈多は風紀委員の一人に向き直る。
「それじゃあ後はお願いね」
「任せておいて。ちゃんと校舎中の廊下を磨かせるまでは返さないから」
 サラリと言われた言葉に、その行程を想像した理樹はちょっとげっそりとした顔で呟いた。
「範囲広いね」

「範囲広いわね」
 ちょっとげっそりした顔でそう呟くのは佳奈多。裏山前に集合したメンバーたちはその広さを見て呆れている。
「砂漠の中に落ちた針を探し出すという例え話はよく聞きますが、今まさにそんな心境です」
 これから山林に入っていくのにも関わらず、いつもの通りに日傘をさした美魚もポツリと呟く。
「西園さん。今からあの雑木林に入っていくのに、日傘を差しっぱなしで行く訳?」
「はい。これはわたしのチャームポイントでアイデンティティですから」
 ついでに武器でも盾でもありますと、やや不穏なことをポツリと呟く。
「あ、ああ。そうなの」
「ええ」
 やや引き気味な佳奈多だが、そんな事は慣れっこだといった風情で答える美魚。
「でもこれだといつまで経っても終わらない気がするです」
 不安そうな顔をするのはクド。確かにこの広い裏山で、しかもどんなものかも分からない落とし物を探すのは骨が折れるというのを飛び越えている。美魚の砂漠の例えもあながち間違っていない。
「ふむ。そこの辺りはどうするつもりだ、少年? 恭介氏や謙吾少年がいないとなると、行き当たりばったりでどうにかなるとも思えないが」
「けど、他にやりようがないしね」
「行き当たりばったりか」
 来ヶ谷が呆れたようにため息をつく。
「大丈夫だよ〜。なんとかなるって、唯ちゃん」
「だから唯ちゃんと言うのはやめろと」
「何とかなるかしら?」
 小毬のボケボケにツッコミ損ねた来ヶ谷のそれを、佳奈多がきれいに拾っていく。
「ツッコミが他にいると楽だね」
 傍目にみていた理樹がぽつりと呟く。
「オレは理樹のツッコミの方が好きだけどな」
 真人の言葉に理樹は苦笑いしか返せない。
「リトルバスターズってボケの数が多すぎるんだよね。天然はもちろん、わざとボケに走る人とか」
 ちょっと恨みがましい目で来ヶ谷を見る理樹だが、その視線を感じているだろう彼女は完全にスルーだ。
「はぁ。佳奈多さんもリトルバスターズに入ってくれないかな?」
 それを聞いた真人は一瞬だけ硬直して、頭を抱えて大声をあげる。
「うおぉぉぉ! 理樹以外のツッコミなんて耐えられるはずがねぇー!!」
「あたしがいつもツッコんでるだろーが!!」
 そんな真人に鈴のぱんつハイキック。ピンポイントでこめかみを抉った攻撃で、目標は完全に沈黙。色んな意味で的確なツッコミだ。
「それでどーすんだ、理樹?」
 そして一向に進まない話を鈴がすくい上げた。恭介がいたら感嘆の涙を流し、そしてきしょいわー! と鈴にぱんつハイキックをくらって居ただろう。
「そうだね。ここで考えていても仕方がないし、探し始めちゃおうか」
「ふっ。万事この筋肉に任せておけ!」
 いつの間にやら復活した、やる気満々の真人。
「じゃあどう手分けしましょーか?」
 クドの言葉に傍らにいるヴェルカもクーン? と疑問を投げかけるような声をあげる。それにいやと首をふる理樹。
「みんな一緒に探そう。分からない事が多すぎるから、気がついたその場で言い合える方がいいと思う」
 それにと付け加えて、ぐるりと全員を見渡す理樹。
「個性的なメンバーだしね。一人が何かに気がついて芋づる式に見つかるかも知れないし、何気ない一人言の中にもヒントがありそうだし」
 なるほどといった様子なのが約半数、きょとんとしたのも約半数。オン! と元気よく吠えたのは約2匹。
 8人と2匹、合わせて10はガサゴソと裏山の中に入っていった。

「っ! またひっかけちゃった」
 うんざりした佳奈多はイラつきながら小枝を睨みつける。当然、そんな行為に意味なんてない。
「ここは整備がされていないところですから、当然です」
「そんな所で日傘を差して、平然としてられる人に言われたくないわね」
 なぜか普通に歩いている美魚を呆れた目でみる佳奈多。
「ほわぁ!」
「わふっ! わふっ!」
「はぁ、萌えぇ」
 そして全く予想を裏切らないであろう光景が繰り広げられているらしい声も聞こえてくる。
「葉留佳がいなくてよかったわね。もしも脈絡のないあの子がここにいたらどうなっていたか」
 安堵混じりの佳奈多。だけれどもそれを聞いた美魚はやんわりと首をふる。
「それはちょっと違うのではないでしょうか、二木さん」
「西園さん?」
「確かに彼女は脈絡がありませんし、人の不幸を楽しむ悪癖もあります。静かに本を読んでいるのに大騒ぎするような空気読めない所もあります。更に規則を意図的に守らないといった破天荒な所も」
 そこでいったん言葉をきって、美魚は静かに目を閉じる。
「改めて最悪、ですね」
「悲しいから改めないでくれない?」
 呆れたように言う姉だが、否定はしないらしい。
「でも」
 代わりに否定の言葉を口にしたのは美魚。
「葉留佳さんは元気がいいです。びっくりする程行動力に溢れてて次に何をするのか分からないのは飽きませんし、どんな失敗をしても諦めないしめげません。それはわたしにもみんなにもない、葉留佳さんだけの美点です」
 クルクルと白い日傘を回しながら美魚は言う。ちなみにその遊ぶような傘の回転は、紙一重で大きな枝の隙間を抜けて小枝を弾いているのだが、それに気がつく人はいない。
「前言を撤回します。葉留佳さんは悪いところも多いですが、最悪ではありません」
 そう、と言ってから小さく言葉を続ける佳奈多。
「ありがとう」
「礼には及びません葉留佳さんは友達ですから」
 そしてそんな小さな声にもしっかりと受け答えする美魚。
「今の話、葉留佳さんには内緒ですよ。照れくさいですし、それに」
 なんとも言えない顔になる美魚。
「調子に乗られると面倒ですから」
 佳奈多の顔もなんとも言えないといった表情を作る。そんな風に雑談をしながら歩いていく二人から少し離れて、かなり真面目に探しているグループである理樹と鈴、そして小毬。3人はあっちこっち探しながらため息をついている。
「見つからないねぇ」
「うん、ちょっと無謀だったかもね。ここまで大変だとは思わなかった」
 この広大な敷地から落とし物を見つけるのももちろんながら、落とし物が何かというのが想像以上に辛い。もしかしたらそれと気がつかないで見落としている可能性すらあるのだから。
「そもそも落とし物がなにか分からないのに探すって方が変だろ」
 流石に嫌になってきた鈴の視線は理樹に向けられる。その視線の意味は別に非難の意味が込められている訳ではなくて、どーにかしろという意味。
「そうだね、一度戻った方がいいかも。それで送り主を探し出して、詳しい話を聞くとか」
「もうちょっと私たちだけで探そうよ〜」
 撤退の相談をしていた所に間延びした小毬の声が聞こえてくる。
「小毬ちゃん?」
「だって自分の名前も落とし物が何かも書かなかったんだよ? きっとあんまり人に知られたくない物なんだよ」
 不思議そうに首を傾げる鈴を、諭すように言う小毬。
「確かにそうかも知れないけどさ、いい加減キツくない?」
 疲れた顔の理樹だが、それでも小毬はにっこりと笑う。
「大変だけど、まだ元気があるから大丈夫。落とし物が見つかったらその子はきっと喜ぶから、そう思えば頑張れるよ〜」
 ふぁいと、おー! と元気を出す小毬につられて鈴と理樹も微笑を浮かべる。
「そーだな。もう少し頑張ろう」
「うん。大切な落とし物みたいだからね」
 そう気合いを入れ直した3人。ビダン!
「うえ〜ん。いたい〜」
「だ、大丈夫か小毬ちゃん!?」
「いたいけど大丈夫〜」
 そして更に次の瞬間には転んでいた小毬。前途は多難そうだった。
 彼女たちからちょっとズレた場所にいるのは来ヶ谷と真人、そしてクドとストレルカとヴェルカ。キョロキョロと周りを見渡しながら歩いていく。
「何も見つかりませんね」
 困った風な顔のクド。そも落とし物が何か分からないのも致命的だ。彼女の妹たちも困ったようにあっちこっちをうろついている。
「見つけたぁー!」
「本当ですか井ノ原さんっ!?」
「ああ、こんなものは見たことがないぜ。6.25キロの鉄アレイなんてな!」
「わふー。画期的過ぎる大切なものですっ!?」
「ほんと、見ていて飽きないよ、君たちは」
 恭介氏や謙吾少年だったら何を見つけてくるのだろうか? とか言いながらわんわん元気の空き缶をくわえてくるヴェルカを見る来ヶ谷。ちなみに彼女は姉貴分のストレルカに怒られてしょんぼりしている。
「しかしキリがないな、これは」
 比較的珍しく真剣に呆れ顔をする来ヶ谷。軽く辺りを見渡せば、視界一面の雑木林。
「仕方あるまい。少し本気になるか」
 こ、これは伝説のマッスルフルパワダー!? 伝説なのですかっ!? やべぇぜ、ここは宝の宝庫だぜ!! そんな声を全面的に無視して目を閉じて集中する来ヶ谷。そのまま前に2歩、左に7歩移動するとクワと目を見開く。
「ここだ。私の勘に間違いはない!」
 来ヶ谷の確信はこの上なく不安な確信で、
「いくらなんでもあの脈絡のなさと空気読めなさはなんとかして欲しいわ。疲れるし」
「でも、それがなくなると葉留佳さんではないと思います」
「はぅわ!」
「ああっ! 小毬ちゃんが転んで木に頭をっ!!」
「ちょ、すごい音がしたけど小毬さん大丈夫!?」
「聖地だ、筋肉の楽園だ。ここは筋肉の理想郷だぁー!」
「こっちには筋肉なレスラーのマンガがっ!」
「オンオンオン」
「わう!」
 そして全面的にグダグダな一行だった。

「ふぇ〜ん。いたい〜」
 もはや何度目かも分からない転倒をする小毬。
「だ、大丈夫か小毬ちゃん」
「大丈夫? 変なところをぶつけたりしてない?」
 そしてその度に心配そうな鈴と理樹が寄ってくる。
「うん。ありがとう〜」
 そんな二人に涙目だけど嬉しそうな笑顔を見せる小毬。そんな3人に、沈痛な面もちの他のメンバーが近寄ってくる。
「少年、鈴君、小毬君」
 先頭にいた来ヶ谷が表情そのままの口調で言う。彼女は上着を脱いでおり、それに何かを包んで腕に抱えている。
「ふぇ? ゆいちゃん、それにみんなもどうしたの?」
「大変な物を見つけた」
 小毬の声かけにも動じない来ヶ谷と、他のメンバーの固い顔に何か嫌な雰囲気を感じ取る3人。それに向き合うように、理樹が言葉を投げかける。
「どうしたの、みんな?」
「悲しくて怖いものが見つかりました」
 今にも泣きそうな顔と声で言うクド。そして言葉を継ぐのはこの上なく真剣な顔をした美魚。
「地面を掘っていた来ヶ谷さんが偶然見つけたものですが、これはショッキング過ぎます」
 そして視線は来ヶ谷へ。彼女は胸に抱くものに視線を落としながら言う。
「白骨した右手を発見した。しかも骨の切り口から人為的な事も間違いない。
 これは殺人事件かも知れん」
 来ヶ谷の言葉に反応できず、目を丸くした鈴と笑顔で固まる小毬。
「それ、本当?」
 確認するように聞き返す理樹と、それに頷き返す来ヶ谷。
「当たり前だ。こんな悪質な冗談は言わん。なんなら証拠の品を見るか?」
 上着に包まれたそれを揺らす来ヶ谷。理樹は、自分はともかく鈴と小毬は耐えられないだろうとすぐに判断した。
「いや、いいよ。警察に連絡は?」
「ええ、したわ」
 携帯を軽く振りながら返事をするのは佳奈多。
「じゃあすぐに学校に戻ろう」
 理樹は空を見上げる。林に覆われているけど、しかし漏れる光は赤い色。学校に戻るまでには夜になってそうな雰囲気だった。



 理樹の予想通りに学校についた時はもう星が出かけている時間だった。帰り道にかかった時間は少なかったけど、その間は終始無言。
「あ」
 そして裏庭についた時、ふとそんな声が聞こえてきた。見ればそこには両手を後ろに隠して、オドオドとした女生徒が一人。
「どうしたの?」
 やや固くなりつつ理樹が聞く。その声にますます体を縮こまらせた女生徒は蚊のなくような声で返事をした。
「あ、あの。今日、手紙を出した者なんですけど」
「あ、ああ」
 直前の衝撃的な出来事にすっかり頭から抜け落ちていた話だった。
「ゴメン、見つからなかったんだ。出来れば落とし物が何なのかとか、どこらへんで落としたのかとかを教えてくれないかな?」
 それを悟られないように苦笑いを浮かべて言う理樹に一瞬キョトンとした女生徒だったか、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いてしまう女生徒。
「そ、そうですよね。それをちゃんと言わないと分かりませんよね」
 ごめんなさいごめんなさいと繰り返し頭を下げるその女生徒に苦笑を漏らすみんな。
「右手なんです」
 だから、その言葉に上手く反応出来た人はいなかった。
「右手なんです、落とし物。大事な右手を、ずっと前に落としちゃったんです」
 恥ずかしそうに言う女生徒。そして後ろに隠していた手を前に差し出す。
 左手はあった。右手はなかった。
「もしかしてそれってよぅ」
 真人が来ヶ谷の方に視線を向ける。つられて全員の視線が来ヶ谷に集まる。来ヶ谷の胸に抱えられた、それへと。
「あ、私の右手」
 女生徒は花がほころぶような笑みを浮かべて来ヶ谷へと駆け寄る。
「ひっ」
 恐怖の声をあげて鈴は後ずさる。クドと小毬、真人も同じような反応。筋肉が通用しない相手にはどうにも出来ないとか考えているんだろう、きっと。
 そして女生徒は来ヶ谷の前まで来ると、ぺこりと頭を下げた。
「見つけて頂いてありがとうございます」
「あ、ああ」
 流石の来ヶ谷も冷や汗を浮かべながらそんな返事しか出来ない。固唾を飲んで見守る佳奈多と美魚、そして理樹。
「もう思い残す事はありません。本当にありがとうございました」
 女生徒はみんなを見渡してもう一度ぺこりと頭を下げると、とてとてと校舎の方へと歩いていく。そして校長室の窓の前でふっと消えた。

 しばらくは誰も動けず、誰も喋らず、時間が止まる。

「そう言えば」
 ぽつりと佳奈多が口を開く。
「前にあーちゃん先輩から聞いた事があるわ。10年くらい前、一人の女生徒の惨殺死体が校長室で発見されたって。
 けど学校がイメージダウンになるからって、極力話を広めないようにしたとか。聞いたときはよくある怪談話って笑い飛ばしたけど」
「本当の話、だったみたいだね」
 呆然とした理樹の言葉が佳奈多の声を継ぐ。
「ちなみによ、犯人は捕まったのか?」
 真人の声に佳奈多は首を横に振る事で答える。捕まってないのか、そこまでは佳奈多も知らないのか。
「10年一昔前と言いますが、私たちは一昔前の事さえ忘れてしまうんですね」
 悲しそうなクドの声に、こくこくと頷く小毬。
「ともかく、あの方が満足されたのならばいいのではないでしょうか?」
 そこに美魚が平坦な声で自分の意見を言う。
「あたしもそーだと思うぞ。ミッションコンプリートだ」
 複雑そうな顔で鈴も付け加える。ファンファンと、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。








































「ギャー! 罰掃除当番を抜け出した程度で警察呼ばないでよー!!」
「呼びません! 誰ですか警察を呼んだのは!!」
「僕じゃないですよ」
「私でもありません」
「俺じゃないって!」

「葉留佳さん、また抜け出したんだね」
「はぁ、あの子は全くもう」


[No.100] 2009/05/15(Fri) 16:02:50

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